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ある一日  マーガレット・ミラー『見知らぬ者の墓』
見知らぬ者の墓 (創元推理文庫)
マーガレット・ミラー, 榊 優子
東京創元社 (1988-05-29)

 マーガレット・ミラーの長篇『見知らぬ者の墓』(榊優子訳 創元推理文庫)は、ヒロインが見た夢を発端に始まる心理サスペンス小説なのですが、その夢というのが、自分の没年が刻まれた墓石が登場するという、何とも魅力的なイメージなのです。

 不動産業を営む夫ジムと平穏な結婚生活を送っていたデイジー・ハーカーは、ある夜奇妙な夢を見ます。それは自分の名前が刻まれた墓碑を目撃するという夢でした。その墓碑には、自分の没年が4年前の12月2日と刻まれていました。
 自分にとってその日には何か意味があるのではないかと考えたデイジーは、その日を再現しようと考えます。折しも、放蕩者の父親スタンから保釈金を求められたデイジーは、その縁で知り合った私立探偵のピニャータに、自分の夢の一日を再現する手伝いをしてほしいと依頼しますが…。

 奇妙な夢を見た人妻デイジーが、夢に現れた日を再現しその意味を探そうとするという、幻想的な発端から始まる物語です。平凡ながら平穏な毎日を送っていたデイジーが隠された過去を知り、そのために彼女の人生も変わってゆくことになります。
 デイジーと彼女に協力する探偵ピニャータの他、放蕩者で妻子とは別れて暮らすデイジーの父親スタンの視点が途中から入ってくるのが特徴です。多情な若い女ファニータをかばって喧嘩をしてしまったスタンがその関係で、ファニータやその家族から話を聞き出していく流れは、一見、話の本筋とは関係ないように見えながら、後半でメインの物語と合流してくるという流れは見事ですね。

 登場人物はそれぞれ厚みを持って描かれていますが、放蕩者ながら娘思いのスタン、多情で奔放なファニータのキャラクターに関しては、作中でも特に生彩があります。
 周りの人間たちがデイジーにそれぞれ隠していた事実が明らかになっていくにしたがって、平穏な生活にひびが入ることになりますが、それによって、何も知らなかったヒロインが「大人」になっていくというテーマも見え隠れします。

 劇的な事件は起こらないものの、関係者たちの会話から少しづつある家族の過去が再構成されていく流れには、家族小説の趣もありますね。
 各章にヒロイン宛の父親からの手紙の断片がそれぞれ引用されるのですが、この手紙の意味が結末で明かされるという部分は非常に技巧的。
 かなりページ数のある作品で、いささか長いのが玉に瑕なのですが、非常にテーマ性の強い秀作かと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
奇妙な夢から始まるのは「鉄の門」もですね。
ピニャータというとメキシコで子供達が誕生会で棒で叩いて割るくす玉を思い出してしまいます。ドメスティックな非常に狭い人間関係の中で煮詰まって歪んでいく登場人物達。父と娘、母と娘、どちらも難しい。旦那さんがATMと化していて可哀想。
【2020/03/27 17:21】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
ちょっと「嫌な」話でしたね。ミラー作品はどれも多かれ少なかれ「嫌な」話ではありますが。
旦那さんは可愛そう…というのは同感です。

『鉄の門』は随分昔に読んだので内容を忘れてしまってました。新訳で読み直さないと。
【2020/03/27 19:18】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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