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魔法の日々  ロバート・R・マキャモン『少年時代』
少年時代〈上〉 (文春文庫)
ロバート・R. マキャモン, McCammon,Robert R., 磬, 二宮
文藝春秋 (1999-02)

 ロバート・R・マキャモン『少年時代』(二宮馨訳 文春文庫)は、1960年代の田舎町を舞台に、少年の不思議な体験と成長を描く作品です。

 1964年、アラバマの田舎町ゼファーに住む12歳の少年コーリー・マッケンソンは、父親トムと共に牛乳配達をしている最中に、湖に自動車が沈んでいく場面に出くわします。助けようと飛び込んだ父親は、運転席に顔を殴られ首を絞められた見知らぬ男の死体を発見します。
 湖は深く、そのまま沈んでしまった車を引き揚げることは不可能であり、行方不明になった人間も近辺にはいないということで、事件は有耶無耶になってしまいます。
 事件後、父親が心を病みつつあることを気にかけながらも、コーリーは三人の親友とともに冒険の日々を過ごすことになりますが…。

 1960年代の田舎町を舞台に、とある少年の不思議な少年時代の出来事を描いていくという作品です。洪水、不思議な生き物との遭遇、いじめっ子との対決、カーニヴァル、友人とのキャンプ、ペットや親友との別れ、悪党一家との対決など、様々な出来事が連作短篇のような形で描かれていきます。
 主人公の家族、友人を始め、町の様々な人物が登場し、主人公の前を通り過ぎていくことになります。数十人を越える多数の人物が登場しますが、その描き分けが見事です。脇役でもそれぞれ印象的なシーンが用意されており、キャラクターを目立たせています。
 善人だと思っていた人物が人種差別主義者だったり、悪人だと思っていた人間が優しいところを見せたりと、人間の多面性を主人公コーリーは知ることになります。

 裸で歩き回る変人ながら繊細な芸術家としての面も持つ資産家の御曹司ヴァーノン・サクスター、野球の天才的な才能を持ちながらも親に認めてもらえない少年ネモ・カーリス、住人たちから魔法を使う存在だと信じられる黒人女性「ザ・レディ」、いたずら好きながらある種の天才でもある小悪魔的な少女「ザ・デーモン」、あらゆる機械を修理できる修理屋ライトフット、コーリーの愛車「ロケット」など、ユニークで多彩なキャラクターがこれでもかとばかりに登場します。
 ほら吹きだと思われていた老人が凄腕のガンマンだったことがわかるなど、意外な人物が意外なシーンで活躍するのも楽しいですね。

 少年の目には世界が「魔法」に満ちている、と言うと、比喩的な意味と捉えられがちですが、この作品では本当に超自然的な出来事や現象が起こるのも特徴です。「怪物」や「恐竜」、「幽霊」が登場したり、「奇跡」が起こったりと、文字通り主人公の世界は「魔法」にあふれているのです。
 しかし、その「魔法」も万能ではなく、親しい者たちの死を防ぐことはできません。しかしそれらの体験を受け入れたコーリーは人間として成長を遂げていきます。
 様々な事件・体験を描いたエピソードが連ねられていくなか、冒頭で描かれた謎の殺人事件の謎が縦糸として物語を伏流しており、徐々にその事件の全貌が明らかになっていきます。
 コーリーの独自の捜査、そして「魔法」を体現する存在である、100歳を超えた黒人の女性「ザ・レディ」の案内によって、コーリーとその父トムは事件の解決に導かれることになります…。

 少年小説であり、成長小説であり、幻想小説でもあるという作品です。作中でも言及されるようにレイ・ブラッドベリ風の味わいも感じられますが、影響は感じさせながらも、一回りスケールの大きな作品に仕上がっています。
 また、章の一つ一つが見事に練り上げられており、それぞれの完成度が半端ではありません。傑作といっていい作品ではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
大傑作ですね
こんにちは。
枠組みはミステリですが、少年の成長小説としても面白く読めるし
ところどころに超自然の世界がひょいと顔を出すし
60年代のアメリカの風俗もリアルに描かれるし、
世界幻想文学大賞を受賞しているし・・・

いろんな面を持った奥の深い作品ですね。
長さを感じさせない、物語の面白さを堪能させてくれた一作です。
【2020/04/08 21:42】 URL | 木曽のあばら屋 #GHYvW2h6 [ 編集]

>木曽のあばら屋さん
この作品、邦訳されたばかりの頃から評価は高くて気になってはいたのですが、ホラー味が薄いらしいということも聞いて、読むのが後回しになっていました。数十年遅れの初読になりましたが、読んで良かったと思える作品でしたね。いろいろな要素があって、楽しみ方も人それぞれありそうな、奥行きのある作品でした。
【2020/04/09 17:50】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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