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「コンピュータ」の殺人  マイクル・クライトン『ターミナル・マン』
ターミナル・マン
ターミナル・マン
posted with amachazl at 2020.03.26
マイクル クライトン, 浅倉 久志
早川書房 (2015-02-27)

 マイクル・クライトンの長篇小説『ターミナル・マン』(浅倉久志訳 ハヤカワ文庫NV)は、治療としてコンピュータを埋め込まれた患者が逃亡し人々を襲う…という、ホラー味の強いサスペンス作品です。

 ロサンジェルスの大学病院に収容された男、ハロルド・ベンスン。彼には精神性の発作に襲われると、周りの人間に暴力をふるうという危険な性向がありました。病院は発作を抑えるために、脳の内部にコンピュータを埋め込むことを決定します。
 手術の成り行きに不安を抱いたベンスンの精神科医ジャネット・ロスは、ベンスンの病室を訪れると、そこはもぬけの空でした。しかも不測の事態から彼は6時間後に暴力性の発作を起こる可能性が高いというのです…。

 小型コンピュータを埋め込まれた患者の制御が効かなくなり暴走する…という「ハイテク」(1972年当時)を扱った作品です。逃げ出した患者を追いかける部分よりも、患者に手術を施すまでの部分の方が長いのは、当時の情報小説的な面が強調されているものでしょうか。
 患者であるベンスンは機密研究にたずさわるほどの知能を持っていますが、精神性の発作に加え、人格障害を持っています。手術によって発作を抑えられても、人格障害を直すことはできないことから、病院のスタッフ内では、彼に手術をしていいものかどうか、意見が割れていきます。

 実際に脳内にコンピュータを埋め込む手術の過程がリアルに描かれていきます。脳のレントゲン写真などが画像として挟まれるのもリアルです。またそれと同時に、人間が「第二の脳」を持つことに対する哲学的な感慨などもはさまれていきます。
 患者の体内のコンピュータを維持するための原子力電池も一緒に体に埋め込まれており、これが壊されると強烈な放射能が漏れ出るということもあり、逃亡した患者を不用意に攻撃できない…というジレンマもあったりするところが面白いですね。

 コンピュータやテクノロジーが暴走して人間を襲う…という、今となってはそれほど珍しくはないテーマの作品ではありますが、1970年代初頭という時代を考えると、かなり先駆的な作品です。クライトン特有の細かい技術的な描写のおかげもあり、今読んでもそんなにおかしい部分は感じられません。

 同じようなテーマの作品では、1980年代に書かれた、デイヴィッド・ショービン『アンボーン 胎児』(竹生淑子訳 ハヤカワ文庫NV)が面白いです。
 こちらは、実験でコンピュータと接続された胎児があらゆる医学知識を吸収し、自らの成長を促進するために母体を操り始める…というホラー作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
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