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魔女の物語  アーサー・マッケン『白魔』
白魔(びゃくま) (光文社古典新訳文庫)
 アーサー・マッケン『白魔』(南條竹則訳 光文社古典新訳文庫)は、マッケン作品の中から、主に女性が前面に現れる作品を集めた作品集。確かに、同じ怪奇小説の三大巨匠とされるM・R・ジェイムズやアルジャーノン・ブラックウッドに比べても、マッケンの作品にはどこかしら強い官能性が感じられることがあります。

「白魔」
 隠者アンブローズから、彼の語る「悪」のサンプルとして渡された、ある少女が残した手記。そこには人ならざるものを見、妖術を行う少女の姿が描かれていました…。
 いわゆる「魔女」を描いた作品なのですが、本人である少女には邪悪な行為を行っているという意識はなく、むしろ神秘的な世界に純粋に感嘆する…という体になっているのが面白いところです。作中に現れる妖精のような存在が何なのか、乳母は何者だったのか、少女は結局何をしたのか? などがぼかされて描かれます。
 「パンの大神」などと同じく、かなり曖昧な話ではあるのですが、この作品ではそれが上手く作用している感じもありますね。作中で少女が語るおとぎ話的なエピソードがどれも不気味で面白いです。

「生活のかけら」
 シティで働く事務員エドワード・ダーネルと妻のメアリーは、仲むつまじく幸せに暮らす夫婦でしたが、資産家であるメアリアン叔母からいくらかのお金をもらってから、彼らの生活に不穏なものが入り込み始めます…。
 女中の婚約者の母親のエピソードや、叔母が妄想(らしき)伯父の浮気を疑うエピソードなど、時折不穏な空気が入り混じる瞬間があるものの、全体としてはダーネル夫妻の「生活」が淡々と描かれるという作品です。ただ、そうした日常生活から、段々とエドワードが神秘的なものに惹かれ始めます。
 もともと素養はあったらしいものの、日常生活に埋没していたエドワードが、妻に過去の神秘体験を語り始めたり、一族の過去を調べ始める結末付近の展開には、妙な味わいがありますね。
 作品終盤に著者自身により、ダーネル夫妻の物語は「聖杯の物語に似通ってくる」という表現がされているのも意味深で、この「生活のかけら」という作品そのものが、壮大なファンタジーの序盤部分であるかのような錯覚も覚えます。
 地味ではありますが、マッケンを語る上で重要な作品ではないでしょうか。

 未訳の小品集『翡翠の飾り』からは3篇が収録されています。

「薔薇園」
 女性の神秘的体験を繊細な描写で綴った散文詩的作品。なにやら東洋風(仏教風?)な要素も感じられますね。

「妖術」
 ナイト大尉に恋をしているらしいカスタンス嬢は、ワイズ老夫人から教わった「妖術」で男の心をつかもうとします…。
 「魔女」的な女性を描く作品です。男の心がカスタンス嬢にはなく、彼女がそのために「妖術」を使うという流れが、さらっと綴られているのが上手いです。

「儀式」
 「彼女」は、昔から森にあった柱と金字塔の中間のような灰色の「石」を怖がっていました。年頃になった「彼女」は、あるとき、模範的な娘アニー・ドルベンが「石」の前で何らかの儀式を行うのを目撃します…。
 「魔女の誕生」を描いたような掌編です。

 解説にもあるように、「妖術」「儀式」の二編は、「白魔」とも通底するテーマを扱った作品で、このセレクションは見事ですね。
 「白魔」「生活のかけら」に関しては、平井呈一訳も読みましたが、全体に南條竹則訳の方が読みやすいです。特に 「生活のかけら」 に関しては、南條訳の方が物語の大枠がわかりやすくなっているのではないかと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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