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怪奇小説の伝統  ブラックウッド他『怪奇小説傑作集1英米編1』
怪奇小説傑作集 1 英米編 1 [新版] (創元推理文庫)
 刊行以来、我が国の怪奇小説の基本図書となってきたアンソロジー『怪奇小説傑作集』。その第一巻『怪奇小説傑作集1英米編1』(ブラックウッド他 平井呈一訳 創元推理文庫)には、英米の怪奇小説の巨匠の作品や名作が集められています。以下、それぞれの内容について紹介していきたいと思います。


エドワード・ブルワー=リットン「幽霊屋敷」

 ロンドンのどまんなかに幽霊屋敷があるという話を友人から聞いた「余」は、屋敷の持ち主J-氏にかけあい、怪奇現象を見極めようと下男のF-と愛犬とともに、屋敷に泊り込むことになります。
 しかし、屋敷に入った直後から怪奇現象が相次ぎ、下男は恐怖のあまり飛び出していってしまいます…。

 いわくのある幽霊屋敷に泊り込んだ男が様々な怪奇現象に遭遇する…という正統派の幽霊屋敷小説です。この怪奇現象がかなり派手で、霊的な存在が姿を現すだけでなく、ポルターガイスト的な現象も付随して発生します。しかもどうやら物理的な力まで発揮するようで、事実、愛犬は骨を折られて殺されてしまうのです。
 後半は屋敷のとある部屋に元凶があるのではないかと考えた「余」が、あるものを発見し、そこからはオカルト的な展開になります。超自然的な原因ではあるものの、怪異に人の意思が介在しているという意味で、疑似科学的な面もあり、「ゴースト・ハンター」ものの先駆的な作品と捉えることも可能でしょうか。


ヘンリー・ジェイムズ「エドマンド・オーム卿」

 美しい母子、マーデン夫人とその娘シャーロットと知り合いになった「わたし」はシャーロットに恋をするようになります。ある日教会で、若い青白い男がそばにすわったのを見てマーデン夫人は顔色を変えます。
男を怖がる夫人を問い詰めると彼女は理由を話します。その男エドマンド・オーム卿は、かってマーデン夫人が婚約を破棄した後に自殺してしまい、その後復讐のために、シャーロットに恋をする男が現れると、その場に現れるのだと…。

 かって男を死に追いやった夫人と、その娘に恋する男にしか見えない幽霊という、ユニークなテーマのゴースト・ストーリーです。見える人たちにとっては、生者と区別がつかないぐらい実体を持った霊というのが、面白いところですね。


M・R・ジェイムズ「ポインター氏の日録」

 伯母と暮らすデントン氏は、古書でポインター氏の日録を入手します。本に貼り付けてあった珍しい柄の布を気に入った伯母は、その模様を再現してカーテンを作りたいと話し、デントン氏もそれに賛同します。
 しかし、出来上がったカーテンをかけた部屋にいると、何か落ち着かない気分になるのにデントン氏は気がつきます…。

 古書や古物を媒介に怪異が起こるという、M・R・ジェイムズお得意のテーマによる怪奇作品です。


W・W・ジェイコブス「猿の手」

 レイクスナム荘のホワイト家を客として訪れたモリス曹長は、インドで手に入れたという猿の手について話します。行者がまじないをかけ、三人の人間に三つの願いが叶えられるようになっているというのです。猿の手を欲しがるホワイト氏に、モリスはそれは使わないようにと忠告します。無理に猿の手を手に入れたホワイト氏は、息子のハーバートの提案に従い二百ポンドが手に入るように願ってみますが…。

 「三つの願い」をテーマにした作品の中で、もっとも名の通った作品といってもいいでしょうか。読んだことがなくても何となく話を知っている人も多いかと思います。
 作中で描かれる三つの願いそれぞれが、物語の進行と有機的に結びついているという点で、完璧に近い構成といってもいいぐらいです。
 前の持ち主がすでに死んでいるというモリス曹長の話、モリス自身も猿の手によって不幸な事態に出会っているであろうことを暗示する序盤からして、素晴らしい書き出しになっています。また、結末の寂寥感あふれる余韻も良いですね。怪奇小説史に残る名作といっていいかと思います。


アーサー・マッケン「パンの大神」

 レイモンド医師が孤児の少女メリーに行った脳手術の結果、少女は白痴となってしまいます。数十年後、ヴィリヤズは資産家だったはずの友ハーバートが浮浪者に落ちぶれているのを知ります。彼は結婚した素性の知れぬ女ヘレン・ヴォーンによって破滅させられたというのです。折りしも社交界では貴顕紳士の自殺が相次いでいました。彼らの自殺の影に一人の女が関係していることを察知したヴィリヤズは、女の正体について調査を開始しますが…。

 脳手術により「パンの大神」を見てしまった少女の娘が、長じて男たちを自殺に追い込んでいくという怪奇作品。書簡や間接的な証言によって物語が構成されており、肝心の妖女へレンが具体的に何を行っていたのか、という部分に関しては曖昧になっています。
 ただ、そこが逆に想像力をかきたてるようにもなっていて、その書きぶりがいい方向に作用している作品でしょうか。


E・F・ベンスン「いも虫」

 イタリアのカスカナという別荘に滞在することになった「ぼく」は、二階を借りている知人のスタンリ夫妻が、ある寝室をあき部屋にしているのを不審に思っていました。深夜目を覚ました「ぼく」はあき部屋に、光る大きないも虫が大量にいるのに気がつきます…。
 いも虫の幽霊という、ユニークな題材のゴースト・ストーリーです。その気色悪さだけでなく、「病」という形で人間の肉体に害をなすという意味でも、非常におぞましい話になっています。


A・ブラックウッド「秘書奇譚」

 雇い主である社長サイドボタムの命令で、社長のかっての相棒ガーヴィーのもとに書類を届けることになった秘書ジム・ショートハウス。用向きを済ませたジムはしかし、列車を逃してガーヴィーの屋敷に一泊を余儀なくされます。
 ジムは、だんだんと、ガーヴィーの様子がおかしくなってくるのに気がつきますが…。
 明らかに様子のおかしい狂人との一泊を余儀なくされると言うサイコ・スリラー作品。主人公は無事に帰ることができるのか?
 怖い話ではあるのですが、クライマックスのシーンでは、どこかブラック・ユーモア味もありと、妙な味わいの作品ではありますね。


W・F・ハーヴィー「炎天」

 絵かきのジェイムズはある暑い日に、ふと着想を得てスケッチを描きあげます。それは裁判で被告席にいる太った犯人を描いたものでした。散歩に出たジェイムズは意識せず見つけたアトキンソンという石屋の店に入っていきます。
 そこで作業をしている店の主人は、自分が書いた絵の男にそっくりでした。しかも彼が作っている墓碑銘には自分の名前が掘ってあったのです…。

 奇妙な暗示と暗合が積み重ねられて構成された、非常に技巧的な作品です。結末がどうなるのかは明示されていないものの、それまでの暗示的な描写で惨劇が起こるであろうことが読者にはわかるようになっています。
 「予知」を扱ったSF的な解釈も可能な作品ですね。


レ・ファニュ「緑茶」

 碩学マルチン・ヘッセリウス博士は、人柄もよく教養もあるジェニングズ師と知り合います。彼は何か問題を抱えているようで、演説の最中にいつも途中で動揺し最後まで演説をできないというのです。
 やがて彼が告白するには、数年前から黒い小猿が目の前に現れ、自分の邪魔をするといいます。小猿は彼自身にしか見えないのです。しかもただ邪魔をするだけでなく、最近では自殺をそそのかす言葉まで話しはじめたというのですが…。

 緑茶の飲みすぎから、小猿の幻覚を見るようになった男を描く物語です。後ろ暗いところもない善人がなぜ邪悪な幻覚を見るのか? 精神分析的な解釈やキリスト教的な寓意など、いろいろな解釈が可能な名作短篇です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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