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最近読んだ本(評論・ガイドブックを中心に)
 最近読んだ評論・ガイドブック本について、まとめてレビューを上げておきたいと思います。


ゴシック小説をよむ (岩波セミナーブックス (78))
小池滋『ゴシック小説をよむ』(岩波セミナーブックス)

 イギリスで生まれた「ゴシック小説」について、生まれた背景や、主だった「ゴシック小説」の紹介、その特徴について丁寧に語った本です。
 ホレス・ウォルポールの『オトラント城』からゴシック小説は生まれた…と説き起こすのは定番なのですが、そういう作品が生まれ、受け入れられた土壌がその時代のイギリスにはあるとして、当時の文化背景を丁寧に解説していく部分が非常に分かりやすいです。
 具体的には、次のような点が重要だと書かれています。文化では比較的後進国だったイギリスが「グランド・ツアー」などにより、大陸の先進国フランスやイタリアの異文化を輸入したこと、特にイタリアへ入国する際のアルプス山脈を通じて大自然の厳しさ・美しさを知ったこと。クロード・ロランやサルヴァトール・ローザの絵画などの人工的な自然風景、いわゆる「理想風景」を通じて「ピクチャレスク」という考え方が普及したこと、結果として、建築や庭園にそうした「ピクチャレスク」趣味が生まれてきたこと、などがゴシック小説誕生の下地にはあったと言います。
 ゴシック小説の背景として、そうした文化的背景があった…ということは何となく知ってはいたのですが、この本でようやく納得の行く形の説明に出合えた気がします。この本、講演が元になっているため、話し言葉で書かれていて、それも読みやすさの一因でしょうか。
 『オトラント城』を初めとして『イギリスの老男爵』『マンク』『ヴァテック』『放浪者メルモス』『ケイレブ・ウィリアムズ』『フランケンシュタイン』『ウィーランド』『悪魔の霊液』などの代表的なゴシック小説の紹介のほか、ゴシックの影響が見られる主流文学についてや、アメリカやフランスなど、他国への影響などについても語られています。特にバルザックやメリメについての影響を語ったフランスの章は面白く読めますね。
 非常に読みやすく、ゴシック小説について一通りの知識が得られる優れた本です。「ゴシック小説」入門として、日本語文献の中でも最もわかりやすい本ではないかと思います。



アメリカ・ゴシック小説―19世紀小説における想像力と理性
ドナルド・A・リンジ『アメリカ・ゴシック小説 19世紀小説における想像力と理性』(古宮照雄ほか訳 松柏社)

 アメリカのゴシック小説について書かれた研究書です。専門書ではありますが、丁寧な記述で読みやすい本になっています。
 アメリカにおいてゴシック小説がどう発展を遂げていったのかが丁寧に書かれています。イギリスやドイツのゴシック小説が一方的に輸入されていた段階から始まり、「アメリカ小説の父」と呼ばれるチャールズ・ブロックデン・ブラウンによるアメリカ・ゴシック小説の実作の出現、そしてその影響、作家単位では、ブラウンの他、ワシントン・アーヴィング、エドガー・アラン・ポー、ナサニエル・ホーソーンにスポットが当てられています。なかでもチャールズ・ブロックデン・ブラウンの評価が非常に高いようです。
 アメリカの作家だけでなく、彼らに影響を与えたイギリスやドイツの作家についても詳しく記述されているのが特徴です。ブラウン、ポオ、アーヴィング、ホーソーンの作品に具体的に影響を与えている作家や作品について細かく見ていくのは、非常に実証的ですね。ポオの章を例にとると、「メッツェンガーシュタイン」には、ウォルポール『オトラント城』、「約束ごと」にはアン・ラドクリフ『ユードルフォの謎』、「陥穽と振子」にはマチューリン『放浪者メルモス』が影響を与えているとしています。
 また、ポオにはウォルター・スコット経由でホフマンの影響があるのではないかとか、ポオはフケー『ウンディーネ』を高く評価していたとか、そのあたりの影響関係についても詳しく書かれています。
 ウォルポールやラドクリフ以外の「群小」のゴシック作家・作品についても多く触れられますが、それらに対してもあらすじやテーマを含め丁寧に解説がされるので、非常に参考になります。
 アメリカ・ゴシック小説についての本ではありますが、本家のイギリス・ゴシック小説についても一通り解説がされていますので、ゴシック小説一般の入門書としても読めると思います。また、日本語文献では情報の少ない、チャールズ・ブロックデン・ブラウンについてまとまった情報が得られるという意味でも貴重な本です。



アメリカン・ゴシックの水脈
八木敏雄『アメリカン・ゴシックの水脈』(研究社出版)

 アメリカにおけるゴシック小説についての研究書です。開拓時代の回想録や記録などの「アメリカ文学」以前から説き起こし、C・B・ブラウン、ワシントン・アーヴィング、フェニモア・クーパー、ポー、ホーソーン、メルヴィルらの作品におけるゴシックについて論じています。
 ユニークなのは、開拓時代の回想録や記録などを取り上げ、小説ではない文章に「ゴシック」の要素を見て取るところです(中には魔女狩りに関する記録も)。さらにアメリカの建国事情(移民したピューリタンが中心となって作った国であることなど)からして、ゴシックを受け入れやすい余地があったこと、アメリカ文学史では、イギリスのそれとは異なり、文学史上の主要な位置をゴシック的な要素を持つ作品が占めていることなど、読んでいてなるほど、という指摘が多いです。
 ポーやホーソーンのゴシック的な面を見ていく章も興味深いですが、個人的に一番興味を持って読んだのが、C・B・ブラウンを中心に展開される「アメリカン・ゴシックの誕生」の章。C・B・ブラウンはイギリスのゴシック小説の強い影響からアメリカン・ゴシック小説を生み出し、それがアメリカ文学の母体となっていく、というのは興味深いですね。 具体的なタイトルで言うと、イギリス・ゴシック小説の中でも「変り種」とされる、ウィリアム・ゴドウィン「ケイレブ・ウィリアムズ」が、C・B・ブラウンの『ウィーランド』につながるというのです。
 全体に論理的に構築された感のある本で、アメリカ・ゴシック作品を考える上で非常に示唆に富む本ではないかと思います。ただ、著者の語り口にかなり癖がある(冷めているというか、ちょっとシニカル?)ので、そこが気になると読みにくいと感じる人もいるかもしれません。



クトゥルー神話大事典
東雅夫『クトゥルー神話大事典』(新紀元社)

 タイトル通り、クトゥルー神話に関する事典です。何度も版を重ねていて、本書はその最新版になりますが、かなり面目を一新しています。事典部分は、用語と作家の項目が一緒に並んでいます。非常に整理されていてわかりやすい印象です。
 神話作品に登場する固有名詞やアイテム、神話作品を書いた作家の作品概説や作家自身の経歴や代表作、ダンセイニ、マッケン、ブラックウッドなど、ラヴクラフト自身が影響を受けた作家の紹介などもあります。
 巻末には、ラヴクラフトの生涯を語った「異次元の人」、ラヴクラフトと神話作品の拡がりについて語った「それからのクトゥルー神話」、日本におけるラヴクラフト作品の受容と日本における展開を語った「ラヴクラフトのいる日本文学史」も収められています。
 特に「ラヴクラフトのいる日本文学史」は、ラヴクラフトと夢野久作との比較から始まり、乱歩によるラヴクラフト紹介、本格的な翻訳書の登場、日本における神話作品の展開など、要領よくまとめられており、非常に参考になります。
 ラヴクラフト及びクトゥルー神話に関しては、この『クトゥルー神話大事典』と『All Over クトゥルー クトゥルー神話作品大全』(森瀬繚 三才ブックス)の2冊があれば、大抵のことは足りるんじゃないでしょうか。



路地裏の迷宮踏査 (キイ・ライブラリー)
杉江松恋『路地裏の迷宮踏査』(東京創元社キイ・ライブラリー)

 海外ミステリについてのエッセイ集です。作家自身の人生や、有名人同士の意外なつながり、著者自身による大胆な推測など、取り上げられている話題が本当に幅広く、楽しんで読める本になっています。
 全体に古典的な作家・作品がメインになっている感じでしょうか。ただ古典的な作家が話題に取り上げられている場合でも、思いもかけなかった解釈や意見が出されていて、なるほど!と思わせる章が多いです。
 個人的に面白く読んだのは、パット・マガー作品の特徴について語った「パット・マガーの『アメリカの悲劇』」、ウッドハウス作品が後続作家に与えた影響について語る「ウッドハウスという鋳型」、ストリブリングの社会問題的な作品について語る「ストリブリング、交わらない線」などでしょうか。
 いわゆるプロパーのミステリ作家だけでなく、ジェイムズ・ヒルトン、O・ヘンリー、ヴィッキイ・バウムなど、隣接領域の作家についての章もあり、このあたりも非常に面白く読みました。
 取り上げている作家・作品について、ある程度の知識が前提とされている章もあり、そういう意味ではあまり初心者向けではないのかもしれません。ただ、この作家はこんな風にも読めるのかとか、芋づる式に読書の関心を広げてくれるような本で、ミステリファンに限らずお勧めしたいところです。



ミステリの辺境を歩く
長谷部史親『ミステリの辺境を歩く』(アーツアンドクラフツ)

 邦訳された海外小説の中から、ミステリ要素の強いもの、ミステリの萌芽を含むものなど、36作を紹介したブックガイドです。
 ジェーン・オースティン、ヴォルテール、バルザックなど、ミステリジャンルが生まれる前の古典文学作品の中でミステリの萌芽が見られる作品、コンラッド、フォークナー、エリザベス・ボウエンなどの現代作家におけるミステリ要素が強い作品、はてはウーグロン、シャギニャンといった日本では知名度の低い作家の作品など、従来ミステリとは認識されていなかった作品をとりあげています。その作品自身の紹介のほか、作家自身の生涯や別の作品などについても、それぞれ紹介されているのが特徴です。
 個人的に面白く読んだのは、ゴシック・ロマンスとの関係を軸にした「ジェーン・オースティンの『ノーサンガー・アベイ』」、少年探偵の元祖と言える童話作品「E・ネズビットの『宝さがしの子供たち』」、モームの甥が実在の幽霊船事件に材をとったという「ロビン・モームの『十一月の珊瑚礁』」、実際に起こった冤罪事件を擁護するという「ヴォルテールの『寛容論』」、暗号解読が登場するミステリ要素の強い「ジュール・ヴェルヌの『ジャンガダ』」、人間と動物の権利について描かれたSF味の強い「ヴェルコールの『人獣裁判』」の賞などでしょうか。
 有名な作家も、日本では知名度のあまりない作家も、それぞれの紹介が非常に詳細に触れられており、参考になりますね。ただ、有名作家はともかく、そうでない作家の作品に関しては、取り上げられた作品それ一冊しか邦訳紹介されていないことも多く、本の入手に関しては難しいものも多いようです。



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高井信『日本ショートショート出版史 ~星新一と、その時代~』(ネオ・ベム)

 星新一がデビューした1957年から亡くなった1997年までを中心に、日本におけるショートショート関連書籍を編年体で紹介していくという面白い本です。
 日本における唯一のショートショート専門家(?)である高井さんの労作です。ショートショートであればジャンルもSFにこだわらず、多くの分野の本が取り上げられています。非常にマイナーな部類の本が沢山取り上げられているのが特徴で、ブックガイドとしても有用な本といえますね。
 叢書やシリーズについても触れられており、出版史としても面白く読めます。
またこの本の魅力の一つとして膨大な書影が上げられます。あとがきによれば画像の数は1000枚を超えているそうです。怪奇・幻想系の本についても多く取り上げられています。 この本、著者の高井さんによる自費出版(オンデマンド出版)なのですが、ショートショートや海外短篇小説に関心のある人にはとても面白い本だと思います。



フィクションの中の記憶喪失 (世界思想ゼミナール)
小田中章浩『フィクションの中の記憶喪失』(世界思想社)

 タイトル通り、小説や演劇や映画などのフィクションに登場する記憶喪失についてまとめた本です。
 研究書ではなくて、あくまで主眼はフィクションにあり、その題材についての「記憶喪失」について語られています。古典的な小説や映画に始まり、ウィリアム・アイリッシュやラヴクラフト、果ては韓流ドラマにまで言及されます。個々の作品のあらすじがしっかり書かれており、記憶喪失ものブックガイドとしても使えそうです。



キリスト教と死 最後の審判から無名戦士の墓まで (中公新書)
指昭博『キリスト教と死 最後の審判から無名戦士の墓まで』(中公新書)

 キリスト教における死生観について、非常にわかりやすくまとめられている本です。キリスト教における天国と地獄、煉獄など、概念的なものだけでなく、疾病・災害・処刑・葬儀・モニュメントなど、死にかかわる様々なトピックが語られていて参考になります。 著者はイギリス史が専門ということで、イギリスの事例が中心になりますが、他の国との比較、現代日本との比較などもされています。
どの章も興味深いのですが、やはり白眉は一章「キリスト教の来世観」と二章「幽霊の居場所」でしょうか。
 「キリスト教の来世観」では、キリスト教において来世がどう考えられていたかを、天国と地獄、煉獄、往生術などを中心に解説されています。面白いのはカトリックとプロテスタントでも来世についての考え方がかなり異なること。
 「最後の審判」が行われるまで死者の魂はどこにいるのか? ということについても、宗派によって考え方がかなり違うようです。
 「幽霊の居場所」では、キリスト教において幽霊がどう捉えられていたのかについて語られています。幽霊=悪魔説や、煉獄が否定されたプロテスタントの幻覚説など、幽霊といえども、宗教的に理屈の通った解釈がされているのだなあと、思わされます。
キリスト教において「死」や「神」や「来世」がどう考えられていたのかがコンパクトにまとめられており、欧米の怪奇小説やファンタジー小説などを読む際にも、非常に参考になる本だと思います。論旨も明快で読みやすく、お薦めしたい本ですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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