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世界のはじまり  ペネローピ・ファーマー『イヴの物語』
イヴの物語 (シリーズ百年の物語)
 ペネローピ・ファーマー『イヴの物語』(金原瑞人訳 トパーズプレス)は、聖書の創世記、アダムとイヴが楽園から追放されるまでを、イヴの視点から描いた物語です。

 神によって作られた楽園エデンの園。アダムの肋骨から作られた女性イヴは、夫とともに幸せに暮らしていました。しかし、アダムの先妻リリスや、智恵や技術を持つ「蛇」、そして「蛇」の友人でもある堕天使サマエルらと触れ合ううちに、好奇心を持ち始め、やがて禁断の木の実に手を出してしまいます…。

イヴが禁断の木の実を食べたのは、悪魔や蛇の誘惑によるものではなく、イヴ自身によるものだった…という、イヴは自立した女性だったというテーマで描かれた作品です。アダムが神の意図を疑わない敬虔な「信者」であるのに対し、イヴは知的好奇心を持ったり、世界のしくみに疑問を抱いたりし始めます。

イヴは、アダムの先妻リリスや「蛇」たちから話を聞くことにより、精神を育むことになるのですが、彼女に最も影響を与えることになるのが「蛇」です。この作品では、「蛇」はもともと四肢を備えた人間に近い知的な生物で、アダムやイヴの知らない知識や技術を持っているとされています。
「エデンの園」では必要のない高度な工業技術や、はるか未来のものと思われる「物語」を語るなど、技術や文明を司るようなキャラクターとして描かれています。そんな「蛇」やリリスたちからの影響もありながら、イヴが自ら禁断の木の実を食べて楽園を追放されるまでが描かれますが、それは「罰」というよりも、神からの自立、女性としての自立としての意味が強いものになっています。

 創世記の物語だけに「神」も登場しますが、その登場は間接的なものに限られています。代わりに頻繁に登場するのが直属の部下であるミカエルやラファエルなどの大天使。
 しかし天使たちは非人間的で冷たいキャラクターとして描かれています。「蛇」が非常に 人間的なキャラクターとして描かれているのとは対照的ですね。

 アダムとイヴを描いたファンタジーとしては、他にもマーク・トウェイン『アダムとイヴの日記』などがありますが、こちらのファーマー作品はよりシリアスでテーマ性の強い作品になっています。ただ、非常に読みやすく面白い物語なので、お薦めしておきたいと思います。

 ちなみに、トパーズプレスは評論家の瀬戸川猛資さんが創設した出版社で、本の紹介誌「BOOKMAN」などを出していました。<シリーズ百年の物語>は、20世紀の約100年間に書かれた面白いフィクションをジャンル問わず紹介するというコンセプトの叢書で、幻想的な要素の比率も高いです。

<シリーズ百年の物語>(トパーズプレス 1996年)のラインナップです。

1 ペネローピ・ファーマー『イヴの物語』
2 マーク・マクシェーン『雨の午後の降霊術』
3 ジャック・ロンドン『海の狼』
4 ウィリアム・スリーター『インターステラ・ピッグ』
5 デイヴィス・グラッブ『狩人の夜』
6 シャーロット・アームストロング『魔女の館』

 『雨の午後の降霊術』『狩人の夜』『魔女の館』に関しては、創元推理文庫より文庫化されています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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