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現実と幻想  マルセル・エーメ『エーメ ショートセレクション 壁抜け男』
エーメショートセレクション 壁抜け男 (世界ショートセレクション)
 マルセル・エーメ『エーメ ショートセレクション 壁抜け男』(平岡敦訳 理論社)は、奇想で知られるフランスの作家マルセル・エーメの短篇集です。ファンタスティックなファンタジーから、子供を描いた印象深い作品まで、バラエティ豊かな作品集になっています。

「諺」
 少年リュシアンは、強圧的な父親ジャコタン氏から作文の宿題を済ませていないことについて叱られます。やがて父親は自分も作文を手伝うと言い出しますが…。
 父親をやり込める機会を手に入れた少年の判断とは…? 頭の固い父親に悩まされる少年とその家族を描いた作品です。

「工場」
 六歳の少女ヴァレリーは120年前にタイムスリップしてしまいます。しかし彼女の姿は現地の人には見えないのです。ヴァレリーはは、貧しいゲニュー一家の息子イポリットが幼くして工場で働かされるのを見ることになりますが…。
 一見、現代の少女が昔のひどい環境を見てわが身を振り返る…という教訓的な話かと思わせるのですが、描かれる過去のゲニュー一家とその子供たちの置かれた環境が予想以上に悲惨で、読んでいる内に当時の社会問題について考えさせられてしまうという、意想外にシリアスな作品です。

「七里のブーツ」
 アントワーヌを始めとした少年たちは、風変わりな老人の店に置かれた七里のブーツに憧れを抱きますが、思わぬことから皆で怪我をして入院することになります。それぞれの親にブーツをねだる少年たちでしたが…。
 「七里のブーツ」というファンタスティックなアイテムが登場するものの、その実、貧しい母子家庭の生活がリアリスティックに描写されるという作品です。手に入れた「七里のブーツ」が本物なのかどうかも、どちらとも取れるようになっています。ブーツを扱う店や主人の老人のキャラは味がありますね。

「執行官」
 その酷薄なまでの仕事ぶりで名を馳せた差し押さえ執行官マリコルヌ。死んで神の前の裁きに引き立てられた彼は、もう一度生き返るチャンスを与えられます。天国入りを願う彼は必死で善行を積もうとしますが…。
 悪人が悪人のままで善行を積もうとしたらどうなるのか…という寓意的なファンタジー作品です。「善人のふり」をしつづけた悪人はいつの間にか善人になっていた、という味わいのある物語です。

「政令」
 戦争が激化するなか、列強諸国は政令により17年間の時間を進めることを決議します。その結果、一瞬で17年の時間が経過し戦争は終結します。作家の「わたし」は気がつくと、何冊もの本を書き、いつの間にか何人もの子どもを持つ父親になっていました…。
 「政令」により現実の時間も進められてしまうという、ファンタスティックな幻想小説です。後半では時間が進んでいない未だ戦争中の村を訪れた「わたし」が混乱する姿が描かれるなど、時間についての寓話とも取れる作品ですね。
 この作品でも言及されるエーメの短篇「カード」(生きる日数を決められてしまうというテーマの作品です)であるとか、一年を二十四ヵ月にするという法案で人々の年齢がすべて半分になってしまうという「ぶりかえし」など、エーメは意外と時間テーマについて関心が深かったようですね。

「壁抜け男」
 パリのモンマルトルに住む男デュティユールは、ある日自分が壁を抜けることができる能力があることに気がつきます。世間を騒がせてみたくなった彼は「お化け男」と称して、犯罪を繰り返しますが…。
 ファンタジーとユーモアがたっぷりの、エーメの代表作ともいうべき作品です。富を求めるというよりも、自分の存在価値を高めるために犯罪を繰り返すというところが妙に小市民的であり、エーメの主人公らしいところなのでしょうか。結末はちょっと残酷ですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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