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魔法の降る夜  イーディス・ネズビット『魔法の城』
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 イーディス・ネズビットの長篇『魔法の城』(八木田宣子訳 冨山房)は、魔法の城で、願い事を叶えてくれる指輪を手に入れた子供たちの冒険を描くファンタジー小説です。

 ジェラルド、ジミー、キャスリーンのきょうだいは、フランス人の家庭教師マドモワゼルのもとで休みを過ごすことになります。ある日、近くにあるという「魔法の城」にもぐりこんだ三人は、城の迷路から続いている赤い糸を見つけます。糸を辿った先には、王女らしきドレスの少女が横たわっていました…。

 城の中で、魔法の指輪を手に入れた三人のきょうだいと、後に仲間になる少女メイベルが、魔法によって引き起こされるトラブルや事件に巻き込まれ冒険していゆくという、ファンタジー作品です。
 魔法がどこから発生して、どういう条件で働くのかなど、その詳細が最初は分からず、それを探っていくという過程が抜群に面白いです。初めは城自体に魔法の力があるのかと思いきや、それは指輪そのものにあることがわかり、さらにその指輪の能力がどういうものなのかがはっきり分かりません。
 そのため、指輪の力を使うたびごとに、いらぬトラブルを巻き起こしてしまい、その事態を収拾するために、子供たちが活躍することになります。面白いのは、指輪の魔法の力が全世界に対して働いているらしいところです。

 例えば、作中で演劇の客役として作ったボロ人形に生命を与えてしまうシーンがあるのですが、なんとそのボロ人形は町に事務所を構える資産家ということで、以前から存在したことになってしまうのです。またきょうだいの一人ジミーの金持ちになりたいという願いが叶う場面では、単純にお金が現れるのではなく、何と資産を持った初老の男性として存在が書き換えられてしまうという展開になります。しかもややこしいことに、この初老になってしまったジミーとボロ人形とは同じビル内に事務所を構えたライバル同士になっているという、複雑な設定です。

 作中で現れる魔法の及ぶ力が広範囲で、現実世界にも影響を与えます。主人公の子供たちも、魔法の力を信じてはいるものの、現実世界の「常識」も理解していて、魔法によって現実世界にどう影響が及ぶのかなどを考えながら行動するのが面白いですね。
 「現実」と「魔法」の世界の相互的な影響が描かれていく作品といえるのですが、クライマックスでは明らかに「魔法」の力が優勢になる場面が現れ、その場面にはある種の感動があります。「現実」に足をしっかりと着けつつも、「魔法」の魅力を描いたモダンなファンタジーと言っていいのではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

はじめまして。
ネスビットと言えば「砂の妖精」しか知りません。それも50年ほど前に石井桃子さんの訳で読んだだけ(笑) 小学校の図書館で出会った本。懐かしいわ。

素敵なサイトを見つけてワクワクしています。どんな本を紹介してくださるのか、とても楽しみにしております。まずはご挨拶まで。
【2020/06/17 06:36】 URL | aosta #.J3PU1tU [ 編集]

>aostaさん
aostaさん、はじめまして。こちらこそ、よろしくお願いします。

ネズビット、『砂の妖精』はすごく有名で、おかげである程度知名度のある作家なのですが、現在のところ、他の作品はあまり読まれていないようです。
ネズビット作品は、『砂の妖精』以外も面白いものが沢山ありますので、機会があればお読みいただければなと思います。特に、この記事で紹介している『魔法の城』に関しては、ネズビットの最高傑作といってもいい作品ではないかなと個人的には思っています。
【2020/06/17 18:44】 URL | #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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