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マニアライクなアンソロジー  矢野浩三郎編『世界怪奇ミステリ傑作選 正・続』
 矢野浩三郎編のアンソロジー『世界怪奇ミステリ傑作選』『続・世界怪奇ミステリ傑作選』(番町書房イフ・ノベルズ)は、海外の怪奇幻想小説の秀作を集めた良質なアンソロジーです。珍しい作品も多数収録されています。以下、内容を見ていきましょう。


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矢野浩三郎編『世界怪奇ミステリ傑作選』(番町書房イフ・ノベルズ)
 内容は「吸血鬼たち」「悪と魔法」「錬金術と秘儀」「超神話」「エッセー」のテーマで分けられています。

シャイラー・ミラー「河を渉って」
 森の中で突然目覚めた男には記憶がありませんでした。あるのはただ血を飲みたいという渇望だけ。森の動物で渇きをいやす男でしたが、なぜか川やその水に触ったとたんに体から力が吸い取られてしまいます。男はやがて物陰から現れた女と出会いますが…。
 吸血鬼になった男を本人の視点から描く物語。本人には記憶がないものの、過去に何があったのかが徐々に明かされる展開はミステリアス。迫力のある吸血鬼小説です。

ロバート・ブロック「蝿の悪魔」
 ハワードは蠅に悩まされていました。常時、自分のそばで飛んでいる蠅について医者に相談しますが、それは自分の妄想ではないかというのです。それが原因で妻は出ていってしまいますが…。
 蠅がつきまとうという妄想にとりつかれた男を描くサイコ・スリラー作品です。

ジャック・シャーキー「魔女志願」
 幼い頃から魔女に憧れるケティは、たびたび魔法をかけようと試みますが、全て失敗してしまいます。成長したケティが出会った魔女らしき老婆は、魔女になるには「愛」を捨てなければならないと言いますが…。
 「愛」ゆえに魔女になれない「魔女志願」の少女を描くファンタジー作品。それまでの展開から暖かい結末が待つのかと思いきや、とんでもなくブラックな結末に。これは一読の価値のある作品ですね。

アーサー・ポージス「三番目のシスター」
 美しい女優の母が病で瀕死の状態にあるのを心配した娘は、熱に浮かされた状態で町に飛び出しますが、ふと三人の老婦人が織物の作業をしている家に飛び込みます。娘は、彼女らは母の命を司る作業をしているのではないかと直感しますが…。
 命を司る女神たちの家に飛び込んだ少女を描く、神話的なファンタジー。美しいファンタジーかと思いきや、これまたブラックな結末に。

ピーター・S・ビーグル「死の舞踏」
 ロンドンに住む資産家フローラ・ネヴィル夫人はパーティを催すことのみが楽しみでしたが、年老いた夫人はそれさえもが退屈になってきていました。ある日、戯れに死神にパーティの招待状を出そうと考えた夫人でしたが、やってきたのは若く美しい娘でした…。
 死神は若く美しい娘だった…という幻想小説。死神の娘を怖がった参加者たちが彼女と踊るのを躊躇う、というシーンは印象的。何とも美しい寓話的ファンタジーです。

W・B・イエイツ「錬金術の薔薇」
 カリスマ的な人物マイケル・ロバーツに誘われ秘 儀的な体験をする語り手を描いた幻想小説です。

ダイアン・フォーチュン「秘儀聖典」
 オカルトに通暁するタヴァナー博士を主人公に、秘儀が記された写本をめぐって、ある人間の転生が描かれるという作品です。

アーシュラ・K・ル=グイン「解放の呪文」
 宿敵ヴォールに囚われた魔法使いフェスティン。様々なものに変身して脱出しようとしたフェスティンでしたが、先回りしたヴォールによって全て阻止されてしまいます。フェスティンはとうとう「解放の呪文」を使いますが…。
 囚われた魔法使いの脱出を描くファンタジー作品です。様々な魔法の効果が描かれるシーンは非常に視覚的で見事ですね。最後まで敵であるヴォール自身が姿を現さないのが面白く、そこがまた伏線にもなっています。短めながら印象に残る作品ですね。

H・P・ラヴクラフト「CTHULHU の喚び声」
 大叔父アンゼル教授が遺した奇怪な薄肉浮彫(バレリーフ)や書類に関心を惹かれた「私」が知ったのは、太古から生き続ける謎の存在でした…。
 ラヴクラフトの代表作ともされる作品です。彫刻家や警察官など、複数の視点から間接的に「謎の存在」が仄めかされます。「CTHULHU」を始め、作中で現れる呪文などがアルファベット表記のままに使われているのが、今見ると面白いですね。

 「錬金術と秘儀」コーナーに入っている、W・B・イエイツとダイアン・フォーチュン作品が浮いている感じはするものの、こうしたオカルト的な作品が一緒に入っているのも、1970年代のアンソロジーだなという感じはしますね。
 全体に面白い作品が集められており、大変良い怪奇アンソロジーです。序盤に並んだ「河を渉って」「蝿の悪魔」「魔女志願」「三番目のシスター」「死の舞踏」などが、どれも秀作・傑作で、読めば満足感が味わえると思います。



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矢野浩三郎編『続・世界怪奇ミステリ傑作選』(番町書房イフ・ノベルズ)
 正編に引き続き、海外の怪奇幻想小説の秀作を集めた良質なアンソロジーです。「戦慄」「変身ものがたり」「もう一つの世界から」「幻覚」「エッセー」にテーマ分けがされています。

スティーヴン・バー「目撃」
 新婚の夫婦エリックとカーロッタは山に登りますが、先に山頂を見た夫は顔色を変えます。夫は理由も語らず、直後に失踪してしまいます。数十年後に夫らしき男の情報を聞いた妻は、彼に会いに出かけますが…。
 災難を避けようとした結果、逆にその結果を引き寄せてしまう…というタイプのストーリー。物語の始まりと終わりがループするような、技巧的な作品です

シリア・フレムリン「階上の部屋」
 夫も外出し、誰もいなくなったアパートで深夜子供たちと自分だけになった主婦マーガレットは不安を感じていました。しかもアパート内には誰か人間の気配がするのです。子供たちが連れてきた、様子のおかしい見知らぬ子供のことを思い出すマーガレットでしたが…。
 「生き霊」もしくは「分身」を扱った物語というべきでしょうか。主婦を襲う「怪物」もまた救われるという、ユニークな幻想小説です。

マイケル・ジョセフ「黄色い猫」
 ギャンブルで生計を立てる男グレイは、ある日自分についてきた黄色い猫を飼うようになってからツキが上がってきたことに気がつきます。しかし付き合い始めた女の言うままに、猫を殺してしまいます…。
 不思議な猫は一体何者なのか? 悪夢のような雰囲気で展開する作品です。トーマス・オーウェン「黒い玉」を思わせるというと、雰囲気がわかってもらえるでしょうか。

ジェラルド・カーシュ「たましい交換」
 黒人をひどく憎んでいた老人の少佐は、逃げ込んだ黒人の男を追って森の中へ入っていきますが、そこから出てきた少佐は、まるで人が変わったようになっていました。彼が言うには、黒人と少佐の中身は入れ替わったというのですが…。
 人格交換を扱った作品ですが、人種差別的な要素も扱っており、テーマ性の強い作品になっています。

ジョイス・マーシュ「樹」
 妻のリータは、庭に生えた大木を気味悪く思っていました。その枝からは人間の血液のような樹液がにじみ出しているのです。それと同時に、夫のジョージがだんだんと体調を悪くしていくのを心配する妻でしたが…。
 植物を扱った怪奇小説ですが、登場する木の気色悪さが強烈です。主人公の若妻がインド出身であるというのも、作品の神秘主義的な色彩を濃くするのに貢献していますね。

チェスター・ハイムズ「へび」
 行方知れずになった息子を探しに訪れた義父は、孫娘がヘビに襲われたと聞き、部屋中を探しますが、ヘビの姿はありません。夫に対して不満を持っていたらしい妻は、義父に関係を迫りますが…。
 超自然的な要素は薄いのですが、何やら不気味な雰囲気のする作品です。ヘビは本当に実在するのかという点も含めて象徴的な要素もあったり、妻と義父の関係も怪しかったりと、妙な気味悪さの横溢する作品ですね。

ヘンリー・ハッセ「バイオリンの弦」
 精神科医シェルマン博士を訊ねた「私」は、フィリップ・マクストンの症例について話を聞きます。フィリップは、頻りに耳にするバイオリンの音色は異次元から彼とコンタクトしようとする女性の弾くものだと話していたというのですが…。
 ラヴクラフト「エーリッヒ・ツァンの音楽」を思わせる音楽怪談です。異次元から現れる魔性の女の不気味さも強烈。

エリオット・オドンネル「開かずの間の謎」
 使用人として、資産家らしき未亡人ビショップ夫人の家に雇われた身寄りのない娘アメリア。夫人の留守中、彼女から立ち入りを禁じられている部屋に入ることに成功したアメリアでしたが…。
 主人は人殺しだったという犯罪実話的な要素と、超自然的な現象の起こる怪談実話的な要素の組み合わさった、ユニークな作品です。

フリッツ・ライバー「煙のお化け」
 ラン氏は電車で通勤する途中、決まった場所に現れる煙のような得体の知れないものに不安を感じていました。他の人間にはそれが見えないようなのです。夜、会社に戻ったラン氏は、秘書のミリック嬢の様子がいつもと違うのに気がつきますが…。
恐怖の焦点が捉えにくいという、ユニークな怪奇小説。「都市怪談」とでもいうべきでしょうか。

ゼナ・ヘンダースン「おいでワゴン!」
 幼いころから甥のサディアスには不思議なところがありました。彼には念動力があるらしいのです。しかし成長するにつれその力は発揮されなくなっていきます…。
 不思議な力を持つ少年を描く物語です。子供と大人、常識的な思考でその純粋さが失われてしまう…というテーマが非常に上手く描かれています。

アンナ・カヴァン「頭の中の機械」
 幻想を伴った散文詩的な作品です。

クリストファー・イシャーウッド「待っている」
 成功した弁護士である弟の家に世話になっている初老の兄。彼には突然未来の情景が垣間見れるという能力がありました。未来に転位した彼は、その部屋にあった雑誌から未来の情報を得ようと考えますが…。
 タイムスリップを扱った幻想小説なのですが、語り手が人生下り坂に入った初老の男性であるのと、能力を使って何かをしたいとう強烈な欲望などがあるわけでもないため、淡々と進む物語になっています。なのですが、微妙なユーモアを伴う語り口のせいもあり、面白く読めるのは不思議ですね。

ロバート・エイクマン「強制ゲーム」
 コリンとグレイスの夫妻は、特別な魅力があるわけではないにもかかわらず隣人のアイリーンと付き合うようになります。あるときを境に妻のグレイスはアイリーンとの都合を優先し始め、夫をないがしろにし始めます。
やがて飛行機の免許を取り、飛行機を購入すると宣言したグレイスはアイリーンと一緒に失踪してしまいますが…。
 何が怖いのかわからない…という定評があるエイクマン作品なのですが、この作品では隣人のアイリーンと、それに「洗脳」されて一緒に姿を消してしまう妻グレイスの行動がかなり具体的なレベルで怖いです。
 人間の心理の怖さを扱った作品かと思いきや、超自然現象らしきものも起きたりと、恐怖の焦点は合いにくいながら、全体を通しても非常に怖さを感じさせられる作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

これも読んでいるはずなのに、まったく思い出せないので、図書館で予約しているところです。

図書館4つ利用という自転車操業しています。
【2020/01/29 23:50】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
『世界怪奇ミステリ傑作選 正・続』、こちらのアンソロジーは市場にあんまり出てこないので、読むためなら図書館利用の方が早いかもしれないですね。起承転結が効いていて面白い作品が多かったですよ。
【2020/01/30 20:07】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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