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怪奇のリアリズム  平井呈一訳編『屍衣の花嫁』
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 平井呈一訳編『屍衣の花嫁』(東京創元社)は、1959年、<世界恐怖小説全集>の最終巻として刊行されたアンソロジーです。フィクションではなく、英米の海外怪談実話集から選りすぐった作品集になっています。

 序盤は地味な実録風幽霊談が多いのですが、中盤からは、創作と見紛うような破天荒なエピソードが頻出するという面白い本になっています
 全体は三部に分かれており、一部は古典的な実録風幽霊談、二部は創作味の強い奇談集、三部はアメリカでは有名な「ベル・ウィッチ事件」についての講演録、という並びになっています。ハリファックス卿、キャサリン・クロー、エリオット・オドンネルなど、怪奇実話で有名な著者たちの本からのアンソロジーとは書いてあるものの、一部はしがきにあるものを除いて、どのエピソードが誰のものなのかは記されていません。

 第一部は地味なお話が多いのですが、イギリス心霊学協会の会報に掲載されたという「ある幽霊屋敷の記録」はちょっと出色です。
 持ち主の夫婦が亡くなった後に引っ越してきたモートン家の人々が、女の幽霊に出会った顛末を描くレポートなのですが、最初は普通の人間に見紛うような実在感を備えていた幽霊がだんだんとその存在感を失っていったというのです。
 また面白いのが、語り手が幽霊に対して科学的な興味から、物理的に接触可能かどうかなど、いろいろ実験的なアプローチを行い、それを細かく記述しているところ。それゆえ「怖く」はないのですが、妙な面白さがありますね。

 一番面白いのが第二部で、こちらは興味深いエピソードが目白押しです。首のない幽霊をめぐる「首のない女」、過去の殺人を夢の中で追体験するという「死の谷」、ポルターガイストを引き起こすテーブルの由来について語られる「魔のテーブル」、声の出なくなった歌手の代役として突然現れた不思議な男が引き起こす怪現象を扱った「呪われたルドルフ」、二人組の男女の幽霊が現れる「屍衣の花嫁」、予知夢を扱った「舵を北西に」、宿屋の鏡に起こる怪異を描いた「鏡中影」、汽車の中で過去の惨劇の幻覚を見る「夜汽車の女」、二十年前に失踪した兄の人生を追体験するという「浮標」などが面白く読めます。

 実話というより、創作のようにも見える非常にアイディアのひねられたお話も多いです。例えば「死の谷」では過去の殺人を夢の中で体験する男が描かれるのですが、実は被害者は事故死しており、殺人は行われていなかったというのです。実行するつもりだった殺人の思念を追体験するという面白い趣向です。
 「呪われたルドルフ」では、悪魔的な音楽で人を魅了する怪人物が現れますが、非常によくできたお話で、その読後感はまるでホフマンの作品のようです。
 「鏡中影」は鏡に映った人物が魔術にかけられるという怪奇作品ですが、こちらは、江戸川乱歩の分類でいうところの「鏡怪談」でしょうか。

 第三部の「ベル・ウィッチ事件」は、アメリカでは有名だとされる「ベル・ウィッチ事件」について語ったフォーダー博士の講演録とのこと。「魔女」によって起きた怪奇現象のおかげで最終的に一家の父親が殺されてしまったというお話なのですが、精神分析的な解釈により、一家の娘が父親を殺したのではないかという解釈がされているのが特徴です。これはこれでなかなか面白いノンフィクションではありました。

 様々な趣向のお話がバラエティ豊かに配置されたアンソロジーで、今読んでも非常に面白いです。これは何らかの形で復活させてほしい本ですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

面白いですね!
【2020/01/06 19:43】 URL | 篠原周助 #GWMyNl/. [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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