賢明なる判断  アンドルー・ラング『プリジオ王子』
4791757416幸福な王子
オスカー ワイルド 富山 太佳夫 富山 芳子
青土社 1999-07

by G-Tools

 ふつう童話の登場人物というのは、自分が住む世界の魔法や妖精といった存在を信じているものです。童話のストーリーは、基本的にそうした存在を前提に進んでいきます。ところがそうした存在を信じない主人公を導入したらどうなるのでしょうか?
 アンドルー・ラング『プリジオ王子』(富山太佳夫+富山芳子編 青土社 『幸福な王子』所収)は、実にひねくれたフェアリー・テールです。
 パンフトゥリアという国に、子どもに恵まれない王と王妃がいました。ちょっと足りないところのある王に比べ、王妃は学問があり読書家の賢い女性でした。やがて美しい王子が生まれ、プリジオと名づけられます。
 王子の洗礼パーティーが開かれることになり、王は妖精たちを招待しなければいけないと言いますが、妖精の存在を信じない王妃は歯牙にもかけません。そして当日、なぜか招待された貴族たちは誰一人として来られなくなり、妖精たちが代わりに現れます。しかし王妃は、彼らの存在を無視するような振る舞いを続けます。
 妖精たちはいろいろな贈り物をしますが、最後に残った気むずかし屋の妖精は、王子に呪いをかけてしまうのです。「王子よ、おまえは利口すぎる人間になるがいい!」。
 成長したプリジオ王子は賢すぎるために手に負えない人間になります。その意見は正論ながら、人々の気分を逆なでするプリジオは、周りの人々はもちろん王にさえ嫌われます。
 王は、プリジオではなく弟たち、エンリコかアルフォンソに跡を継がせたいと考え、プリジオを亡き者にする計画を練ります。国を苦しめる「火竜」退治に行かせようというのです。もちろん最初に行くのはプリジオ!

 「そうすれば、れいによって、最初のふたりは殺されるが、末っ子はうまく怪物を退治して、帰ってくることになるだろう。エンリコにはちとかわいそうだが、それもこれもプリジオを亡きものにするためだ、しかたあるまい!」

 そしてその話をプリジオに持ちかけますが、彼は涼しい顔で答えます。

 「陛下が今日までわたくしにお与えくださった教育のおかげで、わたくしは、火竜が、海の精や妖精といったものと同様、この世には存在しない、伝説上の生き物にすぎないことを学びました。しかしながら、お話をすすめるため、百歩ゆずって、かりに火竜が本当にこの世のものといたしましても、わたくしをおやりになることが何の役にもたたないことは、陛下もよくごぞんじのとおりです」

 逆に、話を聞いた弟たちは、勇んで竜退治に出かけたまま帰ってきません。とうとう我慢のならなくなった王は、プリジオを置き去りにして国ごと引っ越してしまいます。プリジオが目覚めると、あたりには人っ子ひとりいません。着の身着のままになったプリジオは途方に暮れるのですが…。
 魔法や妖精が実在するにもかかわらず、それを信じない主人公、というのがユニークです。後半に至って、ようやくプリジオは魔法の存在を信じるようになるのですが、相変わらず賢明な主人公は、汚いまでの手段を次々と弄します。プリジオの命を狙う王のどこか抜けた策略と、それをあっさりとかわしてしまうプリジオのやりとりは、非常に愉快です。そして、童話の約束事をいちいち皮肉ったかのような展開は痛快そのもの。
 約束事といえば、王の言葉にもあるように、作中の登場人物が、自分たちが話の中の人物であることを意識しているかのような発言を繰り返すという、メタフィクション的要素も見られるところが面白いですね。
 竜退治にいった弟王子たちが本当に死んでしまうところに驚いてしまうのですが、結末では、やっぱり安易に生き返らせてしまいます。その辺は伝統的なフェアリー・テールの枠を抜け出ていなくて、物足りなく思うのですが、全体的にスパイスが利いていて、実に愉しい作品です。
 本書には、他にオスカー・ワイルドの童話がいくつか収録されています。ラングの作品と比べるとあまりに大人しくて物足りませんが、簡単に紹介しておきましょう。
 『幸福な王子』きらびやかな宝石や金箔で飾られた王子の像は、町の貧しい人々に同情し、そばにやってきたツバメを使いとして自分の体の宝石を人々に届けさせます。王子の持ち物がなくなったとき、ツバメは死に、王子の心臓も割れてしまう…。
 ワイルドの童話はあまりにストレートで鼻白むのですが、これはやはり名作。
 『わがままな大男』自分の家に帰ってきた大男は、庭で子どもたちが遊んでいるのを見て彼らを追い出してしまいます。しかし、ある時美しい男の子を遊ばせたことから、改心し子どもたちのために庭を開放します…。露骨な改心話で、ちょっと鼻につきます。
 『星の子』ある日、貧しい木こりが見つけた美しい赤ん坊。赤ん坊は星の刺繍がほどこされた綺麗なマントに包まれていたことから、長じて自分を「星の子」であると思い込み傲慢に育ちます。ある日自分の母親と名乗る醜い女乞食が現れるのですが「星の子」はそれを否定したために、彼は醜い容貌になってしまいます…。
 結末はやはり高貴な生まれだった、というお約束の展開なのですが、超自然的と思われた「星の子」がただの人間だったというステップをはさんでいるところがユニーク。
 『すばらしいロケット』はロケットの空しい生涯を描く作品。ロケットを擬人化するという試み自体がどうも成功していない感じです。
 ワイルドの作品はともかく『プリジオ王子』は傑作なので、一読をオススメしておきます。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
一目惚れ
こんばんは。
うちのブログをお訪ねくださり、リンクまでしていただきありがとうございました。

こちらのブログを色々と拝見しているうち、ふとこの本に目が留まりました。
まさにひとめぼれです。
そしてまたkazuouさんのご紹介の仕方が素敵す。「幸福な王子」の物語は
知っているのにも関わらず、とても魅力的な物語に思えて否応なく惹かれてしまいます。

まだ全てを拝見していないのですが、じっくり読ませていただいて、これから手に取る
本の参考にさせて頂きたいと思っています。
【2006/06/09 22:41】 URL | sapphire #GCA3nAmE [ 編集]

>sapphireさん
ようこそ、おいでくださいました。
これからもよろしくお願いいたします。僕は国内ものには弱いので、sapphireさんのブログの方も参考にさせていただきますね。
それにしても、この本を目にとめるとは、お目が高いです!
僕はファンタジーも比較的よく目を通すのですが、あんまりストレートな感動ものよりは、やっぱりちょっとひねったお話の方が好みです。その点『プリジオ王子』はツボにはまった一編でした。ストレートなワイルドの童話と組み合わせているのは、もしかして編者の狙いか?とか思ったんですけど、そういうわけでもないんでしょうかね。
でも『幸福な王子』だけは、やっぱり名作でした。
【2006/06/10 00:05】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/103-a0f63213
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する