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悪夢と祈り  ミッシェル・フェイバー『祈りの階段』
祈りの階段
 ミッシェル・フェイバーの長篇小説『祈りの階段』(林啓恵訳 アーティストハウス)は、ゴシック色が濃厚な幻想的作品です。

 ヨークシャーの港町ウィットビー、修復士を生業とする女性シーアンは、7世紀に聖ヒルダが建立したというウィットビー大修道院の発掘作業に参加していました。この地に到着してから、シーアンは毎晩、同じ男に首を切り裂かれるという悪夢にうなされていました。
 ある日犬を連れた男性マグナスと知りあったシーアンは、父親の遺品だという小さな瓶を差出します。中に入っている書類を解読してみてほしいというのです。その書類には、18世紀に生きた男性の「殺人」の記録が記されていました…。

 古い品物の修復を生業とする主人公が古い手記を解読するうちに、その不思議な事件にのめりこんでいき、それと同時に彼女の周りにも悪夢が近づいてくる…という、ムードたっぷりの作品です。ただ、最後まではっきりとした超自然的事件は起こらず、ヒロインが見る悪夢についても明確な説明はされません。
 その意味で「雰囲気小説」ではあるのですが、その「雰囲気」が絶品なので、これはこれでありなのかなと思わせる魅力があります。手記の主の「殺人事件」については、かなり明確な解決があり、その意味で合理的に収まるのですが、その事件とヒロインの悪夢とのつながりの部分が曖昧にされており、このあたり、この作品が「幻想小説」として解釈することが可能な部分かなと思います。

 過去の手記の解読と併行して、ヒロインのシーアンとマグナスとのラブストーリーが展開されていきます。その過程でシーアンの過去が明かされていき、最終的には彼女が「過去」を克服する成長小説としても読めるようになっているようですね。
 幻想的な恋愛小説といった趣の作品ですが、陰鬱なゴシック風ムードが横溢しており、この種の雰囲気が好きな人にはお薦めしたい作品になっています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
2019年10月に作成した「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を盛林堂書房さんで通信販売中です。
2019年12月に同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を刊行予定(盛林堂書房さんで通販予定です)。



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