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そのホテルでは何も起こらない  木犀あこ『ホテル・ウィンチェスターと444人の亡霊』
ホテル・ウィンチェスターと444人の亡霊 (講談社タイガ)
 木犀あこ『ホテル・ウィンチェスターと444人の亡霊』(講談社タイガ)は、老舗のホテルを舞台に、霊と話す能力を持つコンシェルジュ友納が、様々なトラブルに対応するというホラー・ミステリ作品です。

 歴史のある老舗ホテル・ウィンチェスター。ここには大量の亡霊が棲みついていました。様々なトラブルを引き起こす霊ですが、彼らの姿を認識して対応できるのは、勤続十年目のコンシェルジュ友納だけ。しかも霊を認識し話すことができるとはいっても、まともに意思を通じさせることのできる霊は数人程度なのです。
 <嗤い男>、<頸折れ男>、<レディ・バスローブ>といった、協力的な霊たちの力も借り、友納は様々な事件に対応することになります。
 霊たちの影響や過去に起こった惨劇の影響などで、ホテルの各部屋では怪奇現象が多発しているのですが、ホテルでは怪奇現象などはいっさい起こらない、という建前を振りかざす友納は、密かに事件を解決しようと奔走するのです。

 突然いろいろな物が部屋に落ちてくる現象が多発するなか、大量の血液が部屋に降ってくるという「血の降る部屋」、災難の前兆を知らせてくれるという部屋で人の話し声が聞こえるという謎を扱った「凶兆の階層」、ホテルの部屋で怪死を遂げた女性霊能力者の死の真相を探るという「すさまじきもの」、ホテルに長年取り憑く「怪物」との対決を描いた「ウィンチェスターの怪物」の連作になっています。

 基本ユーモラスなタッチで描かれる物語で、主人公友納と周りの霊たちの掛け合いも楽しいです。特にレギュラー陣として描かれる、いつも笑っている<嗤い男>、頸を曲げている<頸折れ男>、濡れたような姿の<レディ・バスローブ>などのキャラクターは立っていますね。いたずら好きの妖精のような<スニファー>も大変可愛らしいキャラです。
 また事件も、原因が超自然現象そのものだけでなく、人間の行為が絡むことによって複雑化したパターンもあるなど、バラエティに富んでいます。どれも面白いのですが、個人的に面白く読んだのは、一話目の「血の降る部屋」と三話目の「すさまじきもの」でした。

 「血の降る部屋」は、突然血の降ってきた部屋の謎をめぐって展開するお話。いわゆる「ファフロツキーズ現象」を扱っています。スタンリイ・エリン「特別料理」やロアルド・ダール「おとなしい凶器」を思わせるような「奇妙な味」が濃厚で、読者に怖さを想像させるような結末も強烈な味わいです。
 作中に登場するお店の名前が「スビローズ」なのは、エリンのオマージュなのでしょうか。

 「すさまじきもの」は、50年以上前にホテルで謎の焼死を遂げた女性霊能力者の死の謎をめぐる物語。火を扱う能力者だった女性はなぜ幼い娘を残して焼死したのか? 女優となった娘が撮影を機会にホテルを再び訪れます。
 超能力者哀話がサイコ・スリラーに転化するという、集中でも一番「怖い」話です。

 最終話「ウィンチェスターの怪物」では、それまでのエピソードでもかすかに登場していた「怪物」と、ホテルの謎そのものについて描かれます。希望に満ちた結末も、後味が良いですね。

 笑いあり、謎解きあり、怖さありと、非常にバランスの取れた作品になっています。「ゴースト・ハンター」ものとしても出色の出来ではないでしょうか。

テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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