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迷宮の犯罪  ギジェルモ・マルティネス『オックスフォード連続殺人』
オックスフォード連続殺人 (扶桑社ミステリー)
 アルゼンチンの作家、ギジェルモ・マルティネスの長篇『オックスフォード連続殺人』(和泉圭亮訳 扶桑社ミステリー)は、天才数学者が連続殺人に挑むというミステリ作品なのですが、全体に<奇妙な味>的な味わいの強い作品になっています。

 アルゼンチンからの奨学生の「私」はオックスフォード大学に留学しますが、下宿先の家主イーグルトン老婦人の他殺死体を発見してしまいます。共に第一発見者となった伝説的な数学者セルダム教授のもとには、謎の記号が書かれた殺人予告メモが届けられていました。これは教授への挑戦なのか?
 メモの「論理数列」が解ければ犯人の正体が分かるかもしれないと調査を続ける「私」とセルダム教授でしたが、その後も、謎のメッセージを伴う殺人事件が続いてしまいます…。

 数学的メッセージで捜査を撹乱する連続殺人犯と伝説的な大数学者との知的戦い…という装いの作品なのですが、実際のところ「戦い」というほどの緊迫感はありません。探偵役セルダム教授が世離れした人物で、その発言がどれも仄めかしに満ちていることや、起こる殺人事件も意外と地味なのもあって、静的な印象の強い作品なのです。

 全体に散りばめられた数学的・哲学的な意匠やペダントリーなど、不思議な味わいのエピソードなど、全体を見るに、どこかミステリのパロディ的な意図で書かれたかのような感じも受けますね。特にいくつか挿入されるエピソードはどれも〈奇妙な味〉的な味わいが強いです。
 エピソードで目立つのは、病院を訪れた教授が、ディーノ・ブッツァーティの短篇小説「七階」は作家自身のその病院での体験が元になっていると話す挿話です。なんとその中に登場する三階の患者は教授自身だというのです。

 他にも、挫折した作家が人を殺すまでに至るエピソードや、妻殺しの計画を詳細に記していた医者が逆に妻に殺されてしまうエピソード、交霊術の席上テレパシー実験で実験者が焼き殺されてしまうエピソードなど、挟まれるエピソードがどれも幻想的、奇怪な味わいで非常に楽しめます。

 解説文にもありますが、ボルヘスの影響もあるのではと窺わせる様な作風で、本格ミステリファンよりも幻想小説ファンに親和性の高い作品ではないかと思います。もちろんミステリ上のトリック・構成もしっかりしていて、ミステリ作品としても充分に楽しめる作品ではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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