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時間と空間の殺人  スチュアート・タートン『イヴリン嬢は七回殺される』
イヴリン嬢は七回殺される
 スチュアート・タートンの長篇小説『イヴリン嬢は七回殺される』(三角和代訳 文藝春秋)は、館ミステリ+タイムループ+人格転移という、複雑怪奇なSFミステリ作品です。

 森の中で目を覚ました男性は、ここがどこなのか、自分が誰なのか、記憶を完全に失っていました。覚えているのは一人の女性の名前だけ。最寄の屋敷〈ブラックヒース館〉を訪れた男は、自分が客の一人セバスチャン・ベルであることを聞かされます。ふとしたことから意識を失った男が目を覚ますと、自分の意識がベルではない別の男性の肉体に宿っていることに気がつき驚きます。
 突如現れた謎の仮面の男<黒死病医師>が言うことには、その日の夜に屋敷の令嬢イヴリンが殺されることになっており、その犯人を見つけない限り、何度もその日の一日をループし続けるというのですが…。

 犯人を見つけない限り同じ一日が何度も繰り返されるという<ループ>、意識を失う度に別の人物に意識が移り変わるという<人格転移>、閉ざされた森の屋敷で展開されるという<クローズド・サークル>、大きく三つの趣向を組み合わせた、複雑怪奇なSFミステリ作品です。
 最初は記憶も全くない状態で放り出された主人公が、調べていくうちに自分が何らかの「力」により、ループ世界に囚われており、殺人事件の謎を解決しない限り脱出できないことを認識することになります。複数の人間に宿ることにより、情報を得やすい立場に置かれている主人公ではありますが、<宿主>はそろいもそろって癖のある人間ばかりなのです。
 知性はあるものの肉体的にはほとんど動けない者であるとか、意識が朦朧としている者、激情を抑えられない者など。主人公は宿った肉体の特性に行動が左右されるというのも面白いところで、場合によっては自らの意思に反して肉体が動いてしまうこともあるのです。

 解くべき殺人事件も複雑で、何度助けようとしても令嬢は殺されてしまいます。探っていくうちに事件の元凶が数十年前に起こった令嬢の弟の殺人事件に遡ることが示され、主人公は現在と過去両方の事件の謎を追うことになります。
 やがて自分以外にも<ループ>に閉じ込められた者がいること、自分の命を狙っているものがいることも判明します。誰が味方で誰が敵なのか? 嘘をついているのは誰なのか?

 現在と過去二つの殺人事件の謎に加え、主人公がこの<ループ>に閉じ込められた理由と自分自身の正体をも探っていくという、壮大な設定の作品になっています。
 中盤に多少だれるところはあるものの、次々と新たな謎が発生したり、敵味方が入れ替わったりと、終始面白く読ませる作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
「イヴリン嬢は七回殺される」読みました。
 最初は「七回って多いのでは?」と思ってましたが、読み終えると丁度良かったです。ただ、脇役は数人減らしても良かったかも‥

クローズド・サークルのミステリーをうまく「現代化」できてると思いました。

視点や知識が違うと、同じ人物の違う顔が見える、というのが良く描かれていました。個人的には終盤の「赦し」に関する描写が一番好きですね。
【2020/01/19 20:57】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
人物といい、いろいろ趣向を入れているので、マンネリにならずに読める感じですよね。逆に趣向が多すぎてもたれてしまう部分もなきにしもあらずですが。
結末の「赦し」のシーンは僕も印象深かったです。
【2020/01/20 22:47】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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