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幻想と叙情  ウォルター・デ・ラ・メア『恋のお守り』
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 ウォルター・デ・ラ・メアの短篇集『恋のお守り』(橋本槙矩訳 ちくま文庫)は、幻想味豊かな叙情短篇が集められた作品集。中には怪奇小説やユーモア小説に近い作品も混じっています。

 青年の恋とその友人の骨董屋との友情を描く「恋のお守り」、幼い少女が蠅に寄せる関心を描いた童心豊かな「マライア蝿」、東洋のプリンセスに憧れた少年がその屋敷に入り込むという「プリンセス」、両親の留守中に殺人現場を目撃した少年を描いた「名人」、孤独な少年と頭のおかしい初老の女性との奇妙な友情を描く「ミス・ダヴィーン」、列車の中での女性と奇妙な老人の出会いを語る「つむじまがり」、落ちこぼれの青年が仕掛けた資産家の叔父へのささやかな復讐を描く「熱狂 -ある牧歌」、「音」を扱う不思議なお店を描いた「奇妙な店」、傲岸な園丁の死をめぐる怪奇作品「クルー」、大聖堂を訪れた男がその番人から奇妙な話を聞くという「オール・ハロウズ大聖堂」 の10篇を収録しています。

 明確な怪奇小説と言えるのは「名人」「クルー」ぐらいでしょうか。

 「名人」は、継母と父親が出かけた夜にその息子の少年が殺人に出くわすという話。痴情のもつれで恋人である男を殺してしまった女に対して少年がかけた言葉とは…? タイトルの「名人」の意味がわかる後半の展開にはぞっとします。

 「クルー」は、鉄道の駅舎で語り手が出会った男からその過去を聞くという物語。勤めていた牧師宅の同僚である園丁のやりたい放題の態度に業を煮やした男は、頭の弱い青年を通して牧師に進言させます。解雇されてしまった園丁は首を吊ってしまいますが、青年は何かにおびえるようになります…。
 青年や男が家の外に「何か」を見るシーンは非常に怖いですね。デ・ラ・メア怪奇小説の名作の一つだと思います。

 他には「プリンセス」「奇妙な店」も味わいのある作品です。

 「プリンセス」は、東洋のプリンセスがかって住んでいたという噂を聞き、屋敷に忍び込んだ少年が主人公。そこで出会ったのは醜い老女でした…。
 少年の幻想と幻滅を描く物語ですが、全篇に流れる叙情性が魅力的ですね。

 「奇妙な店」は、音を商う不思議なお店を扱った物語。品物から発する音に耳をすませる客は、音に対してロマンティックな空想をするのに対して、店の主人はことごとくそれを否定していくという皮肉な展開も面白いですね。「魔法のお店」テーマのバリエーションではありながら、奇妙な現実感があります。


幻想文学 第40号 特集:幻想ベストブック 1987-1993/眠れ、黒鳥 中井英夫追悼
 デ・ラ・メアの「魔法のお店」テーマ作品といえば「幻想文学」誌のバックナンバーにそれらしい作品が載っていたはず…と思い出し、取り出してきて読んでみました。タイトルは「緑の部屋」(橋本槙矩、小田川裕子訳「幻想文学40号」幻想文学出版局 収録)です。

 本を愛する青年アランは、エリオットさんの古書店の常連になります。店主が気に入った客のみを通すという店の奥の小部屋に入ったアランは、稀覯書が沢山あるのに目を見張ります。ある時そこでふと女性の顔のイメージが浮かんだのを皮切りに、やがてアランは若い女性の幽霊らしきものを目撃します。
 エリオットさんとその夫人の話からすると、その女性はその家に昔住んでいた人であり、恋愛事件から自殺してしまったというのです。小部屋の中に彼女の書いたらしき詩を見つけたアランは、その本を自費で出版しようと考えますが…。

 瀟洒な古書店が舞台に、若い女性の幽霊と彼女が残した遺稿が登場するという、非常に詩的なゴースト・ストーリーです。ただ単純にロマンチックな話ではなく、幽霊に対して主人公が恐怖を感じたり、霊を慰めるための彼の行為が独りよがりだったのかもしれない…と思わせる展開があるなど、なかなか奥が深い作品になっているように思います。デ・ラ・メアのゴースト・ストーリーの名作の一つといっていいのではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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