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奇想と哀愁  エドモンド・ハミルトン『星々の轟き』
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 エドモンド・ハミルトンの短篇集『星々の轟き』(安田均訳 青心社SFシリーズ)は、奇想に富んだアイディア、豊かな情緒、時折挟まれるペシミズム…と、今読んでも面白い短篇が多く含まれた作品集です。

「進化した男」
 科学者ポラード博士は、人間の進化の原因が宇宙線にあることを突き止めます。通常の何百万倍もの宇宙線を凝集させる装置を作った博士は、それを自ら浴びることによって人間が進化することを証明しようというのです。友人たちが止めるなか、博士は実験を強行しますが…。
 膨大な宇宙線を浴びることによって進化を促進させようとする科学者を描いた物語です。宇宙線を浴びた博士は、浴びるたびに変容を遂げていきます。肉体的な強靭さを手に入れたかと思えば、脳が巨大化したりと、人間からどんどんとかけ離れていく過程はホラー味が強いですね。
 人類の進化の膨大な時間を一夜のうちに再現するという発想がすごいです。ハミルトンの代表的短篇「フェッセンデンの宇宙」が空間的なスケールの話だとすると、こちらは時間的なスケールの話ですね。結末も驚くような展開で、ハミルトンの短篇中でも傑作の一つといっていいかと思います。

「星々の轟き」
 太陽の寿命による人類の絶滅を防ぐため、太陽系の九惑星評議会はある計画を実行します。それは惑星自体に推進装置を付け、惑星とその衛星ごと、別の太陽を求めて太陽系を脱出するという計画。彼らは脱出に成功するものの、候補であった恒星系はどれも人が住むには難しい環境でした…。
 惑星に推進装置を付けて、惑星自体を宇宙船にしていまおうという、とんでもない設定のSF作品です。ガス惑星にどう人類が住んでいるのかとか、細かい設定は気になるものの、波乱万丈の展開で非常に面白い作品です。ある恒星では、敵のエイリアンと惑星とが戦ったり、エイリアンが太陽系の真似をして惑星を宇宙船に改造して追いかけてくるなど、 破天荒なストーリーが楽しいですね。主人公が太陽系で一番小さい水星人であり、この水星が太陽系の救世主になる…というのも面白いところです。
 ある種馬鹿らしいまでのアイディアでありながら、その強烈な奇想と推進力で読ませる作品になっています。長篇にできそうなぐらいの密度がありますね。


「呪われた銀河」
 山奥で休暇を楽しんでいた新聞記者ギャリー・アダムスは、空から何か隕石のようなものが落ちてくるのを目撃します。落ちてきたのは、明らかに知的生命体が作ったような構造物でした。知り合いのピータース博士とともに構造物を開けようとするギャリーでしたが、一向に開く気配はありません。博士は構造物は純粋なエネルギーの固まりではないかと言うのですが…。
 宇宙からの飛来物をきっかけに、生命誕生の秘密が明かされることになる…という壮大なテーマの作品なのですが、それがまた奇想に富んだ驚くべきもの。実に皮肉めいた作品になっています。
 当時話題になっていたらしい「膨張宇宙説」が上手く物語に使われています。冗談のような結末も、よく考えてみるとハミルトンのペシミズムから来ているような気もしてきます。

「漂流者」
 困窮しているエドガー・アラン・ポオの事務所に、見知らぬ若い女性が現れます。エレン・ドーンセルと名乗る女性は、ポオと自分ははるか未来からやってきて、この時代の人間に精神を宿した未来人だというのです。そしてポオが描く小説には、無意識にその元の世界が反映されているのだと…。
 ポオの小説に現れる空想は真実を元にしていた…という幻想小説です。未来人と名乗る女性が妄想に囚われているのではないか、と見せかけて余韻を持たせる結末も効果的。

「異星からの種」
 画家スタンディファーは、隕石の中から現れた容器の中に二つの植物の種のようなものを見つけます。種を植えてみると、見たこともない植物が発芽し始めます。やがてそれらは人間の男性と女性に似た形に成長していきます。女性型の植物の美しさに驚くスタンディファーでしたが…。
 人型の植物を描いた作品です。宇宙から飛来したという設定ではありますが、その手触りはSFというより幻想小説ですね。短めの作品ではありますが、強い印象を残す佳品です。

「レクイエム」
 住めなくなった地球を離れ、様々な星に人類が植民するようになってから長い時間が経っていました。マスコミ関係者の一行は、太陽の膨張で飲み込まれる寸前の地球の様子を放映しようとやってきます。彼らを苦々しげに見つめるケロン船長は、ふと見つけた一軒の家に心を惹かれます…。
 母なる惑星が滅びるにあたって何の感興も抱かない人間たちと、それを苦々しく思う船長の心境が対比的に描かれます。滅びる地球に捧げる「レクイエム」は一体誰のものなのか? ペシミスティックながらある種の感動をもたらす作品になっています。

「異境の大地」
 伐採場を求めてラオスのジャングルを訪れたファリスは、ジャングル内で微動だにしない現地の男たちを見つけて驚きます。現地で「ハナチ憑き」と呼ばれる彼らは、信じられないほどの遅いスピードで生きているというのです。
 現地で知り合った研究者アンドレが「ハナチ憑き」に執着していました。ファリスは、アンドレを心配する妹リースの手助けをすることになりますが…。
 土着の薬の効果により、時間を異様に遅くすることができる現象が描かれます。ユニークなのは、それにより動きのないと思われていた植物の世界が、動きに満ちた世界であることが明かされるところです。しかも植物たちには意識があり、人間に対して敵対的な意識を持っていた…という恐怖小説的な展開になるところが面白いですね。

「プロ」
 SF作家として名を成したバーネットは、息子ダンがロケットのパイロットになったのは、自分の作品の影響なのではないかと思い悩みます…。
 自らの作品内での想像が実現したことによる喜び、息子が危険な職業に付くきっかけを与えてしまったのではないかという後悔…、過ぎてしまった時間の回想とともに、複雑な思いを抱く作家を描いた心境小説風の作品です。ビターな味わいながら、ハミルトン最良の作品の一つですね。

 この作品集。現在では入手難になっています。以前、これを含む<青心社シリーズ>の復刊がされましたが、結局こちらの本は復刊されませんでした。創元SF文庫でもハミルトンの短篇集が二冊ほど刊行されていますが、この青心社版でしか読めない短篇も多いです。
 「進化した男」「星々の轟き」「異星からの種」「レクイエム」は、この本でしか読めないんじゃないでしょうか。
 上記4篇含め、もう一冊傑作選を編めるぐらいの傑作・秀作はあると思うので、ぜひ新しいハミルトン傑作集を出してほしいものです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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