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怪奇幻想読書倶楽部 第48回読書会 参加者募集です
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※こちらの読書会は定員になりましたので、募集を締め切らせていただきます。

 2023年12月17日(日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第48回読書会」を開催いたします。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、メールにて連絡をいただきたいと思います。
 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp
メールの件名は「読書会参加希望の件」とでもしていただければと思います。


開催日:2023年12月17日(日)
開 始:午後13:30
終 了:午後16:00
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ(東京)
参加費:1500円(予定)
課題書 夏来健次編『英国クリスマス幽霊譚傑作集』(創元推理文庫)


※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※対面型の読書会です。
※オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも安心して参加できると思います。
※「怪奇幻想読書倶楽部」のよくある質問については、こちらを参考にしてください。
※扱うジャンルの関係上、恐縮ですが、ご参加は18歳以上の方に限らせていただいています。


 今回取り上げるのは『英国クリスマス幽霊譚傑作集』。英国の伝統的かつ味わい深いゴースト・ストーリーを味わっていきたいと思います。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

12月の気になる新刊
12月2日刊 グウェン・ブリストウ&ブルース・マニング『姿なき招待主(ホスト)』(中井京子訳 扶桑社ミステリー 予価1320円)
12月11日刊 ジョーン・エイキン『お城の人々』(三辺律子訳 東京創元社 予価2640円)
12月12日刊 J・S・レ・ファニュ『カーミラ レ・ファニュ傑作選』(南條竹則訳 光文社古典新訳文庫 予価1364円)
12月13日刊 ピーター・アクロイド『魔の聖堂』(矢野浩三郎訳 白水Uブックス 予価2750円)
12月14日刊 P・G・ウッドハウス『ブランディングズ城の救世主』(佐藤絵里訳 論創社 予価3080円)
12月15日刊 ホルヘ・ルイス・ボルヘス『シェイクスピアの記憶』(内田兆史、鼓直訳 岩波文庫 予価693円)
12月18日刊 川出正樹『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション 戦後翻訳ミステリ叢書探訪』(東京創元社 予価3520円)
12月18日刊 ルーシー・ウッド『潜水鐘に乗って』(木下淳子訳 東京創元社 予価2970円)
12月18日刊 小森収『はじめて話すけど…… 小森収インタビュー集』(創元推理文庫 予価1320円)
12月18日刊 中村融編『星、はるか遠く 宇宙探査SF傑作選』(創元SF文庫 予価1320円)
12月20日刊 シオドラ・ゴス『メアリ・ジキルと囚われのシャーロック・ホームズ』(鈴木潤訳 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 予価3080円)
12月25日刊 東京創元社編集部編『創元SF文庫総解説』(東京創元社 予価2420円)
12月25日刊 エリック・マコーマック『ミステリウム』(増田まもる訳 創元ライブラリ 予価1430円)
12月25日刊 キャサリン・R・ハワード『ナッシング・マン』(髙山祥子訳 新潮文庫 予価990円)


 12月の新刊は豊作ですね。
 怪奇幻想的に要注目は、ジョーン・エイキン『お城の人々』、J・S・レ・ファニュ『カーミラ レ・ファニュ傑作選』、ルーシー・ウッド『潜水鐘に乗って』、エリック・マコーマック『ミステリウム』といったところでしょうか。

 ジョーン・エイキン『お城の人々』は、東京創元社のエイキン短篇集第三弾。前二作のレベルが非常に高かったので、今回も楽しみです。

 J・S・レ・ファニュ『カーミラ レ・ファニュ傑作選』は、吸血鬼小説の名作「カーミラ」の新訳のほか、レ・ファニュの短篇を全6篇収録した作品集です。

ルーシー・ウッド『潜水鐘に乗って』は、イギリス作家ウッドのおそらく初紹介作品集だと思います。2012年デビューの現役作家とのこと。版元の紹介文を引用しておきますね。
 「48年ぶりに夫と再会するため、旧式の潜水鐘で海にはいっていく老婦人(表題作)、身体が石になる予兆を感じた女性が過ごす最後の一日(「石の乙女たち」)、やがて巨人になる少年と、人間の少女のなにげない日常のひととき(「巨人の墓場」)、数百年を生き、語るべき話を失いながらも再び物語を紡ごうとする語り部(「語り部(ドロール・テラー)の物語」)……
 妖精、巨人、精霊、願い事をかなえる木、魔犬……さまざまな伝説や伝承がいまなお息づく現代の英国コーンウォール地方を舞台に、現実と幻が交錯する日々をあるがまま受け入れ、つつましく暮らす人々の姿を、新鋭ルーシー・ウッドが繊細かつ瑞々しい筆致で描く12編を収録した短編集。」
 幻想的な作風のようで、これも楽しみ。

 エリック・マコーマック『ミステリウム』は単行本が入手難になっていた作品の文庫化。この作家らしい不穏さが魅力の幻想小説です。

死を超えた絆  メアリー・ダウニング・ハーン『いまにヘレンがくる』
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 メアリー・ダウニング・ハーンの長篇『いまにヘレンがくる』(もりうちすみこ訳 偕成社)は、霊に憑かれた義理の妹と、それを救おうと奔走する姉が描かれるホラー作品です。

 母がデイヴと再婚したことによって、義父の連れ子ヘザーと義理のきょうだいとなったモリーとマイケルの姉弟。過去に火事で実の母親を亡くしているヘザーは、義理の母や姉弟と打ち解けようとしません。仲良くしようと努力するモリーとマイケルでしたが、ヘザーからは意地悪を繰り返されるばかりか、デイヴに嘘をついては悪者とされることにも嫌気がさしていました。
 芸術家である父母の仕事の環境もあり、家族は郊外の古い教会へ引越すことになりますが、そばにある墓場にはイニシャルだけが記された子どもの墓碑がありました。その墓のそばに入り浸るようになったヘザーは、目に見えない何者かと話すようになります。ヘザーによればヘレンなる少女と話しているというのです。「ヘレン」が悪い霊だと感じるモリーは、両親やマイケルにそれを話しますが、空想だと言って取り合ってもらえません…。

 互いの父と母との再婚によって、義理の家族となったモリー・マイケルの姉弟とヘザー。しかしヘザーは新しい家族に一向に打ち解けようとしないばかりか、実の父デイヴに嘘をついては、夫婦仲・家族仲を引き裂こうとすらするのです。
 もともとしっくりきていなかった家族の仲が、古い教会跡に越して墓場のそばに住むようになってから、さらに悪化しているのは、何か霊的に悪いもののせいなのではと、モリーは考えるようになります。実際ヘザーは、見えない少女ヘレンと話すようになり、その姿をモリーも目撃してしまうことになります。

 険悪な仲といえど、モリーは優しい性格で、ヘザーがヘレンの霊に取り憑かれていくことに危惧を抱いており、ヘザーを救おうとします。しかしヘザー自身が、モリーやマイケルの言動を悪くとらえ、実父デイヴに嘘を交えて告げ口してしまうため、ヘザーに意地悪をし続けていると捉えられてしまい、状況が悪化してしまうのです。
 果ては「同志」であるはずの弟マイケルも超自然的な現象は信じず、モリーの妄想ではないかと考えてしまいます。誰も信じてくれない四面楚歌の状態のなか、モリーはヘザーを救えるのか? 家族の仲を取り戻すことができるのか? という部分がサスペンス豊かに描かれていきます。

 ヘレンの霊や彼女が引き起こす心霊現象は確かに恐ろしいのではありますが、それ以上に目立つのは家族間の葛藤のドラマです。互いに片親が結婚したときの子どもたちの対立、という部分だけでなく、ヘザー自身には母親を亡くしているというトラウマ、さらに何か秘密を抱えているらしいことが示唆されます。
 モリーもマイケルも良い性格の子どもたちなのですが、ヘザーの人間不信は強烈で、彼女の心を解きほぐすことはなかなかできません。そうした事情があるために、幽霊騒ぎが起こっても、それが中傷や妄想だと捉えられてしまい、事態が一層悪化してしまうのです。
 霊のヘレンは、生前の自身と同じような境遇の子どもに憑りついており、ヘザーもその形で憑かれてしまうのですが、モリーに関しては霊感的なものが備わっているようです。その力ゆえなのか、死や超自然的な現象に病的なほどの恐怖心を抱いており、霊の存在についても、その過剰な恐怖心が生み出した「妄想」と取られてしまう、というのも上手いですね。

 非常に恐怖度の高いお話ではありますが、幽霊事件を通して、新しい家族の絆が生まれる、という形の「家族小説」でもある作品です。それは「悪霊」ヘレンですら例外ではなく、彼女の生前の「罪」が許される…というラストにも清涼感がありますね。
情感豊かなホラー作品となっています。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

愛のあかし   斜線堂有紀『回樹』
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 斜線堂有紀『回樹』(早川書房)は、奇抜なアイディアとそれに絡む人間の感情を情感豊かに語ったSF短篇集です。

「回樹」
 秋田県の湿原に突然現れた、全長1キロの巨大な人型の物体は「回樹」と呼ばれていました。ある偶然から「回樹」は人間の死体のみを吸収する性質を持っていることが分かります。また、愛する者を飲み込まれた人は、その人を愛するかのように回樹を愛するようになることも分かっていました。
 恋人の初露を「回樹」に吸収させた小説家の律は、遺体を盗んだ容疑に問われていました…。
 人の死体を吸収し、その人間に愛情を抱いていた人間の愛着を我が身に移すという性質を持つ謎の存在「回樹」が登場する作品です。愛情を抱いていない人間を吸収させても、「回樹」への愛情の転移が起こらないため、自分がその人間を愛していたのかどうか、という指標にも成りうるのです。
 同性パートナーであった初露と律の愛情のもつれと葛藤、そして「回樹」の存在は彼らの愛情にとってどんな意味を持つのか?〈リドル・ストーリー〉的な結末にも味わいがありますね。

「骨刻」
 骨の中身には傷をつけずに表面にのみ文字を彫る技術「骨刻」が開発されます。表面からはその内容は見えないため、レントゲン写真とセットになって使われた「骨刻」はファッションとして一部に流行していました。
 発作性の強烈な頭痛に悩まされていた月橋青虎は、ふと思いついて頭蓋骨にある文字を「骨刻」した結果、頭痛が止んだことに触発され、「言刻会」という宗教を立ち上げます。それは骨に言葉を彫ることで病が癒えるという教義を持つ宗教でした…。
 骨に直接文字を刻む「骨刻」をめぐる物語です。その技術に触発されて新興宗教を立ち上げた男とその恋人、彼らの人生の不思議な成り行きが描かれていきます。 レントゲン写真を撮らない限りその内容は分からないという「骨刻」。一人の女性が生涯をかけて隠した愛のメッセージとは…?
 SFとしては小粒なアイディアなのですが、そこからこんな味わい深いストーリーが生まれてくるとは驚きです。

「BTTF葬送」
 近未来、作られる映画の大部分は失敗作とされ、1980年代や1990年代の映画が名作として崇められていました。映画には「魂」があり、その総量は決まっている。「魂」のこもった映画を作るには、過去の映画を葬ってその「魂」を解放しなければならない…。そんな意見が支配的になり、過去の名作映画が次々と「葬送」されていました。 「葬送」される直前の映画の上映会を訪れていた「私」は、映画の「葬送」に反対するテロリストに遭遇しますが…。
 映画には「魂」があり、それがこもった映画を作るには過去の名作を葬らなくてはならない…とされ、様々な名画が消されてしまう世界を舞台にした作品です。 その世界に順応した者、打ち壊そうとする者、それぞれ立場は違えど映画を愛する心には変わりない…というところで、いわゆるディストピア小説ではありながら、希望の持てるラストにつながっていますね。

「不滅」
 ある時を境に、人間の死体が腐敗しないようになります。腐らないばかりか、解剖するためのメスも通らないなど、物理的に変化をさせられないようになってしまいます。死体を埋葬するための土地も不足していました。 折しも、勃興してきたロケット技術によって「葬送船」を作り、船ごと宇宙に廃棄する、ということが行われ始めていました。しかしその費用は高額であり、一部の人間のみが可能な手段でした。 自らも妻を失っていた元公安の叶谷仁成は、異様に安価で仕事を請け負う葬送船が偽装ではないかと考えていましたが…。
 人間の死体が原型をとどめたまま変わらなくなってしまった世界を描く作品です。地球上での死体の処理が困難になる…という物理的な問題と共に、愛する者の遺体がそばにあり続けることによって、その人間が心理的に前に進むことができなくなってしまう…という問題も描かれています。
 お金のある人間は宇宙への葬送船に、ない人間は遺体を縦穴に大量に押し込む形でしか埋葬ができないのです。作中で遺体をどう「葬る」かということについて、極めて「実用的」な方法が示され、そこに人間が葬られるときの尊厳、また尊厳をもって扱われてほしいと願う生者の側の心理についても描かれます。様々なことを考えさせられる問題作ですね。

「奈辺」
 1741年、ニューヨークでジョン・ヒューソンの営む酒場に黒人奴隷シーザーが酒を飲みに訪れます。黒人であるシーザーを追い出そうとする客との揉め事の最中、宇宙船の故障によって不時着したという全身緑色の異星人ジェンジオが現れます。ジェンジオは見たこともない機械を使い、ヒューソンとシーザーの体を入れ替えてしまいますが…。
 黒人奴隷が合法だった時代のアメリカを舞台に、人種差別問題を描く作品なのですが、そこに緑色の異星人が登場し、それらの差別問題が相対化されてしまう…というSF作品になっています。 入れ替えられたヒューソンとシーザーが互いの置かれた状態を知り、友情を深めていく、という流れも良いですね。

「回祭」
 経済的に困窮していた、古洞蓮華(こどうれんげ)は、アルバイトとして、資産家の娘、洞城亜麻音(とうじょうあまね)の世話役をしていました。家の事情から捻くれた性格を持つ亜麻音は蓮華につらく当たり、蓮華は亜麻音に憎しみを覚えながらも、その給与の良さから、我慢して仕事を続けていました。 一方、人間の遺体を飲み込み、その愛着の対象を自らに移す性質を持つ謎の存在「回樹」の存在が一般に認知され、「回樹」に遺体を飲み込ませた家族が集まる、年に一度の「回祭」も行われるようになっていました。
蓮華は、そこにボランティアとして参加することになりますが、彼女にはある目的がありました…。
 冒頭に収録された「回樹」と同じ世界観を持つ作品です。 家の事情から虐げられ、ねじ曲がった性格になってしまった亜麻音と、仕事上の関係ながら彼女に仕えることになった蓮華。互いに憎しみしかないと思われた二人の関係には、愛情もあったのではないか?
 それが「回樹」を通して証明されることになる、という作品です。 亜麻音と蓮華の関係性が非常に倒錯しており、「回樹」をめぐるその行動原理が憎悪と意地に貫かれているように見えるのですが、その実、そこには愛情があったことが分かる結末のシーンは印象的ですね。

 作品集を通しての共通のテーマは「愛」でしょうか。特に「回樹」「回祭」で扱われるその描かれ方は斬新です。 本来目に見えず、証明することもできない「愛情」が「回樹」を通すことによって明確に証明することができるというのですから。
 その「回樹」を利用しようとする主人公たちはもちろん、「回樹」によって救いを得た人々も本当に幸福といえるのか? という部分も含めて、いろいろ考えさせられますね。

テーマ:文学・小説 - ジャンル:小説・文学

異形の殺人  飛鳥部勝則『堕天使拷問刑』
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 飛鳥部勝則の長篇『堕天使拷問刑』(早川書房)は、因習に満ちた町で、猟奇的な殺人事件に巻き込まれた少年を描くホラーミステリです。

 両親を事故で亡くした中学一年生の如月タクマは、田舎にある母方の実家、大門家に引き取られ、叔母である玲の養子になります。転校初日にクラスの不良ガンから「ツキモノイリ」と罵られたタクマは、訳も分からないまま嫌がらせをされます。
 この町では、難病にかかったり頭がおかしくなった人を「ツキモノイリ」と呼び、その「憑きもの」を落とす儀式を「ツキモノハギ」というのです。大門家は「ツキモノハギ」の家系であり、その儀式を行う巫女は、現在は大門玲のみであるといいます。
 大門家の亡き祖父、大造には黒い噂がありました。公然の敵だった現町長、王渕一馬の妻と二人の娘が同時に斬首され殺された事件があり、大造が悪魔の手を借りてそれを行ったとされていたのです。大造に関わる過去から、タクマもまた「ツキモノイリ」呼ばわりをされてしまいます。
 タクマは、友人となった土岐不二男に誘われ、オカルト研究部に入部することになりますが、会の部長である根津京香に魅了されてしまいます。不良ガン、そして彼を舎弟とする町長の息子グレンから、たびたび嫌がらせを受けながらも、京香との交流に喜びを見出すようになっていきますが、身内である大門家に、かって起きたのと同じような猟奇的な斬首殺人が発生することになります…。

 因習に満ちた村で、猟奇的な殺人事件に巻き込まれる少年を描いたホラーミステリ作品です。両親を失い、叔母の養子になることになった少年タクマが、理不尽な体験をすることになります。「憑きもの」や「悪魔」が信じられている町で、亡き祖父の噂から一族自体が疎んじられており、タクマも何も知らぬ間に迫害の対象になってしまうのです。
 最初は「いじめ」程度のレベルであったものが、殺人事件の広がりと呼応して、村ぐるみの迫害へとスケールが拡大し、人々からのリンチによって殺される可能性までもが出てきます。
さ らに、噂に過ぎないと思われた黒魔術や悪魔が実際に存在する可能性も取りざたされ、実際、超自然的としか思えない現象や怪物までが登場します。

 迫害の嵐のなか、タクマの味方となるのが、クラスメイトの土岐不二男と先輩である根津京香。
 不二男は、頭脳明晰な美少年で、殺人事件の謎についても推理することになります。実質的な探偵役といってもいいでしょうか。ホラー小説のファンでもあって、作中に挿入される不二男による「オススメモダンホラー」の章は二段組にして20ページ以上ある詳細なものです。
 この「オススメモダンホラー」の章が抜群に楽しいです。正統派のホラーに混じって、B級、Z級のマニアックなホラーも取り上げられていて、ホラーファンはにんまりしてしまいますね。この章、作品の流れとは全く関係がなく、ちょっと苦笑してしまうのではありますが…。
 根津京香は、たびたびタクマに協力する美しい少女で、タクマの憧れの対象。京香側もタクマに満更でもないようで、タクマの恋心を翻弄します。
 京香とは別に、タクマに接近する少女として登場するのが江留美麗。「魔女」の一族とされる一族の末裔で、その発言も浮世離れしています。タクマが京香と美麗、どちらと結ばれるのか、という恋愛小説的な興味もありますね。

 因習に満ちた村での連続殺人というと、土俗的な雰囲気のものを思い浮かべるのですが、そこにキリスト教的な文化やモチーフを持ち込んでいるのが異色です。伝説の悪魔、神曲、バベルの塔など、日本文化とは異質のキャラやガジェットが頻出し、そこにキッチュな魅力もあります。
 さらにエログロ的な要素も満載です。性愛、サドマゾ的なシーンも多く、作中での殺人の一つのメイントリックにはその極致ともいうような仕掛けが使われており、そのえげつなさに唖然としてしまいます。

 上記に触れたように、序盤から現実離れした空気感があるのですが、読んでいるうちに、その混沌とした世界観に引きこまれて、気にならなくなってしまいます。クライマックスでの展開は、異様な出来事続きの作中でもさらに突拍子もありません。タイトルの「堕天使拷問刑」の由来が分かる部分では、異形ではありながら、その論理の美しさに感嘆しますね。
 作品全体の「語り」にも仕掛けが施されています。事件当時の章の合間に、現在時間のパートがあり、この部分が過去といかにつながってくるのかという部分も面白いですね。
 基本的には本格ミステリといえるのですが、ホラー・怪奇小説的な要素がてんこ盛りに入っていて、全体の印象としてはホラーとして読んでも遜色のない作品になっています。とにかく、多種多様な要素・モチーフがふんだんに盛り込まれていて、この状態でよく作品がまとまったな、と思わせるぐらいの作品です。
 好き嫌いは分かれると思いますが、怪奇ミステリの傑作といっていいのではないでしょうか。

テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

戦慄の社会  アルベルト・モラヴィア『薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・風刺短篇集』
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 アルベルト・モラヴィア『薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・風刺短篇集』(関口英子訳)は、イタリアの文豪モラヴィアによる、諷刺とブラック・ユーモアに彩られた幻想小説集です。

「部屋に生えた木」
 合理的・人工的なものに関心が深く都会的な夫オデナートと、自然に関心が深い妻カリーナの夫婦。ある日、暖炉と戸棚の間から奇妙な木が生えだしているのに気付いたオデナートはそれを切ろうとしますが、妻に止められてしまいます。やがて部屋に大きく張り出した木は部屋を侵食していきますが…。
 妻の意見には逆らえない夫が、なし崩し的に木が部屋を占領していくのを眺めることしかできない…というお話です。木の正体は皆目分かりません。夫婦には子どもがいないようなので、子どもの象徴とも取れますね。
 自然が文明よりも強いという「寓意」を示したものなのか、夫婦の間の断絶を描いたものなのか、いろいろな解釈ができそうです。結末にはちょっと不穏な雰囲気もありますね。

「怠け者の夢」
 物事を常に空想上で処理してしまう男タラモーネ。温厚で物わかりの良い男とされている彼は、実のところとんでもなく怠惰な男でした…。
 実際に物事をこなすのではなく、白昼夢で満足してしまうという「怠惰な男」が描かれます。それがゆえに、明らかに性質の悪い部下を評価してしまったり、恋する相手に告白もできなかったりと、その人生の悲哀ややるせなさが描かれて行く部分に面白みがあります。しかも、本人はそのそれほどその生活に不満を覚えているようでないのも興味深いところですね。

「薔薇とハナムグリ」
 ハナムグリの母親と娘は薔薇とキャベツが植えられている庭を発見して降り立ちます。母親は薔薇の素晴らしさを説いた後、後で待ち合わせを約束して飛び立ちますが、ハナムグリの娘は薔薇ではなくキャベツに魅了されていました…。
 ハナムグリは薔薇の花を食べるために生まれてきた。そう疑わない母親に対して、娘は薔薇には全く興味を覚えず、キャベツに魅力を感じていました。固定観念や伝統に反する「マイノリティ」を描いた寓話といえるでしょうか。
 薔薇にせよキャベツにせよ、その食行為には奇妙な官能性がついて回っているところも異色です。その意味では「性的マイノリティ」関するお話とも読めますね。

「パパーロ」
 割のいい投資先を探していたマチェッローニは、友人のエウジェニオから話を聞いて「パパーロ」なる品物に投資することにします。大量の「パパーロ」を買い込んで、値が上がるのを待っていたマチェッローニでしたが、「パパーロ」は次々に問題を起こし始めます…。
 買い込んだ謎の品物「パパーロ」をめぐる、コメディタッチの不条理小説です。無機物かと思っていた「パパーロ」は実は生物のようで、異臭を放ったり腐ったり、人の肉を食べたり、果ては娘を妊娠させたりと、とんでもない被害をもたらします。ホラー的な感触も強い作品ですね。

「清麗閣」
 娘の結婚式会場となった清麗閣を訪れた母親。足をつかまれて運ばれていく人々を見ながらも、それが結婚式の趣向だと思い込んでいました…。
 新婦の母の視点で結婚式の披露宴の様子が描かれていくのですが、その様子はとても尋常ではなく…。不条理小説の一種といえるのですが、この披露宴の様子は、戦争による徴兵の寓意なのか、もしくは直接的な「地獄」の寓意とも読めますね。

「夢に生きる島」
 その島は、巨大モグラと王女との間にできた怪物クルウーウルルルによって支配されていました。生まれてからずっと眠り続けているクルウーウルルルが見た夢の通りに、島では現実の出来事が起こってしまうのです。島民達はいつ何が起きるか分からずに不安にかられていましたが…。
 怪物の夢によって支配される島を描く幻想小説です。島の現実生活が、怪物クルウーウルルルが見た夢の通りになってしまうため、それが悪夢であった場合、とんでもなく不条理な出来事が起こることになります。
 怪物クルウーウルルルに対する反乱が起きたところ、それさえもが夢だった、という事が起きるなど、島民たちは自分たちの意志で動いているのか、夢の支配によって動かされているのかすら分からなくなっていく、というところが魅力的ですね。

「ワニ」
 上流階級に憧れを抱くクルト夫人は、夫の上司の妻であるロンゴ夫人の家に招かれて喜んでいました。上品な家の特徴を観察して真似ようというのです。ロンゴ夫人は突然生きたワニを背負い出し、クルト夫人はそれが最近の流行なのかと驚くことになります…。
 上流階級の夫人がワニを身にまとっており、それを見た女性が自分もそれを真似したいと思うという不条理小説です。ワニを身にまとうというのが異常なことだと認識しながら、それが上流社会の流行なら自分も真似したいと思うクルト夫人は諷刺的に描かれていますね。

「疫病」
 ある日発生した疫病は、健康にそれほど害を及ぼさないものの、強烈な悪臭を伴っていました。しかも病が進むと、その悪臭が香しい芳香に感じられてくるというのです。医師達はその疫病について様々な対策を考え出していましたが…。
 健康への実害はなく、ただ悪臭だけを出し続ける病を描いた作品です。病が進むとそれが良い匂いになってしまうのですが、病にかかっていない人、進行途中の人にとっては悪臭である、ということから、人々が断絶されてしまうことになります。
 病が進んでしまった人は、もう以前の悪臭を感じ取ることができなくなる…というのがポイントでしょうか。思想的に「洗脳」されてしまった、など、いろいろな寓意を読み込むことができそうです。
 疫病の流行から時間が大分経った時点からの語りになっており、結果的に変化してしまった国の様子について語られる結末部分にも味わいがあります。

「いまわのきわ」
 高名な評論家であるSのいまわのきわに呼ばれた「わたし」は、彼から重大な告白を聞くことになります。かって創作を志したSはそれを断念し評論家に転向したというのですが、その妬みから様々な作家に、その才能とは全く異なる方向に進むよう誘導したというのです。しかし、「わたし」の知る限り、Sが言及した作家たちは、それぞれの分野で名をとどろかせている者ばかりでした…。
 嫉妬から、多くの作家の才能をねじ曲げてやったとする評論家の言葉は真実なのか? 彼が被害を与えたとする作家たちは皆才能を発揮しているように見える…というあたり、皮肉なタッチの作品ですね。
 才能は最初に現れたのとは違う形で実ることが多いのか、それとも文学界の評価は全くあてにならないのか、語り手によって示される考え方はどれもありそうで、いろいろと考えさせる作品となっています。

「ショーウィンドウのなかの幸せ」
 経済的に苦しいため、唯一散歩を趣味とする元公務員ミローネとその妻エルミニアと娘のジョヴァンナ。ショーウィンドウのなかで「幸せ」を売っているのを見つけたジョヴァンナはそれを欲しがりますが、ミローネはそんなものはくだらないと一喝します…。
 「幸せ」が店で売っている…という物語です。それが金で買えるものなのか、という事を含めて、露骨に寓意を含んだ物語といえますね。それがアメリカ製、というところにも皮肉があるようです。

「二つの宝」
 資産家の老人ヴィットリーノはかってのメイドで若く美しいフォティデと結婚します。妻から、家に保管してある財産を銀行に預けるよう繰り返し言われたヴィットリーノは、銀行を訪れますが、そこで追いかけてきた妻らしき姿を見つけたヴィットリーノは彼女ごと金庫を閉めてしまいます…。
 吝嗇で嫉妬深い老人が、美しい妻(これまた欲が深いようです)も資産もどちらも失ってしまう、という物語。「二つの宝」とは妻と資産のことを表したものでしょうか。
 銀行の金庫まで妻がつけてきたとか、棺の中に妻の代わりに金が入っているとか、作中で示される事実が本当なのか怪しく、主人公ヴィットリーノの妄想であるようにも読めます。その意味では「信頼できない語り手」ものともいえるでしょうか。

「蛸の言い分」
 つり上げられた蛸は、食べられてしまうという自分の末路を聞いて、蛸の世界で考えられていた地上の世界の話を語ります。海の上には《いけす》があり、食べ物を食べ放題の天国のようなものだと考えられていたというのですが…。
 蛸の世界での「死後」(とは明言されていませんが…)の世界について、蛸自身によって語られていくという、諷刺的な作品です。「天国」を素直に信じる一派に対して、懐疑的な一派もいるなど、極めて「人間的」な蛸の世界が描かれるところが面白いですね。

「春物ラインナップ」
 ファッションの流行に敏感なインデリカート夫人に対し、夫は服など少しあればいいと考える男でした。妻が雑誌で見つけたという最新のファッションはまるで収容所に収監される囚人のようでした…。
 流行であれば、どんな奇抜なファッションでも受け入れられてしまう…という皮肉なお話です。さらにそれが囚人のような格好であるというところから、「流行の奴隷」といった意味合いも匂わせているのでしょうか。全体主義的な世界を予感させる結末も不気味です。

「月の〝特派員〟による初の地球からのリポート」
 月から来た特派員が地球の社会について調査を進めたところ、その星には「金持ち」と「貧乏人」という二つの人種が存在することが分かります。彼らは互いに全く違った生活を送っているというのですが…。
 月の特派員の視点で、貧富の差が極端になった社会を諷刺するという作品です。金持ちたちが貧乏人たちの視点を持ち合わせない一方、貧乏人たちは文化を全く介さないなど、互いの間の断絶が示されます。かなり政治的・露骨な諷刺作品ですね。

「記念碑」
 その国では英雄とされるミュラーなる人物の記念碑、彼は国民生産省仕上げ課ボタン係だったというのですが、彼の像がどのような経緯で建てられることになったのか、観光ガイドと作者(モラヴィア)が対談することになります…。
 対談形式で、記念碑が建てられた人物の「偉業」について語られるという諷刺作品です。観光ガイドの話からは、この国では全てが徹底して「お国のため」であり、人間の権利よりも国家が優先されるという社会であることが分かります。
 人間の骨を使ってボタンを作るなど、グロテスクなまでの全体主義社会なのですが、さらにミュラーが命を落とすことになったのもただの「勘違い」「ミス」であるにも関わらず、それが「美談」にされてしまうという、恐るべきディストピアが描かれています。

 この作品集、諷刺的な意図で描かれたらしい作品が多いのですが、国や時代を超えてシュールな幻想小説となっている作品も多いですね。もっぱらファシズム体制下のイタリアで書かれたらしく、そうした時代背景を考えると味わいが増してきます。


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永遠のからだ  マルク・デュガン『透明性』
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 フランスの作家マルク・デュガンの長篇『透明性』(早川書房)は、不死になる権利をめぐって、世界を変革しようとする女性の計画が描かれるSF作品です。

 環境破壊が進み、人類の生存できる地域が北へと狭まっていた2060年代。グーグルを始めとする企業によって人間のあらゆるデータが収集され、人々はその恩恵としてベーシック・インカムを提供されていました。
 理想のパートナーのマッチングを主な業務とするトランスパランス(透明性)社の社長である女性カッサンドルは、インサイダーによる金融暴落を利用して、既に国家規模になっていたグーグル乗っ取りを図ります。彼女は収集されたデータを鉱物による人工的な体に移植し、人間の不老不死を実現する計画を立てていたのです。
 計画を進める一方、カッサンドルは、とある人物を突き落として殺したという罪で告発されていました…。

 一企業が人間の不老不死の権利を独占してしまったとき、何が起こるのか? という面白いテーマのSF作品です。主人公が一企業であるグーグルを買収しようとするのは、この世界ではグローバルなIT企業が力を持ち、ほぼ一つの国家になっているからです。グーグルはアメリカとほぼ同じ力を持つばかりか、選挙では彼らの力を借りないと勝てない分、むしろアメリカよりも強力な「国家」ともなっています。
 この作品で登場する不老不死の技術は、人工的な有機体を体にして、生前のデータを移すというもの。基本的には亡くなった段階で蘇らせるので、不死というよりは復活でしょうか。しかも不老不死の権利は金で買えず、アルゴリズムで判断して選ばれるため、権力や資産は役に立ちません。国家元首といえど選ばれない可能性があるのです。
 それゆえ復活をめぐって、カッサンドルは地球でもっとも権力を持った人物となります。また、温暖化による地球環境の悪化を防ぐため、地球環境にとって有用な人物が優先的に復活されるため、それをめぐって地球の人々の行動をコントロールしようとする意図もありました。

 カッサンドルの地球規模での計画が上手く運んでいく一方、私生活においては困難が現れる、というのも興味深いです。夫である火山の研究者エルファーは、カッサンドルが自分にも内緒で計画を進めていたことに腹を立てていました。またそれ以前に、行方不明になっている二人の息子をめぐっても争いの種が胚胎していたのです。
 飽くまで世界レベルでの活動が優先するカッサンドルと必ずしもそうではない夫との間の葛藤も読みどころでしょうか。そもそも世界規模での人類の救済を願うカッサンドルが、一人の子供の親としては失格だった…というあたりには諷刺的な意図もありそうです。

 不老不死の技術を手に入れた人類はどう変わるのか? それをめぐって社会の仕組みはどう変わっていくのか? 一企業や特定の人間が権力を手に入れるのは正しいのか? など、様々な問題提起がされていくシリアスな作品、と見えるのですが、その実、一筋縄ではいかない作品でもあります。
 後半では思わぬ展開が発生し、それまでのトーンをひっくり返すような趣向が用意されています。その結果、この作品を真面目にとるべきなのか否か、といったあたりを含めて、何ともいいようのない読後感が待ち受けています。
 シリアスな問題提起の書とも、壮大な冗談とも取れる、不思議な読み味の作品で、結末は評価が分かれそうなのですが、どちらにしても、知的な刺激の得られる面白いSF作品だと思います。


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運命の双子  ブライアン・W・オールディス『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』
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 ブライアン・W・オールディス『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』(柳下毅一郎訳 河出文庫)は、ロックスターとして成功した結合双生児の数奇な運命が語られていくという中篇作品です。

 英国の僻地、レストレンジ半島で生まれ育ったトムとバリーのハウ兄弟は、結合双生児でした。さらにバリーの肩には目覚めたことのない第三の頭が生えていたのです。音楽業界の大物ザック・ベダーウィックに見出された兄弟はミュージシャンとしてデビューし、瞬く間にスターとなりますが…。

 スターとなった結合双生児の兄弟の数奇な人生が語られていくという作品です。兄弟の死後(彼らが亡くなったことは初めから明かされています)、関係者たちがそれぞれハウ兄弟について語るという形で、それぞれの章が構成されています。
 ハウ兄弟は胴体から結合している双生児で、内臓の一部や下半身を共有しています。温厚なトムに比べ、バリーは激情的で日常的にたびたび問題を起こします。後には彼らの「恋人」となるローラ・アッシュワース、そしてローラに恋情を抱くポールを挟んで、複雑な関係にも陥ることになります。
 スターとしての活躍が描かれる部分はごく短く、彼らが引退してからの生活の方がむしろメインとして描かれていますね。

 結合双生児ならではの、互いに対する嫉妬と憎しみ、それらが悲劇に至るまでの過程が描かれます。さらに後半では、ずっと眠っていたはずの第三の頭の存在がクローズアップされ、幻想小説的な味わいも強くなってきます。
 双生児の「情念」と「心理」がメインのお話だとは思うのですが、あまりドロドロした感じがしないのは、語りが関係者の間接的な視点を通しているせいもあるのでしょうか。

 語り手の中では、兄弟に対して一番同情的な視点であるのが、彼らの実姉ロバータ・ハウ。身近な人物であるだけに、彼らの最期を見届けるのもロバータになります。兄弟の精神的な危機を助けようとするものの、結局は守り切ることはできません。
 また、兄弟の恋人として登場するローラもかなりエキセントリックな人物で、彼女の前歴が語られる部分も興味深いです。

 風変わりな双子の運命を語った奇譚といった趣の作品となっていますね。第三の頭の存在がクローズアップされるクライマックスでは、怪奇味もかなり強く、ホラー小説として読むことも可能なようです。


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書き換えられる世界  下永聖高『オニキス』
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 下永聖高の短篇集『オニキス』(ハヤカワ文庫JA)は、奇想味豊かなSF作品集です。

 常に過去の事実が書き換えられている世界を描く「オニキス」、妖精発生装置によって部屋の状態が異世界に反映されるという「神の創造」、進化を続ける猿の幻影を見るようになった男の物語「猿が出る」、借金から逃れようと並行世界を渡り歩く男を描いた「三千世界」、スマトラ沖地震を題材にした叙情的な物語「満月」の五篇を収録しています。

 特に面白く読んだのは「オニキス」「猿が出る」「三千世界」でしょうか。

 表題作「オニキス」は、常に過去の事実が書き換えられている世界を舞台にしたSF作品です。その世界では「マナ」という物質により、過去が書き換えられ、現在の事実がたびたび変わっていることが判明します。しかし、書き換えの事実を普通の人間が認識することはできないのです。
 「マナ」の研究者たちが開発した記憶保持装置を取り付ければ、その人間は書き換え前と書き換え後、両方の記憶を保持し、認識することができるといいます。装置のモニターとなった「僕」は、その日常で様々な書き換えを目撃しますが…。
 日常的に過去の書き換えが起こっている世界を舞台にしたSF小説です。たいていはささいな事実が変わっているだけなのですが、場合によっては男女の結婚がなかったことになり、必然的にその子どもの存在が消えてしまう…という大がかりな改変が発生することもあります。
 パラレルワールドは存在せず、歴史は一つしか存在しないという設定のため、書き換えが起こった瞬間、自動的に過去の記憶が切り替わってしまいます。モニターとなった人物は、その切り替わった記憶と、それ以前の改変前の記憶を比べることができ、そこにどこか無常感を感じる…というところに味わいがありますね。
 個人レベルのお話と、「マナ」を利用した兵器が開発されていくという世界レベルの不穏なお話が、併行して語られていくのもスケールが大きいです。

 「猿が出る」は猿の幻覚を見るようになった男の物語。突然、目の前に猿が出現してはいなくなることを体験していた男は、それが自分にしか見えない幻覚であることを知ります。しかも、いつの間にか猿は類人猿のような姿に変わっていました。どうやら猿はだんだんと進化をしているようなのです…。
 男の側にまとわりつくようになった猿の幻影が進化を遂げて変貌していく、という幻想小説です。予想できるように、知恵を付けた猿と主人公とが会話すらできるようになるのですが、そこからの展開が壮大でびっくりしてしまいます。
 小猿の幻影を見続けるという、レ・ファニュの名作怪奇小説「緑茶」の現代的解釈のようでもあり、これは面白いですね。

 「三千世界」は「オニキス」と設定を一部共有する物語。借金で首が回らなくなっていた小泉史郎は、ある日二人の男の訪問を受けますが、男たちは並行世界からやってきたといいます。ナビゲーターによって別の世界への行き来を実現した彼らは、その世界特有の技術や知識を得るために別の世界に来ているのだといいますが、世界のバランスを取るために、やってきたのと同じ質量の人間が代わりに元の世界に行かなくてはならないというのです。
 百万円の報酬と共に別世界への滞在を打診された史郎は提案を飲みますが、並行世界に着いた途端にナビを奪い、逃げ出してしまいます…。
 元の世界で首が回らなくなっていた男が、並行世界を逃げ回る…というSFサスペンス作品です。「オニキス」同様、「マナ」が登場しますが、こちらでは枝分かれした世界が並行世界として無数に存在しているという設定になっています。
 ナビを奪った男たちから追われるのと同時に、同じく脱走者である観猿とシドリネと知り合うのですが、彼らのどちらが味方で敵なのか、本当のことを言っているのか、というところで、さらに混沌の度を増していくところも面白いですね。
 ナビによって並行世界の移動はできるものの、目的の世界に一直線に行けず、回り道をしなくてはならないとか、自分と同じ存在がいる世界にはいけないなど、様々な制限もあり、こちらも物語を面白くさせる要素となっています。

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

「上昇」と「終局」  キース・トーマス『ダリア・ミッチェル博士の発見と異変 世界から数十億人が消えた日』
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 キース・トーマスの長篇『ダリア・ミッチェル博士の発見と異変 世界から数十億人が消えた日』(佐田千織訳 竹書房文庫)は、宇宙から届いた謎のパルスコードによって、人類が変容を来してしまうという終末SF作品です。

 天文学者ダリア・ミッチェル博士によって発見された謎のパルスコードは、明らかに人間以上の知性を持つ生命体によって作られていました。博士の元恋人ジョンを介してアメリカ政府のもとに渡ったコードは、選りすぐりの科学者たちによって解析されていきますが、それは地球人のDNAをハッキングし、人間の存在自体を変容させてしまうコードでした…。

 宇宙から送信されてきた謎のパルスコードによって、人類の脳が作り替えられ変容してしまう…というSF作品です。パルスの発見から5年後、その発見とそれによって起こった人類変容の経緯をジャーナリストのキース・トーマスが、様々なメディアをまとめて語ったノンフィクション、という体裁で描かれています。
 タイトルからも分かるように、世界中から数十億人が消失してしまった…という事実は序盤から明らかになっており、パルスコードがいかに人類を変容させ、消失に追いやったのか、世界はそれに対してどのような混乱を来したのか、といったことが詳細に語られていきます。
 元大統領ヴァネッサ・バラードや周囲の政治家たち、コードの解析に絡んだ科学者たち、パルスコードによって変容を来した当事者たち、発見者ダリア・ミッチェル博士の関係者など、多くの人物へのインタビューや手記などが集められる形になっています。

 パルスコードによって人間の脳が変容し、今まで見えなかったものが見えるようになったり、天才的な学力や芸術的才能を開花させたりと、ほとんど超能力的な力が発揮されます。作中ではそれが「上昇」と呼ばれているのですが、ただこの「上昇」を得たのは人類の約30%、しかも変容に耐えられず死んでしまう人間も多いのです。
 一度「上昇」に捉えられた人間は元に戻ることはなく、やがて「終局」を迎えてしまうのです。この「終局」とは何だったのか? というのは後半になってから分かることになります。

 伝統的なSFのテーマに従えば、「ファースト・コンタクト」「人類の進化」「終末SF」などが盛り込まれている作品といえましょうか。ただそれぞれの要素がオーソドックスではない形で現れるのが特徴です。
 パルスコードは、異星人あるいは知的生命体から発信されたことに間違いはないのですが、その知的生命体自体は全く姿を現さず、メッセージが送られてくることもありません。そのためパルスコードに侵略の意図があるのか、それとも贈り物なのか、といったことも分かりません。そもそも知的生命体の意図が地球人に理解可能なのかという問いを含めて、人類がそれを想像することしかできず、そこに不気味さがありますね。
 不気味さといえば、「上昇」した人間に関するそれもあります。高度な能力を得る代わりに、人間としての感性から逸脱していくことになり、「上昇」しなかった人間たちからは不気味な存在とされてしまいます。地域によっては、二つの「種」の間に争いや暴動、虐殺までもが起きてしまう、といったあたりも描かれています。「上昇」で現れる能力も千差万別、人によっては死んだ人間が見える、などという超自然的なものもあります。

 知的生命体側からのアクションがまったく描かれないため、パルスコードを受け取った人類側の対応のみが語られていくことになります。前半はパルスコードが本当に知的生命体からのものなのか、何の意味を持っているのか、といった議論に費やされており、ちょっと飽きてきてしまう面もあるのですが、この細部のリアリティ作りが後半生きてくる形になっており、その意味で「溜め」になっている面もあるでしょうか。「上昇」による具体的な人類の変容が描かれ始める部分が始まってからは、非常に動きも多く、面白くなってきます。
 作品全体がノンフィクションの体裁なので、たびたび注釈が挟まれる形になっており、そのあたりも面白いです。物語に直接現れない部分でも、事件があったことなどが、注釈の中で語られている部分もあり、リアリティを高めていますね。

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怪奇幻想読書倶楽部 第47回読書会 参加者募集です(再掲)
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 2023年11月19日(日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第47回読書会」を開催いたします。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、メールにて連絡をいただきたいと思います。
 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp
メールの件名は「読書会参加希望の件」とでもしていただければと思います。


開催日:2023年11月19日(日)
開 始:午後13:30
終 了:午後16:00
場 所:JR中野駅周辺のカフェ(東京)
参加費:1500円(予定)
課題書 アルベルト・モラヴィア『薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・風刺短篇集』(関口英子訳 光文社古典新訳文庫)


※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※対面型の読書会です。
※オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも安心して参加できると思います。
※「怪奇幻想読書倶楽部」のよくある質問については、こちらを参考にしてください。
※扱うジャンルの関係上、恐縮ですが、ご参加は18歳以上の方に限らせていただいています。


 今回は、イタリアの文豪として知られるモラヴィアが残した幻想小説集『薔薇とハナムグリ』を取り上げたいと思います。現実社会を諷刺した作品だけでなく、想像力を駆使したファンタジーまで、バラエティ豊かな作品を味わっていきたいと思います。


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幸福を求める人々  アンニ・スヴァン『夏のサンタクロース フィンランドのお話集』
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 アンニ・スヴァン『夏のサンタクロース フィンランドのお話集』(古市真由美訳 岩波少年文庫)は、20世紀初頭に活躍し、フィンランドの「童話の女王」と呼ばれた作家アンニ・スヴァン(1875-1958)の童話集です。13篇を収めています。
 美しい自然を背景に、民話的なモチーフが展開されるファンタジー作品集です。純真な人々がその心根で幸せな結末を迎えるお話が多いのですが、中には叶わぬ恋をする主人公が登場する悲しいお話なども混じっていますね。

 三兄弟それぞれの幸せが描かれる「お話のかご」、森の妖精に囚われた娘が脱出しようとする「山のペイッコと牛飼いのむすめ」、愛する少年のため自らの心臓をヴァイオリンにする少女を描く「小さなヴァイオリン」、親友の子牛の病気を治すため冒険に出るこびとを描いた「子牛のピエニッキと森のこびと」、妖精の魔力によってけもののような足になってしまった若者の恋を描く「ふしぎの花」、人間の青年を愛した氷姫の悲恋を描く「氷の花」、魔法のブーツの片方を盗まれたサンタクロースを子どもたちが手助けしようとする「夏のサンタクロース」、病で連れ去られた母親の魂を取り戻そうと死の国へ踏み込む少女を描く「少女と死の影」、非人間的な冷たさを持つ山の王の妃となった娘とその息子の物語「山の王の息子」などを面白く読みました。

 特に印象に残るのは「お話のかご」「小さなヴァイオリン」「少女と死の影」「山の王の息子」など。

 「お話のかご」は運試しの旅に出た三兄弟を描く物語。長兄は不思議なめがねを手に入れ、知恵者として尊敬されるようになります。次兄は王女と結婚して富を手に入れます。末弟はあるおばあさんの手伝いのお礼に、かごいっぱいにお話の毛糸玉を手に入れますが…。
 物語を手に入れること。その物語を皆に語り伝えること。それらの幸せは、富や名誉にも劣らない、というお話です。これは読書好きの琴線に触れる物語ですね。

 「小さなヴァイオリン」はこんなお話。
 ヴァイオリンを学んでいた才能豊かな少年ハンヌは楽器を壊してしまいますが、新しい楽器を手に入れるお金がありません。ハンヌの楽器を直そうと、幼馴染みの少女レーナは森に住む不思議なおばあさんを訪ねます。ヴァイオリンを直す条件とは、レーナの心臓そのものをヴァイオリンにするというものでした…。
 幼馴染みの少女の心臓により作られたヴァイオリンを手に入れた少年は栄誉を手に入れますが、やがて大事なものを失ってしまう…というお話です。少女の純粋な思いが最終的には幸福を呼び込む、という結末も良いですね。

 「少女と死の影」は死の国をめぐる物語。
 病気で寝込む母親をおいて、ダンスパーティーに出かけてしまった少女リーサが家に戻ると、黒い影によって、母親のたましいがランプの火となって運ばれていくところでした。母のたましいを取り戻そうと、黄泉の国トゥオニに入り込んだリーサでしたが…。
 自身の行いを後悔した少女が、母のたましいを取り戻そうと黄泉の国に入り込む…という物語。最初は自分勝手だと思われた少女ですが、母親のたましいを取り戻そうとするその必死さを見ているうちに、読者も感情移入してしまいます。黄泉の国の不気味さも印象に残ります。

 「山の王の息子」は人の心の温かさがテーマとなったお話でしょうか。
 深い地底の国に住む山の王とその民たちは、陰気で無口でした。王の息子は十六歳になると、山をはなれて谷へくだり、そこで三日間を過ごす権利があるというのです。外の世界に出た息子は、ヒツジ飼いのむすめと出会い恋をします。娘は山の国に連れていかれ王妃となり、息子を産みます。
 しかし故国に戻った途端に冷たくなってしまった夫は、顧問の進言を入れて妻を冷遇するばかりか、息子に愛情を注ぐのを禁止し、とうとう妻を追放してしまいます。やがて成長した息子は十六歳になり、外の世界に旅をすることになりますが…
 人間的な心を持たない山の国の王子(後に王)と、暖かい心を持つむすめ、そしてその息子との関係を描いた作品です。最初は外界に出た王子とむすめとの恋愛が描かれるのですが、どうやら山の国に入ってしまうと人間的な心が失われてしまうようで、最初は人間的な情愛を持っていた王子から、その愛が失われてしまいます。
 夫婦の息子に関しても、山の国の掟に囚われてしまうのか、人間的な心を持ち続けられるのか、といったところがテーマになっていますね。


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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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