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倉野憲比古のホラー・ミステリ二作を読む

スノウブラインド (文春e-book) Kindle版


倉野憲比古『スノウブラインド』(文藝春秋)

 ドイツ現代史の権威であるホーエンハイム教授から、軽井沢近郊の狗神窪にある邸宅・蝙蝠館に招待された夷戸武比古、根津圭太、三木秀美、松浦杏子のゼミ生たち。良い雰囲気で始まった館の滞在でしたが、館の使用人フリッツは不審な行動を繰り返していました。心理学に造詣の深い夷戸は、彼には強迫観念があるのではないかと推理します。
 館で突然起こった殺人事件に驚いた滞在者たちでしたが、折から周囲は吹雪になり、一行は館に閉じ込められてしまいます…。

 雪で孤立した館で殺人事件が起こるという、いわゆる「吹雪の山荘もの」や「クローズド・サークル」テーマを扱った作品です。心理学とナチズムを研究する学生、夷戸が探偵役となって事件を推理していき、その意味でオーソドックスな本格ミステリに見えるのですが、超自然らしき現象が大っぴらに起こるなど、ホラーの要素も強い作品となっています。
 舞台となる館の過去の持ち主に不思議な事件が起こっていたこと、またその土地自体に伝わる、住民が先祖返りして獣のようになっていた事件が言及されるなど、物語の背景のオカルト度は高いです。
 また探偵役の夷戸が語るフロイト理論やオカルト書への言及、根津が語るマニアックなホラー映画談義など、ペダントリー部分も華やかで楽しい趣向となっています。ミステリの三大奇書や、戦前の探偵小説についても言及されますが、このあたりの作品の雰囲気が好きな方には、とても楽しめる作品ではないかと思います。
 殺人に対するまっとうな推理部分の他に、作品全体に関わる幻想的な仕掛けが施されています。物語の中で明確な超自然現象が登場し、一応は合理的に説明がされるものの、不条理な謎が残る…というタイプの幻想ミステリです。
 探偵の推理がフロイト理論によるものなのもユニークで、その解釈には疑問も残るのですが、そのあたりの怪しさ(妖しさ)も含めて面白い作品です。
ミステリファンよりも、ホラーファンが読んだ方が楽しめる作品ではないでしょうか。



墓地裏の家 (文春e-book) Kindle版


倉野憲比古『墓地裏の家』(文藝春秋)

 心理学を学ぶ大学院生の夷戸武比古は、知り合いから頼まれて、墓地裏の家を訪ねることになります。そこは吸血神を信仰する新興宗教、神霊壽血教の教会でした。妻の妙によれば、教主である印南尊血は、このところずっと窓から見える観覧車を見続けているというのです。
 尊血と話してみてほしいという妙の願いに応えて、夷戸は、彼と話すことになります。また企業の御曹司との結婚を控えて引きこもり気味になっているという娘の美盤の様子も見てほしいと頼まれ、彼女の部屋に向かった夷戸は、美盤が倒れている場面に遭遇します。美盤は喉を切り裂かれて絶命していました。
 さらに壽血教内部で殺人が続き、夷戸は旧友の根津と共に事件を捜査することになりますが…。

 吸血神を崇拝する宗教内部で殺人が起こるというホラー・ミステリです。この壽血教、教主は人の血を飲むとか、死ぬことによって幸せになれる教義を持っているなど、どう見ても邪悪なカルト宗教なのですが、貧困に陥った人を敷地内に住まわせるなどの慈善活動を行ったりと、奇妙な宗教として描かれています。
 教主の娘が殺されてしまい、その犯人と犯行方法を探っていくうちに、教団内部での対立や、その宗教そのものの異常性などが明らかになってくるところが面白いですね。
 前作同様、探偵役の夷戸が、心理学の知識を利用して推理をするのと同時に、物語の背景となるオカルティックな部分に関して蘊蓄をいろいろ披露してくれるのが、ホラーファンには楽しいところです。
 これまた前作からの登場となる夷戸の先輩、根津は、世慣れたお調子者で、夷戸の良きパートナーとして活躍します。
 喫茶店の美人オーナーの美菜が本作のヒロインで、夷戸の彼女への恋心が実るのか、というのも読みどころになっています。
 事件に関する推理やその殺人トリックなどは結構まっとうな本格ミステリなのですが、その舞台背景はホラーに近いです。戦前の探偵小説を思わせる雰囲気、怪奇色たっぷりの事件、オカルティックなペダントリーと、作者の趣味がたっぷり盛り込まれており、この種の作品の愛好者にはたまらない作品でしょう。
 ホラーファンの根津が、ルチオ・フルチ監督の『墓地裏の家』に言及し、それがタイトルにもなっているようです。隠された犯人が、映画の怪物「フロイトシュタイン博士」になぞらえられるという趣向も楽しいですね。


テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

9月の気になる新刊
9月2日刊 リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク『レヴィンソン&リンク劇場 皮肉な終幕』(浅倉久志他訳 扶桑社ミステリー 予価935円)
9月2日刊 アン・ラドクリフ『ユドルフォ城の怪奇 上・下』(三馬志伸訳 作品社 予価各3960円)
9月3日刊 リサ・ラッツ『パッセンジャー』(杉山直子訳 小鳥遊書房 予価2090円)
9月7日刊 中野美代子『契丹伝奇集』(河出文庫 予価1210円)
9月7日刊 ダイアン・セッターフィールド『テムズ川の娘』(高橋尚子訳 小学館文庫 予価1540円)
9月8日刊 「ユリイカ 10月臨時増刊号 総特集=須永朝彦」(青土社 予価1980円)
9月8日刊 山田正紀、恩田陸『SF読書会』(徳間文庫 予価902円)
9月13日刊 北村薫『ミステリは万華鏡』(創元推理文庫 予価880円)
9月13日刊 須永朝彦『須永朝彦小説選』(ちくま文庫 予価946円)
9月13日刊 田中小実昌『密室殺人ありがとう ミステリ短篇傑作選』(日下三蔵編 ちくま文庫 予価924円)
9月18日刊 トム・ゴールド『月の番人』(古屋美登里訳 亜紀書房 予価1650円)
9月20日刊 ジョゼ・サラマーゴ『中断する死』(雨沢泰訳 河出書房新社 予価3190円)
9月21日刊 フレドリック・ブラウン『不吉なことは何も』(越前敏弥訳 創元推理文庫 予価1100円)
9月21日刊 ホルヘ・ルイス・ボルヘス、オスバルド・フェラーリ『記憶の図書館 ボルヘス対話集成』(垂野創一郎訳 国書刊行会 予価7420円)
9月22日刊 レーモン・クノー『地下鉄のザジ 新版』(生田耕作訳 中公文庫 予価880円)
9月24日刊 アイリス・オーウェンス『アフター・クロード』(渡辺佐智江訳 国書刊行会 予価2640円)
9月25日刊 都甲幸治『教養としてのアメリカ短篇小説』(NHK出版 予価1870円)
9月27日刊 P・G・ウッドハウス『春どきのフレッド伯父さん』(森村たまき訳 国書刊行会 予価2640円)
9月29日刊 ヴォルフガング・ヒルデスハイマー『詐欺師の楽園』(小島衛訳 白水Uブックス 予価1980円)
9月30日刊 グザヴィエ・ド・メーストル『部屋をめぐる旅 他二篇』(加藤一輝訳 幻戯書房 予価3190円)


 一番気になるのは、アン・ラドクリフ『ユドルフォ城の怪奇』でしょうか。ラドクリフの代表作にしてゴシック・ロマンスの代名詞的な作品ですね。有名作でありながら、今まで邦訳がなかったので、今回の邦訳は慶賀すべきところです。

 ダイアン・セッターフィールド『テムズ川の娘』は歴史幻想ミステリだそうですが、あらすじが面白そうな作品です。
 「19世紀、ヴィクトリア期のイギリス。ある冬至の夜、テムズ川沿いのちいさな村ラドコットにある酒場兼宿屋〈白鳥亭(ザ・スワン)〉では常連客たちがいつものように酒と物語に興じていた。すると突然ドアが開け放たれ、顔に重傷を負い、女の子の人形を抱えた大男が現れる。人形に見えていたのは、実は少女の死体だということが判明するが、少女はその日のうちに息を吹き返す。この奇跡が近隣の村にまで広まると、少女は自分の家族だと主張する3つの家族が現れる。少女は誰なのか? どこから来たのか? あの晩、少女に何が起きたのか? 謎が明らかになるにつれ、それぞれの家族の抱える秘密が複雑に絡み合いーー。」という内容だそう。

 先日亡くなった須永朝彦の追悼企画でしょうか、「ユリイカ」の特集号と、傑作選として『須永朝彦小説選』が刊行されます。手軽に手に取れる文庫版の刊行は喜ばしいところですね。

 フレドリック・ブラウン『不吉なことは何も』は、以前に出ていたミステリ短篇集『復讐の女神』の新訳改題版です。面白い短篇集なので新訳版が出るのは嬉しいですね。

 ホルヘ・ルイス・ボルヘス、オスバルド・フェラーリ『記憶の図書館 ボルヘス対話集成』は、ボルヘスが自身の偏愛する作家と作品をめぐって語った対話集とのこと。版元のページで目次が公開されていたので転載しておきますね。

第一部
序文(ホルヘ・ルイス・ボルヘス)
序文(オスバルド・フェラーリ)
第1日 アルゼンチン人のアイデンティティ
第2日 百代の過客
第3日 秩序と時間
第4日 ボルヘスと公衆
第5日 ボルヘスのテキストはいかに生まれ作られるか
第6日 地理上の南部、親密な南部
第7日 コンラッド、メルヴィル、そして海
第8日 政治について
第9日 マセドニオ・フェルナンデスとボルヘス
第10日 プラトン、アリストテレスとボルヘス
第11日 芸術は時代から自由でなくてはならない
第12日 虎、迷宮、鏡、刃物
第13日 カフカは人類の記憶の一部となり得る
第14日 モデルニスモとルベン・ダリオ
第15日 ボルヘスは人格神を信じない
第16日 愛について
第17日 アルフォンソ・レイエスとの友情
第18日 東洋、易経、仏教
第19日 夢について
第20日 リカルド・グイラルデスについて
第21日 ユーモアについて
第22日 ヘンリー・ジェイムズについて
第23日 推測について
第24日 ウェスタンあるいは映画の叙事詩
第25日 ルゴーネス、この厳格で不運な男
第26日 八十五歳の古典
第27日 ダンテ、果てのない読書
第28日 リアリズムの文学と幻想文学
第29日 シルビーナ・オカンポ、ビオイ-カサレス、フアン・R・ウィルコック
第30日 歴史について
第31日 サルミエントへの信頼
第32日 推理小説
第33日 ペドロ・エンリケス・ウレーニャとの友情
第34日 蔵書、闘鶏場、珍しい詩の思い出
第35日 キプリングの呼び起こし
第36日 ボルヘスと記憶
第37日 「フロリダ」「ボエド」両グループ、雑誌「スル」
第38日 対話について
第39日 ガウチョ詩について
第40日 ソネット、啓示、旅、国
第41日 倫理と文化
第42日 日本への二度の旅
第43日 エバリスト・カリエゴ、ミロンガ、タンゴ
第44日 スカンディナヴィアの神話とアングロサクソンの叙事詩
第45日 ボルヘスとアロンソ・キハーノ

第二部
序文(オスバルド・フェラーリ)
第46日 ソクラテス
第47日 合衆国について
第48日 書物崇拝
第49日 アルゼンチンの過去・現在・未来
第50日 哲学
第51日 母レオノール・アセベド・スアレス
第52日 序文について
第53日 フロベール
第54日 ウルグアイについて
第55日 詩の知性
第56日 アルマフエルテ
第57日 仏教
第58日 叙事詩の味わい
第59日 ヴァージニア・ウルフ、ビクトリア・オカンポ、フェミニズム
第60日 『共謀者たち』
第61日 教育について
第62日 バートランド・ラッセル
第63日 「推測の詩」
第64日 詩についての新対話
第65日 人類月に立つ
第66日 ロシアの作家
第67日 スピノザ
第68日 アロンソ・キハーノについての新対話
第69日 ケルト文化
第70日 ケベード
第71日 神秘家スウェーデンボリ
第72日 絵画
第73日 ヴォルテール
第74日 十九世紀
第75日 ウェルギリウス
第76日 友情について
第77日 チェスタトン
第78日 『天国・地獄百科』
第79日 ルクレティウス
第80日 フランスについて
第81日 マーク・トウェイン、グイラルデス、キプリング
第82日 個性と仏陀
第83日 アイルランド文学
第84日 ゴンゴラ
第85日 ニュー・イングランドの詩人たち
第86日 暗喩について
第87日 エドガー・アラン・ポー
第88日 ポール・グルサック
第89日 シェイクスピア
第90日 『共謀者たち』についての新対話

第三部(補遺)
序文(オスバルド・フェラーリ)
補遺第1日 最初の対話、一九八四年三月九日
補遺第2日 『天国・地獄百科』、スティーヴンスン、バニヤン
補遺第3日 因果律
補遺第4日 幻想文学とSF
補遺第5日 ジェイムズ・ジョイス
補遺第6日 砂の本
補遺第7日 パスカル
補遺第8日 物真似の国
補遺第9日 『天国・地獄百科』
補遺第10日 リベラリズムとナショナリズム
補遺第11日 エマソンとホイットマン
補遺第12日 ストア主義
補遺第13日 イエス・キリスト
補遺第14日 友情の讃美
補遺第15日 ポール・ヴァレリー
補遺第16日 「じゃま者」
補遺第17日 オスカー・ワイルド
補遺第18日 荒地と平原
補遺第19日 アドルフォ・ビオイ-カサレス
補遺第20日 政治と文化
補遺第21日 バーナード・ショー
補遺第22日 映画の批評
補遺第23日 グルサックについてふたたび
補遺第24日 文学の危機
補遺第25日 W・B・イェイツ その一
補遺第26日 W・B・イェイツ その二
補遺第27日 文学の思想家
補遺第28日 時間

索引及び人名註
訳者あとがき

 アイリス・オーウェンス 『アフター・クロード』は、随分間が空いていた《ドーキー・アーカイヴ》の新刊です。内容は「真夏のニューヨーク、ハリエットは同居するクロードと仲違いしてアパートを追い出される危機に陥る。身を守るために悪戦苦闘する彼女を待ち受けていたさらなる地獄とは……速射砲のように放たれる、宗教・人種・セックス・フェミニズム等々のあらゆる問題を無差別攻撃した過激なセリフ、知的で過剰なユーモアにあふれた筆致で描かれる一人の女の残酷物語」とのこと。

 ヴォルフガング・ヒルデスハイマー『詐欺師の楽園』は、架空の画家をでっちあげて世界中を手玉に取った天才詐欺師にして贋作画家を描くコミックノヴェル。
 これは旧版を読んだことがありますが、面白い作品でしたのでお勧めです。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

文豪のファンタジー  ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ『魔法つかいの弟子 ゲーテ ショートセレクション』

ゲーテショートセレクション 魔法つかいの弟子 (世界ショートセレクション 17) 単行本 – 2021/3/22


 ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ『魔法つかいの弟子 ゲーテ ショートセレクション』(酒寄進一訳 理論社)は、ドイツの文豪ゲーテの作品から、幻想的な短篇と物語詩<バラード>を集めた作品集です。

 物語詩が六篇、短篇が三篇収録されています。
 物語詩は、師匠の不在中に弟子が行った魔法が止まらなくなるという「魔法つかいの弟子」、魔王に魅入られた子供が死にさらわれてしまう「魔王」、ドルイドの供犠を描いた「最初のワルプルギスの夜」、ある王の人生を語って抒情的な「トゥーレの王」、死者の娘に魅了される若者を描いた「コリントの花嫁」、富を求めて魔法陣の儀式を行う若者を描いた「宝ほり」が収録されています。 シューベルトの曲でも有名な「魔王」、吸血鬼テーマの先駆的作品ともされる「コリントの花嫁」は、特にダークな色調が強い怪奇幻想作品です。

 短篇では、夢でメルクリウスから三つのリンゴをさずけられた少年が不思議な女性たちに出会う「新・パリス」、謎めいた美しさを持つ女性にほれ込んだ男が魔法のような体験をするという「新・メルジーネ」、姫と若者のロマンスに不可思議な現象が散りばめられた「メルヘン」の三篇を収録しています。

 飛びぬけて面白いのが「新・メルジーネ」
 謎めいた美しい女性に恋してしまった男は、彼女から用事を頼まれます。小箱を預かってほしいというのです。一緒に預けられたお金を使い果たしてしまった男は彼女に謝罪することになります。
 何度も自分勝手な行動を繰り返す男でしたが、女性はやがて自分が妖精の一族であることを打ち明けます…。
 情が深く寛容な女性に対して、男が次々と信頼を裏切る自分勝手な性質であるなど、いささか諷刺的なトーンで語られる妖精物語です。女性が妖精であることが判明して、別れるのを惜しんだ男がある魔法の効果で、一緒に妖精の国に行くことに成功するのですが、結婚するとなると嫌がって逃げ出してしまう…という、なんともダメな主人公を描いた作品となっています。

 夢で神に予告された通り、不思議な女性たちに出会うことになる少年を描いた「新・パリス」でも、少年は自分勝手な行動を起こして、事を台無しにしてしまいます。主人公を美化せず描いているあたり、皮肉なタッチが冴えていますね。

 後のドイツ・ロマン派に連なる、創作メルヘンの先駆的作品とされる「メルヘン」は、意想外に手ごわい作品です。メインは、姫と若者のロマンスなのですが、それを取り巻く不思議な出来事が沢山起こりながらも、それらの関係性がはっきりしないのです。
 物語の諸要素がそれぞれの展開をするのですが、その出来事の関連が明確でないのと、それぞれの出来事の意味・象徴がはっきりしないため、その読みやすさにも関わらず、難解な印象を受ける作品になっていますね。

 物語詩を含めて、非常に読みやすい翻訳の作品集になっています。ゲーテの幻想的作品が集められており、怪奇幻想小説・ファンタジー小説のファンにはお勧めしたいと思います。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

呪われた恋  ジョージ・W・M・レノルズ『人狼ヴァグナー』

人狼ヴァグナー 単行本 – 2021/7/18


 イギリスの作家ジョージ・ウィリアム・マッカーサー・レノルズ(1814-1879)の長篇『人狼ヴァグナー』(夏来健次訳 国書刊行会)は、呪いによって人狼への変身を余儀なくされた男がその呪いを解くまでを、周囲の事件と共に描く波乱万丈の怪奇ロマンス作品です。

 十六世紀前半のドイツ、<黒き森>に住む孤独で高齢の老人フェルナンド・ヴァグナーは、最愛の孫娘アグネスが行方不明になったことに心を痛めていました。嵐の夜に、奇怪な人物の訪問を受けたヴァグナーは、その男からある契約の提案を受けます。
 なんと、彼に若さと知恵を取り戻させようというのです。しかしそれには条件が二つがありました。一つは、一定期間、男の旅の共をすること。そしてもう一つは、月に一度、最終日の日没に、狼に変身するという呪いを受け入れることでした。しかも、変身している間は理性の統御は聞かないというのです。
 申し出を受け入れたヴァグナーは若さを取り戻します。数年後、旅の共を終えたヴァグナーはイタリアのフィレンツェに姿を現します。
 一方、フィレンツェの名家リヴェロラ伯爵アンドレアは、死の床で息子のフランシスコに相続について遺言を残します。家の秘密が収められた衣装室の鍵を渡し、自らの婚姻の日にそこを開けろと言うのです。聾唖でありながらも賢明なフランシスコの姉ニシダ姫は、密かに鍵を使い、衣装室に隠された秘密を知ることになります。
 ふとしたことから知り合ったヴァグナーとニシダ姫は相思相愛の関係になります。弟を溺愛するニシダ姫は、フランシスコが身分の低い小間使いの娘フロラと結婚を考えていることを知り、その関係を壊すため、フロラを排除する計画を立てていました…。

 呪いにより人狼となってしまった男ヴァグナーの遍歴と、それに付随する様々な事件を描いていくという、波乱万丈の大河怪奇ロマンス作品です。
 ある男との契約により若さを取り戻した男ヴァグナー。しかしそれには付随する呪いがあり、ひと月に一度人狼に変身してしまうというのです。その呪いを解くということと、行方不明になった孫娘アグネスを探す、というのが当面の目的となっています。
 アグネスとの再会は序盤で叶ってしまい、それ以降の物語は、ヴァグナーの恋人となったニシダ姫を中心に動いていくことになります。

 策略によってフロラを監禁しようとするニシダ姫の計画が、様々な事件を引き起こしていきます。その中で、放蕩者のオルシーニ侯爵とその恋人伯爵夫人ジウリア、妻の浮気に激高し復讐しようとするアレスティーノ伯爵、金銭的な揉め事で冤罪になってしまうユダヤ人の高利貸しイサカル・ベン・ソロモン、ニシダ姫に懸想する盗賊団の首領ステファーノ、敵方に密通するリヴェロラ家の召使いアントニオ、オスマン帝国の大宰相にまで上り詰めるフロラの兄アレッサンドロなど、多彩な人物が物語を紡いでいくことになります。
 ニシダ姫の計画と起こした事件を軸に、連鎖的に事件が発生していくことになり、そのエスカレート具合は強烈です。個人間の恋愛事件だったものが、やがては都市をゆるがすスキャンダル、果てはオスマン帝国の襲撃までをも引き起こしてしまうのです。さらにニシダの行動により、ヴァグナーは冤罪で囚われてしまうことにもなります。
 現実的なトラブルや事件だけでなく、超自然的・霊的な事件も発生し、その展開は波乱万丈どころではありません。ヴァグナーの魂を狙う悪魔、そして密かに彼を見守る天使、伝説上の薔薇十字団創設者ローゼンクロイツまでが登場するという豪華さ。

 「人狼」とはいいながら、主人公ヴァグナーのその変身が描かれるのは数度ぐらいで、それほど物語のメインの要素とはなっていません。変身とそれに付随する被害を描く部分は流石に迫力はありますが、飽くまで主人公の背負った苦難、という意味での設定のようですね。
 そもそもこのヴァグナー、元来真面目な性質のようで、若返った後も放蕩したり贅沢したりするわけでもなく、品行方正に生きているのです。ニシダ姫と出会ったことから、熱情的な恋に陥るものの、逆にニシダの狂熱的な性格を知り、慄いてしまうシーンもあります。
 ヴァグナーとニシダがあるトラブルに陥った際に、悪魔が登場しヴァグナーをそそのかすのですが、彼はそれをはねのけます。しかしニシダ自身から悪魔との契約を示唆され、悩んでしまうのです。このあたり、伝統的なゴシック・ロマンス的なテーマも見え隠れしますね。
 面白いのは、ヴァグナーが若返った契約は悪魔の力によるものではありながら、まだ魂までは売り渡していない、という設定です。そのため、ヴァグナーの危機にたびたび現れる悪魔は、交換条件として魂を売れと誘惑するのです。ヴァグナーが悪魔に魂を売ってしまうのか。それとも呪いを解いて魂を守れるのか? というのも物語の重要なテーマとなっていますね。
 ヒロインのニシダが自らの目的のためならば、殺人や犯罪まで辞さないという強烈なキャラクターとして描かれていることもあって、ヴァグナーがたびたび誘惑にさらされるシーンもドラマチックに描かれています。

 人狼の呪いを受けていながらも、主人公ヴァグナーが割と正義漢に描かれているのとは対照的に、彼の恋人となるニシダは、強烈な自我と利己心を持つ人物として描かれていて、ある意味、ヴァグナーよりも目立っていますね。聾唖でありながら、知恵と内省に長け、ことあるごとに陰謀を企みます。
 計画だけでなく自ら行動し殺人を起こすこともあったりと、ヴァグナーも時折その激情と狡猾さに驚かされてしまいます。悪役とヒロインが一緒になったような人物で、非常に特異なキャラクターとなっています。

 明確な「悪役」としては、盗賊団の頭目ステファーノ・ヴェリナが登場しています。この男、平気で人の財産を奪ったり人を殺したりもするのですが、妙なところで男気があります。剣を交えた男と意気投合し、彼に協力するなど、義賊的な一面も見られますね。魅力のある人物なのですが、ニシダに懸想してしまったことからあえない最期を遂げることになるという不幸なキャラクターです。

 多彩な人物が縦横に動き回るという、総合エンターテインメントともいうべき怪奇ロマンスです。一つ一つの小さな事件が波紋を起こし、どんどんと物語の展開が派手になっていくのが魅力ですね。
 当時、<ペニー・ドレッドフル>(直訳で「1ペニーの恐ろしいもの」の意)と呼ばれたジャンルの作品だけに、煽情的で残酷なシーンにも精彩があります。可憐な女性があっさり殺されてしまったり、強烈な拷問シーンなども登場します。準主人公格だと思われた人物があっさり殺されてしまったりと、思いもかけない展開もあり、本当に波乱万丈です。大型本で600ページ以上ある長大な作品ですが、全く飽きさせずに読ませるのは流石ですね。
 人狼部分は割とあっさりとしていますが、ファウスト伝説や薔薇十字団に関してもさらっと登場するなど、怪奇幻想小説としても面白い作品です。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

怪奇と抒情  A・M・バレイジ『ありふれた幽霊』

ありふれた幽霊 Kindle版


 A・M・バレイジ『ありふれた幽霊』(仁賀克雄編訳 Amazon Kindle)は、イギリス怪奇小説の名手アルフレッド・マクレランド・バレイジ(1889~1956)の怪奇小説15篇を集めた作品集です。ほど良い恐怖感と語り口の上手さが魅力です。

「夢屋敷」
 いたずらをきっかけに、不良少年たちに追われたジャックJが逃げこんだ古い屋敷には、風変わりな老婦人ノロコット夫人が住んでいました。彼女は、自分の息子ハリーと遊んでくれというのですが、待っていてもハリーは一向に現れません……。
 息子の死をきっかけに精神を狂わせてしまった母親の屋敷に迷い込んだ少年の恐怖を描く作品です。ノロコット夫人の息子が死んでいることははっきりしているのですが、その霊らしき存在を少年が目撃する場面もあり、サイコ・スリラーであると同時にゴースト・ストーリーともなっています。

「蝋人形」
 殺人者たちの蝋人形を展示したマリナーズ蝋人形館で、記事を書くため、ひとりで一晩を過ごすことになった新聞記者レイモンド・ヒュースン。館長から、連続殺人者ドクター・ブーデの話を聞いたヒュースンは戦慄します。
 彼は、パリで剃刀を使った殺人を繰り返していましたが、その行方は知れなくなっていました。自殺したものと目されていましたが、その死体は見つかっていないのです。
 深夜一人になったヒュースンは、目の前のドクター・ブーデの人形が動き出すのを目撃しますが…。
 ドクター・ブーデが本当に生きていたのか、幽霊なのか、それともヒュースンの妄想に過ぎないのかは、最後まで分かりません。
蝋人形館での肝試しという、恐怖小説では定番のシチュエーションながら、その展開がユニークな作品です。

「もうひとりいる自分」
 「わたし」はクラブで偶然知り合った初老の男ライアルストンから打ち明け話を聞くことになります。彼は独身ながら引退後、平穏に暮らしていましたが、ある日突飛な夢を見たといいます。夢の中で、彼はノース・サマーセットのコリーストックという町に暮らすベン・サーリッジという穀物商人になっていたというのです。
 夢の中でサーリッジとして生活を送ったライアルストンは、それからことあるごとに夢の中でサーリッジになっているというのです。ライアルストンはコリーストックには行ったことがなく、サーリッジが実在するかも確認するのが怖いといいます。
 二重人格とは反対に、二人の人間が一つの人格を分かち合っているのではないかと、ライアルストンは話しますが…。
 人格というか魂というか、それらを分かち合っているらしい二人の男が描かれます。夢の中で感応しているだけなのか、それとも生命そのものまでも共有しているのか…。<奇妙な味>の奇談です。

「コーナー・コティジ」
 画家の「わたし」が家族と共に引っ越してきた家には、過去に悲劇がありました。画家のブラクストンの妻が事故で娘を亡くし、それが原因で妻も本人もピストル自殺してしまったというのです。それ以来彼らの幽霊が家に出るとされていました。
 村の住人チャド老人は、今まで家に住んだ人間同様、「わたし」もまた家から出ていくことになるだろうと予言します。やがて息子のピーターは安眠できなくなり、自分の部屋に女の子が現れたと話しますが…。
 不幸な事故で命を落とすことになった家族の霊が、同じく引っ越してきた家族のもとに現れるというゴースト・ストーリーです。家族構成が似ていることや父親の職業も同じであるなど、家族同士が引き寄せられている節もありますね。はっきりとした形を持って幽霊たちが家を訪問してくる、というシーンはかなり怖いです。

「樫の若木」
 アプコット夫人は自身が娘時代の奇妙な体験を語ります。経済的に裕福でなかった彼女は速記とタイプを学びブラインドリー荘園でカー夫人の私設秘書として働くことになります。荘園の林を散歩していたアプコット夫人は、恋人らしき男女のささやき声を耳にします。
 直後に、恋人たちが腕を組んでいる場面に行き会わせますが、よく見ると、それは空き地の向こう端に二本だけ立っている樫の若木でした…。
 行方不明になった恋人たちの霊が現れるという幽霊物語です。霊現象の怖さよりも、後に明かされる死んだ娘の父親の残酷さが印象に残る作品になっています。

「影の付添人」
 探偵小説を書こうと考えていたセラルドは、それに盛り込む暗号の相談を友人マスターズに持ち掛けます。マスターズはカードを使ったある暗号を提案しますが、試しにカードをいじっていたセラルドは急に顔色を変えます。かって戦時中に見殺しにした将校からのメッセージがそこには記されていたというのですが…。
 トランプの暗号によって、霊からメッセージが届くという、オカルティックな題材の怪奇小説です。メッセージ自体は無機的なところが、逆に怖いですね。

「保護者」
 寄宿学校の舎監ラングトリーから手紙を受け取ったチャードと「わたし」は調査のためにそこを訪れます。ラグビーの対外試合でグリムショウという名の生徒がグラウンドで亡くなったというのですが、死後彼のものと思しい筆跡のメッセージが現れ、彼自身の幽霊らしき存在も目撃されていました。グリムショウは何かを伝えたがっているのではないかというのですが…。
 善意を持って、自身が愛した学校や生徒を守ろうとメッセージを送り続ける幽霊を描いた、ジェントル・ゴースト・ストーリーです。特に明記されませんが、語り手たちは幽霊現象を調査するゴースト・ハンター的な職業の人々のようですね。

「無人の家」
 管理人のパーク夫人が一人住む家に、事務所から指示を受けて家の中を確認したいという男スティーヴン・ロイズが現れます。ロイズはパーク夫人に家に過去あったという事件について尋ねます。かって家の所有者だったゼラルド・ハーボイスは、妻と親友ピーター・マーシュとの仲を疑い、マーシュを銃殺してしまったというのです。それ以来、家には幽霊が出るという噂がありました…。
 家にまつわる過去の因縁談を聞く…という体裁のお話なのですが、静的に進んでいた物語が、後半急展開を迎えるところに面白みがありますね。

「緑のスカーフ」
 かっては栄華を誇った一族が住んでいたというウエリングフォード城館を訪れた画家オーブリー・ヴェイアと友人の「わたし」。チャールズ二世の時代、王党派員だったウエリングフォードの城主ピーター卿は、裏切り者の家来によって捕まり処刑されたといいます。裏切り者は窓から緑のスカーフを振って主人を裏切ったとされていました。
 ヴェイアと「わたし」が部屋の隠された空間を見つけ、そこを覗くと、中からは緑のスカーフが現れます。その直後から、城館には霧が現れ、不穏な雰囲気が増していきますが…。
 過去の惨劇の原因となったスカーフを発見したことから、怪異現象に巻き込まれる男たちを描いています。単純な霊現象というよりは、土地にまとわりついた闇の力、といったもののようで、かなりスケールの大きな物語になっています。

「繰り返す悲劇」
 フィチェットは友人の医師スタンドリングから、彼の患者だったという故シール将軍の話を聞きます。彼は第一次大戦時に膨大な部下を戦死させたことで悪名高い人物でした。将軍が語るには、自分は「イスカリオテのユダ」の生まれ変わりだと話していたというのですが…。
 生まれ変わりを繰り返し、そのたびに主を裏切ってきた…という人物の独白が描かれるという奇談です。ユダの生まれ変わりという話が将軍の妄想なのかそうでないかははっきりしないのですが、いくつもの過去生を思い出した…というあたり、伝奇的な面白みがある作品になっています。

「屋根裏部屋」
 公認会計士フォーブスと弁護士事務所の事務員テルフォード、気の合う二人は友人関係を続けていました。十年後、フォーブスは、経済的に成功したテルフォードから屋敷に招かれます。屋敷には時折人間の泣き声のようなものがしていましたが、テルフォードは雨風の騒音だと言って取り合いません。テルフォード夫人の弟である十五歳の少年デレックが同時に招かれていましたが、彼は何かを見たとして家から逃げ出してしまいます…。
 現実的な夫婦が住む館には実は幽霊がいた…というゴースト・ストーリー。幽霊現象も起きているのに、当主夫妻は気にせず、子どもの滞在を通してそれらが初めて判明する、というのもユニークですね。

「三一番地の母娘」
 母のために貸家を探していた青年の「ぼく」は、ロンドン郊外で貸家の札が下がっている家を見つけます。玄関から出てきたエリス夫人は四十歳ぐらいの女性でしたが、彼女は貸すのを取りやめたといいます。とりあえず話でもと招かれた「ぼく」は、女性の娘だというマンプスの美しさに目を見張ります。
 一目ぼれしたマンプスにもう一度会いたいと、再度家に向かった「ぼく」は、家に住んでいるのが別の人間であることに驚きます。エリス夫人と娘は二年ぐらい前に失踪したというのですが…。
 二年前にいなくなったはずの母娘と話した少年の奇妙な体験を語る物語です。二人はどこへ行ったのか? 自分が話したのは本当に当人たちだったのか? 全てが謎めいているという<奇妙な味>の作品です。

「夢想の庭園」
四人組の男たちは、クラブのラウンジで話していました。見知らぬ場所のはずなのに来たことがあると感じる、いわゆる「既視感」について話題になるなか、小説家のハーローは、自分が実際に体験したという話を始めます。パブリック・スクール在学時に、友人だったトンプスンは、陽気で天才的な嘘つきでした。しかし彼の嘘は皆を楽しませる罪のないものだったのです。裕福でなかったトンプスンは、金持ちの伯父の話を繰り返ししていました。
ハンプシャーのリトル・リンにあるというその伯父の屋敷の話を繰り返し聞くうちに、ハーローは想像力を掻き立てられます。地図でその場所を探しても見つからず、トンプスンが読んでいた小説の中にリトル・リンの名前を見つけたハーローは、これも彼の罪のない嘘の一つだと考えます。
長じて作家となったハーローは、知人の女性の婚約者がトンプスンだということを知ります。たまたまコーンウォールのグライントという村に、殺人事件の調査で訪れていたハーローは、初めて訪れたはずなのに、どこか見たことのあるような屋敷を見つけます。
それはトンプスンから聞いていたとおりの家でした。屋敷の主人を訪ね、話を聞いたところ、その屋敷はトンプスンとは縁もゆかりもないというのです。しかし、その家の家族たちは、屋敷の外に幽霊を見たことがあるというのです。その幽霊は最初は少年だったものの、段々と年を取っていくというのですが…
 空想だと思っていた屋敷が実在したことに驚いた作家の体験を描く作品です。しかも、屋敷のそばでは幽霊が目撃されていました。この幽霊は何者なのか…?
 生者が夢見ているうちに、それが分身となって現実世界に現れる、というモチーフの作品になっています。紀昀「農婦の夢」、イギリス民話「夢の家」、アンドレ・モーロワ「夢の家」、内田善美『星の時計のLiddell』などとも通底するテーマの作品となっています。
バレイジ作品では、トンプスンがある屋敷を夢に見ていると同時に、その姿が「幽霊」として目撃される…という趣向になっていますね。作家のハーローがたまたまその屋敷に呼び寄せられる、という運命譚的な流れも面白いところです。

「グレイムの貴婦人」
 ケント州の広大な不動産を相続し資産家となったドナルドから、グレイム館に招かれた「ぼく」は、彼がトラブルに巻き込まれていることを知ります。現地では何人もの人間が連続死しているというのです。夜に現地に到着した「ぼく」は、邪悪なものを感じさせる美女に出会い誘惑されます。突然現れた記者のランボルドによって呪縛から助けられた「ぼく」は、直後に男の死体を発見します。
 ドナルドによれば、かって一族に恨みを抱いて死んだ魔女の呪いが殺人を引き起こしているのではないかというのです。ドナルドは結婚するつもりだという女性ジョイスを「ぼく」紹介しますが、彼女は「ぼく」を襲った魔性の美女にそっくりでした…。
 口づけするだけで心臓麻痺を起こし死に至らしめる、という魔女が描かれます。しかも現世では魔女は親友の婚約者に憑りついているらしいのです。語り手は、親友を傷つけずにどうやって彼女を引き離すか悩むことになります。
 穏やかな展開が多いバレイジ作品の中では、かなり派手な趣向のホラーとなっています。

「夏のワイン」
 バーンビー夫人は従兄弟のフランクの体験だとして話を語ります。私立中学校に通っていたフランクは、尊敬するタピントン先生のもと、幸福な学校生活を送っていました。融通の利く先生は、生徒が馬に賭けるのを黙認してくれていました。
 夢で勝ち馬を当てたことのあるという生徒デズモンドは、新しい食堂支配人から<夏のワイン>と呼ばれる馬が勝つとの情報を得たと教えてくれます。しかしレースには<夏のワイン>なる馬は出馬していないというのです…。
 競馬によって身を滅ぼした霊が現れるというゴースト・ストーリーですが、その現れ方の演出が面白い作品です。霊を見る少年デズモンドは霊能力があるような節もあり、その予知夢的な能力も興味深いですね。

 バレイジ作品、例外はありますが、基本的に日常の風景を舞台に怪異が展開される作品が多いです。幽霊や怪異現象が現れても、必ずしも恐怖を主眼とはしていないようで、時折現れる抒情性や哀愁の念には味わいがありますね。解説では、岡本綺堂とその味わいが似ていると書かれていますが、なるほど、という感じです。
 子どもや青年の描き方が上手いなと思ったら、少年小説を多く書いていたそうで、そのあたりも味わいがあります。バレイジ、怪奇幻想系の作品が百数十篇もあるそうで、他の未訳作品も読んでみたいところです。
 ちなみに、バレイジには、EX-プライベート・Xという変わったペンネーム名義の作品もあります。


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隠された世界  『マルペルチュイ ジャン・レー/ジョン・フランダース怪奇幻想作品集』

マルペルチュイ: ジャン・レー/ジョン・フランダース怪奇幻想作品集 単行本 – 2021/7/17


 ジャン・レー/ジョン・フランダース『マルペルチュイ ジャン・レー/ジョン・フランダース怪奇幻想作品集』(岩本和子、井内千紗、白田由樹、原野葉子、松原冬二訳 国書刊行会)は、ベルギー最大の幻想作家ジャン・レーの長篇一つと短篇集二冊を収録した作品集です

『マルペルチュイ』
 青年ジャン=ジャック・グランシールとその姉ナンシーは、カッサーヴ伯父の遺言により、マルペルチュイ館に引っ越してくることになります。カッサーヴの巨額の財産は分割できず、それを受け取るためには、全員が屋敷内に居住し生活しなければならないというのです。
 館には一切変更を加えることができず、最後に生き残ったものが全財産を相続する、というのがその遺言でした。その結果、多くの親戚と使用人が同時に館に暮らすことになります。
 ジャン=ジャックは、ディドロー叔父夫妻の美しい娘ウリアルに惹かれていましたが、コルメロン三姉妹の末妹アリスの妖艶な魅力にも惹かれつつありました…。

 資産家の伯父の遺言により、巨大な館で親戚たちと共同生活をすることになった青年、その日常生活と恋とを描く作品なのですが、そこには何やら不穏な背景が流れています。住人たちは一癖も二癖もある人物のみならず、それぞれに秘密を抱えているらしいのです。不慮の事故や事件で、住民たちは次々と命を落としていきます。しかもその「退場」の仕方は不自然で、超自然的な現象も絡んでいるのです。
 カッサーヴはなぜ住民たちを館に集めたのか? マルペルチュイ館の秘密とは何なのか? 過去に何があったのか? などの謎が徐々に明かされていく過程には、非常なサスペンスがありますね。
 また語りにも工夫が凝らされており、複雑な構成を取っているのも特徴です。ジャン=ジャック・グランシール自身の手記をはじめ、マルペルチュイ館に関わる時代も人も様々な手記を、盗賊である「おれ」がペール・ブラン修道院で発見し、取りまとめたという構成になっています。
 それぞれの手記が示す情報は断片的なのですが、合わせて読むことで真実が見えてくる…という趣向です。更に最終的には、後続の時代の「おれ」が真実を確かめにマルペルチュイ館に向かう…という展開も面白いですね。
 メインとなるのはジャン=ジャックとウリアル、そしてアリスとの三角関係をめぐる恋愛物語といっていいでしょうか。その恋愛を含む、館での住民たちの日常生活が、文字通り「神話的」なスケールで動いていたことが分かる後半の展開は圧巻です。
 陰鬱な館、幻想的な事件、一族の過去をめぐる謎…。ゴシック風味豊かな物語そのものも魅力的ですが、その裏に隠れていた真相を知ると、表面上に見えていた物語がまた違った意味を持って立ち上がってきます。
 更に「真相」が明かされた後でも、割り切れない謎が多く残り、その意味で、再読・三読する際にも新たな発見がある物語でしょう。


『恐怖の輪 リュリュに語る怖いお話』
 父親が、娘リュリュにお話を語るという枠物語に挟まれて、九つの短篇が語られていくという体裁の幻想短篇集です。

 中世ドイツの騎士「鉄手のゲッツ」のものとされる義手が動き出し殺人を繰り返すという「ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲンの手」、魔術によって人が皿の中に閉じ込められる「ムスティエ焼の皿」、奇妙な男に連れられて墓地で怪奇現象に出会う男を描いた「マーリーヴェック墓地」、閑散期で一人取り残されたホテルのオーナーの奇怪な体験を描く「最後の旅人」、動物や人間を飲み込んでしまう沼地の恐怖を描いた「悪魔に挑んだ男」、突然家に飲み込まれてしまった男とその謎を追うという「デューラー」、かって起きた殺人事件から、呪詛によって封印された宿の部屋をめぐる「幽霊宿」、伝説の鳥「ヴュルク」を狩りによって仕留めようとする若者の物語「ヴュルクの物語」、ジョン・ディー博士のものとされる魔法の黒い鏡と奇怪なパイプをめぐる奇譚「黒い鏡」を収録しています。

 どの作品でも、怪奇現象や超自然現象が起こるのですが、その展開が急激かつ唐突で驚かされてしまいます。物語の初めに提示されたテーマが突然変調するパターンも多く、結末が予想できない面白さがありますね。
 例えば「ヴュルクの物語」。伝説の怪鳥とされるヴュルクを狩ろうとする若者の物語なのですが、その戦いが描かれると思いきや、その部分はあっさり決着がついてしまい、思いもしなかった展開が現れます。
 「黒い鏡」では、ジョン・ディー博士のものとされる魔法の黒い鏡を手に入れた貧しい医者が描かれるのですが、その黒い鏡が使われるのは最初の一回だけで、後は医者がなくしてしまった愛用のパイプが怪奇現象を起こすという展開に。主人公の医者が、借金苦から泥棒を繰り返しており、殺人にまで手を染めてしまうというのも妙な展開です。
 「デューラー」では、語り手の友人である新聞記者デューラーが、突然ある家に飲み込まれ失踪してしまうのですが、これも本当に唐突です。

 集中で一番印象に残るのは「ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲンの手」でしょうか。ヘントの大きな屋敷に住んでいた「私」とクワンサイス叔父は、客を交えて話をしていました。有名な中世ドイツの騎士「鉄手のゲッツ」の義手が密かに保管されており、叔父はそれを手に入れたらしいのです。やがて叔父が殺されているのが発見されますが…。
 逃げ出した伝説的な義手が人を殺して回るという、馬鹿らしさすれすれながら、妙に格調高い語り口で語られるという怪作です。「生きている手」のバリエーション怪談でしょうか。

 「幽霊宿」も面白い作品です。一見の客たちのみを残して不用心に出かけてしまった宿の亭主。残された客たちは窃盗犯であり、これ幸いと部屋を物色し始めます。しかし亭主はわざと窃盗犯たちを残していっていたのです。
 彼の目的は、過去に起きた殺人事件以来、呪詛によって封印された部屋を開放してもらうことでした…。
 部屋にはいったい何が封印されていたのか? 突拍子もない結末には驚かされます。これは唖然としてしまう読者もいるのでは。

 短篇群全体が、枠となる物語「はじめに ― 輪」「終わりに ― 輪の外で」で挟まれる形になっていますが、この枠物語も幽玄な雰囲気のお話になっています。娘リュリュとそれに対する父親が描かれますが、この娘の言動が不気味で、死を呼び寄せる能力がある節もありますね。
 「終わりに ― 輪の外で」では、メタフィクショナルな発言もなされ、この短篇集全体が、まるで「恐怖の輪」になるような趣向となっています。


『四次元 幻想物語集』
 オランダ語で書かれたという、ジョン・フランダース名義の短篇集です。原著は31篇でそこから16篇を訳出したとのことです。

 猫の幻影に惑わされ殺人を犯してしまう男を描いた「空中の手記」、死刑執行中の男の魂がロボットと同期するという「ロボット」、謎の巨大な怪物を描いた「空腹の来訪者」、見た目は普通の老婦人が恐るべき犯罪組織を操っていたという「マチルダ・スミスの目」、辻馬車の馬によって過去の殺人の真相が露見する「深夜の乗客」、結婚した女性は幽霊だったという「幽霊と結婚した男」、人を寄せ付けまいとする海の幽霊を描いてユーモラスな「海の幽霊」、過去に富豪が建てたきり廃墟になったという伝説の城をめぐる「砂漠の城」、顕微鏡で覗いた水の中に人間のような顔が見えるという「一滴の化け物」、金を探して火口に入り込んだ男たちが謎の怪物たちに出会うという「火山から届いたメモ」、木のような恐ろしい怪物を描いた「地獄の森」、殺人の容疑者として追われる男が過ごす深夜の二時間の秘密を描く「空白の二時間」、炎のような謎の生命体を描いた「生きた炎」、死刑執行人と相席になってしまった青年の物語「相席」、イングランドに隠れ住む元ギャングが鏡の中に奇怪な映像を目撃するという「鏡の中の顔」、妻を亡くした男が謎の鼓動の音におびえ続ける「鼓動する影」を収録しています。

 エンターテインメント味の強い作品集です。『恐怖の輪』の収録作と比べても短い作品が多いのですが、その短い中にも怪奇な事件が起きて、それが終息するまでの一連の流れがスピーディに展開し、読みやすい短篇集となっています。怪奇ショート・ショート集といった感じでしょうか。
 明確な幽霊や怪物が登場する作品もあれば、SF的なテーマを扱った作品、怪奇現象の説明が特になされずに終わる不条理風味の作品などもあり、バラエティに富んでいますね。

 一番印象に残るのは「マチルダ・スミスの目」でしょうか。一見、何の変哲も無いように見える独身の老婦人マチルダ・スミス。優しいおばあさんと思われている彼女をウィーラー警部は疑っていました。周囲で犯罪容疑者の不審な死が続くのみならず、警部自身の命を狙う事件も発生していました…。
 恐るべき犯罪に関わっているらしい老婦人が描かれるのですが、そこにSF・超自然風味の味わいも加えられているのがユニークなところですね。

 あと面白く読んだのが「砂漠の城」「空白の二時間」

 「砂漠の城」は、伝説的な城をめぐる奇談です。ハムーン沼の北にある砂漠に、何世紀も前に大富豪ノーローの手によって建てられたという城。伝説的な城を求めてそこに向かう冒険家は数知れないものの、そこから戻ってきたものはいませんでした。
 飛行機で現地に向かったジョーとテッドは、ようやく城を発見しますが、それと同時に思いもかけないものを見つけます…。
 誰もが探り出せない伝説的な砂漠の城、そこには恐ろしい秘密があった…という、怪奇味あふれる冒険奇談です。

 「空白の二時間」はこんな物語。殺人の容疑者として追われ続ける男コー・セラーズ。セラーズは決まって九時に食堂に現れて、十一時にある場所で姿を消すというのです。彼を一か月半近くも尾行し続けるロジーはしかし、決定打となる証拠を見つけられずにいました。ロジーは薬を使ってセラーズを眠らせることに成功しますが…。
 犯罪者が過ごす謎の二時間の秘密について語られる不条理スリラーです。結局何が起こっていたのかは判明しないあたり、<リドル・ストーリー>の一種としても読める作品ですね。

 短篇集の収録作品がバラエティ豊かなのはもちろんなのですが、収録された『マルペルチュイ』『恐怖の輪』『四次元』と、三作品それぞれ著者の違った側面が味わえる、非常に満足感の強い作品集になっているかと思います。


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永遠の平日  アニー・ドルトン『金曜日が終わらない』

金曜日がおわらない (文研ブックランド) 単行本 – 2004/6/1


 アニー・ドルトン『金曜日が終わらない』(岡本浜江訳 文研出版)は、時間に閉じ込められ、金曜日を繰り返すことになった少年を描く作品です。

 レニー・ブラウンは、両親の期待に対して十分に応えられていないことにプレッシャーを感じている少年でした。ある金曜日、様々なトラブルや事件が積み重なり、コラージュの授業中にストレスを爆発させた直後、レニーの前に落ちたコラージュ用の切れ端の文字は「エーキューにきんようび」を形作っていました。
 その日の夜、眠りについたレニーが目覚めると、目覚まし時計は再び同じ日付と金曜日を示していました。全く同じ出来事が起こる金曜日を体験したレニーでしたが、起きるたびにまた同じ曜日が繰り返されるのを見て自暴自棄になっていきます…。

 何らかの原因(おそらく主人公のプレッシャー)で、とある金曜日を繰り返すようになってしまった少年を描く、いわゆる<ループもの>作品です。
 もともと両親の期待に対して、自分には大した才能がないことを自覚してやさぐれているレニーは、学校でも不良ぶった少年たちとつるんでいます。
 成績も悪く、両親との仲もあまりうまくいかなくなっていたのです。そうしたプレッシャーやストレスがループ現象を引き起こしてしまうわけですが、諦観から自暴自棄になり、やりたい放題のことをしたりすることにもなります。

 しかし、同じ一日を繰り返している内に、周囲の人物にもそれぞれの事情があることや、悩みや苦しみを抱えていることに気づき始め、彼らを手助けすることによって、一日を変えていこうと考えるようになるのです。
 その日に起こるトラブルを未然に防ごうとする試みはともかく、授業を何度もじっくり聞くことによって学問の面白さに目覚め始める、という展開は面白いですね。
 ループを抜け出す条件は示されないため、主人公レニーが良いことをしても時間から抜け出せるかどうかは分からないのですが、純粋に物事を良い方向に変えていきたいと考える展開には清涼感があります。

 小さな出来事はつながっていて、何かを少し変えただけでも物事を変え得る、日常生活で少し視点を変えただけでも色々なことに気づける、など、真摯なメッセージが埋め込まれていて、短めの作品ながら、読み応えのある作品になっています。


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友情と呪い  井上悠宇『僕の目に映るきみと謎は』

僕の目に映るきみと謎は (角川文庫) 文庫 – 2020/9/24


 井上悠宇の長篇『僕の目に映るきみと謎は』(角川文庫)は、親友に渡さなければ死んでしまう「トモビキ人形」をめぐって、霊能力者の少年少女のコンビが謎を解くというオカルト・ミステリです。

 女子高生、祀奇恋子(まつりぎこうこ)は、5W1Hを駆使した「除霊推理(オカルトトラッキング)」によって怪異を祓う霊能力者。彼女は学校で、危険な怪異を感知します。幼馴染である千夜真守(せんやまもる)は、上級生である赤坂美紅がトラブルを抱えていることに気づきます。
 美紅は親友の櫛木藍花から、トモビキ人形と言われる呪いの人形をもらったといいます。トモビキ人形を受け取った者は、次の友引の日までに親友に渡さないと死んでしまうといいます。現に藍花は死んでおり、それは藍花の親友で、自殺したという清瀬紫理から人形を受け取ったせいではないかというのです。美紅の命を救うため、恋子と真守は、人形について調査を進めることになりますが…。

 呪いの人形をめぐるオカルト・ミステリ作品です。この人形「トモビキ人形」は、受け取った者が親友に渡さないと死んでしまうという呪いを持っているらしいのです。受け取った少女美紅の命を救うために、探偵役の二人が人形や呪いについて調べていくことになります。
 ヒロインである祀奇恋子は、霊能力者で絶大な力を持っているのですが、その力は事件の「5W1H」を調べることが条件、怪異の正体を暴くことによってのみ発動します。しかも日常生活では霊的に無防備で、ふとしたことでも死んでしまう恐れがあるため、具体的な調査に赴くのは相棒である真守の役目となります。
 また、こちらの真守も特殊な能力の持ち主で、彼の視界の中では怪異が力を発揮できなくなってしまうのです。二人が互いの欠点を補いあって探偵していく、というユニークな設定になっています。

 調査を進めていくうちに、いろいろな謎が複雑に絡み合っていくことになります。櫛木藍花は「親友」に人形を渡したはずなのになぜ死んだのか? 清瀬紫理は本当に自殺だったのか? 人形の呪いは本当に「親友」であることが条件なのか? そしてそもそも「親友」とは何なのか? といったところをめぐり、少女たちの過去や人間関係の軋轢が解き明かされていく過程はサスペンスフルですね。
 後半では、人形の呪いが生まれることになった事件がクローズアップされ、呪いの規模もさらに拡大していくことになります。

 オカルト的な諸事象が実在する世界を舞台にしたミステリ作品で、怪異現象、霊能力、呪いなど、超自然現象が発生するのですが、それらが飽くまで論理的に取り扱われていくのが特徴です。つまりは、主人公たちの勝利条件が「理屈で怪異を解き明かしたら勝ち」というわけですね。
 理屈で怪異を暴いていくので、怖さがあまりないのでは、と思いがちなのですが、これがなかなか怖いのです。死に直結する呪いが相手であり、一歩間違えれば当事者だけでなく、周囲の人物が死んでしまう可能性もあります。しかも条件によっては、不特定多数の人間が死んでしまうのです。
 ただ、呪いや怪異にも一定のルールが存在するため、それが分かりさえすれば…という、合理的な対応策があるのです。手探りの状態で世界のルールを探っていく過程が抜群に面白くなっています。
 ホラーとミステリ、どちらも好きな方にお勧めしたい作品です。


テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

リドル・ストーリー補遺
 <リドル・ストーリー>とは、物語中で提出された謎が解決されないままに終わる物語ジャンルです。以前に記事をまとめたこともありますが、それ以降に読んだり再読した<リドル・ストーリー>、及び関連作品をまとめて紹介しておきたいと思います。


フランク・R・ストックトン「女か虎か」(紀田順一郎訳 紀田順一郎編『謎の物語』ちくま文庫 収録)
 その王国では、絶大な権力を持つ王のもと、ある裁きが行われていました。それは闘技場で罪人に二つの扉のうち、どちらかを選ばせるというもの。
 片方には虎がおり、こちらの扉をあければ食い殺されてしまいます。もう片方には美女がおり、こちらを開ければ、強制的にその娘と結婚させられるのです。
 王女と恋をした罪で罪人となった若者は、裁きにかけられることになりますが、王女はその権力を使用し、二つの扉のうち、どちらに虎がいるかを知ります。王女は若者に合図をしますが、実際に現れたのは女だったのか、虎だったのか?
 〈リドル・ストーリー〉の代名詞ともいうべき作品です。明確に二つの選択肢が示され、どちらも同じぐらいあり得る…と思わせる、優れた設定の作品です。


フランク・R・ストックトン「三日月刀の督励官」(紀田順一郎訳 紀田順一郎編『謎の物語』ちくま文庫 収録)
 若者が裁判にかけられてから一年ほど後、遠い国から使者がやって来ます。裁判の結末を教えてほしいという使者に対し、役人はもう一つのエピソードを話し出します。
 ある国の王子が、王に対し、宮廷の侍女の誰か一人を花嫁にほしいと申し出ます。王は、王子に目隠しをしたうえで、侍女を進呈し結婚式をあげさせます。その後、花嫁を別の四十人の侍女と一緒にしてから、王子の目隠しを取り、自分の花嫁を連れ出しなさいと命令します。ただし、間違って他の女を連れ出そうとしたら、王子の命はないのです。
 四十人の侍女は同じような衣装をつけており、身動きをしてはいけないと王様に厳命されています。ただ、二人の侍女のみに、表情に変化が現れたのを王子は見て取ります。一人は微笑み、一人は眉を寄せています。王子が選んだのはどちらか? このエピソードの答えを当てられたら「女か虎か」の結末を教えようと言うのですが…。
 作者ストックトン自身による「女か虎か」の続編です。〈リドル・ストーリー〉の解答が〈リドル・ストーリー〉になっているという、なんとも人を食った続編です。
 正編と同じく、女性はこういう場合、どんな反応を示すものなのか? という設問になっており、どちらもあり得る…と考えられるところがにくい作品ですね。


ジャック・モフィット「女と虎と」(仁賀克雄訳 紀田順一郎編『謎の物語』ちくま文庫 収録)
 ヴァチカン図書館で司書を務めるチャールズ・セヴィアは、ストックトンが「女か虎か」についてのアイディアをローマの古書研究家から得たということを知り、研究を重ねた結果、ストックトンの物語に登場する王はヘロデ・アンティパスであり、王女とはサロメであることを確信します。
 その後、セヴィアはヘブライ文字で書かれた羊皮紙文書を発見します。それは、大祭司カヤパの娘ミリアムが父にあてた手紙であり、「女か虎か」の事件の真相を窺わせるものでした。
 ミリアムはギリシャ人奴隷のイアソンと相思相愛になりますが、サロメ王女はイアソンを見初め、自分のものにしたいと考えます。
 自らの生まれから野心を抱えるイアソンは、サロメの寝室に侵入した罪で「女か虎か」の刑を処されることになってしまいます。サロメにかけあったミリアムは、イアソンを助けミリアムと結婚させるというサロメの言葉を信じることになりますが…。
 アメリカの脚本家モフィットによる、ストックトン「女か虎か」についての解決篇です。
 物語に登場する王はヘロデ、王女はサロメであった、という設定で展開される物語です。作品は、もっぱら受刑者イアソンに恋するミリアムの視点で語られます。ストックトンの原作ではほとんど語られなかった、登場人物の性格や過去など、キャラクターの肉付けがされており、物語として厚みを増しています。
 サロメが意外に善人で、ハッピーエンドになるのかと思いきや、思いもかけない結末が待ち構えています。イアソンはともかく、純真な少女であるミリアムを襲う運命は悲劇的で、後味はちょっと悪いですね。
 解決を求められて書いた続編がまた〈リドル・ストーリー〉になっていたという原作者ストックトンとは異なり、ちゃんと結末が付けてあるところが評価される所以でしょうか。解決の一つの形として、なかなか上手い作品だと思います。


福永武彦「女か西瓜か」『加田伶太郎全集』扶桑社文庫 収録)
 夏の海岸にやってきた雄ちゃん、西川君、ハジメ君の中学生三人組。ハジメ君は、近くに立ててあったビーチパラソルの中をじっと観察していました。パラソルの下には胸板の厚い日焼けした男と小柄な若い娘の二人がおり、西瓜を食べていました。さっきまで見当たらなかった西瓜が、いつの間にか現れたことに対して、ハジメ君は手品のようだと話します。やがて男は女を砂に埋め始めます。仲のいい恋人だと考えたハジメ君は関心を失って泳ぎ始めます。
 元の場所に戻った三人は、先ほどの男から西瓜を食べないかと誘われます。砂に埋もれた西瓜を指し示した男は、余興として西瓜割をやるといいと言い、ナイフを渡します。面白がった中学生たちはナイフで西瓜割をやり出しますが、ハジメ君は恐ろしい想像をしていました…。
 男が女を殺した…、もしくは中学生たちに殺させようとしていたのではないか、という疑いが持ち上がるミステリ作品です。結末がはっきり示されないため、ハジメ君の想像が当たっていたのかそうでないのかは分からないようになっています。
 ちょっとサイコ・スリラー味もあって、怖い作品ではありますね。都筑道夫の解説によれば、作中に手掛かりが隠されており、よく読むと真相が分かるようにはなっている…ということです。


都筑道夫「即席世界名作文庫 別巻一 ストックトン集 女か虎か」『悪夢図鑑』桃源社 収録)
 ストックトン「女か虎か」を原文で読んだ杉田省造は、小説の結末が気になり、もしあなたが小説の王女だったらどちらの扉を若者に教えるかと、たびたび女性に聞くようになっていました。答えを教えてくれる女性が多いなか、答えをはぐらかしていた市村しず江に惹かれ、彼女と結婚することになります。
 しかし、何年経っても、しず江は問題の答えを教えてくれません。結婚四年目、例の質問をきっかけに別の女に恋するようになった省造は、しず江と別れることを決心します。省造は、しず江に対してある提案をしますが…。
 世界の名作小説のパロディーをまとめたシリーズ「即席世界名作文庫」の一篇です。ストックトン「女か虎か」に執着した男が、それをきっかけに女と結婚し、またそれをきっかけに分かれることになる…という短篇です。
 女は「女か虎か」の答えを話してくれないのですが、男が最終的に持ち出す手段によって、その答えが分かる、という洒落た趣向です。
 「女か虎か」の問題は、結局のところ、「女ごころの謎をとけ」という形に集約されるという指摘は、なるほど、という感じですね。


小松左京「女か怪物(ベム)か」『御先祖様万歳』角川文庫 収録)
 その惑星の大物であるP・ゴッドフレイ博士は、ブランディを口にはこびながら客たちに話をしていました。話の途中で見知らぬ美しい女性が現れますが、客たちは皆が理想の女性だとひそかに思っていました。
 博士はストックトンの「謎小説(リドル・ストウリイ)」である「女か虎か」と似たような話を聞かせようと、話を始めます。五十年ほど前、事故のせいで、まだ若いジムはその惑星に一人取り残されることになります。たった一人残され、暇つぶしもなくなってしまった彼は、理想の女性の姿を想像の中で描き出すようになります。
 アルコール中毒になりながらも想像を続けた結果、とうとう理想の女性、ベアトリスが姿を現します。理想の女性の出現に喜ぶジムでしたが、いつの間にかベアトリスの体がドロドロしたものに変わっているのに気が付きます。どうやら酒の効果がある間にだけ、それは女性に見えるようなのです。
 ある日、ベアトリスがいるらしい部屋をへだてるカーテンの前で、ジムは光線銃を持って立っていました。部屋にいるのは女なのか、怪物なのか…?
 ストックトン「女か虎か」からインスピレーションを得て、舞台を宇宙に取ったSF短篇作品です。アルコールと妄想の力で美女をつくりあげた男を描く作品です。美女の正体が「怪物」であることに気づいた男が、その美女をあきらめることもなかなかできない、というお話になっています。
 ジムがカーテンの向こうにどちらを見たか?という〈リドル・ストーリー〉になっているのですが、結末において、さらに別の形で「女か、怪物(ベム)か」の選択が迫られるという、二重の形の〈リドル・ストーリー〉となっています。これは凝っていますね。


E・D・ホック「女かライオンか」(谷田貝常生訳「ミステリマガジン1979年12月号」早川書房 収録)
 石油で潤う中東の国アンゴ・ファールにやってきたエレクトロニクスの専門家コンラッド。彼は国の統治者に呼ばれて、隠しマイクと盗聴記録装置を取り付けることになっていました。コンラッドと気の置けない会話をし、アメリカで流行するビデオ・ゲームをするなど、首長は、一見気さくな人物でしたが、リブ活動にかぶれた娘について嘆いていました。
 首長の部下アルジア・モハッドに監視されていたコンラッドは、彼との会話から、自分が装置を取り付け終わったときに殺される計画であることを察知します。
 ある夜、襲ってきたアルジアを返り討ちにしたコンラッドは、首長に掛け合います。首長は助かるためには自分とゲームをしなければいけないと話します。負けたらライオンの餌食、勝ったなら命を助ける、ただし娘の夫として…。
 「女か虎か」の舞台を中東、虎をライオンに置き換えた作品です。ただし〈リドル・ストーリー〉にはなっておらず、純粋な冒険譚となっています。「女か虎か」のような舞台設定を現代で実現するために、絶対的な権力者として中東の君主を登場させたものでしょうか。
 主人公コンラッドは美しい首長の娘との結婚は悪くないと考えているものの、娘の方は彼の過去の離婚歴を知り、彼のことを嫌っている、というのも面白いところですね。


生島治郎「男か?熊か?」『死は花の匂い』旺文社文庫 収録)
 新聞の身上相談欄を受け持つことになった精神医学者の「ぼく」のもとには、直接、家に相談に訪れる人間も多くなっていました。その一人、畑中権三郎は、ある相談を持ち掛けてきます。彼は趣味として始めた猟をするために入った山の中で、熊と思われる黒いものに対して引き金を引き、結果も見ずに逃げ帰ってきたというのです。「助けてくれ」という人間の悲鳴を聞いたような気もするという畑中は、自分が撃ったのが熊だったのか人間だったのかを確かめないことにはノイローゼになってしまうと告白します。
 畑中と共に、現場である山の中へ出かけることになった「ぼく」でしたが…。
 山の中で男が撃ったのは熊だったのか、人間だったのか、という謎と共に、男の話自体が本当だったのか、妄想だったのか、という可能性も示唆されるという〈リドル・ストーリー〉です。
 後半では、訴えていたことが事実かどうかは別として、畑中の精神状態がおかしくなっており、さらに語り手の「ぼく」もまた遺伝的な精神分裂の気味があるため、精神状態が普通でなくなってくる…という、非常に不穏な作品になっています。


家田満理「女も、虎も……」(阿刀田高編『ショートショートの花束4』講談社文庫 収録)
 王女と懇ろになった罰として、家臣の男は、美女か人食い虎か、どちらかが現れる扉を一つ選ばされることになります。しかし、王は娘に執念深く恨まれることを恐れ、二つの扉のどちらにも美女を入れることを、腹心の家臣に命令します。
 一方、恋人の男に飽きてきていた王女は、別の娘と男が結ばれるのを腹立たしく思い、二つの扉のどちらにも虎を入れるようにと家臣に命令します。
 王と王女、二人から矛盾する命令を受けた家臣は悩むことになりますが…。
 フランク・R・ストックトン「女か虎か」のストーリーを前提に、当事者たちの心理を描いた作品です。ストックトンの原話では最後まで謎だった王女の心理と、こちらもほとんど触れられない王の心理を描いているという、目の付け所の面白いオマージュ短篇です。
 家臣の取った策が強烈で、おそらく男を待つのは不幸のみ、という残酷度の高い作品になっています。


芦辺拓「異説・女か虎か」『迷宮パノラマ館 ヴァラエティ作品集』実業之日本社 収録)
 恋人が、美女と虎、どちらかが入った二つの扉の刑に処せられることになり、王女はついにどちらの扉に虎が入っているかを突き止めます。しかし、残忍な一面も持つ王女は、恋人が他の女と一緒になるのには耐えられません。悩む王女と同様に、恋人の男も悩んでいました…。
 王女はどちらの扉を指し示し、男はどちらを選んだのか? と思いきや、唖然とするような結末が待っています。ナンセンス味が強いですね。


芦辺拓「女も虎も」『迷宮パノラマ館 ヴァラエティ作品集』実業之日本社 収録)
 男が開けた扉からは、女も虎も、何も飛び出してきませんでした。いったい何が起こったのか…?
 王女と男をくっつけまいと、考えに考えた王の策略が思わぬ結果を生む、という作品です。こちらはユーモア度高めですね。
 ちなみに、この『迷宮パノラマ館』という本、いろんなジャンル・形式の作品を集めた「ひとり雑誌」的コンセプトの本になっています。モーリス・ルヴェルやL・J・ビーストンのオマージュ短篇などもあって、楽しいですね。


東野圭吾「女も虎も」『あの頃の誰か』光文社文庫 収録)
 殿様の妾のお猟に手を出した罪で、牢屋に捕らえられ処刑を待っていた真之介。処刑方法は特殊なものでした。三つの扉の前に立たされ、好きな扉を開かされるのです。一つには絶世の美女が入っており、その扉を開いたら彼女と結婚しなければいけません。また一つには、人食い虎が入っており、その扉を開ければ食い殺されてしまうのです。そして最後の一つには何が入っているかは分かりません。
 処刑の寸前にお猟から紙を渡された真之介は、そこに三番の扉を選びなさい、と書かれているのを見ますが、逆にどの扉を選ぶべきか悩むことになってしまいます…。
 「女か虎か」の二つの扉を三つの扉に拡大したという、面白い発想の作品です。主人公は幸運だったのか不運だったのか、どちらとも取れる結末になっています。読み終えると、タイトルの「女も虎も」に対してなるほど、となる仕組みです。


高橋葉介「女か虎か」『夢幻紳士 幻想篇』早川書房 収録)
 青年は、夜の公園で女性と連れ立って歩いていました。しかしなぜここにいるのか、女性は誰なのか記憶がありません。血痕と死体の一部を見つけた青年に対して、女性は、近くの動物公園から逃げた虎による犠牲者ではないかと話します。
 アパートに着くと、女性は自分が青年の浮気相手であることを明かします。しかし彼女の夫は嫉妬深く、浮気現場を見つかったら、ピストルで殺されるかもしれないというのです。そんな時、ドアをたたく音が響きます。女性はピストルを持った夫に違いないと、ドアを開けさせまいとします。
 一方、ドアの外の声は、自分は青年の「連れ」だと言います。さらに、虎に食われた女の死骸を見たショックで、青年は虎を女性だと思い込んでいるのだと話すのですが…。
 高橋葉介の漫画作品〈夢幻紳士〉シリーズの一つ『幻想篇』の一エピソードとなる短篇です。
 記憶の怪しい青年が連れ立っているのは人間の女なのか、それとも猛獣の虎なのか? ストックトンの同名作品にインスピレーションを得たと思しい〈リドル・ストーリー〉です。
 この『幻想篇』を通しての主人公である青年は、もともと精神のバランスを崩して入院していたことがあり、常に記憶がはっきりしません。何かしらの衝撃を受けると、脳が勝手に物語を作ってしまうのです。
 自分の目には人間に見えているこの女性が本当に人間の女性なのか、猛獣の虎なのか? また、女の言うことを信じるのか、ドアの外から話しかける「連れ」の言葉を信じるのか? といった選択肢が示されます。
 いったん事件の解決がついた後にも、事件は本当にその通りだったのか疑問を持たせるような展開になっており、多重仕掛けの〈リドル・ストーリー〉になっています。
 ちなみに、この『幻想篇』、精神のバランスを崩した青年が、毎回何らかのショックで「物語」を作り出してしまうものの、彼の「守護者」である夢幻魔実也によって、その真相が明かされる…という構造になっています。それぞれのエピソードの出来もさることながら、全体を通しての完成度が非常に高い作品となっています。


クリーヴランド・モフェット「謎のカード」(深町眞理子訳 紀田順一郎編『謎の物語』ちくま文庫 収録)
 パリを訪れたニューヨークの住人リチャード・バーウェルは、〈フォリー・ベルジェール〉で美しい女性を目に留めます。女性は突然、彼の卓へフランス語の文章が二行書かれたカードを置いていきます。
 フランス語の読めないバーウェルは、泊っているホテルの支配人に訳してほしいと頼みますが、カードを見た支配人はバーウェルをホテルから追い出してしまいます。別の宿の主人からも追い出されてしまったバーウェルは、カードをいろいろな人間に見せて、書いてあることを確かめようとします。私立探偵に相談したところ、警察に拘留され、さらに裁判にまでかけられ、フランスを国外追放されてしまいます。
 カードを妻に見せると、二度と一緒に暮らしたくないと言われ、共同経営者の親友ジャック・エヴァリスからは絶縁されてしまいます。ある日ブロードウェイを走る馬車の中に、カードをくれた女性の姿を認めたバーウェルは彼女の住まいをつきとめますが…。
 女性からフランス語で書かれた謎のカードをもらった男が、理由も分からず不幸な目に会い続けるという不条理作品になっています。カードを見る相手によってその具体的な反応は異なるものの、共通するのは自分に対する嫌悪感のようなのです。カードにはいったい何が書かれていたのか…?
 数ある〈リドル・ストーリー〉の中でも、いろいろ想像をたくましくさせるような設定の作品ですね。


クリーヴランド・モフェット「続・謎のカード」(深町眞理子訳 紀田順一郎編『謎の物語』ちくま文庫 収録)
 ベテランの開業医である「私」は、不吉な〈土星宮〉の手相を持つ患者リチャード・バーウェルに関心を持ちます。彼は慈善家として知られていましたが、ある日、背後から拳銃で撃たれてしまいます。
 しかも、彼には殺人容疑がかかっているというのです。瀕死のバーウェルから、謎のカードにかかわる過去の事件を聞いた「私」は、彼からカードを託されます。バーウェルの死後「私」のもとに現れた浅黒い肌の眼鏡の紳士は、著名な学者であり、かってバーウェルにカードを渡した女性の兄だといいます。
 紳士は、バーウェルと謎のカードの真相について語り始めます。バーウェルは生まれつき邪悪な悪霊に憑かれており、カードは本人にそれを自覚させるために作られたというのです…。
 不条理度の高い〈リドル・ストーリー〉「謎のカード」の作者自身による解決篇です。カードの被害者であった男は悪霊に憑かれた邪悪な存在であり、カードはその真実を示していたために、それを見た人々から恐れられていたという設定の怪奇小説になっています。
 続編では完全に超自然的な要素が導入されています。本編にもどこか超自然的な香りがしていただけに、その意味では「正統的」な続編になっていますね。
 問題の人物バーウェルは、悪霊に憑かれた、生まれつきの純粋な悪であり、滅すべき存在、とでもいうような激烈な主張が繰り返されます。大量の犠牲者が出ていたことが判明するなど、かなり凄惨な話になっており、カードのギミックも含めて、オカルト的な雰囲気が強くなっています。
 正編からこの続編を続けて読むと、びっくりする読者もいるのではないでしょうか。


エドワード・D・ホック「謎のカード事件」(村社伸訳 山口雅也編『山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー』角川文庫 収録)
 暗号通信の専門家ランドのもとに、死んだ旧友の娘であるジェンマが久し振りに現れます。彼女はモデルとして働いているというのですが、先日パリで出会った不思議な事件についてランドに語ります。カフェーで見知らぬ男からフランス語らしき文字の書かれたカードを渡されたというのです。
 ホテルの支配人に何が書いてあるのか尋ねたところ、追い出されてしまいます。別のホテルの主人や、知り合いのカメラマン、翻訳の代理店社長など、幾人かに同じ問いを投げかけますが、全ての人間から何も教えてもらえないまま追い払われ、挙句の果てには警察に捕まってしまったといいます。
 実物のカードを見たいというランドとジェンマは、カードを取りに家に戻りますが、その途中でカードをよこした男が近くにいるのにジェンマは気づきます。しかし男は突然倒れ、急死してしまいます。加えて、家から持ち出したカードからは文字が消えてしまっていました…。
 クリーヴランド・モフェットの〈リドル・ストーリー〉「謎のカード」の続編(解決編)となる短篇です。
 モフェット自身の続編「続・謎のカード」は、超自然的な怪奇小説になっていることで評判が悪かったそうですが、ホックの作品では、超自然は排除され、合理的な解決が図られたミステリ短篇となっています。
 イギリス諜報機関の暗号通信部《ダブル=C》部長を務める、暗号の専門家ジュフリー・ランドを主人公にしたホックのシリーズものの一篇です。カードには暗号が書かれており、その内容がカードを見たものに不穏な行動を取らせていた、という本格謎解きものになっています。
 モフェットの話の直接的な続編ではなく、現代において似たようなシチュエーションに遭遇した若い女性の事件として、再構成がされています。また作中で、探偵役のランドが、モフェットの「謎のカード」事件に言及するシーンもありますね。
 解決編として優れた作品なのですが、完全に解決されてしまうと、本編のミステリアスさが消えてしまうという意味で、ちょっと物足りない感覚はありますね。モフェット自身の続編の方が、オカルト的な謎が残っており、個人的にはこちらの続編の方が好きでした(個人的な嗜好によるところではありますが…)。


A・ハックスリー「ジョコンダの微笑」(太田稔訳 紀田順一郎編『謎の物語』ちくま文庫 収録)
 教養豊かな紳士ハットン氏は、病弱な妻を抱えながら若い娘ドリスを愛人としていました。さらに、ミス・スペンスとは友人づきあいをしているつもりのハットン氏でしたが、ミス・スペンスの方ではハットン氏に恋をしていました。
 ミス・スペンスと妻との昼食のあと、外出先でハットン氏は医者のリバードに会い、妻のエミリーが亡くなったことを知ります。その直後に、ミス・スペンスに結婚を迫られたことから、ハットン氏は彼女の元から逃げ出してしまいます。
 裏切られたと感じたミス・スペンスは、ドリスと結婚するために、ハットン氏が妻を毒殺したのだと言いふらし始めます…。
 相思相愛だと思い込んでいた男性がそうでなかったことが分かり、復讐心を抱く女性を描いた作品です。その復讐心が男性を悲劇的な結末に追い込んでしまうという点に残酷な味わいがあり、その点が〈奇妙な味〉作品と評価される部分でもありましょうか。
 ハットン氏は、妻がいながら愛人を作り、なおかつミス・スペンスに思わせぶりな態度を取るなど、教養人ではありながら、あまり褒められた人間ではありません。ですが、無実の罪で殺されるほどのことをしたかというと微妙なところで、かなりアンモラルな物語ではありますね。
 エミリーを毒殺したのは、夫のハットン氏なのか、それとも別の誰かなのか? というミステリ味があるのですが、実のところ、エミリーを毒殺したのは、ほぼミス・スペンスに間違いないようです。その意味では犯人は「謎」ではありません。
 男性への恋心が憎悪に変わるミス・スペンスの心理、過去に多くの女性とつきあいながらもどこか満たされないハットン氏、年上の男との不倫の恋に身をやつすドリスなど、登場人物それぞれの心の動きが独特で、そこに割り切れないものがある、という意味での「謎」が主眼になった作品ともいえるでしょうか。


ロード・ダンセイニ「野原」(原葵訳 紀田順一郎編『謎の物語』ちくま文庫 収録)
 ロンドンでの情景に倦んだ「私」は、美しい野原を見つけ、散策することになります。しかし二回目に訪れた際に、その場所に不吉なものを感じます。過去にその場所で何かがあったのではないかと、詳しい男に訊ねてみますが、特別な出来事はなかったといいます。それでは野原の苦しみがやってくるのは、未来からではないのかと「私」は考えます…。
 美しさに満ちた野原に立ち込める不吉な気配の原因とは何なのか? それが過去ではなく未来に起こる出来事に起因する、というのは面白いですね。さらにそれを解明するのが「詩人」であるというのも、ダンセイニらしい詩的な発想です。


サキ「宵やみ」(中西秀男訳 紀田順一郎編『謎の物語』ちくま文庫 収録)
 ノーマン・ゴーツビーは、公園のベンチで元気のない年配の男を見かけます。その男が去った直後に現れた若い男が怒鳴っているのを見たゴーツビーは、男から話を聞きます。
 泊まるつもりのホテルがつぶれており、別のホテルに宿をとったものの、石けんを買おうと外に出て気が付くと、ホテルの名前も通りも覚えていないというのです。お金を持っていないという彼に、ゴーツビーは証拠となる石けんを見せてほしいと言いますが、男はなくしてしまったと話します。中途半端な詐欺だと考えるゴーツビーでしたが…
 一見、詐欺だと思った若い男の話が実は本当だったと見せかけて、やっぱり詐欺だった…という話に読めます。石けんが見つかったことから、ゴーツビーは男の話が本当だったと信じるのですが、実のところ、若い男の話が本当なのか嘘なのかは分かりません。
 最後のオチの部分で、さらに解釈の可能性が広がってしまうという〈奇妙な味〉のお話になっています。


木々高太郎「新月」(紀田順一郎編『謎の物語』ちくまプリマーブックス 収録)
 弁護士の「私」のもとに訪ねてきたある父子。父親によれば、細田圭之助という五五歳の実業家のもとに嫁いだ娘の斐子が殺された可能性があるので、その慰謝料を取りたいというのです。
 細田夫妻が湖を訪れた際、泳ぎだした斐子が溺れるのを見捨てて細田はボートで遠ざかったといいます。結婚前に斐子と付き合っていた青年、物集がその光景を目撃していたというのですが、ただ、物集自身にも犯罪の動機がありました。
 細田の家に呼び出された「私」は、細田が自分が斐子を殺したのかもしれない、と聞いて驚きますが…。
 歳の離れた若い妻を見殺しにしたという容疑を受ける初老の夫、彼は本当に妻を殺したのだろうか?
 嫉妬による殺人だと糾弾する家族や元恋人、それを否定するものの、あるいはそれは「殺人」だったのかもしれないと考える男の心理の謎を描いています。


稲垣足穂「チョコレット」(紀田順一郎編『謎の物語』ちくまプリマーブックス 収録)
 ある日、三角帽子をかぶった妖精ロビン・グッドフェロウに出会ったポンピイは、相手が、自分はロビンではなく、ほうきぼしであると言い張るのを聞いて驚きます。何にでもなれるということを証明してほしいという願いに答えて、ロビンはチョコレットの中に入ってしまいます。
 何も反応しなくなってしまったロビンに対して、ポンピイはチョコレットを壊してみようとしますが、硬くなったそれは全く壊すことができません。鍛冶屋に持ち込んで壊してもらおうとしますが、大の大人が数人がかりでも壊すことができないのです…。
 妖精の入り込んだチョコレットを何とか壊そうとするという、愉快なファンタジー作品です。クライマックスの大爆発はなんともインパクトがあります。
 妖精が「ほうきぼし」のふりをしたロビンだったのか、それともロビンのふりをした「ほうきぼし」だったのかが分からない、という〈リドル・ストーリー〉的な結末も面白いですね。


上田秋成「青頭巾」(石川淳訳 紀田順一郎編『謎の物語』ちくまプリマーブックス 収録)
 大徳の僧、快庵禅師が下野の富田という里で一夜の宿を求めようとしたところ、周囲の人間が鬼が来たと言って騒ぎ出します。理由を聞いたところ、山の上の寺の住職が可愛がっていた童子を亡くし、妄執のあまりその死体を食べて鬼と化したというのです。
 快庵は自らその鬼に会い、教化しようと、永嘉作の証道歌の一節を彼に授けます…。
 有名な『雨月物語』の一篇。妄執のあまり鬼となった僧を教化しようとする禅師の物語です。一年後に再会した僧が執念を捨てて消え去るのですが、受け取った歌から彼が何を得たのかは分からない…という結末になっています。
 また、僧がすでに死んでいたのか、それまで生きていて、禅師との再会によって禅の本義が成就して成仏したのか、どちらとも取れるようになっていますね。


法月綸太郎「使用中」『しらみつぶしの時計』祥伝社文庫 収録)
 作家の新谷と若手編集者の桐原は、喫茶店で打ち合わせをしていました。密室がテーマの短編を書いてほしいという依頼に対して、新谷はスタンリイ・エリンの「決断の時」を引き合いにだして説明しますが、桐原がエリンを全く知らないことに驚きます。
 「決断の時」の概要を説明する新谷でしたが、突然の腹痛に見舞われ店の外の手洗いに駆け込みます。二つある個室のうち、片方が故障中と書かれていたため、もう片方に入って用を済ませた直後、新谷は突然襲われ殺されてしまいます。
 一方、桐原も新谷を待っている間に腹痛を覚え、手洗いに駆け込みます。用を済ませた直後、新谷の死体を見つけた桐原は驚きますが、そこに犯人を示す証拠を見つけ、瞬時に自分の置かれた立場を認識することになります。このまま外に出れば、証拠を取りに戻った犯人に殺されてしまうのではないか?
 さらに思わぬ事態も発生し、そのまま個室にこもっていると危険な状況に桐原は追い込まれてしまいます。個室を出るべきか、それとも出ない方がいいのか、桐原は迷うことになりますが…。
 心理的な「密室」を〈リドル・ストーリー〉に仕立てたという作品です。犯人の動機もユニーク、死体に気づかず用を足してしまう編集者など、ブラック・ユーモアもたっぷりです。作中で詳細に言及されるように、スタンリイ・エリンの名作「決断の時」に触発されたと思しいですね。
 エリン作品における「懺悔室」が、この作品では「手洗いの個室」に置き換えられているなど、パロディ味も強いです。作中、作家の新谷が話す、「決断の時」は「密室もの」のパロディでもあるのではないか、という指摘はなるほどという感じです。
 エリンを知らない編集者に対してあきれ返る作家を描くシーンなど、ミステリマニアには楽しい作品になっています。


田中小実昌「えーおかえりはどちら」『幻の女 ミステリ短篇傑作選』ちくま文庫 収録)
 渋谷道玄坂裏にあるバー。そこはママのレン子のほか、ホステスはユミという女の子が一人の小さなバーでした。レン子は、トイレから帰ってきたユミに、トイレに誰もいなかったのか質問します。先ほど男性客がトイレに行ったきり戻ってこないというのです。しかもトイレは一人用でした。
 ホステス紹介の件でたまたまバーに呼ばれていた「おれ」は、トイレを確認しますが、そこには誰もいませんでした…。
 小さなバーのトイレから消えてしまった男性客の謎を描いた〈奇妙な味〉の作品です。トイレから男が消えた謎については、一見合理的な解決がなされるのですが、その後も、その男性客らしい男の事故死やママ自身の失踪など、不可思議な事件が相次ぎます。
 結末において、再びバーのトイレの謎がクローズアップされてくるという、妙な読み味の作品になっています。ママの失踪については合理的な解釈も可能なのですが、ママも男と同様トイレから消えたのではないかという可能性が示されます。
 人間消失の謎については、ほぼ超自然現象としか読めないようになっているのですが、作品中では深く追及されず、あっさり終わってしまうところも異色です。


マヌエル・ペイロウ「わが身にほんとうに起こったこと」(内田吉彦訳 J・L・ボルヘス選『アルゼンチン短篇集 バベルの図書館20』国書刊行会 収録)
 本の取次業をしている「私」は、友人の事務所を出た後、十時ごろにある男とすれ違います。何の変哲もない男になぜか注意を惹かれるものの、そのままやり過ごした「私」は、その直後に、またもや前から来た先ほどと同じ男の姿を見かけて驚きます。しかも男は前とは違う服装をしていたのです。
 さらにもう一度、違った服装をした同じ男とすれちがった「私」は、別の日に全く同じ体験をします。一か月にわたって同じ実験を繰り返した「私」は、どうやら男が過去から現在に向かっている姿を見ていることを確信します。
 見知らぬその男ではなく、自らに関係のある人物の過去を見ることも可能なのではないかと考えた「私」は、男の後をつけ、彼の協力を得ようと考えますが…。
 見知らぬ男と何度も遭遇した語り手が、男の過去を見ていることを悟り、自らも過去に入り込めないかと考えるという、時間テーマの幻想小説です。
 男を利用して過去に入り込みたいと考える語り手ですが、その計画はある存在によって邪魔されることになります。後半の展開は不穏かつ不気味で、ホラー小説としても読めますね。
 語り手の計画を邪魔する存在は何者なのか? 男はなぜ過去の姿を見せていたのか? 語り手の過去に何があり、なぜ過去を見たがるのか? など詳細なところが明かされないため、読み終わっても謎がいろいろと残る作品です。


江戸川乱歩「陰獣」『陰獣』角川ホラー文庫 収録)
 探偵小説家の寒川は、博物館で美しい女性、小山田静子と出会います。彼女は実業家小山田六郎の夫人でした。静子が寒川の探偵小説の愛読者であったことから二人は親しくなりますが、あるとき彼女から相談を受けます。
 結婚前に一時的につきあっていた男、平田一郎から復讐を仄めかす手紙を受け取ったというのです。平田は、陰湿で猟奇的な性質の男でしたが、その性質を活かした探偵小説を書き、作家大江春泥として人気を得ていました。しかし、このところ世間から姿をくらませていました。彼は静子を監視しており、その生命までも狙っているというのです。
 静子に惹かれていた寒川は、彼女を守ろうと考えますが、やがて静子の夫が川で死体となって発見されます…。
 かっての恋人である猟奇的な作家から、命を狙われる人妻を描いたサスペンス作品です。その作家、大江春泥は周辺に潜んで静子を監視しているらしく、日常生活だけでなく夫婦生活までもが覗かれているようなのです。静子の夫が死体となって発見され、春泥は自らが犯人であることを仄めかします。
 次に狙われるのは静子自身の命ではないか、ということで、寒川は彼女を守ろうとすることになります。
 事件の真相に対する推理が何度もひっくり返されるという作品になっています。最初は大江春泥(=平田一郎)が犯人に見えた事件が、別の人物の仕業ではないかとの推理が提出され、さらにそれがひっくり返されます。最後には、その最終的な推理もまた確証があるとは言い切れない…という形で結末が曖昧にされています。何通りかの解釈が取れるということで、ある種の〈リドル・ストーリー〉とも言える作品となっていますね。
 また、小山田夫妻がSMチックな遊戯を楽しんでいたこと、寒川と静子との倒錯した関係など、乱歩特有の官能的な描写も魅力です。
 作中に登場する探偵作家大江春泥は、明らかに江戸川乱歩自身のパロディーで、言及されるその作品も「屋根裏の遊戯」「B坂の殺人」「パノラマ国」など、自作をもじったタイトルとなっています。
 また乱歩の本名は平井太郎であり、春泥の本名平田一郎もそのもじりですね。「屋根裏の遊戯」(乱歩の実作としては「屋根裏の散歩者」)に倣って、屋根裏を探索するシーンがあるなど、乱歩ファンには非常に楽しい作品ともなっています。
 さらに、語り手である寒川も、やはり作者乱歩の分身ではあって、理知的な作風とされる寒川が猟奇的な作風の春泥を嫌っているあたり、自らの作家としての二面性を自己パロディー的に描いている節もあり、そうした意味合いでも面白い作品です。


ハンス・カール・アルトマン「解けない謎」(種村季弘訳『サセックスのフランケンシュタイン』河出書房新社 収録)
 ボストンから地中海に向けて出港した小帆船〈アレトゥサ〉号。船には十九人の水夫のほか、船長とその妻が乗り込んでいました。
 ジブラルタルの港口に船が到着し、検査のために税関の役人たちが船を訪れたところ、そこには人影が見当たりません。
 金銭は手付かず、船内にも異常がありません。唯一見つかったのは南米産のおまき猿だけでした…。
 船内から人間が消えてしまい、しかも船内自体にはほとんど異常がなかった…という奇談です。
 何が起こったのか全く解釈が示されないため、読者は唖然とするだけ、という短篇です。有名な〈マリー・セレスト号事件〉を思わせる内容ですが、極限まで情報を削いでいるのが逆に特色といえるでしょうか


小松左京「お召し」『物体O』ハルキ文庫 収録)
 ある朝の小学校で、授業が始まる時間になっても担任の吉田先生が現れません。職員室に向かった生徒によれば、先生が誰もいないというのです。先生だけでなく周辺の人間、生徒の家の親たちも含めて、一二歳以上の人間が姿を消していることが発覚します。
 最年長である小学六年生の生徒たちは、幼い子どもたちを集め、自分たちだけで自給自足の生活ができるように計画を立て始めます。天才児である山口くんの力で、食べていくのにある程度の見通しは立ったものの、大人でなければ操作できない機械や技術が多々あることも判明することになります。
 一二歳になればこの世界から消えてしまうことが分かっている小学六年生たちは、年下の子どもたちに、できる限りの知識と技術を教えようと考えますが…。
 ある日、一二歳以上の大人が世界から消えてしまい、取り残された子どもたちの奮闘を描く不条理SF作品です。
 異変前に円盤が目撃されたことも関係があるのではないかという推測はなされますが、大人たちが消えた原因は全く分かりません。当座、子どもたちは生き抜いていくために、協力して事に当たることになります。
 一二歳になると消えてしまう一方、病院では生まれたばかりの赤ん坊が突然虚空から出現するという現象が観測されていました。どうやら生まれた瞬間にこちらの世界に赤ん坊は転移してしまうらしいのです。
 必死で生きようとする子どもたちのサバイバル生活部分も面白いのですが、大人たちはどこに行ってしまったのか? 子どもたちが一二歳になるとどこに行くのか?という部分が全く分からないまま展開する物語は非常に不穏で、かすかなホラー味もある作品となっています。
 物語の形式も独特です。メインの物語は、子どもだけが取り残された現象について一生徒が書き残した手記、ということになっているのですが、この手記が三千年後に未来の人類によって発見される…という趣向になっているのも面白いところです。
 三千年後には、この「お召し」現象が解決されているのかと思いきや、その点については昔と変わらないようなのです。むしろ正確な知識が失われていて、独自の社会・世界観が作られているというあたり、かなり不気味な展開ではあります。
 円盤が言及されるあたり、異星人の仕業であるとも考えられますし、また作中で天才児の生徒がパラレルワールド説を述べたりと、いろいろな仮説は出されるのですが、真相は最後まで分かりません。非常に想像力をそそる一篇で、小松左京の傑作のひとつといっていいかと思います。
 ちなみに、萩尾望都が漫画化した『AWAY』という作品もあります。


筒井康隆「熊の木本線」『おれに関する噂』新潮文庫 収録)
 四つ曲という小さな町に上手い蕎麦があると聞いて、毛多線に乗ってその駅に向かった「おれ」。乗り合わせた髭の濃い男から、熊の木本線という単線に乗り換えれば4時間早く目的に着けるという話を聞いた「おれ」は髭男とともに乗り換えることにします。
 連絡の電車を4時間も待たなければいけないことを知った「おれ」は、「熊の木」で行われる髭男の親戚の通夜に誘われ、ついていくことにします。酒の入った親戚たちは「熊の木節」と呼ばれる踊りを踊り出し、笑い転げていました。
 やがて「おれ」にも踊りの誘いがかかり、見様見真似と出鱈目な歌詞で踊ることになりますが、その踊りを踊った途端に周囲が突然静かになっているのに気がつきます…。
 「おれ」が踊った踊りは何を表していたのか…? 山の中の一族の踊りと、それに見合わぬスケールの出来事が連動するという〈破滅SF〉作品です。
 しかも、踊りが原因で起こった(可能性のある)出来事が何なのかも全く分からず、その点で〈リドル・ストーリー〉としても読むことができる作品になっています。


飯城勇三『本格ミステリ戯作三昧 贋作と評論で描く本格ミステリ十五の魅力』(南雲堂)
 本格ミステリの色々な作家やテーマについての評論と、それと対になる形で創作された贋作小説を収録したという、ユニークな評論集です。
 〈リドル・ストーリー〉についての章では、《贋作篇》「英都大推理研VS「女か虎か」」《評論篇》「リドルとパズルの間」が納められています。

《贋作篇》「英都大推理研VS「女か虎か」」
 フランク・R・ストックトン「女か虎か」を読んだ推理小説研究会の四人の学生が、扉から出てきたのは女か虎かについて、それぞれの推理を話し合う、というお話です。
 「女か虎か」の解決の決め手となるのは、王女の性格(「自分の愛した男が他の女とくっつくのを許せる性格かどうか」)ですが、それについては、断定するほどの情報が作品には書かれていないということで、純粋に作品内の情報から推理するという形になっています。
 どの推理も面白いのですが、特に、王女と男それぞれの取り得るパターンを上げて、プラスマイナスの評価をつけるというのは面白い試みですね。解説によると、ゲーム理論を参照しているそうです。
 作中で展開される四通りの推理が、それぞれ異なった過程を踏みながらも、答えは皆同じになる…というのも面白い趣向です。
 なるほどと思ったのは「パズル」と「パズル小説のようなもの」とは別物であるという指摘。パズルでは人物描写はいらないが、小説では必ず人物描写が必要になり、そこに解釈が入り込む余地が生まれるというのです。

《評論篇》「リドルとパズルの間」
 ストックトン「女か虎か」とクリーブランド・モフェット「謎のカード」を俎上に上げて、これらの物語がミステリ的にどういう意味を持った作品なのか、ミステリジャンルに取り込まれてどのように変容したのか? という面を中心に論じられていきます。
 「謎のカード」は奇譚、「女か虎か」はパーティ上の余興の性格テスト用として書かれたので、もともとミステリジャンルとして書かれた作品ではない、というのは何気に重要な指摘ですね。ミステリとして書かれたエリン「決断の時」やバリイ・ペロウン「穴のあいた記憶」とは根本的に異っているのです。
 「謎のカード」に関しては、作者自身による解決篇が書かれていますが、それが超自然を用いた怪奇小説になっているため無視されてしまい、合理的に解決を図ったエドエワード・D・ホックの「謎のカード事件」などの方が重要視されているといいます。
 「謎のカード」がミステリジャンルに取り込まれてどうなったのかに関しては、「パリ万博で消えた母親」のような〈奇抜なシチュエーション〉になったと著者は言っています。確かにこの話、種明かしがなかったら〈リドル・ストーリー〉感が強いです。〈奇抜なシチュエーション〉が全て〈リドル・ストーリー〉になり得るかどうかは微妙ですが、なるほどという感じではありました。
 「女か虎か」は、読んだ人の反応を見るための性格テスト用として作られているので、王女の選択を推理するためのデータが一切提示されていないといいます。また、ジャック・モフィットによる続編「女と虎と」では、王女の性格にデータが追加されているので、解答が特定できるようになっているとのこと。
 「女か虎か」はミステリジャンルに取り込まれて何になったかというと「手がかりのない謎」だといいます。手がかりが(一見)存在しないように見える謎、ということで、全く手がかりのなかった「女か虎か」に手がかりが加えられることによって、本格ミステリが生まれる、という論理には膝を打ちました。
 リドル・ストーリーが終わった地点から本格ミステリが生まれる、というのは説明されてみると、なるほど、という感じです。
 正直、これほど理路整然と〈リドル・ストーリー〉について解読した評論は初めて読みました。〈リドル・ストーリー〉について興味のある人には一読をお勧めしたいです。
 「女か虎か」が性格テスト用に作られたという点ですが、都筑道夫によるパロディ短篇で、主人公の男が様々な女性に「女か虎か」の結末について訊ねる、というシーンがありましたが、これなどまさにストックトンの趣旨通りの「性格テスト用」といえますね。

 以前にまとめた〈リドル・ストーリー〉についての記事は以下のものです。
 リドル・ストーリーと結末の定まらない物語 その1
 リドル・ストーリーと結末の定まらない物語 その2
 リドル・ストーリーと結末の定まらない物語 その3


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心の綻び  ルース・ウェア『暗い暗い森の中で』

暗い暗い森の中で (ハヤカワ文庫NV) 文庫 – 2017/6/8


 イギリスの作家ルース・ウェアの長篇『暗い暗い森の中で』(宇佐川晶子訳 ハヤカワ文庫NV)は、音信不通だったかっての親友から、独身さよならパーティーに誘われた女性の不穏な体験を描くサスペンス作品です。

 26歳の女性作家ノーラ(レオノーラ)は、ある日フロ(フローレンス)という見知らぬ女性から、ヘン・パーティー(結婚前の新婦のために友人が開く女性だけの独身さよならパーティー)への招待メールを受け取ります。パーティーの主役はクレア、子ども時代のノーラの親友であり、ある事件を境に、10年以上も音信不通になっている女性でした。
 クレアに対して長年のわだかまりを持っているノーラは逡巡するものの、共通の友人であるニーナが出席することから、気が進まないまま参加することになります。
 パーティーの会場は、なぜか田舎の森の一軒家で、携帯電話も通じない不便な場所でした。集まったのは、ノーラとニーナの他に、脚本家でゲイのトム、クレアの大学時代の友人のメラニー、メールの送り主でクレアに心酔しているフロ、そしてクレア本人でした。
 肝心のクレアはなかなか姿を現さず、クレアの結婚相手が誰なのかも分かりません。そもそも、なぜ音信不通だった自分をわざわざパーティーに呼んだのか? ノーラは不安の中、クレアが現れるのを待つことになりますが…。

 かっての親友から独身さよならパーティーに招かれた女性ノーラが、思いもかけない体験をすることになるというサスペンス作品です。事情はすぐに明かされないながら、過去に二人の間に何かがあったこと、それが原因で10年以上も音信不通になっていたこと、さらに、パーティー会場は辺鄙な場所で、集まったメンバーも一癖ある人間ばかりであること。それらのことから、ノーラは不安を隠せません。なぜ今さら自分を呼んだのか? やがて集まった人間たちの間でも不穏な空気が広がっていきます。
 作品全体は、異なる二つの時系列のパートで構成されています。一つは、ノーラを中心に、パーティー会場を訪れた人々を描くパート、もう一つは、何らかの事故により病院で目を覚ましたノーラのパートです。病院のパートでは、ノーラ自身が大けがを負っていること、周囲の情報から会場にいた誰かが死んだこと、などが判明します。しかしノーラ自身は一時的な記憶喪失にかかっているらしく、実際に何が起こったのかは分からないのです。

 病院のパートでは、誰が死んだのか? という部分がなかなか明かされず、パーティー会場のパートでは、ノーラの過去に何が起こったのか、クレアとの間に何があったのか? などがなかなか判明しません。二つのパートでそれぞれの謎が発生し、物語を引っ張る形になっていきます。

 サスペンスたっぷりの作品ではあるのですが、正直、事件の真相はそれほど驚くべきものではありません。それよりも、主人公たちをめぐる女性同士の執着や軋轢など、人間関係をめぐるサスペンス部分が読みどころでしょう。
 子ども時代から人気者だったクレアと、彼女に従属的な立場だったノーラ、大人になった今でもその関係性は払拭できません。パーティー上、ノーラの過去のトラウマをえぐるような演出があるかと思えば、子ども時代よりも寛容になったかのような態度を取ることもあるクレア。彼女は一体何を考えてノーラを呼んだのか?
 他の登場人物たちも一癖ある人物が多いのですが、なかでも危うさを抱えるのがフロ。クレアに心酔する彼女は、パーティーの幹事的な役目を任され、それを成功させることに執着しています。パーティーが上手く進行しないことに対して激昂するなど、その精神的なバランスは危険な領域に踏み込んでいるのです。

 事件の謎や人間関係の軋轢のほか、参加メンバー以外の人物が会場をひそかに訪れている形跡が見つかったり、超自然的な仄めかしが登場する降霊術のシーンなど、ホラー的な興趣も加わり、様々な興味で読ませる作品になっています。
 主人公の過去など、作中で提示される謎がなかなか明かされず、かなりの長時間引っ張るので、早く明かしてくれ、という気分になったりもするのですが、そのあたりも含めて、リーダビリティーは高い作品といえるのでしょうか。
 全体の印象としては、いわゆる「イヤミス」に近い感覚の作品になっており、そうしたサスペンスがお好きな方にはお薦めしておきたいと思います。


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愛の冒険  ジュール・ヴェルヌ『緑の光線』

緑の光線 単行本 – 2014/7/30


 ジュール・ヴェルヌ『緑の光線』(中村三郎、小高美保訳 文遊社)は、ヴェルヌ異色の恋愛小説「緑の光線」と初期の短篇「メキシコの悲劇」を収録した作品集です。

「緑の光線」
 スコットランド、ハイランド地方出身のサムとシブのメルヴィル兄弟は、姪のヘレーナ・キャンベルを可愛がっており、彼女の言うことなら何でも聞いてしまうほどでした。サムとシブはヘレーナの結婚相手として学識に優れる青年アリストビューラス・ウルシクロスを考えていました。
 結婚の話を仄めかされたヘレーナは、緑の光線を見るまでは結婚はしないと言い張ります。太陽が沈む直前に一瞬だけ見えるという緑の光線を見た者は、自分と他人の心のうちが、はっきり見えるようになるという伝説があり、彼女はそれに魅了されていたのです。
 緑の光線を見るためにオーバンに行こうとヘレーナに誘いかける二人の伯父たちでしたが、彼らはこれを機にオーバンの別荘に滞在していたウルシクロスとヘレーナを上手い具合に会わせようと考えていました。
 一方、ヘレーナは、渦潮に巻き込まれそうになっていた絵描きの青年オリヴァー・シンクレアの救助現場に居合わせ、彼に惹かれるようになっていました…。

 緑の光線の伝説に憧れるロマンティックなヒロインが、画家の青年と結ばれるまでを描くという、ヴェルヌには珍しい純恋愛小説と言える作品です。
 伯父たちと共に旅に出たヘレーナは、船上で溺死寸前のところを助けられた画家の青年オリヴァー・シンクレアと出会い、相思相愛になっていきます。
 善人ではあるものの、世間知らずの伯父たちは、ヘレーナの相手として学者のアリストビューラス・ウルシクロスを強く推しており、ことあるごとに彼を擁護するのですが、ウルシクロスの鈍感さと頭の固さは、トラブルを引き起こし続け、ヘレーナは彼に嫌悪感を抱くまでになってしまいます。
 ヒロイン、ヘレーナのお相手として二人の青年が登場するものの、ウルシクロスの方はほぼ「道化役」です。本命のオリヴァーとヘレーナの仲を伯父たちが認めるようになるかどうか、というのがポイントとなっています。
 劇的な事件はそれほど起こりません。ヘレーナとオリヴァー、伯父たちが緑の光線を求めて、いろいろ場所を移動していきますが、肝心の光線にはなかなか出会えません。加えて、ウルシクロスがやたらと余計なことをして事態を台無しにする…というパターンが何度も続くところは、コメディとしても面白いですね。
 スコットランドが舞台となっているということで、現地の名所がいろいろ登場するほか、叙事詩『オシアン』やウォルター・スコットの作品やその登場人物たちが多く言及されるなど、文学趣味も強い作品になっています。
 「お転婆」というか独立心の強いヒロインが登場し、他の登場人物たちは、彼女のわがままに引き回されてしまいます。恋愛がメインとなっているのも、ヴェルヌ作品としては異色ですね。

「メキシコの悲劇」
 1825年、スペインの戦艦と帆船、二隻の船がグアム島に寄港します。マルティネス大尉とホセ甲板員を主犯とする一団は、反乱を起こし船を乗っ取ってしまいます。艦長のドン・オルテバは殺され、主犯の二人は船をメキシコに乗り付け、売りつけようと考えます。
 ドン・オルテバの忠実な部下だったパブロ見習士官とハコポ下士官は、なぜかマルティネスに服従を誓いますが、すぐに姿を消してしまいます。
 船の売買の交渉のため、マルティネスとホセは、メキシコシティに向かうことになりますが…。

 上司を殺した裏切者たちが復讐されるという作品です。海上の争いや南米のエキゾチックな情景が描かれますが、それらが主に悪人たちの旅程を通して描かれるというのもユニークですね。
 初期作品であるせいもあるのか、登場人物たちの掘り下げはあまり行われず、物語展開が重視される、スピーディな作品となっていますね。


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作家の真実  有栖川有栖『作家小説』

作家小説 (幻冬舎文庫) 文庫 – 2004/8/1


 有栖川有栖の短篇集『作家小説』(幻冬舎文庫)は、「作家」と「小説」をテーマにした短篇を集めた、ブラック・ユーモアの効いた作品集です。

 作家にベストセラーを書かせるための究極の手段を描く「書く機械」、謎の連続殺人と女子高生のカルト作家へのファンレターが結びつくという「殺しにくるもの」、締切に追われた作家が何度もシノプシスを検討しては破棄するという「締切二日前」、中堅作家をインタビューに訪れた高校生の文芸部員たちが逆に出版業の構造的な問題をレクチャーされてしまうという「奇骨先生」、駆け出しの作家が故郷の町で無理やりサイン会を開かされるという「サイン会の憂鬱」、売れない作家二人が漫才師として舞台に立つという「作家漫才」、小説のネタを与えてくれた先輩作家が失踪するというホラー風の「書かないでくれます?」、夢の世界にとらわれた作家が、その世界に存在しなかった物語を持ち込むという「夢物語」の8篇を収録しています。

 基本はブラック・ユーモア多めの冗談小説集、といった趣の作品集なのですが、本格ミステリ風、ホラー風、ファンタジー風の作品もあり、バラエティ豊かな作品集になっています。
 特に面白く読んだのは「殺しにくるもの」「奇骨先生」「書かないでくれます?」「夢物語」でしょうか。

 「殺しにくるもの」は、連続殺人のミッシングリンクとその原因が女子高生のファンレターの中にあることが示されるという、本格風味もある作品。
カルト的な作家、上杉皇一のファンの女子高生が、作品を読むたびにファンレターを送り、その内容が示されるのですが、その一方世の中では共通点の見つからない謎の連続殺人が続いていた…という物語です。これも悪い冗談みたいな作品で、結末の仕掛けも面白いですね。

「奇骨先生」は、作家の富田奇骨のもとにインタビューに訪れた高校の文芸部員の少年少女を描く物語。作家や作品について質問をしているうちに、なぜか奇骨は出版業界の問題点について話し始めますが…。
 つむじまがりの変人作家のお話かと思いきや、その内容は意外に真摯で、現実的に問題点をとらえていた…という、妙な味わいの作品です。作家の態度に反発を覚えていた少年も、人間的な彼の態度に親愛の念を抱くようになる、という結末も面白いですね。

 「書かないでくれます?」はホラー風作品。傑作小説を上梓したばかりの作家赤城慶也が浮かない顔をしているのを見た旧知の編集者美沙緒は、彼から話を聞きます。タクシーの運転手からネタになるような話を聞いた先輩作家の和久井は、運転手からそれを書かないでくれと言われたというのです。
 自分は書かないという約束をしたものの、別の人間が話を使うのは大丈夫だろうという判断で慶也は話を聞き、それをもとに小説を書いたといいます。しかし和久井は失踪してしまい、それは自分が小説を書いたせいではないかと悩んでいるというのです…。
 都市伝説というか、サイコ・ホラーというべきか、不気味な雰囲気の作品です。運転手の小話自体は笑い話風なのですが、この作品本編の中にはめ込まれていると、不気味さが際立ってくる感じがするのも面白いところです。

 「夢物語」はSFファンタジー風作品。夢を記憶に固着させる機械ドリーム・ボックスを使用していたところ、医療ミスで昏睡状態になり夢の世界にとらわれてしまった作家の文雄は、夢の世界で長い時を過ごすことになります。その世界では物語というものが存在せず、物語を語る文雄は宝とまで呼ばれるようになります。しかし彼の語る物語は、自らが知る先行作家の名作のアレンジばかりだったのです。彼はそれについて思い悩むことになりますが…。
 全てが都合よく進む夢の世界で、他者の作品で名声を得る…、自らの行動に疑問を覚えた作家が真実を打ち明けようとするという物語です。物語とは何か、どんな役目を持つのか、といった真摯なテーマもはらんだ寓話的な作品になっていますね。


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愛情の行方  シーリア・フレムリン『溺愛』

溺愛 (論創海外ミステリ) 単行本 – 2006/2/1


 シーリア・フレムリンの長篇『溺愛』(上杉真理訳 論創海外ミステリ)は、娘の結婚相手として現れた青年とその母親に翻弄される主婦を描いた心理サスペンス小説です。

 1960年代のロンドン、問題のある男性とばかり付き合っていた娘のサラの結婚相手として現れた会計士の男性マーヴィン・レッドメイン。彼が立派な社会人であることに安堵した母親のクレア・アースキンでしたが、マーヴィンの母親ミセス・レッドメインは息子を溺愛し束縛する人物として有名であることを、知人から聞かされることになります。
 サラとマーヴィンの結婚を快く思わないミセス・レッドメインは、悉く二人の交際を邪魔し、結婚を破談にしようとし続けますが…。

 娘の婚約者となった男性の母親との関係に苦しむことになる主婦を描いた、心理サスペンス作品です。
 落ち着かなかった娘サラの婚約者として現れたマーヴィンはエリートで、母親のクレアは安心するのですが、マーヴィンの母親ミセス・レッドメインは、息子への執着が激しく、彼が結婚することを認めようとしないようなのです。
 表面的には若々しく美人で、礼儀正しくもあるミセス・レッドメインはなぜ息子に執着するのか? やがて彼女は精神を病んでいる可能性があること。過去に彼女の夫が不審な死を遂げていることを知ります。
 最初は娘のサラとマーヴィンの結婚を応援していたクレアですが、ミセス・レッドメインだけでなく、マーヴィンもまた正常な人物ではないのではないかという疑いも出てくることになります。しかし、サラはマーヴィンの夢中で、反対できるような状況にはないのです。

 娘と異様な母子の関係を、主婦クレアが客観的な視点から語る物語、のように見えるのですが、読んでいくうちに、クレア自身もそこまで「客観的」ではなく、その性質も正常とはいいきれないことが分かってくるという構造になっています。
 クレアは、結婚生活や子どもの進学、出世などについて周囲の人物たちとの間に競争意識を持っており、同世代の母親たちとの間にも優越感や劣等感を抱いていることが示されます。とくにその面でクローズアップされるのが、友人のリズ・ハードウィックです。
 彼女の家の息子たちはエリートと目されていたものの、やがて出戻り、落ちこぼれとなってしまいます。クレアやリズに限らず、親の世代は、明確な「階級」とまではいかないものの、他人に対して「階層」を見て取っているのも特徴ですね。
 メインとして描かれるレッドメイン親子だけでなく、登場する人物たちはどこかしら「歪み」を抱えているようで、その人物たちの関係性が推移していく様だけで、そこにサスペンスが生まれています。

 最初はミセス・レッドメインが「異常者」なのかと思いきや、実は息子の方もそうなのではないか、また語り手であるクレアも歪みを抱えており、それはまた他の字登場人物たちも同様である、という全体にブラックな物語となっています。
 結末の趣向も非常にブラックで、その取り方によってはホラー小説として読むことも可能なほどです。
 1969年発表の作ですが、ドメスティックな話題を扱っているだけに、今読んでもその面白さは失われていません。ブラックな展開ですが、その筆致は軽やかで、後味がそれほど悪くないのも好感触ですね。


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色彩豊かな物語  ジェローム・K・ジェローム『骸骨 ジェローム・K・ジェローム幻想奇譚』

骸骨:ジェローム・K・ジェローム幻想奇譚 単行本 – 2021/7/23


 ジェローム・K・ジェローム『骸骨 ジェローム・K・ジェローム幻想奇譚』(中野善夫訳 国書刊行会)は、ユーモア小説『ボートの三人男』で知られるイギリスの作家ジェローム(1859-1927)の怪奇幻想作品を集めた作品集です。

「食後の夜話」
 クリスマス・イヴにジョン伯父の家に招かれた「僕Jは、伯父とその客たちから幽霊物語を聞かされることになりますが…。
 青年が伯父の家で幽霊物語をいろいろ聞かされる…という枠物語なのですが、その内容はどれも笑えるものばかり。中には話が広がりすぎて、何を言っているのか分からない者もいる始末なのです。
 しかも、物語が始まる前に、序文として、幽霊物語のステレオタイプに対する風刺的な文章が長いこと続くという、冗談のような小説構成なのです。
 挿話の中では、恋人を失い半狂乱のまま死んだ男が幽霊となって家を住むものを悩ませる「ジョンスンとエミリーまたは誠実な幽霊」、幽霊が指し示す場所に宝があるのではないかと家の中を捜索するも何度も骨折り損をさせられるという「幽霊の出る粉挽き場あるいは廃墟になった家」が面白いですね。

「ダンスのお相手」
 機械作りの名人として知られるニコラウス・ガイベルは、ふと耳にした若い女性たちの話から、完璧にダンスをこなす男性型の人形を作り出します。舞踏会の日に、ガイベルは、フリッツ中尉と名付けた人形を持ち込みます。
 若い女性とダンスを始めたフリッツは、そのダンスの見事さで周囲を感心させますが、そのダンスは一向に終わる様子がありません…。
 相手が死ぬまで踊り続けるという、悪魔のような機械人形が描かれた、人形ホラーの名作です。製作者自身はそんな事態になるとは思ってもおらず、また、惨劇の後の直接的な描写がないところにも、怖さがありますね。

「骸骨」
 過ちを犯した男と、それを追う男。追手の男は心臓発作で死に、過ちを犯した男は著名な科学者となっていました。研究に必要な骸骨が駄目になり、新しい骸骨を購入した男でしたが、その骸骨を購入以来、彼の体調は悪くなっていました…。
 かって追われた男のものだろう骸骨によって復讐される、という因果応報譚なのですが、骸骨が本当に追手だった男のものかどうかは描かれていないあたり、スマートな怪奇談になっていますね。

「ディック・ダンカーマンの猫」
 幼なじみのリチャード・ダンカーマンのもとを訪れた「私」は、鳴かず飛ばずだった彼が脚本で成功した理由を聞きます。それは彼がピラミッズと呼ぶ、不気味な猫のおかげだというのですが…。
 悪魔の使いなのか、悪魔自身なのか、成功を呼び寄せる謎の猫をめぐる怪奇作品です。猫が手元に来ることにより、その人間自身も冷笑的で皮肉な人間になってしまうのです。語り手の「私」自身のところにも、やがて猫が来るであろうことが暗示される結末も見事です。

「蛇」
 仕事で南インドに転任した男は、臆病な妻の性格を矯正するために、死んだ蛇を使って妻を驚かそうとしますが…。
 深く考えずに行った行為が惨劇を招いてしまう、というショッキングな恐怖小説です。

「ウィブリイの霊」
 ウィブリイには、古い飾り棚についてきたという霊が憑いていました。最初は片言だったものの、やがて霊は存在感を増していき、ウィブリイに様々な場面でアドバイスさえするようになっていきます…。
 やたらと口をはさんでくる霊が描かれる、ユーモラスなゴースト・ストーリーです。語り手自身が霊には関心がないと断言しており、結末ではウィブリイの霊が本当にいたのかどうかすら怪しくなってくるという、人を食ったような物語になっています。

「新ユートピア」
 「国家社会主義者クラブ」で友人たちと差別と平等について話していた「私」が就寝して目を覚ますと、そこは二十九世紀の世界でした。そこでは完全な平等が実現されているというのです。
 人々は同じような格好をして、同じような行動をしていました。体を洗うことさえ国家に管理されているというのですが…。
 平等を推し進めすぎた結果、あらゆる物事が管理され禁止されてしまったディストピアのような未来社会が描かれます。芸術全般も禁止され、著者自身の反映と思しい語り手の小説作品も燃やされてしまった…というあたり、自己諧謔も強いですね。

「人生の教え」
 蒸気船の上で、実業家ホレイショ・ジョーンズの秘書代わりとして雇われた「私」。時間が経ち、作家となっていた「私」のもとにジョーンズから手紙が届きます。「私」に何か話があるというのです。死にかかっているというジョーンズは、かって前世で「私」と知り合いだったはずだというのです。ジョーンズの死後、ノーフォークの田舎家で出会った幼い少年にジョーンズの面影を見出す「私」でしたが…。
 転生をめぐる幻想作品です。明確に転生とは描かれていないながら、ジョーンズの転生はほぼ明確であるように読めますね。とはいえ、前世の記憶はほとんど残っていないのです。神秘主義的な色彩の作品となっています。

「海の都」
 過酷な争いの後に和解したデーン人とサクソン人。しかしサクソン人に招き入れられたデーン人は裏切られ殺されてしまいます。その直後に海の水が町を襲います…。
 古代の伝説が硬質な文章でつづられていくという幻想小説です。

「チャールズとミヴァンウェイの話」
 大恋愛の末結ばれたチャールズとミヴァンウェイ、しかし結婚後にささいなことから二人の仲は険悪になってしまいます。チャールズは仕事の航海上で遭難してしまいますが、運よく助けられます。
 そのまま死んだふりをして姿をくらましたチャールズは後悔に囚われ、家に戻ることになります。再会したチャールズとミヴァンウェイは互いを幽霊だと思い込みますが…。
 互いのプライドから離れてしまった夫婦の仲が修復されるという物語が、疑似的なゴースト・ストーリーの形をとって語られます。心温まるお話になっていますね。

「牧場小屋(セター)の女」
 ノルウェイの山の上で迷ってしまったマイクルと「私」は牧場小屋を見つけ、そこで休むことになります。小屋の中にあった手紙には奇怪なことが書かれていました。
 手紙は、小屋に夫婦で住んでいた夫によって書かれたもののようでした。過去に不倫の恋によって殺された女の霊につきまとわれていると、そこには記されていました…。
 女の霊につきまとわれる男を描いたゴースト・ストーリーなのですが、錯乱した男がその霊と妻との区別がつかなくなっていくあたりが怖いです。退治したと思っている霊が妻その人であった可能性もあり、恐怖度の高い作品になっています。

「人影(シルエット)」
 海辺で暮らす少年の子ども時代の体験がエッセイ風に語られる作品、と思いきや、悪夢のような情景がはさまれていき、現実感がなくなってくるという幻想小説です。
 不条理なエピソードが唐突に出現したりするあたり、本当に悪夢のようです。挿話の中でも、少年に?みついた犬に対し、その父親が血の味を教えてやれと言うエピソードは怖いですね。

「二本杉の館」
 ふと二本杉のある館に入り込んでしまった青年は、そこで管理人をしているという女性の娘と出会います。美しい娘に恋をした青年はたびたび館を訪れることになりますが、実業家として成功を収めた青年は娘と別れてしまいます。
 二十年後、既婚者となっていた男は、同じ館で、以前とほとんど変わらぬ娘と出会いますが…。
 かって愛した女性と再会するというノスタルジックな恋愛幻想小説です。女性がおそらく死んでいるであろうことは分かるのですが、男性が出会っているその死後の存在のほかに、現実的に年齢を重ねてしまった女性の存在も描かれるあたり、シニカルな面もありますね。

「四階に来た男」
 現実的で皮肉屋のペニチェリー夫人の経営する下宿にやってきた、若者とも老人とも見える不思議な男性。彼と話した人間は皆、感化され、良識のある善人となっていきますが…。
 人間の善性を引き出す不思議な男が描かれます。キリストの化身なのか、天使なのか、どこか宗教的な要素を感じさせる作品ですね。

「ニコラス・スナイダーズの魂、あるいはザンダムの守銭奴」
 守銭奴のような老人ニコラス・スナイダーズは、借金のかたに引き取った娘クリスティーナにつらく当たっていました。彼女と結婚したいという若者ヤンにも許しを与えず脅迫的な言葉を投げつけます。
 ある日ニコラスのもとに奇妙な行商人が現れ、魂を入れ替えることのできるという薬を置いていきます。ヤンが訪れた際に、資産を渡すことを条件に薬を飲ませることに成功します。その後、ニコラスは善行を繰り返すようになり、クリスティーナからも愛情を受けられるようになりますが…。
 善人である若者とその魂を入れ替えた老人が描かれる、「入れ替わり」もの作品です。あくまで人格はそのままで、魂の性質のみが入れ替わる、という面白い設定です。
 予想される通り、最終的には二人の魂が元に戻ることにはなるのですが、その魂の善性ゆえに、結果的に自分が損害を被ることが分かっていながらも、善行を施さずにはいられない、という、ニコラスの内面心理が描かれる部分はユニークですね。

「奏でのフィドル」
 多大な才能を持ちながらも、その貧しさからろくな楽器を使えないフィドル弾きテラス。王のフィドル弾きが亡くなったことから、その後任を選ぶコンテストが催されることになります。
 ふと出会った放浪者から、素晴らしいフィドルを授かったテラスでしたが、そのフィドルは聞くもののことを考えたときのみに動くという楽器でした。美しい王女のことを思いながらフィドルを弾くテラスでしたが…。
 名声や我欲のためには使えず、人々の心を導くときにのみその音色を聞かせるというフィドルが登場します。寓意性の強い美しいメルヘン作品です。

「ブルターニュのマルヴィーナ」
 第一次大戦時、航空部隊長ラフルトンはブルターニュの荒地地帯に着陸したところ、石のそばに美しい少女が寝ているのを見つけ、衝動的にキスをしてしまいます。目覚めた少女は、古代フランス語で自分は妖精のマルヴィーナであると話します。
 彼女の言葉を信じたラフルトンは、イギリスに住む従兄のリトルチェリー教授にマルヴィーナを預けることになります。彼女には人を変える魔法が使えるらしいことを知った近所のアーリントン家の双子は、自分たちの母親を変えてほしいと言いますが…。
 現代(当時)に蘇った悪戯好きな妖精マルヴィーナが、預けられたイギリスの町でいろいろとトラブルを引き起こしていくという、ユーモラスなファンタジー作品です。かっての自らの悪戯の不始末により宮廷から追放されたという過去を持つがゆえに、表立っては品の良さを崩さないマルヴィーナが、あくまで周囲の人々の懇願の結果、という形で騒ぎを引き起こしていく、というのが楽しいです。
 後半になって突然「プロローグ」が挟まれるという、その構成も破天荒。魔法とそのルールにより、マルヴィーナ自身も全く思いもかけなかった境遇に陥ってしまうという結末も良いですね。愛すべきケルト・ファンタジーです。

 正統派の怪奇小説、ユーモラスなパロディ怪談、<奇妙な味>、恋愛小説、未来SF、奇跡譚、モダン・ファンタジー…、多彩な作品が集められたバラエティ豊かな作品集です。ユーモアあふれる語り口で、突拍子もない物語が語られていくという、密度の濃い物語ぞろいで、これは文句なく一推しです。
 装丁の雰囲気から、怪奇小説・ホラーのみの作品集だと思っている方もいるかと思いますが、ファンタジー作品も多いので、こちらのファンの方にもお勧めです。
 特に巻末の「ブルターニュのマルヴィーナ」が素晴らしい出来栄えなので、ぜひ読んでほしいです。


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森の怪異  宇津木健太郎『森が呼ぶ』

森が呼ぶ 単行本 – 2021/7/15


 宇津木健太郎の長篇『森が呼ぶ』(竹書房)は、因習に満ちた村の奇怪な信仰をめぐって展開される本格ホラー小説です。

 出版社の小説大賞に送られてきた一篇の小説原稿。それは、作者の友人である「私」が、親友の故郷である田舎の村で体験した事件の一部始終を文字に起こしたという、奇怪な手記でした。
 虫の研究をしている「私」は、家を継ぐために帰郷した親友の阿字蓮華(あじれんげ)から、会いに来てほしいという連絡を受けます。阿字の故郷は、犬啼村という、土着信仰の残る田舎の村でした。彼女の家は、村の宗教である奉森教を取り仕切る一族であり、家を継ぐはずの姉、桜が急死したことから、急遽、妹の蓮華が後を継ぐことになったというのです。
 「私」がたどり着いた村では、折しも二十年に一度の大祭の期間中でした。「私」は、土着信仰の研究のために村に滞在していた鵜飼教授と知り合いますが、彼は犬啼村と村の宗教の異様さに、違和感を感じていました。やがて、阿字と「私」は、思いもかけない殺人事件に巻き込まれることになりますが…。

 友人の故郷は因習に満ちた奇怪な信仰のはびこる土地だった…というホラー作品です。物語は手記の形を取って語られ、それが小説大賞に応募されることになった理由も最後に明かされる…という凝った構成の作品になっています。
 数百年前に発生し、従来は生贄を捧げていたものの、それが変形した形で現在に伝わっているという土着信仰、奉森教。阿字の家がその教祖のような形になっているのですが、その風習だけでなく、成り立ちや構造に対して、宗教としてもおかしな点が多々あることに、鵜飼教授は疑問を呈します。
 蓮華の姉の不自然な死、両親との確執、かっての当主だった祖母の隠棲など、阿字の家と奉森教の秘密が少しづつ明かされていくことになります。

 序盤から中盤までは、不穏な雰囲気が段々と高まっていくという、心霊ホラー的な展開なのですが、「私」のもとを訪れる奇怪な存在の登場、そして村人たちの不審な死を皮切りに、後半はダイナミックな展開となっていきます。
 前半の静かな展開が嘘だったかのように、強烈なカタストロフが訪れる後半の展開は、派手なホラー好きの方でも満足できると思います。さらに謎の土着宗教の正体が明かされる部分も斬新ですね。破滅を予感させる結末の処理も、ホラーとして大変魅力的です。
 クライマックスでは、かなり猟奇的なシーンが展開されるので、そのあたりが苦手な人にはきついかもしれないです。生理的な気色悪さ・おぞましさが追及されていて、食事前に読んだら、食欲がなくなりそうな迫力があります。


テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学



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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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