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蔵書引越顛末記
 2021年5月の連休明けに引越しをしました。その際、蔵書の移動に関して苦労したので、同じような環境の人にも参考になるかと思い、記録に残しておくことにしました。蔵書と本の整理に関する部分に絞って書いていきたいと思います。以下、時系列に沿って記していきます。


●引越し決定(2020年春頃)
 個人的な事情から、2021年春頃に引越しせざるを得なくなることが決定しました。移転場所は同じ区内で、距離的にはそれほど離れていません。転居先では部屋数が減るので、蔵書を多少減らす必要が出てきました。この時点で、手放す本を選定し始めました。
 蔵書数は数えたことがないので正確な数は分からないのですが、二千冊ぐらいは減らさないときついのではないかと考えます。


●処分本の選定(一回目)(2020年4月~2020年7月)
 処分する本を選定しました。まず選んだのは雑誌類、コミックの一部。あと実用書(新書類含む)、科学系ノンフィクションも発行が古いものは読み返さないものが多いので、処分対象に。あとダブり本も。


●古書店の出張買取(一回目)(2020年7月)
 処分本が千冊近くになったので、古書店に依頼して出張買取に来てもらいます。処分本の内容に関しては、著者名、書名、出版社名、発行年数、版数のほか、明記すべき情報(状態が悪いもの、サイン本、箱・帯の有無など)を記したリストを予め送り、大体の見積を出してもらっていました。
 以下の画像は、僕が作った買取依頼用のリストの一部です。
kaitoririsuto.jpg

※古書買取について
 処分する冊数が100冊ぐらいから出張買取してもらえるお店が多いようです。その際、処分したい本のジャンルが固まっているなら、ネットで近隣の専門書店を探して、そちらに連絡するのが良いかと思います。
 ジャンルが雑多でバラバラであれば、一般の町の古書店の方がいいこともあります(専門書店だと、ジャンルがあまり違うと引き受けてくれなくなることがあります)。
 どちらにしても、メール等でリストを送って(全部入力が難しいときは、大体のジャンルや冊数などを書いておくのもいいかと思います)、予め引き受けてくれるかどうかを確認しておく方が無難です。
 処分本の内容が雑誌・実用書・コミック・ベストセラー書に限られるなら、ブックオフなどの新古書店でも大丈夫でしょう。


●処分本の選定(二回目)(2020年8月~2021年3月)
 本を少し減らしたものの、見た感じほとんど変わらず。もう少し減らさないということで、再度処分本を選定します。
 蔵書のメインは文芸・エンターテインメント作品なので、なるべくこちらは減らさずにいきたいなと思っていましたが、ある程度は減らさないとならないようです。読んだけれどあまり面白くなかったもの、作家名でまとめ買いしたもののもう読みそうにないもの、などを中心に選定です。


●古書店の出張買取(二回目)(2021年4月上旬)
 再度、古書店に依頼して出張買取に来てもらいます。二回目もだいたい処分冊数は千冊前後。合わせて二千冊程度減らしたことになります。
 基本、引越し寸前だと他の用事もあるでしょうし、処分本を選ぶのも落ち着いて出来ないので、引越しの予定が分かっているのなら、半年前か一年前ぐらいから徐々に本の選定を始めるのが良いかと思います。僕の場合、毎週末に少しづつ本を選定し、そのたびにそれらの本の情報をリストに入力していました。


●引越し業者の依頼(2021年4月上旬)
 引越し業者を何社か見比べて依頼。最低一カ月ぐらい前から依頼した方が良いようです。急な場合は割高になることが多いです。
 実際に部屋に来て見積をとってもらったのですが、やはり本の数が問題のようで、かなり割高な値段を言われてしまいました。交渉の結果、少し値段を引いてもらいましたが、それでも結構な値段に。
 最近はネットで見積ができることが多いようですが、荷物や家具の数によって値段はかなり変わるので、引越しの見積は実際に見てもらってからの方が良いです(家具や荷物が手で数えられるほど少ない場合は別ですが)。あと、手配してもらう段ボールの数の見積に関しても、現地を見ると、正確なところを出してもらいやすいです。
 見積額が高かったのは家具類が多いのもあるかと思います。本棚だけでも、大型のものが5つ、中型が2つ、カラーボックスが15個ぐらいあったので。
 最終的に、引越し日は連休明けの5月6日になりました。


●荷造り用段ボールが到着(2021年4月20日ごろ)
 引越し業者から、荷造り用ダンボールが到着。大きいものと小さいもの(といってもそれなりに大きいです)二種の段ボールが送られてきました。重い荷物は小さい段ボールに入れてくださいとの指示が書いてありましたが、確かに大きい方に本を詰め込んだら重くて持てなそうです。
 部屋が狭いので、この時点で梱包を始めてしまうと、箱の置き場がなくなってしまいます。もう少し待ってから始めることにします。


●梱包開始(2021年4月29日~5月5日)
 有給を使って連休にしてあったので、引越しまで約一週間あります。これを利用して荷物を梱包します。週間天気予報を見ると、引越し当日は雨の可能性が強くなっています。梱包の際に雨対策も必要なようです。また、緩衝材も欲しいところです。
 雨対策用に大型のビニール袋(ゴミ袋で大丈夫です。)、緩衝材用にロール状のプチプチを購入しました。ちなみにビニール袋は200枚セット、プチプチは20mロールを4つ購入し、使い切りました。
 実際にやった具体的な梱包は次の通りです。

1.段ボールを組み立てます。底部分に十字の形にガムテープ(紙ではなく布製の上部なテープ)を貼り補強します。

2.プチプチを段ボールの底に敷きます。その際ピッタリサイズではなく、ちょっと大きめに切り、上下左右に少しはみ出すぐらいにします。

3.底に曳いたプチプチの上にビニール袋を置き、その中に本を入れていきます。使う袋の大きさにもよりますが、段ボールの高さギリギリまで本を入れるとすると、袋が一つでは足りないことが多いので、段ボール一つにつき、ビニール袋は二つ使った方が良いかと思います。
 段ボールのふたが閉まるちょうどギリギリまで本を詰めていきます。この際、段ボール内の本の山が複数になると思いますが、最終的にその高さが大体同じになるように調整します。これは、段ボールが積まれたときにその重さの負荷を分散させるためです。
 本を詰めたら、各ビニール袋の上をテープで止めます。雨が入り込まないよう、袋の先を折り込んでから止めます。

4.本と段ボールの間に緩衝材を詰めていきます。引越し業者から緩衝材として発泡スチロールの薄い布などをもらえる場合もありますが、できればプチプチを入れた方が安全です。新聞紙を丸めて使うのも良いかと思います(本をビニールに入れていないときは、新聞紙のインクが本に写ってしまう恐れもあるので注意しましょう)。

5.段ボールのふたを閉めて、上からガムテープで十字に固定します。

6.本の入れ方に関してですが、新居で綺麗に整えることを考えて、同じ作者やシリーズをまとめて入れようとかは考えない方が良いです。蔵書が少ない場合は良いですが、そういったことを考えて詰めていると梱包が終わらなくなる可能性が高いです。
 また段ボールに入れる際には、段ボール内で本があまり動かないようサイズ優先で重ねていくので、その際にシリーズや作者はバラバラになってしまいます。
 あと、本を重ねていくときは基本、同じサイズ・判型のものを重ねていく方が良いかと思います。文庫本と単行本を交互に重ねるなどすると、本が傷む恐れがあります。

7.場所に余裕があれば、本を入れた段ボールを重ねずに置いておきたいところですが、そうそう余裕はないと思うので、重ねざるを得ないかとは思います。その際も二段か三段に抑えられればそうしましょう。

 三~四日で何とかなると思っていたのですが、結局、最後の日の夜ぐらいまでかかってしまいました。蔵書数が数千冊になる人は、早めに梱包を始めることをお薦めします。もしくは引越し業者の方で梱包してくれるサービスもあるようなので、それを利用するのも手かもしれません(ただ、そちらのサービスの場合、そこまで綺麗に梱包してはくれないようですが…)。


●段ボールを追加購入
 詰めているうちに、引越し業者にもらった段ボールだけだと足りなそうなのが分かってきました。念のため通販時に取ってあったネット書店の小さな段ボールに入れていきますが、こちらは小さいサイズなので、すぐにいっぱいになってしまいます。
 近所のホームセンターで段ボールを追加で20個ぐらい追加で購入しました。


●本棚について
 本を梱包した後、空になった本棚に関してですが、棚が可変になっているものに関しては、外して下に積んで置いた方が安全です。棚を止めてある「ダボ」(留め具)に関しては、外して保管しておいた方が良いでしょう。
 我が家の本棚は、地震対策として、転倒防止のチェーンが止めてあったので、そちらも外しました。
 なお、業者さんに聞いたところ、ガラスの入っている棚に関しては、ガラス部分が外れるのであれば、なるべく外しておいてほしい、とのことでした。


●引越し当日(2021年5月6日)
 朝から雨模様でしたが、引越し業者が来るのが午後からで、それまでに晴れたのは幸いでした。
 本が大量にあったことを確認していたせいか、大型トラックが二台、作業員も6人ほど来てくれたので、割合スムーズに進みました。先に段ボールを運び出し、最後に大型家具を運び出しました。


●新居に移動
 先に新居で待っていたところ、荷物が到着です。タンスや本棚など、大型家具を先に運び込みます。本棚は予め考えていた位置に配置、その際に転倒防止用のゴムを下に敷きました。壁に沿って本棚・カラーボックス類を置いた後、段ボールに詰められた本を部屋の中心に積んでいきます。以下の写真は新居に本入り段ボールが積まれた直後の光景。
DSC_0006.jpg



●棚に本を収納
 段ボールが部屋を占拠しているので、どかさないと寝ることもできません。とりあえず、片っ端からランダムに棚に本を入れていきます。引越し初日に関しては、布団を敷ける程度だけの箱を処理しました。


●棚に本を収納(続き)
 本棚に本を詰めていきます。前後二列に本を入れるのはもちろん、隙間には横にして入れるなどなるべく数を稼ぎますが、どうやら全部は入りません(元々入ってはいなかったので…)。以下の写真は詰め込んだ直後の本棚です。
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●プラスチックの収納ボックスを追加
 ホームセンターで、本を入れるためのプラスチックの収納ボックスをいくつか買ってきます。もともといくつか使っていましたが、更に追加しました。それでもまだかなり入っていない本がありますね。


●本棚を追加
 通販で、本棚を一つ注文しました。スペース的に余裕がないので、省スペースで、更に回転して前後の本が見れるという回転式本棚を購入しました。数日で到着したので、組み立ててみると良い感じです。
 この棚に本をフルに収納して、ようやく本が棚かケースに収納されきった感じです。引越し当日からここまで、大体二週間ぐらいかかった勘定でしょうか。
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 引越し業者の現地見積で段ボールを手配してもらったのですが、予想以上に箱が必要になってしまいました。本用に段ボールを手配してもらう際には、かなり多めに頼んだ方がいいかと思います(頼めるのであれば)。
 今回、約二千冊ほど本を処分し、その後、手作業で段ボール詰めをした体感で言うと、現在の蔵書数はおそらく八千から九千冊ぐらいでした(結局正確な数は数えられていません)。
 住居間の移動はやってもらえたとはいえ、梱包した段ボールの移動などで筋肉痛や腰の痛みがひどくなってしまい、一週間ぐらいはそれが取れませんでした。
 引越しを終えた感想としては、もうしばらく引越しはしたくない、の一言に尽きます。正直、数千冊レベルの蔵書数の人が引越しをするのは、かなりきついのではないかと思います。
 本好きの方や蔵書数の多い人が引越しをする際のお役に立つかと思い、記事をまとめてみましたが、書いていて、当時(まだ間もないですが)の苦労が思い出されて、疲れてきてしまいました…。


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解けない人生  米澤穂信『追想五断章』

追想五断章 (集英社文庫) 文庫 – 2012/4/20


 米澤穂信の長篇『追想五断章』(集英社文庫)は、女性から、亡き父が残した五篇のリドル・ストーリー探索を依頼された青年を描く物語です。

 経済的な事情から大学を休学せざるを得なくなった青年、菅生芳光は、伯父である広一郎の古書店に居候兼アルバイトとして暮らしていました。店に現れた若い女性、北里可南子は、ある依頼を持ちかけます。亡くなった彼女の父親北里参吾が、叶黒白というペンネームで生前書いていたという五つの小説を探して欲しいというのです。
 その小説は結末のないリドル・ストーリーとして書かれたはずだといいます。可南子の手元には、それら五つの小説の結末だけを記した紙片が残されているというのです。
 高額の報酬を提示された芳光は、大学へ復学する足しになるかもしれないと、伯父に内緒で依頼を引き受けます。同じ店でアルバイトをする女子学生の久瀬笙子にも、報酬を渡すという条件で手伝ってもらうことになります。
 しかし、小説家ではない参吾が小説を発表したのは、同人誌の可能性が高く、捜索は難しいものとなっていました。調べていく過程で、芳光は、過去に可南子の父親が「アントワープの銃声」と呼ばれる、ある事件をめぐってスキャンダルに巻き込まれていたことを知ります…。

 父親が残した五篇のリドル・ストーリーを探す娘と、その探索を手伝うことになった青年を描く作品です。娘の手元にそれぞれのリドル・ストーリーの結末を記した紙片が残されており、それを手がかりに小説を探すという、面白い趣向になっています。
 探索を進めるうちに、可南子の父親参吾が、犯罪めいたある事件をめぐって糾弾されていたことが分かり、小説はその事件に対して彼の心情を綴ったものなのではないかという疑いが発生してくるのです。
 発見したリドル・ストーリーがそれぞれ、事件に対する一つの答えになっており、さらにそれらが揃ったときにまた違う意味を持ってくる、という技巧的な手法が使われています。
 参吾の人生が少しづつ解き明かされていくのと同時に、主人公の青年芳光の人生を描く青春小説にもなっているところが上手いですね。スキャンダルはあったものの、劇的な人生を送ったらしい参吾の人生、そうしたものとは無縁どころか、経済的にも困窮している自らや家族の境遇を省みて、鬱屈した思いを抱く芳光。しかし探索の過程を経て、ある種割り切った思いに至る、という、ほろ苦い青春小説にもなっています。
 ちなみに、作中で問題となる「アントワープの銃声」は1980年代にマスコミを騒がせた「ロス疑惑」がモデルとなっているようです。作中に登場する、リドル・ストーリーの中身も紹介しておきましょう。

「奇跡の娘」
 ルーマニアのブラショフという街で、眠ったままの娘を「奇跡の娘」として喧伝する母親がいました。しかし案内人は、娘は本当は目覚めているのではないかと疑っていました。その晩、娘の家は炎に包まれます。娘が本当は目覚めているならば、家から逃げ出してくるはずだというのですが…。

「転生の地」
 インドのジャーンスィーという街で、殺人の罪で裁かれている男がいました。その地方では、転生が信じられており、死体を傷つけたものは本人のみならず家族までが道連れに処刑されるというのです。彼が被害者の心臓を突いて殺したのか、それとも憎悪のあまり死んだ後の体を傷つけたのか?

「小碑伝来」
 中国の南宋の時代、勇猛で知られた将軍は、反乱軍の前になすすべもなく敗れます。捕らえられた将軍は、自ら首を刎ねるか、妻が捕らえられている家に火を放つか、二つに一つの選択を迫られます…。

「暗い隧道」
 ボリビアの街ポトシ。元スパイと目されている男が、金を持ってきてほしいと妻子に連絡します。通ってくるようにと言った隧道は、かって革命軍が爆弾を仕掛けた危険な場所だと言われていました。男は過去の立場から隧道に仕掛けがあったことを知り得る立場にありました。
 問題がないことを知っていてその隧道を通らせたのか、それとも妻子を殺す気だったのか…?

「雪の花」
 スウェーデンのとある街。放蕩に明け暮れる資産家の夫と、それを批難しようとしない貞淑な妻。男の誕生日に、妻は美しい雪の花を得ようと、氷河の亀裂に落ちて命を落とすことになります。妻は一体何を考えていたのか…?

 どの話も、登場人物について詳しい性格描写がなされないため、結末の選択肢に関してどちらもあり得るように書かれています。その意味で<リドル・ストーリー>として上手い作品ですね。最後の話「雪の花」に関しては、作中でも特殊な扱いとなっており、これだけは他の話とは違った雰囲気のお話になっています。
 小説に隠された謎解きはなされるものの、最終的に当事者たちが何を考えて、どうしたのか? という部分は結局謎に包まれています。そうした意味で、この作品自体が<リドル・ストーリー>的な結末を迎えている感もありますね。

 さらに言うと、主人公の芳光を始め、可南子、笙子、芳光の母親や伯父など、登場する人物たちがこの後どうなるのか、といったところも曖昧なまま終わってしまうのも著者の意図的なところなのでしょう。文芸的なミステリ作品として、秀作と言って良い作品です。

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奇想世界  榊林銘『あと十五秒で死ぬ』

あと十五秒で死ぬ (ミステリ・フロンティア) 単行本 – 2021/1/28


 榊林銘『あと十五秒で死ぬ』(ミステリ・フロンティア)は、奇想天外な特殊設定ミステリを四作収録した短篇集です。

「十五秒」
 薬剤師の「私」が気が付くと、目の前に銃弾が浮いていました。見ると、自分の胸に穴が開いており血しぶきが飛んでいたのです。しかし周りの時間が自分を含め停止しているようで動くことができません。そこに現れたのは、人間サイズの巨大な猫でした。死神のようなものだと名乗る猫によれば「私」は銃弾で貫かれ死ぬ直前であるというのです。「私」には犯人と動機に心当たりがありました。絶命までに十五秒が残っていると聞いた「私」は、犯人を確認するため猫に頼み、その時間の間だけ時間を何度も止められる能力を与えられることになりますが…。
 死ぬ直前の女性薬剤師の「私」が、死神に与えられた十五秒を使って、犯人を確認しダイイングメッセージを残そうとする作品です。犯人には心当たりがあり、実際にその人物であることがすぐに確認できるので、実際の「私」の行動は、犯人に見つからないようにメッセージを残すことがメインとなります。
 犯人に見つかったらメッセージが消されてしまうので、いかに上手く犯人の目をくらますか、という工夫がされていくのが面白いですね。
 時間停止によって考える時間が与えられるとはいえ、実際の体は出血により死ぬ寸前、まともに体を動かせばその影響で短い寿命がさらに縮んでしまいます。
 生涯に残された十五秒で何ができるのか? というあたり、何ともスリリングでトリッキーな展開が描かれます。主人公が薬剤師ならではの策を練るところも面白いですね。

「このあと衝撃の結末が」
 『クイズ時空探偵』という、クイズ付きのタイムトラベルドラマを見ながら寝てしまっていた中学生の「俺」は、ドラマのヒロインが結末で死んでしまうのを見て驚きます。ドラマを最初から見ていたという姉は、ちゃんと伏線はあったといいます。
姉の口車に乗せられ、「俺」は、ドラマをダイジェストで最初から見返すことになりますが…。
 ミステリドラマの真相を推理する…というお話なのですが、そのドラマがタイムトラベルを扱った作品であること、クイズ付きであること、視聴者参加型番組であることなど、複雑な要素が加えられて、トリッキーな作品になっています。
作中話であるドラマのストーリー自体はわりとオーソドックスなお話なのですが、それをめぐる推理部分はとても魅力的。脚本家による「あなたも過去を変えられる」というドラマのコンセプトが示されるのですが、これが文字通りのトリックとしてドラマに埋め込まれる趣向はすごいですね。

「不眠症」
 体の弱い母親と二人で暮らす娘の茉莉は、時折見る妙な夢に悩まされていました。その夢では母親の運転する車の助手席に座った自分が、母親から話しかけられ、その直後に意識が飛んでしまうのです。しかも母親の言葉は夢を見るたびに変わっていくようなのですが…。
 その内容がいつも異なる、夢の中での母親の言葉は何を意味しているのか? を探ってゆく夢テーマ作品です。
 現実での親子二人きりの生活に幸福感を覚えていた茉莉は、夢の意味するものについて悩みます。夢の中での茉莉と母親との関係は、現実での関係とはどこか違っているようなのです。
 ミステリ味もありますが、これはどちらかと言うと幻想小説でしょうか。切なさも感じられる秀作です。

「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」
 日本海の北に浮かぶ赤兎島の住民には特殊な体質がありました。首が取れやすいのです。力を強くかけると首が取れてしまうのですが、十五秒以内に体につなげれば死なないのです。その事実は島外の住民には秘密にされていました。
 祭りの夜、林道を歩いていた高校生の克人は、何者かに突然襲われ、離れた場所に首を飛ばされてしまいます。死を覚悟した瞬間、たまたま来合わせた友人の姫路公は自らの首を外し、克人の首をすげ変えます。十五秒以内に首を付け替えることを繰り返し、助けを呼びに行こうと二人は考えます。
 一方、神社で発見された克人の体は灯油をかけられ燃やされていました…。
首を外すことのできる特殊な体質の島人の間での殺人事件(体だけですが)が起こるという、ユニークな設定のミステリ作品です。主人公の体を燃やし、殺そうとした犯人は誰なのか? というのがメインの謎なのですが、それ以前に、主人公たちの陥った環境が強烈で印象に残る作品です。
 他人の体であったとしても、ほぼ同い年で同じ性別であれば首をつけることができるのです。そのため主人公の克人は、友人と首を十五秒以内に付け替え続けるという、とんでもない設定です。のちには別の友人が現れ三人内で交代で作業をすることになるのですが、そのままでは、いずれ死を迎える可能性が高いのです。その間に謎を解くことができるのか? という、タイムリミット・サスペンスにもなっています。
 十五秒以上首を外しておければ人を殺せる一方、首を外したからといって即死を意味するわけではない、という性質を上手く利用したお話になっており、その奇想天外な発想には驚かされます。また、クライマックスでの解決方法の力業には唖然としてしまいます。 特殊な世界観とその謎解きが無理なく結びついていて、まさに「異形のミステリ」といえる作品です。

 「十五秒」にも感心したのですが、一番インパクトが強いのは、やはり「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」でしょうか。いわゆる「バカミス」の領域に入る作品だと思いますが、そのブラック・ユーモアと、意外に本格的な推理も含めて楽しい作品でした。

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

閉ざされた町  ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『七人の魔法使い』

七人の魔法使い 単行本 – 2003/12/17


 ダイアナ・ウィン・ジョーンズの長篇『七人の魔法使い』(野口絵美訳 徳間書店)は、町を支配する七人の魔法使いの争いに巻き込まれた少年とその家族を描く、ファンタジー作品です。

 少年ハワードとその妹「スサマジー」ことアンシアの父親クェンティン・サイクスは小説家でした。ある日彼らの家に突然現れた大男「ゴロツキ」は、アーチャーという人物の使いで、サイクスが定期的に書いている二千語の原稿を取り立てに来たといいます。
 アーチャーはこの町を支配する七人の魔法使いの一人であるといいますが、サイクスの原稿のせいで彼を含む七人の魔法使いは皆、町から一歩も出られなくなっているというのです。やがてアーチャー以外の魔法使いたちも、ハワードたち家族の前に姿を現すことになりますが…。

 町を支配する七人の魔法使いの争いに巻き込まれた少年とその家族を描く、スラップスティックなファンタジー作品です。主人公ハワードの作家の父親の原稿には何らかの魔力があるらしく、その力によって魔法使いたちは町に閉じ込められているらしいのです。
アーチャーを始めとする魔法使いたちは町から出るために、ハワードたちの前に次々と姿を現すことになります。
 この魔法使いたちが、揃いも揃って変人で強烈なキャラクターとして描かれています。面白いのは、魔法使いたちには、町に関してそれぞれ管轄する部署があるというところ。法と秩序、音楽、犯罪、はたまた水道・ガス・電気などのインフラも、それぞれ分けられて担当しています。魔法使いたちが主人公たちを圧迫する手段も、魔法そのものによるというよりは、どちらかというとそうした「行政」を使ってくる、という面白い趣向です。電気を止められたり、税金を請求されたりと、いちいち手段が現実的で姑息なところに笑ってしまいます。
 次に現れる魔法使いがどんな人物で、どんな能力を持っているのか、というところにワクワク感がありますね。男なのか女なのか、どこにいるのか、何をしてくるのか? 彼らに会っているうちに、魔法使いたちを閉じ込めている本当の原因は、彼らのうちの一人にあることが分かってきます。すべてを仕組んだのは誰なのか? というのが分かる結末にはSF味も濃厚で驚かされます。

 頑固ながら落ち着いた気質の父親、芸術的センスに優れた音楽家の母親、激情的な妹スサマジーなど、主人公ハワードの家族たちのキャラクターも魅力的に描かれます。とくに後半、スサマジーとの兄妹関係に関しては、魔法使いたち同士の関係とも比較してクローズアップされることになり、作品のメインテーマとも関係してくることになります。

 町を仕切る魔法使いたちが、何やら行政を行う役所みたいに描かれていて、それもあって、彼らの「魔法」と世界観が上手く溶け込んでいます。果ては物語の舞台が「過去」や「未来」にまで広がるなど、そのスケールは壮大です。読み終えて、その壮大さ・複雑さにため息をついてしまうほどです。
 全体に陽気なトーンで描かれていますが、兄弟愛や家族愛など、真摯なテーマも盛り込まれている意欲的なファンタジーです。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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