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英雄たち  W・デ・ラ・メア『魔女の箒』

世界幻想文学大系〈10〉魔女の箒 (1975年) - – 古書, 1975/1/1


 W・デ・ラ・メア『魔女の箒 世界幻想文学大系10』(脇明子訳 国書刊行会)は、幻想的な短篇3篇と長篇童話「三匹の高貴な猿」を収録した、デ・ラ・メア作品集です。

 妹と暮らす若い農夫が妖精たちに悩まされるという「オランダ・チーズ」、老嬢と長年仲良く暮らしてきた愛猫との不穏な関係を語った「魔女の箒」、片腕が不自由で感受性豊かな少年の人生の転機を描いた「訪れ」、王族の血を引く三匹の猿の冒険を語った長篇童話「三匹の高貴な猿」を収録しています。
 本の大部分を占める童話「三匹の高貴な猿」が一番の傑作でしょうか。

 ムンザ・ムルガーの森のはずれに住んでいた木の実ザル、ムッタ・マトゥッタのもとに、変わったサルが現れます。彼はティッシュナーの谷の君主アッサシモンの弟であり、王族であるムッラ・ムルガー、シーレムでした。
 シーレムはムッタ・マトゥッタと恋に落ち、二人の間には、サム、シンブル、ノッドという息子が三人生まれます。五匹は幸せに暮らしていましたが、十三年後のある日、シーレムは故郷であるティッシュナーに帰ると言い出します。戻ってくると言い残して出かけたシーレムでしたが、一行に帰ってこず、悲しみからかムッタ・マトゥッタは亡くなってしまいます。亡くなる前に、ノッドは母親から魔法の石を譲り受けます。兄弟だけで暮らしていた息子たちでしたが、ノッドのミスから家が焼け落ちてしまいます。彼らは、父親の後を追い、ティッシュナーの谷を目指して旅に出ることになりますが…。

 王族の血を引くサルの三人兄弟が、故郷に帰った父親を追って旅に出るという物語です。その旅程は困難に満ちていて、他の動物に襲われたり食べられそうになるのはもちろん、超自然的な魔物に襲われたりもします。主人公は末っ子のノッドなのですが、序盤では自分のミスから家を火事で失ってしまったり、悪い動物に騙され荷物を奪われてしまったりと、あまり活躍しません。中盤からは、何度も兄たちから引き離されることにもなり、知恵や力を身に着け成長していくことにもなります。
 主人公の兄弟たちは特殊なサルで、二本足で歩いたり、衣服を着たりと、人間のようなサルとして描かれています。他の動物たちも、主人公たちほどではないにしても、意思の疎通が出来たり、文明的な生活をしていたりもするのです。動物たちだけが存在するファンタジー世界であれば、それで問題がないのですが、複雑なのは、この作品では人間が登場するところ。作中のエピソードで、罠にかかったノッドが人間と共に暮らすシーンがあるのですが、このくだりを見ると、頭の良い主人公ノッドもまた、人間に比べるとやはり「動物」であることが示されます。

 物語には登場しませんが、外部の人間世界がちゃんと存在することが示唆されており、そのあたりを考え合わせると、この作品における人間と動物の立ち位置、動物の中でも例外に属する主人公たちの存在などが、かなり複雑であることが分かりますね。
 また面白いのは、言語の設定。物語に登場する人物や事物が、サル独自の表現で表されるのです。例えば「ムルガー」はサルのことですし、王族のサルは「ムッラ・ムルガー」、人間のことは「ウームガー」と呼ばれています。
 いろいろなサルに通じる共通語的なものの他に、サルの種族ごとにも言語が分かれているようで、実際に他の種族のサルに出会った主人公たちが意思の疎通ができない、というシーンも見られます。
 旅の途中で出会う動物たちも、通常の名前ではなく、サルたち独自の言葉で表されるので、その動物が実在するものなのか、架空のものなのかも分かりません。豹が「ローゼス」だったり、鼻が長いということで、おそらく象だと思われる「エフェラントウ」とか、登場するのがよく知られている動物だったとしても、独自の名前のおかげで、異世界感が強く感じられるのが特徴でしょうか。
 主人公たちがサルということもあって、動物たちのなかでも、サル(ムルガー)たちは、多くの種類が登場すると共に、かなり独自の描かれ方をしています。
 中でも異彩を放っているのが「ミニマル」という種族。ノッドたちと同じ森のサルの一種とされていますが、地下に住み、サルを食べるという人(サル)食いザルなのです。彼らにつかまり食べられそうになるという部分は、かなり怖いですね。
 明確に超自然的な存在として現れるのが、影の女王「インマナーラ」。人間アンディ・バトルと暮らしていたノッドのもとに現れ、バトルを殺そうとする彼女を倒そうと、ノッドは魔法の石を使い、策略を立てることになります。

 サムやシンブル、二人の兄弟たちと離れるシーンが多いこともありますが、三兄弟のうちメインで活躍するのは末っ子のノッドです。サムはともかく、シンブルは途中で病んでしまったりと、ほとんど活躍の機会がなくなっていますね。
 主人公たちの旅の目的であるティッシュナーの谷に到着するのは、本当に最後の最後で、そこが思っていたとおりの「楽園」であるのかどうかは描かれずに終わるのも独特ですね。老いた父親がそこに向かったこと、母親が亡くなる際にティッシュナーの呼び声を聞いていることからも、この国が、どこか「死」の象徴を帯びているのは確かだと思います。
 ところどころで象徴的な要素があったりと、デ・ラ・メア独自の神秘的色彩が濃いのは確かですが、この物語自体は、波乱万丈、躍動感にあふれたファンタジーになっています。純粋に冒険物語としても面白い作品だと思います。


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恐怖のツイスト  R・L・スタイン『恐怖のヒッチハイカー』『呪われたビーチハウス』
 年少読者向けホラーシリーズ<グースバンプス>で知られる、アメリカの作家R・L・スタイン。彼のノンシリーズのホラー作品もなかなかに面白い作品です。二作ほど紹介していきます。


恐怖のヒッチハイカー ヤングホラー・シリーズ (集英社文庫) 文庫 – 1997/6/20


R・L・スタイン『恐怖のヒッチハイカー』(馬場ゆり子訳 集英社文庫)
 短気で暴力的な青年のヒッチハイカーを乗せてしまった女性二人組を描く、サイコ・サスペンス作品です。

 休暇でフロリダにやってきた女性二人組、クリスティーナとテリーは、車を運転中、ヒッチハイクしていたハンサムな青年ジェームズを拾います。ジェームズを気に入ったクリスティーナに対して、テリーは彼に危険なものを感じていました。
 ジェームズは、食堂で冷たい態度を取ったウエイターに暴力を働いてしまいます。彼を乗せたことを後悔するテリーでしたが、クリスティーナはジェームズの危険な香りに魅力を感じていました。やがてジェームズのいとこポールの家にたどり着いた三人は、ポールの家に泊めてもらうことになりますが…。

 ヒッチハイクしている短気で攻撃的な青年を乗せてしまった女性二人組の恐怖を描くホラー作品、なのですが、一概にそういう作品にならないところに、この作品の面白みがあります。
 同乗しているうちに、いくつも問題を起こす青年ジェームズなのですが、彼の脅威とは別に、彼らを尾行する車が現れたり、車がなくなってしまったり、女性の片方が消えてしまったりと、いくつもの不条理で不穏な出来事が起こることになります。これらの出来事の原因はジェームズなのか? ラジオでも言及される殺人の犯人はジェームズなのか、それとも彼とは無関係の出来事なのか?
 ヒッチハイカーの脅威を描くシンプルなホラーと思っていると、次々と不穏な出来事が続き、事件の全体像が分からなくなってきます。女性二人組の過去に怪しい節もあり、誰が善人で誰が悪人かも混乱してくるという部分はサスペンスたっぷりです。
 後半では「どんでん返し」というほどではないですが「ひっくり返し」レベルの出来事が続き、読者を引き回してくれます。エンタメ・ホラーの快作といっていい作品ではないでしょうか。



呪われたビーチハウス ヤングホラー・シリーズ (集英社文庫) 文庫 – 1997/7/18


R・L・スタイン『呪われたビーチハウス』(黒木三世訳 集英社文庫)
 二つの時代を舞台に、ビーチハウス周辺で起きる殺人や行方不明事件を描いたホラー・サスペンス作品です。

 1956年の夏、マリアとエイミーは海に遊びに来ていました。ボーイフレンドのロニーとつきあっているエイミーを羨むマリアでしたが、マリアの前にも、ハンサムながら生真面目なバディと反抗児のスチュアート、二人の恋人候補の青年が現れます。
 ある日、友人たちは海の中でバディの水着を脱がせるといういたずらを仕掛けます。また、スチュアートに強引に誘われたマリアは、バディとの約束を反故にしてスチュアートとのデートに出かけてしまいます。その翌日、バディとマリアは海に出かけたまま行方不明になってしまいます。
 バディは海のそばにあるビーチハウスに住んでいると話していましたが、そこには誰も住んでいませんでした。バディの本名も家族がどこにいるかも全く分かりません。
 一方、現代では、ボーイフレンドのロスと共に海に遊びに来ていたアシュレーは、現地で出会った資産家でハンサムな青年ブラッドに惹かれていました。嫉妬深く強引なロスに冷めつつあったアシュレーは、ブラッドの誘いを受けて彼の家に遊びに行くことになりますが…。

 1956年と現代、二つの時代で、それぞれビーチハウスの周囲で発生する殺人や行方不明事件が描かれるという作品です。
 どちらのパートでも、男女の三角関係をめぐって不穏な事件が起こるという構成は共通するのですが、1956年では、明確に事件の犯人が分かるようになっています。
 犯人はサイコパス気質で犯行を繰り返した後、姿を消してしまいます。現代でも同じような男女の三角関係が描かれ、過去と同じような惨劇を予感させるのですが、単純な繰り返しにはならず、そこに謎のビーチハウスが絡んでくることにより、驚きの展開になってゆきます。
 リゾート地での若い男女たちの恋愛模様、次々と起こる殺人や行方不明事件…、ある種ステレオタイプな情景が展開されることから、単純なスラッシャー・ホラーだと思っていると、驚かされるかと思います。そこに超自然的な趣向が加わって、二つのパートの物語が合流するクライマックスには感心しますね。
 児童向け作品で知られる著者のスタインなのですが、本作品では登場人物の年齢層がちょっと高めになっているのと、作品の刺激度も高いことから、割と大人向けの作品といっていいのかなと思います。



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老いた世界  ブライアン・W・オールディス『グレイベアド 子供のいない惑星』

グレイベアド―子供のいない惑星 (創元SF文庫) 文庫 – 1976/5/1


 ブライアン・W・オールディス『グレイベアド 子供のいない惑星』(深町眞理子訳 創元SF文庫)は、子供が生まれなくなり老人たちばかりになった世界を舞台にした、ユニークな「破滅もの」SF小説です。

 核戦争を発端とする放射能障害により、人類を含む生物の生殖腺が破壊され、子供が生まれなくなってから50年、世界は老人ばかりになっていました。その風貌から〈灰色ひげ〉と呼ばれる男アルジャーノン・ティンバレンは、50歳代ながら、この世界では最年少になっていました。
 滅びゆく人類の歴史を記録するために設立された機関「DOUCH」の一員である〈灰色ひげ〉は、なりゆきからその機関の設備を搭載した車も失い、ある村に何年もとどめおかれていました。イタチの被害から逃れることをきっかけに、〈灰色ひげ〉は妻や友人らとともに川を下って旅を始めることになります…。

 子供が50年間も生まれなかったため、登場人物は老人ばかり。人類は衰退に向かっているという陰鬱な世界を舞台にした作品です。残された人間たちの間の争いや暴力といった情景も描かれるものの、老齢ということもあり、それほど重大な闘争というのは描かれません。
 むしろ人類の脅威になっているのは、狂暴化したイタチやネズミなどの害獣、そして人々自身の滅びゆく世界に対しての諦観なのです。主人公〈灰色ひげ〉は、50代ながらまだ活力を残した男であり、害獣の脅威をきっかけに十数年住み着いた村を出て、妻や友人とともに新天地を求めることになります。

 旅の途中で出会う人々を通して、現在の世界の様子、そして挟まれる彼自身の回想を通して、世界に過去に何が起こったのか?ということが語られていきます。過去の回想で語られる、おもちゃ会社を経営する主人公の父親が、子供が生まれなくなったために破産する…というエピソードは特に印象的です。
 世界の平均年齢は70になっており、登場する人々も活力のなくなった人間が多いのですが、「<永遠の命>を売る」という山師的人物として登場するバニー・ジンガンダロウのキャラクターは印象的。やがてジンガンダロウとの関わりをきっかけに、世界の希望が見え始める…というのもユニークな展開です。

 設定が設定だけに全体に地味な話ではあるのですが、主人公をはじめとする人物の描写に深みがあるのと、ストーリーテリングの上手さもあって、飽きずに読ませます。テーマも現代的であり、佳作といっていい作品ではないでしょうか。


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同人誌『奇妙な味の物語ブックガイド』再版開始のお知らせ
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 昨年11月に刊行し、完売した同人誌『奇妙な味の物語ブックガイド』ですが、要望が多かったこともあり、再販を開始いたしました。以下のお店で販売させていただいています。ご興味のある方、よろしくお願いいたします。

CAVA BOOKS(サヴァ・ブックス)さん
https://cavabooks.thebase.in/items/36202276

享楽堂さん
https://www.kyorakudo.jp/product/3240

本屋ルヌガンガさん
https://lunuganga.shopselect.net/
※販売は少し後になります。

 内容についても、再度紹介しておきますね。
 海外作家の<奇妙な味>の短篇集を100タイトルほど紹介したガイド本です。ロアルド・ダールやスタンリイ・エリンといった、一般に<奇妙な味>と認知されている作品だけでなく、ミステリ・SF・ホラー・文学など、いろいろなジャンルから<奇妙な味>的な要素を持つ作品集をセレクションして紹介しています。全てではないのですが、大部分のタイトルで個々の収録短篇を詳細に紹介しています。

仕様は以下の通りです。

『奇妙な味の物語物語ブックガイド』
サイズ:A5
製本仕様:無線綴じ
本文ページ数:244ページ(表紙除く)
表紙印刷:オンデマンドフルカラー
本文印刷:モノクロ
表紙用紙:アートポスト200K
本文用紙:書籍72.5K(クリーム)
表紙PPクリア加工

収録内容

まえがき
デイヴィッド・アリグザンダー『絞首人の一ダース』
H・C・アルトマン『サセックスのフランケンシュタイン』
デイヴィッド・アンブローズ『幻のハリウッド』
D・イーグルマン『脳神経学者の語る40の死後のものがたり』
ケヴィン・ウィルソン『地球の中心までトンネルを掘る』
ヒュー・ウォルポール『銀の仮面』
ジョーン・エイケン『レンタルの白鳥』
マルセル・エーメ『マルタン君物語』
マルセル・エメ『マルセル・エメ傑作短編集』
マルセル・エーメ『エーメ ショートセレクション 壁抜け男』
スタンリイ・エリン『特別料理』
スタンリイ・エリン『九時から五時までの男』
スタンリイ・エリン『最後の一壜』
J・C・オーツ『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』
J・C・オーツ『邪眼 うまくいかない愛をめぐる4つの中篇』
A・H・Z・カー『誰でもない男の裁判』
ヘンリー・カットナー『世界はぼくのもの』
A・ビオイ=カサーレス『パウリーナの思い出に』
マリー・ルイーゼ・カシュニッツ『六月半ばの真昼どき』
イタロ・カルヴィーノ『レ・コスミコミケ』
ポール・ギャリコ『銀色の白鳥たち』
ジョナサン・キャロル『パニックの手』
ジョナサン・キャロル『黒いカクテル』
リンダ・キルト『怖るべき天才児』
クルト・クーゼンベルク『壜の中の世界』
デイヴィス・グラッブ『月を盗んだ少年』
フリオ・コルタサル『奪われた家/天国の扉 動物寓話集』
マヌエル・ゴンザレス『ミニチュアの妻』
サッパー『十二の奇妙な物語』
ミック・ジャクソン『10の奇妙な話』
ミック・ジャクソン『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』
サマンタ・シュウェブリン『口のなかの小鳥たち』
ジュール・シュペルヴィエル『海の上の少女』
シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』
シオドア・スタージョン『影よ、影よ、影の国』
マイケル・マーシャル・スミス『みんな行ってしまう』
スティーヴンソン『マーカイム・壜の小鬼 他五篇』
ロジャー・ゼラズニイ『伝道の書に捧げる薔薇』
ウィル・セルフ『元気なぼくらの元気なおもちゃ』
ロアルド・ダール『キス・キス〔新訳版〕』
ロアルド・ダール『あなたに似た人〔新訳版〕』
ロアルド・ダール『飛行士たちの話〔新訳版〕』
ロアルド・ダール『王女マメーリア』
ロアルド・ダール『ヘンリー・シュガーのわくわくする話』
ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』
リン・ディン『血液と石鹸』
トニー・デュヴェール『小鳥の園芸師』
ウォルター・デ・ラ・メア『恋のお守り』
ロバート・トゥーイ『物しか書けなかった物書き』
アンリ・トロワイヤ『ふらんす怪談』
デーモン・ナイト『ディオ』
アントニー・バウチャー『タイムマシンの殺人』
ジェイムズ・パウエル『道化の町』
エドモンド・ハミルトン『フェッセンデンの宇宙』
エドモンド・ハミルトン『星々の轟き』
J・G・バラード『ウォー・フィーバー』
ウイリアム・ハリスン『ローラーボール』
J・L・ハーリヒィ『悲鳴でおわる物語』
トマス・ピアース『小型哺乳類館』
ジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』
クリストファー・ファウラー『白昼の闇』
ジャック・フィニイ『レベル3』
ジャック・フィニイ『ゲイルズバーグの春を愛す』
フィツジェラルド『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
ディーノ・ブッツァーティ『魔法にかかった男』
ディーノ・ブッツァーティ『現代の地獄への旅』
ディーノ・ブッツァーティ『怪物』
フレドリック・ブラウン『さあ、気ちがいになりなさい』
ロバート・ブロック編『フレドリック・ブラウン傑作集』
ロバート・ブロック『夜の恐怖』
レイ・ブラッドベリ『黒いカーニバル』
レイ・ブラッドベリ『10月はたそがれの国』
レイ・ブラッドベリ『刺青の男』
レオン・ブロワ『薄気味わるい話』
バリントン・J・ベイリー『ゴッド・ガン』
サーデグ・ヘダーヤト『生埋め』
グレゴリイ・ベンフォード『時空と大河のほとり』
リュドミラ・ペトルシェフスカヤ『私のいた場所』
ゼナ・ヘンダースン『ページをめくれば』
T・コラゲッサン・ボイル『ごちゃまぜ』
チャールズ・ボウモント『残酷な童話』
マッシモ・ボンテンペルリ『わが夢の女』
ジョージ・R・R・マーティン『洋梨形の男』
アンリ・ミショー『幻想旅行記』
ミュノーナ『スフィンクス・ステーキ』
フリッツ・ライバー『闇の世界』
リング・ラードナー『息がつまりそう』
トム・リーミイ『サンディエゴ・ライトフット・スー』
ジャック・リッチー『10ドルだって大金だ』
ジャック・リッチー『ダイアルAを回せ』
アーシュラ・K・ル・グィン『なつかしく謎めいて』
レオポルド・ルゴーネス『アラバスターの壺/女王の瞳』
プリーモ・レーヴィ『天使の蝶』
J・ロバート・レノン『左手のための小作品集 100のエピソード』
ジャック・ロンドン『ジャック・ロンドン大予言』
柴田元幸編訳『むずかしい愛』
柴田元幸編訳『どこにもない国 現代アメリカ幻想小説集』
中村融編『街角の書店 18の奇妙な物語』
中村融編『夜の夢見の川 12の奇妙な物語』
井波律子編訳『中国奇想小説集 古今異界万華鏡』


「ぼく」の人生の物語  マルセロ・ビルマヘール『見知らぬ友』

見知らぬ友 (世界傑作童話シリーズ) 単行本 – 2021/2/12


 アルゼンチンの作家マルセロ・ビルマヘールによる短篇集『見知らぬ友』(宇野和美訳 福音館書店)は、一見、普通の日常の中に、変わった出来事が起こるという、不思議な手触りの小説集です。

 自分が困難に出会うたびに突然現れ助けてくれる見知らぬ友の存在を描く「見知らぬ友」、髪を切るのが苦手な少年と床屋の交流を描いた「世界一強い男」、観賞魚店の魚をめぐって少年と少女の出会いが描かれる「ヴェネツィア」、紛争に従軍した長男をめぐって家族に起こる不思議な物語「立ち入り禁止」、黒い石について父子の対話が描かれる「黒い石」、詩をクラスメイトに盗まれた詩人の少年を描く「地球のかたわれ」、不良ぶった少年がガールフレンドに送ったラブレターが二人の人生を変えるという「失われたラブレター」、無名のザイールのサッカー選手をめぐる少年の物語「ムコンボ」、父親に会いに飛行機に一人乗った少年と「ぼく」の出会いを描いた「飛行機の旅」、かっては美しかったであろう老婆が保管していた少女時代の写真をめぐる奇談「クラス一の美少女」を収録しています。

 収録作の大部分の語り手は、作家自身を思わせる「ぼく」になっており、描かれるのも「ぼく」の少年時代が多くなっています。それだけに実体験を元にしたリアルな小説かと思わせるのですが、起こるのは超自然的とまでは言わないにしても、数奇な出来事ばかり。
解説によれば、実際、小説の核となるイメージは作者の少年時代の思い出から来ているのだとか。ただ、そこに数奇な出来事や、登場人物の変わった運命を混ぜ込んでいます。全体にユーモアあふれる語り口のせいもあり、不思議な手触りの作品集になっています。
 特に印象に残るのは「失われたラブレター」「クラス一の美少女」でしょうか。

 「失われたラブレター」は、こんな物語。不良じみたポーズを取りながらも才気あふれる少年マルコス。彼は美しい少女ルイシーナに恋していましたが、仲間との賭けにそそのかされてルイシーナへのラブレターを書きます。
 ラブレターは素晴らしい出来だったものの、賭けによって書かれたということで、二人の仲は進展せずに終わってしまいます。数十年後、マルコスは犯罪を犯して刑務所に収監され、一方ルイシーナは人妻となっていました。
 ある日ルイシーナの妹テオドーラは、ルイシーナが保存していたマルコスからのラブレターを読み、マルコスに恋してしまいます…。
 純粋な愛をつづったはずのラブレターが、書かれた環境、読まれた環境によって、思いもかけない結果を引き起こすという、不思議な人生の物語です。

 「クラス一の美少女」は、老女の変わった人生の物語。
 不動産の仕事をする父親の共をして、家を売りたいという老女の家を訪れた少年の「ぼく」。老女はかっての美しさを留めた女性でした。やがて老女は亡くなりますが、家に置いてあった少女時代の老女の美しい写真に惹かれた「ぼく」は写真を一枚くすねてしまいます。
 大人になり取材記者となった「ぼく」は、老人ホームへインタビューに訪れますが、その相手の一人マリータは、「ぼく」のもつ美少女の写真に写っているのは自分だと言い出します…。
 子ども時代の写真とそれを見た関係者の言葉により、亡くなった老女の人生の悲喜劇が語られるという物語です。読んでいて、いろいろ想像をそそられる物語になっていますね。

 表題作「見知らぬ友」「立ち入り禁止」は、超自然的な出来事が起こる明確な幻想小説になっています。

「見知らぬ友」では、主人公ルシオの人生のことあるごとに現れ、助けてくれる「見知らぬ友」が描かれます。
やがて彼の存在に慣れてしまったルシオは彼の助力を心待ちにするようになりますが、ある時を境に彼は現れなくなります…。
 「見知らぬ友」は何者なのか? 「分身物語」というべきか、「悪魔との契約」テーマというべきか、寓話的な作品です。

 「立ち入り禁止」は、フォークランド紛争で長男を徴兵されてしまった家庭が描かれます。少年ラファエルは、兄のルカスがいなくなってから、両親との間が上手くいかなくなっていました。両親はラファエルに夫婦の部屋への出入りを禁止し、同じ家でありながら一人で過ごすようになっていました。
 ある夜、言いつけを破って両親の部屋に入ったラファエルは、そこに誰もいないのに気づいて愕然とします。両親は確かに部屋にこもっているはずなのです…。
 閉ざされた部屋はどうなっていたのか? 寓話として捉えることもできるのでしょうが、まるで「シュレーディンガーの猫」を思わせる<奇妙な味>の物語です。

 観賞魚をめぐって少年と少女の束の間の出会いを描く「ヴェネツィア」であるとか、選手としては無名でありながら、カードの存在から少年たちの間で一時的な人気を博すサッカー選手をめぐる思い出を描いた「ムコンボ」など、普通小説的な色彩の濃い作品にも味わいがあって、それらで描かれる少年少女の淡い恋物語や、大人との交流など、そうした微妙な心理を扱った作品にもまた違った面白みがありますね。


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死と再生  ロバート・R・マキャモン『スワン・ソング』

スワン・ソング〈上〉 (ミステリペイパーバックス) 新書 – 1994/4/1

スワン・ソング〈下〉 (ミステリペイパーバックス) 新書 – 1994/4/1


 ロバート・R・マキャモンの長篇『スワン・ソング』(加藤洋子訳 福武書店)は、全面核戦争により荒廃したアメリカ大陸で、世界再生の鍵を握る少女スワンをめぐって展開される、黙示録的ホラー作品です。

 第三次世界大戦が勃発し、アメリカとソ連は互いに大量の核爆弾を発射します。核ミサイルによる炎の柱と放射能の嵐がアメリカ全土を覆い尽くし、ほぼ全ての都市が壊滅してしまいます。
 黒人の悪役プロレスラーのジョシュは、たまたま立ち寄ったガソリン・スタンドの地下に、店長のポーポー、シングルマザーのダーリーンとその9歳の娘スワンと共に閉じ込められ、九死に一生を得ることになります。ポーポーとダーリーンは死に、スワンを守れというメッセージを受け取ったジョシュは、スワンと共に地下から脱出し、旅に出ることになります。
 マンハッタンで、精神のバランスを崩し浮浪者生活を送っていた女性シスターは、廃墟でガラスの不思議なリングを拾ったことにより、正常な心を取り戻し、リングによって示されたヴィジョンに従い、仲間と共に旅に出ることになります。
 核シェルター内部で攻撃を受け閉じ込められた施設の責任者マクリン大佐は、少年ローランドの助けを借り生き延びることに成功します。二人は、武器と軍事力を使い、軍隊を作ろうと考えます。
 一方、生き延びて復興をしようとする人々の意思を挫こうと、邪悪な「深紅の目の男」がところどころで暗躍していました…。

 全面的な核戦争により壊滅状態に陥ったアメリカ大陸を舞台に、奇跡を起こす少女スワンをめぐって、世界を再生させようとする人々と、邪悪な勢力が戦うことになる、というホラー作品です。
 中心となって描かれるのは三グループ。少女スワンと彼女を守護する黒人の大男ジョシュ、元ホームレスのシスター、ベトナム帰還兵のマクリン大佐とその副官ローランド少年の三グループの状況がカットバックで描かれていきます。
 また、それに加えて、人類が再び立ち上がるのを邪魔しようとする、悪魔ともつかぬ邪悪な男「深紅の目の男」の行動も同時に描かれていきます。
 大量の核爆弾によって、ほとんどの人々が即死、残った人々も放射能により死んでしまいます。大地は汚染され、作物も育たなくなってしまいます。残された食料や物資をめぐって、生き残った人々が互いに争うという、悲惨極まりない世界が舞台となっています。
 主人公スワンとジョシュ、そしてシスターは、それぞれ仲間を得て旅をすることになるのですが、事故、野生動物や敵対勢力の襲撃により、次々と命を落としていきます。自分たちの使命を自覚していないスワンたちと比較して、リングの導きにより救世主を探し続けようとするシスターたちのグループは、目的が明確なため、その旅路にも力強さがありますね。シスターたちは、スワンたちとのグループと合流できるのか? というのが前半の読みどころでしょうか。

 一方、「悪」の側といえるマクリン大佐とローランド少年は、互いに妄想じみた支配欲で強大なグループを形成していきます。
 スワンやシスターたちと、彼らが最終的に戦うことになるのは予想できますが、それがどのように関わってくるのか?というところも興味深いですね。
 真の敵といえる「深紅の目の男」の存在も面白いところです。おそらく「悪魔」の類で、絶大な力を持ちながらも、全能ではありません。
 リングを持つシスターを追いかけ続けるものの、その行方を突き止めることができずに放浪したり、スワンに対して恐れを感じてしまったりと、ところどころで妙な「弱さ」を見せるというのも面白いですね。

 序盤、核爆弾による被害とその直後の破壊状況の描写が強烈で、まさに阿鼻叫喚。その後も、法も倫理もなくなってしまった世界で、狂気に囚われた人々が繰り広げる暴力描写が強烈な作品になっています。全面暴力の嵐で、主人公たちの仲間を含め、人々があっさりと殺されてしまうなど、バイオレンス描写は本当にリアルで強烈です。ただ、奇跡を起こす少女スワンや、「神託」を受けるシスター、悪魔じみた「深紅の目の男」など、明らかに超自然的な存在・現象も登場しており、そのあたりの作品バランスは非常に上手いですね。
 割とあっさり殺されたり亡くなってしまう人物も多いのですが、そうした人物にもちゃんと見せ場があるところが嬉しいです。人物だけでなく、スワンのグループの一員となる犬のキラーや馬のミュールも、一人(一匹)のキャラクターとして輝いているところがありますね。

 どのキャラクターも魅力的に描かれているのですが、中でも魅力を放っているのがジョシュとシスターでしょうか。黒人の大男で元悪役レスラーのジョシュは、スワンを自分の娘とも思い、最後まで彼女を守り抜こうとします。前半、スワンを人質に取られるシーンがあるのですが、そこで手を縛られたまま、何人もの凶器を持った男たちと渡り合う場面は圧巻です。力強さと優しさを兼ね備えたキャラクターです。
 シスターは、自分の娘を失ったことから狂気に陥っていたものの、リングの導きによりその心を取り戻します。その信念は固く、それを見た何人もの男たちが彼女の仲間となることにもなります。

 前半はリアルな「核戦争もの」「破滅もの」といった感覚が強いです。後半は、「救世主」スワンをめぐる宗教的ファンタジーといった感じで、超自然味がかなり強くなってきます。前半のトーンがリアルで、暴力描写もハードなだけに、後半の展開には非常にカタルシスがありますね。
 リアルな暴力描写・世界観と、ファンタジー的な要素が無理なく同居していて、独自の味わいを生み出しています。「破滅もの」ジャンルにおいて、トップクラスの傑作と言ってよい作品だと思います。


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珠玉の童話集  ジョージ・マクドナルド『かるいお姫さま』

かるいお姫さま (岩波少年文庫 (133)) 文庫 – 2005/9/17


 ジョージ・マクドナルドの短篇集『かるいお姫さま』(脇明子訳 岩波少年文庫)は、「かるいお姫さま」「昼の少年と夜の少女」の二篇を収録した童話集です。

「かるいお姫さま」
 王さまの姉である魔女のメイケムノイツ王女は、お姫さまの洗礼式の招待状をもらえなかったことを根に持ち、お姫さまが軽くなる呪いをかけてしまいます。体の軽さだけでなく、性格すらも軽くなってしまったお姫さまは、物事を真剣に考えることも、悲しむこともできなくなってしまいます。
 ただ泳いでいる間だけは、一時的に重さが戻っているようで、お姫様は好んで湖で泳ぐようになります。ある日、結婚相手を求めて旅していた他国の王子は、泳いでいるお姫さまと出会い恋してしまいます。
 王子を憎からず思うお姫さまでしたが、湖を出ると、また軽薄な性格に戻ってしまいます。お姫さまが湖で機嫌良く泳ぐのを苦々しく思うメイケムノイツ王女は、湖の水がどんどんと減っていく呪いをかけますが…。

 体が軽くなる呪いをかけられたお姫さまが「重さ」を取り戻し幸せになる、という童話作品です。軽くなるというと何だか楽しげなのですが、ちょっとしたことで空に浮き上がってしまったり、風で飛ばされてしまったりと身体上の危険があるうえに、性格や考え方も軽くなってしまい、物事を真剣に捉えることもできないため、人間関係もまともに築くことができないのです。
 唯一、水に入っているときは一時的に重さを取り戻すことになり、湖で泳ぐことがお姫さまの一番の喜びになるのですが、魔女によってそれすらも奪われそうになってしまいます。
 泣くこと=悲しむこと=重さを取り戻すことであり、王子の自己犠牲によってお姫さまが本来の姿を取り戻す、というのは、寓意としても面白いところですね。全体にユーモラスでありながら、真摯なテーマも感じられる傑作だと思います。
 作中に登場する二人の中国人の哲学者ハム・ドラムとコピー・ケックが、ナンセンスな発言を繰り返すのですが、ナンセンスではありながら、ちょっと意味深なところもあったりと、こちらの部分も面白いところです。

「昼の少年と夜の少女」
 あるお城にワトーという魔女が住んでいました。彼女の城には、レディ・アウロラという貴婦人と、目の見えない未亡人ヴェスパーが滞在していました。レディ・アウロラは男の子、ヴェスパーは女の子を産みます。レディ・アウロラには赤ん坊は死んでしまったと嘘をつき、またヴェスパーはお産の際に亡くなってしまったため、ワトーは二人の赤ん坊を手に入れることになります。
 少年フォトジェンは、昼の光の世界のみで育てられ、少女ニュクテリスは、夜の闇の世界のみで育てられます。
 ワトーは、フォトジェンにお日さまの縁が地平線に触れる時間には絶対に外にいてはいけないと命令しますが、怖い物知らずのフォトジェンは、お日さまが沈んだ後がどうなるのか見届けてやろうと考えます。
 また、ニュクテリスは、ある日ランプが墜ちて明かりが消えてしまったことをきっかけに、部屋の外に出てしまうことになります。互いに知らなかった昼と夜の世界を知った二人は、やがて出会うことになりますが…。

 昼の世界のみで育てられた少年フォトジェンと、夜の世界のみで育てられた少女ニュクテリスが出会うという、象徴的なファンタジー作品です。
 二人は、それぞれ昼と夜の世界の化身のような存在なのですが、やがて知ったもう一つの世界に対して恐れを抱きながらも、だんだんとその魅力に囚われていくことになる、という過程が感性豊かに描かれていきます。夜の世界に恐れをなしたフォトジェンをニュクテリスはその包容力で包むことになるのですが、逆に昼の世界を怖がるニュクテリスをフォトジェンは放って帰ってしまう、というシーンもあり、男女の主人公の性格の違いを描いていて面白いところですね(少年はその行為を後悔することにはなるのですが)。
 魔女が結局何を目的としていたのか?なども含め、最後まで分からないことがあったりと、多少難解なところもあります。おそらく、キリスト教的な寓意も強く込められている物語なのだと思います。ただ、そうした寓意を抜きにして純粋に物語として読んでも面白い作品になっています。
 昼と夜、光と闇の対比が視覚的にも美しいファンタジーです。読んでいて、どこか共通点のありそうな、いくつかの作品を思い出したりもしました。心のねじれた資産家の手により太陽を全く知らずに育てられた少年が初めて太陽を目にするという「消えた太陽」(アレクサンドル・グリーン)や、生まれながらに幽閉されて育てられた王子が、薬で眠らせられている間に玉座に連れてこられるという「人の世は夢」(ペドロ・カルデロン・デ・ラ・バルカ)など。
 どれも、生まれてから全く知らなかった異世界を見たとき、人はどんな反応をするのか? というテーマで書かれた作品ですね。


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闇の図書館  ハンス=オーケ・リリヤ編『闇のシャイニング リリヤの恐怖図書館』

闇のシャイニング リリヤの恐怖図書館 (海外文庫) 文庫 – 2020/9/2


 ハンス=オーケ・リリヤ編『闇のシャイニング リリヤの恐怖図書館』(友成純一、白石朗、金子浩、金原瑞人訳 扶桑社ミステリー)は、世界最大のスティーヴン・キングのファンサイトを20年間運営してきた編者が、キングゆかりの著者たちに自ら執筆、掲載の交渉を重ねて編集したという、ホラー・アンソロジーです。

 海辺のコテージを訪れた作家が巨体の家主の夫人からインスピレーションを得て作品を書き始めるという「青いエアコンプレッサー」(スティーヴン・キング)、チャットで若い女性に恋した中年男性が彼女に会いに行くという「ネット」(ジャック・ケッチャム&P・D・カセック)、自身のホロコースト体験を描いた小説が評価され、トーク番組に出演することになった作家の葛藤を描く「ホロコースト物語」(スチュアート・オナン)、獣に変身する能力を持つ少女と女性警官の出会いを描いた「アエリアーナ」(べヴ・ヴィンセント)、天使によって昇天させられた聖人のペットがその影響で人間のように変容するという「ピジンとテリーザ」(クライヴ・バーカー)、妻子を失い、世界の終わりを待ち望む男の心理を描いた「世界の終わり」(ブライアン・キーン)、かって手にかけた少女の墓を訪れる男を描いた「墓場のダンス」(リチャード・チズマー)、カーニバルを訪れた少年たちが監禁された屋敷から逃げ出そうとする「炎に溺れて」(ケヴィン・キグリー)、遊園地を訪れた男が何処とも知れない世界に入り込むという「道連れ」(ラムジー・キャンベル)、老人を殺した男が自らに裏切られるという古典的作品「告げ口心臓」(エドガー・アラン・ポー)、愛する母親のために追い詰められた息子を描く「愛するお母さん」(ブライアン・ジェイムズ・フリーマン)、テーブルトークRPGの最中に本物の怪物を呼び出してしまった少年の恐怖を描く「キーパー・コンパニオン」(ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト)の12篇を収録しています。

 キングの作品を始め全体に短めの作品が多く、「小品集」といった趣が強いアンソロジーなのですが、なかでは「ピジンとテリーザ」(クライヴ・バーカー)、「炎に溺れて」(ケヴィン・キグリー)、「キーパー・コンパニオン」(ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト)などが印象に残る作品でしょうか。

 クライヴ・バーカー「ピジンとテリーザ」は、天使が存在する世界を描いたホラー・ファンタジー。天使によって聖人レイモンドは強制的に昇天させられてしまいます。その影響で、彼の部屋で飼われていたオウムのピジンと陸亀のテリーザは、人間のような姿に変容してしまいます。
 知能を得た二人は、天使に見つからないよう逃げ出すことになりますが…。
 天使がまるで「災害」のように描かれるのがユニーク。聖人とされた男も、それに値しないと判断された後、とんでもない姿にされたりと、バーカーらしいグロテスクな情景が展開される作品です。

 ケヴィン・キグリー「炎に溺れて」は、カーニバルを訪れた少年たちの恐怖体験を描くホラー。
 ジョニー、チップ、ボビーの三人の少年は、カーニバルを訪れ、エティエンヌ・ラルーという男が案内する屋敷で<炎に溺れて>というイベントにチャレンジしますが、屋敷に閉じ込められてしまいます。
 脱出しようとしますが、屋敷にはところどころに罠がしかけられていました…。
 いわゆるお化け屋敷テーマの作品ですが、それぞれのトラップが死に直結するレベルのものであったり、ある生き物が大量に襲ってきたりと、生理的にも気色の悪い作品になっています。後半、少年たちが反撃に転ずる部分は爽快ですね。

 ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト「キーパー・コンパニオン」は、テーブルトークRPGをテーマにした作品。
 自尊心の強い少年アルバートは、テーブルトークRPGのゲームマスターとして評判を得ていました。クトゥルフをテーマにした<クトゥルフの呼び声>にのめり込んだアルバートは、いじめられっ子の少年オズワルドの参加希望を断り続けていました。ようやくオズワルドの参加を許可するものの、彼の知識はアルバートに劣らぬもので、皆の評判も上々なのを見てアルバートは不満に思います。ゲームの途中、即興の呪文を唱えた後、気がつくとアルバートの目の前に奇怪な怪物が出現していました。他の者には見えないらしい怪物に恐怖感を抱くアルバートでしたが、やがて怪物が自分の力の源泉になっているのではと考えたアルバートは全能感を抱くようになっていきます…。
 クトゥルフのゲームを楽しんでいた少年が、本物の怪物を呼び出してしまう、という物語。怪物が何か行動を起こすわけではなく、ずっとそばに存在し続けるだけ、というシチュエーションなのですが、それに対する少年の意識の変化を描くという、ユニークな作品になっています。


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囚われた未来  ジョン・クリストファー『トリポッド』四部作
 ジョン・クリストファーの『トリポッド』四部作は、謎の三本脚の機械<トリポッド>と共に異星からやってきた侵略者と、それに立ち向かう少年たちの活躍を描いた冒険SFシリーズです。もともと三部作として書かれ、20年近く後に前日譚が描かれています。邦訳判では、その前日譚が1巻とされ、オリジナルの三部作が2~4巻となっています。


トリポッド 1 襲来 (ハヤカワ文庫 SF) 文庫 – 2004/11/15


ジョン・クリストファー『トリポッド1 襲来』(中原尚哉訳 ハヤカワ文庫SF)
 少年ローリー・コードレイは友人のアンディと一緒にオリエンテーリングに参加しますが、道に迷ってしまい、ふと見つけた農場で一夜を過ごすことになります。夜中に機械音で起きた二人は、そこに巨大な三本脚の物体が現れたことに驚きます。機械はミサイルで破壊されますが、同じ物体は、世界の他の場所にも現れていました。<トリポッド>による被害は大したものではありませんでしたが、彼らの意図は皆目分かりません。
 ある頃から、テレビで放送されている<トリッピー・ショー>を見た子供たちが攻撃的になります。
 また、妙なキャップをつけられた大人たちが<トリポッド>の礼賛を始めるようになります。<トリポッド>に人々が洗脳されていることを知ったローリーの父マーティンは家族を連れ、イギリスを脱出する計画を立てますが…。

 異星からやってきた謎の三本脚の機械<トリポッド>。彼らに襲われた地球人類を描くシリーズの前日譚にあたる作品です。三本脚の機械が地球上に突如現れるものの、その機械自体はそれほど恐るべきものではなく、撃退も可能でした。ですが、地球人たちに対する巧妙な洗脳活動によって、人類の大部分が<トリポッド>の支配下に入ってしまうのです。主人公ローリーとその家族たちはイギリスを脱出し、様々な場所に避難しますが、あっという間に現地の人々は<トリポッド>に洗脳されてしまい、毎回追われてしまうことになります。
 敵である<トリポッド>そのものではなく、洗脳された人間たちが別の人間たちにも洗脳を施そうとするというのが巧妙で、身近な人間がいつの間にか洗脳されている、というのが怖いですね。最初は頭にかぶるだけのキャップによる洗脳であるために、それをはがせば解除も可能なのですが、やがてそれが頭そのものに密着するタイプのものになってしまい、洗脳を解除することもできなくなってしまいます。
 洗脳された人々はキャップの影響で、思考能力が落ち込んでしまうのか、ある程度の隙が生まれ、そこが主人公たちが付け入る隙になっていくわけですが、やはり敵の数が増えると多勢に無勢となってしまいます。
 前日譚であるため、<トリポッド>を地球上から撃退できずに終わるのは分かってしまうのですが、ローリー親子のグループが難を逃れることができるのか?といったところでのサスペンスがあり、面白く読めます。



トリポッド〈2〉脱出 (ハヤカワ文庫SF) 文庫 – 2005/1/15


ジョン・クリストファー『トリポッド2 脱出』(中原尚哉訳 ハヤカワ文庫SF)
 人類が謎の機械<トリポッド>の支配下に置かれてから約百年、その支配から逃れようとする少年たちの冒険を描いた作品です。
 <トリポッド>が世界を支配するようになってから約百年。人類の数は激減し科学技術も停滞していました。しかし人々は素朴な生活を送り、それなりに平和な生活を送っていました。子供はある年齢になると<トリポッド>のキャップを植え付けられる定めになっており、人々はそれを当然とみなしていました
 小さな村に住む少年ウィル・パーカーは、従兄のジャックを尊敬していましたが、彼から<トリポッド>やキャップについての疑問を聞き、それらについて考えるようになります。キャップを付けられたジャックの豹変した姿を見たウィルは、<はぐれ者>オジマンディアスに興味を持ち、彼と話そうとします。
 キャップに適応できず精神を狂わせてしまったはずの<はぐれ者>ですが、オジマンディアスはそのふりをしていたのです。<トリポッド>の支配に抵抗する人々の住む国が離れた場所にあるという話を聞いたウィルは、従弟のヘンリーと共にその場所を目指す旅に出ることになりますが…。

 邦訳版として「2」となっていますが、こちらは1967年発表の、オリジナル版<トリポッド>の第一作です。もともと三部作で1960年代後半に発表されたシリーズなのですが、1988年になって続編(前日譚)が発表されたため、このハヤカワ版ではそれが「1」となっています。
 異星から来たらしい謎の機械<トリポッド>に人類が支配されるようになってから約百年後の世界を描いています。<トリポッド>のキャップによって、人類は洗脳状態に置かれているのですが、人類が滅ぼされることはなく、表面上緩やかな監視状態に置かれています。
 人口が減っていたり、最先端の科学技術は失われています。人々は、中世とまではいかないにしても、数百年前の水準の生活をしていました。
 反抗をしなければ、表面上、穏やかで平和な生活は可能であり、キャップによる洗脳も当たり前のものとされているのです。
 <トリポッド>の実態を知った少年ウィルは、従弟のヘンリーと共に、抵抗組織のある場所を目指して旅に出ますが、その旅路でさまざまな冒険をする…という、良質な冒険小説になっています。
 いわゆる「ディストピア」を描いた作品であるということもあるのですが、児童向け作品ではありながら、ところどころで暗い情念が描かれるのも特徴ですね。
 旅路で出会った頭脳明晰な少年ビーンポールを加えて、主人公ウィル、従弟のヘンリーの三人で旅をすることになるのですが、ウィルは、彼らの中での友情関係で悩むことになります。また、後半出会う伯爵夫妻とその娘とのふれあいから、本当に<トリポッド>に支配される世界が悪であると言い切っていいのか悩むことにもなります。
 キャップをかぶり洗脳状態にあったとしても、もともと善人である人間は<トリポッド>に関すること以外では、善人そのままなのです。伯爵令嬢にほのかな恋心を抱いたウィルが、あえて洗脳を受けて残るのか、自由をあくまで求めるべきなのかを悩むシーンは、なかなか面白いところですね。
 旅の共とする従弟のヘンリーとの関係も興味深いです。いわゆる「いじめっ子」であるヘンリーとは犬猿の仲だったはずのウィルが、成り行きから一緒に旅に出ることになり、やがて「仲間」になります。後半では、同じく仲間となるビーンポールを挟んで、友情とそれに伴う嫉妬が起こるなどの展開も思春期の少年たちを描いているだけに、リアリティがありますね。



トリポッド 3 潜入 (ハヤカワSF) 文庫 – 2005/3/15


ジョン・クリストファー『トリポッド3 潜入』(中原尚哉訳 ハヤカワ文庫SF)
 抵抗組織に加わった少年ウィルたちが、<トリポッド>の情報を得るために、彼らの都市に侵入しようとする計画を描いた、シリーズ第三弾です。
 <トリポッド>に抵抗する人々が隠れ住む山<白い山脈>に到着したウィル、ヘンリー、ビーンポールたちは、指導者ユリウスのもと、訓練を重ねていました。<トリポッド>たちが住む都市には毎年のように若い人間が連れていかれており、その選別手段としてスポーツ大会が使われているというのです。
 スポーツ大会で優勝し、都市に潜入して脱出し情報を持ち帰るという任務を与えられたウィルたちは練習に励みますが、ヘンリーは選ばれず、代わりに選ばれた運動能力に優れた少年フリッツと共に、ウィルとビーンポールはスポーツ大会が行われる町に向かいます。町まで運んでもらうはずの船の船長ウルフが見つからなくなったことから、ウィルとビーンポールはウルフを探しに出かけますが、持ち前の短気さから喧嘩騒ぎを起こしてしまったウィルは町の人々に囚われてしまいます…。

 本巻では、<トリポッド>の都市に潜入した主人公ウィルたちが、彼らの情報を手に入れ、その都市から生きて脱出できるのか? といったところがメインテーマとなっています。思いもかけない<トリポッド>の正体や弱点が判明するのと同時に、彼らの残酷さや真の計画も明らかになります。
 <トリポッド>の都市は過酷な環境で、人間は使い捨て、潜入した少年たちも日々命の危険にさらされます。今までの巻でも見られたシビアな現実認識がこの巻でも示され、主人公ウィルは残酷な決断を迫られることになるのです。
 前半のスポーツ大会パートもハラハラドキドキ感があり面白いのですが、後半の都市に潜入してからのパートのサスペンス感は半端ではありません。ディストピアの極致のような世界で、キャップで洗脳された人間たちは何も感じていないようなものの、侵入した少年たちにとっては、まさに悪夢のような世界なのです。主人となった<トリポッド>たちの気まぐれはもちろん、過酷な環境のため、常に死が近づいてくるという強烈な場所なのです。
 スポーツ大会出場のためのライバルであり、最初は敵対心さえ持っていた少年フリッツとウィルとが、過酷な環境のなか、友情と連帯感を感じるようになる…という流れも、王道展開ですが、非常に良いですね。
 旅路で出会う、世捨て人ハンスのエピソードも味わい深いです。積極的に自由を求めたわけではなく、たまたま見逃された形でキャップの支配を逃れたハンスが、<トリポッド>たちに対して全く関心を持たない、というあたり、政治的な寓意も感じさせるところですね。



トリポッド 4凱歌 (ハヤカワ文庫 SF) 文庫 – 2005/5/15


ジョン・クリストファー『トリポッド4 凱歌』(中原尚哉訳 ハヤカワ文庫SF)
 <トリポッド>たちの恐るべき計画を知った人類の戦士たちが、総力戦で彼らを叩こうとする、シリーズ最終編です。
 都市に侵入したウィルたちの活躍で、<トリポッド>の機械を操る異星人である<主人>の弱点を知った抵抗組織の人々ですが、彼らを一気に殲滅しなければ人類の勝利はありません。弱点を探るために<主人>を生け捕りにして調べたことから、また彼らには別の弱点が存在することが判明します。
 世界各地から仲間を集め、敵の拠点である三都市を同時に攻撃することになりますが…。

 <トリポッド>そしてそれを操る異星人<主人>への人類の総攻撃が描かれる、シリーズ最終編です。火薬や爆弾などは所有するものの、近代的な兵器を持たない人類が、いかに彼らに勝つのか? というのが読みどころですね。
 近代兵器ではないものの、思わぬ手段で敵の裏をかくというのも痛快です。シリーズを通して、少ない戦力、知恵とそして戦略で、わずかずつながら形勢を逆転していくわけで、良質な冒険小説といっていい作品だと思います。
本巻では、生け捕りにした<主人>の一人に、主人公ウィルが同情を抱くシーンもあるなど、互いに知的生物であるがゆえのやり取りも描かれます。このあたり、前巻で、<主人>の奴隷となったウィルとの間に、一方的ながら友情が生まれる、という部分ともパラレルになっていますね。
 個体同士では理解の可能性がありながらも、種族として考えた場合、互いに滅ぼすしか方法がない、というシビアな現実判断も描かれており、児童向け作品ではありながら、シリアスかつリアルなお話になっています。
 もともと敵側の生物が、地球の環境では暮らせず、都市の中にそうした空間を作っているという設定で、そこが技術でも力でも勝っている相手に対して人類が隙をつける部分になっています。実際、その慢心と思い込みの隙を縫って攻撃をしかける…という流れも上手いですね。
 絶望的な支配状況からの反抗、強烈なディストピア描写、容赦なく死ぬ登場人物たち、子どもたちにも求められる残酷な決断…。シリーズ全体を通して非常にビターな味わいのSF冒険小説になっています。
 それは人間関係に関しても同様で、目的を同じくする組織内でも仲間割れはありますし、<トリポッド>に勝利した後でさえ、人類は内輪もめをやめない…という苦々しい描写もあります。
 その一方、苦難を共にすることで理解し合える人物たちもいれば、洗脳下でさえ人を思いやることのできる人間もいます。
 また敵である<トリポッド>と<主人>の側にも、人間的な同情や理解力があることが示されるなど、彼らと人類とはそれほど極端に違った生き物ではないことも示唆されます。そうした「割り切れなさ」を多く示しながらも、現実的なところで決断したり割り切るしかない、というシニカルな人生観が描かれるのも魅力の一つでしょうか。
 また、次々に現れる困難に、少年たちが知恵と勇気を振り絞って立ち向かうという、純粋に冒険・少年小説的な部分でも非常に面白い作品です。
 それぞれの登場人物も丁寧に描かれていて、キャラクターにも魅力があります。主人公のウィルは最後まで無鉄砲・短気で、主要人物たちと比べてもあまり成長しないキャラではあるのですが、そのあたりの愛嬌さも含めて楽しめますね。



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同人誌『奇妙な味の物語ブックガイド』再販のお知らせ
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 昨年11月に刊行し、完売した同人誌『奇妙な味の物語ブックガイド』ですが、再販希望の声が多かったこともあり、増刷することにしました。
 現在印刷中ですので、実際の販売開始は2021年4月末ぐらいになるかと思います。
 今回は初版よりも少部数のため、若干頒価を上げさせていただいています(一冊2500円を予定)。
 通販に関しては、以下の二店舗で取り扱っていただく予定です。

CAVA BOOKS(サヴァ・ブックス)さん
https://cavabooks.thebase.in/

享楽堂さん
https://kyorakudo.jp

※まだ通販ページには反映されていません。

 内容についても、再度紹介しておきますね。
 海外作家の<奇妙な味>の短篇集を100タイトルほど紹介したガイド本です。ロアルド・ダールやスタンリイ・エリンといった、一般に<奇妙な味>と認知されている作品だけでなく、ミステリ・SF・ホラー・文学など、いろいろなジャンルから<奇妙な味>的な要素を持つ作品集をセレクションして紹介しています。全てではないのですが、大部分のタイトルで個々の収録短篇を詳細に紹介しています。

仕様は以下の通りです。

『奇妙な味の物語物語ブックガイド』
サイズ:A5
製本仕様:無線綴じ
本文ページ数:244ページ(表紙除く)
表紙印刷:オンデマンドフルカラー
本文印刷:モノクロ
表紙用紙:アートポスト200K
本文用紙:書籍72.5K(クリーム)
表紙PPクリア加工

収録内容

まえがき
デイヴィッド・アリグザンダー『絞首人の一ダース』
H・C・アルトマン『サセックスのフランケンシュタイン』
デイヴィッド・アンブローズ『幻のハリウッド』
D・イーグルマン『脳神経学者の語る40の死後のものがたり』
ケヴィン・ウィルソン『地球の中心までトンネルを掘る』
ヒュー・ウォルポール『銀の仮面』
ジョーン・エイケン『レンタルの白鳥』
マルセル・エーメ『マルタン君物語』
マルセル・エメ『マルセル・エメ傑作短編集』
マルセル・エーメ『エーメ ショートセレクション 壁抜け男』
スタンリイ・エリン『特別料理』
スタンリイ・エリン『九時から五時までの男』
スタンリイ・エリン『最後の一壜』
J・C・オーツ『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』
J・C・オーツ『邪眼 うまくいかない愛をめぐる4つの中篇』
A・H・Z・カー『誰でもない男の裁判』
ヘンリー・カットナー『世界はぼくのもの』
A・ビオイ=カサーレス『パウリーナの思い出に』
マリー・ルイーゼ・カシュニッツ『六月半ばの真昼どき』
イタロ・カルヴィーノ『レ・コスミコミケ』
ポール・ギャリコ『銀色の白鳥たち』
ジョナサン・キャロル『パニックの手』
ジョナサン・キャロル『黒いカクテル』
リンダ・キルト『怖るべき天才児』
クルト・クーゼンベルク『壜の中の世界』
デイヴィス・グラッブ『月を盗んだ少年』
フリオ・コルタサル『奪われた家/天国の扉 動物寓話集』
マヌエル・ゴンザレス『ミニチュアの妻』
サッパー『十二の奇妙な物語』
ミック・ジャクソン『10の奇妙な話』
ミック・ジャクソン『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』
サマンタ・シュウェブリン『口のなかの小鳥たち』
ジュール・シュペルヴィエル『海の上の少女』
シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』
シオドア・スタージョン『影よ、影よ、影の国』
マイケル・マーシャル・スミス『みんな行ってしまう』
スティーヴンソン『マーカイム・壜の小鬼 他五篇』
ロジャー・ゼラズニイ『伝道の書に捧げる薔薇』
ウィル・セルフ『元気なぼくらの元気なおもちゃ』
ロアルド・ダール『キス・キス〔新訳版〕』
ロアルド・ダール『あなたに似た人〔新訳版〕』
ロアルド・ダール『飛行士たちの話〔新訳版〕』
ロアルド・ダール『王女マメーリア』
ロアルド・ダール『ヘンリー・シュガーのわくわくする話』
ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』
リン・ディン『血液と石鹸』
トニー・デュヴェール『小鳥の園芸師』
ウォルター・デ・ラ・メア『恋のお守り』
ロバート・トゥーイ『物しか書けなかった物書き』
アンリ・トロワイヤ『ふらんす怪談』
デーモン・ナイト『ディオ』
アントニー・バウチャー『タイムマシンの殺人』
ジェイムズ・パウエル『道化の町』
エドモンド・ハミルトン『フェッセンデンの宇宙』
エドモンド・ハミルトン『星々の轟き』
J・G・バラード『ウォー・フィーバー』
ウイリアム・ハリスン『ローラーボール』
J・L・ハーリヒィ『悲鳴でおわる物語』
トマス・ピアース『小型哺乳類館』
ジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』
クリストファー・ファウラー『白昼の闇』
ジャック・フィニイ『レベル3』
ジャック・フィニイ『ゲイルズバーグの春を愛す』
フィツジェラルド『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
ディーノ・ブッツァーティ『魔法にかかった男』
ディーノ・ブッツァーティ『現代の地獄への旅』
ディーノ・ブッツァーティ『怪物』
フレドリック・ブラウン『さあ、気ちがいになりなさい』
ロバート・ブロック編『フレドリック・ブラウン傑作集』
ロバート・ブロック『夜の恐怖』
レイ・ブラッドベリ『黒いカーニバル』
レイ・ブラッドベリ『10月はたそがれの国』
レイ・ブラッドベリ『刺青の男』
レオン・ブロワ『薄気味わるい話』
バリントン・J・ベイリー『ゴッド・ガン』
サーデグ・ヘダーヤト『生埋め』
グレゴリイ・ベンフォード『時空と大河のほとり』
リュドミラ・ペトルシェフスカヤ『私のいた場所』
ゼナ・ヘンダースン『ページをめくれば』
T・コラゲッサン・ボイル『ごちゃまぜ』
チャールズ・ボウモント『残酷な童話』
マッシモ・ボンテンペルリ『わが夢の女』
ジョージ・R・R・マーティン『洋梨形の男』
アンリ・ミショー『幻想旅行記』
ミュノーナ『スフィンクス・ステーキ』
フリッツ・ライバー『闇の世界』
リング・ラードナー『息がつまりそう』
トム・リーミイ『サンディエゴ・ライトフット・スー』
ジャック・リッチー『10ドルだって大金だ』
ジャック・リッチー『ダイアルAを回せ』
アーシュラ・K・ル・グィン『なつかしく謎めいて』
レオポルド・ルゴーネス『アラバスターの壺/女王の瞳』
プリーモ・レーヴィ『天使の蝶』
J・ロバート・レノン『左手のための小作品集 100のエピソード』
ジャック・ロンドン『ジャック・ロンドン大予言』
柴田元幸編訳『むずかしい愛』
柴田元幸編訳『どこにもない国 現代アメリカ幻想小説集』
中村融編『街角の書店 18の奇妙な物語』
中村融編『夜の夢見の川 12の奇妙な物語』
井波律子編訳『中国奇想小説集 古今異界万華鏡』


残酷な夜  ガストン・ルルー『ガストン・ルルーの恐怖夜話』

ガストン・ルルーの恐怖夜話 (創元推理文庫 (530‐1)) 文庫 – 1983/10/1


 ガストン・ルルー『ガストン・ルルーの恐怖夜話』(飯島宏訳 創元推理文庫)は、『オペラ座の怪人』などで知られるフランスの作家ガストン・ルルー(1868年~1927年)による、残酷味とブラック・ユーモアが強めの恐怖小説を集めた作品集です。

「金の斧」
 ルツェルン近くの湖畔の宿に滞在していた「わたし」は、ピアノを披露してくれた老婦人へのプレゼントとして、斧を象った金製のブローチを送りますが、彼女はそれを見るなり震えだし湖に投げ捨ててしまいます。その理由として「わたし」が聞かされたのは、老婦人と亡き夫との結婚生活の話でした…。
 夫が自分に隠れて犯罪を犯しているのではないかと考えた妻の心理的な恐怖を描く作品です。互いの誤解と思い込みが悲劇を招いてしまうという作品です。

「胸像たちの晩餐」
 ミシェル船長は、自分が片腕になった由来を語ります。別荘に滞在していたミシェルは、ある日空き家のはずの隣家でパーティのようなものが行われているのに気付きます。そこで見かけた美しい女性に気を惹かれるミシェルでしたが、その女性を再び見かけたのは一年後でした。
 隣家の主人がかっての友人ジェラール大佐であることを知ったミシェルは、その家を訪ねようとしますが、美しい夫人に追い返されてしまいます。その夜、強引にその家の集まりに参加したミシェルでしたが…。
 隣家に集まっていたのは恐ろしい目的を持つ集団だった…という、猟奇的かつグロテスクな物語。陰惨な話なのですが、その陰惨さが強烈なブラック・ユーモアで和らげられているという作品です。結末の一文にはインパクトがあります。

「ビロードの首飾りの女」
 コルシカの町で、アンジェルッチアという女を見た海軍大尉ゴベールは、その美しさと共に首にあるビロードの首飾りに注意を引かれます。青年ピエトロ=サントは、彼女についてある話を打ち明けます。かって前町長の妻だったアンジェルッチアはいとこのジュゼッペと不倫をし、それを知った夫の町長に、余興として手に入れたギロチンで殺されそうになったというのです。ピエトロ=サントは実際にアンジェルッチアは首を落とされ、それを首飾りで隠しているのだ、というのですが…。
 コルシカのヴェンデッタ(復讐)がテーマとなっています。女が本当は生きているのか死んでいるのか分からないという超自然的な興味と共に、不倫をきっかけとして血で血を洗う争いが描かれる、陰惨極まりない物語です。殺人シーンの演出も強烈ですね。

「ヴァンサン=ヴァンサンぼうやのクリスマス」
 ムッシュー・ダムールはカフェの友人たちに、可愛がっているという養子のヴァンサン=ヴァンサンを紹介します。彼は両親を失ったというのですが、その両親は殺されたにも関わらず、犯人はいないというのです…。
 男の子の両親はなぜ死ぬことになったのか? を語る物語。残酷なお話なのですが、息子を思うがゆえのそれらの行為が全く無駄になってしまうという、更に救いのない物語となっています。

「ノトランプ」
 祖母は、美しい孫娘オランプの将来を心配し、自分の生きている内に結婚相手を探そうと考えます。年頃になったオランプには十二人ものの求婚者が集まります。一番目に選ばれたデルファン青年とオランプは結婚しますが、その直後に夫は急死してしまいます。
二番目の男ユベールも同じく急死し、三番目だったサバン博士も死んでしまいますが、四番目だった男ザンザンに書き置きを遺していました。そこにはオランプが夫を次々と殺しているということが書かれていました…。
 結婚相手を次々と殺していく魔性の娘を描く恐怖小説と思いきや、次々とそれがひっくり返されるという物語。残酷・陰惨な話が多い本作品集の中にあっても、その陰惨さは一番の作品です。

「恐怖の館」
 新婚旅行でスイスを訪れたシャンリューとマリア=ルーチェの夫婦は、悪天候のために辺鄙な山の宿屋に泊まることになります。そこはかって客を殺して金品を奪っていたというヴァイスバッハ夫婦が経営していた悪名高い宿屋でした。
 新たな経営者であるシェーファー夫妻は、その宿屋を買取り、かっての惨劇の名所として売り出していたのです。道中で一悶着を起こしたイタリア人歌手アントニオ・フェレッティと伯爵夫人のカップルと共に宿屋に泊まることになりますが、彼らは、かっての殺人鬼夫婦の行動をいちいち再現しようとするシェーファー夫妻の態度に不気味さを覚えていました…。
 殺人鬼の夫婦が経営していた宿屋を買い取り、そこを名所として再現しようとする夫婦が、自らもかっての殺人鬼のように振る舞う…という不気味な作品です。からかっていただけなのか、本当に殺人者だったのか、を明確にしないこともあり、<リドル・ストーリー>的な趣もあるお話になっていますね。

「火の文字」
 狩の途中、嵐に襲われたことから、奇妙な噂の立つ屋敷に泊めてもらうことになった四人の男たち。屋敷の主人である老人はトランプを見て狼狽えます。かって悪魔との契約を行った主人は、絶対に賭けに負けない力を手に入れたというのです。話を信じない男たちと主人は実際に賭け事をしてみることになりますが…。
 終始不穏な雰囲気で展開される作品です。タンスの中の火の文字、声を出さずに吠える犬など、雰囲気が素晴らしいですね。集中では、唯一、超自然味のある怪奇小説です。

「蝋人形館」
 肝試しとして蝋人形館で一夜を過ごすことになったピエール。やがて蝋人形が動くのを目撃したピエールは、持参していた拳銃を発砲することになりますが…。
 お話の筋はオーソドックスですが、シチュエーションと純粋に心理的な恐怖で怖がらせる一篇になっています。

 収録された短篇のほとんどがツーロンのカフェ・ド・ラ・マリーヌに集まった元船乗りたちによって語られていく恐怖小説となっています。ある男が話を語っている中で、別の男の突っ込みが入ったり、話の途中で帰ってしまったりと、その反応にもユーモアがあって面白いですね。

 一篇を除いて、全てが人間の手になる恐ろしい事件を扱った物語になっています。残酷かつ陰惨なお話ばかりで、その印象は<グラン・ギニョル>風。実際、残酷劇の代名詞とされる<グラン・ギニョル>の最盛期とほぼ同時代の1920年代に書かれた作品群だそうで、そうした影響は強いのだと思います。
 実際ルルーもグラン・ギニョル座に劇を提供しています。その劇作「悪魔を見た男」はグラン・ギニョル座で1000回以上も上演されたヒット作だそうで、グラン・ギニョル座の最高傑作と言われることもあるとか。劇の邦訳もあります(藤田真利子訳「悪魔を見た男」荒俣宏編『怪奇文学大山脈3』東京創元社 収録)。
 ちなみに、この劇「悪魔を見た男」は、短篇「火の文字」を劇化したものです。さらに「火の文字」は短縮版のお話で、短縮されていない作品も「悪魔に会った男」(朝比奈誼訳 窪田般彌、滝田文彦編『フランス幻想文学傑作選3』白水社 収録)として邦訳されています。

 こちらの二作品もついでに紹介しておきますね。

ガストン・ルルー「悪魔に会った男」(朝比奈誼訳 窪田般彌、滝田文彦編『フランス幻想文学傑作選3』白水社 収録)
 話の内容は「火の文字」と同じといっていいのですが、ところどころに追加シーンや詳しい描写が付け加えられています(どちらのバージョンが先に書かれたのかは分からないですが)。
 具体的には、「悪魔に会った男」と語り手の男たちが出会うシーンが細かくなっていること、語り手の「私」を含む四人の男たちの来歴が描かれていること、「私」が「災いの部屋」を視察するシーンがあること、などが違いでしょうか。
 全体に描写が細かく丁寧になっていて、怪奇幻想小説としての雰囲気が芳醇になっているという意味で、「火の文字」よりも完成度は高くなっているように思います。

ガストン・ルルー「悪魔を見た男」(藤田真利子訳 荒俣宏編『怪奇文学大山脈3』東京創元社 収録)
 狩りをしていたアラン、マティス、マチューの三人の男とマティスの妻クレルリ。ケガをしたマティスを親友のアランが助けます。夜になり、助けを求めた館でアパンゼルおばさんに迎えられた四人はほっとしますが、その館が悪魔を見たと噂されている男の家であることに気づき愕然とします。
 家の主人は、カード遊びをして時間をつぶそうというクレルリの言葉を聞き動揺します。主人は自らの過去を話し出します。
 破産してしまった主人は自殺を考えますが、そんな折にふと戸棚の中で見つけた魔術の本によって悪魔を呼び出すことになります。
 強く願った結果、戸棚の中に火の文字で「おまえは勝つ」という言葉が現れていました。それ以来、男は賭け事には必ず勝つようになり、負けることができなくなったというのです。半信半疑で話を聞いていたアランは試しに自分と賭けをしてみないかと男を誘うことになりますが…。
 賭け事に負けられない呪いをかけられた男の館に泊まった男たちが、主人と賭けをする…という大枠のところは小説版と同じなのですが、小説版には存在しない、クレルリという女性キャラクターが加えられているところが大きな変更点でしょうか。
 このクレルリ、夫のマティスを裏切ってアランと不倫をしているという設定です。幼馴染のマティスの命の危機を救ったアランに対して、なんで助けたのかなじるなど、かなりの悪女として描かれています。
 小説版では、メインとなるのはあくまで「悪魔を見た男」である家の主人なのですが、戯曲版では、アラン、マティス、クレルリの三人の男女の三角関係がメインとなっており、家の主人の物語はあまり目立たなくなっていますね。
 実際、「悪魔を見た男」の話を聞いたアランが、後半自らも悪魔との契約を行う、というオリジナルな要素が入っており、不倫の男女の末路を描いた、かなり人間臭さの強い物語になっているのが特徴です。
 超自然味の強い小説版に比べ、人間関係のもつれが強調された戯曲版は、そうした志向の強い<グラン・ギニョル>演劇用に改変されたのかもしれません。

 同一作品の三バージョン、読み比べてみると、その違いや作品の狙いが異なっているのが感じられるようで、面白いです。


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快楽の土地  オーブリ・ビアズレー『美神の館』

美神の館 (中公文庫) 文庫 – 1993/1/1


 オーブリ・ビアズレー『美神の館』(澁澤龍彦訳 中公文庫)は、耽美的・幻想的な画風で知られるイギリスの画家ビアズレーによる、芸術至上主義的な幻想小説です。

 騎士タンホイザーはウェヌスの丘にたどり着き、そこで女主人ウェヌスやその従者たちに歓待され、歓楽の限りを尽くします…。

 お話としては、上記のような至極単純なストーリーなのですが、主人公とウェヌス、またその従者たちとかわす倒錯じみた歓楽が幻想的に描かれていくという、その部分に魅力のある作品になっています。いわば、ポルノグラフィー的な作品なのですが、ポルノグラフィーと呼ぶには文学性・幻想性が強いです。

 作家や芸術家、事物といった固有名詞がやたらと頻出して衒学的な香りも強いのですが、その大部分は実在せず、作者の創作になるものなのだとか。
 献辞が捧げられている、高位の聖職者らしき人物「ペッツォーリ師」自体が架空の人物だというのだから、人を食っていますね。実際読んでいて、登場する人物や事物が実在するのかどうか、なかなか判別がつかなかったりと、作者の「いたずらっ気」が強烈です。
 テーマとなっている、タンホイザーとウェヌスの伝説は13世紀のものらしいのですが、ビアズレー作品では、物語の引き合いに出される芸術家は現代やそれに近い時代の人だったりします。ただ、作品の雰囲気を考えると、これはわざとやっているのでしょう。

 本職が画家の人らしく、描写は視覚的で幻想的。官能的な要素が強いのに加えて、作者独特のひねくれたユーモアが加わって、独特の作品になっています。未完の作品だそうですが、もともとストーリーはあってないようなもので、独自の描写を楽しむタイプの作品ではあるので、未完であっても、作品として楽しむのには、あまり影響はないかと思います。


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恐怖と嘲笑  レイ・ラッセル『嘲笑う男』

嘲笑う男 (異色作家短篇集) 単行本 – 2006/10/1


 レイ・ラッセル『嘲笑う男』(永井淳訳 早川書房)は、ゴシック風恐怖小説やオチの効いたSF作品など、才気に富んだ作品が収められた短篇集です。

 常に笑っているような奇病に冒された男を描くゴシック風奇談「サルドニクス」、新しい芝居をめぐっての劇場支配人と演出家のやりとりを描く「俳優」、悪魔と噂される男との不倫で罰を与えられることになった伯爵夫人を描く残酷物語「檻」、七日間死なない代わりに確実に死を迎える霊薬を描いた「アルゴ三世の不幸」、恋人を奪った後輩役者を芝居の剣戟シーンの最中に殺そうと考える男の物語「レアーティーズの剣」、かっての教え子に糾弾される共産主義国の映画監督を描いた「モンタージュ」、謎の男の手引きにより芸能界で瞬く間に地位を手に入れた女の物語「永遠の契約」、粗悪なタバコを宣伝しながらも売上を伸ばす会社に勤め始めた男を描く「深呼吸」、雑誌に美女ばかりの写真を持ちこんできた男の思いもかけない計画を描いた「愉しみの館」、広告に支配された社会で安らぎを求めようとする男の行動を描く「貸間」、故郷の星から追放された王子の帰還を描いた寓話的SF作品「帰還」、地球上のあらゆる言葉の法則性が狂わされてしまうという「バベル」、支配的だった父親が死後もその録画によって息子を悩ませるという「おやじの家」、ある男の後悔混じりの遺書の内容を描いた「遺言」、知覚を超えた音の研究が人間の体を変容させるという「バラのつぼみ」、地球に潜入した異星人がその劣悪な環境に悩まされ破滅するという「ロンドン氏の報告」、危険を及ぼす可能性のある知的生物を絶滅させる任についた男たちを描く「防衛活動」を収録しています。

 様々なジャンルや味わいの作品が収録された短篇集です。全体に恐怖小説とSF小説が多いのですが、SF作品は割とオーソドックスな味わいのものが多いのに対して、恐怖小説は今読んでも面白いものが多いですね。

 一番の秀作は間違いなく「サルドニクス」です。舞台は19世紀末、有能な医学者ロバート・カーグレーヴ卿のもとへ、かって思いを寄せていた女性モードから手紙が届けられます。富豪の男サルドニクスと結婚して城に住んでいるという彼女の招待を、ロバートは受けることになります。サルドニクスは、ある事情から、口の筋肉が硬直し、常に笑っているように見える奇病にかかっていました。病を治してほしいというサルドニクスを診察し、治療に匙を投げたロバートに対して、サルドニクスは病を治してくれれば、妻のモードを譲ると言い出します…。
 傲岸で残酷な城主、彼に囚われたかっての思い人を救おうとする医者が描かれる、ゴシック風味も強い恐怖小説です。物語が進むにつれて、城主サルドニクスがその容貌だけでなく、その性質も残酷な男であることが分かってきます。結末には、皮肉なブラック・ユーモアも溢れていますね。

 「サルドニクス」同様、ゴシック味が強い恐怖小説が「檻」。悪魔と噂される男と通じ不貞を働いた伯爵夫人を罰するため、城主の伯爵は、妻を一時的にある場所へ監禁することになります。しかし時を同じくして、城を攻め落とすための敵の勢力の計画が進んでいました…。
 悪魔らしき男の計略により、夫を裏切ることになった妻の残酷な運命を描いた作品です。妻が陥った事態を明確に描かずに想像させるラストにはインパクトがありますね。

 七日間死なない代わりに、七日後には確実に死を迎える霊薬が登場する「アルゴ三世の不幸」では、その霊薬による死を逃れようと、魔法使いに頼ろうとする主人公が描かれます。しかしその結果は、死よりも残酷な結果に終わる、という物語になっています。

 「永遠の契約」は、謎の男ジョー・ダンの手引きにより、芸能界で瞬く間に地位を手に入れた女リリス・ケーンを描く物語。女優として成功し、ついには映画界の大立者と結婚しますが、そこには落とし穴が待っていました…。
 いわゆる<悪魔との契約>ものなのですが、契約者の女性は悪人というわけではなく、むしろ純真で最後まで自分の運命に気づかない…というところが、さらに残酷な味わいを出していますね。

 レイ・ラッセルの恐怖小説、「残酷な死を迎える」とか「永遠に苦しむ」とか、結構残酷なお話が多いです。この作家の作品は筆致が洗練されていて、軽やかに描かれているだけに、そのギャップが強烈ですね。

 あと、面白いのは「帰還」でしょうか。故郷の星から追放された異星人の王子は、敵に対して穏便に自分を帰してくれれば王国の半分をやろうと提案します。しかしその提案をはねつけられた王子は、復讐心に燃えることになります…。
 ある有名な神話的存在が、実は異星人だったという、寓話的SF作品です。


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本の国からの旅人  ジェラルディン・マコックラン『不思議を売る男』

不思議を売る男 単行本 – 1998/6/1


 ジェラルディン・マコックラン『不思議を売る男』(金原瑞人訳 偕成社)は、親子のもとに現れた素性の知れない男が不思議な物語を語り出す…という枠物語ファンタジーです。

 少女エイルサは、学校の課題で図書館を見学に訪れた際に、本好きらしい不思議な若い男MCC・バークシャーと出会います。無職だというMCCを、エイルサは母親のポーベイ夫人に紹介し、彼女が営む古道具店で雇うことになります。本ばかり読んでいるMCCでしたが、お客が来る度に、品物にまつわる不思議な物語を話し始め、それを聞いた人々は、彼の語る話に魅了されることになります…。

 どこから来たかも、何者なのかもはっきりしない謎の若い男MCC・バークシャーが、少女エイルサと母親の住む古道具店に住み着き、不思議なお話をするようになる、という物語です。お客が品物を吟味する際に、その品物にまつわる話と称して、MCCが本当か嘘か分からない話をするのですが、客はその物語に惹かれて品物を買わされてしまうという寸法です。MCCが語るエピソードは、ファンタジー、ホラー、ミステリ、<奇妙な味>と、そのジャンルも様々。

 なかでは、船に密航した少年が海賊に囚われるものの信義を守ることになるという「ハープシコード[誇りと信頼の話]」、虚栄心に支配された娘が恐ろしい目に会うという「鏡[虚栄心の話]」、密室殺人をめぐる物語「ロールトップ・デスク[犯人探しの話]」、医者を目指す少年が軍人になることを強要する父親と戦争ゲームをすることになるという「鉛の兵隊[誇りの話]」などが面白いですね。

 一番印象に残るエピソードは「鉛の兵隊[誇りの話]」でしょうか。軍人であることに誇りを持ち、息子にも軍人になることを願っていた父親は、息子のウェリントンが医者になりたいと言い出したことに対して、それを認めようとしません。居合わせた軍医でもあるチャーリー叔父は、二人に戦争ゲームをやってみたらどうかと提案します。叔父はゲームの最中に、変わった条件を持ち出し二人を困惑させますが…。
 息子を愛していながらも、軍人になることを強要しようとする父親が、戦争ゲームを通じて、息子の心根を理解することになる、というお話です。全体にユーモラスな色調の濃いエピソード間にあって、シリアスで、かつ考えさせるテーマを持ったエピソードになっています。

 最初は得体の知れない人物としてMCCを疎ましく思っていたエイルサが、だんだんとMCCに惹かれていく、という流れも面白いですね。最終的にはMCCの正体が明かされ、物語全体に関わる仕掛けも明かされることになります。
 作中で、度々MCCがどこから来たのか訊ねられ、「リーディング(本の国)から」と答えるのですが、そのあたりも、文字通り彼の正体の伏線になっています。
 埋め込まれたエピソードは、ダークな色調の話も含めて全体に「ほら話」的な味わいが強い、楽しい物語になっています。外枠となるMCCとエイルサ親子の物語も変わらず楽しいのですが、結末でのMCCの正体が明かされる部分では、メタフィクショナルな趣向と共に、ちょっとした寂寥感があったりするのも面白い味わいですね。


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モーム短篇を読む  『モーム短篇集1・2』『女ごころ』
 どの作品を取っても完成度の高い、イギリスの作家ウィリアム・サマセット・モーム(1874-1965)。以下、いくつかの短い作品を紹介していきたいと思います。


雨・赤毛: モーム短篇集(I) (新潮文庫) 文庫 – 1959/9/29


モーム『雨・赤毛 モーム短篇集1』(中野好夫訳 新潮文庫)

 短篇3編を収録しています。

「雨」
 狂信的な宣教師は、立ち寄った小島で、雨のためそこに留まることになります。乗組員が連れてきたいかがわしい女に対して、宣教師は改悛をするように強要します。女は一変して悔い改めたように見えますが、ある日、宣教師はのどをかききった姿で発見されます…。
 独善的で狂信的な宣教師は、その頑固さ、思いこみの強さゆえに、あざむかれたときの衝撃に耐えることはできなかった…という物語です。

「赤毛」
 白人のほとんどいない島で暮らすスウェーデン人は、久方ぶりにあった白人の船長に若き日の恋物語を語り始めます…。
 ロマンティックな恋が皮肉な結末を迎える作品です。かっての思い人の変わり果てた姿を妻に教えるのを思いとどまる主人公はロマンティストなのか、それとも愛も憎しみも枯れ果てただけなのか?
 自らのロマンティックな理想主義を娘に対して投影するものの、それは彼を幸福にはしない…という作品です。

「ホノルル」
 語り手が出会った小男の船長は、陽気で楽天的な男でした。美しい現地人の娘を伴って現れた船長は、自分が陥った超自然的な危機について語り始めます…。
 愛する男のために自らの身体をなげうって顧みない娘が、あっさりと他の男と逃げ出してしまう…というのも何とも皮肉です。
 深いテーマがあるというわけではないのですが、読者の興味を惹く非常に面白いストーリーの作品です。



太平洋 (新潮文庫 モ 5-9 モーム短編集 2) 文庫 – 1960/10/1


モーム『太平洋 モーム短篇集2』(河野一郎訳 新潮文庫)

 太平洋に対する讃歌「太平洋」、傲慢ながら土人に対して寛容な上司に複雑な思いを抱く男の物語「マッキントッシ」、婚約者を置いて南洋に出かけ帰らない男を心配した親友が、現地で思いがけない友の姿を見るという「エドワード・バーナードの転落」、現地の娘に惚れ込んで結婚したイギリス人が娘に振り回されて破滅する「淵」を収録しています。
 なかでも「エドワード・バーナードの転落」「淵」が面白いですね。

「エドワード・バーナードの転落」
 親の破産により財産を失ったエドワードは、婚約者イザベルを置いてタヒチで一旗揚げようと出かけます。何年経っても帰らないエドワードを心配し、親友ベイトマンは様子を見に出かけますが、そこで見たのは思いもかけず生き生きとしたエドワードでした。しかも彼は、札付きの悪党として有名なアーノルド・ジャクスンとつきあっているというのです…。
 タヒチに来ることによって故国の伝統や道徳から自由になり、初めて人生の喜びを知るエドワード、アメリカ的な価値観に凝り固まっているベイトマンとイザベルには、その考えが理解できません。彼らの存在は、エドワードのような価値観を理解できないアメリカ人を諷刺するものになっています。
 最後のイザベルのセリフ「かわいそうな、エドワード」は、それを如実に表すものになっています。あざとすぎるともとれる構図の作品ですが、それゆえに、作者の狙いがわかりやすくなっているといえるでしょうか。

「淵」
 教養もあり重要な地位にもあったローソンは、現地の娘エセルに惚れ込み結婚してしまいます。一時は故郷のスコットランドに妻子を連れ帰りますが、ホームシックにかかったエセルは勝手に帰郷してしまいます。
 妻子を追いかけてきたローソンは徐々に酒浸りになり、エセルも夫をばかにするようになっていきますが…。
 南洋で自由かつのびのびと生きるエセルと、故国の価値観にとらわれるローソンとが対比されています。故郷では、淵で自由に泳げたエセルも、スコットランドの淵で泳ぐことはできません。さっさと故郷に帰ってしまったエセルに対して、ローソンの方はエセルを捨てて帰ることはできないのです。
 イギリス人として立派に育てようとした子供も、そして妻も、自分がはめようとした鋳型にはまったく入りません。妻のしたたかさに対し、ローソンの躊躇と執着は際だっていますね。自分の生まれ育った価値観からは逃げられない…というテーマで描かれた作品でしょうか。



女ごころ (新潮文庫) 文庫 – 1960/7/1


モーム「女ごころ」(龍口直太郎訳 新潮文庫)

 未亡人メアリイは、幼い頃から彼女を慕っていた官吏エドガーに結婚を申し込まれます。返事を保留したメアリイは、パーティーの席上、放蕩者との評判のロウリイに口説かれるますが、はねつけます。その夜ロマンティックな気分になったメアリイは、亡命者の若者を家に入れて慰めますが、絶望した青年はピストル自殺してしまいます。パニックに陥ったメアリイはとっさにロウリイに助けを求め、二人は青年の死体をうまく捨てることに成功します。メアリイはエドガーに隠し事はできないと、全てを話すことにしますが…。
 未亡人の「女ごころ」の変遷を細やかにたどった作品です。
 遊び人で軽薄だと思われたロウリイが、危機に際して冷静さと深い度量を持つことが示されます。対して、誠実で堅物のエドガーは、メアリイの行為を許すことができないのです。事実を知った後のエドガーの心の内を察するメアリイの心の動きの描写は素晴らしいですね。
 思い出の中の少女の面影を追っていたエドガーに対して、等身大の大人のメアリイを愛してくれるロウリイ、という対比が示されています。いささかメロドラマチックでありますが、結末は皮肉に富んでおり、面白い作品です。


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果てしなき旅  テア・ベックマン『ジーンズの少年十字軍』

ジーンズの少年十字軍〈上〉 (岩波少年文庫) 単行本 – 2007/11/16

ジーンズの少年十字軍〈下〉 (岩波少年文庫) 単行本 – 2007/11/16


 オランダの作家テア・ベックマンの長篇『ジーンズの少年十字軍』(西村由美訳 岩波少年文庫)は、タイムマシーンによって13世紀ドイツに紛れ込んでしまった20世紀の少年が、聖地を目指す少年十字軍に加わり、困難を共にする、という冒険ファンタジー作品です。

 オランダに住む15歳の少年ドルフは、父の友人であるシミアック博士とクネーヴェルトゥール博士のタイムマシーンの実験を見学させてもらっていました。試しに時間旅行をしてみたいと言い張るドルフの懇願に負け、二人はドルフを数時間だけ過去に送ることにします。
 13世紀フランスのモージブレーに馬上槍試合を見に行くつもりが、たどり着いたのはドイツ、ライン川沿いの町シュピールスでした。追い剥ぎに襲われていた大学生の青年レオナルドを助けたドルフは彼と友人になります。
 現代に送り返してもらうはずの場所に向かうものの、そこに現れた夥しい数の子どもたちの集団に巻き込まれてしまい、元の時代に戻る機会を逃してしまいます。
 帰るチャンスは一度切りだと聞かされていたドルフは、仕方なしに子どもたちの集団と行動を共にすることにします。彼らは神の啓示を受けたという少年ニコラースとお付きの二人の修道士アンセルムスとヨハニスに率いられた少年十字軍でした。聖地エルサレムに向かい、奇跡によって聖地を奪還するという彼らの目的に対して、疑問を抱くドルフでしたが、どんどんと弱り死んでいく子どもたちの姿に使命感を感じたドルフは、少年十字軍の子どもたちを組織化し、生き延びるための方法を教えていくことになります…。

 13世紀ドイツの少年十字軍と行動を共にすることになった少年ドルフの困難な旅を描く冒険ファンタジー作品です。
 宗教的な情熱にとらわれた羊飼いの少年ニコラースによって率いられ、参加者が数千人にも上る少年十字軍ですが、その実、全く組織化はされておらず、その構成員も、一部の貴族の子を除いて教育も知識も全くありません。栄養状態も悪く、ケガや病気、ちょっとした事故があれば、どんどんと死んでしまうような状態なのです。
 主人公ドルフは、現代の知識を生かし、少年十字軍を組織化していくことになります。技能やリーダーリップを持った少年少女を選び出し、複数のグループを任せるなど、子どもたちそれぞれの役目を与えるドルフは信頼され、形だけの指導者のニコラースを抑えて、実質的なリーダーとなっていくことになります。子どもたちの健康状態や生存のための技術を高めることに成功はしますが、その旅程は困難に次ぐ困難。道の険しさ、野生動物や追い剥ぎの襲撃、疫病、さらに旅先での人々との対立や戦いなど、気が休まる暇がありません。
 さらに、明らかに聖地とは程遠いはずの場所ジェノヴァへ向かうことを主張するアンセルムス修道士の怪しい言動や、宗教的な情熱に取りつかれ頭の固いニコラースとの対立が何度も繰り返され、ドルフは頭を悩ませることにもなります。

 ドルフは年齢の割に体格に恵まれ健康な体を持っていることに加え、歴史や地理をはじめ、広範な知識を持っているという設定です。しかし彼一人で数千人に及ぶ子どもたちを管理しきれるわけはなく、あくまで彼が見出した優れた才能を持つ子どもたちが中心となって、集団を引っ張っていくことになります。
 勇気とカリスマ性を持った少年カロルス、医術の心得を持つ少女ヒルデ、魚捕りの名人ペーター、皮なめしの技術を持つフランク、狩猟に優れるベルトーなど、様々な子どもたちが中心となって、子どもたちが生き延びるための技を磨いていく過程は、サバイバル小説の趣もありますね。
 現代人とは異なった中世人の心性が描かれる部分も興味深いところです。宗教的で迷信深い一方、単純で情熱的でもあったり、優しさと極端な残酷さが同居していたりと、合理的に割り切れないその心性に主人公ドルフも戸惑うシーンもあります。
 子どもたちとは違った視点で主人公を助けるのが、最初に友人になる学生レオナルド。イタリアのピサ出身の富裕な家の学生ながら、子どもたちに同情的で一行と旅を共にすることになります。13世紀の時代としては非常に先進的な思考をする人間で、ドルフの行動をたびたびサポートすることにもなります。

 歴史的にも失敗に終わることが分かっている少年十字軍。さらに現実的な困難が次々と訪れ、一行の数はどんどんと減っていきます。主人公ドルフが名前も知らないうちに死んでしまう子どもを始め、彼が信頼していた友人たちも様々な障害に巻き込まれて死んでいきます。
 ドルフの前向きさ、積極さがあっても、ある程度の人死は避けられない、という点で非常にハードな物語になっています。ただ過酷な状況にありながらも、孤児であったり死を待つしかない状況にあった子どもたちに「希望」を与えたという意味で少年十字軍が救いになっている節もあり、彼らの行軍は「過酷」ではありながら「悲惨」にはならないところも興味深いところですね。
 作品の背景として、貧困や圧制など、13世紀の厳しい現実世界が描かれています。権力者の勝手な理屈、圧制に苦しめられる庶民たち、その一方、子どもたちのたくましさ、そして狡さも描かれるなど、等身大の中世人や中世世界が描かれている点で、歴史小説としても読みごたえのある作品になっています。


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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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