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「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」頒布のお知らせ
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 今回、本ではないのですが、怪奇幻想ジャンル関連アイテムとして「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を作成することにしました。海外の主要な怪奇幻想作家を作風別に分類して作成したマトリクス、それを表面に印刷したクリアファイルです。サイズは一般的なA4サイズの紙が入る大きさです。

 2019年10月26日より、盛林堂書房さんで通信販売を開始しました。

●価格:800円

●仕様
製品サイズ:310×220mm(A4サイズの紙が入る大きさです)
色:フルカラーオフセットUV印刷
材質:PP半透明【スタンダード】
厚み:0.2mm(一般的な厚さ)
加工:超音波溶着

盛林堂書房さんの販売ページ
http://seirindousyobou.cart.fc2.com/

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

そのホテルでは何も起こらない  木犀あこ『ホテル・ウィンチェスターと444人の亡霊』
ホテル・ウィンチェスターと444人の亡霊 (講談社タイガ)
 木犀あこ『ホテル・ウィンチェスターと444人の亡霊』(講談社タイガ)は、老舗のホテルを舞台に、霊と話す能力を持つコンシェルジュ友納が、様々なトラブルに対応するというホラー・ミステリ作品です。

 歴史のある老舗ホテル・ウィンチェスター。ここには大量の亡霊が棲みついていました。様々なトラブルを引き起こす霊ですが、彼らの姿を認識して対応できるのは、勤続十年目のコンシェルジュ友納だけ。しかも霊を認識し話すことができるとはいっても、まともに意思を通じさせることのできる霊は数人程度なのです。
 <嗤い男>、<頸折れ男>、<レディ・バスローブ>といった、協力的な霊たちの力も借り、友納は様々な事件に対応することになります。
 霊たちの影響や過去に起こった惨劇の影響などで、ホテルの各部屋では怪奇現象が多発しているのですが、ホテルでは怪奇現象などはいっさい起こらない、という建前を振りかざす友納は、密かに事件を解決しようと奔走するのです。

 突然いろいろな物が部屋に落ちてくる現象が多発するなか、大量の血液が部屋に降ってくるという「血の降る部屋」、災難の前兆を知らせてくれるという部屋で人の話し声が聞こえるという謎を扱った「凶兆の階層」、ホテルの部屋で怪死を遂げた女性霊能力者の死の真相を探るという「すさまじきもの」、ホテルに長年取り憑く「怪物」との対決を描いた「ウィンチェスターの怪物」の連作になっています。

 基本ユーモラスなタッチで描かれる物語で、主人公友納と周りの霊たちの掛け合いも楽しいです。特にレギュラー陣として描かれる、いつも笑っている<嗤い男>、頸を曲げている<頸折れ男>、濡れたような姿の<レディ・バスローブ>などのキャラクターは立っていますね。いたずら好きの妖精のような<スニファー>も大変可愛らしいキャラです。
 また事件も、原因が超自然現象そのものだけでなく、人間の行為が絡むことによって複雑化したパターンもあるなど、バラエティに富んでいます。どれも面白いのですが、個人的に面白く読んだのは、一話目の「血の降る部屋」と三話目の「すさまじきもの」でした。

 「血の降る部屋」は、突然血の降ってきた部屋の謎をめぐって展開するお話。いわゆる「ファフロツキーズ現象」を扱っています。スタンリイ・エリン「特別料理」やロアルド・ダール「おとなしい凶器」を思わせるような「奇妙な味」が濃厚で、読者に怖さを想像させるような結末も強烈な味わいです。
 作中に登場するお店の名前が「スビローズ」なのは、エリンのオマージュなのでしょうか。

 「すさまじきもの」は、50年以上前にホテルで謎の焼死を遂げた女性霊能力者の死の謎をめぐる物語。火を扱う能力者だった女性はなぜ幼い娘を残して焼死したのか? 女優となった娘が撮影を機会にホテルを再び訪れます。
 超能力者哀話がサイコ・スリラーに転化するという、集中でも一番「怖い」話です。

 最終話「ウィンチェスターの怪物」では、それまでのエピソードでもかすかに登場していた「怪物」と、ホテルの謎そのものについて描かれます。希望に満ちた結末も、後味が良いですね。

 笑いあり、謎解きあり、怖さありと、非常にバランスの取れた作品になっています。「ゴースト・ハンター」ものとしても出色の出来ではないでしょうか。

テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

怪奇幻想読書倶楽部 第26回読書会 参加者募集です
アメリカ怪談集 (河出文庫)
 2019年12月22日(日曜日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第26回読書会」を開催いたします。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、メールにて連絡をいただきたいと思います。
 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2019年12月22日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:2000円(予定)
テーマ
第一部:課題図書 荒俣宏編『アメリカ怪談集』(河出文庫)※読む本は旧版でも構いません。
第二部:読書会結成三周年企画 本の交換会

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも安心して参加できると思います。
※「怪奇幻想読書倶楽部」のよくある質問については、こちらを参考にしてください。


 今回は、アメリカの怪奇幻想小説を集めたアンソロジー、荒俣宏編『アメリカ怪談集』を取り上げたいと思います。ポオやホーソーンを始めとして、ビアス、ラヴクラフト、ブラッドベリまで、時代的にもバランスの取れた傑作集です。アメリカ怪奇小説の魅力について話していきたいと思います。

 第二部では、本の交換会を行います。処分してもいい本を持ち寄り、他の人の本と交換しようという趣旨の企画です。お持ちいただくのは何冊でも構いません。ジャンルは特に怪奇幻想にこだわらなくても結構ですので、ご自由にお持ちください。
 処分する本が特にない場合は、お持ちいただかなくても構いません。もらうだけでも結構です。

※2019年12月2日追記 定員になりましたので、第26回読書会の募集を締め切らせていただきました。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

迷宮の犯罪  ギジェルモ・マルティネス『オックスフォード連続殺人』
オックスフォード連続殺人 (扶桑社ミステリー)
 アルゼンチンの作家、ギジェルモ・マルティネスの長篇『オックスフォード連続殺人』(和泉圭亮訳 扶桑社ミステリー)は、天才数学者が連続殺人に挑むというミステリ作品なのですが、全体に<奇妙な味>的な味わいの強い作品になっています。

 アルゼンチンからの奨学生の「私」はオックスフォード大学に留学しますが、下宿先の家主イーグルトン老婦人の他殺死体を発見してしまいます。共に第一発見者となった伝説的な数学者セルダム教授のもとには、謎の記号が書かれた殺人予告メモが届けられていました。これは教授への挑戦なのか?
 メモの「論理数列」が解ければ犯人の正体が分かるかもしれないと調査を続ける「私」とセルダム教授でしたが、その後も、謎のメッセージを伴う殺人事件が続いてしまいます…。

 数学的メッセージで捜査を撹乱する連続殺人犯と伝説的な大数学者との知的戦い…という装いの作品なのですが、実際のところ「戦い」というほどの緊迫感はありません。探偵役セルダム教授が世離れした人物で、その発言がどれも仄めかしに満ちていることや、起こる殺人事件も意外と地味なのもあって、静的な印象の強い作品なのです。

 全体に散りばめられた数学的・哲学的な意匠やペダントリーなど、不思議な味わいのエピソードなど、全体を見るに、どこかミステリのパロディ的な意図で書かれたかのような感じも受けますね。特にいくつか挿入されるエピソードはどれも〈奇妙な味〉的な味わいが強いです。
 エピソードで目立つのは、病院を訪れた教授が、ディーノ・ブッツァーティの短篇小説「七階」は作家自身のその病院での体験が元になっていると話す挿話です。なんとその中に登場する三階の患者は教授自身だというのです。

 他にも、挫折した作家が人を殺すまでに至るエピソードや、妻殺しの計画を詳細に記していた医者が逆に妻に殺されてしまうエピソード、交霊術の席上テレパシー実験で実験者が焼き殺されてしまうエピソードなど、挟まれるエピソードがどれも幻想的、奇怪な味わいで非常に楽しめます。

 解説文にもありますが、ボルヘスの影響もあるのではと窺わせる様な作風で、本格ミステリファンよりも幻想小説ファンに親和性の高い作品ではないかと思います。もちろんミステリ上のトリック・構成もしっかりしていて、ミステリ作品としても充分に楽しめる作品ではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

「第二十九回文学フリマ東京」出店のお知らせ
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 もうギリギリの告知になってしまいましたが、11月24日(日曜日)に開催される、同人誌即売会イベント『第二十九回文学フリマ東京』に出店します。
 既に刊行した同人誌に加え、今回新たに作成した同人誌も販売します。
 頒布するタイトルは以下の通りです。

 『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』
 『海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル』
 『物語をめぐる物語ブックガイド』
 『迷宮と建築幻想ブックガイド』

 今回新たに二種類ほど同人誌を作成しました。
 『物語をめぐる物語ブックガイド』は、物語や本をテーマにした小説作品のガイド、『迷宮と建築幻想ブックガイド』 は、迷宮や建築をテーマにした小説作品のガイドです。

 ご興味のある方はご来場いただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

カリブ海の惨劇  ロバート・R・マキャモン『ナイト・ボート』
ナイト・ボート (角川ホラー文庫)
 ロバート・R・マキャモンの長篇小説『ナイト・ボート』(嶋田洋一訳 角川ホラー文庫)は、ブードゥーの呪いによって、ナチスの潜水艦乗組員たちが蘇り、カリブ海の小島を襲う…というB級テイストあふれるホラー作品です。

 資産家の家に生まれながらも妻子を失ったショックから、カリブ海の小島コキーナ島に一人住み着くことになった男デヴィッド・ムーア。彼は海に潜っている際に、沈没したナチスの潜水艦Uボートを発見します。
 引き上げられたUボートから物を盗もうとした男が死体となって発見されたのを受け、ムーアは友人である警察署長キップと共に潜水艦内部を調査します。そこでは、かっての乗組員の死体がミイラ化していました。しかもその死体が動きはじめているのに二人は気がつきます…。

 ブードゥーの呪いによって、ナチスの潜水艦の死体が蘇って襲ってくる…というB級ホラーそのもののような作品です。妻子を失った過去を持つムーアや、魔術師だった育ての親との確執を持つ警察署長キップなど、意味深な設定付けがされているものの、正直そのあたりの設定はあまり生かされていません。
 ただナチスの死体(これはゾンビといっていいんでしょうか)が動き出してからのテンションは高く、B級ホラーとして非常に楽しい作品になっています。それまでの描写から後半の活躍を期待されたキップがほとんど活躍せず、後半になってからようやく顔を出すインディアンの族長シェインがいいところを持っていってしまうのも含めて、この手のホラー小説が好きな人には楽しめるでしょう。

 物語自体はB級ながら、「ゾンビ」が人を襲うシーンにはもの凄く精彩があるのは、やはり著者の筆力といっていいのでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

12月の気になる新刊と11月の新刊補遺
11月18日刊 『別冊映画秘宝 決定版ゾンビ究極読本』(洋泉社MOOK 予価1980円)
11月20日刊 イーデン・フィルポッツ『赤毛のレドメイン家』(創元推理文庫 予価1320円)
11月20日刊 後藤護『ゴシック・カルチャー入門』(Pヴァイン 予価3080円)
11月22日刊 木犀あこ『ホテル・ウィンチェスターと444人の亡霊』(講談社タイガ 予価759円)
11月22日刊 J・S・フレッチャー『バービカンの秘密』(論創社 予価3740円)
11月24日刊 パオロ・コニェッティ他『どこか、安心できる場所で 新しいイタリアの文学』(国書刊行会 予価2640円)
11月26日刊 L・J・ビーストン/ステイシー・オーモニア『至妙の殺人 妹尾アキ夫翻訳セレクション』(論創社 予価3300円)
12月2日刊 ヴィクター・ラヴァル『ブラック・トムのバラード』(東宣出版 予価1980円)
12月4日刊 テッド・チャン『息吹』(早川書房 予価2200円)
12月7日刊 エレン・ダトロウ編『ラヴクラフトの怪物たち 下』(新紀元社 予価2750円)
12月12日刊 コットン・バレット 『CreepyCat 猫と私の奇妙な生活』(星海社COMICS 予価946円)
12月15日刊 三原幸久編訳『ラテンアメリカ民話集』(岩波文庫 1012円)
12月19日刊 ジェイムズ・デラーギー『55番目』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価1100円)
12月20日刊 ヒュー・ウォルポール『銀の仮面』(創元推理文庫 予価1100円)
12月20日刊 エリック・マコーマック『雲』(東京創元社 予価3850円)
12月26日刊 ルーシャス・シェパード『タボリンの鱗 竜のグリオール短篇集』(仮題)(竹書房文庫 予価1210円)
12月27日刊 ニコライ・レスコフ『魅せられた旅人』(河出書房新社 予価3080円)
12月27日刊 バレリア・ルイセリ『俺の歯の話』(白水社 予価3080円)
12月刊 ジェイムズ・ブランチ・キャベル『イヴのことを少し』(国書刊行会 予価3520円)


 毎回新規なアイディアで愉しませてくれる木犀あこの新作『ホテル・ウィンチェスターと444人の亡霊』は「幽霊ホテルもの」? これは楽しそうです。

 論創社から発売のJ・S・フレッチャー短篇集『バービカンの秘密』と、L・J・ビーストン&ステイシー・オーモニアの作品集『至妙の殺人』は非常にいい企画だと思います。江戸川乱歩を初めとした当時の探偵作家たちに人気のあった作家で、現在は容易に読めない作品だけに貴重ですね。ビーストンはかって創土社から出た作品集を読みましたが、どんでん返しのすごく好きな作家で、その種の仕掛けが好きな読者には楽しめる作家だと思います。

 ヴィクター・ラヴァル『ブラック・トムのバラード』は「アフリカ系アメリカ人作家がラヴクラフトの世界を語り直す」作品だそうで、これは気になります。

 創元社からは、国書刊行会から出ていたウォルポールの短篇集の増補版『銀の仮面』、エリック・マコーマックの幻想小説『雲』が要チェックですね。

 ニコライ・レスコフ『魅せられた旅人』は、岩波文庫にも翻訳が入っていたロシア作家の長篇の新訳。これ、すごく奇想天外で面白い冒険ユーモア小説?なので、新訳にも期待しています。お勧めです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

さまざまな奇想  ロバート・ブロック編『フレドリック・ブラウン傑作集』
フレドリック・ブラウン傑作集 (1982年) (サンリオSF文庫)
 ロバート・ブロック編『フレドリック・ブラウン傑作集』(星新一訳 サンリオSF文庫)は、ブラウンの友人だったブロックが、ブラウン没後に編んだ傑作集です。30篇と収録作品が多めなのと、代表的な作品が沢山入っているのとで、ブラウン入門書としても非常に良い短篇集ですね。
 同じく星新一の訳になる『さあ、気ちがいになりなさい』(ハヤカワ文庫SF)と収録作が結構かぶっているのですが、逆に言うと『さあ、気ちがいになりなさい』が、かなり精選されたブラウン傑作集だということがわかりますね。

 超越的な知性体により人類の代表として異星人と戦わされることになるという「闘技場」、人間の中に実在する人物とそうでない人物がいることに気付いた男の物語「事件はなかった」、究極の音を求めて旅をする音楽家を描く幻想小説「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」、ファーストコンタクトに現れた異星人は異様な姿をしていたという「人形芝居」、膨大な数の単性生殖児が生まれた世界を描く「ジェイシー」、ある日夜空の星が皆移動を始めるという「狂った星座」、少女が手に入れた人形ごっこの通りに家族が災難に会うという怪奇小説「ギーゼンスタック一族」、タイムマシンによって若返ってしまった男を描く「鏡の間で」、小惑星の住民によって知性を持ったネズミを描く「星ねずみ」、ある日突然意識を持ち始めたライノタイプを描く「エタオインさわぎ」、タイムマシンを発明した青年の末路を描く「タイムマシンのはかない幸福」などが面白いですね。

 収録作は、だいたい他の短篇集で読めるものが多いのではありますが、代表的なものがほど良く集まっているという意味で、非常にバランスの良い傑作集です。ロバート・ブロックによる序文も、ブラウンの人柄を中心に敬意にあふれた内容で良いものですね。

 収録作で一番のお薦めは「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」です。理想の「音」を求めて世界中を旅する男ドーリー・ハンクス。彼はクラリネットを吹いて小金を稼ぎながら旅をしていました。ドイツを訪れたドーリーは、酒場で楽士が奏でているオーボエのような古い楽器の演奏に夢中になります。
その楽器なら理想の「音」に近いものが手に入るのではないかと考えたドーリーでしたが…。
 音楽をテーマにした非常に香気の高い幻想小説です。これがブラウンの遺作だそうですが、もしブラウンがもうちょっと長生きしていたら幻想小説の分野にも傑作をいくつか残していたかもしれませんね。
 この「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」、他には雑誌掲載されたものと、仁賀克雄編のアンソロジー『幻想と怪奇』(ハヤカワ文庫NV)ぐらいでしか読めないと思います。ただ、現在刊行中の『フレドリック・ブラウンSF短編全集』(東京創元社)にはいずれ収録されるのでは。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

空想と呪いの旅  パトリシア・ギアリー『ストレンジ・トイズ』
ストレンジ・トイズ (ストレンジ・フィクション)
 パトリシア・ギアリーの長篇『ストレンジ・トイズ』(谷垣暁美役 河出書房新社)は、呪いをかけられた家族の危機を救うため奔走する少女を描いた、魔術的な雰囲気に満ちた幻想小説です。

 9歳の少女ペットは、不良じみた長女のディーンがしでかしたことのため、父母のスタンとリンウッド、次姉のジューンとともに車で旅に出ることになります。家を離れる直前にディーンの部屋でペットが見つけたのは、剥製にされた愛猫マーマレードと、ディーンが書きのこしたらしい手帳でした。
 手帳の中身から、ディーンがオカルトじみた儀式に手を出していたこと、家族に対して呪いがかけられたらしいことを知ったペットは、家族の命を救う方法を見つけようとしますが…。

 幼い少女が、長姉により家族にかけられた呪いを解こうと、家族との逃避行の最中に奔走する…という物語なのですが、その旅はどこかのんびりしていて、あまり危機感はありません。ただ主人公ペットが旅の途中で魔術的・悪魔的な存在と出会うシーンは、非常にシリアスな雰囲気になっています。

 主人公ペットが幼いせいもあり、彼女が出会う超自然的なな現象が本当のことなのかははっきりしません。もともとぬいぐるみたちとの「ごっこ遊び」を愛するペットが語り手となっていることもあり、そのペット自身の内部の空想と外部で起きる幻想的な現象が一緒くたの世界となっているのです。
 ただ、実際にペットと家族を災厄が次々と襲うのは確かであり、その意味で「呪い」は客観的に存在するように見えます。

 家族が逃げ出す原因となった長姉ディーンの行為とは何なのか? ディーンが行った魔術とは何なのか? そもそも彼女はいったいどこに行ったのか? 加えて「呪い」とは何なのか?
 そのあたりの具体的な情報が全く示されないまま物語が展開するので、かなり抽象的・観念的な作品になっています。ただ、主人公ペットによって語られる魔術的な世界観、どこか不穏さを感じさせる悪魔的な登場人物とその災厄、家族との逃避行のシーンで描かれるほのかな「家族愛」など、読みどころは沢山あり、非常に魅力的な作品になっています。

 あと、本の表紙絵にも描かれたプードルのぬいぐるみが大量に登場し、作中でも重要なアイテムとして活躍します。ぬいぐるみ好きな人にも楽しめる作品ではないでしょうか。

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孤独と復讐  ステフェン・ギルバート『ウイラード』
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 ステフェン・ギルバート『ウイラード』(村社伸訳 角川文庫)は、孤独な青年が飼育したネズミを利用して犯罪に手を染めていく…というサスペンス作品です。

 かって社長だった父親のもと裕福な生活を送っていた「ぼく」は、父の死後零落し、かっての父の部下ジョーンズのもとで、一事務員として働いていました。家にネズミが出るということで、母親から駆除を頼まれた「ぼく」は罠をしかけますが、哀れみから彼らの命を助けます。
 「ぼく」になつくようになったネズミたちの中で、飛び切り知能の高い特殊なネズミが生まれ、「ぼく」は、そのネズミに「ソクラテス」と名付け特別に躾けます。やがて「ソクラテス」は仲間を率いて集団で行動するようになります。
 経済的に行き詰った「ぼく」はネズミたちを使い、食料や金を奪うようになりますが…。

 物語が始まった段階で、主人公の青年は非常に虐げられた環境に置かれています。家は経済的に没落しており、それにも関わらず母親のプライドから広大な屋敷は手放さずにいます。また父親のかっての部下ジョーンズは、主人公に対して屈折した感情を抱いており、安月給でこきつかっているのです。
 友人や恋人もいない主人公は、知能の高いネズミ「ソクラテス」と出会い、彼を親友とも思うようになります。やがて「ソクラテス」がネズミの群れをコントロールできることがわかると、彼らを使って盗難を繰り返すようになるのです。

 あらすじや表紙からは、ネズミが人間を襲うホラーのような印象を抱きがちなのですが、そういう感じではありません。確かに人間を襲うシーンもあることはあるのですが、それは一部で、大部分は屈折した青年がネズミとともに社会に復讐していく…という内容で占められています。
 その意味で、全体としては「ピカレスク小説」的な要素が強い作品だと思います。また、青年の犯罪計画の他、ネズミの飼育や躾けに対する試行錯誤、ネズミ飼育を周りに隠していることに対するサスペンスなど、いろいろ読みどころがあります。

 クライマックスに至るとホラー味もかなり強くなってくるので、ホラー小説として読んでも楽しめる作品かと思います。動物が人を襲うという、いわゆる「動物パニックもの」作品の中でも、ちょっと毛色の変わった作品で、一読の価値ある作品ではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

時間と空間の殺人  スチュアート・タートン『イヴリン嬢は七回殺される』
イヴリン嬢は七回殺される
 スチュアート・タートンの長篇小説『イヴリン嬢は七回殺される』(三角和代訳 文藝春秋)は、館ミステリ+タイムループ+人格転移という、複雑怪奇なSFミステリ作品です。

 森の中で目を覚ました男性は、ここがどこなのか、自分が誰なのか、記憶を完全に失っていました。覚えているのは一人の女性の名前だけ。最寄の屋敷〈ブラックヒース館〉を訪れた男は、自分が客の一人セバスチャン・ベルであることを聞かされます。ふとしたことから意識を失った男が目を覚ますと、自分の意識がベルではない別の男性の肉体に宿っていることに気がつき驚きます。
 突如現れた謎の仮面の男<黒死病医師>が言うことには、その日の夜に屋敷の令嬢イヴリンが殺されることになっており、その犯人を見つけない限り、何度もその日の一日をループし続けるというのですが…。

 犯人を見つけない限り同じ一日が何度も繰り返されるという<ループ>、意識を失う度に別の人物に意識が移り変わるという<人格転移>、閉ざされた森の屋敷で展開されるという<クローズド・サークル>、大きく三つの趣向を組み合わせた、複雑怪奇なSFミステリ作品です。
 最初は記憶も全くない状態で放り出された主人公が、調べていくうちに自分が何らかの「力」により、ループ世界に囚われており、殺人事件の謎を解決しない限り脱出できないことを認識することになります。複数の人間に宿ることにより、情報を得やすい立場に置かれている主人公ではありますが、<宿主>はそろいもそろって癖のある人間ばかりなのです。
 知性はあるものの肉体的にはほとんど動けない者であるとか、意識が朦朧としている者、激情を抑えられない者など。主人公は宿った肉体の特性に行動が左右されるというのも面白いところで、場合によっては自らの意思に反して肉体が動いてしまうこともあるのです。

 解くべき殺人事件も複雑で、何度助けようとしても令嬢は殺されてしまいます。探っていくうちに事件の元凶が数十年前に起こった令嬢の弟の殺人事件に遡ることが示され、主人公は現在と過去両方の事件の謎を追うことになります。
 やがて自分以外にも<ループ>に閉じ込められた者がいること、自分の命を狙っているものがいることも判明します。誰が味方で誰が敵なのか? 嘘をついているのは誰なのか?

 現在と過去二つの殺人事件の謎に加え、主人公がこの<ループ>に閉じ込められた理由と自分自身の正体をも探っていくという、壮大な設定の作品になっています。
 中盤に多少だれるところはあるものの、次々と新たな謎が発生したり、敵味方が入れ替わったりと、終始面白く読ませる作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

異形の触れ合い  アルベール・サンチェス・ピニョル『冷たい肌』
冷たい肌
 アルベール・サンチェス・ピニョル『冷たい肌』(田澤耕訳 中央公論社)は「カタルーニャが世界に発信する新しい文学」という触れ込みでありながら、その実、怪物との死闘を描くという、ほぼホラー小説といっていい作品になっています。

 アイルランドで政治活動をしていた「私」は人間社会に倦み疲れ、南極近くの孤島での気象観測の仕事に着くことになります。その島に着いた後には、一年近く他の人間と接触することはないというのです。
 島に着いた「私」は、前任者がおらず、薄汚れた格好をした灯台守らしき男しかいないのを見て驚きます。カフォーと名乗った男は頭がおかしいらしく、灯台に引きこもっていました。夜を迎えた「私」は家の外から異様な風体の怪物に襲われます。カフォーによれば、毎夜怪物たちは襲ってくるというのです。
 嫌々ながらカフォーと協力することになった「私」は夜ごと襲ってくる怪物たちを撃退することに力を注ぐようになります。カフォーは怪物の雌を捕らえていましたが、やがて「彼女」をめぐって、二人の間に軋轢が起こります…。

 序盤こそ静謐な雰囲気なのですが、孤島に上陸してすぐに怪物が現れ、怪物との激闘がこれでもかと描かれます。拳銃の弾丸も少なくなるなか、「私」は奇人であるカフォーとも協力せざるを得なくなっていきます。倒しても倒しても、後から出てくる怪物のインパクトは強烈です。

 後半では、ある手段により数百匹を一挙に倒すことに成功しますが、それもあまり意味がない…という激烈さ。やがて怪物たちとの争いに疲れ、和解できないかと考えるようになる「私」とカフォーの対立も読みどころです。カフォーが捕まえた雌の怪物「マスコット」や怪物の子供たちとのふれあいから、彼らを怪物ではなく、ある種の「人間」として見るようになっていく「私」。そのあたりが「文学的」でもあり、評価されている部分なのでしょうか。

 異形のものを描くホラー小説としても、怪物との死闘を描くエンターテインメント小説としても面白い作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

引き裂かれる心  ピーター・ディッキンソン『エヴァが目ざめるとき』
エヴァが目ざめるとき
 ピーター・ディッキンソン『エヴァが目ざめるとき』(唐沢則幸訳 徳間書店)は、チンパンジーの脳に記憶を移植された少女を描くという、強烈なテーマの作品です。

 13歳の少女エヴァが昏睡状態から目が覚めると、自分がメスのチンパンジーの体の中にいるのに気がつきます。交通事故でエヴァの体が滅茶苦茶になり、両親の希望で実験的にエヴァの記憶をチンパンジーの脳に移植する手術が成功したのです。
 人間の心を持つチンパンジーとしてマスコミの寵児になったエヴァでしたが、チンパンジーの研究者である父親の提案で、飼育されているチンパンジーたちの群れの中で一時的に暮らすことになります。その生活のなかで、エヴァは人間ではなくチンパンジーとして生きていくことを決意しますが…。

 チンパンジーの体になってしまった少女を描く作品です。脳移植ではなく、あくまでチンパンジーの脳に人間の記憶を書き込む…という設定が面白いですね。主人公のエヴァは、肉体的・遺伝的には完全にチンパンジーであるわけです。
 もともと研究者の父親のおかげで、小さいころからチンパンジーたちと一緒に育ったという経歴もあり、エヴァ自身にはチンパンジーの体になってしまったことに対する驚きはあるにしても、違和感はあまりないのが特徴です。なので、人間とチンパンジー、二つの意識に引き裂かれる苦しみ、というのはほとんどなく、どちらかと言うとチンパンジーとしての生活に対して、人間的な視点から文化的な工夫を考えていこうとする、ポジティブな発想の物語になっています。

 物語の舞台は近未来で、野生生物は特別に保護されているチンパンジー以外はほとんど絶滅しています。人間たちもエネルギーを失ってゆるやかに滅びつつある…という中で、生きることに対して積極的であるエヴァの行動は光っています。
 チンパンジーの群れに潜り込んだエヴァは、群れのルールや野生動物のしきたりを尊重しながらも、新しい行動様式や文化を彼らの中に付け加えていこうとします。13歳の少女ながら、その視点は現実的であり、周りの大人たちと比較しても彼女の冷静さは際立っています。

 この作品、人間の愚かさを指摘し人類の後継者としてのチンパンジーを礼賛する…というわけでもなく、二つの種族が滅び行く様を慨嘆するわけでもないという、ユニークなスタンスの物語です。
 児童書のシリーズとして出版されていますが、いろいろ考えさせるテーマを含んでいて、これを読んだ年少読者はショックを受けるのではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

怪奇幻想読書倶楽部 第25回読書会 開催しました
幽霊島 (平井呈一怪談翻訳集成) (創元推理文庫)
 2019年10月22日の火曜日(祝日)、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第25回読書会」を開催しました。
 今回は課題図書として『幽霊島 平井呈一怪談翻訳集成』(創元推理文庫)を取り上げました。平井呈一は、日本の怪奇幻想小説翻訳ではビッグネームといってよい存在です。その翻訳の魅力を初めとして、取り上げられた作家の作品についてや、周辺領域の文化や思想についてなども含め、幅広い話題が出たように思います。

 それでは、当日の会の詳細について、ご報告したいと思います。

 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。

 それでは、以下話題になったトピックの一部を紹介していきます。


・作品集の前半は、派手めな吸血鬼ものが多かったこともあり割と読みやすかったが、後半は長めの作品が続いていて、ちょっと読みにくいところもあった。

・解説で平井呈一の生涯を知って、永井荷風との関係を初めて知ってびっくりした。

・平井呈一の創作『真夜中の檻』はなかなか面白かった。小説での作風はマッケンぽい感じがする。

・エッセイで紹介されている作品を見渡すと、後年、平井自身の翻訳を含め、日本に紹介されてきた作品が多く、戦後日本の怪奇幻想小説紹介史につながっていくんだなあという感じがした。

・奇しくも同時期に出た『幻想と怪奇傑作選』で同人誌「THE HORROR」が復刻されていて、平井呈一の文章は『幽霊島』収録のものとかぶっているものが多い。「THE HORROR」は古書店で売っているのを見たことがあるが、結構大きい判型の雑誌だった。

・「幻想文学」誌の「THE HORROR」復刻特集について。「アーサー・マッケン特集号」に最初に復刻版が掲載された。同号には平井呈一の小特集もあった。

・平井呈一の翻訳には、ここにこんな訳語を持ってくるのかという面白さがある。語彙のポテンシャルが深い。女性のセリフが伝法なのか上品なのかわからないところも面白い。

・デ・ラ・メア「失踪」の平井呈一訳について。関西弁で訳したという変わり種の作品。「わて」や「でんがな」のインパクトは強烈。

・平井呈一役のエラリイ・クイーン『Yの悲劇』(講談社文庫)について。江戸っ子口調で訳されている変わり種翻訳。


●H.P.ラヴクラフト「アウトサイダー」

・ポオ作品の影響が濃い?

・世界観がわかりにくいところがある。地下に世界がある?

・主人公は死者(ゾンビ的な存在)なのか? 怪物(生者)?もしくは幽霊?

・キリスト教的に考えると、死者だと思う。キリスト教的な「復活」の前に蘇った人ではないか。

・主人公に記憶がないが、人間的な行動をしているので、やはり「怪物」ではなく人間だと思う。

・二目と見られぬ容貌の普通の人間が、地下に監禁されているという話かと思った。

・主人公が幽霊のような存在と触れあう…という描写があり、人間世界に受け入れられなかった主人公が最終的に孤独ではないと自覚する、という解釈もできるのではないか。

・ポオの「影」という作品の引用のような部分がある。

・平井呈一訳はちょっと気取りがあって、ラヴクラフトには合わないかも。


●アルジャーノン・ブラックウッド「幽霊島」

・家に侵入してくるインディアンのような男たちは、幽霊なのか実在の人間なのか? どちらとも取れるような書き方をしている。

・男たちが引きずっている死体(?)の顔が語り手の顔になっている、というのは、霊現象なのか、それとも主人公が幻影を見ているのだろうか? いろいろ考えると矛盾点があったりするのだが、それを含めて面白い作品ではある。

・主人公の幻覚だとすると、どこからが幻覚なのだろうか? 死体の顔が自分になっているのは、未来のビジョン?

・主人公が、最初から部屋に対して恐怖感を覚えているので、超感覚的な力が強い人だと思う。

・主人公が初めから死んでいるという解釈も成り立ちそう。

・地元のおじいさんと会っているという描写もあるので、主人公が死んでいるという解釈は難しいと思う。

・インディアンたちの白人世界に対する「グローバルな因縁話」? それがブラックウッド特有の自然観と結びついている作品ではないか。

・民族的な因縁の恐怖を描いた作品?

・「家」自体の持っている記憶が再現された話の可能性もある。

・もし過去に惨劇があったとして、その詳細を描かないので「因縁」がわからず、単純な因縁話にならないのはブラックウッドの手腕だろうか。

・ブラックウッドは、大自然の小島が舞台になる作品が多い。大自然に一人、というシチュエーションがすでにして怖い。

・古い怪談話では、学生が一人で田舎に勉強に行く、というシチュエーションが結構多い気がする。


●ジョン・ポリドリ「吸血鬼」

・吸血鬼ものの古典。

・ドラキュラもそうだが、吸血鬼は「約束」とか「ルール」にこだわる傾向が強い。

・主人公が徹底的に痛めつけられている。すごく一方的。

・吸血鬼はバイロンを現しているという説もある。

・平井呈一のこの作品に対する評価はかなり厳しい。

・弱点も明かされず、一方的に消えてしまう…というのが今読むと逆に斬新に感じる。

・吸血鬼が日の光の下でも普通に動いている。


●E・F・ベンソン「塔のなかの部屋」

・集中でもかなり怖い作品。後半よりも前半の夢の部分の方が怖い。

・近年出たアトリエサードのベンスン怪談集の訳と比べると、わかりにくい部分はある。ただ雰囲気は非常に出ていると思う。

・実際に怪現象に遭遇するシーンになると、妙に客観的な視点になるのも面白い。

・「夢日記」的なモチーフが感じられる。ただ夢にしては理路整然としている。

・ジャックという友人は実在しているのだろうか? 夢の中だけに出てくる独自の人物? 夢の中で、実際に嫌いだった人物の姿を借りているのかもしれない。

・『デミアン』の逆バージョン?

・作中に登場するストーン夫人には「グレート・マザー」の趣もある。

・ベンスン作品では、嫌な予感がしてもそのまま主人公が突き進んでしまうことが多い。恐れつつも惹かれる…というのは、ベンスン作品の重要なモチーフかもしれない。


●F・G・ローリング「サラの墓」

・ストレートな吸血鬼ホラー作品。かなり典型的。

・これは死後になって吸血鬼になったタイプ?

・最後にちょっと不安を残して終わる…という終わり方が定番だが楽しい。

・最後に出てくる女の子は家畜に噛まれた?

・直接語り手が語るのではなくて、手記を通じて語られるというのも典型的。

・墓を動かすというのがいまいちイメージしにくかった。別に新しい穴を掘ってそこに棺ごと動かすというイメージ?

・死体が原型をとどめているという描写があるが、土葬にしてミイラ化したりするのは一般的なのだろうか? ヨーロッパの地方によってはそうなりやすいところもあるらしい。

・同じキリスト教でも、カトリックでは腐らない死体は聖人扱いだが、正教系では魔物扱い?


●F・マリオン・クロフォード「血こそ命なれば」

・前段で語られる塚の上の霊現象は印象的。

・吸血鬼になる娘が生前愛していた男を呼び寄せるなど、メロドラマ感がちょっと強い。日本の幽霊ものと似ている感じもする。

・クロフォード作品は全般的にロマンス要素が濃い。


●W・F・ハーヴェイ「サラー・ベネットの憑きもの」

・生者と死者のそれぞれの孤独と断絶を描いた作品?

・サラーの旦那はかなりひどい人物。旦那の霊は救われていない気がする。

・「炎天」もそうだが、ハーヴェイ作品は暗示にとどめる描写が多い。

・「炎天」の最後に人が殺されるのではないかと推測させる描写は上手い。

・文章を書く課題について。小説講座で、死体を出さずに死体があるかのように感じさせる文章を書くという課題があったらしいが興味深い。


●リチャード・バーラム「ライデンの一室」

・黒魔術テーマの作品。錬金術? 黒魔術?

・青年は悪魔と契約している? 真相がはっきり描かれないのも怖い。

・当時としてはオランダ・ライデンは科学研究の最先端地域。

・娘の髪の毛は呪いに使われている? 生け贄?

・語りの構成が多重になっていて、誰が誰について話しているのかわかりにくい。

・語り手の個性が強いのも気になる。連作のエピソードの一つというのも関係しているのだろうか。


●M・R・ジェイムズ「若者よ、笛吹かばわれ行かん」

・呪いのアイテムにより怪現象が起こる話。

・妙なユーモア感がある。出てくる怪物もどこか弱々しげな印象。

・『イギリス怪談集』収録の翻訳の方がユーモア感がよく出ている。序盤で主人公が同僚がからかわれるシーンがあるのだが、平井訳ではそのあたりがよくわからなくなっている。

・ジェイムズは紀田順一郎訳の方が読みやすい印象。


●J・D・ベリスフォード「のど斬り農場」

・怪奇小説ではない解釈も可能な作品? かってに事態を解釈して逃げ出す男の物語としても読めるのでは。

・作中に出てくる「メモ」は語り手が書いたもの? それとも別の人間が書いたもの? 農場で過去に犠牲になった人物のものかと思った。

・平井呈一は直感的な部分が強くて、英語の文法はよくわかっていなかった、という話もある。

・結末の一文は原文ではどうなってるのだろうか?

・原文がわからないので何とも言えないが、ユーモア小説として書かれている可能性もある?

・どんどん家畜や人物がいなくなってくる…というシチュエーションは確かに怖い。

・これは当時としては「怪談」として分類するには微妙なラインの作品である気がする。平井呈一はこの作品やハーヴィー「炎天」のような作品が好きだったようだが、都筑道夫がかってアンソロジー『幻想と怪奇』で、本来怪談とはされていなかった、カポーティ「ミリアム」やスタインベック「蛇」といった作品を怪談だと解釈して収録したのと通じるところがあるような気がする。

・タイトルからして怖い。作中でつけられたあだ名にしても悪意のあるあだ名の付け方だと思う。


●F・マリオン・クロフォード「死骨の咲顔」

・ゴシック小説感が強い。超自然現象はそれほど重要ではなく、一族と恋人たちの行方がメインになっている。

・父親が隠している秘密は、今の読者ならすぐにわかってしまうと思う。

・乳母が得体が知れなくて怖い。

・ハッピーエンド? 妙に結末が爽やか。

・一族の呪いをテーマにした作品のバリエーション。

・長篇『プラハの妖術師』も面白かった。ロマンス味の強い神秘小説。

・クロフォードはロマンス味が強く甘い作風だと思うのだが、平井呈一は意外にロマンス味のある作品が好き? 創作の「真夜中の檻」「エイプリルフール」も一種の恋愛ものだった。


●シンシア・アスキス「鎮魂曲」

・先祖の霊に憑依される女性の話。

・語り手は女性が憑依されているのに気付いていない? 医者であることもあり、少なくとも憑依の事実は信じていないようだ。

・当時の精神病理学的な知識が反映されているように思う。呼吸困難になるシーンなどはヒステリーの症状ではないか。

・先祖のことを知識として知ったヒロインが先祖のふりをしている…という解釈も可能?本当に霊に憑かれていたのか、二重人格だったという解釈もできる。


●オスカー・ワイルド「カンタヴィルの幽霊」

・「カンタヴィルの幽霊」では、BOOKS桜鈴堂さんの翻訳がすごく読みやすくて良かった。

・これは平井訳が非常に合っていたように思う。元々サッカレーなども訳している人だから、ユーモア小説には親和性が高いのかも。

・アメリカ人家庭から中盤で幽霊に視点がずれるのが面白い。幽霊の衣装や当たり役がいろいろ出てくるのもおかしい。

・この作品の幽霊は物理的に接触できているのが面白い。

・アメリカの研究者の論文によると、アメリカ人家庭の娘と幽霊との間に性的な接触があったのではないかという説があるらしい。

・アメリカ的なものとイギリス的なものとの混合?

・アメリカ人を馬鹿にしている感覚があるが、当時のアメリカ人はこれを読んで怒らなかったのだろうか。


●平井呈一、生田耕作 対談「恐怖小説夜話」

・平井呈一の手前、普段はちょっと偉ぶっている生田耕作が割と下手に話しているのが印象的だった。

・編集者はゴシックの話をしてほしがっていたようだが、二人はどんどん翻訳論の話になってしまっているのが面白い。

・二人の評価が高いのは『オトラント城』『ヴァテック』『フランケンシュタイン』あたり。それぞれ『オトラント城』『ヴァテック』の訳者なので、評価が高いのも当然?

・『オトラント城』は、そんなに傑作だろうか? 歴史的評価は別として、どちらかというと『ヴァテック』の方が今でも傑作であるように思える。

・結構けなしているものが多いが、この対談を読んでゴシック小説を読みたいと思う読者がいるのだろうか。

・『オトラント城』は講談社文庫、『ヴァテック』は角川文庫にかって翻訳が入っていたことがある。

・『オトラント城』の翻訳の種類について。平井呈一の現代語訳、古典語訳の他、講談社文庫、国書刊行会など。近年出た研究社版もある。

・クララ・リーヴ『イギリスの老男爵』について。ゴシック的な部分よりも、財産分与の話がやたら長くて閉口した。

・アン・ラドクリフ『ユドルフォの秘密』について。ゴシック小説の代表的な作品だが、未だに翻訳がないので、読んでみたい作品。『赤毛のアン』にも『ユドルフォ』を読んでいるシーンがある。ラドクリフは『イタリアの惨劇』が面白かった。少女漫画の原型的な作品?

・現代の「ゴス」趣味を考えても、ゴシック小説が今なら受けるような気がする。

・チャールズ・ブロックデン・ブラウン『エドガー・ハントリー』について。非常にアクション要素が強く活動的なゴシック小説。主人公がインディアンと格闘したりする。

・メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』について。ゴシック小説の中で、これは飛び抜けた作品だと思う。

・ヤン・ポトツキ『サラゴサ手稿』について。完訳はいつ出るのだろうか? 以前刊行予告が出たときは文庫の予定だったようだが、文庫で出たとしたらやたらと厚い本になるのでは。

・『サラゴサ手稿』の映画化作品について。入れ子状の構造がすごい作品だった。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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