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神秘と想像力  アルジャナン・ブラックウッド『万象奇譚集』
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 アルジャナン・ブラックウッドの短篇集『万象綺譚集』(渦巻栗訳)は、本邦初訳のブラックウッドの短編を6篇収録した作品集です。

「いにしえの光」
 土地調査事務署員の男が調査のために入り込んだ森は、異界のものの溢れる場所でした…。
 森の異界感が強烈で、迷ってしまうのはもちろん、元の場所に戻ってしまったり、目の前で木や門が動いてしまうなど不思議な現象が頻発します。一番すごいのは、人間が立っていると思い話しかけると、それが木や影の錯覚に過ぎなかったのがわかる…というくだり。錯覚だとわかった後にさらにその影がしゃべっている様に聞こえる、というところはぞっとさせますね。

「サイモン・パーキュナートの奇行」
 堅物である元教授サイモン・パーキュナートは、売られている鳥籠の鳥を見た瞬間、衝動的にその鳥を買取り空に逃がしてしまいます。その直後、体の調子を崩して寝込んでいるサイモンの前に〈世界警官〉を名乗る男が現れます。
 彼は鳥を逃がしてあげた代価に、サイモンも「外に逃がして」あげようと話しますが…。
 何やら偉大な力を持つらしい〈世界警官〉の力により、肉体を離れ精神を遊ばせることになった男を描く物語です。精神が飛び回るヴィジョンは、ブラックウッドらしく得意とするところで、描写も冴えていますね。
 精神だけが宇宙を遊離する…というパターンの作品はブラックウッドにはよくありますが、この作品のそれは他作品に比べ優しさが感じられます。
 鳥を初めとして、登場する生物に暖かい目が注がれているのも特徴で、クライマックスの、大量の鳥を子供たちとともに空に逃がすシーンは非常に魅力的です。

「五月祭前夜」
 合理主義者である「わたし」は、老いた民俗学者の友人を田舎まで訪ねることにします。迷信深い友人を論破してやろうと考えていたのです。しかし山中で遭遇した自然現象に強烈な印象を受けた「わたし」は考えを改め始めます。
 友人の家の途中にあるトム・バセットの小屋を見つけた「わたし」は、その家の中が光にあふれ、このような場所にいるはずのない大量の男女が集まっているのを目にします。しかも彼らは普通の人間ではないようなのです…。
 五月祭前夜、魔のものに遭遇した合理主義者の男が超自然の世界に足を踏み入れる…という物語。それを一時の錯覚とせず、友人とともに輝きを増した世界に踏み込んでゆく…というラストも美しいですね。

「通い路」
 ノーマン青年は、魅力的な女性ダイアナ・トラヴァースの招きに応じて彼女のおじであるディグビー卿の館を訪れますが、その近くには<通い路>と呼ばれる道がありました。そこは魔のものが現れる場所であり人々から恐れられていたのです。
 <通い路>では、過去に何人もの人間が消えており、ダイアナの母親もそこで失踪したというのです。自身もまた魔的なものに惹かれているというダイアナは、自分は行くべきなのか留まるべきなのかわからない、とノーマンに話しますが…。
 この作品でも異教的な別世界が描かれます。異界に惹かれている愛する女性を、主人公は守ることができるのか? 結末は皮肉に満ちており、かなりブラックです。

「海憑き」
 マルコム・リース医師と砲手のリース少佐、主人のエリクソン船長は、ある夏の夜席を共にして歓談していました。情熱的なエリクソン船長は、異教の神々は未だ生きており、崇拝者は死と引き換えに神々と合一できる、という自説を展開します。
 時を同じくして、海は荒れ果て、興奮したエリクソンは外に飛び出していってしまいますが…。
 異教的な海の神々を扱った、神話的な香りのする作品です。畏怖と同時に、神との合一による精神的な法悦感が描かれる一篇。

「想像力」
 創造的な想像力の持ち主ジョーンズは、創作活動に行き詰っていました。そんなある夜、彼のもとを浮浪者のような、しかし、生命力にあふれた奇妙な男が訪れます…。
 想像力の化身というかメタファーというか、そうした存在が作家のもとを訪れる、という寓話的な作品です。
 使われているイメージが「ケンタウロス」なのも、ブラックウッドの同名長篇との関係も思わせて、興味深いですね。

 本書は2019年5月、文学フリマ東京で販売され、後に増補版が通信販売で販売されたものです。訳文も上質で非常に読みやすいです。続刊を期待したいところですね。

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虚無の穴  キャシー・コージャ『虚ろな穴』
虚ろな穴 (ハヤカワ文庫NV)

 1991年発表のキャシー・コージャの長篇『虚ろな穴』(黒田よし江訳 ハヤカワ文庫NV)は、何でも飲み込んでしまう謎の黒い穴をめぐって異様な人間関係が描かれてゆくというホラー作品です。

 詩人志望のビデオ店販売員ニコラスと恋人ナコタは、ある日自分が住む安アパートの物置部屋に30センチ大の黒い穴があるのを見つけます。気味悪がるニコラスに対し、ナコタは穴に異様な関心を見せ、様々なことを試そうと考えます。
 色々な物を投げ込んだりしても、穴がどこにつながっているかはわかりません。覗き込んでも何も見えないのです。昆虫やネズミなどを穴のそばに近づけてみると、生き物に異様な変異が起こるのに気付いて二人は驚きます。
 調べていくうちに、ナコタ一人での時には何も起こらず、ニコラスがいるときのみ、穴には何か異変が起こるらしいのです。ニコラスが媒介になっているのだと考えるナコタは、ニコラスに穴に関わるよう諭します。離れかけていたナコタの心が戻ってくるのを感じたニコラスは、嫌々ナコタにつきあいます。
 過去に穴の中を撮影したビデオに異様なものが写っているのを発見したナコタはそれを知り合いに見せますが、それがニコラスの影響力であると考えた彼らは、ニコラスにつきまとうようになりますが…。

 何でも飲み込んでしまう黒い穴、おそらく異空間とつながっているのではないかと思われるその穴が主眼となっており、魅力的なテーマなのですが、実はその穴よりも穴をめぐる登場人物たちの異様な関係性の方がクローズアップして描かれるという、ユニークな作品です。
 穴そのものの秘密については、最後までわずかなことしかわかりません。主人公ニコラスのみが、穴に関して超自然的な現象を起こすことができ、それがために穴に関して何かを求め続ける恋人ナコタとの仲がこじれ、異様な事態を招くことになります。
 穴に触ってしまったニコラスは、超自然的な能力を得る代りに肉体的に異様な変容を来たしてしまうのです。それを見た幾人かの人物は彼を教祖的な人間として崇拝するようにまでなります。

 主人公含め、周りの登場人物たちはみな芸術家志望であり、その意味でエキセントリックな性格の人物が多いのですが、その中でもナコタの人物像は強烈です。穴に過度に執着するナコタは、ニコラスの人間性を軽蔑しながらも、穴に関わらせようと過激な行動を繰り返します。
 ナコタの真意に気付きながらも、ナコタの魅力から離れられず破滅してゆくニコラスの行動が読みどころといっていいでしょうか。
 穴に関する部分も気色が悪く、かなり怖いのですが、それ以上に、穴に関わった人間たちの異様な人間心理と関係性がおぞましいものになってゆくという、そちらの方が怖い作品ですね。これは傑作といっていい作品ではないでしょうか。

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怪奇幻想読書倶楽部 第22回読書会 参加者募集です
いにしえの魔術 (ナイトランド叢書3-2) イギリス怪談集 (河出文庫)

 2019年6月30日(日曜日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第22回読書会」を開催いたします。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、メールにて連絡をいただきたいと思います。
 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2019年6月30日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:2000円(予定)
テーマ
ブラックウッドと英国怪談の伝統
課題図書
第一部:アルジャーノン・ブラックウッド『いにしえの魔術』(夏来健次訳 アトリエサード)
第二部:由良君美編『イギリス怪談集』(河出文庫)

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも安心して参加できると思います。
※「怪奇幻想読書倶楽部」のよくある質問については、こちらを参考にしてください。

 今回は、英国怪奇小説の巨匠の一人アルジャーノン・ブラックウッドの傑作集『いにしえの魔術』を取り上げます。様々なジャンルの怪奇作品を手がけ、近代怪奇小説の型の一つを作り上げたというべきブラックウッドの作品を見ていきたいと思います。

 併せて、ブラックウッド、M・R・ジェイムズ、レ・ファニュ、E・F・ベンスンなど、イギリスの重要な怪奇作品を集めて、英国怪談のショーケースともいうべきアンソロジー『イギリス怪談集』についても話していきたいと思います。
※テキストの『イギリス怪談集』は旧版、新装復刊版どちらでも構いません。

※定員に達したため、募集は締め切らせていただきます。

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6月の気になる新刊
6月5日刊 《ナイトランド・クォータリーvol.17 ケルト幻想~昏い森への誘い~》(アトリエサード 予価1836円)
6月6日刊 ハーラン・エリスン編『危険なヴィジョン〔完全版〕1』(ハヤカワ文庫SF 予価1296円)
6月7日刊 八木ナガハル『惑星の影さすとき』(駒草出版 予価1134円)
6月10日刊 浜田雄介編『渡辺啓助探偵小説選Ⅰ』(論創社 予価4104円)
6月12日刊 オルダス・ハクスレー『モナリザの微笑 ハクスレー傑作選』(講談社文芸文庫 予価1836円)
6月12日刊 フェルディナント・フォン・シーラッハ『刑罰』(東京創元社 予価1836円)6月14日刊
6月14日刊 ニール・ゲイマン『壊れやすいもの』(角川文庫)
6月14日刊 クレア・ノース『ホープ、唐突なる出現』(仮題)(角川文庫)
6月14日刊 『ジョゼフ・コーネル コラージュ&モンタージュ』(フィルムアート社 予価3780円)
6月17日刊 『短編画廊 絵から生まれた17の物語』(ハーパーコリンズジャパン 予価2376円)
6月17日刊 ダリオ・コッレンティ『血の郷愁』(ハーパーBOOKS 予価1290円)
6月20日刊 ギョルゲ・ササルマン『方形の円 偽説・都市生成論』(東京創元社 予価2376円)
6月24日刊 垂野創一郎編訳『怪奇骨董翻訳箱 ドイツ・オーストリア幻想短篇集』(国書刊行会 予価6264円)
6月24日刊 サキ『ウィリアムが来た時』(国書刊行会 予価2520円)
6月25日刊 スティーヴン・ミルハウザー『私たち異者は』(白水社 予価2808円)
6月27日刊 ジャスパー・フォード『Early Riser 上・下』(仮題)(竹書房文庫 予価各1080円)
6月28日刊 キャサリン・M・ヴァレンテ『パリンプセスト』(東京創元社 予価3240円)
6月28日刊 カーター・ディクスン『白い僧院の殺人 新訳』(創元推理文庫 予価994円)

 5月に引き続き、6月も注目本が目白押しですね。

 ハーラン・エリスン編『危険なヴィジョン〔完全版〕1』は、かって1巻のみの邦訳が出たこともある名SFアンソロジーの完全版。今回は全3巻が刊行されるそうです。

 『モナリザの微笑 ハクスレー傑作選』は、珍しいハクスレーの短篇集。これはちょっと気になります。

 『短編画廊 絵から生まれた17の物語』は、エドワード・ホッパーの絵画からインスピレーションを得た作品を集めたアンソロジーのようです。ジェフリー・ディーヴァー、スティーヴン・キング、マイクル・コナリー、リー・チャイルド、ローレンス・ブロックなどの作品を収録。

 ギョルゲ・ササルマン『方形の円 偽説・都市生成論』は、「ルーマニアのカルヴィーノ」ササルマンによる「36の断章から浮かびあがる架空都市の創造と崩壊」を描いた作品だそうで、これは気になります。

 6月のイチオシはこれでしょうか。ドイツ・オーストリアの怪奇短編を集めたアンソロジー、垂野創一郎編訳『怪奇骨董翻訳箱 ドイツ・オーストリア幻想短篇集』です。収録内容も既に公開されているので、転載しておきますね。

I 人形
「クワエウィース?」フェルディナンド・ボルデヴェイク
「伯林白昼夢」フリードリヒ・フレクサ
「ホルネクの自動人形」カール・ハンス・シュトローブル

II 分身
「三本羽根」アレクサンダー・レルネット=ホレーニア
「ある肖像画の話」ヘルマン・ヴォルフガング・ツァーン
「コルベールの旅」ヘルマン・ウンガー

III 閉ざされた城にて
「トンブロウスカ城」ヨハネス・リヒャルト・ツアー・メーゲデ
「ある世界の終わり」ヴォルフガング・ヒルデスハイマー
「アハスエルス」ハンス・ヘニー・ヤーン

IV 悪魔の発明
「恋人」カール・フォルメラー
「迷路の庭」ラインハルト・レタウ
「蘇生株式会社」ヴァルター・ラーテナウ
  
V 天国への階段
「死後一時間目」マックス・ブロート
「変貌」アレクサンダー・モーリッツ・フライ
「美神の館・完結編」フランツ・ブライ

VI 妖人奇人館
「さまよえる幽霊船上の夜会(抄)」フリッツ・フォン・ヘルツマノフスキ=オルランド
「人殺しのいない人殺し」ヘルベルト・ローゼンドルファー
「ドン・ファブリツィオは齢二十四にして」ペーター・マーギンター

 訳者が私家版の<ビブリオテカ・プヒプヒ>で刊行した作品もいくつか入っているようですね。これは怪奇幻想ファンとしてはマストアイテムでしょう。

 サキ『ウィリアムが来た時』は「「短編の名手」サキによる、本邦初訳ディストピア歴史IF群像劇!」とのこと。サキの紹介文にはよく引き合いに出されていた作品ですが、まさか邦訳が出るとは思いませんでした。

 ジャスパー・フォード『Early Riser』は、人間が年に数か月冬眠するようになった世界を舞台にしたSF作品だそうで、なかなか気になる作品です。

 キャサリン・M・ヴァレンテ『パリンプセスト』は「夢のなかで訪れることのできる町パリンプセストに魅せられた四人の男女。何度か夢で訪れるうちに彼らは次第に永住を願うようになる。幻想と夢が交錯する極上のファンタジー。」という作品。これも面白そうです。

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復讐の夢  レオ・ペルッツ『どこに転がっていくの、林檎ちゃん』
どこに転がっていくの、林檎ちゃん (ちくま文庫)
 レオ・ペルッツの長篇『どこに転がっていくの、林檎ちゃん』(垂野創一郎訳 ちくま文庫)は、復讐に燃える元捕虜が革命直後のロシアを駆け巡るという冒険小説です。
 他のペルッツ作品にあるような幻想性はないものの、違った意味で不思議な印象を受ける作品です。

 オーストリア陸軍少尉ゲオルク・ヴィトーリンは、ロシアの捕虜収容所から解放されウィーンに戻ってきます。かって収容所で司令官セリュコフから受けた屈辱を晴らすため、仲間とともにロシアに戻ることを誓ったヴィトーリンでしたが、仲間たちは帰還した途端に、一時の気の迷いとして計画から抜けていってしまいます。恋人や家族、有望な仕事を残してヴィトーリンはひとりロシアに向かいますが…。

 革命直後の内戦状態のロシアを舞台に、信念を持った男の復讐を描いた物語なのですが、主人公ヴィトーリンの執念は尋常ではありません。仇敵の行方がわからなくなっても諦めずにしつこく追っていくのはもちろん、そのために自分の命が危機にさらされようとお構いなしなのです。
 赤軍の兵士となって活動したり、日雇い労働者になったり、はたまたヒモになったり、捕虜にされることも度々。波瀾万丈な冒険が続くのですが、仇敵セリュコフの行方は杳として知れません。

 信念を持つ誇り高い男の物語というと聞こえはいいのですが、ヴィトーリンの行動はむしろ「狂気」に近いほどで、彼の無鉄砲な行動のせいで、周りの人間にもかなりの被害が及びます。捕らえられたり処刑されてしまう人間も出てくるのです。
 後半におけるヴィトーリンの行動は憑かれているといっていいほどで、その意味で非常に迫力に満ちています。彼の復讐は成就するのでしょうか?

 波乱万丈な冒険譚でありながら、実のところあまり爽快感はありません。主人公の行動原理が復讐のみに特化しており、それ以外のものを切り捨ててしまうからです。しかもその復讐がうまく運んでいくのかといえばそういうわけでもありません。
 後半、主人公は自身のそれまでの行動について振り返り自問することを余儀なくされます。そしてその結果は必ずしも良い結果ではないのです。しかしそれを否定せず受け入れる…という展開には、奇妙な明るさがあり余韻があります。

 全く違う内容の作品ではあるのですが、このペルッツ作品を読み終えて想起したのはホーソーンの短篇「デーヴィッド・スワン」でした。「デーヴィッド・スワン」は青年が眠っている間に、人生の幸福や不幸が通り過ぎていく…という物語です。
 ペルッツ作品では自身の通ってきた人生・体験が一時の夢であった…とでもいうような不思議な雰囲気があり、そのあたりがシニカルでありながらも、奇妙な明るさを感じるひとつの要因にもなっているように思います。
引き裂く川  ウイリアム・モリス『サンダリング・フラッド』
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 ウイリアム・モリスの長篇『サンダリング・フラッド』(中桐雅夫訳 月刊ペン社)は、大河の両岸で引き裂かれた少年少女の成長と冒険を描くファンタジー小説です。

 ウエザメルと呼ばれる農場で育った少年オズバーンは、幼少の頃より詩の才能と戦士としての才能を発揮していました。
 サンダリング・フラッド(引き裂く川)を挟んだ向こう岸に住む美しい少女エルフヒルドと出会ったオズバーンは彼女と相思相愛になりますが、川に阻まれ直接触れあうことはできません。
 ウエザメルを訪れた不思議な男スティールヘッドから魔剣ボードクリーヴァーを授かったオズバーンは近隣の戦いに参加し、その勇猛さで名を馳せます。やがてある戦いを経て帰還したオズバーンは、盗賊によって村が襲われエルフヒルドがさらわれたことを知ります。
 エルフヒルドを取り戻すため、オズバーンは名将ゴッドリック卿の配下になります。戦いを続けながら、エルフヒルドの行方を探すオズバーンでしたが、彼女の消息は依然として知れません…。

 1898年刊行のウィリアム・モリスの遺作であり、北欧文学に強い影響を受けた作品だとのことです。全編を通して主人公オズバーンの戦いが何度も描かれており、その戦闘描写も非常にリアル。盗賊による略奪の様子や、悲惨な人間の死も多く描かれます。
 おそらく超自然的な存在であり主人公を導く役をするスティールヘッドや、彼から授かった魔剣は魔法を帯びた存在なのですが、直接的な魔法の描写はほとんどありません。そもそも魔剣には使っていい時とそうでない時があり、無尽蔵に使えるわけではありません。
 最終的に戦いには勝利するものの、オズバーンも度々傷付き退却を余儀なくされます。仲間の兵士たちの戦死も描かれており、ファンタジー作品とはいいつつ、戦闘とその結果に関する部分はリアルに描かれていますね。

 序盤、いろいろなエピソードを絡めながら、オズバーンとエルフヒルドが愛情を育てていくという部分は非常に読み応えがあります。何より大河をはさんで愛情を育んでいく少年少女というのはイメージ的にも美しいです。
 中盤からは、オズバーンの戦いの描写が前面に出てくるのですが、小競り合いを含め戦闘描写がずっと続くので、読んでいてちょっと疲れてしまうこともあります。
 愛する少女を求めて転戦を繰り返すオズバーンの姿を描く後半は、ペシミスティックな空気がありながらも読み応えがあるだけに、さらわれてからのエルフヒルドを描くパートがかなり駆け足で終わってしまうのはちょっと残念です。

 中世風のロマンスだけに、登場人物たちの性格やキャラクターはそれほど深く描かれないのですが、主人公二人以外で強い印象を残すのは、オズバーンの良き腹心ともいうべき「大食漢スティーヴン」です。大食らいながら知恵者、温和で力もあるというキャラクターで物語に彩りを添えてくれます。

 結末部分は口述筆記がなされるなど、充分な推敲がとれていない作品らしく、作品の構成やつじつまが合わないところなども多少あります。特に主人公の協力者スティールヘッドについては、その来歴や正体などについてほとんど語られないため、消化不良の感もありますね。
 ただ、全体に力強い物語で、読んでいる間はささいな部分は気になりません。<ヒロイック・ファンタジー>の原型といえる作品で、今現在でも非常に面白く読める作品です。

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歪んだ家  マーク・Z・ダニエレブスキー『紙葉の家』
紙葉の家
 多重の語り、多彩なタイポグラフィ、混沌に満ちた物語…。マーク・Z・ダニエレブスキーの長篇『紙葉の家』(嶋田洋一訳 ソニーマガジンズ)は、造本を含めて重厚な印象を与える問題作であり、「幽霊屋敷」テーマのメタフィクショナルなホラー小説でもあります。

 ジョニー・トルーアントは、友人のアパートで孤独死した盲目の老人ザンパノの部屋で大量の原稿を発見し持ち帰ります。それは『ネイヴィッドソン記録』と題されたドキュメントでした。
 著名なフォト・ジャーナリストであるウィル・ネイヴィッドソンがある家について残した短編映像作品「ネイヴィッドソン記録」、それについてザンパノが注釈や資料をつけたものが『ネイヴィッドソン記録』なのです。
 メインとなるのは、ネイヴィッドソンが移り住んだ奇怪な家についての物語です。そこは突然それまでなかったドアや部屋が出現するなど、次々と姿かたちを変えゆく家だったのです。ある日出現した廊下はだんだんと長くなり始め、やがては巨大な地下迷宮のようなものまでもが出現します。
 ネイヴィッドソンは弟のトム、友人のレストンとともに廊下の奥を探索しますが、そのあまりの広さに探索を諦め、探検のプロを招聘することになります。招かれた探険家ホロウェイは二人の仲間とともに探索を開始しますが、予定の期日を過ぎても彼らは帰ってきません…。

 だんだんと拡がり姿を変えていく奇怪な家の内部を探索してゆくという魅力的な物語なのですが、素直にその物語は進んでくれません。ザンパノによる一見関係のないような注や説明、さらにそのザンパノの原稿にジョニー・トルーアントが編集を加えているため、物語が何度も中断されるのです。
 ジョニー・トルーアントに至っては、注において自伝的な物語を語り始め、それが数ページにわたって続くなど、非常にユニークな構成になっています。その混沌とした物語に合わせるかのように、本そのもののレイアウトも非常に破天荒。
 小さな注が何ページにもわたってページを覆ってしまったり、一行だけのページになったり、文字がページ内を躍ったり斜めになったりのタイポグラフィも多用されていきます。

 本筋の物語の他に「ネイヴィッドソン記録」に関する世間の反応や評論、ネイヴィッドソン夫婦の過去や生育事情に関する文章、著名人のインタビューなど、様々な文章が入り乱れていきます。
 「著名人」の中にはスティーヴン・キングやアン・ライス、キャサリン・ダンなどといった作家たちも登場するのは著者の遊び心といっていいのでしょうか。
 注を含め全ての文章に目を通すのは難しく、思わず読み飛ばしてしまう部分も多数あるのですが、解説によれば、読み飛ばしも著者の意図するところらしいのです。そもそも全ての文章がちゃんとつながっているわけでもなく、最後まではっきりとした事実はわからないのです。

 そもそもザンパノやジョニー・トルーアントの語りに非常に怪しいものがあり、その意味で彼らは「信頼できない語り手」なのです。「ネイヴィッドソン記録」の映像が本当にあったのかどうか、すべてはザンパノの捏造なのではないかという解釈も可能なようになっています。

 何と言っても、ネイヴィッドソンらによる迷宮探索部分が非常に面白いです。入り乱れた文書にもかかわらず、この中心となる物語の魅力が、分厚い本を読み進む原動力になりますね。
 「迷宮」に関しては、疑似科学的であったりオカルト的であったりと、一応の説明がされますが、結局真実はわかりません。それだけに不気味さと得体の知れない魅力があります。

 この作品、造本・レイアウトを含めた総合的な「本」としての完成度が高いです。ごく一部の文字が色を変えて印刷されているなど、印刷にも凝っています。とにかく、ユニークな読書体験のできる本であるのは間違いのないところでしょう。
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大自然と妖精  ユリヨ・コッコ『羽根をなくした妖精』
羽根をなくした妖精 (必読系!ヤングアダルト)
 フィンランドの作家ユリヨ・コッコ(1903-1977)の長篇小説『羽根をなくした妖精』(渡部翠訳 晶文社)は、戦乱に明け暮れる人間世界と、自然と共に生きる妖精たちの世界が対比的に描かれた幻想的なファンタジー小説です。

 森のトロールであるペシは、虹から降りてきたという美しい妖精イルージアと友人になります。しかしイルージアの父親イルージョンに嫉妬するオニグモによって羽根を切られてしまったイルージアは、家に帰れなくなってしまいます。二人は力を合わせて生き抜こうと考えますが…。

 羽根をなくしてしまった可憐な妖精イルージアと彼女を守ろうとするトロール、ペシの二人を主人公とする物語なのですが、彼ら二人の動向が直接描かれる部分の合間に、動物や植物など自然界を描いた部分、そして戦乱の世の中となっている人間世界の描写がはさまれていきます。

 この作品で一番精彩があるのは、自然の動物や植物たちが描かれる部分です。動物たちは擬人化されており、人間のように行動したり話したりします。しかし彼らが生きる自然界自体は非常にハードに描かれているのが特徴で、生き物たちの死がはっきり描かれるなど、甘さ一辺倒なおとぎ話ではないところが面白いところです。
 特に印象に残るのは、カッコーに託卵されてしまったシロビタイジョウビタキの夫婦を描くエピソードです。何も知らないイルージアに、不幸な結末に終わるのがわかりながらも手をださないようにと話すペシの態度には、自然界の掟を破るべきでないとする作者の思想が現れているようです。

 もちろんペシとイルージアの生活にも困難は訪れます。羽根を切られてしまったことを皮切りに、外敵に襲われたり怪我に倒れたりと、いろいろな困難を二人は切り抜けていきます。しかしそうした中にも、自然の美しさや生きる喜びといったきらめくような瞬間が時折訪れるのが、この作品の良さでしょうか。
 種族を超えた愛の結晶が生まれるというクライマックスのビジョンには、ある種の感動がありますね。

 この作品の初版は1944年ということで、まさにソ連との戦乱のさなかに描かれており、作中には戦争の描写や人の死も描かれています。そんな時代に描かれていてもペシミズムに陥ることなく、自然と共に生きる喜びを描いているのが魅力といえるでしょうか。。

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深夜の祝祭  トンマーゾ・ランドルフィ『月ノ石』
月ノ石 (Modern & Classicシリーズ)
 イタリアの作家トンマーゾ・ランドルフィ(1908-1979)の長篇『月ノ石』(中山エツコ訳 河出書房新社)は、怪物や幽霊めいたものたちが跳梁しながらも、どこか愉悦感の感じられる不思議な作品です。

 大学生ジョヴァンカルロは、避暑のため叔父一家が住む村を訪れます。そこで近くに住むという美しい娘グルーと出会いますが、グルーの足が山羊のものになっているのに気づき驚きます。叔父たちに訴えても、彼らにはその足が見えないようなのです。
 ジョヴァンカルロはやがてグルーと恋仲になりますが、かって見た山羊の足はそれから目にすることはできません。ある夜グルーに誘われたジョヴァンカルロは、山の中で不思議な体験をすることになりますが…。

 簡単に言うと、青年のイニシエーションを魔術的・幻想的なタッチで描いた作品、といっていいでしょうか。何やら秘密を持っているらしい美女グルーに誘われて、主人公ジョヴァンカルロは様々な不思議なものを目にすることになるのです。
 「山羊の足」というモチーフからも想像されるように、グルーが案内するのは異教的であり、魔女のサバトのような会合です。亡霊や怪物などが現れ主人公を翻弄するのですが、不思議にそこには恐怖感や罪の意識などは少なく、むしろ恍惚とした悦楽、そして祝祭感さえあるのです。

 その「祝祭」と連動するように大自然の風景が前面に現れてくるのも面白いですね。やがて青年は自然の「象徴」と出会うことにもなります。
 大自然を背景にクライマックスで展開される情景は、オカルティックでありながらも色彩豊か。どこかブラックウッドが描く情景にも似ていますね。

 イタリアの作家ということもあるのでしょうが、例えばイギリスやドイツの作家が描く似たテーマの作品に比べても、かなり異質な印象を受ける作品です。言い方はおかしいかもしれませんが、こうした魔術的・呪術的な題材を描くにあたって「後ろめたさ」みたいなものがほとんど感じられないのですよね。
 その意味ですごく「明るい幻想小説」で、妙な高揚感を与えてくれるという、面白い作品です。

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不可視の山  ジョーン・リンジー『ピクニック・アット・ハンギングロック』
ピクニック・アット・ハンギングロック (創元推理文庫)
 オーストラリアの作家、ジョーン・リンジー(1896-1984)の幻想的な長編小説『ピクニック・アット・ハンギングロック』(井上里訳 創元推理文庫)は、少女たちの失踪事件を描いた、つかみどころのない不思議な作品です。

 1900年、オーストラリアのバレンタインデー、アップルヤード女学院の女子生徒たちは、ハンギングロックのふもとのピクニック場にピクニックに出かけます。
 生徒たちの中でもひときわ目立つ少女ミランダ、アーマ、マリオン、そしてイーディスの4人は岩山をよく見ようと皆から離れて山を登りますが、イーディス以外の3人は何の形跡も残さずに行方不明になってしまいます。
 時を同じくして、教師のマクロウも失踪していたことがわかり、警察は必死の捜索を行いますが、彼女らの行方はわかりません。
 一方、ピクニックの際に同じ場所に居合わせていた貴族の息子マイケルは、目撃したミランダの美しさが忘れられず、独自に捜索をしようと考えます。友人のアルバートと共にハンギングロックに向かうマイケルでしたが…。

 神秘的な失踪事件がメインテーマになっている作品で、その失踪の謎を追いかけていく物語かと思いきや、失踪事件に関しては作中の登場人物たちが必死で捜索を行うものの、ほとんど何もわかりません。
 むしろその事件によって、学院の教師や生徒たちなど、周囲に及ぼす影響や彼らの行動が描かれていくという意味で「群像劇」といってもいいような作品になっています。事件が超常的・幻想的な色彩を帯びているだけに、周りの人間たちの周囲も不穏な雰囲気につつまれていきます。
 残された生徒たちがヒステリーのような状態になったり、学院の将来を心配する校長の心理が描かれたりと、全体にサスペンスが横溢しており、劇的な展開はあまりないものの飽かせずに読ませます。

 様々な登場人物が描かれますが、特に中心的に描かれるのが、貴族の青年マイケルとその友人アルバート。
 直接的なつながりはないものの、失踪直前にふと見かけたミランダの美しさが忘れられないマイケルは、独断で捜索を開始します。世間知らずの友人を心配したアルバートは彼につきあうことになりますが、マイケルの行動が事件の展開を進ませる要因にもなるのです。

 ジャンル分類不能といっていい独自の作風なのですが、非常にユニークな魅力のある作品です。解説によると、編集者の提案で最終章が削除されて刊行されたとのことです。それによって事件の不可解性が増していて、奥行きのある作品になっていますね。
 作中で起こる様々な事件の原因や関連性が全く説明されないため、非常に不条理な感覚が強くなっています。超常現象を肯定も否定もしないため、厳密には怪奇幻想小説とは言えないのですが、この不穏な読後感からは、この作品を怪奇幻想小説といってもよいのではないでしょうか。

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夢幻の冒険  ウィリアム・モリス『世界のかなたの森』
世界のかなたの森 (ウィリアム・モリス・コレクション)
 ウィリアム・モリスの長篇『世界のかなたの森』(小野二郎訳 晶文社)は、モダン・ファンタジーの父モリスによる、純度の高いファンタジー小説です。

 不実な妻との結婚生活に疲れた若者ウォルターは、未知の冒険を求めて航海の旅に出ます。ウォルターは旅立つ直前に見かけた三人組に目を引かれます。彼らは、絶世の美女である貴婦人、清純な侍女、邪悪そうな小人の奇妙な三人組でした。
 航海中、父の急死と妻の実家が攻撃を繰り返していることを知ったウォルターは急遽引き返そうとしますが、その直後に発見した「裂け目」から不思議な森に足を踏み入れることになります。そこはかって出会った三人組の一人である貴婦人が支配する場所でした。
 侍女と愛を誓いあったウォルターは彼女を助け出すために、貴婦人に魅了されたふりをしますが…。

 主人公の青年ウォルターの冒険の旅を描くファンタジー小説です。いくつかの冒険が描かれるのですが、メインとなるのは貴婦人<女王>の支配する森での冒険です。<侍女>と愛を誓い合ったウォルターは彼女を助けるために<女王>に惹かれたふりをしますが、<女王>の美貌には少なからず魅了されてしまいます。
 <女王>の先の恋人である<王の子>との対立、そして暗躍する邪悪な<小人>の妨害をはねのけて、ウォルターは<侍女>を救い出すことができるのか?

 ウォルター以外の主要な登場人物が代名詞で表されるのが面白いです。それもあって全体に寓意的な雰囲気を帯びた作品になっています。ウォルターにとっての別世界である<女王>の支配する場所以前、航海が始まる前からしてすでに夢幻的な雰囲気が漂っており、まさに夢見心地になるような作品です。

 ところどころで困難は発生するものの、基本的にはウォルターは難なく危機を乗り越えて進んでいきます。その意味で「ハラハラドキドキ」感はあまりないのですが、その代わり読んでいて何ともいえない「心地よさ」があります。
 おそらくそれは作者モリスの意図するところで、「小説」というよりは「伝説」に近い感じの物語なのですよね。実際、登場人物たちもそれほど複雑な性格は与えられておらず、それぞれのエピソードはわりとシンプルです。
 その中でいちばん「複雑」な人物として描かれているのが<女王>で、悪役として登場しながらも愛情深い一途な面があったりと、多面的な描かれ方がされています。

 筋立てはシンプルながら力強い推進力があり、今読んでもその瑞々しさは失われていません。現代ファンタジー小説の原型的な作品という意味でも、名作といっていい作品ではないでしょうか。

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怪奇幻想読書倶楽部 第21回読書会 開催しました
言葉人形 (ジェフリー・フォード短篇傑作選) (海外文学セレクション)
 4月28日の日曜日、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第21回読書会」を開催しました。

 今回のテーマは第一部が「課題図書 ジェフリー・フォード『言葉人形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』(谷垣暁美訳 東京創元社)」、第二部が「私の積読リスト」でした。

 第一部では、現代アメリカの幻想作家ジェフリー・フォードの短篇集『言葉人形』を取り上げました。収録作全てが傑作といってもいい作品集で、それぞれの作品についての意見も活発に出たように思います。
 担当編集者のFさんにご参加いただけたこともあり、編集方針やそれぞれの作品についての背景などについても参考になるご意見をいただきました。

 第二部のテーマは「私の積読リスト」。積読になっている本のタイトルを参加者それぞれに出してもらい、それについて話していこうという企画です。さすがに全てを挙げるのは無理なのでピックアップしてもらったのですが、ちょっとしたテーマを添えて考えていただいたものなど、バラエティ豊かなリストが並び、非常に楽しい時間になりました。

 それでは、当日の会の詳細について、ご報告したいと思います。

 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。

 それでは、以下話題になったトピックの一部を紹介していきます。


■第一部 ジェフリー・フォード『言葉人形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』(谷垣暁美訳 東京創元社)


・収録作の配列が工夫されていて非常に読みやすかった。配列のモデルは中村融編『街角の書店』に倣ってグラデーション調に並べられている。タニス・リー『悪魔の薔薇』なども同じような配列になっているらしい。

・創造や記憶といったテーマの作品が多い。想像から何かが生まれる…というのはフォードの本質的なテーマかもしれない。

・全体的に構造が複雑なものが多い。

・フォード作品には、機能していない伏線が多く現れるものもあるが、計算ずくでやっているようだ。

・幻想小説は、綺麗に「円環」を描かず多少の破綻があった方が面白い

・短篇集全体が上手すぎてちょっと引いてしまう…という意見も。

・フォードの未訳短篇では、バッドエンドやブラックな味わいのものも多いとのこと。ドラッグや薬物をテーマにしたものも。

・日本作品でドラッグがあまり出てこないのは文化的な特徴ではないか。

・フォード作品は長篇を含め、含まれる幻想の量がコントロールされているように感じるし、そのコントロール力が絶妙だと思う。


●「創造」について

・父親との関係性がクローズアップされている?

・結末で父親が創造物のふりをしたのではないかという描写があるが、創造物は本当にいたと考えていいのだろうか? どちらの解釈もあり。女の子が目撃するシーンがあるので、実在は確かなのでは。

・創造物を想像してしまった少年の責任を描いている?

・キリスト教的な作品? 父親が神を信じていない…というのも意味深。

・創造物に使われている「息」は父親のものなので、厳密に言うと創造主は父親では。

・ボルヘス的な要素を感じる。


●「ファンタジー作家の助手」について

・作家のイマジネーションの世界が現実化する。

・作家が描いている世界観はB級なのが面白い。

・作家アシュモリアンはフォード自身のイメージが強い?

・フォード自身は肉体労働をした経歴も創作に励んだ時期もあり、その両方の経歴が作家とヒロインに投影されている。

・創作をする人から見て作家とヒロインどちらに感情移入する? どちらにも感情移入してしまう。創造されたキャラクターたちに感情移入するという人も。

・創られた世界が受け継がれる…というテーマが魅力的。これが本を読んだり物語を読む、ということではないだろうか。

・フォード自身もキャリアの初期に正統派のファンタジーを描いていたりする。そのあたりもこの作品に影響している。

・作中に登場する物語世界はB級なのだが、語り手となる女性の語り口が上品なので、結果的にバランスの良い作品になっていると思う。

・語り手がちょっと小生意気な感じのするところも面白い。

・物語自体が語り手の女の子の語った話、とすると「信頼できない語り手」ということにも。


●「〈熱帯〉の一夜」について

・酒場で聞くほら話というか、ダンセイニやクラークの伝統に連なる作品。

・所有したまま死ぬと地獄に落ちるチェスセットというアイテムは、スティーヴンソン「びんの小鬼」を思い出させる。手放す際も奪われないといけない…という設定は面白い。

・チェスセットの前の所有者の老人が不気味。突然立ち上がって襲ってくるところは、映画『ドント・ブリーズ』を思い出した。

・所有者の老人に襲われるシーンはそこだけトーンが変わる。スティーヴン・キングっぽさを感じる。

・ボビー・レニンが不良少年だといいながら、語りがインテリっぽいことの真相が後でわかるのも面白い。

・老人が車椅子に乗っているのは、チェスセットを奪わせるため?

・チェスセットの呪いのためにボビー・レニンの体調が悪くなっている? 老人が突然元気になるのも呪いが解除されたため、という解釈も可能。

・作中の店に登場する絵の意味合いが最初と最後で変わるのが興味深い。『バートン・フィンク』を思い出した。

・チェスは、西洋の小説作品ではよく使われるような気がする。ダンセイニ作品でもよく登場する。小道具として使いやすい? 碁や将棋ではちょっと格好がつかないような気も。

・序盤、少年時代の記憶を語る部分と、チェスについて語られる部分のトーンの差が面白い。


●「光の巨匠」について

・序盤、ラーチクロフト登場のシーンが幻想的で印象が強い。

・作中に登場する複数の世界のつながりが複雑で、読んでいる内に混乱してくる。要約が難しい。

・ミステリ的な解釈も可能。その場合、巨匠が青年を罠にはめたとも取れる。

・ボルヘスやジーン・ウルフとも似た印象を受ける作品。

・登場する光の疑似科学理論が興味深い。独自の理論、新しい科学が作られている。

・額に穴を開けるのは、アステカのイメージ? 宝石をはめ込むのはマイケル・ムアコックの影響かも。

・ジョイス・キャロル・オーツに似たテーマの作品があった。


●「湖底の下で」について

・表面上ボーイ・ミーツ・ガール的な装いだが、複雑な構成を持つ作品。

・語り手は誰なのか? フォード自身? 作者が考えながら書いているという体裁の面白い語り口。エッシャー的といってもいいかも。

・綺麗にまとまっているが、ミステリ的な閉じ方とは異なる。

・フォードにミステリ的な作品はある? 純ミステリというか幻想が介在しない作品はほとんどない。


●「私の分身の分身は私の分身ではありません」について

・説明抜きで分身が登場するというユーモラスな作品。

・主人公の奥さんの名前がフォード自身の奥さんの名前と同じなのは意味深。

・主人公として「フォード」が出てくることが多いので、特に説明がない場合、語り手はフォード自身として読んでしまう。

・作品のわけの分からなさに、レイ・ヴクサヴィッチと同じような味わいを感じる。

・筒井康隆風のスラップスティック感が強い。短篇集の中でこれだけユーモア色が強い気がする。

・分身が分身であると自覚しているのが面白い。

・ほかの分身小説と違って、自分が複数いるにもかかわらずアイデンティティーの混乱がないところがユニーク。

・分身たちがシェアハウスをしていて、あまり裕福な生活をしていないのも面白い。

・分身たちが生まれる過程はどうなっているのだろうか? 主人公はたまたま見つけたというような描写があるが、場合によっては一生分身を知らずに済む場合もあり?

・あまり整合性を考えずに楽しむ作品では。


●「言葉人形」について

・民俗学的・人類学的なモチーフを扱った作品。諸星大二郎っぽさを感じる。

・想像から現実世界へと影響が広がってゆく作品。

・人形遊びやイマジナリー・フレンドなどがインスピレーション元?

・登場する「刈り取り人」は死神のイメージ?

・人形といっても、実在の人形ではなくイメージの人形というのが面白い。実際、博物館に展示されているのも資料ばかりである。

・構造としては「ファンタジー作家の助手」と似ていると思う。

・言葉を介して「言葉人形」は人の中につながってゆく? 主人公にその物語を伝えたことによって「言葉人形」は生き延びるのだろうか。

・この作品集内では一番ホラー味を感じた。

・イドが顕在化して人を襲う、というテーマのユニークなバリエーション作品では。

・トウモロコシ畑のイメージが怖い。ブラッドベリやキングの作品など。

・「言葉人形」のネーミングが独特で面白い。タイトルで思い浮かべるのとは違うユニークな話だった。


●「理性の夢」について

・独自の科学理論が面白い。現実の科学にも近い書き方がされている。

・舞台が長篇『白い果実』と同一らしい。

・古代ギリシャの哲学者のエピソードを思い出させる。自分の説に囚われすぎている科学者像を描いている。マッド・サイエンティストもの?

・ネーミングなど、ちょっとユーモラスなところもある。フォードは下ネタに近いモチーフを使ったりすることがある。


●「夢見る風」について

・スラップスティックでありながら、ちょっと物悲しい作品。

・ファンタジーの必要性を認識させてくれる物語ではないか。

・「夢見る風」は「娯楽」と読み替えてもいいのでは。楽しみがないと人は生きていけない…という物語。

・民間伝承が生まれる過程を描いた作品でもある? 災害が起こった後の理由付けなどで物語が生まれるような。


●「珊瑚の心臓」について

・正統派のヒロイック・ファンタジー作品。

・未訳だが続編がいくつかある。どれもヒロインが出てきて、ちょっとエロティックな要素があるらしい。C・L・ムーア風?

・想像で創られた従者の存在が面白い。スタンド風?

・カタカナ言葉ではなく漢字の「珊瑚」のイメージが美しい。


●「マンティコアの魔法」について

・マンティコアの全てが「永遠」を志向するという魅力的な怪物として描かれている。

・マンティコアを媒介にして別の世界に行ける。マンティコアを想像の世界と置き換えてもいいような感じ。

・フォード作品のマンティコアの色は赤だが、伝説上のマンティコアの色は異なる?

・永遠の場所が「夏」のイメージなのが美しい。


●「巨人国」について

・いくつもの世界が登場するが、時間的にも異なっているなど、非常に複雑な構成になっている。

・世界の関わり方のイメージとしてはレイヤー(層)ではなく、それぞれの円の世界が水平に重なっているイメージ。

・作中でも、普通に巨人が存在する世界と存在しない世界が混じっているようだ。

・主人公の女性が非常にタフに描かれている。

・森見登美彦『四畳半神話大系』と印象が似ている。

・読んでいて世界同士の関係がわからなくなってくる。イメージ的には、ヒエロニムス・ボッシュの絵画作品のように、様々な時間や出来事が同一画面に描かれているイメージが近いのでは。

・話の構造的に長篇『緑のヴェール』に近い。


●「レパラータ宮殿にて」について

・短篇集の最後にふさわしい味わいの作品だと思う。

・王様が任命する役職名がすごく魅力的。

・蛾は喪失のメタファー? 非常に寓意性の強い作品。

・作品の始まりの時点で王妃がなくなっており、喪失の状態から始まるというところが魅力的。

・王国を再建する物語にならないところも、非常に成熟した物語の書き方だと思う。

・オポッサム料理が出てくるのが興味深い。

・全体にやさしさを感じる物語。フィリップ・ド・ブロカ監督の映画『まぼろしの市街戦』に似た印象を受ける。


■第二部「私の積読リスト」

 非常に多くの話題があり、それを全部挙げるのは難しいので、提出いただいたリストを持って代えさせてもらいたいと思います。


・《ウッドハウス・コレクション》(国書刊行会 全17冊)(<ジーヴスもの>と《ウッドハウス・スペシャル》含む。)
・《P・G・ウッドハウス選集》(文藝春秋 全4冊)
・デヴェンドラ・P・ヴァーマ『ゴシックの炎 イギリスにおけるゴシック小説の歴史―その起源、開花、崩壊と影響の残滓』(松柏社)
・ドナルド・A. リンジ『アメリカ・ゴシック小説―19世紀小説における想像力と理性』(松柏社)
・亀井伸治『ドイツのゴシック小説』(彩流社)
・C・S・ルイス『ナルニア国物語』(光文社古典新訳文庫 全7冊)
・マーヴィン・ピーク《ゴーメンガースト》4部作(創元推理文庫)
・キャサリン・M・ヴァレンテ《孤児の物語》(東京創元社 全2冊)
・横溝正史『横溝正史ミステリ短篇コレクション』(柏書房 全6巻)
・横溝正史『由利・三津木探偵小説集成』(柏書房 全4巻)
・マーク・Z. ダニエレブスキー『紙葉の家』(ソニーマガジンズ)
・J・S・レ・ファニュ『墓地に建つ館』(河出書房新社)
・アラスター・グレイ『ラナーク 四巻からなる伝記』(国書刊行会)
・ヴァーノン・リー『教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集』(国書刊行会)
・『マルセル・シュオッブ全集』(国書刊行会)
・メアリ・エリザベス・ブラッドン『レイディ・オードリーの秘密』(近代文藝社)
・ヘンリー・ジェイムズ『聖なる泉』(国書刊行会)
・M・H・ニコルソン『月世界への旅』(国書刊行会)
・武田雅哉『中国飛翔文学誌 空を飛びたかった綺態な人たちにまつわる十五の夜噺』(人文書院)



●読もう読もうと思いつつ、なんとなく読みにくそうで手が出ないもの
『通話』 ボラーニョ(白水社)
『アウステルリッツ』ゼーバルト(白水社)

●ぶ厚すぎて持ち歩けないし、抵抗感から手が出ないもの
『シュオッブ全集』シュオッブ(国書刊行会)
『人形』ボレスワフ・プルス(未知谷)

●ややぶ厚くてなんとなく手が出ないもの
『ある夢想者の肖像』ミルハウザー(白水社)
『ゼロヴィル』エリクソン((白水社)
『プロット・アゲンスト・アメリカ』フィリップ・ロス(集英社)

●大切すぎてもったいなくて手が出せないもの
『須永朝彦小説全集』須永朝彦(国書刊行会)

●何十年も積みに積み続けて、今更手が出ない上にどこにあるかわからなくなったもの
『未成年』ドストエフスキー(多分新潮社)



●いつ読むのか 全集/叢書/シリーズもの/鈍器本の類
〈世界文学全集〉池澤夏樹個人編集 河出書房新社
〈新編バベルの図書館〉 ホルヘ・ルイス・ボルヘス編 国書刊行会
『マルセル・シュオッブ全集』マルセル・シュオッブ 国書刊行会
『ナボコフ全短篇』ウラジーミル・ナボコフ 作品社
『山尾悠子作品集成』山尾悠子 国書刊行会
『隅の老人 完全版』バロネス・オルツィ 平山雄一 作品社
〈未来の文学〉 19冊刊行中、7冊既読 国書刊行会
〈ジャック・ヴァンス・トレジャリー〉全3巻 ジャック・ヴァンス 国書刊行会
〈スタニスワフ・レム・コレクション〉全6巻 スタニスワフ・レム 国書刊行会
〈ドーキー・アーカイヴ〉国書刊行会
〈ナイトランド叢書〉書苑新社
〈奇想コレクション〉河出書房新社
〈天冥の標〉1~8 小川一水 ハヤカワ文庫JA
〈永遠の戦士エルリック〉ほか マイケル・ムアコック ハヤカワ文庫SF
〈ゴーメンガースト〉マーヴィン・ピーク 浅羽莢子 創元推理文庫
〈ベスト・ストーリーズ〉全3巻 若島正編 早川書房
〈J・G・バラード短編全集〉 全5巻 J・G・バラード/柳下毅一郎(監修) 東京創元
〈日本SF短篇50〉全5巻 日本SF作家クラブ編 ハヤカワ文庫JA
『ナイト&ウィザード』全4巻 ジーン・ウルフ 安野玲 国書刊行会
『怪奇と幻想』全3巻 角川文庫
『ラナーク』アラスター・グレイ 森慎一郎 国書刊行会
『人形』ボレスワフ・プルス 関口時正 未知谷
『2666』ロベルト・ボラーニョ 野谷文昭/内田兆史/久野量一 白水社
『火山の下』マルカム・ラウリー 斎藤兆史監訳/渡辺暁/山崎暁子共訳 白水社
『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ─全訳・ポリフィルス狂恋夢』フランチェスコ コロンナ 大橋喜之 八坂書房
『ワルプルギスの夜:マイリンク幻想小説集』グスタフ・マイリンク 垂野創一郎 国書刊行会
『チボの狂宴』マリオ・バルガス=リョサ 八重樫克彦/八重樫由貴子 作品社
『ロデリック』ジョン・スラデック 柳下毅一郎 河出書房新社
クリングゾールをさがして』ホルヘ・ボルピ 安藤哲行 河出書房新社

●積みっぱなしの海外文学
『黄色い雨』フリオ・リャマサーレス 木村榮一 河出文庫
『ある島の可能性』ミシェル・ウエルベック 角川書店
『ストーナー』ジョン・ウィリアムズ 東江一紀 作品社
『みにくい白鳥』アルカージイ・ストルガツキイ/ボリス・ストルガツキイ 中沢敦夫 群像社
『土星の環』W・G・ゼーバルト 白水社
『ミステリウム』エリック・マコーマック 増田まもる 国書刊行会
『リトル、ビッグ』1・2 ジョン・クロウリー 鈴木克昌 国書刊行会
『シャムロック・ティー』キアラン・カーソン 栩木伸明 東京創元社
『ユニヴァーサル野球協会』ロバート・クーヴァー 越川芳明 白水Uブックス
『青い脂』ウラジーミル・ソローキン 望月哲男/松下隆志 河出書房新社
『最後のユニコーン』完全版 ピーター・S・ビーグル 金原瑞人 学研
『囚人のジレンマ』リチャード・パワーズ みすず書房
『完全な真空』スタニスワフ・レム 国書刊行会



●下記リストにて、読んでみたものの、なかなか読み進めずというものや、短篇集を数編しか読んでいないなどで中途となっているものには△印をつけてます。

<近いうちに読むつもりの本のリスト>
「黄金時代」ミハル・アイヴァス
「不気味な物語」ステファン・グラビンスキ
「レディ・オードリーの秘密」メアリ・エリザベス・ブラッドン
「肺都」エドワード・ケアリー
「ホフマン博士の地獄の欲望装置」アンジェラ・カーター
「凍」トーマス・ベルンハルト
「蜂工場」イアン・バンクス

<忘れつつあった本のリスト>
「もうひとつの街」ミハル・アイヴァス
「あの薔薇をみてよ」「幸せの秋の野原」エリザベス・ボーエン
「バン、バン!はい死んだ」ミュリエル・スパーク
「年を歴た鰐の話」レオポール・ショヴォ-
「遠い女」ラテンアメリカ短篇集
「カオス・シチリア物語」ピランデッロ短篇集△
「短篇で読むシチリア」
「悪魔の愉しみ」アルフォンス・アレー△
「白い人びと」フランシス・バーネット△
「海の上の少女」シュペルヴィエル△

<割と楽に読めそうだが、なかなか手に取らない本のリスト>
「ランポール弁護に立つ」ジョン・モーティーマー△
「どんがらがん」アヴラム・デイヴィッドスン△
「ページをめくれば」ゼナ・ヘンダースン△
「夜更けのエントロピー」ダン・シモンズ
「ふたりジャネット」テリー・ビッスン
「願い星、叶い星」アルフレッド・ベスター
「元気なぼくらの元気なおもちゃ」ウィル・セルフ
「最後のウィネベーゴ」コニー・ウィリス
「失われた探検隊」パトリック・マグラア△
「悪魔の薔薇」タニス・リー
「蒸気駆動の少年」ジョン・スラデック△
「ウィジェットとワジェットとボフ」シオドア・スタージョン
「ブラックジュース」マーゴ・ラナガン
「TAP」グレッグ・イーガン
「洋梨形の男」ジョージR・Rマーティン
「跳躍者の時空」フリッツ・ライバー
「平ら山を越えて」テリー・ビッスン
「たんぽぽ娘」ロバートFヤング

<引き続き寝かせることになりそうな本のリスト>
「マルセル・シュオッブ全集」
「独逸怪奇小説集成」前川道介訳
「怪奇・幻想・綺想文学集」種村奇季弘翻訳集成
「英国怪談珠玉集」南條竹則編訳
「教皇ヒュアキントス」ヴァーノン・リー幻想小説集
「ワルプルギスの夜」マイリンク幻想小説集
「夢のウラド」F・マクラウド/W・シャープ幻想小説集

<完全に存在を忘れていた本のリスト>
「キプリング インド傑作集」
「六月半ばの真昼時」カシュニッツ短篇集
「来るべき種族」E・ブルワー・リットン
「石蹴り遊び」コルタサル△
「四十日」ジム・クレイス
「はまむぎ」レーモン・クノー△
「夜のみだらな鳥」ホセ・ドノソ△
「別荘」ホセ・ドノソ△
「フリアとシナリオライター」マリp・バルガス・リョサ△
「このページを読むものに永遠の呪いあれ」マヌエル・プイグ△
「世界終末戦争」マリオ・バルガス・リョサ
「チボの狂宴」マリオ・バルガス・リョサ
「野生の探偵たち」(上・下)ロベルト・ボラーニョ△ 
「シネロマン」ロジェ・グルニエ
「アウステルリッツ」W・Gゼーバルト
「春は八月に来た」セッセ・コイヴィスト
「シティ」アレッサンドロ・バリッコ
「卑しい肉体」イーヴリン・ウォー
「ヴィクトリア朝の寝椅子」マーガニータ・ラスキ
「フォーチュン氏の楽園」シルヴィア・タウンゼンド・ウォーナー
「ズリイカ・ドブソン」マックス・ビアホーム
「孤独の部屋」パトリック・ハミルトン
「不浄の血」アイザック・バシェビス・シンガー△
「パウリーナの思い出に」アドルフォ・ビオイ=カサーレス
「あなたまかせのお話」レーモン・クノー
「すべての終わりのはじまり」キャロル・エムシュウィラー

<興味はあるものの全く捗っていない本のリスト>
「ゴシック短編小説集」クリス・ボルディック選
「城と眩暈 ゴシックを読む」
「悪魔の骰子」ゴシック短篇集 ド・クィンシー 他△
「米国ゴシック作品集」J・メリル 他△
「イタリアの惨劇」A・ラドクリフ△
「オトラントの城」H・ウォルポール
「ザノーニ」①② E・ブルワー=リットン
「乙女たちの地獄」H・メルヴィル
「大理石の牧神」N・ホーソーン
「イギリスの老男爵」C・リーヴ
「もうひとつの肌」J・ホークス
「ケイレブ・ウィリアムズ」W・ゴドウィン
「悪の誘惑」J・ホッグ△
「プラハの妖術師」F・M・クロフォード
「聖なる泉」H・ジェイムズ
「夜の森」D・バーンズ
「エドガー・ハントリー」C・Bブラウン

<長期冬眠中本のリスト>
「悪魔の恋」J・カゾット
「マンク」(上・下)M・Gルイス△
「ウィーランド」C・Bブラウン
「エジプトのイサベラ」A・フォン・アルニム
「放浪者メルモス」(上・下)C・Rマチューリン
「セラフィタ」バルザック
「ミイラ物語」T・ゴーチェ
「魔性の女たち」J・バルベ‐・ドールヴィイ
「魔術師」W・Sモーム
「魔女の箒」W・デ・ラ・メア
「悪魔の陽の下に」G・ベルナノス
「詩人と狂人達」G・K チェスタトン
「現代ドイツ幻想短篇集」G・マイリンク他△
「万霊節の夜」C・ウィリアムズ
「創造者」J・L ボルヘス
「ペルシーレスとシヒスムンダの苦難」(上・下)セルバンテス
「招霊妖術師」F・シラー
「侏儒ペーター」C・Hシュピース
「サラゴサ手稿」J・ポトツキ
「カシオペアのプサイ」C・Iドフォントネー
「シャンパヴェール」P・ボレル
「ファンタステス」G・マクドナルド
「ワイルダーの手」(上・下)レ・ファニュ
「神秘の薔薇」W・Bイェイツ
「小悪魔」A・Mレミーゾフ
「アカシア年代記より」R・シュナイター
「アルラウネ」(上・下)エーヴェルス
「アルクトウルスへの旅」(上・下)D・リンゼイ
「夢想の秘密」J・Bキャベル
「秘密の武器」コルタサル△
「東方の旅」(上・下)G/ド・ネルヴァル
「不思議な物語」(上・下)E・ブルワー=リットン
「十九世紀フランス幻想短篇集」J・ロラン 他△
「ロシア神秘小説集」A・Kトルストイ△
「英国ロマン派幻想集」E・ダーウィン 他△
「ヘンリー・ブロッケン」W・デ・ラ・メア
「第三の魔弾」L・ペルッツ
「西の窓の天使」(上・下)G・マイリンク
「オーランドー」V・ウルフ
「カバラーの神秘」D・フォーチュン
「現代イタリア幻想短篇集」カルヴィーノ 他△
「ヘリオーポリス」(上・下)E・ユンガー
「夢の本」ボルヘス△
「月世界への旅」M・Hニコルソン
「普遍の鍵」P・ロッシ



1 積読していたことを忘れていたもの
「ボヴァリー夫人」論 蓮見重彦
「快楽」「罪なき者」ダヌンツィオ
 
2 いつかは読もうと思い続けているもの
「地中海」5巻(藤原書店)フェルナン・ブローデル
「夢野久作全集」10巻
「牡猫ムルの人世観」ホフマン
「トリストラム シャンディ」ロレンス・スターン

3 途中でとまってしまっているもの
「ワンダフルライフ(早川書房)スティーブン・ジェイ・グールド
「田舎司祭の日記」ベルナノス

4 理由があって読んでいないもの
「青い蛇」「黒い玉」トーマス・オーウェン
「巨大なラジオ 泳ぐ人」ジョン・チーヴァー

5 近日中に読む可能性のあるもの
「説得」「分別と多感」「高慢と偏見」ジェイン・オースティン
「浄瑠璃素人講釈」上下 杉山其日庵
「翔ぶが如く」10巻 司馬遼太郎

6 買って安心してしまったもの
「女たちのやさしさ」「太陽の帝国」J・G・バラード
「眠りなき狙撃者」ジャン・パトリック・マンシェント
「殺人展示室」「灯台」「トゥモローワールド」P・D・ジェームズ
「ブラマンテ」中央公論美術出版
「ベルサイユのばら」5巻(集英社文庫)池田理代子



・「NIGHT LAND Quarterly Vol.16」(アトリエサード)
・「その部屋に、いる」S・L・グレイ(ハヤカワ文庫NV)
・「ずうのめ人形」澤村伊智(角川ホラー文庫)
・「黒面の狐」三津田信三(文春文庫)
・「朽木の花 新編・東山殿御庭」朝松健(アトリエサード)
・「フリーマントルの恐怖劇場」B・フリーマントル(講談社)
・「沈黙の声」T・リーミイ(ちくま文庫)
・「夢の10セント銀貨」J・フィニィ(ハヤカワ文庫FT)
・「リアル・スティール」R・マシスン(ハヤカワ文庫NV)



・すぐにでも読みたいもの 
『ピクニック・アット・ハンギングロック』
『現代の地獄への旅』(ブッツァーティ)
『カササギ殺人事件』
『サラ・ウォーターズ作品
『ゴシック短編小説集』
『芥川龍之介選英米怪異・幻想譚』
『英国怪談珠玉集』
『探偵小説の黄金時代』
『十三の物語』(ミルハウザー)
『まっぷたつの子爵』(カルヴィーノ)
『月の石』(ランドルフィ)
『トルーマン・カポーティ初期短編集
『幽剣抄』シリーズ(菊地秀行)
『怪奇幻想の文学1-7』

・反対になかなか取りかかれないもの
『ゴーメンガースト三部作』
『血の本』
『百年の孤独』
『好古家』(ウォルター・スコット)
『孤児の物語』
雑誌類



・アトリエサード「ナイトランド叢書」14冊
・アトリエサード「ナイトランド・クォータリー」(雑誌)16冊
・トライデント・ハウス「ナイトランド」(雑誌)7冊
・三崎書房・歳月社「幻想と怪奇」(雑誌)12冊
・新人往来社「怪奇幻想の文学」5冊
・国書刊行会「ドーキー・アーカイヴ」5冊、「ドラキュラ叢書」3冊、「世界幻想文学大系」4冊
「ゴシック叢書」3冊、「文学の冒険」4冊、「フランス世紀末文学叢書」2冊
・ハヤカワ文庫「モダンホラー・セレクション」約30冊
・廣済堂文庫・光文社文庫「異形コレクション」18冊
・水声社「小島信夫短編集成」8冊、「小島信夫長編集成」10冊
・白水社「エブリ・リクリス」6冊
・河出文庫「怪談集」6冊
・青心社「ウィアード」4冊
・スティーヴン・キング 約50冊?
・F・P・ウィルスン 25冊
・ジョン・ソール 20冊
・ダン・シモンズ 約15冊?
・創元推理文庫「ポオ小説全集」4冊
・ステファン・グラビンスキ 4冊
・創元推理文庫 ロバート・フォールコン「ナイトハンター」全6冊
・ギレルモ・デル・トロ&チャック・ホーガン「沈黙のエクリプス」上下巻「暗黒のメルトダウン」上下巻「永遠の夜」上下巻
・ドフトエフスキー(すべて新潮文庫)「罪と罰」上下巻、「悪霊」上下巻、「白痴」上下巻、「未成年」上下巻、「カラマーゾフの兄弟」3冊、「永遠の夫」、「地下室の手記」、「賭博者」、「虐げられた人々」
・トルストイ(すべて新潮文庫)「アンナ・カレーニナ」3冊、「戦争と平和」4冊
・エミール・ゾラ 約10冊?
・角川ホラー文庫 国内作家 約20冊?
・パトリシア・A・マキリップ 6冊

その他、単品の小説を挙げればキリがなく、全部で千冊超え?
持ってる中で、上のリストになく、これだけは読みたいというのは、
・ボラーニョ「2666」
・ピンチョン「重力の虹」上下巻
・聖書
・ジョルジュ・ベルナノス「死んだ教区」
・ミシュレ「魔女」上下巻



・ストレス発散に購入した約300冊
(主に近代日本文学の短編集、国内外の幻想小説短編集、詩人の随筆集、元素図鑑、科学系哲学書、科学系雑学書等々)
・未購入の積読
(巌窟王、ファウスト、最近の伊坂幸太郎作品、最近の京極夏彦作品)



カレル・チャペック『クラカチット』
ブルガーコフ『ブルガーコフ戯曲集Ⅱ』
マイケル・オンダーチェ『ビリー・ザ・キッド全仕事』
カルヴィーノ『見えない都市』
シニャフスキー『シニャフスキー幻想小説集』
ジム・トンプスン『ポップ1280』



フランツ・カフカ『城』
レーモン・ルーセル『アフリカの印象』
J.G.バラード『千年紀の民』
ドゥルーズ/ガタリ『アンチ・オイディプス』『千のプラトー』



・ロレンス・ダレル『アレクサンドリア四重奏』(全四巻)
・ロレンス・ダレル『アヴィニョン五重奏』(全五巻)
・小川一水『天冥の標』(全十巻、全十七冊)
・シェイクスピア作品
・『聖書』
・『書物の破壊の世界史』
・『聖書の成り立ちを語る都市』
・『キャプテン・ハーロック』



・レオ・ペルッツ「どこに転がっていくの、林檎ちゃん」「ウィーンの五月の夜」「レオナルドのユダ」「聖ペテロの雪」「夜毎に石の橋の下で」「ボリバル侯爵」
・ミエヴィル「都市と都市」
・チャトウィン「パタゴニア」
・メアリ・シェリー「フランケンシュタイン」
・タブッキ「逆さまゲーム」
・佐藤亜紀「金の仔牛」
・ユルスナール「北の古文書」
・コンラッド「コンラッド短編集」
・コルタサル「悪魔の涎その他」
・チェスタトン「新ナポレオン奇譚」「四人の申し分なき重罪人」
・柳田国男「海上の道」
「マルセル・シュオブ全集」、「奇妙な孤島の物語」、「紙の民」その他、たぶんまだたくさん埋もれてます…。



次回「第22回読書会」は2019年6月30日(日)開催予定です。

テーマは、

ブラックウッドと英国怪談の伝統
課題図書
アルジャーノン・ブラックウッド『いにしえの魔術』(夏来健次訳 アトリエサード)
由良君美編『イギリス怪談集』(河出文庫)

詳細は後日告知する予定です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

悲恋の山  マリアンヌ・マイドルフ『魔女グレートリ アルプスの悲しい少女』
mazyoguretori.jpg
 マリアンヌ・マイドルフ『魔女グレートリ アルプスの悲しい少女』(種村季弘・田部淑子訳 牧神社)は、魔女裁判にかけられた少女を描く作品で、救いのない、ゴシック小説的な味わいの作品です。

 アルプスの山腹にある村トリーゼンベルク、この村では資産家であるシュテース一家の世話になっている少女グレートリは、かって母親を魔女として殺された過去を持っていました。成長したグレートリは、兄妹として育った青年アロイスに思いを寄せ、アロイスもまた彼女を愛していたのです。
 一方、これも資産家であるヨス・リュディとアロイスの父ヤーコブは、アロイスとヨスの娘スティーナ・リュディを結婚させることに決めていました。スティーナもまたアロイスを憎からず思っていたのです。
 しかし、アロイスがグレートリを愛していることを知ったスティーナは嫉妬のため、グレートリが魔女だという噂を流してしまいます…。

 清純で思いやりの深いヒロインが悲劇的な結末を迎えるという、かなり救いのない物語です。死にかけていた子供を看病したことが逆に子供を呪い殺したとされてしまったり、身分違いであるアロイスとの恋の成就がまた複雑な事態を引き起こしてしまったりと、悪いめぐり合わせの連続なのです。

 前半、グレートリが領主の息子を助けるエピソードがあり、これが後半で彼女を救うのかと思いきや、それさえもが結末の悲劇性を際立たせているという強烈さ。またヒロインを陥れるスティーナも本来は彼女の友人であり、グレートリを悪く言う子供を叱ったりと、本質的には善人なのです。
 グレートリの養い親であるシュテース夫婦もまた、彼女を実の子供のようにかわいがりながらも、村での立場から、グレートリを見捨てる形になってしまいます。本質的には善人である人々のせいで善人の少女が罪に問われてしまう、という物語なわけで、これは本当に救いがないです。

 災害を起こす精霊や伝説、予知能力など、超自然的な要素も少しながら登場しますが、物語の主要な登場人物たちは基本的に「魔女」の存在を信じていない…というのも面白いところです。

 作者のマリアンヌ・マイドルフに関しては、解説にもほとんど情報が載せられていないので詳細がわからないのですが、19世紀後半生まれのスイスの作家のようです。そういえばこの本、原題も発表年の表示もないのですよね。
 ネットで調べたかぎり ≪Die Hexe vom Triesnerberg. Eine Erzahlung aus Liechtensteins dunklen Tagen≫というのが、この作品の原題のようで、そうだとすると、1908年発表の作品のようです。解説には19世紀半ばに書かれたとあるのですが、作者のマイドルフの生年が1871年となっているので、訳者の勘違いかなあと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。
twitterアカウントは@kimyonasekai



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