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小説のできるまで  ドナルド・E・ウェストレイク『さらば、シェヘラザード』
さらば、シェヘラザード (ドーキー・アーカイヴ)
 《ドーキー・アーカイヴ》シリーズの一冊、ドナルド・E・ウェストレイク『さらば、シェヘラザード』(矢口誠訳 国書刊行会)は、様々な技法が駆使されながらも、内容は「冗談」のようであるという、遊び心に満ちた作品です

 エド・トップリスは、大学時代の友人である作家のロッドから、ゴーストライターとしてポルノ小説を書かないかと誘われます。ポルノ小説には決まった型があり、上手く行けば10日で1冊書くことが可能だというのです。報酬に惹かれてエドは小説の執筆を始めます。
 しかし29作目に至り、エドは小説が全く書けないことに気付きます。すでに何度も締切を破っているため、今回失敗したら後がないのです。必死であらすじをひねり出しますが上手くいかず、何度も書き直しすることになります。やがて、そこにはエド自身の過去や願望が入り込みはじめ…。

 主人公の素人ポルノ作家が、小説が書けず何度も書き直しているうちに、自身の妄想や主観が入り込んできてしまう…というメタフィクション小説です。
 作中で何度も小説を書き直しては破棄する…という行為が繰り返されるのですが、主人公の過去や実体験が小説と入り混じって、出来事が本当なのかどうかわからなくなっていきます。妻ベッツィーとは倦怠期にあるエドは、性的なファンタジーを小説の中に反映させていきます。
 フィクションとして書かれた情事が記された原稿を見た妻は、情事が事実だと勘違いして出ていってしまいます。やがて、妹から話を聞いたらしいベッツィーの二人の兄が、エドを懲らしめようと家を訪れますが…。

 型どおりのはずのポルノ小説が、明らかに主人公の行動をトレースしていたり、逆に「現実」が小説の内容みたいになったりと、その融通無碍さが楽しい作品です。作中でメタフィクションについて自己言及的な内容が語られたりするのも面白いです。
 本そのもののノンブルとは別に、作中内の小説のノンブルが上部にふられているというのも面白い趣向。途中で挫折し書き直しているため、何度もノンブルが「1」に戻ってしまうのです。

 ポルノ小説が題材だけに描写はきわどい部分が多く、内容もある意味しょうもないのですが、作品全体は恐ろしく技巧的に作られた作品です。解説によると、この作品自体が作者ウェストレイクが過去に書いたポルノ小説のパロディになっているそうで、まさに「怪作」と呼ぶにふさわしい作品でしょう。

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12月の気になる新刊と11月の新刊補遺
発売中 高原英理『エイリア綺譚集』(国書刊行会 2916円)
11月24日刊 尾之上浩司編『ロッド・サーリングと『四次元への招待』完全読本』(洋泉社 予価1944円)
11月27日刊 横溝正史『由利・三津木探偵小説集成1 真珠郎』(柏書房 予価2916円)
11月27日刊 牧逸馬『世界怪奇残酷実話 浴槽の花嫁』(河出書房新社 予価1988円)
11月30日刊 東雅夫『クトゥルー神話大事典』(新紀元社 予価2160円)
11月30日刊 『ナイトランド・クォータリーvol.15 海の幻視』(アトリエサード 1836円)
12月3日刊 アンジェラ・カーター『ホフマン博士の地獄の欲望装置』(図書新聞 予価2160円)
12月5日刊 大森望編『revisions 時間SFアンソロジー』(ハヤカワ文庫JA 予価842円)
12月5日刊 ジグムント・ミウォシェフスキ『もつれ』(小学館文庫 予価1048円)
12月6日刊 キャシー・アッカー『血みどろ臓物ハイスクール』(河出文庫 予価1566円)
12月10日刊 レオ・ペルッツ『どこに転がっていくの、林檎ちゃん』(ちくま文庫 予価1026円)
12月11日刊 フランチェスコ・コロンナ『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ 全訳・ポリフィルス狂恋夢』(八坂書房 予価7452円)
12月12日刊 ショーニン・マグワイア『トランクの中に行った双子』(創元推理文庫 予価950円)
12月13日刊 ディーノ・ブッツァーティ『現代の地獄への旅』(東宣出版 予価2376円)
12月20日刊 ジェフリー・フォード『言葉人形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』(東京創元社 予価3240円)
12月20日刊 江戸川乱歩編『世界推理短編傑作集3』(創元推理文庫 予価1037円)
12月20日刊 ジョーン・リンジー『ピクニック・アット・ハンギングロック』(創元推理文庫 予価1080円)
12月20日刊 ダニロ・キシュ『死者の百科事典』(創元ライブラリー 予価1188円)
12月25日刊 佐藤恵三『スウェーデン王カール十一世の幻視について 奇譚迷宮の散策への誘い』(鳥影社 予価2808円)
12月26日刊 ローズマリー・ジャクスン『幻想と怪奇の英文学Ⅲ 転覆の文学編』(東雅夫・下楠昌哉編)(春風社 予価3996円)


 『エイリア綺譚集』は、高原英理の幻想小説既発表作10篇に書き下ろし中篇『ガール・ミーツ・シブサワ』を加えた傑作集です。

 尾之上浩司編『ロッド・サーリングと『四次元への招待』完全読本』は、『ミステリーゾーン』と並ぶサーリングの代表的シリーズ『四次元への招待』を紹介するガイド本。これは面白そうです。このシリーズのDVDも出るといいのですが。

 東雅夫『クトゥルー神話大事典』は、クトゥルー神話の事典。増補に増補を重ねてきましたが、これが決定版でしょうか。

 大森望編『revisions 時間SFアンソロジー』は、全6篇収録の時間SFのアンソロジー。収録作品が公開されていました。

法月綸太郎「ノックス・マシン」
小林泰三「時空争奪」
津原泰水「五色の舟」
藤井太洋「ノー・パラドクス」
C・L・ムーア「ヴィンテージ・シーズン」
リチャード・R・スミス「退屈の檻」

「ヴィンテージ・シーズン」「退屈の檻」が目玉作品でしょうか。「ヴィンテージ・シーズン」は、『グランド・ツアー』として映画化もされたムーアの名品。「退屈の檻」は、かって『倦怠の檻』(ジュディス・メリル編『宇宙の妖怪たち』所収 ハヤカワ・SF・シリーズ)として訳されていた作品ですね。『倦怠の檻』を紹介しているページはこちら

 レオ・ペルッツ『どこに転がっていくの、林檎ちゃん』は、ロシアとヨーロッパを舞台にした冒険小説的な作品だそうで、これは楽しみです。

 ディーノ・ブッツァーティ『現代の地獄への旅』は、ブッツァーティの未紹介作品集の第2弾。こちらも収録作品が公開されていたので、紹介しておきます。

「卵」
「甘美な夜」
「目には目を」
「十八番ホール」
「自然の魔力」
「老人狩り」
「キルケー」
「難問」
「公園での自殺」
「ヴェネツィア・ビエンナーレの夜の戦い」
「空き缶娘」
「庭の瘤」
「神出鬼没」
「二人の運転手」
「現代の地獄への旅」

 ジェフリー・フォード『言葉人形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』は、幻想的な小説で知られる作家フォードの短篇傑作集。13篇を収録した日本オリジナル編集です。

 ジョーン・リンジー『ピクニック・アット・ハンギングロック』は、同名のカルト映画の原作となる小説作品です。

 ローズマリー・ジャクスン『幻想と怪奇の英文学Ⅲ 転覆の文学編』は、幻想文学論の古典の邦訳で、ちょっと気になりますね。

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あらかじめ失われた恋  デイヴィッド・リンゼイ『憑かれた女』
憑かれた女
 デイヴィッド・リンゼイ『憑かれた女』(中村保男訳 文遊社)は、分類の非常に難しい作品です。あえていうなら観念的な幻想恋愛小説、といったところでしょうか。登場する館が魅力的で、ゴシック・ロマンスのような雰囲気もありますね。

 若い女性イズベルは、婚約者のマーシャルに、ある男から古い館の買取を打診されているという話を聞きます。その館、ランヒル・コート館は、13世紀頃にウルフという男が建てたとされていました。ウルフは館の最上階ごとトロールにさらわれ、それ以来、館では失われた部屋が目撃されているというのです。
 マーシャルと伯母とともに館を下見に訪れたイズベルは、同行者がいたときには気付かなかった上り階段が大広間から伸びているのに気付き、階段を登ってみます。登った先の部屋には三つの扉がありました。探索を進めようとした矢先にマーシャルの声が聞こえます。
 マーシャルたちのもとに戻ったイズベルは、階段を登った後の記憶が全く残っていないことに気付きます。イズベルは、秘密を知っているらしい館の主人ジャッジと話すうちに、彼に惹かれつつありました…。

 ある特定の能力を持つ人物にのみ、幻の部屋へと通じる階段が現れる…という幻想的な邸が登場します。面白いのは、この部屋にいる間の記憶は、部屋を出ると失われてしまうというところです。
 婚約者のいるイズベルと、やもめの初老の男ジャッジは互いに惹かれつつも、表立っては礼儀正しい姿勢をくずしません。しかし幻の部屋では不思議な作用により、自分たちの思いを語り合うことになります。しかし部屋の外に出るたびにその記憶は失われてしまいます。彼らの恋の行方はどうなるのか…?

 ストーリーをまとめると上記のような感じになるのですが、著者は観念的な幻想小説『アルクトゥールスへの旅』で知られるリンゼイ。恋愛模様も普通のそれではなく観念的・神秘的な様相を帯びています。
 幻の部屋は異世界らしき場所へつながっています。著者はこの場所を「美しい」と描写するのですが、読んでいる方からするとやたらと「怖い」世界なのですよね。ヒロインの恋愛がどうなっていくのか?という興味と同時に、この異世界はどうなっているのか、ヒロインたちは異世界に行ってしまうのか?という興味でも読み進んでいくことができます。

 「観念的」というと身構えてしまうかもしれませんが、全体に会話が多く、読みやすい作品です。変わった恋愛小説、幻想小説を読んでみたい方にはお薦めしておきたいと思います。「館もの」としても出色の出来ではないでしょうか。

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熊と人間  ミック・ジャクソン『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』
こうしてイギリスから熊がいなくなりました
 ミック・ジャクソン『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』(田内志文訳 東京創元社)は、イギリスから絶滅してしまった熊をめぐる8つの物語をまとめた短篇集。ユーモアと哀愁に満ちた物語集になっています。

 森の悪魔と恐れられる「精霊熊」との交渉に送り出された男を描く「精霊熊」、死者の罪を引き受けるための供物を食べた熊を描く「罪喰い熊」、闘熊のスターとなった熊を描く「鎖につながれた熊」、サーカスで虐げられている熊たちが脱出するという「サーカスの熊」、下水道で働かされる熊たちを描いた「下水熊」、人間の相棒と共に潜水夫として働く熊を描く「市民熊」、何かに導かれ旅を続ける熊たちを描いた「夜の熊」、熊たちの最後の船出を描く「偉大なる熊」の8篇を収録しています。

 登場する熊たちは、人間と共に働いたり、比較的友好的なものもいるものの、概して、野生的であり攻撃性を残した存在として描かれています。人間から虐待をされる熊だけでなく、人間から(一方的ではありますが)可愛がられている熊でさえ、結局は人間と相容れることはないのです。
 大体の作品において、虐げられていた熊たちは、人間の手から逃亡する形になります。逃げ出した熊たちのその後は、最後の二篇「夜の熊」「偉大なる熊」で描かれます。特に「偉大なる熊」の最後は、非常に詩的で美しく描かれていますね。

 「寓話」といっていい作品なのですが、登場する熊たちの描き方(デフォルメ)が絶妙です。人間と意思を疎通したり仕事を代りにやったりと、そういう意味では「擬人化」がされているのですが、かといって、彼らの中身は「人間」ではありません。飽くまで「野生動物」なのです。
 人間の一方的な思い込みで、虐待されたり枠にはめられたりした熊たちは、それらに対して反乱を起こします。そんな熊たちの悲しみをユーモアを交えて描いた短篇集、といっていいでしょうか。そういう風なので、当然のごとく作者の筆は熊に友好的です。
 熊たちも一方的に虐げられるわけではなく、強欲な人間たちが復讐されたりといった話も見られます。しかし、善意で接する人間も同じように熊に殺されてしまったりと、熊と人間との「分かりあえなさ」を描いており、一筋縄ではいかないところがまた面白いですね。

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闘争と逃走  『プリズナーNo.6』
プリズナーNo.6 Blu-ray Collecter's BOX(5枚組) 『プリズナーNo.6』完全読本
 1967~1968年にかけてイギリスで放映されたテレビドラマシリーズ『プリズナーNo.6』。放映から50年以上が経ちますが、今でもその前衛的かつシュールな内容は高く評価され、カルト的な人気を博しています。
 最近、初めて全17話を鑑賞する機会があったのですが、よくこんな内容をテレビドラマでやろうと思ったなあ、というのが正直な感想です。

 一話完結の番組なのですが、毎回シュールなストーリーが展開されてびっくりします。 基本のストーリーは次のようなもの。諜報員らしき主人公が、職場を辞職して家を出ようとしたところ、拉致され謎の村に連れてこられます。その村では人々は数字で呼ばれていました。主人公は「No.6」と名付けられ、辞職した理由を聞かれ続けますが、絶対に話そうとしません…。

 村のトップは「No.2」と呼ばれる存在なのですが、毎回、主人公にいろいろな手段で口を割らそうとします。一方、主人公は村を脱出しようとしますが失敗してしまいます。いろいろバリエーションはあるものの、基本のストーリーは毎回このパターンです。

 ユニークなのは、敵方のトップ「No.2」が毎回変わること。特に説明はされないのですが、毎回「No.2」が新しくなるのです。その「No.2」も男だったり女だったり、若かったり年配だったりと様々。エピソードによっては、思わぬ人物が「No.2」だった…というパターンもあります。
 毎エピソード、「No.2」が交代するのはもちろん、一話の中で交代することもあります。更にその交替劇がプロットに組み込まれたエピソードまであるという複雑さ。

 敵の組織が秘密を聞き出すために行う手段や作戦が、非常に持ってまわったもので、村全体で主人公をあざむいたり、脱出できたように見せかけたりと、大掛かりかつ手間のかかるものばかりなところが、シュールな印象を強めています。
 面白いのは、主人公以外のレギュラーキャラが基本的に登場しないところ。それゆえキャラの掘り下げがなく、人間同士の関係性で話が展開してゆく…ということもありません。主人公を補助するキャラが登場しても、それが敵か見方かもわからないのです(大抵は敵なのですが)。

 主人公含め皆が番号で呼ばれること、舞台となる「村」や登場する機械類やガジェットにどこか「作りもの感」があること、ストーリー自体に抽象性が強いことなど、作品が全体に寓話的な空気を帯びているのも特徴ですね。

 このドラマに登場するユニークなガジェットの一つに、村人を監視・拘束する謎の白い球体「ローヴァー」があります。後半はあまり登場しなくなるのですが、存在感は強烈です。主人公が外部に逃げようとしても、大抵これにつかまってしまうのです。

 傑作エピソードは前半に集中している感じでしょうか。後半はかなりだれるエピソードも多い印象です。ただ最終二話はシュールさの桁が外れている感じで、一見の価値があるかと思います。
 面白かったエピソードとしては、壮大な脱出劇が虚構だったことがわかる第2話「ビックベンの鐘」、秘密を聞き出すため夢をコントロールされるという第3話「A,B&C」、閉鎖された村で行われる選挙を描く皮肉な第4話「われらに自由を」、主人公の偽者を用意し主人公自身が本物を演じている偽者だと思わせるという第5話「暗号」、村全体が突然もぬけの殻になる第7話「皮肉な帰還」、敵のはずの「No.2」を守る羽目になるという第11話「暗殺計画」、人格入れ替わりが行われるSF色の強い第13話「思想転移」などが印象に残ります。

 観ていて、あの作品に設定が似ているな…と思わせることが多いのは、後続の作品に広い影響を与えているという証拠でしょう。閉鎖空間に閉じ込められるというテーマの作品も、現在では珍しくなくなりました。ただ閉鎖空間なのに「デスゲーム」的展開にならないというのもこのドラマのユニークな点ですね。主人公がいくら反抗しようとも、敵の組織は彼を殺そうとはせず、また主人公も相手を殺そうとはしないのです。
 その意味で、主人公と相手の組織との関係は「馴れ合い」と見える部分もあり、作品全体が「箱庭」であるかのような印象も受けます。

 シュールかつ不条理なスリラーです。フランツ・カフカ、ホルヘ・ルイヘ・ボルヘス、ディーノ・ブッツァーティ、カリンティ・フェレンツ。あるいは、リチャード・マシスン、J・G・バラード、トマス・M・ディッシュ。こうした作風の作家が好きな方には、面白く観れるシリーズではないでしょうか。

  ちなみに、尾之上浩司編「『プリズナーNo.6』完全読本」(洋泉社)は非常に参考になるガイドブックで、これを片手に視聴すると、より楽しめるかと思います。

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秘密結社の恐怖  フリードリヒ・シラー『招霊妖術師』
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 ヴェネツィアに滞在中のやんごとなき青年貴族「若殿」は、ある日謎のアルメニア人から従兄の死を予言されます。神秘的な要素に惹かれるようになった「若殿」は、シチリア人の主宰する交霊会に出席し、呼び出された霊に出会うことになりますが…。

 『招霊妖術師』(石川實訳 国書刊行会)は、ゲーテと並ぶドイツの文豪フリードリヒ・シラーの怪奇小説です。「秘密結社小説」の嚆矢であり、イギリスのゴシック・ロマンスにも影響を与えたと言われる作品です。
 未完の作品なのですが、全体は2部に分かれています。1部では交霊会や妖術師であるアルメニア人についての調査と、その顛末が描かれるというミステリ要素の強い展開、2部では「秘密結社」の影響により放蕩に陥った「若殿」が破滅していく様を描くという展開です。
 一度は超自然的な現象を信じかけるものの、合理的な解釈で全てが明かされる、という一部は、いわゆる「解明される超自然」型のゴシック小説といってもいいかもしれません。対して二部はトーンが変わって、暗躍する「秘密結社」の影響を描く謀略小説といった感じになっています。

 一部の最後では、一応合理的に謎が解かれるという形にはなっているのですが、それでも解決できない謎が残り、不穏な雰囲気を残して終わります。このあたり「ジョン・サイレンス」や「カーナッキ」を思わせて、「ゴースト・ハンター」ものの趣もありますね。
 一部の中心となる妖術師「アルメニア人」は、実在の人物カリオストロがモデルになっているそうです。時代的にはシラーとほぼ同時代の人物なのですよね。一部にせよ二部にせよ、主人公側が勝手に解釈はするものの、客観的に真実は明かされないので、読み終わってももやもやしたものは残ります。

 いろいろな要素がごった煮になっていて、要約の非常に難しい作品です。現代で言うところの「怪奇小説」とは違ったタイプの作品ですが、分類するとすると、やはり「怪奇小説」か「恐怖小説」と呼ばざるを得ないという、微妙なところに位置する作品です。

 参考になるかと思い、『招霊妖術師』の訳者である石川實「ドイツ恐怖小説とゴシック小説」(小池滋ほか編『城と眩暈 ゴシックを読む』国書刊行会 収録)という評論も読んでみました。『招霊妖術師』そのものについては、それほど詳しく触れていないのですが、これはこれで参考になります。

 ドイツの作家がアン・ラドクリフやホレス・ウォルポール作品に影響を受けたりしているものの、時代的には、ドイツ恐怖小説の源流はイギリス作品ではなく、「シュトルム・ウント・ドランク」運動にあること。
 ドイツの恐怖小説の大きな二つのパターンとして「疑似歴史小説」と「秘密結社小説」の二つがあること。その中で、シラーの『招霊妖術師』はかなりの影響を与えたこと、などが書かれています。
 ドイツ恐怖小説の影響を強く受けた作家としては、本国のホフマン、ルートヴィヒ・ティーク、イギリスのM・G・ルイス(『マンク』の作者)などが挙げられています。ティークに関しては、ちょっと詳しく触れられていて、言及されている恐怖劇『カール・フォン・ベルネック』は翻訳があるようですね。

 ドイツ恐怖小説の隣接ジャンルとして「ドイツ運命劇」というジャンルがあるらしく、『カール・フォン・ベルネック』が収録されている、『呪縛の宴 ドイツ運命劇集 ドイツ・ロマン派全集 17』(国書刊行会)も読んでみる必要がありそうです。

 ちなみに「シュトゥルム・ウント・ドラング」(疾風怒濤)は、18世紀後半に見られた運動でロマン主義の前身となるものですね。理性や啓蒙主義に対して、感情に重きを置く傾向があります。文学方面での実作には詳しくないので、音楽での例を挙げさせてもらいますが、大バッハの息子であるW・F・バッハやC・P・E・バッハ、ヨーゼフ・ハイドンの中期の交響曲などが典型的な「疾風怒濤」作品でしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

怪奇幻想読書倶楽部 第18回読書会 参加者募集です
キス・キス (ハヤカワ・ミステリ文庫) 王女マメーリア (ハヤカワ・ミステリ文庫)
 2018年12月2日(日曜日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第18回読書会」を開催いたします。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、メールにて連絡をいただきたいと思います。
 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2018年12月2日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:2000円(予定)

テーマ
第1部:
課題図書
ロアルド・ダール『キス・キス』(田口俊樹訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)
ロアルド・ダール『王女マメーリア』(田口俊樹訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)

第2部:読書会結成二周年企画 本の交換会

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも安心して参加できると思います。
※「怪奇幻想読書倶楽部」のよくある質問については、こちらを参考にしてください。

 第1部は、課題図書として、ロアルド・ダールの2冊の短編集を取り上げたいと思います。ダールの短編集といえば『あなたに似た人』がよく取り上げられますが、奇想度の高さでは『キス・キス』も負けていません。また、後期の短編集『王女マメーリア』も、語り口の上手さでは他の代表的な短篇集に勝るとも劣らない魅力を持っています。ダールの奇想に富んだ物語世界を楽しんでいきたいと思います。

 第2部のテーマは、読書会結成二周年企画として「本の交換会」を行いたいと思います。処分してもいい本を持ち寄り、他の人の本と交換しようという趣旨の企画です。お持ちいただくのは何冊でも構いません。ジャンルは特に怪奇幻想にこだわらなくても結構ですので、ご自由にお持ちください。
 処分する本がない場合は、お持ちいただかなくても構いません。もらうだけでも結構です。

11月9日追記 人数が定員に達しましたので、締切とさせていただきたいと思います。

テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

国内ホラー小説まとめ読み
 最近読んだ、国内作家のホラー小説作品を紹介していきたいと思います。



ぞぞのむこ
井上宮『ぞぞのむこ』(光文社)

 そこでは何が起こっても不思議ではないとされる「漠市」をめぐって、奇怪な事件が起こるというホラー連作短篇集です。怪異現象の因果関係がはっきりせず、不条理感が強いホラー作品になっています。

 昔の恋人がアパートに転がり込んだことから突然幸運が舞い込む会社員を描く「ぞぞのむこ」、万引きがやめられない美人学生が奇怪な事件に遭遇する「じょっぷに」、老人ホームで働き始めた男が、漠市出身のカリスマ介護士の仕事の秘密を探ろうとする「だあめんかべる」、漠市の祠の賽銭箱にお金を入れたために願いがかなうようになった青年を描く「くれのに」、漠市の呪われた家「ざむざの家」に入ってしまった娘の様子がおかしくなるという「ざむざの家」の5篇を収録しています。

 作品に登場する「漠市」が非常に不気味です。この街で何をしてはいけないのか、何をしたらどうなるのか? といった因果関係が全くわからないため、登場人物たちは知らぬ間に奇怪な目に合ってしまいます。呪われた街というよりは、ほとんど異世界に近い感触で、不条理感が非常に強いですね。
 狂言回し的なキャラクターとして、全ての作品に矢崎という青年が登場するのですが、この人物、事実しか言わず、人と関わる際にはマニュアルどおりに動くという人物。その極端な性格もあり、彼は「漠市」の事件に遭遇しても冷静さを失いません。
 この青年が事件に遭遇した人々に忠告をするものの、結局は不幸な結末が訪れる…というのがパターンになっています。

 また、「不条理感」とともにこの作品を支配するのが「生理的嫌悪感」で、作中に登場する怪異は怖気をふるうものばかりです。
 特に「だあめんかべる」「ざむざの家」の気色悪さは強烈で、グロテスクな題材に耐性のない読者にはきついかもしれません。ただ、どの短篇もお話としては非常に面白いです。
 サイコスリラー風の「じょっぷに」、異色短篇風の「くれのに」など、作者のストーリーテラーぶりを窺わせる作品もあります。



火のないところに煙は
芦沢央『火のないところに煙は』(新潮社)

 怪談の執筆を依頼された作家の「私」は、かって遭遇した事件を思い出します。それは〈神楽坂の母〉と呼ばれる占い師から受けた占いをきっかけに恐ろしい目に会った女性の話でした。様々な人に聴いた怪談を小説にしていく「私」でしたが、関連がないかに見えた事件がつながっていくのに気が付きます…。

 作者自身が怪異現象に巻き込まれるという、実話怪談風のホラー小説です。ポスターに現れた怪異を描く「染み」、家庭の不幸を一方的に話し続ける女を描いた「お祓いを頼む女」、新婚の夫が隣家の主婦に不倫疑惑をかけられるという「妄言」、火に焼かれる夢を繰り返し見てしまうという家を描く「助けてって言ったのに」、大学生が借りた部屋に少女の幽霊が出現するという「誰かの怪異」、それまでの怪異がつながっていくという「禁忌」の6話からなる連作短編集になっています。

 一つ一つの事件は派手なものではなく、人の死が発生してもそれが怪異のせいなのかどうかははっきりしません。そもそも、語り手(作者)の目の前で明確な怪異現象が起こるわけではなく、間接的に聞いた事件が多いのです。ただそのもやもやした感覚が、不気味な雰囲気を出すことに成功しています。
 エピソードのそれぞれ、超自然的に見える現象に対して合理的な解釈をする余地があり、実際「ミステリ作家」である語り手は、そうした解釈を求めてしまいますが、それでも割り切れないものが残っていき、最終話でそれらがつながってくる…という趣向は面白いですね。
 ミステリ的な部分とホラー的な部分のバランスが絶妙で、どちらのジャンルのファンでも面白く読めるのではないでしょうか。



犯罪乱歩幻想
三津田信三『犯罪乱歩幻想』(KADOKAWA)

 江戸川乱歩の有名な短篇をモチーフに書かれた乱歩風短篇が5作、それ以外の短篇2作を収録した作品集です。
 乱歩風短篇は、資産家の青年が引っ越し先の部屋に違和感を感じ屋根裏に誰かが潜んでいるのではないかと推理する「屋根裏の同居者」、猟奇的な行為を楽しむ秘密倶楽部を描いた「赤過ぎる部屋」、ミステリ作家志望の青年が殺人事件に巻き込まれるという「G坂の殺人事件」、夢遊病者が引き起こした殺人事件の真相を推理する「夢遊病者の手」、亡き祖父から聞いたという鏡にまつわる奇談「魔鏡と旅する男」の5篇からなっています。

 それぞれ乱歩作品の見事な本歌取りになっており楽しい作品集なのですが、中でも、リドル・ストーリー風の「屋根裏の同居者」、猟奇的な雰囲気の濃い「赤過ぎる部屋」、怪奇幻想趣味の濃い「魔鏡と旅する男」を特に面白く読みました。
 「屋根裏の同居者」では、主人公が乱歩の短篇「屋根裏の散歩者」や「幻の同居人」妄想に関する文献などを読んで、それを前提に推理をするというメタな展開が面白いですね。
 「赤過ぎる部屋」でも「犯人」は乱歩の作品を読んで影響を受けているという設定になっています。乱歩の本格短篇があまり面白く読めなかった代わり「赤い部屋」には強烈に惹かれたという独白には、ちょっと共感するところがあります。
 「魔鏡と旅する男」は、乱歩の「押絵と旅する男」をベースに、これまた乱歩が好んだ「鏡怪談」と「双生児」のモチーフを取り入れた贅沢な作りで、怪奇幻想ファンには嬉しい作品です。

 シリーズ外の収録は「骸骨坊主の話」「影が来る」の2篇。「影が来る」はウルトラ怪獣のテーマアンソロジーに収録された作品で、「ウルトラQ」をテーマにドッペルゲンガーの恐怖を描いたSFホラーです。
 「骸骨坊主の話」は、感染する「呪い」を描いた恐怖小説。寺に現れる霊を目撃した少年が他の人間にその話をしたために、霊現象が拡散してしまう…という作品。『リング』のオマージュになっているという、これまた凝った作品です。



滅びの園 (幽BOOKS)
恒川光太郎『滅びの園』(KADOKAWA)

 近未来、地球は巨大なクラゲ状の生命体「未知なるもの」に取り付かれていました。地球の有機物と反応した「未知なるもの」は「プーニー」と呼ばれる不定形の生物を大量に生み出します。「プーニー」に触れたり、食べた生物は、一部の耐性を持つもの以外は、死んでしまうのです。
 人類は「未知なるもの」の「核」を破壊すれば「プーニー」は消え去るのではという予想を立てますが、その最中「未知なるもの」の中心に取り込まれた人間、鈴上誠一の存在を発見します。彼は「未知なるもの」の影響で作り出された仮想世界で生きているらしいのです。
 人類は、次元転送装置で人間を仮想世界に送り込み、鈴上誠一の力を借りて「未知なるもの」を破壊しようとします。一方、鈴上誠一は、生活する仮想世界のなかで、平穏な日常と家族に囲まれた幸せな生活を送っていました…。

 宇宙から飛来した知的生命体、増殖する謎の生物、仮想世界に広がる理想郷、次元転送される突入者たち…。SF的な設定で展開されるヒロイック・ファンタジー、なのですが、そこからさらにひねった世界観がなんともユニークな作品です。
 主人公である鈴上誠一は、きつい現実世界から逃れ仮想世界で幸せな生活を送っています。彼の説得に送り込まれた人間たちは、仮想世界では「魔物」の姿になり排除の対象になってしまうのです。しかし「未知なるもの」ひいては鈴上誠一の世界を破壊しなければ、地球は滅んでしまう。
 個人の楽園と、人類の救済、互いに譲れない目的を持つ人間たちが、互いの世界を守ろうする…というのメインテーマでしょうか。

 舞台となる仮想世界の設定も魅力的です。そこは一方通行であり、行ったきり戻ってこれないとされています。またそこに入ると人間は力を失い、別の形になってしまいます。 しかし装置をどんどん高度化させた人類は、より強力な状態で人間を送り込むようになってきます。どちらの勢力が最終的に勝利するのか…? 鈴上誠一側と地球の人類側、両サイドからの描写が交互に展開されるため、どちらが正義とも悪ともつかないようになっています。

 最後まで結末の予想がつかず、サスペンスたっぷりのお話になっています。仮想世界に生まれ変わる…という点では、昨今流行りの「転生もの」バリエーションとも言えますが、こういうひねり方をするとは驚きですね。



人喰観音
篠たまき『人喰観音』(早川書房)

 商家の跡継ぎに生まれながら、生来の体の弱さから蟄居している蒼一郎は、ある日川原に倒れていた女スイを拾い、家に置くことになります。スイは言葉にはできない妖艶さを持ち、蒼一郎は彼女の魅力に囚われていきます。
 人間の性質を見分ける能力を持つスイは本家の商売の方でも重宝されますが、やがて彼女は食物として生の肉を求め始めます…。

  その不思議な力から「観音様」と称えられた魔性の女スイと、彼女に惹かれ道を踏み外していく人間たちを描いた作品です。ほとんど年を取らないスイは、彼女が「憑いた」人間が老いるたびに、別の人間に「憑く」のです。スイの魅力に囚われた男女は、彼女に求められるがままに人倫にもとるような行為に手を染めていきます。
 作中でだんだんとスイが何者であるのかが、断片的に語られていきますが、明確なところは最後まで明かされません。最初は人間であると思われたスイが、やがてその非人間的な性質を表しはじめるくだりはかなり不気味。
 しかし本当に怖いのは、スイに魅せられ人倫を踏み外していく人間たちを描いた部分でしょう。彼女を「幸福」にするために、犯罪や殺人などに手を染めていく人間たち。正常な感覚を持つ人間もスイのそばに立つと、おかしくなってしまうのです。

 ほぼ全ての登場人物が「不幸」になってしまうという、恐ろしく陰鬱なトーンを持つ作品です。登場人物の中の何人かは、スイに出会う以前にして、すでに過酷な現実の中で地獄のような体験をしているのですが、その彼らもスイに出会ったことによって、さらなる地獄に突き落とされる。しかしその「地獄」は、彼らにとっては「極楽」にも等しいのです。
 それが元々の本性であるのか、スイとの出会いによって引き出されたものなのか、どちらかはわかりませんが、とにかく人間の醜さや欲望が、ある種の頽廃美を伴って描かれていきます。
 前作『やみ窓』(KADOKAWA)でもそうでしたが、この作者、人間の暗い側面をこれでもかと描くところに味がありますね。暗い情念のあふれるダークな色調の幻想小説です。

テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。
twitterアカウントは@kimyonasekai



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