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怪奇幻想読書倶楽部 第13回読書会 参加者募集です
 2018年3月25日(日曜日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第13回読書会」を開催いたします。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、連絡をいただきたいと思います。
 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2018年3月25日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:1500円(予定)
テーマ
第1部:物語をめぐる物語
第2部:作家特集 ステファン・グラビンスキ

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※基本的には、オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも、安心して参加できると思います。


第1部のテーマは「物語をめぐる物語」。
 作中で「本」や「物語」が扱われている作品を集めてみたいと思います。物理的な「本」だけでなく、作品中にさらに小説が埋め込まれたタイプの作品や、架空の書物を扱ったもの、また枠物語やメタフィクション的な作品などもあわせて見ていきたいと思います。
 例えば、ウィリアム・ゴールドマン『プリンセス・ブライド』、レイ・ブラッドベリ『華氏四五一度』、イタロ・カルヴィーノ『冬の夜ひとりの旅人が』、ミロラド・パヴィチ『ハザール事典』、ミハル・アイヴァス『黄金時代』、エンリケ・アンデルソン=インベル「魔法の書」、フリオ・コルタサル「続いている公園」、ヤン・ポトツキ『サラゴサ手稿』、ジャン・レー『新カンタベリー物語』、都筑道夫『怪奇小説という題名の怪奇小説』、恩田陸『三月は深き紅の淵を』、ゾラン・ジヴコヴィッチ「ティーショップ」など。

第2部のテーマは「作家特集 ステファン・グラビンスキ」。
 列車テーマの怪奇作品集『動きの悪魔』、ポオを思わせる異常心理小説集『狂気の巡礼』、火をテーマにした『火の書』…。
 近年邦訳が続き、話題を呼んだポーランド怪奇小説の巨匠ステファン・グラビンスキについて話していきたいと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

凍る記憶  ギルバート・フェルプス『氷結の国』
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氷結の国 (1970年) (世界ロマン文庫〈13〉)
フェルプス 大津 栄一郎
筑摩書房 1970

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 1963年発表のギルバート・フェルプス『氷結の国』(大津栄一郎訳 筑摩書房)は、アンデス山脈に住む謎の民族をめぐる秘境冒険小説です。あまり話題になることのない作品ですが、これは知られざる名作といっていいのではないでしょうか。

 語り手ディヴィッド・パーは、大叔父ジョン・パー大佐の遺言で、彼が住んでいた屋敷を相続します。そこで見つけたパー大佐の日記には、驚くべき事実が書かれていました。アンデス山脈の山中に、他の文明と隔絶された村があり、パー大佐はそこで彼らと暮らしていたことがあるというのです。
 山中に住む謎の民族を発見したパー大佐は、彼らについて知ろうと、村人に質問を繰り返しますが、まともに返事は返ってきません。不思議なのは過去について質問しても、過去とはなにかがわかっていないようなのです。やがて彼らには人間が普通持っているような「記憶能力」が欠けていることがわかります。
 村の娘に恋をしたパー大佐は、彼女の婚約者などとも対立しながら、村の人々の生活を探り始めます。やがて娘は別れの時が迫っていることを匂わせますが…。

 アンデス山中で大佐の出会ったのは謎の「氷結の民族」。まともな記憶能力を持たない彼らはどうやって暮らしているのか? その謎を解く過程が興味深いです。やがて明かされる、彼らの生活とその人生観には驚かされるはず。

 面白いのは、作品が枠物語の形になっているところです。語り手ディヴィッドがパー大佐の日記を読んでいく…という形になっているのですが、現実的なディヴィッドが、日記の超自然的な部分に疑問を抱いたり、考えたことが作中そのまま描写されます。

 パー一族は、非常に保守的な一族。しかし数世代に一人「変わり者」が現れるとされていました。「変わり者」の一人ジョン・パーは、南米で身分違いの恋に破れた後に、アンデス山脈での冒険に出かけるのです。
 対して、語り手ディヴィッドは、パー一族らしい非常に現実的な人間として登場します。しかし作品が進むにつれ、ディヴィッドもまた現実的な仮面をかぶっているものの、「変わり者」の一人であり、大叔父を愛していたことがわかってくるのです。現実に倦み疲れたディヴィッドが大叔父から受け取ったものとは…?

 日記の中で、パー大佐が村の人々を通して受け取ったもの、そしてまた日記を読んだディヴィッドも、またあるものを受け取る…という結末には、ある種の感動があります。
 単なる冒険小説に終わらず、感情を静かに揺さぶるロマンティックな作品といえます。

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3月の気になる新刊と2月の新刊補遺
発売中 E・F・ベンスン『見えるもの見えざるもの』(アトリエサード 2592円)
発売中 ロバート・ヒュー・ベンソン『テ・デウムを唱いながら エリザベス一世と旧教に殉ずる人々』(未知谷 5400円)
2月23日刊 日下三蔵編『横溝正史ミステリ短篇コレクション 刺青された男』(柏書房 予価2808円)
2月26日刊 ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』(水声社 予価3780円)
2月27日刊 『ナイトランド・クォータリーvol.12  不可知の領域 コスミック・ホラー』(アトリエサード 予価1836円)
3月6日刊 木々高太郎『三面鏡の恐怖』(河出文庫 予価799円)
3月6日刊 泡坂妻夫『迷蝶の島』(河出文庫 予価778円)
3月6日刊 ダグラス・アダムズ『長く暗い魂のティータイム』(河出文庫 予価994円)
3月6日刊 S・L・グレイ『その部屋に、いる』(ハヤカワ文庫NV 予価1123円)
3月6日刊 ラリイ・ニーヴン『無常の月 ザ・ベスト・オブ・ラリイ・ニーヴン』(ハヤカワ文庫SF 予価1037円)
3月9日刊 C・S・ルイス『ナルニア国物語7 最後の戦い』(光文社古典新訳文庫)
3月10日刊 森瀬繚『All Over クトゥルー クトゥルー神話作品大全』(三才ブックス 予価2480円)
3月10日刊 サマセット・モーム『報いられたもの/働き手』(講談社文芸文庫 予価1836円)
3月12日刊 マシュー・ディックス『マイロ・スレイドにうってつけの秘密』(創元推理文庫 予価1404円)
3月12日刊 J・J・アダムズ&D・H・ウィルソン編『スタートボタンを押してください』(創元SF文庫 予価1080円)
3月12日刊 レーモン・ルーセル『額の星 無数の太陽』(平凡社ライブラリー 予価1620円)
3月14日刊 アナトール・フランス『ペンギンの島』(白水Uブックス 予価2052円)
3月16日刊 千街晶之編著『21世紀本格ミステリ映像大全』(原書房 予価1944円)
3月19日刊 田中貢太郎『戦前の怪談』(河出書房新社 予価1944円)
3月19日刊 長山靖生『日本SF精神史 完全版』(河出書房新社 予価3024円)
3月22日刊 フェデーリコ・マリア・サルデッリ『失われた手稿譜』(東京創元社 予価2268円)
3月22日刊 マルク・パストル『悪女』(創元推理文庫 予価1253円)
3月22日刊 J・G・バラード『ハロー、アメリカ』(創元SF文庫 予価1058円)
3月23日刊 アンジェラ・カーター『新しきイヴの受難』(国書刊行会 予価2592円)
3月28日刊 『FUNGI 菌類小説選集 第Ⅱコロニー』(Pヴァイン 予価1836円)


 期せずして、英国怪奇小説の巨匠として知られるベンスン3兄弟のうち、E・F・ベンスンとロバート・ヒュー・ベンソンの作品が同時期に邦訳刊行されています。E・F・ベンスンは、2冊目の怪奇小説集です。ただ、ロバート・ヒューの方は怪奇小説ではなく、宗教的なテーマを扱った歴史小説のようです。

 ラテンアメリカ文学の中でも傑作とされるホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』が水声社より復刊です。個人的にも未読だったので、これは楽しみです。

 『無常の月 ザ・ベスト・オブ・ラリイ・ニーヴン』は、ラリイ・ニーヴンの傑作集。これはいい企画です。ニーヴンの短篇は気の効いた作品が多くて面白いのですよね。

 J・J・アダムズ&D・H・ウィルソン編『スタートボタンを押してください』は、「ゲームSF傑作選」だそう。収録作品は以下の通りです。

アーネスト・クライン 序文
桜坂 洋「リスポーン」
デヴィッド・バー・カートリー「救助よろ」
ホリー・ブラック「1アップ」
チャールズ・ユウ「NPC」
チャーリー・ジェーン・アンダース「猫の王権」
ダニエル・H・ウィルソン「神モード」
ミッキー・ニールソン「リコイル!」
ショーナン・マグワイア「サバイバルホラー」
ヒュー・ハウイー「キャラクター選択」
アンディ・ウィアー「ツウォリア」
コリイ・ドクトロウ「アンダのゲーム」
ケン・リュウ「時計仕掛けの兵隊」
米光一成 解説

 アナトール・フランス『ペンギンの島』は、フランスが遺したファンタジー作品の一つ。 中央公論社の『新集 世界の文学』に収録されたものの復刊でしょうか。フランスの作品では、幻想文学畑でよく言及される『鳥料理レエヌ・ペドオク亭』も読んでみたいですね。

 フェデーリコ・マリア・サルデッリ『失われた手稿譜』は、作曲家ヴィヴァルディの残した楽譜をめぐるノンフィクション・ノベルだそう。ミステリ的な味わいもあるようで、気になりますね。
 サルデッリは、イタリアの古楽オーケストラ「モード・アンティコ」の指揮者。ヴィヴァルディの作品演奏を得意とし、ヴィヴァルディの新発見の曲の録音などもあります。

 マルク・パストル『悪女』は「幼い子供を誘拐し血をすすり、臓物を喰らう「吸血鬼」と呼ばれた悪女。現役の犯罪捜査官が、20世紀初頭のバルセロナを震撼させた犯罪者の実話に材を得て描いた戦慄の物語」だそうで、面白そうな作品ですね。

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ポオに触発された作品たち
 エドガー・アラン・ポオの作品は、後続の作家たちに多大な影響を与えました。ポオ作品にインスピレーションを受けて創作された作品の中から、いくつか紹介していきたいと思います。


4787584987ポオ収集家
ロバート ブロック Robert Bloch
新樹社 2000-03

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ロバート・ブロック「ポオ収集家」(仁賀克雄訳『ポオ収集家』新樹社 収録)

 「わたし」が知り合いになった男ラウンスロット・キャニングは、ポオに関する収集家でした。彼の家に招待された「わたし」は、祖父、父と三代にわたって収集されたコレクションに目を見張ります。しかし、キャニングの祖父はコレクションのために、人には言えないようなこともしていたというのです。
 キャニングが見せてくれたのは、通常のコレクションだけでなく、ポオの未発表作品の原稿でした。「わたし」は、収集熱のあまりキャニングは自分がポオだと思い込んだのではないかと疑いますが…。

 タイトル通り、ポオの作品や遺物を収集する男を描いた物語です。語り手の「わたし」がキャニングの館を訪れるというのがメインストーリーなのですが、その全体がポオの「アッシャー家の崩壊」のパロディになっているという手の込みようです。ちょっとしたクトゥルー風の味付けも楽しい作品ですね。
 ちなみに、この作品、ロバート・ブロック作品を元にしたオムニバスホラー映画『残酷の沼』(フレディ・フランシス監督)で、映像化もされているので、興味のある方はぜひ。

B00XP94ST2残酷の沼 [DVD]
Happinet(SB)(D) 2015-10-02

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ロバート・ブロック「灯台」(仁賀克雄訳『ポオ収集家』新樹社 収録)

 自ら一人になる時間を作るために、犬一匹だけを連れて灯台にこもった男。やがて孤独に耐えられなくなった男は、精神の力だけで「物」を作り出す能力を開発します。
 バラについて念じた男は、灯台の下にありえるはずのないバラが現れたのを見て自分の能力を確信します。理想の伴侶を生み出すべく精神の力を振り絞った男は、灯台の外に何者かが立っているのに気がつきますが…。

 ポオの未完の短篇「灯台」をロバート・ブロックが書き継いで完成させた作品です。ポオの味を上手く生かした怪奇小説になっていて、正直どこからブロックが書き継いだのかがわからないほどです。
 ちなみに、ポオのオリジナルの「灯台」は本当に「断片」で、まだ話が全然展開していない段階で途絶しています。ブロックが書き継いだ部分では犬が錯乱するシーンがあるのですが、もしかしたらこのシーン、『ピム』を意識しているのかもしれません。
 ポオのオリジナルの「灯台」は、『大渦巻への落下・灯台』(巽孝之訳 新潮文庫)や『E・A・ポー ポケットマスターピース9』(鴻巣友季子/桜庭一樹編 集英社文庫)で読めます。



4150117640火星年代記 (ハヤカワ文庫SF)
レイ ブラッドベリ Ray Bradbury
早川書房 2010-07-10

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レイ・ブラッドベリ「第二のアッシャー邸」(小笠原豊樹訳『火星年代記』ハヤカワ文庫SF 収録)

 その時代、ポオやラヴクラフトなどの「恐怖と幻想の物語」は焚書にされ、禁じられていました。反逆の意味を込めて、資産家スタンダールは、火星にポオの作品に触発された巨大な屋敷「アッシャー邸」を建造します。
 さっそく調査に現れた道徳風潮調査官ギャレットは、邸の取り壊しを明言します。壊す前に内部をちょっと見てみたらというスタンダールの誘いに乗り、ギャレットは邸の内部を見て回ることになりますが…。

 ポオの「アッシャー家の崩壊」にインスパイアされた物語です。邸の内装や、そこで演じられるパフォーマンスは、皆ポオの作品からインスピレーションを得たものになっている…というのが凝っていますね。
 作中では「早まった埋葬」「モルグ街の殺人」「アモンティリヤアドの酒樽」などからの情景が再現されます。そして作品全体は「アッシャー家の崩壊」へのオマージュになっているという、ポオづくしの物語です。



4488612059ウは宇宙船のウ【新版】 (創元SF文庫)
レイ・ブラッドベリ 大西 尹明
東京創元社 2006-02-27

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 「恐怖と幻想の物語」が禁止される世界というのは、ブラッドベリが非常に危惧していたことのようで、「亡命した人々」 (大西尹明訳『ウは宇宙船のウ』創元SF文庫 収録)という短篇でも、似たモチーフが扱われています。

 やはり「恐怖と幻想の物語」が焚書にされてしまった世界が舞台です。火星には作家たちの魂(?)が住んでいました。彼らの本が一冊でも残っている限り、作家たちの魂は生き延びているのです。
 地球からの討伐隊は、作家たちの最後の本を積んだ宇宙船で火星に向かっていました。作家たちは力を合わせて、敵を撃退しようとしますが…。

 ここに登場する作家は、ポオ、ビアス、マッケン、ブラックウッド、コパード、ディケンズなど。自分は怪奇作家に間違えられただけだ…と言うディケンズのセリフが哀感を誘います。
 「第二のアッシャー邸」「亡命した人々」に登場する、「焚書」に対する抵抗というテーマは、後の長篇『華氏四五一度』(宇野利泰訳 ハヤカワ文庫SF)にもつながっているのでしょう。



4198908834幻夢エドガー・ポー最後の5日間 (徳間文庫)
スティーブン・マーロウ 広津 倫子
徳間書店 1998-04

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スティーヴン・マーロウ『幻夢  エドガー・ポー最後の5日間』(広津倫子訳 徳間文庫)

 ポーが死の直前に五日間ほど行方不明だったという事実をもとに、想像をふくらまして書かれた歴史ミステリー小説です。
 困窮したポーの死去直前の行動を想像で描きながら、その合間に過去のポーの回想が描かれます。この回想部分は、おおむね伝記的事実に沿っているらしいのですが、情感豊かに描かれていて読みでがあります。
 回想が進むにつれて、明らかに現実ではありえないような事件や情景がはさまれてきます。ポーが偽名を名乗ったのをきっかけに、別の人格が生まれ、そちらの人格はまた別の物語を語りだすのです。史実にはない、パリでの行動では、アレクサンドル・デュマと友人づきあいをしたりします。
 そしてオーギュスト・デュパンが実在の人物として登場し、ポーとともに「モルグ街の殺人」を思わせる殺人事件を調査するのです。他にもポーの作品を思わせるガジェットや事件が頻出し、ポーの愛読者には興味深く読めるのではないでしょうか。



norowaretae.jpg呪われた絵 (1978年) (海外ベストセラー・シリーズ)
スティーヴン・マーロウ 高儀 進
角川書店 1978-11

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 スティーヴン・マーロウは、歴史ものなどの邦訳もあるアメリカの作家です。個人的には、1976年発表のモダンホラー小説『呪われた絵』(高儀進訳 角川書店)が印象に残っています。ついでに紹介しておきましょう。

 17世紀フランスの伝説的画家コロンビーヌの作品が、アメリカのある町に譲られることになります。しかしその絵が到着してから、町には異変が起こり始めます。
 折りしも、フランス留学から戻った主人公のヒロインは、ジプシーからもらった古い日記を読み始めます。それは画家コロンビーヌの手記でした。彼はジプシーとともに黒魔術を学んでいました。家族を殺された画家は、絵に呪いをかけていたのです。やがてその影響はヒロインにも及びますが…。

 過去の画家の呪いが現代に甦るというオカルト・ホラー小説です。絵の影響で、一つの町そのものが呪いの影響下に置かれるのですが、ヒロインがかかる呪いも拒食症だったりと、派手さはあまりないのが特徴。ただ過去の歴史が現代の町に二重写しで再現されるという趣向は非常に面白いです。
 現代のパートと、過去の画家の手記パートが交互に現れるのですが、画家のパートの方が伝奇小説的な面白さがありますね。丁寧に描かれた幻想小説として、佳作といっていい作品だと思います。

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エドガー・アラン・ポオの怪奇とユーモア
ポオ小説全集 1 (創元推理文庫 522-1) ポオ小説全集 2 (創元推理文庫 522-2) ポオ小説全集 3 (創元推理文庫 522-3) ポオ小説全集 4 (創元推理文庫 522-4)
 アメリカの作家エドガー・アラン・ポオ(1809-1849)は、様々なジャンルの作品を残した作家です。その本領は怪奇幻想分野の作品にありますが、今でいうところのミステリ・SF・ユーモア小説などに分類される作品も多く書いています。
 ポオの小説作品は、唯一の長篇「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」を除けば、ほぼ短篇です。ポオの短篇はかなり短いものが多いのですが、その完成度は圧倒的。
 神経症的な兄妹と館の崩壊の物語「アッシャー家の崩壊」や、分身物語「ウイリアム・ウィルソン」、病を擬人化した象徴的な「赤死病の仮面」などの代表作は、極限まで無駄が省かれている…といった印象を受けますね。

 怪奇幻想的な作品では、悪魔に襲われる町を描いた「鐘楼の悪魔」であるとか、古風なゴシック・ロマンス「メッツェンガーシュタイン」などの古いタイプの作品もありますが、新しいタイプの怪奇小説も多く書いています。
 「新しいタイプの怪奇小説」とは、いわゆるヨーロッパの怪奇幻想小説の伝統的な素材、悪魔・妖精・幽霊といった素材を使わずに書かれた小説のことです。
 例えば「群衆の人」。この作品では、「群衆」の中にまぎれこまずには生きられないという男が描かれますが、これは非常に新しいタイプの作品だと思います。
 大渦に巻き込まれた男の体験談「メエルシュトレエムに呑まれて」、異端審問所で拷問にさらされる「陥穽と振子」などは、ほぼクライマックスのスペクタクル部分だけを取り出したようなエンターテインメントですし、患者が医者に化けるという「タール博士とフェザー教授の療法」は、正気と狂気の境目がわからなくなるような作品で、まるでロバート・ブロックが書きそうな題材です。
 「黒猫」「告げ口心臓」といった人間の異常心理が描かれる作品は「人間の恐ろしさ」を描いているという点で、非常に近代的な作品で、現代の「サイコスリラー」の原型といってもいいでしょうか。
 上記で「古風」と形容した「メッツェンガーシュタイン」も、実はポオがパロディとして書いたという話で、意識的にいろいろなタッチの作品を描き分けられるというポオの器用さが感じられますね。

 陰鬱でダークなイメージのあるポオの作品ですが、意外にユーモアの要素があるものが多いのも特徴です。「息」がなくなってしまう男を描いた「息の喪失」、立派な男の正体が明かされる「使いきった男」、視力の悪さからとんでもない恋愛事件を引き起こす「眼鏡」などの、明確にユーモア小説を志向した作品の他にも、一般的には「ユーモアもの」だと思われていない作品、例えば「盗まれた手紙」「お前が犯人だ」、一見シリアスながら脱力するような結末が待っている「スフィンクス」といった作品にも、ユーモアの要素が感じとれます。
 あと、不条理を信じない男がおかしな出来事に遭遇する「不条理の天使」などは、幻想小説とユーモア(というよりはナンセンスでしょうか)が融合した、非常に面白い作品だと思います。

 非常に「想像力」や「ファンタジー」に富んだ発想の作品を描く一方、ジャーナリストでもあったポオらしく、リアリティに富んだ実録風の作品もあって、「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」やロッキー山脈横断を描く「ジューリアス・ロドマンの日記」といった冒険ものは、ポオのそんな部分が発揮された作品でしょう。
 ただリアリズム要素の強い『ピム』の中にも、ところどころ奇想天外な要素は出てきます。逆に、気球で月に向かうという「ハンス・プファアルの無類の冒険」のように、実録風でありながらファンタジー要素の方が多い作品もあったりと、現実と想像の匙加減は絶妙ですね。

 ポオの小説は、創元推理文庫刊の『ポオ小説全集』でほぼ網羅されているので、ポオの小説を全部読みたい!という人にはこちらをお勧めしておきます。
 ただ、1巻の序盤の収録作品は比較的とっつきにくい作品が多いので、推奨したい読み方としては、まず3巻か4巻、次に1巻、余裕があったら2巻、といった感じで読むと、読みやすいかと思います。

 ポオのユーモアについて触れたついでに『エドガー・アラン・ポオ・ユーモア小説集』の収録作品を考えてみました。今回の記事のおまけとして載せておきたいと思います。

『エドガー・アラン・ポオ・ユーモア小説集』目次

「眼鏡」
「息の喪失」
「鐘楼の悪魔」
「使いきった男」
「チビのフランス人は、なぜ手に吊繃帯をしているのか?」
「週に三度の日曜日」
「ミイラとの論争」
「タール博士とフェザー教授の療法」
「お前が犯人だ」
「盗まれた手紙」
「スフィンクス」
「不条理の天使」

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迷宮と建築幻想をめぐる物語
 「迷宮」「迷路」「巨大建築物」「地下都市」…。現実には不可能な規模の建築物や、現実にはあり得ない建物など、フィクションには様々な建造物が登場します。本を読んでいて、作品中の「建築物」や「館」などの印象で記憶に残っている作品も多いでしょう。そんな中から、いくつかの作品を紹介していきたいと思います。あわせて、必ずしも建造物が登場するわけではなくても、物語自体が「迷宮」的なテーマを扱った作品も紹介しています。



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魔性の森 (1982年) (角川文庫)
ハーバート・リーバーマン 斎藤 伯好
角川書店 1982-04

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ハーバート・リーバーマン『魔性の森』(斎藤伯好訳 角川文庫)
 イギリスの山中の森に測量のために入り込んだ数人の男女。しかし測量人が発作を起こし、道がわからなくなってしまいます…。
 遭難するのは中年の男女なのですが、みな幼馴染であり、過去の因縁から心理的な対立が始まります。人間関係をめぐる心理描写部分は非常にリアルなのですが、全体としては非常にファンタスティックな幻想小説になっているという、ユニークな作品です。



4575517712MAZE 新装版 (双葉文庫)
恩田 陸
双葉社 2015-04-16

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恩田陸『MAZE』(双葉文庫)
 神原恵弥は、友人の満とともに中東で発見された白い遺跡の調査に訪れます。そこでは人々が消えてしまうという噂がありました。過去の記録から、人が消えるための条件があるのではと考えた満は仮説を立てますが…。
 人が消えてしまう迷路についての物語です。迷路そのものの探検というより、それをめぐる仮説を楽しむというタイプの作品です。魅力的な題材なのですが、結末にはちょっと不満が残るかも。



4488543014迷宮1000 (創元推理文庫)
ヤン・ヴァイス 深見 弾
東京創元社 1987-08-28

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ヤン・ヴァイス『迷宮1000』(創元推理文庫)
 男が目覚めると、そこは奇妙な塔のような場所でした。しかも男には記憶がないのです。持ち物から、自分が探偵ピーター・ブロークであり、失踪者を探すためにこの建物「ミューラー館」に潜入したことを知ります。独裁者オヒスファー・ミューラーによって支配される1000階建のビル「ミューラー館」の調査を始めるブロークでしたが…。
 チェコで1920年代に書かれた「迷宮」テーマ作品です。1000階建のビルという魅力的な建造物が登場します。



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黒の迷路 (ハヤカワ文庫 NV 20)
ロレンス・ダレル 沢村 灌
早川書房 1972-07-31

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ロレンス・ダレル『黒の迷路』(沢村灌訳 ハヤカワ文庫NV)
 ギリシャのクレタ島で、発見されたばかりの洞窟の迷路に入り込んだ観光団が突然の落盤で閉じ込められます。ガイドは事故で死亡し、暗闇の中、人々は散り散りになってしまいます。人々は洞窟から脱出できるのでしょうか…。?
 上記の粗筋からだとすごく面白そうなのですが、実際読んでみるとちょっとニュアンスが違います。粗筋自体は間違いではないのですが、この洞窟の冒険に至るまでが、やたら長いのです。全体で350ページぐらいある作品ですが、洞窟場面に来るまで250ページぐらいを要します。それまでは何が描かれるかというと、登場人物たちのそれまでの人生とか精神的危機などが描かれるのです。
 人物描写部分はそれはそれで興味深いのですが、かなり退屈する場面が長く続きます。ただ洞窟で事故が発生してからの展開は非常に面白く、そこまで我慢して読む価値はあるかと思います。散り散りになった人々の運命がそれぞれ描かれるのですが、中には幻想的な展開になるものもあります。
 一番面白いのは、何とか脱出に成功したものの、人里離れた場所に出てしまう夫婦のエピソード。そこで出会ったのは謎の老婦人。彼女も迷路から来たものの、絶壁に囲まれた土地から出られず20年以上そこで暮らしているというのです…。
 正直、全体を通して読んで傑作かというと微妙なのですが、妙に心に残る作品ではありますね。



4582765491エル・アレフ (平凡社ライブラリー)
ホルヘ・ルイス ボルヘス Jorge Luis Borges
平凡社 2005-09-01

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ホルヘ・ルイヘボルヘス「二人の王と二つの迷宮」(木村榮一訳『エル・アレフ』平凡社ライブラリー収録)
ホルヘ・ルイヘボルヘス「アベンハカン・エル・ボハリー、自らの迷宮に死す」(木村榮一訳『エル・アレフ』平凡社ライブラリー収録)
 どちらも迷宮を扱った作品です。
 「二人の王と二つの迷宮」は象徴的な迷路もの作品。迷宮で迷わされたアラビアの王はバビロニアの王に対して復讐を誓いますが…。
 「アベンハカン・エル・ボハリー」では、自分の命を守るため迷宮を作る男が描かれます。殺された男は誰だったのか?といったミステリ的な部分も面白い作品です。



4562035102ナイトランド
ウィリアム・ホープ ホジスン William Hope Hodgson
原書房 2002-05

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W・H・ホジスン『ナイトランド』(荒俣宏訳 原書房)
 遠未来、絶滅の危機を逃れた人類が暮らすピラミッドの外界は、巨大な怪物が闊歩する「ナイトランド」でした。主人公は過去に死に別れた恋人がこの時代に転生していることを知り、彼女を求めて冒険の旅に出ます…。
 怪物が跋扈する世界観からして強烈ですが、作中に登場する「ラスト・リダウト」は百万単位の人類が居住するという設定の巨大な建物。その中で全てがまかなわれる一つの都市のような存在で、フィクションで登場する想像上の建物としては最大級のものでは。



4488629156ハイ・ライズ (創元SF文庫)
J・G・バラード 村上 博基
東京創元社 2016-07-10

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J・G・バラード『ハイ・ライズ』(村上博基訳 創元SF文庫)
 40階の高層住宅を舞台にした作品です。もともと格差のある上層と下層の住民たちが対立し始め、やがて暴力的な行為が日常的になっていく…という物語。
 学校や商業施設まである、テクノロジーの固まりの巨大ビルで展開される人間の行為が野蛮で獣性に満ちたものだった…というのが面白いですね。



4882930781座敷ぼっこ (ふしぎ文学館)
筒井 康隆
出版芸術社 1994-04-01

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筒井康隆「遠い座敷」(『座敷ぼっこ』出版芸術社収録)
 山のふもとに住む少年が、山の上の方にある友人の家に遊びに行きます。帰りが遅くなってしまった少年は座敷づたいに帰ればいいのではと勧められます。彼らの家同士は極端に長い座敷が連なっていたのです…。
 延々とつながる座敷を舞台にした作品です。帰路に通りかかる日本家屋の描写が非常に怖いですね。



4770403186エペペ
カリンティ・フェレンツ 池田 雅之
恒文社 1978-12

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カリンティ・フェレンツ『エペペ』(池田雅之訳 恒文社)
 言語学者ブダイは、ヘルシンキで行われる会議に出席するため飛行機で出国しますが、乗り間違いからか全く見知らぬ国に連れて来られたことに気がつきます。その国では、ブダイの言葉ばかりか身振りまでもが全く通じません。言語学者であるブダイの知るどの系統の言葉とも違った言葉が使われていました。
 パスポートも紛失し、出国の手立ても失ってしまいます。ホテルへの投宿には成功するものの、手持ちの金は底をつき仕方なく肉体労働に従事することになります。言葉が通じないものの唯一コミュニケートできるのは、ホテルのエレベーターガールの女性でした。ブダイは彼女を「エペペ」と名付けますが…。
 外国で言葉が通じない…という状況は誰にでも起こり得ますが、この作品の場合、ヨーロッパ言語ばかりかアジア言語やアラビア語に通じている言語学者が全く意思を通じさせることができない、という皮肉な状況が描かれます。その国の言葉には外来語がほとんどないため、言葉を類推することもできません。
 単純な数を示す言葉でさえ、聞くたびに違う単語が返ってくるのです。大使館も見つからず、わざと警察につかまっても留置されるだけ。やがて主人公は、自暴自棄になり、ホームレスのような状態になってしまいます。
 主人公が不条理な目に会う…という作品は数多くありますが、この作品ほど「怖い」作品はそうそうないと思います。コミュニケーションのあらゆる手段が通じず、その様子は、ほとんど他惑星に降り立った異星人のような感じなのです。



4588490249ムントゥリャサ通りで
ミルチャ エリアーデ Mircea Eliade
法政大学出版局 2003-10-01

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ミルチャ・エリアーデ『ムントゥリャサ通りで』(直野敦訳 法政大学出版局)
 小学校の元校長ファルマは、かっての教え子を訪ねますが、相手はファルマのことを知らないと突っぱねます。何らかの陰謀があるのではないかと考えた政府はファルマから話を聞きだそうとしますが、彼が話すのは際限のない物語でした…。
 作品の核になるのは、ある地下室で少年が消えてしまったというエピソードなのですが、その物語を説明するには過去の別の物語が必要になり、さらにまた別の物語が展開される…という風に、際限なく物語が広がっていってしまうという、ものすごい作品です。
 老人ファルマの語りが人を喰っていて、この物語を説明するには数百年前の出来事に遡らねばならない、などと口にするのです。それを真面目に聞いている政府の役人もどこかとぼけています。
 怪力を持つ大女の物語だとか、少女から老女まで年齢が変化する女の物語だとか、それぞれのエピソードが既に幻想的ではあるのですが、膨大なエピソードの集積がさらに幻想性を増していますす。
 挿話が挿話を生んでいくという、まるで「迷宮」のような作品ですが、何ともいえない魅力がありますね。ユーモアの要素が強いのも好感触。



4828831673ホーニヒベルガー博士の秘密 (福武文庫)
ミルチャ エリアーデ 直野 敦
福武書店 1990-10

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ミルチャ・エリアーデ『ホーニヒベルガー博士の秘密』(直野敦/住谷春也訳 福武文庫)
 表題作「ホーニヒベルガー博士の秘密」と「セランポーレの夜」が収録されていますが、どちらも東洋をテーマにした神秘主義的な作品です。
 「ホーニヒベルガー博士の秘密」は、インド研究者のホーニヒベルガー博士について研究していたというゼルレンディ博士の未亡人から、夫の仕事をまとめてほしいという依頼を受けた語り手が体験する不思議な物語です。
 ゼルレンディの書類を読み進むうちに、サンスクリット語で書かれた秘密の日記を発見した語り手は、ゼルレンディがヨガの奥義を体得し、不思議な能力を身につけていたことを発見します。やがて語り手も奇妙な体験をすることになりますが…。
 「セランポーレの夜」は、次のような話です。インドのリゾート地セランポーレのバンガローに滞在していた語り手と友人たちは、ある夜一本道であるはずの道で迷い、どことも知れぬ森の中にさまよいこんでしまいます。
 近くの屋敷で泊めてもらおうと考える一行でしたが、屋敷の主人の妻が殺されたばかりだと聞き、いたたまれずに屋敷を去ります。翌朝、家に戻った一行は自分たちの体験を話しますが、そもそもその付近に住んでいる人間などいないというのです…。
 どちらの作品も、神秘主義的な体験をした主人公が別の時間や世界に入り込んでしまう…という作品です。「セランポーレの夜」では時間、「ホーニヒベルガー博士の秘密」では世界全体が歪んでしまいます。とくに「ホーニヒベルガー博士の秘密」の結末は非常に不気味で、まるでパラレルワールドSFですね。



4560043175誰がドルンチナを連れ戻したか
イスマイル カダレ Ismail Kadare
白水社 1994-01

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イスマイル・カダレ『誰がドルンチナを連れ戻したか』(平岡敦訳 白水社)
 遠方の国に嫁いだヴラナイ家の娘ドルンチナが、ある日突然、生家の母親のもとに帰ってきます。ドルンチナは兄のコンスタンチンに連れられて来たと話しますが、コンスタンチンを含むヴラナイ家の息子たちは全て死んでいるのです。
 村人たちはコンスタンチンの幽霊が現れたと信じますが、警備隊長ストレスはドルンチナが嘘をついているのではないかと考えます。事件の噂が広まり教会も介入を始めるなか、ストレスは謎を解くべく調査を進めますが…。
 幽霊が本当に現れたという説のほか、現実的な解釈においてもいくつもの説が提示されます。仮説が次々に現れる、ミステリのような技法が使われていて、リーダビリティも非常に高いです。
 舞台は中世、超自然的な要素もあるものの、完全に「幻想小説」に行ききらず、虚構と現実の間を行き来するようなバランスが非常に魅力的。何ともミステリアスな作品です。



4488070701夢宮殿 (創元ライブラリ)
イスマイル・カダレ 村上 光彦
東京創元社 2012-02-29

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イスマイル・カダレ『夢宮殿』(村上光彦訳 創元ライブラリ)
 その帝国では、人々の見る夢の中に国家の災いになる予兆が現れると信じられていました。そのため国は〈夢宮殿〉と呼ばれる機関を設立します。そこでは、国中から集められた夢を管理しているのです。
 帝国の名門キョプリュリュ家に属する青年マルク=アレムは、ある日突然〈夢宮殿〉に配属されることになります。まずは<選別>課で働くことになったマルク=アレムは、自分でも理由のわからないまま昇進していきますが…。
 主人公マルク=アレムは〈夢宮殿〉に配属されてからも、仕事の内容が全くつかめません。周りの人間に尋ねても一向に要領を得ないのです。わずかな立ち話などで、断片的な情報を得るものの、全貌はつかめません。そのような状態でありながら、なぜか昇進が続いてしまうという、悪夢的な状況が描かれます。
 非常にもやもやした話なので、〈夢宮殿〉という魅力的なガジェットの内容もあまり掘り下げられません。ただ、全編を覆う「不安」は強烈で、一読の価値はある作品だと思います。



4892570893黒いダイヤモンド
ジュール・ヴェルヌ Jules-Descartes Férat
文遊社 2013-12-30

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ジュール・ヴェルヌ『黒いダイヤモンド』(新庄嘉章訳 文遊社)
 栄えていたスコットランドのアバーフォイル炭坑は、石炭を採りつくしたために閉鎖されます。十年後、炭鉱の監督であった技師ジェイムズ・スターのもとに、坑夫頭を務めていたサイモン・フォードから炭鉱まで来て欲しいという手紙が届きます。
 さっそく出立の準備をするスターでしたが、その直後にやはり来るなという手紙が届きます。不審に思いながらも現地に飛んだスターは、サイモンから、掘りつくしたと思われていた炭鉱にまだ石炭が残っている可能性があると聞かされます。
 サイモン、サイモンの息子ハリー、スターの3人は炭鉱の奥深くで、自然に出来たと思しい広大な洞窟を発見します。そこには湖があり、良質な石炭が大量に眠っていたのです。サイモンの妻マッジを含め出直した4人は、その空間の探索を始めますが、何者かによって洞窟に閉じ込められてしまいます…。
 炭鉱の地下深くの広大な洞窟を見つけるものの、悪意のある人物によって閉じ込められる、というのが前半で、後半は洞窟内に都市を建設し、ひとつの小さな町ができるという過程が描かれます。この地下都市の描写が非常に魅力的です。
 ヴェルヌの他の作品でもそうなのですが、閉鎖的な空間や変わった場所に作られる町や都市がよく描かれ、「秘密基地」的な魅力があります。それらの中でも、この炭坑の地下の町は、ひときわ魅力を放っているように思います。
 舞台は妖精や精霊の伝説が伝わる土地であり、作中で起こる不思議な現象もそうした存在のせいなのではないかといった、幻想的な味付けも読みどころです。ヴェルヌ作品に頻出する科学的解説も抑え目で、ロマンティックな味付け、シンプルなストーリーと、ヴェルヌの美質が良く出た秀作かと思います。
 ちなみに「黒いダイヤモンド」とは石炭のこと。作品の舞台は、エネルギー源がまだ石油になる前の時代であり、その点古さを感じさせますが、ヴェルヌは作中で、石炭はすぐに枯渇するという意見も紹介しているのは流石というべきでしょうか。



4594007716アッシャー家の弔鐘 (上) (扶桑社ミステリー)
ロバート・R・マキャモン 大滝 啓裕
扶桑社 1991-07

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ロバート・R・マキャモン『アッシャー家の弔鐘』(大瀧啓裕訳 扶桑社ミステリー)
 巨大な軍需産業を経営するアッシャー家の次男リックスは、家業に関わるのを嫌い、作家として生計を立てようとしていました。愛妻の死を境に体調を悪くしたリックスは、一家に伝わる遺伝病「アッシャー病」に自らも犯されつつあるのに気付きます。
 「アッシャー病」により危篤にあるという父親から呼ばれたリックスは、一家が住む「アッシャーランド」に帰省します。巨額の遺産を狙う兄ブーンと対立するなか、リックスはアッシャー家の歴史を本にまとめようと、過去の書類を探り始めますが、次々とアッシャー家の秘密が明らかになっていきます…。
 ポオの短篇「アッシャー家の崩壊」に登場するアッシャー家は実在した…というテーマの作品です。
 前半は、リックスが探るアッシャー家の過去の歴史がメインになります。それと同時に「アッシャーランド」内に住む少年ニューの冒険行が描かれていきます。特殊な能力があるらしいニューは「アッシャーランド」で起こる子供の行方不明事件に関わっていくことになります。
 アッシャー家の秘密、少年ニューの能力の由来、そして行方不明事件の真実などが明らかになる後半の展開は怒涛の面白さです。加えて魅力的なガジェットやモチーフが頻出するのが興味深いところ。
 構造が変化し人を迷わせる「ロッジ」、聴いたものを自殺に追い込む「アッシャー・コンチェルト」、アッシャー家の最終兵器「振子」など。ところどころにポオの作品のモチーフが散りばめられているのも、非常に楽しいです。
 ポオの「アッシャー家の崩壊」はあくまでインスピレーション元といった程度なので、ポオ作品を読んでいなくても充分に楽しめる作品です。結末にはちょっとしたクトゥルー風味があったりと、これはぜひ復刊して欲しい作品ですね。



4488654037インフェルノ SF地獄篇 (創元推理文庫 654-3)
ラリー・ニーヴン ジェリー・パーネル 小隅 黎
東京創元社 1978-05

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ラリー・ニーヴン&ジェリー・パーネル『インフェルノ SF地獄篇』(小隅黎訳 創元SF文庫)
 SF大会で酔っぱらい、ホテルの上層階から落ちた作家のカーペンタイアーが目を覚ますと、そこはダンテの「地獄篇」そっくりの場所でした。そこで出会った男ベニトは、死んで地獄に来たと言いますが、カーペンタイアーは信じません。
 全てが作り物だと考えるカーペンタイアーは、ベニトとともに出口を目指しますが、旅の途中で出会う情景は本当の地獄としか思えなくなってきます…。
 主人公がSF作家だけに、信じられない情景を見てもSF的な解釈をしてしまいます。「地獄」は遠未来のテクノロジーなのではないかと考えてしまうのです。
 旅の途次でカーペンタイアーは、かっての知り合いたちが罰を受けているのを目撃します。あれだけの苦しみを受けるだけの罪を犯したのだろうか? 地獄の存在を信じ始めるのと同時に、地獄の意味について考え始めるのです。
 全体にユーモアのある語り口で読みやすい作品なのですが、後半になるに従ってシリアス度が上がってきます。何より地獄の情景や刑罰シーンがかなり強烈なのです。結末では人間の罪と罰について考えさせられてしまうという、意外(といっては失礼ですが)な秀作でした。



4488539025夜の庭師 (創元推理文庫)
ジョナサン・オージエ 山田 順子
東京創元社 2016-11-11

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ジョナサン・オージエ『夜の庭師』(山田順子訳 創元推理文庫)
 故郷アイルランドを離れ、両親とも生き別れたモリーとキップの姉弟は、イングランドのある屋敷に雇い口を見つけます。その屋敷は巨木に密着して立てられた奇妙な屋敷で、住人のウィンザー一家は、主人を始め皆不健康そうな顔をしていました。
 主人のバートランドは、子供時代に屋敷で両親が行方不明になり逃げ出したという過去を持ちながら、再び自分の妻子を連れて屋敷に戻ってきていました。金がないといいながら、バートランドはどこからか金を調達してきます。他の家族も、それぞれ秘密を抱えていることにモリーは気付きます。
 屋敷に何か秘密があることに気付いたモリーは、ある日出入りを禁止されていた部屋に入ることに成功しますが…。
 親とも生き別れながら強く生きる少女モリーと弟キップのキャラクターが非常に秀逸です。姉モリーは「語り部」であり、危機を「お話」で乗り越えるという才能の持ち主。弟キップは生まれつき片足が不自由であり、とくに目立った才能はないものの、姉以上に強く強靭な意志の持ち主として描かれます。
 姉弟が不思議な屋敷の秘密に触れ、自分たちの欲望を試される…というのがメインのお話。しかし、ただで欲望がかなえられるわけはなく、その代償が遅いかかってきます。
 前半こそ、落ち着いた雰囲気の寓話なのかなと思わせますが、後半から一気にスピード感あふれる追跡劇に。「夜の庭師」を倒し、一家と姉弟は自分たちの人生を取り戻せるのでしょうか? 子供も大人も楽しめるダークなファンタジーです(子供にはちょっと「怖すぎる」かもしれませんが)。



maruperu.jpgマルペルチュイ (1979年) (妖精文庫〈19〉)
ジャン・レー 篠田 知和基
月刊ペン社 1979-02

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ジャン・レー『マルペルチュイ』(篠田知和基訳 月刊ペン社)
 莫大な資産を持つカッサーヴ叔父は、死の間際に一族を集めて遺産の相続について話します。一族全員に遺産を分け与えるが、その条件とは、一族全員が「マルペルチュイ館」に生涯住み続けなければいけないというものでした。やがて一族全員が「マルペルチュイ館」に集まり、共同生活を始めます。
 「マルペルチュイ」に移り住んだジャン=ジャックは、輝くばかりの美しさを持つウリアルに惹かれつつも、妖艶なアリスにもまた惹かれ始めます。やがて館の中では不思議な現象が起き、住人たちは一人また一人と行方がわからなくなっていきますが…。
 メインとなる物語は、ジャン=ジャックの語る「マルペルチュイ」における一族の生活なのですが、それらについて、さまざまな語り手が別の視点・別の時間軸から物語を補填するという構成になっています。
 後半になるにしたがい、幻想的ではあるものの「普通の人間」の恋愛だと思っていた物語が、全く別の様相を帯びてくるのには驚かされます。カッサーヴの目的とはいったい何だったのか? 人知を超えた計画とその顛末とは…?
 陰鬱な館で展開されるゴシックロマンスであり、神話的なファンタジーでもある作品です。幻想文学史に残る傑作といっていいのではないでしょうか。



taruno.jpegたるの中から生まれた話 (福武文庫)
テオドル シュトルム 矢川 澄子
福武書店 1990-01

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テオドール・シュトルム「ブーレマンの家」(矢川澄子訳『たるの中から生まれた話』福武文庫収録)
 大きな屋敷と資産を受け継いだ男ブーレマンは、恐ろしくけちな男でした。人間嫌いで可愛がるのは飼っている猫だけ。ある日困窮した姉が病気の息子を連れて援助を求めてきますが、にべもなく断ります。やがて息子は亡くなりますが、その直後からブーレマンの体は小さくなり家から出られなくなります…。
 後半は閉じ込められた家からブーレマンが脱出しようとするのですが、全く果たせません。自分の体に対して大きくなった猫が襲ってきて、自由に動くこともできないのです。さらに、少したつとなぜか眠りが襲ってきて、何年も経過してしまいます。
 物語の中では何十年も経過するのですが、その間ブーレマンも猫も年を取りません。おそらくこれが「永遠」に続く…と匂わせて終わります。陰鬱な館の雰囲気も強烈で救いがなく、この作品、子供の頃に読んだらトラウマ級の作品だと思います。



4061495321迷宮学入門 (講談社現代新書)
和泉 雅人
講談社 2000-12

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和泉雅人『迷宮学入門』(講談社現代新書)
 世界の迷宮イメージの変遷や文化的な意味などについて書かれた「迷宮」の入門書です。
 面白いのは「迷宮」と「迷路」が異なるということ。もともと「迷宮」は一本道であり、人を迷わせるものではなかった…というのは目から鱗でした。人を迷わせるための「迷路」のイメージと段々混交していったということのようです。
 内容は主にヨーロッパの絵画や美術がメインなので、フィクションにおける「迷宮」や「迷路」にはほとんど触れられないのですが、欧米の「迷宮」イメージについて非常に勉強になる本です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。
twitterアカウントは@kimyonasekai



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