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怪奇幻想読書倶楽部 第12回読書会 開催しました
 1月28日の日曜日、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第12回読書会」を開催しました。出席者は、主催者を含め12名でした。
 テーマは、第1部「迷宮と建築幻想」、第2部「作家特集 エドガー・アラン・ポオ」です。参加してくださった方には、お礼を申し上げたいと思います。

 それでは、当日の会の詳細について、ご報告したいと思います。

 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。

 第1部「迷宮と建築幻想」では、「迷宮」「迷路」を扱った作品を初め、巨大建築物や地下都市など、フィクションならではの建造物を扱った作品について話しました。フィクションだけでなく、現実の奇想建築に関する資料や写真集などを持ってきてくれた方もあり、非常に面白いテーマになったと思います。
 主催者の方でテーマに属する作品リストを用意していたのですが、それを補填するようなリストを作ってくださったshigeyukiさんには感謝です。作中で登場する建造物の細かい設定などは非常に参考になりました。

 第2部は「作家特集 エドガー・アラン・ポオ」。アメリカの文豪であり怪奇幻想小説の巨匠でもあるポオの作品についてのトークでした。
 やはり19世紀の作家でもあり、入り込むまでに時間がかかるものの、流れに乗ると非常に面白い作品が多かったというのが、皆さんの全体的な感想でしょうか。怪奇幻想小説の印象が強いですが、改めて読んでみて、いろいろなジャンルの作品を手がけていたんだな、という認識を新たにしました。

 それでは、以下話題になったトピックの一部を紹介していきます。


●一部

・和泉雅人『迷宮学入門』について。「迷宮」について、古来から近代までのイメージの変遷を追った本。「迷宮」と「迷路」は異なるもの、というのがポイント。「迷宮」は一本道でいずれ中心にたどり着くもので通過儀礼的な意味を持つもの、「迷路」は人を惑わせるようにつくられたもの、という違いがある。近代では二つのイメージは混交して、
ほぼ同じ意味で使われている。

・矢部嵩『〔少女庭国〕』について。迷宮に閉じ込められた少女たちを描いている。他の少女を殺せば脱出できるという「デスゲーム」もののはずが、脱出をあきらめ人を増やして「国」を作ってしまうという奇想に満ちた作品。閉じ込められた少女たちの複数のグループの行動パターンがいくつも示され、結果的に架空の博物誌のようになっている。カルヴィーノ『見えない都市』にも似たものを感じる。

・カリンティ・フェレンツ『エぺぺ』について。言語学者が飛行機で寝過ごし、言葉の全く通じない国に迷い込んでしまうという物語。言葉も身振り全く通じずコミュニケーションがとれない…ということ事態が非現実的ではあるが、寓話としてのリアリティは強烈。後半に暴動に参加する主人公の行動には妙なカタルシスがある。希望がほの見える結末もあり、意外と後味は悪くない。作中に登場する工事中のビルは「バベルの塔」の象徴か。

・不条理小説について。カフカを始め、不条理小説においては、その状況に一方的に流されるタイプの話が多いように思う。その点『エぺぺ』はユニークな展開かもしれない。

・恩田陸『MAZE』について。東南アジアで発見された人が消えてしまう迷路についての物語。いろいろな仮説が示される過程は魅力的だが、結末はちょっといただけない。

・ヤン・ヴァイス『迷宮1000』について。チェコで戦前に書かれた「迷宮」テーマ作品。1000階建のビルを支配する独裁者を追う物語。悪夢的な描写が魅力的。

・マリオ・レブレーロ『場所』について。突然「迷宮」に迷い込んだ男の物語。内部に人が普通に暮らしていたりするので、あまり閉塞感はないのが特徴。冒険ものとしても面白い。

・ボルヘス「二人の王と二つの迷宮」「アベンハカン・エル・ボハリー、自らの迷宮に死す」について。どちらも迷宮を扱った作品。「二人の王と二つの迷宮」では象徴的な迷路、「アベンハカン・エル・ボハリー」では物理的な迷宮が扱われている。

・トマス・M・ディッシュ「降りる」について。永遠に続くエスカレーターを降りる男の物語。

・イサーク・エスバン監督の映画『パラドクス』について。 無限に繰り返される空間に閉じ込められた人々を描く作品。ディッシュ「降りる」に似たシーンもあり。作品内のガジェットとしてフィリップ・K・ディック作品が使われていたりするので、監督はSFファンかもしれない。

・ゴシック・ロマンスには定番といっていいほど、巨大な城がよく登場する。ホレス・ウォルポールやウィリアム・ベックフォードに至っては、自身が巨大な城を建造している。

・ベックフォード『ヴァテック』について。悪行の限りをつくす親子の物語。内容的には、悲惨な話だが、描写にデフォルメがきいていて面白く読める作品。

・スティーヴン・ミルハウザー『マーティン・ドレスラーの夢』について。理想のホテルを建造しようとする男の物語。小物だったりホテルだったり対象は様々だが、ミルハウザーには職人の仕事を描いた作品が多い。

・W・H・ホジスン『ナイトランド』について。遠未来で展開されるファンタジー作品。作中に登場する「ラスト・リダウト」は百万単位の人類が居住するという設定の巨大な建物。その中で全てがまかなわれる一つの都市のような存在で、フィクションで登場する想像上の建物としては最大級のものではないだろうか。

・J・G・バラード『ハイライズ』について。巨大ビルで展開される人間の獣性の物語。テクノロジーと対比される野生がポイントか。

・ロバート・R・マキャモン『アッシャー家の弔鐘』について。ポオの「アッシャー家」が実在したら、という設定のホラー作品。作中に登場する屋敷が、入る度に部屋の配置が変わったりする幽霊屋敷なのだが、これは実在する「ウィンチェスター・ミステリー・ハウス」をモデルにしているらしい。

・小川一水「ギャルナフカの迷宮」について。地下の迷宮を舞台にした冒険小説。これは面白かった。

ジュール・ヴェルヌ『黒いダイヤモンド』について。鉱山の地下で発見された広大な空間に都市を建設する話。ヴェルヌの描く人工都市には魅力がある。

・デイヴィッド・リンゼイ『憑かれた女』について。不思議な館を舞台にした恋愛小説。物語自体は結末を含め非常に曖昧だが、妙な魅力がある。

・筒井康隆「遠い座敷」について。延々とつながる座敷を舞台にした作品。日本家屋の扉を開けるのは怖いイメージがある。

・トマス・M・ディッシュ『334』について。タイムスリップで精神を病む男の話など、ユニークなストーリーで構成された連作短篇。

・「沢田マンション」について。高知県に実在する建築物。素人が違法に増築・改築を繰り返したというユニークな建物。

・エッシャーの版画には、無限を思わせる空間が頻出して魅力的。

・エリック・ラーソン『悪魔と博覧会』について。連続殺人鬼H・H・ホームズについてのノンフィクション。彼が住んでいた館が非常に印象的。

・『ゴーメンガースト』シリーズについて。登場する建造物は広大で把握が難しいほど。非常に長大なサーガなので読み通すのはなかなか難しい。奥さんが書いたという4巻目は、訳者が変わっているせいもあり読みやすい。

・ジョン・ソール『マンハッタン狩猟クラブ』について。地下鉄構内で展開されるマンハントもの。雰囲気が非常に良い。

・山尾悠子「遠近法」について。円筒形の内部に存在する世界を舞台にした作品。

・筒井康隆「家」について。巨大な家が舞台の作品。上の階に住む者が下の階に下りてくるのは許されているが、下の階の者が上の階に行くことは禁じられている、という設定が面白い。

・kashmir『てるみな』について。異様な世界観の鉄道マンガ。

・ピラネージの『牢獄』は今見てもすごいイメージの作品。ユルスナール『ピラネージの黒い脳髄』など。

・フィリップ・ホセ・ファーマー『リバーワールド』シリーズについて。巨大な川のそばに再生された人間を描く物語。キャラクターに有名人が出てきたりする。ファーマーは変梃なアイディアの作品が多い。


●二部

・ポオはミステリ、SF、怪奇小説、ユーモア小説など、様々なジャンルの作品を遺しており、非常に多彩な作家だったといえる。

・「赤死病の仮面」について。病が人の形をとって現れるという象徴的な短篇。作中で使われる色彩といい、イメージが素晴らしい作品。

・「群衆の人」について。「群衆」のそばでないと安心できないという男をめぐる異常心理小説。当時としては非常に斬新な作品だと思う。

・ポオの作品はいわゆる「怪奇幻想小説」に属するものが多いと思うが、ヨーロッパの同種のものと違って、妖精や悪魔など、伝統的な超自然要素を使わずに描いているものが多く、その点で新しいタイプの作品を開拓しているのではないか。

・「黒猫」について。ポオの代表作といっていい作品。殺人を犯した男を描く異常心理サスペンス。映像化作品があるが、凄惨な印象だった。猫好きにはお勧めしない。

・「ヴァルドマアル氏の病症の真相」について。催眠術で死を食い止めるという物語。迫力があり怪奇小説の名作だと思うが、発想自体はトンデモ系な気がする。

・ポオの時代においては、催眠術はかなり高度な科学だったのではないか。現代の小説では催眠術や多重人格は安易に使えない題材になっている。

・「メエルシュトレエムに呑まれて」について。巨大な渦に巻き込まれた男の物語。迫力がすごい。一夜にして白髪になるというイメージも強烈。

・「タール博士とフェザー教授の療法」について。患者と医者が入れ替わるという作品。非常にモダンなテーマの作品だと思う。

・「楕円形の肖像」について。妻を絵に描くことによって死なせてしまう画家の物語。ポオ自身がモデル?

・「陥穽と振子」について。巨大な振子というガジェットのインパクトがすごい。振子の印象が強いが、他にも落とし穴や迫ってくる壁など、いくつかのトラップも登場し、そのあたりも面白い。

・ポオはミステリの祖とされるが、「モルグ街の殺人」にせよ「盗まれた手紙」にせよ、現在考えるようなミステリとはかなり違ったタイプの作品だと思う。

・ポオは翻訳家によって大分感触が異なる。創元推理文庫版に関しても読みやすかったという人と読みにくかったという人が。「赤死病の仮面」などはストーリーよりもイメージの固まりといった作品なので、翻訳によって良し悪しが出るのでは。

・ポオの作品には非常に論理的な語りが多い。その最たるものが「メルツェルの将棋差し」だが、物語が始まる前の前置きが非常に長く書かれ、その部分が今となっては冗長になってしまっている部分もある。

・ポオ作品では、前置きがあまり良くないのに対して、結末は非常に印象的なものが多い気がする。「アッシャー家の崩壊」「陥穽と振子」など。

・「ウイリアム・ウィルソン」について。ドッペルゲンガーをテーマにした作品の代表作ともいえる作品。完成度が高い。

・「メッツェンガーシュタイン」について。ポオがゴシック・ロマンスのパロディとして書いた作品だが、あまりに完成度が高いため「ゴシック・ロマンス」の名作とされてしまったという作品。

・「眼鏡」について。視力の悪さから自分の老齢の祖母に求婚してしまうというユーモア小説。大げさな文体も効果的。

・「スフィンクス」。遠近を見誤って蛾を怪物と認識してしまう物語。「ミイラとの論争」などもそうだが、本気なのか冗談なのかよくわからない作品。やっつけ仕事なのか?

・息をなくしてしまうという「息の喪失」、使い切った男を描く「使いきった男」、不条理な出来事に襲われるという「不条理の天使」など、ポオにはユーモア要素の強い作品も多い。

・ロバート・ブロック『ポオ収集家』について。ポオの原稿や資料を集めるポオ収集家を描いたホラー短篇。作品の始まりと終わりが「アッシャー家の崩壊」のパロディになっているところが凝っている。ちなみに、阿刀田高の『ナポレオン狂』は発想が非常に似ているが影響を受けているのだろうか。

・館や屋敷が崩れ落ちたり、焼け落ちたりするという終わり方はフィクションで良く見るが、その原型は「アッシャー家の崩壊」なのかもしれない。

・ポオの未完の作品「灯台」について。ロバート・ブロックが完成させた作品が先に翻訳されていたが、ブロック版は継ぎ目がわからないくらいよく書けていた。思念による物質の創造というのがテーマになっているが、これは明らかにブロックのアイディア。
ポオのオリジナル版が後に訳されたが、まだ事件がまったく起こらない段階で絶筆になっていた。

・ポオの時代、作家業だけで食べていくのは大変だったのではないか。作家だけで食べていけるようになるのは、ジュール・ヴェルヌあたりから? ヴェルヌは今でいうところの少年マンガ作者的な感じがある。

・ヴェルヌ作品は、だいたい登場人物の型が決まっていて、今で言えば、アニメの『タイム・ボカン』シリーズみたいな安定感がある。

・「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」について。ポオ唯一の長篇でありエンタメ要素の強い作品。少年が主人公ながら、出会う困難の暴力度は強烈。結末がちょっと投げやりっぽい面もあるが、今読んでも面白い作品。

・ジュール・ヴェルヌ『氷のスフィンクス』について。ポオの「ピム」の直接の続編。冒険小説としては非常に面白いが、ポオの描いた幻想的な要素を「科学的」に解明してしまうのは残念。

・ヴェルヌはポオに非常に影響を受けていると思う。『氷のスフィンクス』もそうだが、『チャンセラー号の筏』などではカニバリズムが出てくるが、このあたりもポオの「ピム」の影響ではないか?

・ポオはフランスで非常に評価されていた。例えばシュオッブが書いてもおかしくないような象徴派的な作品があったりと、もともとフランス人に受け入れやすい要素があったのかもしれない。

・「ちんば蛙」について。こびとの復讐物語。江戸川乱歩の『踊る一寸法師』への影響もあり? 差別的なニュアンスからか「跳び蛙」や「ホップフロッグ」の訳題もある。乱歩の「一寸法師」も考えたら、すごいタイトルだと思う。

・差別用語を自粛する動きが最近は多い。例えば、ラヴクラフト作品でも差別的な用語があったりして、新訳作品集でも苦労したという話を聞いた。そんななかハヤカワ文庫のフレドリック・ブラウン『さあ、気ちがいになりなさい』はよく出せたなと思う。

・ポオは薄幸のヒロインをよく描くが、意外に個性がない。「ベレニス」「モレラ」「リジイア」など、各作品のヒロインのイメージがごっちゃになりがち。

・スティーヴン・キング『シャイニング』中で、『不思議の国のアリス』と「赤死病の仮面」の引用が使われていて効果的だった。『アリス』の引用は他の作品でもよく見るが、ホラー作品で使われているのは珍しい。

・ポオの作品は、後続の作家に対して広い影響を与えている。例えばフリオ・コルタサルの「占拠された屋敷」もポオの影響を感じる。

・集英社文庫の「E・A・ポー ポケットマスターピース」は選集としては、非常にいいセレクションだと思う。「ピム」がまるごと入っていたり、未完作品「灯台」が入っているあたりはユニーク。

・「庭園」「アルンハイムの地所」について。資産家になった青年が自分の理想の場所を作ろうとする物語。江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』などにも影響が見える。

・アメリカ、ボルチモアの野球チーム、ボルチモア・レイブンズのマークは、ポオの「大鴉」にちなむらしい。地元ではやはり有名?

・「モルグ街の殺人」について。この時代の欧米人には「猿」に対して恐怖の感情があったのだろうか。日本でのイメージと比較すると興味深い。

・ポオの探偵デュパンは、ドイルのシャーロック・ホームズの原型という意味では、強い影響を与えている。

・「早まった埋葬」「アッシャー家の崩壊」などに顕著だが、ポオは死への恐怖心が非常に強かった人なのではないか?

・ポオがよく使う、仮死状態からよみがえるというシチュエーションは、当時としてはかなり恐怖心を煽るものだったと思う。デュマの『モンテ・クリスト伯』や楳図かずお『紅グモ』などでも同じようなシチュエーションが使われている。


●二次会
・ジャン・レイ『マルペルチュイ』について。ギリシャの神々の幽閉をテーマにした幻想小説。傑作だと思う。

・朝里樹『日本現代怪異事典』について。戦後日本の都市伝説を集めた本。非常な労作

・ミルチャ・エリアーデの小説作品について。『令嬢クリスティナ』『ホーニヒベルガー博士の秘密』『ムントゥリャサ通りで』は傑作。『エリアーデ幻想小説全集』が絶版で古書でも高騰しているのは残念。

・ステファン・グラビンスキの邦訳書の装丁について。『火の書』『狂気の巡礼』はそれぞれ工夫を凝らしていて素晴らしい。

・ロバート・ブロック作品について。突き抜けた傑作というのは少ないが、晩年まで安定した作品を書いていた作家だと思う。短篇集『殺しのグルメ』(徳間文庫)は秀作揃い。

・エドワード・ケアリー《アイアマンガー三部作》について。一巻は素晴らしく面白く、二巻がちょっと中だるみするが、三巻で盛り返す。

・「新本格」について。定義がはっきりしない。綾辻行人をはじめ、1980年代後半から90年代にかけてデビューした一連の作家群を指す?

・「本格推理」の傑作を書くのは作家にとって難しい? ホラーも書いている某作家が「ホラーに逃げている」ということを言われているが、ホラーはホラーで書くのは難しいと思う。

・『ハリー・ポッター』シリーズについて。古典ファンタジーと比べると軽いが、読みやすさもあり、ファンタジー入門には最適だと思う。

・地方の書店の状況について。翻訳書の数が少なく、新しい作家に出会うチャンスが少ない。

・ハヤカワ文庫《モダンホラー・セレクション》について。シリーズ完結後も、一時期はどこの古書店でも見たように覚えているが、現在は本当に見なくなってしまった。

・ヴィンチェンゾ・ナタリ監督の映画『キューブ』について。迷宮テーマの作品。シリーズが何作か作られたが、1作目が一番面白い。2作目以降は「罠」に力を入れすぎ。1作目のDVDのおまけの短篇映画『エレヴェイテッド』は面白かった。

・リチャード・マーカンド監督の映画『レガシー』について。ホラー映画としての評価はあまり高くないが、屋敷から脱出しようとして何度も同じところに戻ってきてしまうシーンは秀逸だった。

・ピーター・メダック監督の映画『チェンジリング』について。非常に怖い作品だった。

・ディーノ・ブッツァーティ「屋根裏部屋」について。突然屋根裏に現れた腐らないリンゴの話。インパクトのある寓話。

・「異世界もの」について。現代の若い読者は、「異世界転生もの」は好むが、異世界だけで完結する物語(ハイ・ファンタジー?)は好まない。

・「異世界もの」において、現実世界と同じ物を安易に持ち込むべきではない? ライトノベルなどでは、読者はファンタジー的な記号をテンプレとして認識しているので、現実と同じ物を持ち込んでもそんなに違和感を感じない。場合によっては情景描写も不必要とされることも。

・小・中学校の読書感想文について。課題図書が決められていることが多いが、子供の読みたいものにすべき。感想に関しても、だいたい何を書いてほしいのかが決められているように思う。

・仁賀克雄さんの翻訳やアンソロジーについて。怪奇幻想作品の紹介者は他にもいるが、B級作品に対して愛情が強かったという意味では唯一無二の人だと思う。


「第13回読書会」は、3月25日(日)に開催予定です。テーマは、

第一部:物語をめぐる物語
第二部:作家特集 ステファン・グラビンスキ

詳細は後日あらためて公開したいと思います。

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2月の気になる新刊
2月6日刊 シッゲ・エクランド『迷路の少女』(ハヤカワ文庫NV 予価1296円)
2月6日刊 エラン・マスタイ『時空のゆりかご』(ハヤカワ文庫SF 予価1188円)
2月7日刊 尾之上浩司編『ゴースト・ハンターズ完全読本 怪異を追う者たち『事件記者コルチャック』から『死霊館』まで』(洋泉社 予価2160円)
2月9日刊 長山靖生編『丘の上 豊島与志雄 メランコリー幻想集』(彩流社 予価2592円)
2月10日刊 山白朝子『私の頭が正常であったなら』(角川書店 予価1620円)
2月19日刊 イサベル・アジェンデ『日本人の恋びと』(河出書房新社 予価3024円)
2月20日刊 ケン・リュウ編『現代中国SFアンソロジー 折りたたみ北京』(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 予価2052円)
2月20日刊 トマス・ペリー『アベルVSホイト』(ハヤカワ文庫NV 予価994円)
2月21日刊 ピーター・スワンソン『そしてミランダを殺す』(創元推理文庫 予価1188円)
2月21日刊 日下三蔵編 小泉喜美子『月下の蘭/殺人はちょっと面倒』(創元推理文庫 予価1404円)
2月23日刊 岡本綺堂『異妖新篇 岡本綺堂読物集六』(中公文庫 予価799円)
2月26日刊 森瀬繚『All Over クトゥルー クトゥルー神話作品大全』(三才ブックス 予価2480円)
2月28日刊 西崎憲『蕃東国年代記』(創元推理文庫 予価756円)
2月予定 中野善夫訳『夢のウラド F・マクラウド/W・シャープ幻想小説集』(国書刊行会)

 エラン・マスタイ『時空のゆりかご』は時間ものSF作品だそう。「めざすは1965年!? 自分の時間旅行が原因で世界を変えてしまった男の獅子奮迅の活躍をユーモラスに描いた時間テーマSFの傑作!」。

 『現代中国SFアンソロジー 折りたたみ北京』は、ケン・リュウが選んだ中国SFのアンソロジーだそうで、これは面白そうです。

 最近、小泉喜美子作品の復刊が相次いでいますね。『月下の蘭/殺人はちょっと面倒』は、短篇集二冊の合本です。特に『月下の蘭』は、花・星・蟲・鳥を題材とした短編を収める幻想的な作品集でお勧めです。

 あと、具体的な刊行日はまだ出ていませんが、中野善夫訳『夢のウラド F・マクラウド/W・シャープ幻想小説集』(国書刊行会)が2月刊行予定だそうです。
 (2018年2月4日追記)国書刊行会のサイトに詳細情報が出ていましたので、転載しておきたいと思います。

フィオナ・マクラウド/ウィリアム・シャープ『夢のウラド F・マクラウド/W・シャープ幻想小説集』(中野善夫訳 予価4,968円)
死後に同一人物であることが明かされた二人の作家、フィオナ・マクラウドとウィリアム・シャープ。尾崎翠が思慕し三島由紀夫が讃美した、稀有な魂をもつ作家の作品を初めてひとつに集成する。いま百年の時を経て瑞々しく甦るスコットランドの幻想小説集。
「毎朝こんなふうに世界の美しさに向かって帽子を取ることにしている」
蘇生するケルトの息吹、悲哀と慈愛のロマンス、哲学的な思索の旅……神秘のヴェールに包まれた伝説の作家の知られざる名作幻想小説20篇。

目次
●フィオナ・マクラウド
鳥たちの祝祭
夢のウラド
アンガス・オーグの目覚め
暗く名もなき者
聖別された男
島々の聖ブリージ
射手
最後の晩餐
ルーエルの丘
聖なる冒険
風と沈黙と愛

●ウィリアム・シャープ
ジプシーのキリスト
ホセアの貴婦人
彫像
フレーケン・ベルグリオット
丘の風
涙の誕生と死、そして再生
臆病者
〈澱み〉のマッジ
ヴェネツィア舟歌


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ポオとヴェルヌの「ピムの物語」
 アメリカの文豪エドガー・アラン・ポオの小説作品はその大部分が短篇ですが、唯一、長篇といっていい長さの作品があって、それが『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』(大西尹明訳『ポオ小説全集2』創元推理文庫 収録)です。


4488522025ポオ小説全集 2 (創元推理文庫 522-2)
エドガー・アラン・ポオ 大西 尹明
東京創元社 1974-06-28

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 ナンタケット島出身の冒険好きな少年ピムは、親友のオーガスタスが、船長である父親と共に航海に出ることを知り、オーガスタスの手引きで船に隠れることになります。オーガスタスの合図が来るまで、部屋に潜むことになったピムでしたが、何日経ってもオーガスタスは部屋に現れず、出ようとしたピムは扉が開かなくなっていることに気がつきます。
 体は衰弱し、一緒に潜ませていた愛犬にも襲われるなど、命の危機を迎えるピムでしたが、やがて現れたオーガスタスによって部屋から脱出することに成功します。助かったと思いきや、オーガスタスは船員たちが反乱を起こし、船が乗っ取られたことを伝えます。対応次第では命を失う危険があることも。
 オーガスタスに目をかけていた屈強な船乗りダーク・ピーターズは、オーガスタスからピムの存在を聞き、ピムを利用して、船を取り返そうと考えますが…。

 上にあげたあらすじは、この作品のほんの一部といった程度です。ここまででも、閉じ込められたピムが死にそうになったり、狂った愛犬が襲ってきたり、船員が次々と殺されたりと、波乱万丈なのですが、その部分も全体のほんの一部でしかない、というところに驚きます。船乗っ取り事件の後も、次から次へと困難が襲ってくるのです。
 少年が主人公といえど、襲い来る困難や事件はハードかつ残酷です。敵は容赦なく襲ってきますし、人は次々と死にます。生き残るために、ピムもまた人殺しに加担せざるを得なくなっていくのです。

 作者ポオが本気で書いたエンターテインメントであり、今読んでもその面白さは衰えていません。
 長い作品のため、アンソロジーや文学全集などに収録されることも少なく、それゆえポオの作品としては読まれることは少ないと思うのですが、これは第一級の冒険小説であり怪奇小説といっていいかと思います。

 この『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』、結末も謎に満ちた終わり方であり、それが作家たちを刺激したらしく、この作品から触発されたと思しい作品もいろいろ書かれています。ポオ作品の設定を取り込んで書かれた、H・P・ラヴクラフトの『狂気の山脈にて』(大瀧啓裕訳『ラヴクラフト全集4』創元推理文庫 収録)などがその代表例ですが、なかでもポオ作品の直接の続編といえる作品があり、それが、ジュール・ヴェルヌの『氷のスフィンクス』(古田幸男訳 集英社文庫)です。


B00I9OLXHI氷のスフィンクス(ジュール・ヴェルヌ・コレクション) (集英社文庫)
ジュール・ヴェルヌ 古田幸男
集英社 1994-01-25

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 博物学者ジョーリングは、滞在中の島にやってきたスクーナー船ハルブレイン号に乗せてもらおうとしますが、船長のレン・ガイはなぜか首を縦に振りません。しかし、レン・ガイはやがて態度を変えて、乗船を許可します。その理由は、ジョーリングがコネチカット出身であり、ナンタケット島のことを知っているからだというのです。
 ポオの『アーサー・ゴードン・ピムの物語』が真実だというレン・ガイの言葉を一笑に付すジョーリングでしたが、ガイは、自分がピムを乗せたスクーナー船ジェイン号の船長ウィリアム・ガイの弟だということを明かします。そして兄を探すために航海をしているということも。
 航海中に、行方不明だったジェイン号の航海士パターソンの遺体を発見したことから、ポオの物語は真実だとジョーリングも確信し、ガイ船長に協力を約束します。捜索を開始するに当たって、レン・ガイは船員を大量に補充します。新たに加わったハントと名乗る男は有能な働き者ながら、その来歴は謎に包まれていました…。

 ポオが描いた物語は真実であり、ピムの旅で行方不明になった船員たち、そしてピム自身も生きているのではないかと考えた主人公たちは、彼らの捜索を始めます。準備万端で出航したものの、思いもかけないトラブルが続きます。自分たちの命が危機に陥るなか、行方不明者たちを見つけられるのでしょうか?
 ポオの続編という肩書きは別として、純粋に航海物語として読んでも非常に面白い作品です。航海上のトラブルだけでなく、途中からは船員の反乱の可能性が予想されており、彼らに対する監視を行いながらも捜索を続けなくてはいけないというサスペンスフルな状況になってしまうのです。

 ポオ作品で描かれた事件から十数年が経過しているという設定なのですが、行方不明者たちが生存するための科学的な条件がきちんと提示されているところは、ヴェルヌらしいというべきでしょうか。
 ポオ作品の結末で描かれた超自然的な現象に対しても「科学的」に説明されてしまうので『ピム』を幻想小説として読んでいた読者としては、ちょっとがっかりしてしまう部分もありますね。

 作中で、前作『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』のあらすじが詳細に記されるので、ポオ作品を読んでいなくても大丈夫ですし、単体でも充分に面白い作品です。ただポオの『ピム』を読んでいるとさらに楽しめることは間違いありません。。前作の登場人物が再登場したり、関係者が登場したりします。前作で起こった事件が伏線になっていたりするところは、非常に芸が細かいです。『海底二万里』との関係がちょっと匂わされたりするところも、ヴェルヌファンには楽しいですね。

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愛と孤独  バリ・ウッド『殺したくないのに』
4087600823殺したくないのに (集英社文庫)
ウッド 高見 浩
集英社 1983-02

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 ニューヨーク市警の刑事スタヴィツキーは、ずっと追い続けていた凶悪犯ロバーツが死んだという報告を受けます。ロバーツは、仲間とともに、ある資産家の家に強盗に入った際、突然、首の骨を折って死んだというのです。しかし検死の結果、首の骨は常識ではありえないような力が加えられた結果、折れているということがわかります。しかも相当苦しんだはずだということも。
 調査を続けていくうちに、資産家の夫人ジェニファーの周囲では、過去に何度も不可解な死亡事故が多発していることが判明します。スタヴィツキーは、ジェニファーが超能力による殺人を行ったのではないかと考えますが…。

 バリ・ウッド『殺したくないのに』(高見浩訳 集英社文庫)は、超能力者を扱ったユニークなサスペンスホラー作品。超能力によって殺人が行われたのではないかと考えた刑事が、容疑者の女性ジェニファーの過去を調べていくうちに、彼女の生涯をたどっていくことにもなり、いつの間にか彼女に惹かれるようになる…というストーリーです。
 もちろん、最初から超能力の存在が肯定されるわけではなく、過去の死亡事故や彼女の能力を調べた学者たちなどの話を聞いていくうちに、刑事は確信を深めていくことになります。
 ジェニファーの幼少期から現在までの、過去のエピソードが少しづつ明かされ、超能力者ゆえの孤独をかかえていることが示されます。例え超能力を使わないにしても、彼女には普通の人間をよせつけない雰囲気が生まれつき備わっており、親でさえ彼女を怖がっているのです。
 彼女の人生の悲しさ、孤独さを知った刑事スタヴィツキーは、それでも調査を続けます。やがて彼女を追い詰めることになりますが、最終的にスタヴィツキーとジェニファーはわかりあうことができるのでしょうか?
 過去に数件の死亡事故を起こしている彼女も、そのほとんどは不可抗力の結果であり、好んで人を殺しているわけではないのです。その意味でタイトルの「殺したくないのに」は、実にぴったりなタイトルと言えますね。
 哀感にあふれたサスペンス・ホラーの名品です。

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怪奇幻想読書倶楽部 第12回読書会 参加者募集です
 2018年1月28日(日曜日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第12回読書会」を開催いたします。
若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、連絡をいただきたいと思います。
 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2018年1月28日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:1500円(予定)
テーマ
第1部:迷宮と建築幻想
第2部:作家特集 エドガー・アラン・ポオ

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※基本的には、オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも、安心して参加できると思います。


第1部のテーマは「迷宮と建築幻想」。
 迷路・迷宮を扱った作品や巨大建築物、または現実にはありえない建物など、フィクションならではの建造物をテーマにした作品について話していきたいと思います。
 迷宮そのものを描いた、恩田陸『MAZE』や矢部嵩『〔少女庭国〕』、現実にはあり得ない建物を描いたホルヘ・ルイヘ・ボルヘス『バベルの図書館』やロバート・A・ハインライン『歪んだ家』、理想のホテルを描いた、スティーヴン・ミルハウザー『マーティン・ドレスラーの夢』、人間を支配する建物を描いたスティーヴン・キング『シャイニング』や、閉鎖空間が人間を狂わせるJ・G・バラード『ハイライズ』、また建造物が作品で重要な意味を持つ、エドガー・アラン・ポオ「アッシャー家の崩壊」やフリオ・コルタサル「占拠された屋敷」など、広い意味での「幻想的な建物」を扱った作品について話していきたいと思います。

第2部のテーマは「作家特集 エドガー・アラン・ポオ」
 「アッシャー家の崩壊」「モルグ街の殺人」「赤死病の仮面」「黒猫」「ウイリアム・ウィルソン」「陥穽と振子」…。
 アメリカの文豪エドガー・アラン・ポオは怪奇幻想小説の巨匠であり、またミステリの祖でもあり、SFの先駆者でもあります。多様な面を持つポオの作品を、今一度読み直してみようという企画です。

※創元推理文庫から出版されている『ポオ小説全集』(全4巻)をメインに話していきたいと思いますが、各社から出ている選集(ちくま文庫、岩波文庫、新潮文庫、光文社古典新訳文庫など)で代表作だけ読んできていただいても構いません。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

アフリカの神々  ジョン・ファリス『サーペント・ゴッド』
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サーペント・ゴッド (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
ジョン・ファリス 工藤 政司
早川書房 1987-11

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 結婚式場で突然錯乱したブラッドウイン少尉は、サーベルで花嫁と父親を惨殺し、自らも命を絶ちます。その後もブラッドウイン一族には、たびたび奇怪な事件が持ち上がります。
 一方、医者として活動する男は、アフリカの奥地で数百年生きているという謎の女性に出会いますが、その直後に、精神を病んでしまいます。錯乱した男は、息子の頭蓋骨に対して手術を行おうとしますが失敗します。命をとりとめた息子ジャクソンは、成人するに及び、自らも医者となります。ブラッドウイン家当主の後妻ノーラと出会ったことから、ジャクソンは、再びアフリカの呪術と相対することになりますが…。

 ジョン・ファリス『サーペント・ゴッド』(工藤政司訳 ハヤカワ文庫NV)は、アフリカの蛇神をテーマにした伝奇ホラー作品です。
 冒頭にブラッドウイン少尉が錯乱する事件とその顛末が描かれ、次の章ではアフリカで医者が土俗の神と呪術に出会う事件が描かれます。その2つの流れがどこで結びつくのかわからないまま物語は進みますが、やがて医者の息子ジャクソンは、ブラッドウイン家当主の後妻ノーラと恋人関係になり、ブラッドウイン家の呪いと向き合うことになるのです。
 序盤はブラッドウイン家の次男チャールズの視点、中盤からは医者になったジャクソンの視点で描かれ、正直、主人公は誰なのかはっきりしません。
 序盤で視点人物となるチャールズが、後半フェイドアウトしてしまったり、ブラッドウイン家の過去の事件とアフリカの呪いとの結びつきがはっきりしなかったりと、作品としてのバランスは非常に悪いです。ただ詰め込まれたネタの豊富さもあり、ホラー作品として、どこか捨てがたい味を持った作品といえます。

 やたらと沢山の伏線が詰め込まれているのが特徴で、いくつもの謎が登場します。ブラッドウイン少尉が錯乱したのはなぜなのか? 数十年前に失踪したブラッドウイン家の長男の行方は? 過去にブラッドウイン家に起こった事件とは? 当主の後妻ノーラの正体は? アフリカで医者が出会った謎の女性の正体は? ジャクソンが死にかかった手術は何のためだったのか?
 詰め込みすぎて、最終的に解決しない伏線や謎がたくさん残ります。おそらく著者が伏線を回収しきれていないだけだと思うのですが、不思議なことに、逆にそうした部分が物語に広がりを与えているのですよね。読者がサイド・ストーリーをいくつも想像できるような膨らみがあるといってもいいかもしれません。
 決して「傑作」ではないのですが「面白い」作品だといえます。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

新年のご挨拶
 2018年最初の更新になります。今年もよろしくお願いいたします。

 昨年は読書会に関連して、同じテーマを扱った作品の集中読書をすることが多く、そのおかげで例年になく本が読めた年でした。ただそのおかげで、読みたい本、買い込む本が増えてしまい、結局、積読本が倍増してしまったのは、悩みどころでもありますね。

 年末、年初に読んでいた本からいくつか紹介していきたいと思います。



448801075X肺都(アイアマンガー三部作3) (アイアマンガー三部作 3)
エドワード・ケアリー 古屋 美登里
東京創元社 2017-12-20

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エドワード・ケアリー『肺都』(古屋美登里訳 東京創元社)
 堆塵館は崩壊し、穢れの町から逃げ延びたアイアマンガー一族は、ロンドンに入り込みます。一族の影響なのか、ロンドンの内部は闇におおわれ、人々の間では奇妙な病気が蔓延していました。
 ロンドンを支配しようとする一族に反発するクロッド、そして子供たちとともに逃げ延びたルーシーは、互いに相手を探し始めます…。

 《アイアマンガー三部作》の完結編です。舞台をロンドンに移し、各勢力が縦横無尽に動き回るという、大スペクタクルになっています。
 国をひっくり返そうとするアイアマンガー一族、ビナディットやピナリッピーとともに出奔したクロッド、アイアマンガー一族を追う警察、一族の宿敵とも言うべき謎の男ジョン・スミス・反アイアマンガー、ロンドンの子供たちの助けを借りクロッドを探すルーシー、クロッドの命を狙うモーアカス、暴走するリピット…。
 敵役だと思っていた人物が味方についたり、逆に裏切られたり、追い詰められた一族のためにクロッドが奔走したりと、個性豊かな登場人物たちがこれでもとばかりに動き回り、最後まで息つく暇がありません。
 クライマックスでは、絶大な力を持ちながら今まで受身だったクロッドの活躍も見られます。結末にたどり着いたときの感動はひとしおですね。
 一作目、二作目を含め、素晴らしいシリーズでした。



4885880947魔法にかかった男 (ブッツァーティ短篇集)
ディーノ ブッツァーティ Dino Buzzati
東宣出版 2017-12-13

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ディーノ・ブッツァーティ『魔法にかかった男』(長野徹訳 東宣出版)
 初期から中期にかけての、ブッツァーティの未訳作品を集めた作品集の第一弾です。てっきり落穂拾い的な作品集かと思っていたのですが、さにあらず。「全盛期」のブッツァーティ作品で、非常に充実した短篇集でした。
 迷い込んだ猫を隠したことから起こる事件を描いた「騎士勲章受勲者インブリアーニ氏の犯罪」、学校で「変わってしまった」弟を描く「変わってしまった弟」、悪魔との契約テーマの「エレブス自動車整備工場」、得体の知れない男に一生を通じて追いかけられるという「個人的な付き添い」、悪夢のような不条理小説「あるペットの恐るべき復讐」など。
 巻末の中篇といっていい長さの「屋根裏部屋」は特に力作です。ある日、画家の家の屋根裏部屋に突如リンゴの山が現れます。その香りと味はこの世のものとも思えず、しかもリンゴはいつまで経っても腐らないのです。これは「禁断」のリンゴかもしれないと考える画家でしたが…。
 最初から最後まで、リンゴをめぐる画家の「不安」のみが描かれるという、純度の高い寓話小説です。代表作『タタール人の砂漠』とどこか通じるところもある作品ですね。



4121015614吸血鬼伝承―「生ける死体」の民俗学 (中公新書)
平賀 英一郎
中央公論新社 2000-11

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平賀英一郎『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』(中公新書)
 フィクションの吸血鬼ではなく、主に東欧に伝わる吸血鬼伝承を追った本です。吸血鬼の本質は「生ける死体」だとしていて、それゆえ、血を吸わない吸血鬼というのも出てきます。「民俗学的な吸血鬼」なので、ドラキュラのようなスマートなものではなく、元は農民で体は半分腐っていてと、ほとんどゾンビみたいです。
 東欧、中欧、バルカン諸国、トルコなど、それぞれの国の吸血鬼伝承をその国の名称で細かく見ていくという堅実な内容です。吸血鬼といっても、国によってその内容に魔女や人狼、夢魔などを含んだりしていて、同じ「吸血鬼」でもその意味するところはグラデーション状…というのが興味深いですね。
 「ドラキュラ以前」の吸血鬼像を知りたい方には、オススメしておきたいと思います。ロシアや東欧の吸血鬼小説を読む際にも参考になるんじゃないでしょうか。



B000J8DKMS蛾 (1979年) (サンリオSF文庫)
ロザリンド・アッシュ 工藤 政司
サンリオ 1979-10

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ロザリンド・アッシュ『蛾』(工藤政司訳 サンリオSF文庫)
 大学教授ハリーは、古い屋敷に魅せられ、そこに通ううち、屋敷を見に訪れた人妻ネモに惹かれはじめます。屋敷で行われたパーティの席上、ハリーはネモに幽霊らしき存在が取り憑くのを目撃します。直後にネモと肉体関係を結んだハリーは、彼女に殺されそうになりますが、何とか逃れます。
 ネモの日記を盗み読んだハリーは、彼女が何人もの男性と関係した直後に、彼らを殺害していることを知ります。ハリーが目撃した幽霊は、かって屋敷に住んでいた女優サラ・ムーアであり、殺人を犯しているのはネモに取り憑いたサラではないのかと考えたハリーは、ネモを救うために奔走することになりますが…。

 人妻ネモは、最初は地味な中年女性として登場します。それだけに、人格が豹変したような行動は幽霊に憑かれたせい、と解釈してしまいがちなのですが、客観的に幽霊のせいだとは書かれていないのがポイントです。殺人もネモの妄想の可能性があり、ハリーも最初はその疑いを持って動くことになります。
 霊の存在はともかく、殺人自体の真実が疑えなくなった時点で、ハリーはネモを守ろうと決心します。場合によっては自分も人殺しを辞さないという覚悟を固めますが、その間にもネモは別の男性を誘惑し始めていました…。
 幽霊が本当に存在するのかが、最後まではっきりとわかりません。それに加えて、序盤は殺人が真実なのか否か、後半からは更なる殺人を防げるのか、ネモを救えるのか、といったサスペンスが発生するなど、一冊でいろいろな要素が楽しめます。
 ホラーとサスペンスの境界線上の作品として、秀作の一つではないでしょうか。



B000J835HI嵐の通夜 (1980年) (サンリオSF文庫)
ロザリンド・アッシュ 工藤 政司
サンリオ 1980-10

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ロザリンド・アッシュ『嵐の通夜』 (工藤政司訳 サンリオSF文庫)
 ヨーロッパに留学していたベスは、農園を営む実家に帰省します。両親はすでに亡く、双子の兄トムが農園を取り仕切っていました。帰省直後に強烈な嵐に襲われた館は、崩壊の危機に陥ります。飛行機でやってくるはずの従兄エドワードの行方もわからない状態で、一行は不安な夜を過ごしますが、館の外に出たベスの幼馴染モーリスが、首をはねられた状態で見つかります…。

 嵐を迎えた広壮な館の中で繰り広げられるゴシック・ロマンです。ヒロインのベスは、従兄エドワードに恋心を抱いていますが、野生的な魅力を持つモーリスにも惹かれています。兄のトムは妹に偏執的な愛情を抱いており、モーリスとの仲を嫉妬している…という、複雑な構図が描かれます。
 やがてモーリスが殺され、迷信深い使用人たちは怯え始めます。館の女中頭ナンは、現地の魔術師とされており、彼女の言動が混乱に拍車をかけていきます。
 嵐の一夜を描く物語であり、実際の一夜の時間経過がそれぞれの章を成しているという趣向です。
 『蛾』と異なり、明確に超自然現象が発生するという点で「ホラー小説」といっていい作品です。嵐がやってきてからの館の雰囲気は素晴らしいですね。後半に起こる超自然現象もじつに夢幻的で、幻想小説好きにはオススメしたい作品になっています。ちなみに、スティーヴン・キングが激賞した作品だとか。


 最後に、2018年度刊行予定の本の中から、気になる本をご紹介しておきたいと思います。

ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』(水声社 2月予定)

マルク・パストル『悪女』(創元推理文庫 3月予定)
 「バルセロナの吸血鬼」と呼ばれた実在の犯罪者に想を得て書かれた作品だそうです。

ミック・ジャクソン『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』(東京創元社 11月予定)
 『10の奇妙な話』の作者による短篇集です。

アンナ・スメイル『鐘』(東京創元社 12月予定)
 鐘の音で人々が支配される世界を舞台にした作品、らしいです。世界幻想文学大賞受賞作品。

アナトール・フランス『ペンギンの島』(白水Uブックス 3月予定)
 洗礼を施されたペンギンが人間になってしまうという作品。中央公論社の『世界の文学』に入っていたこともある作品ですね。

オラフ・ステープルドン『スターメイカー』(ちくま文庫)
 国書刊行会から単行本の出ていた作品の文庫化。

スティーヴン・ミルハウザー『危険な笑い』(白水社 6月予定)
 ミルハウザーの短篇集です。

シャルル・バルバラ『ウィテイントン少佐』(国書刊行会)
 表題作は、雑誌『幻想文学32号』に翻訳が掲載されてますね。人形テーマの幻想小説ですが、短篇作品なので、他にも作品が収録されるんでしょうか。

フィオナ・マクラウド『夢のウラド』(国書刊行会)

南條竹則編訳『英国怪談集成』(国書刊行会)

垂野創一郎編訳『ドイツ幻想小説集』(国書刊行会)

イサベル・アジェンデ『日本人の愛人』(河出書房新社)

ダグラス・アダムス『長く暗い魂のティータイム』(河出文庫 3月予定)
 「ダーク・ジェントリー」の2作目。

ケラスコエット『サタニエ』(河出書房新社)
 『かわいい闇』で話題を呼んだバンド・デシネ作家の新作だそう。

マリアーナ・エンリケス『わたしたちが火の中で失くしたもの』(河出書房新社 9月予定)
 「ラテンアメリカ新世代の「ホラー・プリンセス」による悪夢のような12の短篇集」だそうで、これは気になりますね。


 ※ネット上に公開されていた、「読んでいいとも!ガイブンの輪」の「来年の隠し玉」の内容レジュメを参照させていただきました。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。
twitterアカウントは@kimyonasekai



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