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怪奇幻想読書倶楽部 第9回読書会 参加者募集です
 2017年10月8日(日曜日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第9回読書会」を開催いたします。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、連絡をいただきたいと思います。
 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2017年10月8日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:1500円(予定)
テーマ
第1部:怪奇幻想小説の叢書を振り返る
第2部:作家特集 シャーリイ・ジャクスン

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※個人の発表やプレゼンなどはありません。話したい人が話してもらい、聴きたいだけの人は聴いているだけでも構いません。
※基本的には、オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも、安心して参加できると思います。


 第1部のテーマは「怪奇幻想小説の叢書を振り返る」。
 戦後日本において刊行されてきた、怪奇幻想小説の叢書やシリーズについて話していきます。例えば《ドラキュラ叢書》《妖精文庫》《世界幻想文学大系》《異色作家短篇集》《バベルの図書館》《魔法の本棚》《ダーク・ファンタジー・コレクション》《ナイトランド叢書》など。
 それぞれの叢書の特徴や、セレクションの内訳、また刊行年代や、どのようにそれらが受容されてきたのかなども、合わせて検討したいと思います。

 第2部は「作家特集 シャーリイ・ジャクスン」。
 幽霊屋敷ものの名作『丘の屋敷』(『山荘奇談』)、暗黒のメルヘン『ずっとお城で暮らしてる』、いまだに論議を呼び続ける問題作『くじ』など、ワンアンドオンリーとしか呼びようのない作品を残した作家、シャーリイ・ジャクスンについて話していきたいと思います。
 近年、復刊や未訳作品の邦訳も進み、ジャクスンの多様な面に触れることができるようになってきました。ジャクスンについて語るには絶好のタイミングではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

10月の気になる新刊
10月5日刊 レオ・ペルッツ『アンチクリストの誕生』(ちくま文庫 予価972円)
10月5日刊 J・P・ディレイニー『冷たい家』(ハヤカワ・ミステリ 予価1944円)
10月5日刊 W・ブルース・キャメロン『真夜中の閃光』(ハヤカワ文庫NV 予価1188円)
10月5日刊 ブレイク・クラウチ『ダーク・マター』(ハヤカワ文庫NV 予価1188円)
10月5日刊 鹿島茂『フランス絵本の世界』(青幻舎 予価3456円)
10月12日刊 エドワード・ゴーリー『思い出した訪問』(河出書房新社 予価1296円)
10月14日刊 C・S・ルイス『新訳 ナルニア国物語1 ライオンと魔女と洋服だんす』(角川つばさ文庫 予価713円)
10月16日刊 グスタフ・マイリンク『ワルプルギスの夜 マイリンク幻想小説集』(国書刊行会 予価4968円)
10月18日刊 J・L・ボルヘス『語るボルヘス 書物・不死性・時間ほか』(岩波文庫 予価626円)
10月18日刊 近藤ようこ(坂口安吾原作) 『桜の森の満開の下』(岩波現代文庫 864円)
10月18日刊 近藤ようこ(坂口安吾原作) 『夜長姫と耳男』(岩波現代文庫 1058円)
10月19日刊 クリストファー・プリースト『隣接界』(新ハヤカワSFシリーズ 予価2700円)
10月19日刊 フィリップ・K・ディック『銀河の壺直し 新訳版』(ハヤカワ文庫SF 予価886円)
10月19日刊 A・G・リドル『タイタン・プロジェクト』(ハヤカワ文庫SF 予価1123円)
10月21日刊 フランシス・ハーディング『嘘の木』(東京創元社 予価3240円)
10月25日刊 ジン・フィリップス『夜の動物園』(角川文庫 予価1166円)
10月25日刊 エセル・M・マンロー/サキ『サキの思い出 付サキ短篇選』(彩流社 予価2160円)
10月27日刊 山口雅也編『奇想天外 復刻版 アンソロジー』(南雲堂 予価1944円)
10月27日刊 山口雅也編『奇想天外 21世紀版 アンソロジー』(南雲堂 予価2160円)
10月27日刊 田中貢太郎『日本怪談実話(全)』(河出書房新社 予価1944円)
10月27日刊 『ユリイカ 11月号 特集スティーヴン・キング』(青土社 予価1512円)
10月29日刊 G・K・チェスタトン『ポンド氏の逆説 新訳版』(創元推理文庫 予価886円)


 10月の目玉はやはり、レオ・ペルッツ『アンチクリストの誕生』(ちくま文庫)と、グスタフ・マイリンク『ワルプルギスの夜 マイリンク幻想小説集』(国書刊行会)でしょうか。

 レオ・ペルッツ『アンチクリストの誕生』は、幻想的な歴史小説で知られる著者の初の邦訳短篇集。8編を収録とのこと。訳者の垂野創一郎さんが出していた私家版の短篇もいくつか収録されているようです。表題作『アンチクリストの誕生』は、サスペンス味たっぷりの歴史ロマン。以前に書いたレビューを載せておきます。
http://kimyo.blog50.fc2.com/blog-entry-564.html

 グスタフ・マイリンク『ワルプルギスの夜 マイリンク幻想小説集』は、ドイツ幻想小説の大家マイリンクの幻想小説集です。収録作は全て本邦初訳。『白いドミニコ僧』『ワルプルギスの夜』の2長篇小説のほか、短篇8編とエッセイ5編を収録だとのことです。

 『サキの思い出』は、サキの姉によるサキの評伝。こんなものまで訳されるとはびっくりです。短篇もいくつか収録されるようですね。

 南雲堂から刊行予定の『奇想天外 復刻版 アンソロジー』『奇想天外 21世紀版 アンソロジー』は、かって刊行されていたSF雑誌「奇想天外」のアンソロジー。実際に刊行されたバックナンバーからのアンソロジーと、現代でこの雑誌が刊行されたなら…というコンセプトで編まれた21世紀版アンソロジーの2冊となっています。
 収録内容が既に公開されていますが、それぞれ、小説、翻訳、評論、コラムとバラエティに富んだ内容ですね。翻訳ものだけでいえば、『復刻版』では、H・F・エリス、ロッド・サーリング、エヴァン・ハンター、ヘンリー・カットナー、オーガスト・ダーレス&マック・レナルズ、フィリップ・ホセ・ファーマー、『21世紀版』では、アーサー・モリソン、ウィリアム・トレヴァー、アントニイ・バークリー、カミ、ボブ・ショウなどの名前が挙がっています。これは面白そう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

霊さまざま  木犀あこ『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』
4041061377奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い (角川ホラー文庫)
木犀 あこ
KADOKAWA 2017-09-23

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 新人ホラー作家の熊野(ゆや)惣介は、怪奇小説誌『奇奇奇譚』の編集者である善知鳥(うとう)とともに、心霊スポットを訪れ取材を重ねていました。
 霊を「見る」ことのできる熊野と、霊に「強い」善知鳥は、体験した怪奇現象をネタに作品を書こうというのです。
 複数の場所でそれぞれ違う形の霊と遭遇する二人でしたが、それらの霊には共通点がありました。霊は奇妙な音の組み合わせを発し、意志の疎通をしようとするかのように見えますが、それが叶わないと消えてしまうのです。霊現象の背後を調べるうちに、二人はある人物に行き当たることになりますが…。

 木犀あこ『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』(角川ホラー文庫)は、第24回日本ホラー小説大賞・優秀賞受賞作。ホラー作家と編集者のコンビが、心霊現象を調査していくという作品です。霊を見ることができるが対抗する力はない熊野と、逆に霊は見えないが対抗する力を持つ善知鳥を組み合わせているのが面白いところですね
 幽霊は存在するのかどうか?という点は疑問にされません。幽霊自体の存在は明確にされており、その上で、その霊がどういうものなのかを調査するという形になっています。

 怖がりである熊野と自信家である善知鳥のキャラクターの掛け合いもあり、心霊現象に遭遇しても陰惨な印象はありません。
 登場する個々の霊現象に関しても、それぞれ工夫がされていますが、特に面白いと思ったのは、植物園で起こる「謎の発光体」に関わる事件でしょうか。面白い形の霊が描かれ、それを認識する主人公の霊の捉え方も目から鱗でした。
 霊現象全体の謎の真相もなかなかユニークで、こういうアプローチの作品はあまり読んだ覚えがありません。作品全体に「メタな趣向」が使われているのですが、作家と編集者を主人公にしている必然性がちゃんと感じられるところに、非常に感心しました。

 わりと短い枚数の作品ですが、テンポは良く、リーダビリティは高いです。序盤で、「全く別の霊が、共通した振舞いを示すのはなぜなのか?」という謎が提示され、主人公たちの目的が明らかになるのが早いのも影響しているのでしょうか。
 作家である主人公の作品名がたびたび言及されますが、「さもなくば胃は甘海老でいっぱいに」「付喪神デッドパレード」「家具とそうでないものとの区別がつかない男性作家」など、面白そうなタイトルで、こちらも読んでみたくなりますね。
 善知鳥の力の由来が何なのかはまだ描かれておらず、続編が書かれるならそちらで描かれることになるのでしょうか。
 アイディアに溢れた丁寧な作品で、怪奇小説ファンとしては非常に満足のゆく作品でした。

テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

大いなる神々  ニコラス・コンデ『サンテリア』
4488556019サンテリア (創元推理文庫)
ニコラス コンデ Nicholas Conde
東京創元社 1993-02

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 妻を事故で失い、幼い一人息子とともにニューヨークに引っ越してきた人類学者のキャル。折しも町では、幼児の連続殺人が続いていました。担当の刑事は、連続殺人がヴードゥ=サンテリアの儀式の生け贄ではないかと考え、キャルに協力を求めます。
 ヴードゥを信じる恋人の手引きもあり、キャルはやがてヴードゥの効力を信じるようになっていきます。やがて幼児連続殺人の真相に行き当たったキャルは戦慄することになりますが…。

 ニコラス・コンデ『サンテリア』(大瀧啓裕訳 創元推理文庫)は、ヴードゥを扱ったオカルト・ホラー小説です。
 かなり分厚い本ですが、後半になるまで派手な事件は起きません。それまでは何が描かれるかというと、主人公の周囲の日常生活がリアリスティックに描かれるのです。ただ単なる日常ではなく、そこにはヴードゥの影がじわじわと忍び込んできます。
 主人公キャルは、人類学者とはいえ、かなりの現実主義者として描かれます。最初はヴードゥを迷信とみなしますが、ヴードゥの効力を目の当たりにし、その信仰に取り込まれていく過程がじわじわと描かれるのです。
 ヴードゥとはいっても、この作品で描かれるそれは、日常生活と同化した文化のような宗教で、それを信仰する人たちにとっては、もはや生活の一部のようなものなのです。ただ、それだけに何の疑問も持たずその信仰に従う人々を見て、キャルは驚きます。
 もともとヴードゥ信仰を持っていたヒスパニック系の人々だけでなく、ニューヨークの上流階級の人々が公然とヴードゥに関する集会を行う場面は、かなり不気味です。
 恋人がヴードゥの神々を信じていることにショックを受けるキャルですが、半信半疑で行った儀式の効果が現れたことから、だんだんとヴードゥは真実ではないかと考え始めます。やがて、自らの息子が生け贄になる運命だと悟ったキャルは、息子を助けるために奔走することになるのですが…。

 後半までは、作中で登場するヴードゥの魔術やその効果は、超自然的なものではないという解釈も成り立つように描かれています。その意味では、カルト教団をめぐるスリラーとも読めるのですが、結末付近になると、魔術や神々の存在はほぼ疑い得ないようになっており、壮大な規模の「破滅もの」として読むことも可能になっています。
 荒唐無稽になりがちな同種の作品の中にあって、非常に強いリアリティを持った、ホラー小説の傑作の一つといっていい作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

現実と幻想のあいだ  A・メリット『魔女を焼き殺せ!』
4883752747魔女を焼き殺せ! (ナイトランド叢書2-6)
A・メリット 森沢 くみ子
書苑新社 2017-08-09

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 ある日、ローウェル医師のもとに男が運び込まれてきます。その男ピーターズは目を開いたまま微動だにしません。しかし、その目の中には恐怖の色が現れていました。診察を行っても、原因も症状もはっきりしないまま、ピーターズは死んでしまいます。
 調査の結果、同じような症状で死んだ人間が何人もいることがわかります。年齢や性別も様々な患者たちに共通するのは、ある人形に関わっていたという事実でした。
 ピーターズの友人である裏社会の大物リコリは、これらの病の原因は、精緻な人形を作ることで知られる女性、マダム・マンディリップの魔術のせいだと話します。
 やがてリコリも、謎の症状に襲われて動けなくなってしまいます。ローウェルは、マンディリップは催眠術や心理的な効果を利用して人々を操っているのではないかと考えますが…。

 A・メリット『魔女を焼き殺せ!』(森沢くみ子訳 アトリエサード)は、ヒロイック・ファンタジーで知られる著者の、魔術を扱った怪奇スリラー作品です。
 主人公のローウェル医師は、裏社会の人間ながら、意気投合したリコリとその部下たちと協力して、不審な連続死の原因を探ろうとします。怪しい人物は初めからわかっているのですが、二人の間でその解釈については意見が分かれてしまいます。
 敵が魔術を使っていると主張するリコリに対し、ローウェル医師はあくまで科学の領域で解釈をしようとするのです。
 身近な人間が何人も突然死に見舞われたことに対し、ようやくローウェルも、敵の魔術的な力を認め始めます。しかし、だからといって、素直に魔術を信じるわけでないのです。魔術は仮に存在すると仮定して、その魔術なりの論理があるのではないかと考えていくのが面白いところ。
 敵方の支配力が強力で、離れたところから人を操るだけでなく、正面から向かい合っても意志をくじかれてしまうなど、なかなか打つ手がありません。しかも合法的に敵を捕えるための証拠もないのです。
 リコリたちは、裏社会ならではの手段を使って敵を追い詰めようと考えますが…。

 1933年発表の古典的な作品ですが、終始サスペンスがとぎれず、今読んでも面白い怪奇スリラーです。
 発表年代を考えても、怪異現象に対して懐疑的な主人公を配したりと、非常にモダンなホラー小説といえます。主人公は、最後まで現実的な解釈を提示するのですが、すでにその時点では自分で言っていることを信じることはできていないのです。結末のセリフは、そのことを表わす意味深長なものになっており、深い余韻をたたえています。

 ちなみに、この作品、トッド・ブラウニング監督により映画化されています。(『悪魔の人形』(1936))。アイディアだけを使用した、全く別の作品といっていいのですが、こちらはこちらで面白い作品です。1930年代ながら、特撮もなかなか凝っています。
以前に書いたレビューはこちら。
ホラーの黎明  『アメリカンホラーフィルム ベスト・コレクション』

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

『ゴッド・プロジェクト』と『レリック』を読む
4167275287ゴッド・プロジェクト (文春文庫 (275‐28))
J・ソール 田中 靖
文藝春秋 1984-10

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ジョン・ソール『ゴッド・プロジェクト』(田中靖訳 文春文庫)

 コンピュータを生業とするキャリアウーマン、サリーは、夫のスティーヴとの間に二人の子どもにも恵まれ、仕事も私生活も充実した生活を送っていました。しかし、生まれたばかりの娘ジュリーが、ある日突然死んでしまいます。医者は「乳児突然死症候群」であり、親の責任ではないと話しますが、サリーは自分を責め続けます。
 周囲に、同じく娘を突然死で無くした母親が何人もいることに気付いたサリーは、ジュリーの死も何か共通した原因があるのではないかと考え、調査を始めます。
 一方、問題児ではあるものの、健康優良児として知られる少年ランディは、見知らぬ女に誘われ、子どもが集められた研究機関のような場所に監禁されてしまいます。
 サリーは、ランディの母親ルーシイとともに調査を続けますが、やがて浮かび上がってきた事実は意外なものでした。サリーの息子ジェイソン、娘のジュリー、そしてランディは、ある機関によって生後間もない時期から密かに調査の対象になっていたのです。そしてそれらの子どもは、ある特定の医師によって取り上げられた子どもたちでした…。

 秘密機関によって調査されていた子どもたちの恐るべき秘密が明かされる…といった感じのSFホラーです。
 物語の大枠としては、娘の突然死の原因を追及しようとするサリーと、行方不明になった息子を捜すルーシイとの、二人の母親のパートがメインとなっています。そしてその間に、誘拐された少年ランディ、サリーの息子ジェイソン、サリーの担当医ワイズマン、研究機関CHILDの研究者などが、カットバックで描かれていきます。
 リーダビリティは非常に高いです。同時並行で各パートが描かれるのですが、謎の研究機関の思惑は何なのか? 複数のパートはどこまで関連しているのか? といった面がなかなか判明しません。赤ん坊の突然死、子どもの誘拐、研究機関の動きなど、多様な要素で読者の興味を引っ張ります。
 特に、ランディが監禁される少年たちの「学校」のパートは、インパクト大です。その場所では、ランディと同じような少年たちが集められており、ある程度の規律さえ守れば、少年たちの遊びは完全に自由であり、危険な行為や暴力的な行為さえ許されています。無邪気に遊ぶ子どもたちの行動はエスカレートしてゆき、やがて惨事にまで至ってしまうのです。

 子どもたちは何のために監視されているのか? 彼らには何か特殊な能力があるのか? という陰謀の謎は、早い段階で読者にはわかってしまうと思います。ただ、その謎がわかった後でも、別の面での興味が新たに浮かび上がってきます。
 作品中に登場する子どもたちは、肉体的にどこか異常があることに加え、内面もまた、倫理的に麻痺したような面を持っています。これらの子どもたちがどうなるのか? 何を引き起こすのか? といった面で、物語がどうなるのか予断を許さないのです。
 ラストを含め、非常に後味の悪い話なのですが、いろいろな要素の詰まった作品であり、一読の価値がある作品ではないでしょうか。



4594022448レリック〈上〉 (扶桑社ミステリー)
ダグラス プレストン リンカーン チャイルド Douglas Preston
扶桑社 1997-05

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ダグラス・プレストン/リンカーン・チャイルド『レリック』(尾之上浩司訳 扶桑社ミステリー)

 アマゾンの奥地で、謎の種族コソガを調査していた探検隊は不可解な原因で死を遂げていました。
 そして現在、数千人の職員を擁するニューヨーク自然史博物館の内部で、少年二人が惨殺死体で発見されます。引き裂かれた死体の頭部には、何者かが脳の一部を食べたと思われる跡がありました。その後も職員の殺害は続き、博物館の内部に殺人鬼が潜んでいることが確実になります。
 FBI捜査官ペンダーガストとニューヨーク市警察のダガスタ警部補は協力して捜査に当たることになりますが、近々行われる大掛かりな展覧会を前に、館長ライトやその取り巻きたちは、調査に協力的ではありません。
 一方、大学院生のマーゴは、師であるフロック博士とともに独自の調査を開始しますが、そこでわかったのは、殺人を繰り返している何者かは人間ではないということでした。殺人鬼の正体は、コソガ族が崇拝していたという、謎の生物「ンヴーン」なのだろうか…?

 巨大な博物館内部に潜む殺人鬼、しかもそれは人間ではなく、アマゾンの奥地からやってきた謎の生物だった…という伝奇ホラー的な作品です。
 前半は、殺人を繰り返す怪物の正体について、主人公たちが調査を重ねていく様子が描かれます。学者が集まっているという博物館だけに、いちおう学問的なアプローチが進められていくことになります。コンピュータで怪物の正体を解析していくあたりは、ハイテクスリラーっぽいですね。
 後半、怪物が正面きって現れてからは、スペクタクル満開で面白くなります。誤ってセキュリティが破壊され、人々も分散して逃げるなか、どこから怪物が襲ってくるかわからないというシチュエーションは魅力的ですね。
 この怪物が強力で、骨が硬すぎて拳銃も貫通しないという強靭さ。どうやって勝つんだろうと思っていたら、意外にあっさりと決着がついてしまうのには驚きました。
 題材はB級ながら、なかなか面白い作品なのですが、やはり、後半の怪物との対決までの間がかなり長いので、そこまでに退屈してしまう人もいるかもしれません。
 ただ、謎の生物「ンヴーン」の正体にひとひねりが加えられているのには感心しました。


※今回取り上げた2冊は、Greenさんの好意でお貸しいただいた本です。面白い作品を読む機会をいただき、ありがとうございました。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

ジェームズ・ハーバートの恐怖小説
 イギリスの作家、ジェームズ・ハーバート(1943-2013)は、1970年代からホラー作品を中心に発表していた作家です。生前は非常に人気があり、一時期は、イギリスにおいてスティーヴン・キングより人気のあるホラー作家と言われていた人です。
 ハーバート作品の特徴は、とにかくエンターテインメントに徹していること。 読者を楽しませるために、見せ場をやたらと作ります。ただ、その見せ場は大抵、残酷シーンだったり、怪物に襲われたりと、B級まっしぐらな部分なので、人によっては眉をしかめるかもしれません。しかしホラーファンにとっては、読みたい部分を徹底的に描いてくれるという意味で、得難い作家でもあるのです。
 以下、いくつかのハーバート作品について見ていきたいと思います。



B00GZL20KGSF長編小説 鼠(ねずみ)
ジェームズ・ハーバート
サンケイ出版 1975-10-03

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ジェームズ・ハーバート『鼠』(関口幸男訳 サンケイノベルス)

 ある日、ロンドンに現れた巨大化した鼠の群れ。彼らは人間を襲い始め、食料としてしまいます。助かった者たちも、鼠が持つ未知の病原菌のため、24時間以内に死亡してしまうのです。最初は密かに活動を続けていた鼠たちは、とうとう正面から人間を襲い始めますが…。

 ジェームズ・ハーバートのデビュー作品です。
 巨大鼠が人間を襲ってくるという、非常にシンプルな話なのですが、読んでいて飽きさせません。構成に工夫がされていることと、アクション場面が非常に視覚的で、読みやすいのもその一因でしょうか。
 序盤は、巨大鼠が人知れず現れ、人を襲うようになる過程がエピソード単位で描かれます。それらのエピソードでは、ゲイのサラリーマンだったり、落ちぶれた娼婦だったりと、それぞれの登場人物の人生がスケッチ風にさらりと描かれます。これがなかなか味わいがあるのですが、結局は鼠に襲われて殺されてしまう…というところが、実に悪趣味ですね。
 中盤からは、主に学校教師の男性に視点が集中し、彼を中心に人間と鼠の戦いが描かれます。特に、学校での籠城戦や、地下鉄での襲撃などは、読み応えたっぷりです。
 人体の損壊描写がねちっこく描写されたり、赤ん坊が殺されてしまったりと、非常に悪趣味かつ強烈な描写が続くので、この手の作品が合わない人には合わないかと思います。 ただ、非常にスピーディかつ見せ場が多く、B級に徹したアクションホラー作品なので、娯楽作品としては、非常に面白い作品です。



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ダーク〈上〉 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
ジェームズ ハーバート 関口 幸男
早川書房 1988-12

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ジェームズ・ハーバート『ダーク』(関口幸男訳 ハヤカワ文庫NV)

 心霊研究家のビショップは、調査に訪れた家で、集団自殺した人々の死体を発見し、そのまま記憶を失うという経験をしていました。その家では、カルト教団の教祖が、邪悪な目的のため、人々を集団自殺に追い込んでいたのです。
 それから一年、問題の家のある周辺で、人々が突然狂気にかられ、家族や隣人を殺す事件が頻発し始めます。
 問題の屋敷が取り壊された直後から、その影響は広がり始め、人々が狂い始めてしまいます。心霊研究の大家とその娘ジェシカと協力するビショップでしたが、教団の生き残りの信者たちが現れ、彼らの命を狙い始めます…。

 死んだはずのカルト教団の教祖が残した闇の力により、人々が狂い始めるという物語です。
 主人公は、心霊研究家でありながら、現実的なアプローチを行う人物で、心霊現象を全面肯定はしないのですが、たびたび起こる現象に対し、信じざるを得なくなっていきます。精神を病んだ妻のことを気遣いながらも、ジェシカに惹かれていくビショップでしたが…。
 最初から最後まで、主人公たちを襲う困難がすさまじく、肉体的・霊的な暴力が彼らを襲い続けます。特別に鍛錬を積んだわけでもない主人公が、何度もピンチを切り抜けるのはご愛敬としても、たびたびはさまれるアクションシーンは手に汗握ります。
 敵方の信者の幹部が、女性ながら人間離れしていて、キャラが立っていますね。ハーバートのアクションホラーの総決算とでもいうべき娯楽作品です。



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奇跡の聖堂〈上〉 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
ジェームズ ハーバート 相沢 久子
早川書房 1989-05

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ジェームズ・ハーバート『奇跡の聖堂』(相沢次子訳 ハヤカワ文庫NV)

 聾唖の少女アリスは、ある日突然話すことができるようになりますが、彼女が言うには、話せるようになったのは聖母マリアのおかげだというのです。たまたま現場に居合わせた新聞記者ハモンドが、それを奇跡だとして報道した結果、小さな村に奇跡を求める人々が集まるようになります。
 やがてアリスは、人々の前で、不治の病の病人を何人も癒します。聖堂が建てられ、そこは奇跡の聖堂として人々に崇められるようになるのです。
 しかし、ハモンドはアリスの力は本当に聖なるものなのか疑問を抱き、周辺の調査を開始します。そこでわかったのは、過去にその土地で魔女が処刑されたという事実でした…。

 奇跡の能力を発揮した少女に対し、主人公は、彼女の能力が本物なのかどうかを調査することになります。しかし、少女の周辺で、人々が怪死したり、家畜が突然死したりする事件が相次いでいるのです。
 疑いを深めていく主人公に対して、主人公の恋人は奇跡を信じており、それが元で二人の仲はこじれてしまいます。中盤から登場する女性記者を交えた三角関係が進行するなか、奇跡の聖堂には、大勢の人々が集まるようになり…。
 少女の能力は奇跡なのか否か?という、ハーバートにしては、おだやかなストーリー展開だと思っていると、中盤に劇的な事件が発生します。それを境に不穏な空気が漂い始め、クライマックスでは大惨劇が発生するのです。
 序盤は多少もたつくものの、奇跡の真相が徐々に判明する中盤からのリーダビリティは非常に高いです。クライマックスは、ハーバートお得意のスペクタクルに富んだ惨事が展開され、満足度は非常に高い作品です。



4150404941聖槍 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
ジェームズ・ハーバート 関口 幸男
早川書房 1988-05

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ジェームズ・ハーバート『聖槍』(関口幸男訳 ハヤカワ文庫NV)

 恋人を失い、殺戮に飽き果てたイスラエルの元諜報員ステッドマンは、現在はイギリスで私立探偵を生業としていました。彼のもとに現れたイスラエルの諜報員は、武器商人の大立者ギャントの身辺を探ってほしいと依頼します。
 一度は依頼を断るステッドマンでしたが、直後に、彼の共同経営者の女性が殺されているのが見つかったことから、調査を引き受けることになります。ステッドマンは、武器商人を装い、ギャントの身辺を探り始めますが、そこで判明したのは、彼らがナチス再興をたくらんでいるということでした。そのために、キリストの時代から伝わる聖槍を利用しようとしていたのです…。

 戦いに疲れ、引退した元諜報員がパートナーを殺され、怒りに燃えて立ち上がる…といった感じで始まる謀略スリラーです。敵方がナチスを再興しようとするオカルト団体であることを除けば、ほぼ超自然的要素のないスパイ・スリラーなので、ホラーを期待していると、肩すかしを食わされてしまいます。
 さらわれて拷問を受けたり、ヒロインを助けにいったりと、アクション上の見せ場はところどころにあるのですが、肝心の超自然的要素は、最後の最後まで出てきません。
 ホラーとしての雰囲気醸成や伏線張りをそっちのけで、アクション要素が強調されていくので、最後に出てくる超自然的要素も、どこか唐突の感があります。スパイ・スリラー部分も意外と行儀がよいので、ゲテモノとして読むのも難しい…という、評価に困る作品ですね。
 唯一、面白いと思ったのは、敵方として登場する謎の美女の存在ぐらいでしょうか。



4150404550魔界の家〈上〉 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
ジェームズ・ハーバート 関口 幸男
早川書房 1987-07

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ジェームズ・ハーバート『魔界の家』(関口幸男訳 ハヤカワ文庫NV)
 互いにアーティストを生業とするミッジとマイクのカップルは、ある日ふと見たコテージの広告に惹かれ、家を見に行くことになります。なぜかコテージを買うことに執着するミッジに押され、二人はその家を買い、そこで暮らすことになります。
 コテージに引っ越してからの二人の生活は順風満帆でしたが、やがて近くに集団で暮らしているという宗教団体のメンバーが二人を訪れるようになります。
 教団の教祖は、霊的な力で、すでに亡くなった両親に合わせることができると話し、ミッジはそれを信じるようになります。現実主義者のマイクは、ミッジに考えを変えさせようとしますが、なかなか果たせません。時を同じくして、コテージの雰囲気が悪くなっていきます。遊びに来た友人は、家の中で幽霊を見たと話しますが…。

 「魔界の家」という大仰なタイトルといい、カバー絵といい、いかにも「幽霊屋敷」や「悪魔の館」みたいなホラーを期待させるのですが、案に相違して、魔術をテーマにしたファンタジー的な作品です。
 主人公のカップルが購入した家は、前の持ち主の女性が死んだために、売りに出されるのですが、彼女には癒しの能力があったことが仄めかされます。ミッジにも、ある程度の超能力があることが暗示され、それがゆえに宗教団体のメンバーも彼女を狙うようになるのです。
 かって両親を死なせてしまったという負い目を持つミッジは、罪の意識から、教団の教義に洗脳されていってしまいます。徹底して現実主義者のマイクは、教祖の力はまやかしだと説明しますが、どうやら教祖の力は本物のようで、マイクは打つ手がなくなっていきます…。
 舞台となるコテージは、そこに住む人間の能力を反映するらしく、善にも悪にも傾くようなのです。主人公のカップルの生活が暗礁に乗り上げたとたん、霊的な現象が発生し始め、やがて前の持ち主の霊らしきものも出現し始めます。やがて教団の家に行ってしまうミッジ。マイクはミッジを救い出すことができるのでしょうか?
 クライマックスでは、味方側と敵側の魔法・幻術合戦が繰り広げられるという楽しい趣向もあります。ハーバート作品としては、非常に陽性なベクトルの作品だといえますね。


4054007163月下の恋
ジェームズ ハーバート James Herbert
学習研究社 1996-11

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ジェームズ・ハーバート『月下の恋』(宇佐和通訳 学習研究社)

 自らも霊能力を持ちながら、霊現象を否定するゴーストハンターのアッシュは、マリエル一族の館の霊現象を調査することになります。
 アッシュは、マリエル家の美しい令嬢クリスティーナに魅了されながらも、館の霊現象自体は認めようとしません。やがて錯覚や幻覚では済まされないほどの怪奇現象に襲われますが…。

 非常に雰囲気のあるゴースト・ストーリーです。どぎつい作品の多いハーバートとしては、異色の作品ですね。
 ゴースト・ハンターでありながら、主人公が怪奇現象を認めようとしないため、屋敷内で起きる怪奇現象に対しても、合理的に解明できるというスタンスで物語は進みます。
 主人公が体験する怪奇現象も、幻覚や錯覚で片付けられ、また、明確な怪奇現象自体もなかなか起こりません。
 主人公の探偵事務所の同僚である、霊能力者の女性が登場するのですが、この女性が、たびたび主人公の危機に対して感応を起こします。大したことはないと鼻をくくる主人公に対し、この女性のパートで危機を煽る、という形ですね。
 やがて主人公が怪奇現象を否定する理由も明らかになると同時に、霊的な危機が主人公を襲います。
 基本的に最後まで、怪奇現象に対して、主人公側は何もできず、なすがままといった感じなので、ちゃんとした解決を求めるタイプの読者には不満が残るかもしれません。怪異の一方的な勝利という意味では、モダンホラーというよりは、伝統的なゴースト・ストーリーに味わいが近いですね。
 続編があるそうなのですが、そちらは未訳。本作が、ゴーストハンターの主人公の紹介編といった趣なので、ぜひ続編も読んでみたいものです。
 ちなみに、コッポラ監督の映画化作品もあり、そちらも味わいは異なるものの、ロマンティックな雰囲気の作品に仕上がっていました。


 上に挙げた作品以外にも、ハーバートには魅力的な作品がいくつもあります。
 霧によって狂乱した人々を描くパニックホラーの極致『霧』(関口幸男訳 サンケイノベルス)、大事故から奇跡的な生還をとげた男の謎を描く、サスペンス風味の超常スリラー『ザ・サバイバル』(関口幸男訳 サンケイノベルス)、仔犬に転生してしまった男を描くファンタジー『仔犬になった男』(関口幸男訳 サンケイノベルス)、超能力を絡めたサイコ・スリラー『ムーン』(竹生淑子 ハヤカワ文庫NV)など。
 ハーバート作品は残虐描写も多いので復刊は難しいと思いますが、例えば『ザ・サバイバル』『仔犬になった男』などは、味わい深い佳作であり、ホラー要素も少ないので、ぜひ復刊してほしいところです。参考に過去のレビューをリンクしておきます。

死ねない理由  ジェームズ・ハーバート『ザ・サバイバル』
犬も捨てたもんじゃない  ジェイムズ・ハーバート『仔犬になった男』


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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