怪奇幻想読書倶楽部 第7回読書会 開催しました
 7月30日の日曜日、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第7回読書会」を開催しました。出席者は、主催者を含め10名でした。
 テーマは、第1部「欧米怪奇幻想小説入門(英米編2)」、第2部「ラヴクラフトを読む」です。参加してくださった方には、お礼を申し上げたいと思います。
 今回は、作家のMさんに参加していただけたこともあり、実作の話なども聞くことができました。

 それでは、当日の会の詳細について、ご報告したいと思います。

 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。

 今回第1部のテーマは「欧米怪奇幻想小説入門(英米編2)」。前回の続きということで、英米の怪奇小説を古典から現代まで、大まかにたどっていこうという試みです。資料として、年表形式で、代表的な英米怪奇小説の作品名と作者名を年表にしたものを作りました。
 合わせて、第1・2回で使用した「怪奇アンソロジーリスト」を増補した資料も用意しました。
 前回の最後が、マッケン、ブラックウッド、M・R・ジェイムズの三巨匠あたりで終わったので、今回はそれ以降の作品について話しました。時代的に20世紀初頭あたりから始めたこともあり、パルプマガジン作品、異色作家、1960~1970年代のオカルトホラー、キング以降のモダンホラーなど、現代に近い時代の作品まで、少しづつ見れたかな、という感じです。

 第2部のテーマは、「ラヴクラフトを読む」。アメリカの怪奇小説の巨匠H・P・ラヴクラフトの作品について、話し合おうというテーマです。
 資料として、ラヴクラフトの怪奇小説紹介エッセイ『文学と超自然的恐怖』に言及されている作品のリスト(邦訳があるもののみ)を作りました。ラヴクラフトが、どんな先行作家に影響を受けているのかを知ってもらいたいという狙いです。
 参加者の中にも、全集を読破している人、1、2編しか読んだことのない人、この機会に何冊か読んだ人など、ラヴクラフトに対する読書歴も思い入れも様々な人が集まったこともあり、一面的ではない、いろいろな視点からの意見が出たように思います。

 それでは、話題になったトピックを順不同で挙げていきます。

●第1部
・怪奇幻想小説の本領は短篇にある。長編になると、夾雑物が混ざってきてしまう。スティーヴ・ラスニック・テムやチャールズ・L・グラントは、それを嫌って、長編で「純粋」な怪奇小説をやろうとした作家だと思うが、成功しているとは言いがたい面がある。

・イギリスが、18世紀から一貫して怪奇幻想的作品を伏流させているのに対して、アメリカでは、20世紀以前はトピックとなる作家が幾人かいるのをのぞけば、潮流としての怪奇幻想小説というのはなかったのではないか?

・当時のジャンルでは一流とされていた作家が、現代ではその分野では問題にされず、怪奇幻想作品のみで記憶されている作家がいる。F・M・クロフォードなど。

・ロバート・ルイス・スティーヴンスンは、怪奇幻想的作品でも、文学畑でも傑作を残した一流の作家だと思う。

・C・A・スミスは、非常に才能のある作家だと思う。ラヴクラフトと同時代に〈クトゥルー神話〉作品を書いた作家の中でも、飛び抜けてユニークな個性がある。

・C・A・スミスは、短篇の中で、いろいろな設定や世界観などを、惜しげもなく使ってしまう。下手をすると長編シリーズ作品に使えるような面白い題材を、短い作品で使ってしまうのは凄い。例えば、オーガスト・ダーレスが、ラヴクラフトではなくC・A・スミスに私淑していたら、今のラヴクラフトの位置にスミスがいた可能性もあるのでは?

・ショーン・ハトスン『スラッグス』について。ナメクジが人を襲う話だけで、長編を構成するのはすごい。シーンの見せ方のバリエーションが豊富。

・ジェームズ・ハーバート作品について。『鼠』は動物パニック・ホラーの傑作。あっという間に人間を食い尽くす鼠の話。『霧』は、霧によって狂った人間が殺しあう話でこちらも面白い。

・鼠といえば、西村寿行『滅びの笛』も鼠を扱った作品で、こちらも面白い。

・ジェームズ・ハーバート『霧』とスティーヴン・キング『霧』、ジョン・カーペンター監督の映画『ザ・フォッグ』は全く関係がないのだが、知らない人にはややこしい。

・ジョン・カーペンター監督の映画には、ラヴクラフトや《クトゥルー神話》の影響が強いと思う。とくに『マウス・オブ・マッドネス』はモロに影響が見て取れる。

・アルジャーノン・ブラックウッドについて。汎神論的な傾向が強い。『ウェンディゴ』など、自然と結びついた怪奇小説に秀作がある。『ケンタウロス』はその傾向が強すぎて、読むのが難しい。

・スティーヴン・キングは、初期作品が絶版になって、手に入らないものが多くなってきている。『デッド・ゾーン』や『ファイア・スターター』も既に手に入らない。

・スティーヴン・キング『霧』で登場する怪物は、おそらく《クトゥルー神話》に属するものだと思う。

・スティーヴン・キング『おばあちゃん』について。明らかに《クトゥルー神話》を意識した作品。《新トワイライトゾーン》で映像化された他に、近年映画化された作品もあり。映画化作品『スティーブン・キング 血の儀式』では、原作にオリジナルの膨らませ方をしていたが、これはこれで面白かった。

・スティーヴン・キングの「絶賛」はあまり信用できない。

・リンド・ウォード『狂人の太鼓』について。絵だけで構成される、サイレント・マンガの先駆的作品。解釈の余地がいくつもあり、魅力的な作品。

・現代でホラー専門で書いている英米の作家はいるのか? あまりいないと思う。ランズデール、マイケル・マーシャル・スミス、ジョー・ヒルなど。

・ポピー・Z・ブライト『絢爛たる屍』について。強烈なインパクトのある作品。再読するのはきつい。

・ジョン・コリアについて。《異色作家短篇集》のイメージから戦後の作家のイメージがあるが、すでに戦前に活動するなど、時代的には早い。

・ロバート・ブロックやリチャード・マシスン、ブラッドベリなどを除き、《異色作家短篇集》に収録された作家たちは、あまり怪奇小説史的には伝統とつながっていない?

・フェリペ・アルファウ『ロコス亭』について。同じ登場人物が使いまわされる連作短篇シリーズ。同じ名前の登場人物が他のエピソードで再登場したりするが、厳密には同じ人物でなかったりするなど、そのねじれ具合が面白い。

・1940~50年代では、ホラーがかったSF作品が多い。ハインライン『人形つかい』、エリック・フランク・ラッセル『超生命ヴァイトン』など。

・1960年代からの『ローズマリーの赤ちゃん』や『エクソシスト』あたりからのオカルト映画ブームによって、小説でもメディアミックス的な作品が生まれるようになった。

・1960~1970年代のホラー作品では、小粒な秀作がたくさん生まれたが、作家自身は一発屋的な人が多いように思う。ただ、寡作ながらトーマス・トライオンは一流の作家だと思う。

・スプラッターパンク作品について。ジョン・スキップ&クレイグ スペクター、レイ・ガートンなど、一部の作品が紹介されただけで終わってしまった。クライヴ・バーカーも初期作品(『血の本』)以降は、ファンタジーになってしまったのが残念。

・デヴィッド・アンブローズ作品について。ほとんどの作品が「仮想世界」や「パラレルワールド」ネタだが、どれを読んでも面白い。『覚醒するアダム』『偶然のラビリンス』など。

・ダグラス・プレストン/リンカーン・チャイルド『レリック』について。怪物の造形が面白い作品。

・ニコラス・コンデ『サンテリア』について。ヴードゥを扱った作品。カルト教団が出てくるが、超自然味の少ない同種の作品と違って、ちゃんとしたオカルト小説になっている力作。

・ダイナ・グラシウナス/ジム・スターリン『サイコメトリック・キラー』について。連続殺人鬼を殺して回る連続殺人鬼の話。主人公が相手の心をのぞける超能力者という設定。

・ヴードゥやゾンビなどは、中米や南米から北米に流入した文化? ホラーにおけるこの主の影響は、例えばミステリにおけるエスニック探偵の登場などとも、時代的に関係があるのではないか?

・トマス・ペイジ『ヘパイストスの劫火』について。地割れから復活したゴキブリのような古代生物の話。大部分が虫に対する研究シーンに当てられるという異色作。

・「怪物」側からの視点で描かれた作品は、わりと近年の発明だと思う。シオドア・スタージョン『それ』、W・ストリーバー『ウルフェン』など。

・ロバート・ストールマン《野獣の書》について。人間と融合した「野獣」の成長小説。融合した人間の過去や、「野獣」の秘密など、面白い作品。「野獣」からの視点描写などもある。

・橘雨璃『放課後の魔女』について。ホラーサスペンス風味の青春物語。劇中劇の形で仕込まれた芝居の趣向が面白い。

・国書刊行会の本は在庫を断裁せずに、売れるまで何年でも保管する? 30年以上前に出版された本も在庫があって、びっくりすることがある。

・因果のわかってしまった幽霊物語はあまり怖くなくなってしまう。実話怪談の怖いのは、因縁や由来もなく、ぶつっと怪異現象が提示されるところだと思う。

・同じ英語国民でも、イギリスとアメリカでは随分国民性が異なっている。アメリカ作品では根底に楽観があって、能天気に解決してしまったりするが、イギリス作品ではリアルな荒廃を描くなど、その違いが面白い。


●第2部
・《クトゥルー神話》における、ダンセイニの影響はかなり強いのではないか? 〈アザトース〉には、ダンセイニの〈マアナ=ユウド=スウシャイ〉の影が見える。

・ラヴクラフト自身の作品では、〈旧支配者〉があまり整理・体系化されていないので、関係性があまりよく分からない。

・ラヴクラフトの後進で、小説のもっと上手い作家はいる。ロバート・ブロックやヘンリー・カットナーなど。しかし彼らの書いた《クトゥルー》ものよりも、ラヴクラフト作品の方が怪奇小説として迫力があるのも事実。

・ラヴクラフトの文体は読みにくい? 会話文がなく地の文が続くので、読み飛ばしができない。本国でも名文とする人と悪文とする人に分かれるようだ。

・ラヴクラフト作品には、女性がほとんど出てこない。まともに登場するのは『戸口にあらわれたもの』や『ダニッチの怪』ぐらいだが、それもちゃんと描かれているとはいえない。

・そもそもラヴクラフトには、人間を描こうという気がないのではないか?

・ラヴクラフト作品では、主人公にあまり個性が与えられていないので、読み終えてしばらくすると、ある作品の主人公がどんな人間だったか? ということがわからなくなってしまう。

・ラヴクラフトは弟子たちの作品を添削していて、場合によってはかなりの改変をしているが、当時はそれでもめたりしなかったのだろうか。現代で同じようなシチュエーションを考えると、ラヴクラフトの人徳の成せる業という気もする。

・朱鷺田祐介『クトゥルフ神話 超入門』(新紀元社)の紹介。非常にわかりやすく書かれた入門書。この本と、東雅夫編『クトゥルー神話事典』(学研M文庫)の2冊があれば、基本的なことはだいたい分かると思う。

・ラヴクラフトは、「名状しがたい」というフレーズを使いすぎではないか。タイトルもそのままの『名状しがたいもの』という作品もあるが、曖昧すぎてイメージが湧かない

・評論におけるフレーズ「宇宙的恐怖がある(ない)」は、安易に使いすぎな気がする。

・オーガスト・ダーレス以降の〈クトゥルー神話〉は、〈旧支配者〉の超越性が少なくなっており、ラヴクラフトの当初の意図からはズレがあるのではないか? ラヴクラフト作品では、〈旧支配者〉に比べ、人間は取るに足らないものとして描かれている。

・ラヴクラフトは本来上手い作家ではなく、現在のような知名度と人気を得られたのは、多分に幸運が預かっている面があるのではないか?

・ラヴクラフトは、それ以前の怪奇幻想小説を咀嚼して、まとめ上げた総合者的な作家だと思う。彼の作品には、ダンセイニ、マッケン、ブラックウッド、ホジスンの影響などがうかがえる。

・ラヴクラフトは、後期作品になるにつれて、科学的な味付けが濃くなってくる。もっと長生きしていたらSF作家になったのでは? という説もあるが、なるほどと頷ける面もある。

・『時間からの影』について。時空を超えて精神を飛ばす超知性体を描いた作品。当時としては発想がすごい。SFでは後世に似たテーマも出てくるが、ラヴクラフトの場合、そのベクトルがSFのそれとは全く異なるところがユニーク。

・『戸口にあらわれたもの』。人格交換を扱ったホラー。最後のシーンの忌まわしさは特筆もの。

・『インスマウスの影』について。ラヴクラフト作品のエッセンスがたくさん詰まっている作品だと思う。ラヴクラフト入門に最適な作品。全集1巻の巻頭に持ってきていることもあり、出版者側としても、一番に読んでもらいたいという意図があるのではないかと思うが、この作品で挫折してしまう人が多いのも事実。

・『エーリッヒ・ツァンの音楽』について。厳密には〈クトゥルー神話〉ではないが、異界の存在をにおわせるのは神話作品っぽい。怪奇小説として秀作だと思う。

・『冷気』について。ワンアイディア・ストーリーではあるが非常に面白い。この時代に既に冷房があったというのには驚き。ブライアン・ユズナ製作のオムニバスホラー映画『ネクロノミカン』で映像化されているが、迫力があって面白かった。

・スチュワート・ゴードン監督『フロム・ビヨンド』『ZOMBIO/死霊のしたたり』は、ラヴクラフトの映像化として、非常に面白い。

・『狂気の山脈にて』について。ラヴクラフトの傑作の一つ。それまでの作品に比べ、科学的(に見える)裏付けがあり、説得力がある。〈旧支配者〉の年代記としても読め、ラヴクラフトがもっと長生きしたら、独自の宇宙誌みたいなものを書いたのではないか。

・『狂気の山脈にて』の南極探検や、『冷気』に登場する冷房など、ラヴクラフトは当時としては最新のトピックやガジェットを取り込んでいて、意外と進取の気性がある。ただ、作者の性格もあるのだろうが、それらが全て恐怖の対象になってしまうところに、彼の独自性がある。

・デル・トロ監督製作予定だった『狂気の山脈にて』はどうなってしまったのか。

・『宇宙からの色』について。宇宙からの飛来物の影響について語った作品。肉体的とも精神的ともいえない、その影響力の描き方が実にユニークだと思う。パスティーシュとして書かれた、マイクル・シェイ『異時間の色彩』では、敵がかなり物理的に寄った存在として描かれていた。

・『ピックマンのモデル』。食屍鬼について書かれたホラー。『未知なるカダスを夢に求めて』で再登場するが、そちらを読んでしまうと、『ピックマンのモデル』本編の迫力がなくなってしまう。

・『ランドルフ・カーターの陳述』について。夢をモデルにしたといわれる作品。イメージの断片みたいな作品だが、妙な迫力がある。

・『アウトサイダー』について。散文詩のように整った作品。ポオの影響が感じられる。

・『忌み嫌われる家』について。幽霊屋敷テーマの小味な秀作。アンソロジーに収録したりと、荒俣宏さんのお気に入り作品?

・『死体安置所にて』について。ラヴクラフトには珍しい、肩の力の抜けた小品。こんなのも書けるのか、という感じ。

・『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』について。ゴシック・ロマンスの色濃い作品。アンソロジー『怪奇幻想の文学』では、ゴシックを扱った巻に収録されていた。

・『死体蘇生者ハーバート・ウェスト』について。かなり軽い感じの娯楽編だが、エンタメとしては面白い。


●二次会
・ロバート・W・チェンバーズ『黄衣の王』は、ラヴクラフト作品に登場する「ネクロノミコン」に影響を与えたことで有名だが、ガジェットとしてはともかく、作品としてはあまり面白くない。

・ハヤカワ文庫NV《モダンホラー・セレクション》について。一部復刊されたのを除いて、ほとんどが絶版。内容から考えても、再版される可能性は低いので、すでにプレミア化が始まっている。

・アメコミ映画について。現代のヒーローは必ずといっていいほど悩み、葛藤する。面白いことは面白いが、爽快感はなくなってきている。

・クリストファー・ノーラン監督『バットマン』三部作は、社会的なテーマの盛り込み方が上手い。

・『アヴェンジャーズ』などのヒーロー総出演ものは、単体のヒーローものとの整合性はどうなっているのだろうか?

・宗教上、一神教より多神教の方が発生が古い。本来、神々にはヒエラルキーはないのではないか? とすると、ギリシャ神話なども後世に改竄されている可能性が高いと思う。

・〈クトゥルー神話〉が日本人に受ける理由は? ダーレス以前のラヴクラフト神話では、神々が多神教的な位置づけになっていて、そこが日本人には受け入れやすいのでは?

・ラヴクラフトは人種的偏見を持っていた。『インスマウスの影』に登場する半魚人は、アジア人やアフリカ人のメタファーなのでは?

・日本での〈クトゥルー神話〉は独自の進化をしている。〈クトゥルー神話〉を使った時代小説、美少女化した作品など、世界的に見てもユニークなのではないか。

・ナマニク『映画と残酷』について。被害者と残酷さについての説は説得力がある。殺される被害者が幸せで描写が密なほど、残酷さは増す。

・韓国映画『哭声/コクソン』『新感染』について。

・俳優イライジャ・ウッドは、ホラーにたくさん出るなど、仕事を選んでいないのがすごい。

・岩井志麻子『ぼっけえ、きょうてえ』は、面白いが厳密にはホラーではないと思う。

・アン・ライス『夜明けのヴァンパイア』は、現代にまで続く耽美ロマンスの元祖。

・吸血鬼やゾンビなど、西洋のモンスターを日本の小説でやるのはなかなか難しい。そんな中では、小泉喜美子の『血の季節』は吸血鬼小説の傑作だと思う。

・翻訳作品の独特の「翻訳文体」が苦手な人は多い。最近の作家では宮内悠介に独自の「翻訳文体」を感じる。実際の作家の話を聞いても、頭の中で翻訳をしている感じがする。

・男性読者に比べ、女性読者の方が、作品の精神的なダメージに強い? スプラッター描写は全く平気だが、精神的な虐待描写などには弱い男性読者もいる。ジャック・ケッチャム、シャーリィ・ジャクスン作品など。

・シャーリィ・ジャクスン作品について。『丘の屋敷』『ずっとお城で暮らしてる』は、読後精神的なダメージが大きい。

・動物ホラー作品について。一時期流行っていたことがあり、その対象はさまざま。犬、猫、鳥、コウモリ、鼠、ミミズ、鮫など。

・最近は、マグノリアブックスからホラー作品がたまに出版されるようになった。スペイン作品なども出していて要チェック。ブレイク・クラウチ他『殺戮病院』も面白い。

次回、第8回読書会は8月末頃を予定しています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

8月の気になる新刊
8月7日刊 『月岡芳年 妖怪百物語』(青幻舎 予価2484円)
8月8日刊 ヴァレリー・シュール=エルメル『幻想版画 ゴヤからルドンまでの奇怪コレクション』(グラフィック社 予価3024円)
8月8日刊 コードウェイナー・スミス『三惑星の探求 人類補完機構全短篇3』(ハヤカワ文庫SF 予価1512円)
8月8日刊 アン・モーガン『わたしはヘレン』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価1361円)
8月8日刊 『日本SF傑作選1 筒井康隆 マグロマル/トラブル』(ハヤカワ文庫JA 予価1620円)
8月8日刊 澁澤龍彦『バビロンの架空園』(河出文庫 予価950円)
8月9日刊 A・メリット『魔女を焼き殺せ!』(アトリエサード 予価2484円)
8月10日刊 ロバート・ルイス・スティーヴンスン&ロイド・オズボーン『引き潮』(国書刊行会 2700円)
8月10日刊 ジュール・ヴェルヌ『蒸気で動く家』(インスクリプト 予価5940円)
8月12日刊 東雅夫編『文豪妖怪名作選』(創元推理文庫 予価929円)
8月22日刊 アンドルー・ラング『夢と幽霊の書』(作品社 予価2592円)
8月22日刊 小泉喜美子『殺さずにはいられない 小泉喜美子傑作短篇集』(中公文庫 予価886円)
8月25日刊 ステファン・グラビンスキ『火の書』(国書刊行会 予価2916円)
8月25日刊 セルジュ・ブリュソロ『闇夜にさまよう女』(国書刊行会 予価2700円)
8月31日刊 ヘレン・マクロイ『月明かりの男』(創元推理文庫 予価1080円)
8月31日刊 ジョー・ウォルトン『わたしの本当の子どもたち』(創元SF文庫 予価1404円)
8月31日刊 中村融編訳『猫SF傑作選 猫は宇宙で丸くなる』(竹書房文庫 予価1188円)
8月下旬刊 『月岡芳年 月百姿』(青幻舎 予価2484円)


 ヴァレリー・シュール=エルメル『幻想版画 ゴヤからルドンまでの奇怪コレクション』は、無気味で幻想的な版画を集めた画集。これは面白そうです。

 《ナイトランド叢書》の新刊は、エイブラム・メリットの『魔女を焼き殺せ!』。1960年代に邦訳が出たものの、稀書になっていた作品なので、新訳刊行は嬉しいですね。
 メリットは、20世紀初頭に活躍したアメリカの作家。『イシュタルの船』『蜃気楼の戦士』など、秘境や異世界を舞台にしたヒロイック・ファンタジーで名をなした作家です。
 『魔女を焼き殺せ!』は、ファンタジーではなく現代ホラー作品のようですが、名作の評価も高いので、読むのが楽しみです。

 『引き潮』は、スティーヴンソンと義理の息子ロイド・オズボーンの合作になる海洋冒険小説。この親子の合作では、過去に『箱ちがい』『難破船』が邦訳されていますが、どちらも非常に面白かったので、こちらの作品も期待大ですね。

 8月の新刊で、イチオシはやはりこれです。ステファン・グラビンスキの怪奇幻想作品集第3弾である『火の書』。〈火〉 をテーマとする短篇小説と、自伝的エッセイ、インタビューを収録とのことです。版元のページでは内容が既に紹介されていますので、転載させていただきます。

赤いマグダ
白いメガネザル
四大精霊の復讐
火事場
花火師
ゲブルたち
煉獄の魂の博物館
炎の結婚式
有毒ガス

[エッセイ]
私の仕事場から
告白

[インタビュー]
ステファン・グラビンスキとの三つの対話
一九二七年/一九三〇年/一九三一年

 セルジュ・ブリュソロは、児童向け作品がいくつか訳されている作家ですが、『闇夜にさまよう女』は、あらすじを見る限り、ちょっと面白そうな作品です。「頭に銃弾を受けた若い女は、脳の一部とともに失った記憶を取り戻そうとする。「正常な」世界に戻ったとき、自分が普通の女ではなかったのではと疑う。追跡されている連続殺人犯なのか? それとも被害者なのか? 」

 中村融編訳『猫SF傑作選 猫は宇宙で丸くなる』は、猫をテーマにしたSFアンソロジー。収録作品はまだわかりませんが、編者はアンソロジストとして定評のある中村さんなので、期待大です。ちなみに、収録作家がシオドア・スタージョン他となっているのですが、スタージョン作品は、雑誌に訳載されたきりの『ヘリックス・ザ・キャット』あたりでしょうか。

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怪奇幻想読書倶楽部 第7回読書会 参加者募集です
 2017年7月30日(日曜日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第7回読書会」を開催いたします。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、連絡をいただきたいと思います。
 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2017年7月30日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:1500円(予定)
テーマ
第1部:欧米怪奇幻想小説入門(英米編2)
第2部:ラヴクラフトを読む

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※個人の発表やプレゼンなどはありません。話したい人が話してもらい、聴きたいだけの人は聴いているだけでも構いません。
※基本的には、オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも、安心して参加できると思います。

 第1部のテーマは「欧米怪奇幻想小説入門(英米編2)」。
 前回に引き続き、英米の怪奇幻想小説全般に関するトークです。
 ゴシック・ロマンス、怪奇スリラー、ゴースト・ストーリー、異色短篇、パルプ小説にモダンホラー。一口に「怪奇幻想小説」と言っても、その種類は様々です。
 欧米の怪奇幻想小説に興味があるけれど、まず何を読んだらいいの? どんな作品があるの? といったところから、お勧めアンソロジーや参考書の紹介まで、欧米の怪奇幻想小説の本場であるイギリス・アメリカ作品を概観していきたいと思います。

 第2部は「ラヴクラフトを読む」。アメリカの怪奇小説家、H・P・ラヴクラフト。彼の作品は、欧米のみならず、現代日本のアニメやコミックにまで影響を及ぼしています。
 ラヴクラフト作品の魅力はどこにあるのか? 伝統的な怪奇小説とのつながりは? 《クトゥルー神話》の創作者としてのラヴクラフトというよりは、怪奇小説家としてのラヴクラフト。彼の作品そのものを、虚心に読み直してみたいと思います。

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1970年代ホラーを読む

404265701X悪魔のワルツ (角川ホラー文庫)
フレッド・M・スチュワート 篠原 慎
角川書店 1993-04

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フレッド・M・スチュワート『悪魔のワルツ』(篠原慎訳 角川ホラー文庫)

 もとピアニストの作家マイルズは、世界的ピアニストであるダンカンのインタビューに訪れます。狷介で知られるダンカンとその娘ロクサーヌは、なぜかマイルスを気に入り、何くれとなく親切にしてくれるようになります。
 しかし、マイルズの妻ポーラは、ダンカン父娘の行動に疑いを抱きます。やがてダンカンは老衰で死にますが、それを境にマイルズの行動に微妙な変化が起こります。しかもピアノの腕が突如上達し、そのタッチはダンカンを思わせるものだったのです…。

 人格交換を扱ったホラー作品です。一応、人格交換が行われたかどうか、明確に記述はされないのですが、ダンカン父娘が、過去に魔術にかかわったと思われる伝聞情報や、実際に魔術を行う場面も描かれるので、実際に人格が交換されたことはわかってしまいます。
 それがわかってしまったら面白くないのかといえば、そういうわけではなく、結構面白いのですよね。夫の人格が変わってしまってから、妻が真実を求めて調査を重ねていくのですが、その過程で、ダンカン父娘の噂やスキャンダルが掘り起こされていくのです。父娘のいびつな関係や、過去の軋轢、娘のロクサーヌに至っては、過去にすでに人格交換がなされているのではないかという疑いも持ち上がります。
 夫の魂が失われたことを確信した妻は、自らも魔術を使って復讐のために立ち上がります。結末で、その強烈な方法が暗示されるに至って、ダンカン父娘よりも妻ポーラの行動の方に戦慄を感じさせられるのです。



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ヘパイストスの劫火 (1980年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)
トマス・ペイジ 深町 真理子
早川書房 1980-06

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トマス・ペイジ『ヘパイストスの劫火』(深町眞理子訳 ハヤカワノヴェルズ)

 地震による地割れから現れたのは、古代から地中で暮らしていたゴキブリに似た虫たちでした。虫たちには触角により火を起こす能力がありました。炭素そのものを食料とする彼らは、火災を起こし、それにより食料である灰を作ろうとしていたのです。
 頻発する火災により大量の死者が出るなか、科学者たちは、虫たちを殲滅するための手段を探し回りますが…。

 ゴキブリをテーマにしたパニック・サスペンス作品です。題材が題材だけにゲテモノ作品かと思いきや、意外にも丁寧に書かれた作品です。
 このゴキブリ、動きが遅く、人間を直接襲うことはありません。ただ、ものすごく頑丈でウィルスに対しても強く、半端ではない生命力を持っています。科学者たちは、虫たちの天敵を探し、サソリ、クモ、猛獣など、様々な生物と戦わせますが、どれも歯が立ちません。
 人間が殺そうと思えば、数匹は殺せるのですが、知らない間に家に火を付けられてしまえば、それでおしまいなのです。
 やがて、虫たちの撃退方法が見つかり、事態は収束したかに見えますが、研究に飽き足らない科学者の独断により、新世代の虫が生み出されてしまいます。人間とコミュニケートできるほどの知能を持つ彼らを撃退することは可能なのか? 後半は積極性を増した虫たちとの戦いが描かれます。

 虫たちと人類との戦いといっても、そんなに緊迫した感じではありません。火災によって被害は出るのですが、虫たちは基本的には人間を襲わないので、スプラッター的な描写もほとんどありません。それもあって、ゴキブリを題材としながらも、意外と後味も悪くないのです。
 作品の大部分は、虫たちの生態やその弱点を探す研究について描かれます。そこがこの作品の一番面白いところで、様々な生物たちとの戦いの描写や、虫自身の生態の研究部分はそこだけでも面白く、ストーリーの展開がゆっくりなのもあまり気になりません。
 変わり種のパニック小説として、一読の価値がある作品です。



B000J9496Iデラニーの悪霊 (1971年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)
ラモナ・スチュアート 小倉 多加志
早川書房 1971

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ラモナ・スチュアート『デラニーの悪霊』(小倉多加志訳 早川書房)

 大学教授の夫と離婚後、二人の子供と暮らす主婦ノラは、作家として生計をたてていました。世間では、若い女性を狙った連続殺人が続くなか、ノラは、弟ジョエルの様子がおかしくなったことに気付きます。やがて、ジョエルの恋人だった女性が首を切断されて発見されますが…。

 悪霊に憑依された男が殺人を繰り返す…という話を、取り憑かれた男の姉の視点で語るという、オカルト・サスペンス小説です。正直、ホラー作品のテーマとしては手垢のついたパターンではあるのですが、語り手の女性ノラのキャラクターが立っていて、それなりに面白く読ませます。
 弟が取り憑かれているのは、すぐわかってしまいます。読者の興味としては、どのように取り憑かれたのか、取り憑いているのは誰の霊なのか? といった部分で読んでいくことになります。この取り憑いている霊の生前の姿を、語り手ノラが調査していくのですが、この犯人(というか霊)の生い立ちや周囲の環境の描写が、なかなか面白く読めます。
 ホラーとしての結構よりも、キャラクター描写に生彩があるタイプの作品ですね。



B000J8U2N8タリー家の呪い (1977年)
ウィリアム・H.ハラハン 吉野 美耶子
角川書店 1977-08

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ウイリアム・H・ハラハン『タリー家の呪い』(吉野美耶子訳 角川書店)

 アパートの取り壊しのため、立ち退きを求められている中年男性が主人公。長年仲良く暮らしていた同じアパートの住人たちも、次々と引っ越しを決めて出ていきます。そんな中、主人公は、何ともいいようのない音を何度も耳にするようになります。
 精神的な病気ではないかと考え、医者にかかる主人公ですが、医者の判断は特に異常はないというものでした。友人は霊能力者の助けを借りるべきだと諭しますが、主人公は意に介しません。
 一方、数百年前にイギリスからアメリカに渡ったタリー家の末裔を探す男が描かれます。息子たちの系図をたどり、どれも子孫が途絶したかに見えた途端、また子孫がいたことがわかり、となかなか現代の末裔にたどり着くことができません。
 2つのパートがどのように結びつくのか? 結末寸前まで、その関係性はまったくわかりません。アパートを舞台にしたパートでは、だんだんと人がいなくなる建物の中で怪奇現象が頻発するようになるという心霊小説的な味わい、系図をたどる男のパートでは、一族の歴史をたどっていく面白さがあります。
 そして結末において、二つのストーリーが交錯し、印象的な幕切れを迎えます。読んでいてなかなか本題に入らないのは確かなのですが、構成や語りに工夫がされており、飽きずに読むことができるのは、ミステリやサスペンスの技法が上手く使われているからでしょうか。ミステリタッチのオカルトホラー小説として、佳作といっていい作品かと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

恐るべき子供たち  ジョン・ウィンダム『呪われた村』
4150102864呪われた村 (ハヤカワ文庫 SF 286)
ジョン・ウィンダム 林 克己
早川書房 1978-04

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 ある夜、郊外の村ミドウィッチに未確認飛行物体が着陸した直後、周辺のあらゆる生物が眠らされてしまいます。住民はすべて無事でしたが、村に住む受胎可能な女性の全てが妊娠していたのです。生まれた子供は、みなが同じく銀色の髪と金色の瞳を持っており、異常なまでのスピードで成長します。成長した子供たちは集団で行動するようになり、村の人々は彼らを恐れはじめますが…。

 ジョン・ウィンダム『呪われた村』(林克巳訳 ハヤカワ文庫SF)は、ホラー的要素の濃いSF作品です。
 異星人らしき存在の子供たちが成長するにしたがい、不気味な行動を見せ始めます。集団で行動する彼らは意識を共有しており、誰かが知識を得ると、他の仲間も同じ知識を得るのです。また自分たちに危害を与えようとする人間に対しては、テレパシーで相手を操り殺すことも可能なのです。
 危険な存在は排除すべきだと考える人間、いくら異星人の子供でも自分で生んだ子供は殺せないという母親、政府が極秘に村を監視するなか、子供たちと村人たちの対立は日に日に大きくなっていきます。

 子供たちの「親」である異星人は序盤で退場した後、まったく姿を現しません。あくまで彼らが残した子供たちと、地元の人間たちとの対立が静かに描かれていくという作品です。人間とは異質の子供たちの動向と思想、そして彼らに対する大人たちの考察などが地道に描かれるので、派手さはあまりありません。
 事件らしい事件は、成長した子供たちが、自分たちに危害を与えようとした人間に報復する場面ぐらいで、それに対しても冷静に対処しているのです。異質とはいえ、姿形は人間であり、意思の疎通もある程度できるところから、怪物じみた印象は受けず、またそれゆえ逆に、不気味さを感じさせる存在なのです。

 子供が相手だけに、親子の情愛が葛藤を引き起こすのかと思いきや、登場人物たちは、意外なほど情愛的な面では淡白です。排除すべき敵であると冷静に判断しているのは、イギリス作品ならではでしょうか。そのあたりも、この作品に「静かな」イメージを受ける要因の一つかもしれません。

 日常に徐々に非日常的な要素が忍び込んでくる…。地味ながら、全体に抑制の利いた語り口で描かれる作品は、モダンホラーの一つの原型的な作品ともいえますね。

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B級ホラーの職人芸  ショーン・ハトスン作品を読む
 ショーン・ハトスン(1958-)は、イギリスのホラー作家。ホラー以外の邦訳も何冊かあるようですが、ホラー作品は、1980年代後半に、ハヤカワ文庫NVの《モダンホラー・セレクション》で刊行された3冊のみのようです。
 このハトスン、悪趣味、猥雑さ、派手さをモットーとする《ナスティ・ホラー》系統の作家で、邦訳された作品を読む限り、ストーリーの整合性や丁寧な人物描写などよりも、スプラッターシーン、残酷シーンに極端にベクトルを振った感じの作家です。 
 いわゆるB級ホラーといっていいのですが、悪趣味さが突き抜けていて、ある種、清々しいまでの徹底ぶりです。ただ「悪趣味」といっても、本当に肉体的なものだけに限定されていて、人間関係のドロドロしたものとか心理的な嫌悪感といったものは少ないので、変な言い方ですが、後味は意外と悪くありません。『スラッグス』のナメクジみたいな嫌悪感はありますが。
 それでは、以下、3冊のホラー作品を見ていきたいと思います。



hutson1.jpgスラッグス (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
シヨーン・ハトスン 茅 律子
早川書房 1987-06

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ショーン・ハトスン『スラッグス』(茅律子訳 ハヤカワ文庫NV) (1982)

 下水で大量発生したナメクジは、従来の種とは異なる、巨大で肉食性の生物でした。水道を通り、民家に侵入したナメクジたちは人を襲い始めます。衛生検査官ブラディは、彼らを殺すための手段を探し回りますが…。

 巨大化したナメクジが人を襲う…という、シンプル極まりないストーリーの作品なのですが、襲われる人たちや、調査を続ける主人公たちの行動が、カットバックでテンポよく描かれていくので、リーダビリティは非常に高いです。
 キャラクターたちの人物の掘り下げなどは全くなく、ただただ人が襲われて死んでいくシーンを詳細に描いていくという作品です。
 襲ってくるのがナメクジということで、イメージ的には弱そうに感じてしまいますが、この作品中のナメクジは強靱な歯を持ち、一度食いついたら話さないという強力な力を持っています。多数のナメクジにとりつかれたら、そのまま喰い殺されてしまうのです。
 また、体内に寄生虫を持ち、彼らが出す粘膜を口にしてしまっただけで、狂犬病のようになり死んでしまいます。
 人がナメクジに襲われるシーンを描くにあたって、著者は、体の部位だとか内臓の部分など、喰われている箇所を詳細に描写していきます。いちいち残酷シーンが強烈なのです。その極めつけは、サラダと一緒にナメクジの一部分を食べてしまった男の描写でしょう。
 やがて、下水道でナメクジが繁殖していることに気付いた主人公ブラディは、案内人とともに地下に潜り込むことになります。彼らを全滅させ、地下から生還することができるのでしょうか?
 スプラッターシーンが視覚的かつ具体的なので、その種の作品が苦手な方は読まない方が吉でしょう。悪趣味なホラー小説の一つの極致ともいうべき作品です。



hutson2.jpgシャドウズ (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
船木 裕 ショーン・ハトスン
早川書房 1988-10

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ショーン・ハトスン『シャドウズ』(船木裕訳 ハヤカワ文庫NV)

 超自然現象を専門とするノンフィクション作家ブレイクは、心霊治療を行う男マシアスを取材し、彼の力の秘密を調査しようとしていました。
 一方、人間の潜在意識を研究する女性科学者ケリーは、催眠術を使った実験の際に、被験者が急に豹変し、暴れ出すのを目撃します。人間の心には誰でもある邪悪な領域、その部分を解放する手段があることを知り、彼女は戦慄します。
 やがて、マシアスを主賓としたパーティーの席に集まった人々が、凶悪な殺人や傷害事件を起こし始めます。しかも犯人は皆、犯行の意識がないというのです。すべては、人間の心の奥底に秘められた領域「シャドウズ」が原因なのだろうか?
 ケリーはブレイクと協力し、真相を調べ始めますが…。

 前半は、主人公たちが、ひたすら心霊術や超心理学などの研究を続けるという、地味なシーンが続くのですが、後半から、怒濤のスプラッターシーンが展開されます。
 本来は温厚な普通の人間たちが、突如豹変し、周りの人間に襲いかかる様を、詳細に描いています。演出は派手で、政治家が除幕式の最中に他の人間の体をまっぷたつにしたりと、悪趣味そのもの。このあたり、作者の本領発揮といったところでしょうか。
 怪しげな人物が実は犯人ではなく、真犯人は全く別の人間…というミステリ的な趣向もありますが、正直、ミステリとしては穴だらけです。序盤から登場し、思わせぶりに重要人物扱いしていた心霊治療者マシアスが、いつの間にかフェイドアウトしてしまうなど、ストーリーとしては、かなりずさんなところがありますね。
 ただ、スプラッターシーンは、著者が嬉々として描いているのがわかるぐらい生彩に富んでいて、この部分のみに限るなら、ホラーとしては魅力的な作品といえるかもしれません。



hutson3.jpg闇の祭壇 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
茅 律子 ショーン・ハトスン
早川書房 1988-04

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ショーン・ハトスン『闇の祭壇』(茅律子訳 ハヤカワ文庫NV)

 建設現場で発見された地下の古代の遺跡から、多数の人骨が発見されます。そこは古代のケルト人が祭事に使っていた場所でした。女性考古学者キムを初めとする発掘メンバーが調査を進めるなか、関係者が次々と殺されていきます。
 殺人と同時に、子供が何人も失踪し、キムの娘もまた姿を消してしまいます。
 人間の仕業とは思えない殺害現場を見たウォレス警部は、事件には古代のケルト神話が関係しているのではないかと考えますが…。

 発掘された古代遺跡の調査と平行して、連続殺人が描かれます。殺人事件の原因は、どうやら古代ケルトの宗教的なものにあることが匂わされます。実際、黒魔術の儀式を行っている怪しい男とその一味が描かれるので、よくある邪教集団ものかと思ってしまうのですが、それを裏切る後半のひっくり返しが強烈です。
 お話の体裁は、連続殺人の犯人は誰か? というミステリ的な展開で進むように見えるのですが、殺人シーンを見る限り、明らかに超自然的な存在が犯人なので、フーダニット的な興味は湧きにくいですね。
 そもそも、直接的に行われる殺人のほか、何らかの超自然的な原因による事故や惨劇も多数混じっているので、常識的な意味での「犯人」がいるのかどうかもはっきりしないのです。
 殺人や人体損壊のシーンは異様に詳細、残酷描写は強烈で、おそらく作者が一番描きたかったのはこれらのシーンなのでしょう。例えば、これは事件ではなく、ただの偶然だと思うのですが、青年が落ちてきた強酸をかぶってしまうシーンがあります。そこでも酸で顔や体が溶けるシーンが詳細に描写されるのですが、その強烈さは目を覆うほど。また、話の筋には直接関係のない闘犬の描写などもはさまれ、こちらも無意味なほど派手な残酷描写がなされます。
 全体にスプラッターシーンが派手で、その意味では面白いのですが、問題は、本筋であるストーリー自体がだれ気味なところ。伏線らしき描写が全然伏線でなかったりと、つっこみ所が非常に多いのです。
 テーマであるケルトの伝説と殺人事件のつながりがはっきりせず、もどかしさがあるのですが、結末付近でようやくそれが明確になり始めます。そこからは非常に盛り上がります。かなり絶望的なシーンで終わるのですが、この手のホラー作品で、これだけスケールが大きいものは、なかなかないのではないでしょうか。
 弱点はいろいろあるものの、B級に徹した作りで、ホラーとしては好感の持てる作品といえますね。

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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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