奇妙な味の川下り  中村融編『夜の夢見の川』
4488555055夜の夢見の川 (12の奇妙な物語) (創元推理文庫)
シオドア・スタージョン G・K・チェスタトン他 中村 融
東京創元社 2017-04-28

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 中村融編『夜の夢見の川』(創元推理文庫)は、〈奇妙な味〉をテーマにしたオリジナル・アンソロジー。同テーマで編まれた『街角の書店』の続編的作品集です。

クリストファー・ファウラー『麻酔』
 予約をとらず歯医者に押しかけた男は、治療室に入り込み、たまたま手の開いていた医者に治療をしてもらうことになります。しかし、麻酔をかけた後、医者は不審な行動を取り始めます…。
 都市伝説風の不条理小説。肉体的な描写が強烈です。

ハーヴィー・ジェイコブズ『バラと手袋』
 友人のヒューバーマンは、子供時代から、周りの人間の膨大な品物を収集していました。仕事で成功した「わたし」は、かって友人と交換したオートバイのおもちゃを再び手にしたくなり、友人を訪ねますが…。
 子供時代の郷愁を扱いながらも、ノスタルジーとは異なる味わいを醸し出す不思議な作品。名作『おもちゃ』のバリエーション的作品です。

キット・リード『お待ち』
 旅行中の母娘は、ふとある町に立ち寄りますが、そこで母親は具合を悪くしてしまいます。その町では医者はおらず、住人の経験則だけから病気を治そうというのです。しかも直るまで町からは出れないのです。その内に、娘は、町には「お待ち」という風習があることを聞きますが…。
 親切で温厚な人々が住む町。しかしそこには何やら不穏な空気が漂っているという作品。

フィリス・アイゼンシュタイン『終わりの始まり』
 ある時、母親からかかってきた電話。しかし母親は何年も前に亡くなっているのです。しかし夫も兄も、母親はずっと生きているというのです…。
 恐怖小説風の出だしから始まり、結末は人情溢れるものになるというファンタジー作品。

エドワード・ブライアント『ハイウェイ漂泊』
 会議へ向かう車の中で、友人はハイウェイに乗り捨ててある車について奇妙な話を始めます。姿を消した人間たちは、空から飛来した何者かにさらわれたのではないか。また、姿を消した人間は一人で消えた例はなく、必ず家族連れだというのですが…。
 最後まで明確な事件は起こらず、徹頭徹尾、仄めかしで展開する技巧的な作品。まさに〈奇妙な味〉としか呼び様がない作品ですね。

ケイト・ウィルヘルム『銀の猟犬』
 失業した夫が農場を始め、子供とともに移り住んだ妻は、ある日、二頭の美しい猟犬が自分を見つめているのに気付きます。猟犬はなぜか自分の身の回りを離れようとしないのですが…。
 夫を無条件で愛していると思っていた妻の心の変化が丁寧に描かれていきます。猟犬は妻の心の象徴なのか? 結末も印象的です。

シオドア・スタージョン『心臓』
 心臓の弱い男を愛してしまった女は「憎悪」の力で彼の心臓を作り変えようと考えますが…。
 「憎悪」を使って人を愛する女を描く作品。掌編ながら、強烈なインパクトを残す作品です。

フィリップ・ホセ・ファーマー『アケロンの大騒動』
 娘をめぐって撃ち合いになった二人の男。片方の男は撃たれて死んでしまいます。そこへ突然現れた医者の男は、魔術的な手段で男を甦らせてしまいます。医者は町の死者をできる限り生き返らせると話しますが…。
 西部劇風の舞台の作品。ひっくり返しが楽しいユーモア・ストーリーです。

ロバート・エイクマン『剣』
 若い娘に剣を刺すという出し物に魅了された男は、その若い娘と二人だけの機会を作ってやろうと持ちかけられますが…。
 娘との逢瀬に胸を躍らすものの、実際の娘は以前ほど魅力的ではなく…。終始、不穏な雰囲気で進む作品。

G・K・チェスタトン『怒りの歩道─悪夢』
 ある日、いつも通っているはずの歩道がおかしなことになり始め…。
 今までがそうであったからといって、これからも同じだとは限らない…。哲学的な逆説に満ちた奇想小説です。

ヒラリー・ベイリー『イズリントンの犬』
 裕福な一家のもとに引き取られた犬には、人語を話す能力がありました。横領を繰り返していた一家の主人は、犬を売って大金を得ようと考えますが…。
 虚飾に満ちた一家の真実が、犬によって暴かれるという風刺的作品。

カール・エドワード・ワグナー『夜の夢見の川』
 護送車の転覆により、脱走を図った女。屋敷を見つけた女は、自らの境遇を騙り、助けを求めます。親切な女主人とメイドにより、体力を回復した女でしたが、二人はなぜか自分を離そうとしないのです…。
 屋敷の住人たちが異常性格者だった…という話かと思いきや、住人たちが異界のものだという可能性や、そもそも主人公の女自体が妄想に取り付かれているという可能性も示唆されます。
 チェンバーズ『黄衣の王』が言及されるなど、クトゥルー神話との関連も見えますね。夢幻的な雰囲気といい、何通りもの解釈が可能な懐の深さといい、集中一の力作でしょう。

 編者解説によると、前作以上に、解釈のはっきりしない作品を集めたそうです。確かに前作よりも〈奇妙な味〉としかいいようのない作品が多かった印象ですね。個人的には今回の『夜の夢見の川』の方が満足度が高かったように思います。

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「怪奇幻想読書倶楽部 第6回読書会」延期について
4月30日(日)開催予定だった「怪奇幻想読書倶楽部 第6回読書会」ですが、都合により延期させていただきます。代替日は決まり次第、お知らせいたします。

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怪奇幻想読書倶楽部 第6回読書会 参加者募集です
4月16日告知

 「怪奇幻想読書倶楽部 第6回読書会」を、下記の日程で開催します。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、連絡をいただきたいと思います。 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2017年4月30日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:1300円(予定)
テーマ
第1部:欧米怪奇幻想小説入門(英米編1)
第2部:ファンタスティック・マガジン

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※個人の発表やプレゼンなどはありません。話したい人が話してもらい、聴きたいだけの人は聴いているだけでも構いません。
※基本的には、オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも、安心して参加できると思います。

 第1部のテーマは「欧米怪奇幻想小説入門(英米編1)」。
 ゴシック・ロマンス、怪奇スリラー、ゴースト・ストーリー、異色短篇、パルプ小説にモダンホラー。一口に「怪奇幻想小説」と言っても、その種類は様々です。
 欧米の怪奇幻想小説に興味があるけれど、まず何を読んだらいいの? どんな作品があるの? といったところから、お勧めアンソロジーや参考書の紹介まで、欧米の怪奇幻想小説の本場であるイギリス・アメリカ作品を概観していきたいと思います。

 第2部は「ファンタスティック・マガジン」と題して、怪奇幻想や関連領域を扱った雑誌について語りたいと思います。
 古くは『幻想と怪奇』や『牧神』、新しいところでは『ナイトランド』、また『ミステリマガジン』の《幻想と怪奇》特集や『SFマガジン』の幻想小説を扱った特集、『ユリイカ』の作家特集など。
 雑誌そのものでも、雑誌の特定の号や増刊でも構いません。こんな雑誌がこんな特集をやっていた!というものでもOK。「ファンタスティック」な雑誌について話し合いたいと思います。

4月28日追記
 都合により、延期させていただきました。

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5月の気になる新刊と4月の新刊補遺
4月26日刊 オーガスト・ダーレス『ジョージおじさん 十七人の奇怪な人々』(アトリエサード 予価2592円)
5月1日刊 『楳図かずお『漂流教室』異次元への旅』(平凡社 予価1296円)
5月16日刊 イタロ・カルヴィーノ『まっぷたつの子爵』(岩波文庫 561円)
5月17日刊 河出書房新社編集部編『文藝別冊 澁澤龍彦入門』(河出書房新社 予価1512円)
5月19日刊 エイドリアン・トミネ『キリング・アンド・ダイング』(国書刊行会 予価3672円)
5月22日刊 G・K・チェスタトン『ブラウン神父の不信 新版』(創元推理文庫 予価799円)
5月22日刊 M・R・ケアリー『パンドラの少女 上下』(創元推理文庫 予価各972円)
5月24日刊 キャサリン・ダン『異形の愛』(河出書房新社 予価4104円)
5月24日刊 デイヴィッド・ホワイトハウス『図書館は逃走中』(早川書房 予価1944円)5月29日刊
エドワード・ケアリー『穢れの町 アイアマンガー三部作2』(東京創元社 予価3024円)
5月29日刊 柳下毅一郎監修『J・G・バラード短編全集3』(東京創元社 予価3888円)
5月29日刊 パトリック・ネス/シヴォーン・ダウド『怪物はささやく』(創元推理文庫 予価864円)
5月29日刊 アーサー・C・クラーク『地球幼年期の終わり 新版』(創元SF文庫 予価864円)
5月予定 ジュール・ヴェルヌ『蒸気で動く家 〈驚異の旅〉コレクション』(インスクリプト 予価5940円)


  《ナイトランド叢書》の新刊は、短篇の名手オーガスト・ダーレスの傑作集『ジョージおじさん 十七人の奇怪な人々』です。ダーレス作品は、アンソロジーにはよく収録されますが、単行本で邦訳があるのは『淋しい場所』(国書刊行会)のみだったので、ファンには嬉しい刊行ですね。

 イタロ・カルヴィーノの『まっぷたつの子爵』が岩波文庫入り。戦争の事故でまっぷたつになった子爵の左右半身が、それぞれ善と悪を体現するようになるという、寓話的作品の傑作です。
 これでカルヴィーノの《我らの祖先》三部作が、すべて復刊され、手に入りやすくなりました。他の2作も含め、《我らの祖先》シリーズは、カルヴィーノ作品の中では、物語性が強いエンターテインメントなので、オススメしておきたいと思います。

 M・R・ケアリー『パンドラの少女』は、映画化によるタイアップ文庫化でしょうか。ゾンビものの新機軸であり、破滅SF的な要素もある作品です。近年のホラー作品の中では出色の作品だと思います。

 キャサリン・ダン『異形の愛』は、かってペヨトル工房から出ていたものの復刊です。フリークスの一家のサーカスを舞台に、家族の愛憎を描く作品。題材は強烈ですが、中身はかなりまっとうな家族小説で、一読の価値がある作品だと思います。
 
 エドワード・ケアリーの《アイアマンガー三部作》の2作目『穢れの町』が登場です。1作目は非常にハラハラドキドキさせる良質のエンターテインメントでした。続編も楽しみです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

侵略する雨  イサーク・エスバン監督『ダークレイン』
B01MY27UGVダークレイン [DVD]
アメイジングD.C. 2017-04-05

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 世界中が激しい豪雨に見舞われていたある夜、人里離れたバスの待合所内では、数人の人々がバスを待っていました。しかしバスは数時間も遅れており、一向にやってくる気配がありません。
 客がいらだちを募らせるなか、ウィルスに感染したらしい人間が現れます。やがて一人一人感染者が増えていきますが、なぜか待合所からは出られません。ガラスは防弾になっており、銃ですら開けることができないのです。
 ラジオからは、世界中で同じように、伝染病でパニックが起きているらしいことがわかりますが…。

 イサーク・エスバン監督『ダークレイン』は、1960年代のメキシコを舞台にした超常スリラー映画です。
 序盤から、世界中で何かが起きているらしいこと、バスが一向に現れないこと、待っている客たちがいらだちを募らせていることなどがわかりますが、それに加えて、登場人物たちがどれも不穏な状況を抱えているらしいことが、見ている者の不安に拍車をかけます。
 妻の出産にかけつけようとしている夫、暴力をふるう夫から逃げ出してきた臨月の妊婦、言葉が通じないシャーマンの老婆、反政府運動に従事しているらしい医学生、重い障害がある息子とその母親など。そんな人物たちが閉鎖的な環境に閉じ込められたことから、互いに不信感を抱き、争いが起き始めます。
 ウィルス感染らしき患者が現れたことから、それが政府の陰謀だと思い込んだり、悪魔の呪いだと言い出したりする人間がいるなか、とうとう暴力が発生してしまいます。

 作品のメインとなる「病」が単なる病気というよりは、超自然的な様相を持つものなので、「病」の原因は合理的なものではないことが予想はできるのですが、加えて、一向にやまない雨や、なぜか出ることのできない待合所などの要素も、超自然的な印象を高めます。
 出来事の原因や全体像が一向につかめない中盤までの展開は、とてもサスペンスフルです。中盤あたりから事態の原因がなんとなくわかってくるのですが、そこからはまた別の異様な要素が投入され、違った味わいの作品になっていきます。

 舞台は、ほぼ待合室の中だけに限定されています。おそらく低予算ゆえなのでしょうが、待合室の外、そして世界がどうなっているかが全くわからず、ラジオから断片的な情報だけが流れてくるという演出が、観ている者の想像力を高めます。
 また、「病」が蔓延した結果、世界中が変化してしまうのですが、その「病」の内容が人間の本質を問うものであったり、1960年代という時代が登場人物の設定に深みを与えるなど、いろいろと細かい部分で工夫がされています。

 監督のイサーク・エスバンは、ループものの新機軸というべき『パラドクス』を撮った人ですが、本作も、単純なSFやホラーには当てはまらない怪作です。前作もそうですが、SFやホラーに、ちょっと哲学的なスパイスを利かせた感じの作風が特徴です。
 この監督、非常に癖があるので、一般受けは難しいかもしれませんが、非常に独創的な作品を作る人なので、次回作が楽しみですね。

テーマ:洋画 - ジャンル:映画

リドル・ストーリーと結末の定まらない物語 その3
●物語自体が謎につつまれている作品
 物語そのものの解釈が不可解だったり、謎につつまれているタイプの作品です。


4480429050謎の物語 (ちくま文庫)
紀田 順一郎
筑摩書房 2012-02

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ウォルター・デ・ラ・メア『なぞ』(紀田順一郎訳 紀田順一郎編『謎の物語』ちくま文庫収録)
 七人の子供たちは、おばあさんの家で暮らすことになります。おばあさんは、家のどこで遊んでもいいが、空き部屋にある古い樫の長持で遊んではいけないと、子供たちに諭します。子供たちは、空き部屋で一人づつ姿を消していきますが…。
 不思議な長持、子供たちの失踪、何とでも解釈できそうな魅力的な掌編です。



ナサニエル・ホーソーン『ヒギンボタム氏の災難』(竹村和子訳 紀田順一郎編『謎の物語』ちくま文庫収録)
 旅人に何か新しいニュースがないかと訊ねた男は、資産家のヒギンボタム氏が殺されたという話を聞き、吹聴してまわります。しかし、ヒギンボタム氏の知り合いは、彼は殺されてなどいないというのですが…。
 殺人事件は本当に起こったのか? 真実が二転三転するスラップスティックな作品。



小泉八雲『茶わんのなか』(平井呈一訳 紀田順一郎編『謎の物語』ちくま文庫収録)
 ある侍がお茶を飲んでいると、茶碗の中に見知らぬ若者の顔が映ります。そのまま茶を飲み干した侍は、その晩屋敷の当直についている際に、茶に映ったのと同じ顔をした若者の訪問を受けます。侍が切りつけると若者は消えてしまいます。その後も若者の家来だという三人組が現れますが…。
 著者八雲が日本の話を再話した作品。不思議な現象といい、唐突な終わり方といい、いかようにも解釈できそうなストーリーです。



ハーヴィー・ジェイコブズ『おもちゃ』(荒俣宏訳『魔法のお店』ちくま文庫収録)
 中年男性が、ふと骨董店のウィンドウに目を留めます。そこにあったのは、自分が二十年も前に持っていたおもちゃでした。懐かしくなった男が店の中に入ると、そこにあったのは自分が持っていたおもちゃばかりだったのです…。
 過去への郷愁を呼び覚ますおもちゃの数々。単純なノスタルジーには終わらない苦い結末にも味があります。



448003644X怪奇探偵小説傑作選〈4〉城昌幸集―みすてりい (ちくま文庫)
城 昌幸 日下 三蔵
筑摩書房 2001-05

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城昌幸『古い長持』(日下三蔵編『城昌幸集 みすてりい 怪奇探偵小説傑作選4』ちくま文庫収録)
 長年連れ添った妻は、夫に向かって訊ねます。ずっと空けてはいけないと言われていた、あの長持には何が入っているのかと。しかし夫は答えません。ある夜、妻は長持の中身を確認しようとしますが、その翌日から妻の姿は見当たらないのです…。
 長持の中には何があったのか? デ・ラ・メア『なぞ』に通じるところのある、ファンタスティックな味わいの掌編です。



4003230434ホーソーン短篇小説集 (岩波文庫)
ホーソーン 坂下 昇
岩波書店 1993-07-16

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ナサニエル・ホーソーン『牧師の黒のベール』(坂下昇訳『ホーソーン短篇小説集』岩波文庫収録)
 突然、顔に黒いベールを付け始めたフーパー牧師。村人たちは恐れを抱きますが、牧師はベールを外すことなく生活を続けます…。
 黒いベールとは何なのか? 牧師がベールをつける意味も理由も全く説明されません。いかようにも解釈が可能な作品。



4862651356ざくろの実―アメリカ女流作家怪奇小説選
イーデス ウォートン Edith Wharton
鳥影社 2008-06

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イーデス・ウォートン『ざくろの実』(梅田正彦編訳『ざくろの実 アメリカ女流作家怪奇小説選』鳥影社収録)
 新婚のシャーロットとケネス夫妻。幸せな生活を送る二人のもとに、ある日突然手紙が届きます。夫あてに届けられたその手紙には、差出し人の名前はありません。手紙が届くたびに苦悩を浮かべる夫に対し、シャーロットは、昔の恋人からなのではないかと疑心暗鬼に陥ります。そして夫は突然姿を消してしまいますが…。
 手紙の差出し人はいったい誰なのか? 死んだ前妻の影をちらつかせながらも、あくまで、具体的な情報は最後まではっきりしません。ゴースト・ストーリーなのかどうかすらわからないゴースト・ストーリーという、非常に技巧的な作品です。



イーリア・ウィルキンソン・ピーティー『なかった家』(梅田正彦編訳『ざくろの実 アメリカ女流作家怪奇小説選』鳥影社収録)
 年上の夫と結婚した、うら若い妻は、移り住んだ農場のまわりに人気がないのに退屈していました。ふと、視界のはしに小さな家があるのを見つけた妻は夫に問いただします。あそこに住んでいるのはだれ? 隣人とつきあってはいけないの? しかし、夫はあそこには誰も住んでいないと答えます。そもそも、家などあそこには存在しないのだと…。
 「家の幽霊」を扱った、切れ味するどい掌編です。妻が、本格的に怪異に関わり合うのではなく、かすかにすれ違うような、あっさりとした展開が、逆に新鮮です。



4488555047街角の書店 (18の奇妙な物語) (創元推理文庫)
フレドリック・ブラウン シャーリイ・ジャクスン 中村 融
東京創元社 2015-05-29

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テリー・カー『試金石』(中村融訳『街角の書店 18の奇妙な物語』創元推理文庫収録)
 男が骨董店で手に入れた「試金石」は、常にさわっていたくなる奇妙な魅力を持っていました。その石を触っているうちに、男は何に対しても興味を失っていきます…。
 「試金石」とは何なのか? 結末に至ってもその由来も意味も明かされず、妙な読後感を残す一篇です。



4003271920七人の使者・神を見た犬 他十三篇 (岩波文庫)
ブッツァーティ 脇 功
岩波書店 2013-05-17

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ディーノ・ブッツァーティ『七階』(脇功訳『七人の使者・神を見た犬 他十三篇』岩波文庫収録)
 とある病院に入院することになった男。その病院では、症状の重さによって階が分けられていました。一番症状の軽い患者は七階、重くなるにしたがって、下の階に移されていくのです。何かの手違いから、七階にいた男は、どんどんと下の階に移されてゆくのですが…。
 エスカレートする不条理な展開が魅力的。ブッツァーティの代表作ともいうべき傑作短編。



ディーノ・ブッツァーティ『なにかが起こった』(脇功訳『七人の使者・神を見た犬 他十三篇』岩波文庫収録)
 北に向かう特急列車に乗った男が、窓の外を眺めていると、あたりの住人が大あわてで南に逃げていくのに気づきます。しかし、何が起こっているのか、その原因は何なのか、まったく分かりません。やがて列車は無人の駅のプラットホームにたどり着きますが…
 重大な「何か」が起こっているにもかかわらず、それが何なのかが全くわからないという、不条理の極致を描いた作品です。


●リドル・ストーリーをテーマにした作品


4087468186追想五断章 (集英社文庫)
米澤 穂信
集英社 2012-04-20

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米澤穂信『追想五断章』(集英社文庫)
 古書店でアルバイトする青年の前に、父親が過去に書いたという5つのリドル・ストーリーを探してほしいという女性が現れます。調査を続けるうちに、女性の父親が巻き込まれたという事件の謎が浮かび上がり…。
 なんといっても、「リドル・ストーリー」をテーマにしているという着想が魅力的です。ちゃんと作中作として、リドル・ストーリーが埋め込まれており、このジャンルの作品が好きな人にはたまらない魅力となっています。



4152093188謎(リドル)の謎(ミステリ)その他の謎(リドル) (ミステリ・ワールド)
山口 雅也
早川書房 2012-08-24

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山口雅也『謎(リドル)の謎(ミステリ)その他の謎(リドル) 』(早川書房)
 リドル・ストーリーの短篇5作を収録した作品集。フランク・R・ストックトン作品や、クリーヴランド・モフェット作品に対するオマージュ的な部分もあり、面白い作品集ですが、リドル・ストーリーというジャンルを知らない読者が読むには楽しみにくいかも。


●リドル・ストーリーについて言及されているエッセイ・評論

4061362186夢探偵―SF&ミステリー百科 (講談社文庫)
石川 喬司
講談社 1981-10

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石川喬司『夢探偵 SF&ミステリー百科』 (講談社文庫)
 初心者向けに書かれた、ミステリとSFの入門書です。それぞれのテーマ別に章立てがなされており、リドル・ストーリーにも一章が割かれています。ブックガイドの名著。



4122012031ミステリ散歩 (中公文庫)
各務 三郎
中央公論社 1985-03

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各務三郎『ミステリ散歩』(中公文庫)
 ミステリ全般に関する啓蒙的エッセイ集です。それぞれの項目が短いので、深く知りたい人には物足りないかもしれません。


410137323X謎のギャラリー―名作博本館 (新潮文庫)
北村 薫
新潮社 2002-01

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北村薫編『謎のギャラリー 名作博本館』 (新潮文庫)
 アンソロジー《謎のギャラリー》の解説編として出たエッセイ集です。対談形式で、テーマ別に作品が語られていくという形式になっています。一章がリドル・ストーリーについて割かれており、『夢探偵 SF&ミステリー百科』とともに、リドル・ストーリーについて知りたい方にはお勧めしたい本です。


4087203085ショートショートの世界 (集英社新書 (0308))
高井 信
集英社 2005-09

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高井信『ショートショートの世界』 (集英社新書)
 日本で唯一のショートショート全般に関するガイドブック。リドル・ストーリーについての言及もあります。


●結末が複数ある作品

4488010563テロ
フェルディナント・フォン・シーラッハ 酒寄 進一
東京創元社 2016-07-11

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フェルディナント・フォン・シーラッハ『テロ』(酒寄進一訳 東京創元社)
 百六十四人の乗客の乗った旅客機がハイジャックされます。テロリストたちの目的は、七万人の観客がいるサッカースタジアムに自爆テロをしかけるというもの。国防大臣からの待機指令を無視し、空軍少佐は独断で旅客機を撃墜します。
 より多人数の人間を救うためには、少数の犠牲もやむを得ないという、少佐の行動は正しかったのか? 裁判において様々な検証が行われていきます。
 有罪判決と無罪判決、二通りの結末が用意された問題作です。



4594011985if もしも
戸田山 雅司 武上 純希 蒔田 光治 岩城 レイ子 石田 雅彦 島崎 ふみ フジテレビifもしも
フジテレビ出版 1993-07

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『if もしも』(フジテレビ出版)
 一話ごとに、物語上の分岐点が存在し、そこから枝分かれした2通りのストーリーを描くというオムニバスドラマシリーズのノベライズ。
 基本は、ストーリーの途中で、2つの選択肢が発生します。それぞれを選択した2つの物語を順番、もしくは交互に描いていきます。2つの選択肢が、それぞれハッピーエンドとバッドエンドになることが多いものの、どちらもハッピーエンド、どちらもバッドエンドというパターンもあり。
 ストーリーの分岐という点は面白いものの、肝心のストーリー自体にあまり魅力がないのが玉に瑕です。



4890139346ガール・イン・レッド
アーロン フリッシュ Aaron Frisch
西村書店 2013-02

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アーロン・フリッシュ作、ロベルト・インノチェンティ絵『ガール・イン・レッド』(金原瑞人訳 西村書店)
 「赤ずきん」をモチーフに現代で展開する物語。ヒロインが向かうのは、都会の危険なスラム街です。ハッピーエンドとバッドエンド、2種類の結末が用意されています。



4334752381羊飼いの指輪――ファンタジーの練習帳 (光文社古典新訳文庫)
ジャンニ ロダーリ Gianni Rodari
光文社 2011-10-12

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ジャンニ・ロダーリ『羊飼いの指輪 ファンタジーの練習帳』(関口英子訳 光文社古典新訳文庫)
 ファンタジー風物語が収められた短篇集ですが、それぞれの短篇に対して、3つの結末がつけられているのが特徴。読者は各々好きな結末を選ぶことができます。
 著者が用意した結末だけでなく、読者オリジナルの結末を考えることも勧められています。読者参加型の作品集といえます。



4003279212伝奇集 (岩波文庫)
J.L. ボルヘス 鼓 直
岩波書店 1993-11-16

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ホルヘ・ルイス・ボルヘス『ハーバート・クエインの作品の検討』(鼓直訳『伝奇集』岩波文庫収録)
 架空の作家ハーバート・クエインの作品を検討するという体裁の作品です。いくつかの作品の梗概が言及されますが、それがどれも風変わりな特徴を持っています。
 中でも、三つに分岐した章が更に三つに分岐するという「April March(四月、三月)」、 故意に未完で終わっているという小説集「提示」は、面白いアイディアですね。
 「提示」に関しては、ボルヘスもこれに触発されて短編『円環の廃墟』を書いたという、まことしやかな描写もあります。


●結末だけでなく、物語の全体像がわからないもの(物語の萌芽のみが示されている)

4309276202ハリス・バーディックの謎
クリス・ヴァン オールズバーグ Chris Van Allsburg
河出書房新社 2015-07-22

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クリス・ヴァン・オールズバーグ『ハリス・バーディックの謎』(村上春樹訳 河出書房新社)
 謎を含んだ1枚絵が並べられるという構成の絵本。簡単なキャプションしか付けられておらず、物語は読者の想像に委ねられています。
 絵を元に、多数の作家が、実際に物語を想像した作品を集めた『ハリス・バーディック年代記』(河出書房新社)という本もあり。


●結末だけが示されているもの

4041592011きなきな族からの脱出 (角川文庫 (5858))
和田 誠
角川書店 1984-09

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和田誠『きなきな族からの脱出』(角川文庫)
 いろいろな小説の終章だけを集めたというコンセプトの作品集。ミステリあり、SFあり、時代小説あり、純文学ありと、収められた作品の範囲は幅広いです。
 別れた恋人の結婚相手が架空の人物ではないかと疑う『花粉時計』、山奥に日本人と接触のない謎の民族がいたという『向う側』、留学した若い娘のパトロンの9人を描く『足ながおじさんず』、怪談会が異様な展開になるという『窓と扉』など。
 終章だけなので、全体像が見えず不満を抱きやすいのではないか…と思いきや、どれも短編として上手いので、それだけ完結したように見えてしまうのが玉に瑕でしょうか。結末がどうなったかわからない、リドル・ストーリー的な作品もいくつかあり。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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