怪奇幻想読書倶楽部 第4回読書会 開催しました
 2月26日の日曜日、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第4回読書会」を開催しました。出席者は、主催者を含め9名でした。
 テーマは、第1部「夢と眠りの物語」、第2部「テーマなしフリートーク」です。今回は、本会のみ4時間。参加してくださった方には、お礼を申し上げたいと思います。
 それでは、当日の会の詳細について、ご報告いたします。

 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。
 前回同様、あらかじめ作っておいたプラスチック製ネームプレートを、参加者それぞれの前に立てたうえで、参加者を紹介しておきます。今回も、新規の方のみ主催者から紹介し、2回目以降の参加者には、軽く自己紹介をしてもらいました。

 今回のテーマは「夢と眠りの物語」。過去3回のテーマは、どちらかと言うと「ジャンル」的なものだったのに対して、今回は「モチーフ」的なものと言っていいんでしょうか。その点、新しい試みではありました。
 主催者が作った〈夢〉テーマ作品リストのほか、参加者のGreenさんの方で独自に挙げていただいたリストも参考にしながら、話を進めていく形になりました。
 ただ、テーマ的にどのような作品が扱われるか、参加者の方にいまいちイメージが伝わらなかった感もあり、進行がスムーズにいかなかったのは、自分への課題として残りました。

 第1部が終わり、第2部の完全フリートークの時間に入っても、〈夢〉テーマの話が結構続いたので、今回はほとんど〈夢〉テーマで終わったといっていいかもしれません。皆さん心に引っかかるものがあったというべきなのか、興味深いテーマではあったと思います。

 それでは、今回のトピックについて順不同で並べてみます(例によって、記憶にあるものだけですが)。

・人間が見る夢について。夢の内容は大体が支離滅裂で、また、個人的にしか意味を持たないことも大部分。それゆえ、他人と夢の話をしても、あまり興味を持ってもらえないことが多い。
・他人と夢の話をすることがあるか? ほとんどない人が大半。夢の中で危険な目に合うなど、特殊な例を除いては、あまり共通の話題にもならないことが多い。
・夢には記憶が反映される? 外国の風景が夢に出てくるとき、イメージとしての風景が出てくるが、実際に行った場所であれば、映像的にも鮮明になるような気がする。
・夢に関する文学は、古代から存在するが、近代以前のものは神託やお告げとしての夢を描いたものが多い。
・夢をそのまま記述した「夢日記」は、部分的に面白い部分はあるが、全体的には退屈なものが多い。
・夢に関する描写を、古典的な名著から抜粋したアンソロジー、スティーヴン・ブルック編『夢のアンソロジー』は、退屈で眠くなってしまう。
・『夢のアンソロジー』と同じようなコンセプトでも、ボルヘス編『夢の本』は、ボルヘス好みの不思議な描写を含む夢が多く取り上げられており、エンタメ度が高い。
・「邯鄲の夢枕」で知られる沈既済『枕の中の世界の話』、「南柯の夢」で知られる李公佐『南柯郡太守の物語』など、古い中国の夢物語には、現代の夢テーマのSFやファンタジー作品の原型が見られる。
・白行簡『三つの夢の話』は、相手の夢が現実に現れた話、自分の夢を相手に見られた話、同時に同じ夢を見た話、3つの夢のパターンを並べるという構成の夢物語ショート・ショートで楽しい。
・蒲松齢『聊斎志異』の1エピソード『宰相の夢のあと』は、上記『枕の中の世界の話』を元にした話。人間の生のはかなさを描くために、人生2回分以上の時間が夢だった…とするすさまじい物語。
・蒲松齢『聊斎志異』の面白さ。エピソードは数百篇と膨大。妖怪変化や精霊などが出てきたり、色恋を扱ったものが多い。
・都築道夫『有毒夢』の紹介。未来を舞台にした作品だが、あっさり人が殺されてしまう。
・都筑道夫の怪談作品について。怪奇小説としての理想は岡本綺堂と内田百閒だったらしく、実際に後期の作品はこの2人の作風に近くなってくる。後期の短篇集『目撃者は月』では、夢をテーマにした怪奇作品が多かった。
・フィリップ・K・ディック『凍った旅』は、ディック後期の短篇。冷凍睡眠から目覚めた男がコンピュータに強制的に良い夢を見させられるが、男の罪悪感から全て悪夢になってしまうという物語。結構が整っているのと、ディックらしからぬ哀愁感が感じられて、味わい深い作品。
・SF作品だと、タイトルに「夢」とつく作品がよくあるが、内容的には夢と関係なかったりする。
・マーガニータ・ラスキ『ヴィクトリア朝の寝椅子』の魅力について。一種のタイムトラベルものだが、妙な心地悪さのある作品。同じくラスキの怪奇小説『塔』も気色悪さの際立つ作品。
・《20世紀イギリス小説個性派セレクション》は、なかなか面白いセレクションだった。シルヴィア・タウンゼンド・ウォーナー『フォーチュン氏の楽園』など
・シルヴィア・タウンゼンド・ウォーナーについて。未訳の作品『猫のゆりかご』『ロリー・ウィローズ』などについても。
・キャサリン・ストー『マリアンヌの夢』の面白さ。画帳に描いたものが夢の中で現実化されるという話。児童文学扱いだがけっこう怖い。映画化作品『ペーパーハウス 霊少女』は完全にホラー映画。
・ボルヘスは夢に関心の強かった作家。『円環の廃墟』について。夢の中で人間を作り出すという幻想小説。「神」のアナロジー?
・ケヴィン・ブロックマイヤー『終わりの街の終わり』について。生者の記憶にある限り、存在を続ける死者の街の物語。何ともいえない魅力のある作品。
・エドモンド・ハミルトン『眠れる人の島』について。
・ロード・ダンセイニ『ぺガーナの神々』について。神々さえも、つかの間の夢に過ぎない…という壮大なファンタジー。〈宿命〉と〈偶然〉が賭をする…というのは、決定論と自由意思の問題を神話に流用したもの? ダンセイニの世界観は、日本人の心性に近い気がする。
・チャールズ・ボーモント『トロイメライ』について。このパターンのオチを知らずに読むと、すごくビックリするのではないか。
・アルベルト・モラヴィア『夢に生きる島』について。ラヴクラフトやクトゥルーのパロディとしての側面も。
・アーシュラ・K・ル・グィン『天のろくろ』について。夢で世界を改変するというファンタジー。世界改変というすごい能力を描きながら、作品の主眼がそこにはないところに作家性を感じる。映像化作品『レイス・オブ・ヘブン』は、特撮などは控えめだが、わりと原作に忠実な良作。
・内田善美『星の時計のLiddell』について。マンガというより絵画に近い。発想元はアンドレ・モーロワ『夢の家』? 類似した発想のイギリス民話『夢の家』も存在。
・内田善美について。そもそも男性か女性かも不明。作品の再刊は拒絶しているそう。
・アンブローズ・ビアス『アウル・クリーク橋の一事件』について。「夢オチ」の元祖? 現代エンタメでは類似の作品が多く見られる。似たテーマの作品として、エイドリアン・ライン監督『ジェイコブズ・ラダー』など。
・ナサニエル・ホーソーン『デーヴィッド・スワン』の独創性について。現実に「夢」が通り過ぎるという作品。「今までの人生は全て夢だった」というテーマを逆転させたユニークな発想。
・シャーリイ・ジャクスンの作品集『こちらへいらっしゃい』について。収録作品『夜のバス』は、夢テーマ作品の傑作。同時収録のエッセイも面白い。ぜひ復刊してほしい作品集。
・怪奇小説で夢が扱われるときは、たいてい「悪夢」として登場する。わりとワンパターンな使い方が多い気がする。
・ウィルキー・コリンズ『夢のなかの女』について。夢の中で殺されそうになる話。それが真実なのか妄想なのかはっきりしない構成も巧み。
・ロバート・R・マキャモン『夜襲部隊』について。映像化作品も面白かった。
・シーリア・フレムリン『特殊才能』の怖さについて。他人を悪夢にひきずりこむ男の物語。悪夢を扱った作品の中でも、かなりの怖さをほこる作品。
・楳図かずお『神の左手悪魔の右手』について。全体に夢に関連する要素が強い作品。とくに第1エピソード『錆びたハサミ』は、全篇悪夢がテーマになっている。主人公の少年をはじめ子供たちの倫理観の描かれ方などが独特。
・SF作品では、ある時期、睡眠をなくしたらどうなるか?という感じの作品があった。バラード『マンホール69』など。現代では、ナンシー・クレス『ベガーズ・イン・スペイン』などが似たようなテーマの作品。
・現代の夢テーマでは、夢に潜り込む…というタイプの作品が多い。筒井康隆『パプリカ』、映画『マトリックス』シリーズ、ターセム・シン監督『ザ・セル』、クリストファー・ノーラン監督『インセプション』など。
・映画『インセプション』について。夢世界が階層構造になっているところが面白い。
・小川未明『金の輪』について。凄味のある作品。未明には他にも面白い作品がある。
・フリオ・コルタサル『夜、あおむけにされて』について。夢と現実が逆転するストーリー。
・シオドア・スタージョン『熊人形』について。何とも言えない不気味さのある作品。『監房ともだち』など、スタージョンには他にも変な作品がある。
・スティーヴン・ミルハウザー『アリスは、落ちながら』について。『アリス』のパスティーシュ作品。『バーナム博物館』収録作品中では目立たないが、いい作品。
・マーガレット・ミラー『鉄の門』について。ミラー作品では、時折、現実が悪夢のような情景に変貌することがある。精神的に問題をかかえた登場人物が多いせいもあるかも。『心憑かれて』など。
・戦後のニューロティックサスペンスでは、悪夢のような、幻想小説に近い作品もある。ジョン・フランクリン・バーディン作品など。
・フロイト以後における、夢テーマ作品への影響について。一時期は、精神分析的な視点を持ち込んだ作品が多く書かれた。ただ、象徴をちりばめられた作品を読んでも、物語として魅力的ではないものも多い。
・現代では、フロイトやユングの思想は、SFやファンタジーのひとつの素養として読まれていくのではないか。
・筒井康隆はフロイトの影響が強く、夢についての著作も多い。『パプリカ』『夢の検閲官』など。
・スティーヴン・キング作品について。近年の作品はどんどん厚くなっている? キングの文体の特徴について。商品名を羅列する、頭の中に流れるCMを描写する、など。リアリティを出すための技術?
・キング『シャイニング』について。映画版と原作は大分違う。キング自身が再映像化した作品についても。
・キング『ランゴリアーズ』の面白さ。サスペンス度は強烈。映像化作品では、最後に怪物が出てくる場面で白けてしまった…という人も。
・ネルヴァル『オーレリア』について。散文詩のような作品。
・映画、ジャック・リヴェット監督『セリーヌとジュリーは舟でゆく』について。女性二人を描いたファンタスティックな作品。他に似ている作品が思い浮かばない、ユニークな映画。
・駕籠真太郎作品について。もともと成人マンガ畑の人だが、近年はわりとメジャーに。奇想がすごい。人体がバラバラになったりと、筒井康隆を思わせるところもある。
・中野京子『新 怖い絵』について。「普通」の絵画だけでなく、殺人鬼ジョン・ウェイン・ゲイシーのピエロの絵なども収録しているところが面白い。
・久世光彦『怖い絵』について。この著者は、日常にさりげなくフィクションを混ぜるのがうまい。
・殺人鬼たちが描いた絵画展について。
・『マリ・クレール』誌は、安原顯が編集に関わるようになって文芸誌のようになった。
・安原顯が絡んだブックガイドシリーズは、どれも魅力的だった。とくに角川文庫から出た『短篇小説の快楽』は、それぞれの専門家がベストを選んだ魅力的な本。風間賢二『ホラー短篇小説ベスト50』、荒俣宏『ファンタジー短篇小説ベスト50』など。中には「ノン・ジャンル」という、よく分からない分類も。
・新刊情報をどこで入手するか? 「悪漢と密偵」さんのtwitterでの新刊情報は非常に便利。
・図書館の利用法について。マイナーな翻訳ものは、リクエストをしないと入れてくれなくなってしまう。ベストセラーばかり入れるのは図書館としていかがなものか。
・最近の図書館はサービスが行き届いている。深夜まで開館していたり、カフェ併設のところも多し。
・ルネ・マグリットの絵画作品の面白さ。現実にありえない組み合わせ、描かれた内容とタイトルの乖離、描かれた空の美しさなど。マグリットには、似たモチーフの作品が多数あり、それぞれタイトルが違うので、タイトル名を覚えるのが大変。
・ダリの作品について。絵画というより宝飾品に近い扱い。
・クリムト作品の素晴らしさについて。実物を見ると圧倒される。
・ヘンリー・ダーガーについて。世界観の設定の細かさがすごい。死後にダーガー作品の価値を認め保管した家主は偉い。
・宮沢賢治『銀河鉄道の夜』は、夢テーマ作品?
・ブラックウッド『ジンボー』について。隠れた名作。
・ブックガイドについて。ミステリやSFなどはたまにガイドが出るが、ホラーに関しては滅多に出ない。風間賢二『ホラー小説大全』の再刊でも、新しい情報はとくに更新されていなかった。現代のホラー事情が最近はわからなくなっている。
・自由国民社『世界のSF文学・総解説』について。「幻想文学」版もそうだが、あらすじを結末までばらしてしまうのはどうかと思う。トールキンの項目に記された、トールキン自身の歌のカセットが気になる。
・書きたいジャンルの需要がないので、別の分野で書く作家は昔からいた。マシスンのように本質はホラー作家だが、主にSFで活躍した作家もいる。日本でも純文学作家がミステリを書いていた例もある。
・《ドーキー・アーカイヴ》について。サーバン『人形つくり』は面白かったが、あまりバリエーションの書けない作家という印象。何冊か出たら飽きてしまうかもしれない。
・坂口尚の〈夢〉をテーマにした短篇マンガについて。
・夢をテーマにした谷内六郎の画集について。
・妄想が現実化する…というのも〈夢〉テーマのバリエーション? 小松左京『召集令状』、オーガスト・ダーレス『淋しい場所』、フレドリック・ブラウン『発狂した宇宙』、フィリップ・K・ディック『虚空の眼』など。
・映画『ビューティフル・マインド』について。
・映画『眠る男』について。
・映画『マイ・プライベート・アイダホ』について。
・怪奇小説における「手」テーマの作品について。W・F・ハーヴィー『五本指の怪物』、ジェラール・ド・ネルヴァル『魔法の手』、ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ『白い手の怪』、モーパッサン『手』、クライヴ・バーカー『手』、オリバー・ストーン監督の映画『キラー・ハンド』など。
・ジャック・ロンドン『星を駆けるもの』について。精神の力だけで肉体世界を克服する話。『新トワイライトゾーン』のエピソードで、似たようなテーマの作品があったが、そちらでは二重のオチになっていて感心した。
・田中啓文の作品について。ダジャレから発想されていて、その発想力に驚く。『銀河帝国の弘法も筆の誤り』『異形家の食卓』『UMAハンター馬子』など。
・「自動筆記」をはじめ、シュルレアリストたちは夢や無意識の力に関心が強かった。チャンス・イメージなど。
・E・H・ヴィシャック『メデューサ』について。昔から幻想小説の名作と言われていたもの。邦訳がアトリエサードから刊行予定。
・R・L・スティーブンソン『びんの悪魔』について。非常によくできたお話。フリードリヒ・ド・ラ・モット・フーケ『地獄の小鬼の物語』という、そっくりの話がある。


第5回読書会は、3月中旬~下旬に予定しています。

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3月の気になる新刊と2月の新刊補遺
2月28日刊 『ナイトランド・クォータリー vol.8 ノスタルジア』(アトリエサード 予価1836円)
3月2日刊 真魚八重子『バッドエンドの誘惑 なぜ人は厭な映画を観たいと思うのか』(洋泉社 予価1512円)
3月8日刊 パーシヴァル・ワイルド『悪党どものお楽しみ』(ちくま文庫 予価972円)
3月9日刊 C・S・ルイス『ナルニア国物語3 馬と少年』(光文社古典新訳文庫)
3月11日刊 ダリル・グレゴリイ『迷宮の天使 上・下』(創元SF文庫 予価各972円)
3月中旬刊 ロマン・ギャリ『ペルーの鳥 死出の旅へ』(水声社 予価3024円)
3月16日刊 イタロ・カルヴィーノ『不在の騎士』(白水Uブックス 予価1620円)
3月17日刊 高原英理『怪談生活 江戸から現代まで、日常に潜む暗い影』(立東舎 予価1944円)
3月17日刊 オーリン・グレイ/シルビア・モレノ編『ファンギ 菌類文学アンソロジー』(Pヴァイン 予価1728円)
3月21日刊 ウィル・ワイルズ『時間のないホテル』(創元海外SF叢書 予価2592円)
3月21日刊 G・K・チェスタトン『ブラウン神父の知恵 新版』(創元推理文庫 予価799円)
3月21日刊 キャンデス・フレミング『ぼくが死んだ日』(創元推理文庫 予価972円)
3月22日刊 小泉喜美子『痛みかたみ妬み 小泉喜美子傑作短篇集』(中公文庫 予価799円)
3月27日刊 『楳図かずお『漂流教室』異次元への旅』(平凡社 予価1296円)


 これはもう、タイトル勝ちですね。真魚八重子『バッドエンドの誘惑 なぜ人は厭な映画を観たいと思うのか』は、「なぜ人は厭な映画を観たいと思うのか」を追った評論。

 『ペルーの鳥 死出の旅へ』は短篇集。ロマン・ギャリは、フランスのゴンクール賞作家、いわゆる「文豪」なのですが、邦訳されている短篇は、ちょっと変わった作品が多く、面白く読んだ覚えがあります。『孤島奇譚』『ヒューマニスト』など。ホラーアンソロジーに収録された短篇『終わらない悪夢』は、純粋なホラー作品ではないですが、迫力のある作品でした。
 他の短篇がどんな作風なのか、気になる作家ではありますね。

 イタロ・カルヴィーノ『不在の騎士』は、〈我々の祖先〉三部作のひとつ(他は『まっぷたつの子爵』(晶文社)と『木のぼり男爵』 (白水Uブックス))。この三部作は、カルヴィーノ作品の中でもエンターテインメント度が非常に高い作品なので、オススメです。

 オーリン・グレイ/シルビア・モレノ編『ファンギ 菌類文学アンソロジー』は、キノコや菌類をめぐる作品を集めたアンソロジーとのこと。収録作品の一部が公開されていましたので、載せておきます。

ぞっとするような正当派のホラー
「菌糸」ジョン・ランガン

奇妙なキノコ辞典からの抜粋のような掌編
「白い手」レイヴィー・ティドハー

ある目的のためにキノコの潜水艦に乗った男の悲しい物語
「かわいいトリュフの女の子」カミーユ・イレクサ

スチームパンクと魔法とラヴクラフトをミックスしたウエスタン風物語
「セージの最後の花」アンドルー・ベン・ロミニ

共通の幻覚体験をもたらす特殊なキノコの話
「巡礼する処女たち」クリストファー・ライス

バロック風の奇怪な物語
「ミッドナイト・マッシュランプス」W・H・パグマイア

探偵ものボディホラー小説
「死体の口、胞子の鼻」ジェフ・ヴァンダーミーア

保守的な植民村に暮らす人々の欲望の物語
「山羊の花嫁」リチャード・ギャビン

苦悩と喪失をめぐる美しい物語
「死者が夢見る場所」A・C・ワイズ 

ほか

 ウィル・ワイルズ『時間のないホテル』は、発刊告知からずっと楽しみにしてきた作品です。紹介文が期待を煽りますね。「謎の支配人、壁に掛けられた抽象画、そして運命の女。偽名でホテルを渡り歩く男が遭遇する異様な一夜に始まる恐怖。J・G・バラード『ハイ・ライズ』+スティーヴン・キング『シャイニング』ともいうべき巨大建築幻想譚!

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波との暮らし方  パス『波と暮らして』とその絵本化作品
400110864Xぼくのうちに波がきた (大型絵本)
オクタビオ・パス キャサリン・コーワン マーク・ブエナー
岩波書店 2003-06-20

by G-Tools

 メキシコの詩人オクタビオ・パスに、『波と暮らして』(井上義一訳 木村榮一編『美しい水死人 ラテン文学アンソロジー』福武文庫収録)という、幻想的な短篇小説があります。
 海に出かけた男性が、「波」を見初めて家に連れ帰り、一緒に暮らし始めます。最初は楽しかった生活ですが、気まぐれな「波」は、物を壊したりと自分勝手を始めます。逃げ出した男性が、冬に家に戻ってみると…という物語。
 「波」を「女性」の擬人化として描いた、ファンタスティックな作品です。男性をからかったり、嫉妬させたりと、現実の女性のアナロジーとして描かれており、官能的な要素も強くなっています。

 かなりエロティックな作品といえるのですが、なんとこの作品を絵本化した作品があります。それがこれ、『ぼくのうちに波がきた』 (キャサリン・コーワン文、マーク・ブエナー絵 岩波書店)。
 子供向けのアレンジのため、エロティックな要素はなくなっています。そのため、こちらの作品では、主人公は少年で、「波」は少女として描かれています(といっても、ヴィジュアル的にはただの「波」なのですが)。「波」が少女(子供)のように描かれているため、後半に波が荒れ狂う場面も、子供のわがままとして解釈できるところは、見事な換骨奪胎ですね。
 お話の流れは、原作とほぼ同じです。原作では「波」を連れ帰ろうと、飲料水タンクに「波」を入れた主人公が、毒を入れた容疑をかけられ、刑務所に1年間入れられてしまうという部分があるのですが、さすがにそれはカットされています。
 画面いっぱいにヴィジュアル化された「波」が非常にユーモラスに描かれており、見応えがあります。これは絵本ならではの表現ですね。
 絵本だけで読んでも、充分魅力的ですが、原作と絵本を読み比べると、いっそう楽しめると思いますので、気になった方はぜひ。
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怪奇幻想読書倶楽部 第4回読書会 参加者募集です
 「怪奇幻想読書倶楽部 第4回読書会」を、下記の日程で開催します。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、連絡をいただきたいと思います。 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2017年2月26日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:1200円(予定)
テーマ
第1部:夢と眠りの物語
第2部:テーマなしフリートーク

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。メインは「怪奇幻想」ですが、ミステリ・SF・ファンタジー・文学・コミックなど、関連分野についても話しています。
※個人の発表やプレゼンなどはありません。話したい人が話してもらい、聴きたいだけの人は聴いているだけでも構いません。
※基本的には、オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも、安心して参加できると思います。

第1部のテーマは「夢と眠りの物語」。
 古来より神秘的とされてきた「夢」と「眠り」。古典の時代から現代まで、物語においても、様々に取り上げられてきました。
 例えば、ホルヘ・ルイヘ・ボルヘス『円環の廃墟』、ジョン・コリア『夢判断』、夏目漱石『夢十夜』、エドモンド・ハミルトン『眠れる人の島』、筒井康隆『パプリカ』、キャサリン・ストー『マリアンヌの夢』、内田善美『星の時計のLiddell』、ロバート・R・マキャモン『夜襲部隊』、アーシュラ・K・ル・グィン『天のろくろ』、澁澤龍彦『夢ちがえ』など。魅力的な「夢」と「眠り」にまつわる物語について話したいと思います。

第2部は、テーマを限定しないフリートークとして、最近読んだ面白い本や映画の話、紹介したいオススメ本の話、参加者に聞いてみたい疑問など、興の向くままにおしゃべりしたいと思います。

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《ナイトランド叢書》の続刊について
 『SFが読みたい!2017年版』(早川書房)を読みました。目当ては2017年度の各出版社の刊行予定なのですが、アトリエサードの出版予定がすごかったです。
 海外怪奇幻想小説を紹介しているシリーズ《ナイトランド叢書》の第三期の続刊が紹介されていたのですが、二期に引き続き、マニアックなタイトルばかりで驚きました。


第二期

クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国』(安田均編)
1 ゾシーク篇(発売中)
2 ハイパーボリア篇
3 アヴェロワーニュ篇

オーガスト・ダーレス『ミスター・ジョージ』(中川聖訳)

マンリー・ウェイド・ウェルマン『ジョン・サンストーンの事件簿』(尾之上浩司訳)

M・P・シール『紫の雲』(南條竹則訳)


第三期

E・ヘロン&H・ヘロン『フラックスマン・ロウの心霊探求』

A・メリット『魔女を焼き殺せ』

サックス・ローマー『魔女の血脈』

E・H・ヴィシャック『メデューサ』

エドワード・ルーカス・ホワイト『セイレーンの歌』『ルクンド』


 すでに1巻が刊行されている、C・A・スミスの短篇集は2分冊ではなく、3分冊になったようです。増補作品も入るのでしょうか。
 ヘロンの『フラックスマン・ロウの心霊探求』は、オカルト探偵ものでは有名な作品の一つですね。《シャーロック・ホームズのライヴァルたち》に分類されることもあります。
 メリット『魔女を焼き殺せ』は、50年近く前の邦訳があるものの、稀書に近い状態だったので、刊行は嬉しいところです。
 ヴィシャック『メデューサ』は、幻想小説の古典的名作と言われているものの一つ。確か《世界幻想文学大系》の幻の候補作の一つにも挙がっていました。
 個人的に一番うれしいのは、エドワード・ルーカス・ホワイトの作品。怪奇アンソロジーのマスターピースとして、作品がよく収録されるホワイトの作品ですが、個人傑作集は編まれたことがなかったので、これは快挙です。
 この感じだと、W・W・ジェイコブスとかシンシア・アスキスあたりの邦訳も夢ではなさそうですね。

 アトリエサードの刊行予定では、SF作品もいくつか挙がっていますが、中では、アルジス・バドリス『無頼の月』が気になります。

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邪悪なる祈り  ジェイムズ・ホッグ『悪の誘惑』
4336055351悪の誘惑
ジェイムズ ホッグ James Hogg
国書刊行会 2012-08

by G-Tools

 享楽的な領主の父と、厳格なキリスト教徒の母との間に生まれた二人の兄弟。兄のジョージは、父親のもとで、寛大な心を持つ好青年に育ちます。一方、弟のロバートは、狂信的な牧師と母との間で育てられ、他人からは近寄りがたい人間に育ちます。
 成長したロバートは、仇のように兄ジョージを追い回し、嫌がらせをし続けます。やがて、ジョージが死体となって発見されますが、犯人はジョージと口論をしていたドラマンドという男だとされていました。
 やがて父親が亡くなり、ジョージの代わりに、家督をついだロバートでしたが、父親の家政婦だった女性は、ロバートこそジョージ殺害犯だと確信し、調査を始めます…。

 『悪の誘惑』(高橋和久訳 国書刊行会)は、羊飼いから作家になったという、異色の経歴を持つスコットランドの作家、ジェイムズ・ホッグの作品です。
 大きく三部に分かれており、一部と三部は編者からの「客観的な」語り、二部は弟の視点による語りになっています。一部でまず、客観的な事件の顛末が描かれ、二部では弟の狂信的な視点から描かれた「手記」が語られます。そしてまた三部では、その「手記」についての編者の見解が描かれる、といった構成になっています。
 兄弟間の憎しみや、殺人さえ描かれるにも関わらず、一部はかなりユーモアに富んだ筆致になっているのが面白いところです。好青年の兄に対し、弟は徹頭徹尾「嫌な」男で、兄を追い回します。たびたび兄弟は遭遇し、いさかいを起こすのですが、弟がなぜそこまで兄を憎むのかや、兄ジョージの死の真相は前半では明かされません。

 二部では、弟ロバートの視点から描かれた物語が語られますが、ここからが圧巻です。異様なまでの宗教教育を受け、ゆがんだ視点を持った男の独善的な行動が描かれていきます。子供のころから嘘をつき、悪事を働いてきたにもかかわらず、自分は神に許されているという考えを持っているため、自らの行動に対し良心の呵責を全く覚えないのです。 
 やがてロバートの考えに賛同してくれる、謎の男が現れます。最初はロバートの思想や行動を褒め称えていた男は、段々と悪事を働くようにそそのかしていきますが、ロバートもそれに従い、破滅的な行為を繰り返していくことになるのです。
 この「謎の男」、たびたび姿や声を変えたりと、悪魔のような人物なのですが、この男が実在しているかどうかも、じつは定かではありません。ロバートの「悪の心」の分身なのか、それとも本当の「悪魔」なのか。
 殺人を含む、あらゆる悪事を行いながら、独善的な論理でそれらを全て正当化しようとするロバート。その告白が、異様な熱気を持って語られる後半の展開は、凄いの一言です。

 作品全体の構成も、読者を眩惑するような作りになっています。一部の編者の「客観的な」語りと、二部の弟の独白とで、同じ事件に対する細部や解釈が異なっているのです。もちろん二部の語り手であるロバートは「嘘つき」なので、その語りを信用はできないのですが、かといって編者の語りが信用できるかというと、そういうわけでもないのです。
 とくに三部では、発見された手記について、作者自身であるジェイムズ・ホッグ自身も作中人物として登場します。しかも編者はホッグは信用できない…などという意見も書いているのです。
 この時代の小説には、「手記」や「手紙」という設定はよく使われるのですが、この作品では、その視点のずれが多重になっていて、真実がぼやかされる…という効果を発揮しています。

 19世紀前半に書かれた、いわゆる「ゴシックロマンス」に属する作品なのですが、このジャンルの作品としては、分量的にもあまり長くなく、読みやすい作品です。ミステリの先駆的作品としても、熱気に満ちた幻想小説としても読めますが、何より、今読んでも面白さを感じられるという意味で、古典的な傑作と呼んでもいい作品でしょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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