怪奇幻想読書倶楽部 第3回読書会 開催しました
 1月29日の日曜日、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第3回読書会」を開催しました。出席者は、主催者を含め10名でした。
 テーマは、第1部「奇想小説ワンダーランド!」、第2部「私の読書法」です。本会は4時間、二次会は3時間ほどの長丁場でしたが、話がつきることなく、楽しく終えることができました。参加してくださった方には、お礼を申し上げたいと思います。
 それでは、当日の会の詳細について、ご報告したいと思います。

 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。
 テーマが「奇想小説」ということで、同時にオススメの「奇想小説」があればタイトルを挙げてくださいとお願いしていました。主催者含め、参加者のオススメ「奇想小説」をまとめたリストを作成し、当日資料として配付しました。

 前回同様、あらかじめ作っておいたプラスチック製ネームプレートを、参加者それぞれの前に立てたうえで、参加者を紹介しておきます。今回は、新規の方のみ主催者から紹介し、2回目以降の参加者には、軽く自己紹介をしてもらいました。
 自己紹介のあとに、主催者や他の参加者から、ちょっとした質問などもはさみながら進んだので、紹介だけで30分以上かかってしまいました。ただ、この時点で話がはずんだ部分もあり、緊張をほぐすのには良かったかなと思います。

 以下、順不同で話題になったトピックの一部を並べてみましょう。例によって、記憶に残っているものだけですが。

第1部
・クライヴ・バーカー作品について。純粋なホラー作品は初期に集中していて、ある時期を境にファンタジーの方向に行ってしまった。面白いのは、やはり初期作品。『血の本』は、スプラッター色が強烈なので避けられがちだが、ブラック・ユーモア作品も入っていたりとバラエティに富んでいる。巻頭の『ミッドナイト・ミートトレイン』に馴れてしまえば、後は普通に読める? 『丘に、町が』は、奇想にあふれた傑作作品。
・サキの作品について。白水Uブックスから刊行されている新訳本は、原著の短篇集単位だが、それ以前のものは、ほぼ全て選集。ちくま文庫から刊行されていた『ザ・ベスト・オブ・サキ』の翻訳は素晴らしい。
・W・H・ホジスンの作品について。《ボーダーランド三部作》の邦訳が揃うとは思わなかった。雑誌『ナイトランド』の編集部にホジスンファンがいる?
・ホジスン『ナイトランド』の面白さ。前半は恋愛もの要素が非常に強いが、後半からは冒険小説的な色彩が強くなる。世界観の独創性は素晴らしい。
・月刊ペン社《妖精文庫》について。まりの・るうにいのカバーと挿絵の素晴らしさ。刊行当時の《妖精文庫》の思い出など。
・ポール・ボウルズ作品について。『優雅な獲物』など。
・多岐川恭作品の面白さについて。変わった作品がたくさんある作家。創元推理文庫から選集も出ている。『異郷の帆』『おやじに捧げる葬送曲』など。
・エドワード・ケアリー『堆塵館』は面白かった。
・シオドア・スタージョン作品の「奇想性」について。「奇を衒って」いるのではなく、感性そのものが相当変わっている。ただ「普通」のユーモアSF(例えば『昨日は月曜日だった』)も書ける器用さも持った作家である。『考え方』『孤独の円盤』『ビアンカの手』『墓読み』『人間以上』『きみの血を』など。
・エドモンド・ハミルトン作品の面白さ。長篇が典型的な娯楽SFなのに対して、短篇ではけっこう先鋭的な作品がある。『フェッセンデンの宇宙』『反対進化』など。ハヤカワSFシリーズ版の作品集『フェッセンデンの宇宙』は、同名の河出文庫版作品集と収録作品が異なるが、ハヤカワ版も傑作揃い。
・バリントン・J・ベイリー作品の面白さ。アイディアの臆面のなさが凄い。馬鹿らしいネタでもそれらしい理屈や哲学がくっついてくるのが楽しい。『ゴッド・ガン』『ブレイン・レース』『大きな音』『ドミヌスの惑星』『禅銃』『カエアンの聖衣』など。長篇よりも短篇の方が面白い。最近出た作品集『ゴッド・ガン』も面白いが、過去に出た作品集『シティ5からの脱出』も面白い。
・ドイツの作家、クルト・クーゼンベルク作品の面白さについて。短篇『ニヒリート』は、接着剤についてだけで一つの短篇になっているというユーモア作品。
・グレッグ・イーガンは、理系でなくても充分読める。短篇のリーダビリティは高い。
・R・A・ラファティの奇想作品について。『九百人のお祖母さん』『スロー・チューズデー・ナイト』『せまい谷』など。
・リチャード・マグワイアのグラフィック・ノヴェル『HERE ヒア』の独創性。複数の時代を一つの場所に詰め込むというアイディアが素晴らしい。
・架空の博物誌について。ハラルト・シュテュンプケ『鼻行類』、レオ・レオーニ『平行植物』など。
・マルク=アントワーヌ・マチューのバンド・デシネ(フランスのコミック)作品について。3秒間の出来事をいろんなアングルから描いていく『3秒』、神が光臨した世界を風刺的に描く『神様降臨』など。
・ディーノ・ブッツァーティについて。不条理な作風だが、物語性や娯楽性が強いので楽しんで読める。あらすじを紹介すると、意外に何も起こっていないことが多いのに気付いて驚く。大まかにまとめると「不安」がテーマの作家。イラストレーターとしても魅力的。『七階』『バリヴェルナ荘の崩壊』『タタール人の砂漠』『シチリアを征服したクマ王国の物語』など。
・江戸川乱歩『鏡地獄』の独創性。乱歩には『屋根裏の散歩者』『人間椅子』などフェティシズムを扱った作品が多い。『鏡地獄』の鏡は実際に作れるのか?
・西澤保彦のSFミステリについて。「どうしてそうなっているのかはわからないが」、なぜか特殊な設定の世界観で展開されるミステリ。アイディアは面白い。『七回死んだ男』『人格転移の殺人』『複製症候群』『ナイフが町に降ってくる』など。
・諸星大二郎のマンガ作品について。『感情のある風景』のように、哲学的なセンスさえ感じさせる作品のある一方で、『鯖イバル』など、馬鹿らしいアイディアのユーモア作品もある。オススメは『妖怪ハンター』シリーズ。
・伊藤潤二のマンガ作品の面白さについて。どの作品もアイディアの奇想性はすごい。描線も非常に魅力的。自分と同じ顔の気球が首を吊ろうと襲ってくる『首つり気球』、どんどん夢が長くなっていくという『長い夢』、地球を平らげようと悪魔のような星がやってくるという『地獄星レミナ』など。とくに『レミナ』の後半、地球の環境が激変する部分でのヴィジュアル描写はものすごい。
・映画作品『主人公は僕だった』の紹介。小説の登場人物になってしまった主人公が、小説家を探し出し自分の運命を変えようとする話。本来メタな視点であるはずの「作家」が創作物である「主人公」と同じ階層にいるという、ユニークな設定の作品。
・映画作品『フリーズ・フレーム』の紹介。過去に濡れ衣をきせられノイローゼになった主人公が、家中にカメラをしかけて自分の行動を記録に撮るという物語。最後まで主人公が悲惨なので、あまりオススメできない作品。
・澤田知子の写真集『ID400』の紹介。写真家自身がメイクや仮装をして、別の人物になりきるというパフォーマンスを400パターンの証明写真の形でやってしまったという実験的な作品。他の澤田知子作品の紹介も。
・トーベ・ヤンソン『ムーミン』シリーズの面白さについて。原作小説は、アニメと違ってかなり「暗い」。ムーミンパパはやたらと居なくなる。最初の巻は、退屈な部分もあるが、後半の巻は大人の鑑賞に耐える出来映え。
・A・E・コッパード『ジプシー・チーズの呪い』は、コッパード作品の中でも「暗く」、かなり怪奇小説方面に寄った作品。
・半村良『箪笥』は奇想小説? 能登の方言で書かれた作品。作者は地元出身ではないが、方言はかなり正確(らしい)。
・エリック・マコーマックは作風上、係累のいない突然変異的な作家だと感じる。短篇集『隠し部屋を査察して』、長篇『パラダイス・モーテル』など。
・フリオ・コルタサル『占拠された屋敷』は、コルタサルとしては、かなり怪奇方面に寄った作品。他に『続いている公園』など。
・ポピー・Z・ブライト作品について。セクシュアル・マイノリティに親近性を持つ作家。『絢爛たる屍』は、どぎつい設定ではあるものの、中身は意外にも純粋な恋愛小説。
・筒井康隆作品は奇想小説の宝庫。『驚愕の曠野』『虚航船団』『残像に口紅を』など。
・木原善彦による実験小説のブックガイド『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』の面白さ。内容紹介など。
・泡坂妻夫の『しあわせの書』『生者と死者』の超絶技巧。『生者と死者』の袋とじの趣向はすごい。
・レシェク・コワコフスキ『ライロニア国物語』の面白さ。哲学的な寓話集とはいいながら、ユーモラスかつナンセンスな話も多く楽しめる。集中の一篇『こぶ』は『東欧怪談集』にも収録されている。
・国書刊行会の本は、数十年経っても在庫があるものがある。
・エドワード・ゴーリーの絵本について。徹底的にブラックな作品が多い中にあって、エドワード・リア作品のために描いた『ジャンブリーズ』は非常に楽しい作品。
・エドゥワルド・メンドサ『グルブ消息不明』の作品紹介とその魅力。宇宙人が地球にまぎれこむコメディ。そのギャップが面白い。
・東宣出版の《はじめて出逢う世界のおはなし》シリーズは、精力的に面白い作品を紹介していて楽しみ。
・映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』と『コーンヘッズ』の面白さ。
・昔の名画座など、中小映画館の思い出と魅力について。解説者が解説したり、オーナーがお菓子を配ったりなんてこともあったそう。
・ミロラド・パヴィチ『ハザール事典』について。発想はすごいが、個々のエピソードはそれほど面白くない? 通読するより拾い読みする方が楽しい。男性版と女性版の違いは? パヴィチは他にも『風の裏側』など、前衛的な手法の作品を書いている。
・ジュール・シュペルヴィエル作品について。『火山を運ぶ男』のオリジナリティ。『ひとさらい』『海に住む少女』など、発想はぶっ飛んでいても、物語は詩的。
・ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』の魅力について。病のイメージの美しさ。ヴィアンは書き飛ばしたような作品も多いが、魅力的な作品も多い。
・芸術がテーマと結びついている作品だと、その芸術に興味がないと、味わいが半減してしまう。フレッド・ホイル『10月1日では遅すぎる』など。
・『居心地の悪い部屋』は、ちょっと期待はずれだった。
・角川のホラー作品は、翻訳が読みにくいものが多い。ただ、古くからホラー系統の作品を紹介してくれている出版社ではある。角川ホラー文庫の海外ラインナップは微妙だった。
・ダフネ・デュ・モーリアの短篇について。デュ・モーリアの作品には「嫌な」登場人物がよく登場するが、同じ「嫌らしさ」でも、例えばシャーリイ・ジャクスンの登場人物が理解しがたい人物像が多いのに比べて、デュ・モーリアの場合、現実にありそうな「嫌らしさ」がある。近刊の短篇集『人形』も面白い作品揃い。

第2部
・本棚の並べ方について。出版社別、作者別、文庫の種類別など。テーマ別の分類は難しい?
・図書館の利用について。近い場所にないと使いにくい。本を買うのと併行していると、借りても読み切れない。
・文庫本の値上がりについて。最近の文庫本の値はかなり上がっている? 相対的に以前は割高感のあったちくま文庫が安く思えるようになった。
・本の帯はとっておく派? 捨てる派? デザインの一部になっているものや、情報が書いてあるものは捨てにくい。
・お風呂で本を読む? 駄目になるのを前提で読むこともある。風呂で読む用のプラスチック本もある。
・自分で買った本の方が、ちゃんと読む気になる。が、100円均一の本は例外。
・新しい分野や作家の本を開拓しようとする場合、どういう風にすべきか? アンソロジーで気になった名前を片っ端から芋づる式に読んでみる。
・北欧ミステリは社会問題を扱ったりと、全般的に重い作品が多い。
・読んだ本の記録をつける? ノートに感想をつける。ブログで感想を書く、など。データベースに著作リストを作っている人も。
・蔵書リストの登録について。同じ本を二度買ってしまうことがある。

二次会
・ジュール・ヴェルヌ作品について。ヴェルヌは科学的に正確に書く作家なので、作中の現象が正確かどうか計算が可能。インスクリプト刊の新シリーズについても。
・理系のSFファンは、ハードSFについて、科学的に正確か計算する?
・SFファンは、サイバーパンクでついていけなくなった人も多い? ただ、今読むとそこそこ読めるものも多い。
・かっての福島正実編のアンソロジーのような、入門編的な作品集は今ではなくなってしまった? 福島正実のテーマ別の編集は非常にわかりやすかった。
・SF作品は時間が経つと古びるものだが、フレドリック・ブラウンは今でも古びていない。発想も独特で、フィリップ・K・ディックの先駆者的な面があるのでは?
・アニメ『バーナード嬢曰く』の面白さ。おそらく馴染みのないだろう小説に関する話でも、饒舌に話せる声優のプロ技術に脱帽した。
・ジェイムズ・ホッグ『悪の誘惑』のすごさ。語り手の狂信が強烈。手記や編者が多重になっていて、メタな作りになっている。書かれた時代を考えると、非常に先駆的。
・コードウェイナー・スミス作品の視覚的効果について。『人びとが降った日』など。
・ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア作品について。タイトルの付け方が素晴らしい。SFというよりはファンタジー寄りの作風? 『すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた』など。
・電車や乗り物を扱った作品について。ピーター・へイニング編『死のドライブ』、ブッツァーティの鉄道が舞台の作品、フリードリッヒ・デュレンマット『トンネル』など。
・アンソロジー『妖魔の宴』(竹書房文庫)について。中身はけっこうオーソドックス。今では手に入りにくい?
・蔵書数について。手狭な部屋で本を増やさないためには。
・雑誌の魅力。時間が経つと、中身の情報だけでなく、雑誌自体の時代感が出てくるのが魅力。なので、単行本より雑誌の方が捨てにくくなる。
・電子書籍では買いたくない本のジャンルは? 絵本・画集など。
・怪奇小説アンソロジー(特に翻訳もの)は、絶版になりやすいので、集めるのが大変。
・職場で本の話ができる人がいる? ほとんどいないという人が大半。
・短篇集と長編はどちらが読みやすい? 短篇集やアンソロジーの方が、一篇ごとに頭を切り替えないといけないので、時間がかかる。
・ヤン・ポトツキ『サラゴサ手稿』の面白さ。構成上の工夫も魅力的。完全版の邦訳はいつ出るのか? 映画版の方は、入れ子形式の展開がとんでもない。
・音楽を扱った作品について。ルイス・シャイナー『グリンプス』、ジェフ・ゲルブ編『ショック・ロック』など。
・最近面白かった映画について。『ロブスター』など。結婚相手を見つけないと、政府に動物にされてしまうという話。設定はへんてこだが、テーマは意外と真摯にできている。
・最近面白かった本。イヴァン・レピラ『深い穴に落ちてしまった』について。穴に落ち込んだ兄弟が脱出しようとする話。脱出方法が力業でびっくりする。
・ライトノベルで面白い作品は? 西尾維新《物語》シリーズ、長月達平『Re:ゼロから始める異世界生活』など。
・クラシック音楽を聴くなら何がいい? 名曲集で自分のお気に入りを見つけるのが良し。バロック音楽、サティ、ドビュッシーなど。
・枠物語について。井上雅彦編『物語の魔の物語 異形ミュージアム2 メタ怪談傑作選』は、メタフィクショナルな作品を集めた好アンソロジー。
・ハーラン・エリスン『死の鳥』(原書版)は面白かった。オリジナル版の邦訳はもう出ないのだろうか?
・ホラー小説好きでも、ホラー映画を見るとは限らない。逆もしかり。むしろ小説を読まないホラー映画ファンは多い。
・小説ファンと映画ファンは意外に重ならない?
・ジェシー・ダグラス・ケルーシュ『不死の怪物』について。ロマンス部分が多い。古典的な名作は、読んでみるとがっかりすることも。
・文春文庫のホラー作品は打ち切り?
・パウル・シェーアバルトは難しい。
・翻訳者で作品の雰囲気はずいぶん違う。シャーロット・パーキンス・ギルマン『黄色い壁紙』の読み比べ。
・大瀧啓裕の訳文は、当たり外れが大きい。ラヴクラフトは微妙だが、C・A・スミスはかなり合っている。すでに普及している作家名や作品名の表記を、わざわざ変えるのはどうかと思う。
・欧米怪奇小説ファンの少なさについて。
・レーモン・ルーセル作品について。創作方法が独特なので、楽しんで読むのは難しい?

 二次会は、お店の都合上、テーブルが分かれてしまったのですが、途中で一部の人の場所を変えて、なるべくいろんな人と話せるようにしました。とはいえ、僕自身が聞けなかった部分もあるので、二次会のトピックについては、書けなかったものもあるかと思いますが、悪しからず。

 今回は、第1回・第2回と比べても、わりと親密な雰囲気の会になりました。発言の多寡はありますが、ほぼ全ての参加者が、何らかの形で話に参加できたのではないかと思います。もともと、聞いているだけでもいいという方針なので、無理に話す必要はないのですが、やはり話の合いの手を入れてくれるだけでも、流れは違ってきますね。
  『ムーミン』の意外な読みどころや、写真集にも面白そうな作品があるなど、僕個人にとっても得るところの多い会になりました。

 第4回読書会は、2月の後半を予定しています。

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2月の気になる新刊と1月の新刊補遺
発売中 クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国1 ゾシーク篇』(アトリエサード 2376円)
2月7日刊 フリードリヒ・デュレンマット『ギリシア人男性、ギリシア人女性を求む』(白水Uブックス 予価1512円)
2月17日刊 J・L・ボルヘス『アレフ』(岩波文庫 778円)
2月17日刊 『楳図かずお『漂流教室』異次元への旅』(平凡社 予価1296円)
2月中旬刊 只野真葛『奥州ばなし』(勝山海百合訳 荒蝦夷 予価2268円)
2月23日刊 ロバート・F・ヤング『時をとめた少女』(ハヤカワ文庫SF 予価886円)
2月25日刊 近藤ようこ『帰る場所』(KADOKAWA 予価950円)
2月25日刊 近藤ようこ『水の蛇』(KADOKAWA 予価950円)
2月27日刊 G・ウィロー・ウィルソン『無限の書』(創元海外SF叢書 予価3024円)
2月27日刊 D・M・ディヴァイン『紙片は告発する』(創元推理文庫 予価1188円)
2月27日刊 ゴードン・マカルパイン『青鉛筆の女』(創元推理文庫 予価1080円)
2月下旬予定 クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国2』(アトリエサード)


 1巻目はもうすでに発売中のようですが、《ナイトランド叢書》の最新刊は、クラーク・アシュトン・スミスの『魔術師の帝国』。かって創土社から出た1巻本を再編集して2分冊にしたもののようです。2巻は今月下旬の発売予定。
 ただ、スミスの作品に関しては、大瀧啓裕訳による創元推理文庫の3冊がありますし、既訳が多いのではないかと思ったのですが、確認してみたら、この3冊も、井辻朱美訳『イルーニュの巨人』も、すでに絶版なのですね。その点、スミス入門編としてはタイミングはいいのかもしれません。

 只野真葛『奥州ばなし』は、分身テーマではよく言及される「影の病」を含む怪異譚集。現代語訳ということで、これは読んでみたいところです。

 ロマンチックSFの名手、ロバート・F・ヤングの短篇集『時をとめた少女』が、ハヤカワ文庫SFから登場です。初訳2篇を含む全7篇を収録とのこと。これは楽しみです。

 G・ウィロー・ウィルソン『無限の書』は、世界幻想文学大賞受賞作品とのことですが、なかなか面白そうです。「中東の専制国家で生きるハッカー・アリフは、恋人から謎の古写本を託される。存在するはずのない本に記された、人間が知るべきではない秘密とは?」。

 ゴードン・マカルパイン『青鉛筆の女』は、構成のかなり凝った感じのするミステリ。「2014年カリフォルニアで解体予定の家から発見された貴重品箱。そのなかには三つのものが入っていた。1945年に刊行されたパルプ・スリラー。編集者からの手紙。そして、軍支給の便箋に書かれた『改訂版』と題された原稿……。開戦で反日感情が高まるなか、作家デビューを望んだ日系青年と、編集者のあいだに何が起きたのか?」。

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怪奇と幻想のロマンス  J・S・レ・ファニュ『ドラゴン・ヴォランの部屋』
448850602Xドラゴン・ヴォランの部屋 (レ・ファニュ傑作選) (創元推理文庫)
J・S・レ・ファニュ 千葉 康樹
東京創元社 2017-01-21

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  アイルランドの作家、J・S・レ・ファニュ(1814-1873)は、19世紀の怪奇幻想小説の分野では「巨匠」とされる作家の一人です。本邦で有名な作品としては、官能的な吸血鬼小説『吸血鬼カーミラ』や、サイコ・スリラー的な要素もある怪奇小説『緑茶』あたりが挙げられるでしょうか。
 怪奇小説の「巨匠」というと、我々は20世紀以降の作品、ブラックウッドやマッケン、M・R・ジェイムズのような作品を考えてしまうのですが、実のところ、19世紀以前の作品は、20世紀以降の作品のような、純粋な怪奇小説というのは、あまりありません。細かく言うと、「怪奇」や「幻想」そのものが主題になる作品があまりない、ということです。あくまで作品の味付けとしてそれらがある、といった方がいいのでしょうか。
 そうした時代にあって、レ・ファニュは、例外的に怪奇幻想の要素が強い作品を多く書きました。ただ、「ロマンス」や「メロドラマ」の要素は強く、そうしたところが古色蒼然とした印象を与える理由にもなっているのですが、今現在では、逆にその古色蒼然さが魅力ともなっているのです。

 レ・ファニュの主な邦訳としては、以下のようなものがあります。

長編
『墓地に建つ館』(榊優子訳 河出書房新社)
『アンクル・サイラス』(榊優子訳 創土社)
『ワイルダーの手』(日夏響訳 国書刊行会)
『ゴールデン・フライヤーズ奇談』(室谷洋三訳 福武文庫)

短篇集
『吸血鬼カーミラ』(平井呈一訳 創元推理文庫)
『レ・ファニュ傑作集』(小池滋、斉藤重信訳 国書刊行会)

 短篇作品は80篇ぐらいあるらしいのですが、未訳が多く、まとめて短篇作品を読めるのは50年近く前に出版された『吸血鬼カーミラ』のみでした。そんな状況だっただけに、今回刊行された、レ・ファニュの作品集『ドラゴン・ヴォランの部屋 レ・ファニュ傑作選』は、怪奇幻想ファンにとって、またとない贈り物となりました。
 以下、収録作品を紹介していきたいと思います。

『ロバート・アーダ卿の運命』
 悪魔らしき人物との契約により、命を狙われる男の物語を、「伝説」と「事実」との2通りで描いた物語です。
 いかにも伝説然とした展開の1話目と、キャラクターを描き込み、小説としての余韻を加えた2話目と、2つの味わいを楽しめます。集中もっとも「怪奇小説」らしい作品です。

『ティローン州のある名家の物語』
 資産家の娘ファニーは、嫁ぎ先の貴族グレンフォーレン卿の屋敷に迎えられますが、屋敷内で気味の悪い盲目の女を見かけます。自分に対して攻撃的な女の態度にファニーは怯えますが…。
 謎の女、夫の秘密、ゴシック的な道具立てたっぷりの作品です。「秘密」に関しては、すぐに気付いてしまうのですが、それでも読ませるサスペンス味は流石というべきでしょうか。

『ウルトー・ド・レイシー』
 ウルトー・ド・レイシーは、政治的な駆け引きで失脚し、財産や領地を失ってしまった結果、二人の娘を伴って、辺鄙な場所に移り住みます。彼の希望は美しい妹娘ウナを資産家の青年と結婚させることでしたが、ウナは見知らぬ男に恋しているようなのです…。  
 先祖の因縁により復讐されるというゴースト・ストーリー。先祖から伝わる警告にもかかわらず、悲劇は起きてしまうという運命譚になっています。

『ローラ・シルヴァー・ベル』
 魔術を使うと噂されるカークばあさんは、捨て子だった娘ローラ・シルヴァー・ベルを可愛がっていました。ある日、ばあさんは汚らしく忌まわしい男に出会い、ローラをよこせと言われますが、すぐにはねつけます。しかし、ローラ自身には男が魅力的に見えているようなのです…。
 妖精に狙われる娘の物語なのですが、さらわれて終わり、ではなく、その後を描いているところが新鮮ですね。しかも、その後が描かれた部分がじつに禍々しい雰囲気なのです。邪悪なフェアリー・テールとでもいうべき作品です。

『ドラゴン・ヴォランの部屋』
 パリに「冒険」のために向かっていた英国人青年ベケットは、旅の途上、馬車トラブルに巻き込まれたサン=タリル伯爵夫妻を手助けします。伯爵夫人に一目ぼれしてしまったベケットは、夫人が不幸な結婚をしていることを知り、自分の手で彼女を助け出そうと考えますが…。
 怪奇幻想味はほとんどない作品ですが、リーダビリティは非常に高いサスペンス小説になっています。青年が伯爵夫人と恋仲になるまでの前半はいささか退屈しますが、後半になり、ある計画が持ち上がってからは手に汗握る展開になります。前半に登場する青年の「病気」がしっかりとした伏線になっているところには感心しました。

 19世紀の作家ゆえと言うべきか、作品の始まりは、たいてい舞台となる村や自然の描写が丁寧にされていきます。一見、退屈になりそうな部分なのですが、情景描写が巧みなので、すぐに作品の舞台に入り込めます。特に、森や古城などが登場する作品の雰囲気は絶品です。
 純サスペンス作品である『ドラゴン・ヴォランの部屋』が典型ですが、レ・ファニュが、怪奇小説の名手である以前に、当時のエンターテイメントの名手でもあったことのわかる作品集でした。レ・ファニュの当時の異名「アイルランドのウィルキー・コリンズ」は、コリンズに劣らぬストーリー・テラーぶりを表わしたものでしょうか。

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最近読んだ本(オーストリア幻想小説を中心に)
4560071985裏面: ある幻想的な物語 (白水Uブックス)
アルフレート クビーン 吉村 博次
白水社 2015-03-07

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アルフレート・クビーン『裏面 ある幻想的な物語』(吉村博次、土肥美夫訳 白水Uブックス)

 主人公の画家夫婦のもとに、学生時代の友人からの使いだという男が現れます。彼が言うには、その友人パテラは、東方で莫大な富を手に入れ、その富を利用して「夢の国」を建設したというのです。
 「夢の国」ペルレにたどり着いた主人公夫婦は、その国が年中霧に覆われ、人々も鬱々としていることに驚きます。しかも肝心の友人パテラには、なかなか会えないのです。
 やがてアメリカから大富豪がやってきたことから、「夢の国」の崩壊が始まりますが…。

 「夢の国」といいながら、主人公たちにとっても、既に住む人々にとっても、そこは、理想郷ではありません。日々暮らすことはできても、活気も希望もない街なのです。支配者である友人パテラに会おうとするものの、なぜか会えず、そのうちに街から出ようとする気力もなくなっていきます。不条理小説風の前半は、雰囲気は良いのですが、いささか冗長なきらいもあります。
 対して、アメリカからの大富豪が現れ、国の崩壊が始まる後半からが読みどころでしょうか。病が蔓延し、動物たちが暴れ出したり、人々が次々と死んでしまう…。それまでモノクロだった画面が、急に極彩色になったかのようです。
 作者は幻想的な画家として有名な人ですが、それだけに視覚的な描写は素晴らしく、ことにクライマックスの狂騒的な場面は読み応えがありますね。



4488010369両シチリア連隊
アレクサンダー・レルネット=ホレーニア 垂野 創一郎
東京創元社 2014-09-12

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アレクサンダー・レルネット=ホレーニア『両シチリア連隊』(垂野創一郎訳 東京創元社)

 第一次大戦後のウィーンが舞台。大戦時に、両シチリア連隊を率いたロションヴィル大佐は、娘のガブリエーレと一緒に、夜会に招かれます。席上、大佐は、見知らぬ男から奇妙な話を聞くことになります。その男は、ロシアで捕虜となって脱走し、ニコライ大公に別人と取り違えられたというのです。
 夜会がお開きとなる直前、元両シチリア連隊の将校エンゲルスハウゼンが、邸宅の一室で殺害されているのを発見されます。そして、事件を調べていた元連隊の少尉もまた行方不明となりますが…。

 「両シチリア連隊」の兵士たちが次々と死んでゆく謎を追う、ミステリ風味の強い幻想長篇です。章ごとに、それぞれの兵士たちにスポットを当てていくという形式になっています。
 序盤の取り違え話が、後半になると、さらに複雑な様相を呈してきます。取り違えられた人物は、生きているのか死んでいるのか? 死んだはずの人間が現れたりと、真実が二転三転するクライマックスのサスペンスは強烈です。
 正直、純粋なミステリとして読むと、割り切れない要素が多すぎますが、幻想小説としては、何とも魅力的な作品と言えます。



hore.jpg白羊宮の火星 (福武文庫)
アレクサンダー レルネット・ホレーニア 前川 道介
福武書店 1991-02

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アレクサンダー・レルネット=ホレーニア『白羊宮の火星』(前川道介訳 福武文庫)

 オーストリアの貴族であり、第一次大戦への従軍経験のある軍人ヴァルモーデンは、戦争の訓練のため、ウィーン郊外の連隊に入営します。
 開戦直前に、神秘的な女性ピストルコールスに夢中になったヴァルモーデンは、招集されてからも彼女と連絡を取ろうとしますが…。

 第二次大戦の前夜、風雲急を告げる時代が舞台なのですが、殺伐とした感じではなく、なにやら浮世離れした夢幻的な雰囲気で描かれる作品です。戦時中だというのに、軍人であるはずの主人公ヴァルモーデンが、社交生活をしたり、女性に夢中になったりと、日常と変わらぬ生活を送っています。
 作品の半ばも過ぎて、ようやく戦闘に駆り出されることになるのですが、そこでも戦闘を抜け出して、女性に会いに行ったりと、緊張感は感じられないのが面白いところ。
 作品自体に幻想的な雰囲気は流れているのですが、実際に超自然(のような)出来事が起こるのは、結末寸前のみです。その意味では、起伏の少ない作品なのですが、非常に洒脱かつ軽い雰囲気なこともあって、読みやすい作品ではあります。
 幻想的な要素のある、一般小説といった感じの作品ですね。



4874176941レオナルドのユダ (エディションq)
レオ ペルッツ Leo Perutz
エディションq 2001-08

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レオ・ペルッツ『レオナルドのユダ』(鈴木芳子訳 エディションq)

 レオナルドは、修道院のために描いている「最後の晩餐」の製作が止まっていることに対して文句を言われていました。レオナルドによれば、ユダを描くためには、ユダと同じような罪を背負ったモデルが必要であり、そのモデルが見つからないために製作が進まないと言うのです。
 一方、ミラノを訪れた商人ベーハイムは、借金を一向に返さない強欲な男ボッチェッタに恨みを抱いていました。挙句の果てには、ボッチェッタを襲う計画まで立てますが、夢中になっている美しい女性ニッコーラが、ボッチェッタの娘であることを知り、悩みながらも、ある計画を考え付きます…。

 レオナルド・ダ・ヴィンチの名作「最後の晩餐」に描かれたユダに、モデルがあったのではないか? という想像から生まれたと思しき歴史小説です。
 憎き仇への恨みと、愛する女性がその仇の娘であるという事実との間で悩む主人公が取った手段とは? そこにユダの顔を見たレオナルドを絡ませていくのが面白いところ。
 主人公ベーハイムの恋のライバル的な存在として、マンチーノという男が登場するのですが、このマンチーノが、なかなか味のあるキャラクターとして描かれます。記憶喪失だという設定なのですが、結末ではこの男の来歴が匂わされるなど、細かい部分でも楽しめます。
 邦訳のある、他のペルッツ作品と比較すると小粒な印象ですが、これはこれで味わいのある歴史奇譚ですね。

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怪奇幻想読書倶楽部 第3回読書会 参加者募集です
 「怪奇幻想読書倶楽部 第3回読書会」を、下記の日程で開催します。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、連絡をいただきたいと思います。 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp

開催日:2017年1月29日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:1200円(予定)
テーマ
第1部:奇想小説ワンダーランド!
第2部:私の読書法

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※個人の発表やプレゼンなどはありません。話したい人が話してもらい、聴きたいだけの人は聴いているだけでも構いません。
※基本的には、オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも、安心して参加できると思います。

第1部のテーマは「奇想小説ワンダーランド!」。
奇抜なアイディアや、おかしな設定、突拍子もない発想で書かれた作品について、文学・エンターテインメント、古今東西とりまぜて、語り合いたいと思います。
例えば、イタロ・カルヴィーノ『まっぷたつの子爵』、パトリック・ジュースキント『香水 ある人殺しの物語』、マルセル・エイメ『壁抜け男』、ジュール・シュペルヴィエル『海に住む少女』、フリオ・コルタサル『続いている公園』、江戸川乱歩『鏡地獄』、A・ブラックウッド『人間和声』、エドモンド・ハミルトン『フェッセンデンの宇宙』、レイ・ブラッドベリ『霜と炎』、シオドア・スタージョン『昨日は月曜日だった』、フレドリック・ブラウン『ミミズ天使』、H・F・セイント『透明人間の告白』など。
「こんなこと誰も思いつかなかった!」「作者はどういう思考回路をしてるんだ!」そんな感じの作品について、あなたのお気に入り作品があれば、ぜひ紹介してください。

第2部は「私の読書法」と題して、本の読み方や、読書時間の作り方、本棚の並べ方、蔵書の整理法、図書館の利用法、行きつけの書店についてなど、読書全般に関する疑問や意見について、おしゃべりしたいと思います。

1月19日追記

第3回読書会のメンバー募集ですが、締め切りとしたいと思います。お問い合わせくださった方、ありがとうございました。

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死者の継ぐ世界  M・R・ケアリー『パンドラの少女』
4488010547パンドラの少女
M・R・ケアリー 茂木 健
東京創元社 2016-04-28

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 世界中を襲った奇病により、文明が壊滅してから数十年、人間は各地で身を寄せ合って暮らしていました。外をうろついているのは、人間としての性質を失った生ける死者〈餓えた奴ら〉と、盗賊まがいの〈廃品漁り〉のみ。
 工業製品など、文明の利器は失われた中で、ある軍事基地の中では密かに実験が行われていました。それは病気に感染したにもかかわらず、人間としての知能を残したままの子供たちを収容し、病気の治療法を究明するというものでした。
 子供たちの知能を測る目的で雇われた女性教師ジャスティノーは、とりわけ知能に優れた少女メラニーに愛情を覚えます。ジャスティノーは、メラニーを解剖しようとするドクター・コールドウェルに反発を覚えますが、その最中、敵の襲撃により基地は壊滅し、脱出することを余儀なくされます。
 脱出できたのは、ジャスティノーとメラニー、ドクター・コールドウェル、基地の責任者であるパークス軍曹と新兵ギャラガーのみ。一行は、安全な街を目指すことになりますが…。

 M・R・ケアリー『パンドラの少女』(茂木健訳 東京創元社)は、生ける死者である〈餓えた奴ら〉が世界中に蔓延した世界で、逃避行を余儀なくされた一行の、絶望的な旅を描いた作品です。
 〈餓えた奴ら〉は、人間を含め生物の肉を求めるという、いわゆるゾンビなのですが、一部の子供のみに、知能を残している存在がいることがわかります。意思の疎通も可能で、教育で知識を蓄えることも、感情もあるように見える彼らに、擬似的な教育を施しているジャスティノーは、愛情を覚えます。
 しかし、〈餓えた奴ら〉の本能を残している子供たちは、人間のにおいを嗅ぐと食欲が抑えられなくなり、人間を襲ってしまうのです。意志力に優れたメラニーもやはり、時折、食欲に負けそうになるため、旅をする途中、仲間たちを襲わないように手錠をつけたり、隔離したりと、手順を講じることになります。

 〈餓えた奴ら〉と〈廃品漁り〉といった外敵に襲われる共通の危険のほか、パークスとギャラガーにとっては、メラニーに襲われる可能性、メラニーとジャスティノーにとっては、コールドウェルに襲われる可能性、パークスとギャラガーに殺される可能性もありと、互いが互いに危機感を抱いているため、旅の途上、何度も内輪揉めが起こります。
 メラニーに執着するジャスティノーのせいで、何度も危機に陥ったり、逆に実験体としてメラニーを連れて行きたいコールドウェルとの共闘が成立したりと、人物間の葛藤とドラマは読み応えがありますね。
 冷血漢としか思っていなかった人間に、人情味があるところを感じたり、一緒に行動をしているうちに、互いに対する理解が芽生え始めたりと、登場人物それぞれに対する描写は非常に丁寧です。
 後半では、コールドウェルが調査を続ける病の原因やメラニーの秘密などが判明したり、ジャスティノーがメラニーに執着する理由が明かされるなど、読みどころも充分です。

 〈ゾンビもの〉から連想するような派手さはないものの、イギリス作家らしい丁寧な人物描写と手堅い人間ドラマで読ませる作品です。ジョン・ウィンダムやジョン・クリストファーのような、往年の破滅SFを思わせる作品でした。

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新年のご挨拶
 あけましておめでとうございます。2017年初の更新になります。今年もよろしくお願いいたします。

 12月の半ばから咳が止まらず、風邪かと思っていたのですが、年末に病院で診てもらったところ、軽い肺炎になっていました。おかげで年末からずっと寝ています。
 この際、懸案の本を読んでおこうかな、ということで、気になりつつも積んでいた本を中心に読みました。これだけ続けて本を読めたのは、随分久しぶりな気がします。


4003279026遊戯の終わり (岩波文庫)
コルタサル 木村 榮一
岩波書店 2012-06-16

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4003279034秘密の武器 (岩波文庫)
コルタサル 木村 榮一
岩波書店 2012-07-19

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4891762861すべての火は火 (叢書アンデスの風)
フリオ コルタサル Julio Cortazar
水声社 1993-06

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フリオ・コルタサル『遊戯の終わり』(木村榮一訳 岩波文庫)
フリオ・コルタサル『秘密の武器』(木村榮一訳 岩波文庫)
フリオ・コルタサル『すべての火は火』(木村榮一訳 水声社)

 まずは、幻想短篇の名手とされるコルタサルの作品集をまとめて読みました。アンソロジーなどの収録作はわりと読んでいますが、今まで肌に合わないと思って、作品集には手を出していませんでした。まとめて読んでみると、なかなか面白く読めたのは意外でした。
 『遊戯の終わり』収録作では、メタフィクション的な掌編『続いている公園』、セーターを着るだけの話が異界へ通じる幻想小説になってしまうという『誰も悪くはない』、オーソドックスな怪奇もの『いまいましいドア』、同時代に同じ人間が転生するという『黄色い花』、山椒魚に意識が乗り移ってしまうという『山椒魚』などが面白いですね。
 『秘密の武器』収録作では、写真の中の人物が動き始めるという『悪魔の涎』、女性の過去の悪夢が恋人に影響していくという『秘密の武器』『すべての火は火』収録作では、渋滞している道路上で日常生活を始めてしまう人々を描いた不条理小説『南部高速道路』、年老いた母親に息子の死を隠すため、親戚一同が息子のふりをして手紙を書くという『病人たちの健康』、観客として観劇中に、急に役者として舞台に出されてしまう男を描いた『ジョン・ハウエルへの指示』などが印象に残ります。
 コルタサル作品は、明確な幻想小説でない場合でも、筆致が幻想小説っぽいので、読むのに集中力を要しますね。


4334752721すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)
オルダス ハクスリー Aldous Huxley
光文社 2013-06-12

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4151200533一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
ジョージ・オーウェル 高橋和久
早川書房 2009-07-18

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オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』(黒原敏行訳 光文社古典新訳文庫)
ジョージ・オーウェル『一九八四年 新訳版』(高橋和久訳 ハヤカワepi文庫)

 ディストピア小説の古典として名高い2作ですが、読むのは初めてです。

 ハクスリー『すばらしい新世界』は、人間の出生・成長が完全に管理された世界を舞台にした作品。親子関係は存在せず、階級ごとに条件付けられた人間は、それぞれの役目を疑問に思うことはないようになっていました。最上位階級に属しながら、幸福感を感じられないバーナードは、「野蛮人」の青年ジョンと出会うに及び、社会の仕組みに疑問を抱きます…。

 オーウェル『一九八四年』は、全ての国民の思想が統制され、政府にとって都合の悪い過去の事実はすぐに書き換えられてしまう世界が舞台。記録の改竄作業を行っていた主人公は、体制へ批判的な考えを抱くようになる…という物語。

 どちらの作品も極端な管理社会ではあるのですが、対照的といってもいいほど、社会の描かれ方は異なります。ハクスリー作品は、風刺的なタッチが強いのに対して、オーウェル作品はシリアスなタッチですね。
 とくにオーウェル作品後半の行き詰るような閉塞感は強烈です。現在でも重要なテーマをはらんだ部分も多く、古典的傑作と言われるだけのことはある作品でした。


443422719XSF小説論講義―SFが現実に追い越されたって本当ですか?
青木 敬士
江古田文学会 2016-11

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 ちなみに、なぜこのディストピア小説2作を読む気になったかというと、青木敬士『SF小説論講義―SFが現実に追い越されたって本当ですか?』(江古田文学会)という本を読んだからです。この本の中でオーウェル『一九八四年』が取り上げられており、こんなに面白そうな作品だったのか! ということで読もうと思ったのですが、 オーウェルを読むなら、ハクスリーも読んでおかないとな、ということで2作を読むことになりました。
 『SF小説論講義』は、大学の講義が元になっているらしいのですが、SF小説を一冊も読んだことのない人を対象にしたSF論、というコンセプトの講義です。オーウェルの章では、作中で展開される言語の改変や、それが人間に与える影響を、マッキントッシュのCMやニコニコ動画などに言及しながら語っています。
 他にも、小川一水『ギャルナフカの迷宮』を題材にして物語の作法を語る章だとか、アニメ『イブの時間』を題材にしたロボット論など、興味深いテーマがいっぱいです。語り口も柔らかで読みやすく、オススメの一冊です。


415010194910月1日では遅すぎる (ハヤカワ文庫 SF 194)
フレッド・ホイル 伊藤 典夫
早川書房 1976-05

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フレッド・ホイル『10月1日では遅すぎる』(伊藤典夫訳 ハヤカワ文庫SF)
 
 作曲家であるリチャードは、友人の物理学者ジョンとともにハワイへ出かけますが、その間にアメリカとの連絡がとれなくなったというニュースを耳にします。アメリカ大陸の人間は、都市ごと消滅していたのです。
 同時に、世界中で異なる時代が出現していました。フランスやドイツでは第一次大戦、ギリシャでは古代、故郷のイギリスもまた微妙に異なる時間に属していたのです。この事態を改善するため、イギリス政府が中心になり調査隊を各地に派遣することになりますが…

 1966年発表の時間SFの名作の一つに数えられる作品です。パッチワークのように、異なる時代が同時に出現してしまった地球を舞台にしています。作者がプロの天文学者でもあるために、かなり専門的な議論も頻出します。
 事件が起こるまでが長いことと、主人公の職業であるクラシック音楽への言及が多いことなどもあって、とっつきにくい話ではあるのですが、その発想や時間に関する議論は興味深く読めます。
 ハードSFというよりは、ファンタジー、幻想小説に近い味わいなのも意外でした。


4879843520幻想の坩堝
三田 順
松籟社 2016-12-14

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岩本和子・三田順編訳『幻想の坩堝』(松籟社)

 ベルギーの幻想小説を集めた本邦初のアンソロジーです。純文学系の作家よりも、大衆小説系の作家の作品の方が面白く読めますね。
 ジャン・レー『夜の主』は、中年になった男性が、かっての家族の幻影に出会うという物語。こう紹介するとノスタルジックな作品を思い浮かべますが、実際は逆で、禍々しい暗黒小説ともいうべき力作になっています。
 トーマス・オーウェン『不起訴』は、何者かに尾行されていると感じている男のモノローグが、やがて不条理な事態に至るという不気味な作品。
 集中いちばん面白かったのは、フランス・エレンス『分身』という作品。あるオランダ人一家の気弱な青年が植民地に渡ったことから、性格が豹変していきます。その秘密を探りに出かけた「私」は恐るべき事実を知ります。青年が語るには、自分の分身が現れたが、それは女性の形をしており、その女性を妻にしたというのです。しかもその「妻」から子供が生まれるに及び、青年の性質は更に変化していきます…。
 「分身」を扱った作品なのですが、何ともユニークな発想で描かれています。不気味さと同時に、そこはかとないユーモアも漂う幻想小説です。


4062117983オデット
ロナルド・ファーバンク 山本 容子 柳瀬 尚紀
講談社 2005-12-14

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ロナルド・ファーバンク『オデット』(柳瀬尚紀訳 講談社)

 オデットは、両親を失い、叔母に引き取られた幼い少女。夜中に聖母マリアに会いたいと屋敷を抜け出し、娼婦と出会ったオデットでしたが…。
 世間ずれした娼婦と、純真無垢なオデット、二つの全く異なる世界観を持つ二人が出会ったときに生まれたものとは? 原題のサブタイトル「けだるい大人のための童話」の通り、アンニュイかつ美しい作品です。


4488010555堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)
エドワード・ケアリー 古屋 美登里
東京創元社 2016-09-30

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エドワード・ケアリー『堆塵館』(古屋美登里訳 東京創元社)

 19世紀イギリス、ロンドン郊外のごみ山の中に立つ巨大な屋敷「堆塵館」。そこはごみで財を成したというアイアマンガー一族が建てたものでした。地上の階では、純潔のアイアマンガーが、地下の階では、一般の人間と結婚したアイアマンガーの子孫が召使として働いていました。
 アイアマンガー一族には、生まれた時に与えられる「誕生の品」を生涯持ち続けなければならないという掟がありました。主人公クロッドは、その品物の声を聞くことができるという能力がありました。物たちは、それぞれ自分の名前を叫び続けているのです。
 一方、孤児院で生まれた少女ルーシーは、アイアマンガーの血が入っているということで、堆塵館で召使として働くことになります。厳しい掟に反抗し続けるルーシーでしたが、館の中でクロッドと出会ったことから、互いに愛し合う関係になります…。

 《アイアマンガー三部作》の1作目に当たる作品です。ごみ山の中に立つ巨大な屋敷、エキセントリックな登場人物、物の声を聞くことのできる少年、孤児ながら自らの運命を切り開こうとする少女。魅力的な要素のたっぷりつまった物語です。
 「誕生の品」を身につけ続けなければならないというアイアマンガー一族の掟が、単なる設定だと思いきや、そうしなければならない理由が後半に判明するなど、細かい伏線もしっかりしています。
 一族の掟を守り続けなければならないと思い込んでいた主人公クロッドが、少女ルーシーとの出会いにより、一族を裏切る方向へ動き出すことになります。一度、屋敷に召使として入った人間は二度と出れないという掟があるなか、ルーシーを外へ連れ出すことができるのか…というのが、主人公の当面の目的になっています。
 物語のほぼ全体が屋敷の中で起こるにもかかわらず、最初から最後まで波乱万丈の物語で、これはぜひ続編を読みたい作品になりました。続編は5月ごろ刊行予定ということで、楽しみにしたいと思います。

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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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