H・G・ウエルズのSF・幻想短篇を読む
458529127X未来を覗く H・G・ウェルズ ディストピアの現代はいつ始まったか
小野俊太郎
勉誠出版 2016-07-08

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 先日、小野俊太郎『未来を覗くH・G・ウェルズ』(勉誠出版)という本を読みました。H・G・ウェルズのSF小説、『タイムマシン』『モロー博士の島』『透明人間』『宇宙戦争』など、代表作を中心に、それぞれの作品が含む問題提起について、丁寧に解説した良書です。
 代表作だけでなく、いくつかの短篇についても触れられています。読んだ後、ウェルズの作品が再読したくなり、手持ちの短篇集を引っ張り出してきて、いろいろ読み直してしまいました。

 改めて紹介すると、イギリスの作家、H・G・ウェルズ(1866-1946)は、フランスのジュール・ヴェルヌと並び、SFジャンルの開祖とされる作家です。ともに、未来の社会や技術をテーマとして取り上げた作家ですが、ヴェルヌがあくまで当時の技術の発展上の世界を描くのに対して、ウェルズはそれにこだわりません。
 「タイム・マシン」や「透明人間」など、ウェルズの作品では、今現在でも実現されていない技術、そもそも実現が可能なのかどうかもわからないアイディアが多く扱われています。そのアイディアの幅は広く、SFの基本となるテーマは、ウェルズがほぼ出しているといってもいいほどです。
 アイディアの先駆性を別にしても、ウェルズの作品は今読んでも、物語として面白いものが多いです。SFだけにとどまらず、ファンタジー・幻想小説としてみても、優れたものが多く見られます。


 ウェルズの短篇集は、各社からいくつも出ていたのですが、近年は品切れになっているものも多いようですね。いちばん手に入りやすいのは、岩波文庫の『タイム・マシン -他九篇』(橋本槇矩訳)と『モロー博士の島 -他九篇』(橋本槇矩、鈴木万里訳)でしょうか。
 岩波文庫では、他に中篇『透明人間』(橋本槙矩訳)も入手可能です。



4003227611タイム・マシン 他九篇 (岩波文庫)
H.G. ウエルズ 橋本 槇矩
岩波書店 1991-05-16

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 『タイム・マシン』は、時間旅行を扱った名作『タイム・マシン』のほか、地球外の惑星の光景が映る水晶球を描いた『水晶の卵』、常人の数千倍で動ける薬を扱った『新加速剤』、あらゆる奇跡を起こせるようになった男を描く『奇蹟を起こした男』、魔法のお店を描いた『マジック・ショップ』、別世界への扉が現れるという『塀についた扉』、盲人だけで構成された国に迷い込むという『盲人国』などを収録。



4003227638モロー博士の島 他九篇 (岩波文庫)
H.G.ウエルズ 橋本 槇矩
岩波書店 1993-11-16

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 『モロー博士の島』は、動物を人間に改造しようとするモロー博士の野望を描く表題作のほか、絶滅したはずのエピオルニスの雛を手に入れた男を描く『エピオルニス島』、蛾をめぐる二人の科学者の争いを描く『蛾』、体重がなくなってしまった男を描く『パイクラフトの真実』、人格交換を描いた『故エルヴィシャム氏の物語』、突然地球の反対側の情景が見えるようになるという『デイヴィドソンの不思議な目』などを収録しています。


 岩波文庫の次に入手しやすいのは、創元SF文庫の《ウェルズSF傑作集》2冊です。



B007TAKMS4タイム・マシン ウェルズSF傑作集
H・G ウェルズ 阿部 知二
東京創元社 1965-12-03

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 『タイム・マシン』(阿部知二訳)は、 『塀についたドア』『奇跡をおこさせる男』『ダイヤモンド製造家』『イーピヨルスの島』『水晶の卵』などを収録。『ダイヤモンド製造家』は、ダイヤモンドを製造する方法を見つけた男の悲喜劇を描く作品です。



B007TAKL8K世界最終戦争の夢 ウェルズSF傑作集
H・G ウェルズ 阿部 知二
東京創元社 1970-12-18

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 『世界最終戦争の夢』 (阿部知二訳)は、南米でのアリとの戦いを描く『アリの帝国』、吸血花を扱った『珍しい蘭の花が咲く』、深海の生物に襲われる『海からの襲撃者』、ダイヤモンドを飲み込んだダチョウをめぐるコミカルな小品『ダチョウの売買』、近未来の戦争を予告する『世界最終戦争の夢』などを収録。



4336025630白壁の緑の扉 (バベルの図書館 8)
H・G・ウェルズ ホルヘ・ルイス・ボルヘス
国書刊行会 1988-09-24

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 ボルヘス選の文学全集シリーズ《バベルの図書館》のウェルズの巻『白壁の緑の扉』(小野寺健訳 国書刊行会)には、5篇を収録しています。他の作品集で読める作品ばかりですが、中では『プラットナー先生綺譚』が珍しいでしょうか。化学の実験中の爆発により、異世界に飛ばされてしまった教師を描く作品です。



4042703062タイムマシン (角川文庫)
H.G. ウェルズ Herbert George Wells
角川書店 2002-06

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 『タイム・マシン 他六篇』(石川年訳 角川文庫)
 鉄の潜水艦で、深海世界を冒険する『深海潜航』、ネアンデルタール人を描く先史小説『みにくい原始人』の収録が貴重でしょうか。


 ハヤカワ文庫では、《H・G・ウェルズ傑作集》全4巻が出ていましたが、すべて品切れ中です。各巻のタイトルは『モロー博士の島』『タイム・マシン』『透明人間』『神々の糧』。短篇集は『モロー博士の島』『タイム・マシン』の2冊です。



4150103461神々の糧 (ハヤカワ文庫 SF 346)
H.G.ウェルズ 小倉 多加志
早川書房 1979-06

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 長編『神々の糧』(小倉多加志訳)は、発達促進剤ヘラクレフォービアにより、際限なく生物が巨大化していくという世界を描いた作品です。



415010266Xモロー博士の島 (ハヤカワ文庫 SF―H・G・ウエルズ傑作集 (266))
H・G・ウエルズ 宇野 利泰
早川書房 1977-11

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 『モロー博士の島 H・G・ウェルズ傑作集1』収録作では、発電機を神とあがめる未開人が生贄を捧げてしまうという『ダイナモの神』、妖精の女王によって妖精国に連れ去られた青年を描くファンタジー『妖精の国のスケルマーズデイル君』が面白いですね。



タイムマシンタイム・マシン (ハヤカワ文庫 SF 274)
H.G.ウェルズ 宇野 利泰
早川書房 1978-01

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 『タイム・マシン H・G・ウェルズ傑作集2』
 鋼鉄の戦艦が登場し、近代戦争を予言したとされる『陸の甲鉄艦』、細菌学者の家から盗まれた最近をめぐる『盗まれたバチルス』などを収録。



B000J7Y6A4ザ・ベスト・オブ・H・G・ウエルズ (1981年) (サンリオSF文庫)
H.G.ウェルズ 浜野 輝
サンリオ 1981-06

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 『ザ・ベスト・オブ・H・G・ウェルズ』(サンリオSF文庫 浜野輝訳)は、SF以外の作品も含めた作品集。意識が肉体を離れて遊離するという『手術を受けて』、22世紀の恋愛を描く『近い将来の物語』、亡き王妃のために作られた豪華な霊廟をめぐる寓話『愛の真珠』などを収録しています。



イカロスイカロスになりそこねた男
H.G. ウエルズ Herbert George Wells
ジャストシステム 1996-05

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 『イカロスになりそこねた男』(橋本槙矩訳 ジャストシステム)は、ウェルズの珍しい作品を集めた作品集ですが、全体にSF味は薄いです。
 『空中飛行家』『イカロスになりそこねた男』は、空中飛行への憧れと挫折を描いた作品。ほかに、怪奇小説『ウォルコート』など。



433475208X盗まれた細菌/初めての飛行機 (光文社古典新訳文庫)
ハーバート・ジョージ ウェルズ Herbert George Wells
光文社 2010-07-08

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 『盗まれた細菌/初めての飛行機』(南條竹則訳 光文社古典新訳文庫)は、ウェルズのユーモア要素のある作品を集めています。
 資産家の屋敷を狙う泥棒を描いた『ハマーポンド邸の夜盗』、飛行機で飛び立った青年が村に大騒動を巻き起こすという『初めての飛行機』など。
 ウェルズの多面性を知るにはいいと思いますが、最初に読むウェルズ作品集としては、あまりオススメできない感じではあります。


 他にアンソロジー収録作品としては、アフリカの呪術師に呪われるという怪奇小説『ポロ族の呪術師』(池央耿訳 アシモフほか編『クリスマス13の戦慄』新潮文庫収録)、成仏できずにさまよう幽霊をブラック・ユーモアたっぷりに描いた『不案内な幽霊』(南條竹則訳 『イギリス恐怖小説傑作選』ちくま文庫巣収録)、呪われた部屋をめぐる本格怪奇譚『赤の間』(斉藤兆史訳 由良君美編『イギリス怪談集』河出文庫収録)などが面白いですね。


 基本的に、岩波文庫と創元社の短篇集があれば、代表的な作品は読めます。ただ、ウェルズファンとしては、SF・幻想短篇を集成した決定版の短篇集が欲しいところです。

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10月の気になる新刊と9月の新刊補遺
9月29日刊 江坂遊選『30の神品 ショートショート傑作選』(扶桑社文庫 予価894円)
9月30日刊 名梁和泉『マガイの子』(KADOKAWA 予価1620円)
10月6日刊 イタロ・カルヴィーノ『冬の夜ひとりの旅人が』(白水Uブックス 予価1944円)
10月6日刊 S・K・トレメイン『氷の双子 THE ICE TWINS』(小学館文庫 予価972円)
10月11日刊 ジョン・ディクスン・カー『緑のカプセルの謎 新訳版』(創元推理文庫 予価972円)
10月13日刊 ジュール・ヴェルヌ『名を捨てた家族 1837-38年 ケベックの叛乱』 (仮題)(彩流社 予価3024円)
10月13日刊 ケイト・ウィルヘルム『翼のジェニー ウィルヘルム初期傑作選』 (アトリエサード 予価2400円)
10月20日刊 レイ・ブラッドベリ『万華鏡 ブラッドベリ自選傑作集』(創元SF文庫 予価1620円)
10月20日刊 アルジャーノン・ブラックウッド『ウェンディゴ』(アトリエサード 予価2592円)
10月21日刊 リチャード・マグワイア『HERE ヒア』(国書刊行会 予価4320円)
10月21日刊 『新編 日本幻想文学集成 第3巻』(国書刊行会 6264円)
10月21日刊 シャーリイ・ジャクソン『くじ』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価1080円)
10月21日刊 フレドリック・ブラウン『さあ、気ちがいになりなさい』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価993円)
10月22日刊 ジム・シェパード『おわかりいただけますかねえ』(白水社 予価2808円)
10月22日刊 『諸星大二郎の世界』(平凡社 予価1728円)
10月24日刊 田辺剛『狂気の山脈にて 1 ラヴクラフト傑作集』(ビームコミックス 予価734円)
10月24日刊 田辺剛『The Outsider 田辺剛 Extra Works』(ビームコミックス 予価864円)


 江坂遊選『30の神品 ショートショート傑作選』は、世界のショート・ショートの名作を集めたアンソロジー。ビアス『アウル・クリーク橋の一事件』、サキ『開いた窓』、ストックトン『女か虎か』、星新一『おーい でてこーい』など、定番中の定番を集めた感がありますね。

 『翼のジェニー ウィルヘルム初期傑作選』は、女流SF作家、ケイト・ウィルヘルムの傑作集。表題作『翼のジェニー』は、ロマンチックな作品として有名ですが、こちら方面の作品を集めたものなんでしょうか。

 ジュール・ヴェルヌ『名を捨てた家族 1837-38年 ケベックの叛乱』 は、未訳だったヴェルヌの冒険歴史小説とのこと。
 ヴェルヌといえば、インスクリプトより刊行予定の出ていた、《ジュール・ヴェルヌ 〈驚異の旅〉 コレクション》シリーズはどうなったのでしょうか。1巻『地球から月へ/月をまわって/上を下への』は、もう何年も前から予告が出ては延期の繰り返しなので、本当に出るのか心配です。

 『万華鏡 ブラッドベリ自選傑作集』は、タイトル通り、ブラッドベリ自選の傑作集です。かってサンリオSF文庫から出ていたものの新訳版ですね。26編と収録作品数も多く、ブラッドベリ入門には最適の作品集だと思います。

 《ナイトランド叢書》の新刊は、アルジャーノン・ブラックウッドの『ウェンディゴ』。表題作ほか2篇を収録した中篇集とのこと。他の2篇は、『砂』『アーニィ卿の再生』の本邦初訳作品。

 早川書房の《異色作家短篇集》より、2作が文庫化になります。シャーリイ・ジャクソン『くじ』と、フレドリック・ブラウン『さあ、気ちがいになりなさい』《異色作家短篇集》も、だいぶ文庫化作品が増えてきた感じですね。

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甘美なる狂気  アンドレ・ド・ロルド『ロルドの恐怖劇場』
ロルドの恐怖劇場 (ちくま文庫)
ロルドの恐怖劇場 (ちくま文庫)アンドレ・ド ロルド Andr´e de Lorde

筑摩書房 2016-09-07
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 20世紀初頭のパリ、残酷さを売り物にした恐怖演劇を上演し、話題を呼んだ劇場がありました。その名は「グラン・ギニョル座」。やがてその名前《グラン・ギニョル》は、恐怖演劇の代名詞になります。
 『ロルドの恐怖劇場』(平岡敦編訳 ちくま文庫)は、その《グラン・ギニョル》の看板作家であった、アンドレ・ド・ロルド(1869-1942)の恐怖短篇を集めた作品集です。

 「恐怖小説」とは言いつつも、ロルドの作品には、幽霊や悪魔、超自然的な現象などは登場しません。そこにあるのは、人間が人間に与える残酷な行為や、狂気に囚われた精神の恐ろしさなのです。
 短い枚数の中に、殺人や拷問など、非常にショッキングな情景を盛り込むのが、ロルドの常套手段です。そのため、ショッキングな行為だけが突出しており、物語が充分に展開する前に終わってしまう作品もあるほど。

 恐怖演出が決まったときのロルド短篇は非常に鮮やかで、例えば、違法な仕事に手を染める医者の父とその娘を描く『助産婦マダム・デュボワ』であるとか、病で動けない妻の過去の不貞を知った男の復讐を描く『恐ろしき復讐』などのクライマックスシーンは実に凄絶。
 また、義理の息子を亡くした継母への疑惑を描く『デスマスク』、愛に殉じた男を語る高級娼婦の物語『無言の苦しみ』など、残酷ではあっても哀感を感じさせる作品もあります。
 集中では長めの作品、『無罪になった女』は、子供殺しの容疑者になった女を描く法廷劇。意外にも硬派のクライム・ストーリーで、なかなか現代的な印象を受ける作品ですが、綺麗に終わらせられるところを、わざわざ「悪趣味」にひっくり返します。ですが、これがロルド作品の面白さなのでしょう。

 ロルド作品では、登場人物に深みはあまりなく、その人物像についても最低限しか描写されません。物語のシチュエーションも、恋人や兄弟の仇であるとか、三角関係であるとか、非常にありきたりなものばかり。言うならば、残虐な行為を扱うためだけに作られたステレオタイプなのです。
 ですが、ステレオタイプゆえに、作中で血が流れても、残酷な行為が行われても、どこか作り物めいた印象を与えます。そのため読者は、一時的にショックは受けても、心から傷つくことはありません。「安心して」恐怖を味わえるのです。ここに当時の人々を熱狂させた、ロルドの魅力の一端があるような気がします。

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最近読んだ本

4883752372ナイトランド・クォータリーvol.06 奇妙な味の物語
ケン・リュウ ニール・ゲイマン ジョン・コリア 朝松 健
書苑新社 2016-08-26

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『ナイトランド・クォータリーvol.06 奇妙な味の物語』(アトリエサード)
 『ナイトランド』の最新号の特集は《奇妙な味》。ジョン・コリア、サキ、ロバート・ブロック、チャールズ・ボーモント、ネイサン・バリングルード、ニール・ゲイマン、ケン・リュウらの短篇が掲載されています。
 ロバート・ブロック『ひらめきの帽子』は、芸術への創造力を高める「帽子」を手に入れた男の物語、チャールズ・ボーモント『愛車の助言』は、ある日人格を持ち始めた車に翻弄される主人公を描いています。どちらも安定した面白さです。
 いちばんインパクトがあったのが、ネイサン・バリングルード『往く先は風に』。車を盗んだという男と知り合ったシングルマザーの女の情事を描いた作品かと思いきや、予想もしない方向に展開する、まさに《奇妙な味》としかいいようのない作品です。シオドア・スタージョンのある種の作品を髣髴とさせる味わいで、この作家の作品はもっと読んでみたいですね。
 エッセイでは、フィルポッツの異色作品にスポットを当てた、安田均さんの「フィルポッツの奇妙な味」が興味深いです。
 全体に、『ミステリマガジン』の《幻想と怪奇》を思わせるカラーで非常に良かったと思います。本家の『ミステリマガジン』の《幻想と怪奇》特集は、近年すごく薄味になっているので、『ナイトランド』には頑張っていただきたいですね。



4150120854死の鳥 (ハヤカワ文庫SF)
ハーラン・エリスン 伊藤典夫
早川書房 2016-08-05

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ハーラン・エリスン『死の鳥』(伊藤典夫訳 ハヤカワ文庫SF)
 エリスンの、既訳ながら雑誌などに埋もれていた作品を集めた作品集です。とはいえ、それぞれが、本国では何らかの受賞作レベルの作品なので、とんでもなくレベルの高い作品集になっています。
 極端な時間管理が行われる社会に反抗する男の物語『悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった』、全能の機械にもてあそばれる人間たちを描いた『おれには口がない、それでもおれは叫ぶ』、数十万年ぶりに甦った男の人生を神話的に描いた『死の鳥』、ある殺人事件をきっかけに宗教的な畏怖に囚われる都市幻想小説『鞭打たれた犬たちのうめき』など、SFだけでなく、ホラーやファンタジーも含まれたヴァラエティ豊かな作品集でもあります。



4041043557ずうのめ人形
澤村伊智
KADOKAWA/角川書店 2016-07-28

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澤村伊智『ずうのめ人形』(角川書店)
 オカルト専門雑誌の編集部で働く藤間は、連絡の取れなくなったライターが自宅で死んでいるのを発見します。ライターが遺した原稿の中に「ずうのめ人形」と呼ばれる都市伝説を発見した藤間は、これがライターの死の原因ではないかと疑うようになります。
 やがて、藤間の周辺に顔を糸で覆った謎の人形が姿を現します。その姿は自分にしか見えないのです。段々と近づいてくる人形が、自分のもとにたどり着いたとき、死が訪れることを確信した藤間は、霊能力者の真琴と、真琴の婚約者野崎に助けを求めますが…。
 1作目『ぼぎわんが、来る』でもそうでしたが、作中に登場する怪異の破壊力がすごいです。かぼそい霊的現象というレベルではなく、人が数十人単位で死ぬというレベルのため、巻き込まれた人間たちの緊迫感が半端ではありません。
 現在時間で進行する怪異現象と、都市伝説の誕生をめぐる過去とが交互に描かれ、それがクライマックスで交差するという構成も見事です。
 怪異を前に右往左往するのではなく、それらを実在のものとして捉え、その対策を真摯に考えていくという、ゴースト・ハンターものとしても良質な作品でしょう。



4087716686怪談のテープ起こし
三津田 信三
集英社 2016-07-26

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三津田信三『怪談のテープ起こし』(集英社)
 怪奇小説を集めた短篇集です。作者である三津田信三と、その女性編集者が怪異現象に巻き込まれていくという、メタフィクション的な枠物語の形で進行します。
 死ぬ間際の人間の声を録音したテープを起こし、本を作ろうという企画を持ちかけられるという『死人のテープ起こし』、豪邸に夜一人で留守番をするアルバイトをすることになった女子学生の体験を描く『留守番の夜』、ほとんど知らない者同士で山登りを行うことになった一行の体験を描く『集まった四人』、入院中の母親と同室になった老人が繰り返す奇怪な話を描く『屍と寝るな』、全身黄色の雨具を着けて現れる得体の知れない女の恐怖を描く『黄雨女』、不気味な「黒い人」とすれ違い続ける女性を描く『すれちがうもの』の6篇を収録しています。
 怪異のインパクトをストレートに押し出す『留守番の夜』『すれちがうもの』も面白いですが、間接的な語りとおぼろな記憶が不気味さを高める『屍と寝るな』がベストでしょうか。



4063828255宇宙のプロフィル (ヤンマガKCスペシャル)
こがたくう
講談社 2016-07-20

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こがたくう『宇宙のプロフィル』(ヤンマガKCスペシャル)
 SFマンガ短篇集です。
 遠未来、巨木「エルキド」の幹に住む有角人たちを描く『エルキドの巨木』、宇宙船で別の人間になっている夢を見続ける少女を描く『京子の夢』、海王星を目指す5人のチームの一人が呼びかけに応えなくなるという『ハッピーエンド』、天文学者が自らの人生を回想する『小さな彗星』、太陽が燃え尽き、最後が迫る地球で一人待ち続けるロボットを描く『地球最期の日』を収録。
 どれも秀作ですが、巨木や有角人など、ファンタジー的な設定が結末に至ってSF的な解釈が施される『エルキドの巨木』、二重のどんでん返しが面白い『ハッピーエンド』、情感豊かな『地球最期の日』などが面白いですね。
 特に、50億年も何かを待ち続ける『地球最期の日』はスケールの大きさと相まって、感銘を受ける作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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