6月の気になる新刊と5月の新刊補遺
発売中 『ナイトランド・クォータリーvol.05 闇の探索者たち』(アトリエサード 1836円)
発売中 エイミー・ベンダー『レモンケーキの独特なさびしさ』(角川書店 2376円)
6月2日刊 デイヴィッド・パンター『恐怖の文学 その社会的・心理的考察 1765年から1872年までの英米ゴシック文学の歴史』(松柏社 予価4320円)
6月7日刊 スティーヴン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』(河出文庫 予価1620円)
6月7日刊 グレッグ・イーガン『TAP』(河出文庫 予価972円)
6月10日刊 コードウェイナー・スミス『アルファ・ラルファ大通り 人類補完機構全短篇2』(ハヤカワ文庫SF 予価1296円)
6月10日刊 ジョン・コラピント『無実』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価1188円)
6月11日刊 アレクサンドル・デュマ『ボルジア家』(作品社 予価2592円)
6月17日刊 ディーノ・ブッツァーティ『古森のひみつ』(岩波少年文庫 予価756円)
6月22日刊ハル・クレメント 『一千億の針 新版』(創元SF文庫 予価1058円)
6月23日刊 『ポケットマスターピース9 E・A・ポー』(集英社文庫 予価1404円)
6月23日刊 『新編 日本幻想文学集成 第1巻』(国書刊行会 予価5400円)
6月24日刊 ヴォルテール『カンディード』(晶文社 予価1944円)
6月24日刊 スティーヴン・ロイド・ジョーンズ『白夜の一族 上・下』(ハヤカワ文庫NV 予価各950円)
6月28日刊 コリン・ウィルソン『宇宙ヴァンパイアー』(新潮文庫)
6月30日刊 ハビエル・マリアス 『執着』(東京創元社 予価2700円)


 デイヴィッド・パンター『恐怖の文学』は、ゴシック小説の研究書。原書は2巻本で、その前半部分の訳、1872年までの作品を扱っているようです。2巻は、現代よりの時代を扱っているそうですが、こちらの邦訳もいずれ出るのでしょうか。

 ディーノ・ブッツァーティ『古森のひみつ』は、岩波少年文庫からの刊行。児童文学的な作品なんでしょうか。ちなみに挿絵はブッツァーティ本人ではないようです。

 刊行が話題になっている、 《新編 日本幻想文学集成》の1巻は、旧シリーズにはなかった増補巻。安部公房、倉橋由美子、中井英夫、日影丈吉の作品を収めます。
 改めて説明しておくと、《新編 日本幻想文学集成》は、旧シリーズ《日本幻想文学集成》全33冊を再編集して、4人の作家を新しく増補した1巻を加え、全9巻で刊行されます。
 このシリーズ、バラ買いはしにくいので、全部揃えるか、揃えないか、の二択になりそうです。

 集英社の《ポケットマスターピース》は、文豪の名作を集めた厚手のシリーズ。すでに何巻か刊行されています。長編の抜粋ばかりとか、ちょっと編集的に気になる面もあるのですが、手に入りにくい作品が入っていたりするので、その作家のファンなら手に入れる価値があるかと思います。
 出たばかりのスティーヴンソンの巻では、珍しい短篇がいくつも入っていて、お得な巻でした。ポーは、文庫で全集が手に入るので、大体の作品が読めると思いますが、新訳で読むのもまた一興かと思います。

 スティーヴン・ロイド・ジョーンズ『白夜の一族』は、「呪われた一族を描く壮大な歴史ホラー」だそうで、これは面白そうですね。

 村上春樹と柴田元幸が組んで刊行中の、《村上柴田翻訳堂》。翻訳小説の名作を刊行するというシリーズなのですが、純文学作品に混じって、エンタテインメント路線もいくつか入っているのが特徴。
 コリン・ウィルソン『宇宙ヴァンパイアー』もその一つなのですが、随分思い切ったセレクションですね。今後の予定で気になるのは、リング・ラードナー『アリバイ・アイク ラードナー傑作選』でしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

欧米の怪奇小説をめぐって  ジャン・レイとベルギーの怪奇小説について

jan02.jpg jan01.jpg jan03.jpg 黒い玉 (創元推理文庫) 青い蛇―十六の不気味な物語 (創元推理文庫)

 ベルギーの公用語は、主にオランダ語とフランス語。日本のアンソロジーなどでも、ベルギー単独で編まれるということはあまりなく、フランス文学の一部として扱われることが多いようです。とはいえ、ベルギーにも、独特の魅力を持った作家が何人もいます。今回は、そんなベルギー作家の怪奇小説を見ていきたいと思います。

 ベルギーの怪奇小説作家といえば、いちばんに名前が挙がるのが、ジャン・レイ(1887~1964)です。ミステリ、SF、怪奇小説など、大衆小説のいろいろなジャンルで創作を行いました。日本でも比較的紹介に恵まれています。主な邦訳作品を挙げてみましょう。

『マルペルチュイ』(篠田知和基訳 月刊ペン社)
『新カンタベリー物語』(篠田知和基訳 創元推理文庫)
『幽霊の書』(秋山和夫訳 国書刊行会)
『ゴルフ奇譚集』(秋山和夫訳 白水社)
『ウイスキー奇譚集』(榊原晃三訳 白水社)
『怪盗クモ団』《ハリー・ディクソン》シリーズ(榊原晃三訳 岩波少年文庫)
『地下の怪寺院』《ハリー・ディクソン》シリーズ(榊原晃三訳 岩波少年文庫)
『悪魔のベッド』《ハリー・ディクソン》シリーズ(榊原晃三訳 岩波少年文庫)

 彼の作品のなかで知名度があるものとしては、探偵もの《ハリー・ディクソン》シリーズが挙がるのでしょうが、本領は怪奇・幻想小説にあるといっていいかと思います。
 長編『マルペルチュイ』は、古代の神々をテーマに、巨大な館を舞台にしたゴシック風幻想小説。暗鬱で息詰まるような雰囲気の作品ですが、幻想小説の傑作だと思います。
 『新カンタベリー物語』は、チョーサーの『カンタベリー物語』のパロディです。宿を訪れた人々が、チョーサーその人やホフマンの作品に登場する牡猫ムルとともに、奇怪な話を聞いていくという連作短篇集。エピソードごとに、ムルのリアクションが見られたりと、軽いタッチで楽しめる作品です。
 『ゴルフ奇譚集』は、ゴルフをテーマにした怪奇小説集。因縁とか黒魔術とか、オーソドックスなテーマの怪奇小説が多いので、正直、傑作といえるほどの作品は見当たらないのですが、安定したつくりで怪奇小説ファンには楽しめます。
 『幽霊の書』『ウイスキー奇譚集』は、短篇集ですが、どちらも傑作ぞろいだと思います。『幽霊の書』の方は本格的な怪奇小説集、『ウイスキー奇譚集』の方は、掌編に近い作品が多く収められ、怪奇ショート・ショート集としても楽しめます。短い枚数で、奇怪な出来事をさらっと描く手腕は抜群で、あっという間に読めてしまう割には、読後感は鮮やかですね。

 トーマス・オーウェン(1910~2002)は、幻想短篇集『黒い玉』(加藤尚宏訳 創元推理文庫)と『青い蛇』(加藤尚宏訳 創元推理文庫)が邦訳されています。不気味で不穏な出来事の起こる作品が多く、派手さはないものの、実に渋い幻想小説を書く作家です。
 とくに短篇『黒い玉』は、ふと見かけた「黒い玉」を追っていくうちに、何ともいえない展開になる不条理恐怖小説で、名作といっていいかと思います。
 明確な怪奇現象や超自然現象が起きない場合でも、何となく読ませてしまう文章力のある作家でもあります。

 J・H・ロニー兄(1856~1940)は、ジュール・ヴェルヌと並んでSFの先駆者と言われる作家です。「兄」がつくのは、もともと兄弟で合作していたものの、後にそれぞれ独立したためですね。
 古代の人々が異星人と遭遇するという『クシペユ』(川口顕弘訳『19世紀フランス幻想短篇集』国書刊行会収録)や、地球上に、人類には見えない別の生物が存在するという『もうひとつの世界』(竹田宏訳『世界SF全集31 世界のSF 古典編』早川書房収録)など、独特の着想の作品を残しました。
 怪奇小説方面に寄った作品としては、吸血鬼を扱った『吸血美女』(小林茂訳 窪田般彌/滝田文彦編『フランス幻想文学傑作選3』白水社収録)が傑作です。
 先史時代を扱った長編『人類創世』(長島良三訳 角川書店)も邦訳があります。

 ベルギーの幻想作家に関してまとまった本はないのですが、『小説幻妖弐』(幻想文学会出版局)に、《ベルギー幻想派》特集として、ジャン・レイ、トマ・オーウェン、ジェラール・プレヴォー、J・H・ロニー兄、ミシェル・ド・ゲルドロードの作品が収録されています。

 また、詳細は不明ですが、松籟社よりベルギー幻想派のアンソロジーの刊行が予定されているようで、これは楽しみですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

Twitterと「たら本」の思い出
突然ですが、Twitterを始めてみました。
アカウントは、@kimyonasekai です。

 ブログはブログで、利点があると思うのですが、ふと思いついた考えや意見などを、軽くアウトプットする媒体が欲しいなと、いろいろ考えた結果、Twitterをやってみよう、と思い立ちました。
 そちらでは、ブログには短すぎる感想や、本に関する短文などを書いていきたいと思います。
 もちろん、ブログはブログで続けていきますが、Twitterの方とも連動していけたらいいなと思っています。

 ブログといえば、「コメント」と並んで、売りだった機能「トラックバック」は、最近はずいぶん廃れてしまったようですね。10年前は、頻繁にトラックバックのやり取りをしていたように記憶していますが、最近はめっきり使わなくなりました。
 一時期は、トラックバックスパムがひどかったので、そのせいもあるんでしょうが。ブログサービスによっては、機能としてのトラックバック自体を廃止しているところも、少なくないようです。

 トラックバックといえば思い出すのが、「たらいまわし本のTB企画」、通称「たら本」。
 「たら本」とは、テーマを決めて、それに関わる本を紹介した記事を作成し、主催者や、企画記事を上げた人に、トラックバックを送っていくという、本好きにはたまらない企画でした。もう10年ぐらい前になるでしょうか。
 僕も何回か参加し、一度は主催者をやらせてもらいました。今では「たら本」で検索しても、なかなかひっかからないところを見ると、当時の参加記事やブログそのものが消滅している例が多いみたいですね。
 「たら本」元締めをやっておられた、overQさんのサイト内にある、「The History of たら本」(http://www.overcube.com/blog/tarahon.php)に、各回のリンクが張ってありますので、興味のある方はごらんになるといいかと思います。
 いまリンクをたどってみると、各回の主催者のページも、大分なくなっていますね。

 ついでに、自分が主催した分も含め、「たら本」企画で書いた記事のリンクを載せておきたいと思います。

たらいまわし本のTB企画第38回「何か面白い本ない?」という無謀な問い

たらいまわし本のTB企画第39回 夢見る機械たち

たらいまわし本のTB企画第40回 こたつで読みたいバカバカしい本

たらいまわし本のTB企画第41回「私家版・ポケットの名言」

 やはり、自分で主催した39回の企画には、多少思い入れがあります。今見ても、いい記事が書けたんじゃないかな、と思います。
 そういえば、この記事で取り上げたコミック、古屋兎丸『Marieの奏でる音楽』は、つい最近復刊されて、話題になっていますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

国書刊行会の目録のことなど
 今月、国書刊行会からスタートする予定の叢書《ドーキー・アーカイヴ》。告知パンフレットが出来たというので、国書刊行会に送付をお願いしていたのですが、それが届きました。
 ちなみに、ホームページからPDF版のダウンロードも可能です(https://www.kokusho.co.jp/catalog/9784336060570.pdf)。ただ、冊子で、ページ数もある程度あるということなので、本の形で欲しかったのですよね。
 大きめの封筒が来たので、開けてみると、《ドーキー・アーカイヴ》の冊子と、《新編日本幻想文学集成》の冊子パンフ、あと国書刊行会の図書目録が入っていました。

 図書目録が300ページぐらいあり、分厚いのですが、パラパラめくってみると、文学だけではなくて、いろんなジャンルの本を扱っているんですよね。むしろ文学関係の方が少ないくらい。国書といえば、マイナーな文学や小説、というイメージがあったので、意外でした。
 すごいのは、数十年前に出た本がまだ在庫があること。《世界幻想文学大系》あたりでも、まだ在庫している巻があるんですよね。古い本でも、在庫があるかもしれないので、興味のある方は目録を請求するといいかと思います(問い合わせフォームに「目録希望」で送ってくれます)。

 《新編日本幻想文学集成》は、1990年代前半に出版された叢書の新版です。全33巻で、日本作家の幻想小説を集めたシリーズです。最近出た《新編バベルの図書館》の日本版といった感じでしょうか。新編は全9巻で、増補の巻は、安部工房、倉橋由美子、中井英夫、日影丈吉に1巻が当てられています。
 旧シリーズは何巻か読みましたが、作家のセレクションが非常に渋いのが特徴で、エンターテインメントではなく純文学路線の作家がメインになっていました。宇野浩二、牧野信一、豊島与志雄、神西清あたりは、今でも本が手に入りにくいんじゃないでしょうか。
 旧シリーズは巻数が多く、揃えるのが難しかったのですが、基本1作家1巻だったので、バラ買いした人も多かったと思います。今回の新編はバラ買いはしにくい感じですね。
 最近、この「新編」でまとめた企画が多いような気がするのですが、アンソロジーシリーズ《書物の王国》なんか、箱入りの装丁で出し直してくれたら、欲しいですね。

 《ドーキー・アーカイヴ》の冊子は、編者2人の対談で、面白く読みました。20ページ以上にわたって、今回収録される作家について語られています。とくに興味深かったのは、サーバンでしょうか。ふれられている量は少ないですが、ある程度の情報が得られて、渇をいやしました。

 《ドーキー・アーカイヴ》冊子を読み終わって、そういえば、若島さんの著書『殺しの時間-乱視読者のミステリ散歩』(バジリコ)に、今回セレクションされているタイトルが入っていたのかな?と思い立ち、本を久々にめくってみました。
 結果から言うと、紹介されていたのは、ひとつだけ。ドナルド・E・ウェストレイク『さらば、シェヘラザード』でした。紹介文を読むと、やはり面白そうで、この作品も楽しみになりました。
 ちなみに、この『殺しの時間』、未訳のミステリ関連書のブックガイドなのですが、ミステリだけでなく「変」な小説がいっぱい紹介されています。非常に面白いブックガイドなので、オススメしておきたいと思います。 

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

いつかの情景  ディーノ・ブッツァーティ『絵物語』
4885880882絵物語
ディーノ ブッツァーティ Dino Buzzati
東宣出版 2016-04-15

by G-Tools

 イタリアの幻想文学の鬼才、ディーノ・ブッツァーティは、作家として有名ですが、イラストレーターとしての面も持っており、本人はむしろ画家を自認していたといいます。
 昨年邦訳された『モレル谷の奇蹟』(中山エツコ訳 河出書房新社)は、絵と文章が一体になった作品で、ブッツァーティのイラストレーターとしての魅力を感じさせてくれるものでした。

 今回出版が成った『絵物語』(長野徹訳 東宣出版)は、ブッツァーティの画集といっていい作品集です。ただ純粋な絵画作品ではなく、それぞれの絵に対し、短い文章が添えられているのが特色です。
 文章は、絵に描かれた情景を補完するものであることもあるし、そのイメージとは一見関係のないようなものであることもあります。このあたり、例えば、ベルギーのシュルレアリスムの画家ルネ・マグリットの作品が、作品とは直接関係のないようなタイトルを付けられているのと似たような感覚を覚えますね。
 そもそも、文章なしでも、絵そのものが、ある種の物語性を感じさせるところが魅力です。そして、添えられた文章との関連を想像しながら、絵を「読む」のも、また面白い作業なのです。

 『モレル谷の奇蹟』同様、画風も、いろいろなタッチのものが混ざっています。素朴なものもあるかと思えば、ジョルジョ・デ・キリコを思わせるシュールなものもある。果てはアメコミ風のものもあるといった具合。
 幻想的な情景を描いたものが多いのですが、動物や異形の人間、怪物などを描いたものに、ことに魅力がありますね。
buzzati11.jpg buzzati10.jpg buzzati6.jpg buzzati8.jpeg buzzati7.jpeg buzzati5.jpg buzzati4.jpg buzzati12.jpg

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する