5月の気になる新刊
5月10日刊 岡本綺堂他『見た人の怪談集』(河出文庫 予価778円)
5月12日刊 エドガー・アラン・ポー『アッシャー家の崩壊/黄金虫』(光文社古典新訳文庫)
5月12日刊 ミステリー文学資料館編『電話ミステリー倶楽部』(光文社文庫)
5月19日刊 牧眞司『JUST IN SF』(本の雑誌社 予価1836円)
5月20日刊 『ポケットマスターピース8 スティーヴンソン』(集英社文庫 予価1404円)
5月21日刊 ハル・クレメント『20億の針 新訳版』(創元SF文庫 予価1058円)
5月24日刊 フィリップ・K・ディック『死の迷路』(ハヤカワ文庫SF 予価1015円)
5月25日刊 イェンス・ハルダー『アルファ』(国書刊行会 予価3996円)
5月28日刊 スティーヴン・ミルハウザー『魔法の夜』(白水社 予価2268円)
5月30日刊 カミ『ルーフォック・オルメスの冒険』(創元推理文庫 予価972円)
5月予定 L・P・デイヴィス『虚構の男』(国書刊行会)
5月予定 サーバン『人形つくり』(国書刊行会)
5月予定 アレクサンドル・デュマ『ボルジア家』(作品社 予価2592円)


 岡本綺堂他『見た人の怪談集』は、「怖い怪談」を集めた作品集だとのこと。岡本綺堂、小泉八雲、橘外男、池田彌三郎らの作品を収録。

 牧眞司『JUST IN SF』は、SFのガイドブック。これは面白そうですね。

 イェンス・ハルダー『アルファ』は、「ビッグバンから人類誕生までの140億年を2000枚におよぶ画で描いた」作品だそうで、これは気になります。

 『魔法の夜』は、スティーヴン・ミルハウザーの作品集。2008年の『ナイフ投げ師』以来の短篇集ですね。

 『ルーフォック・オルメスの冒険』は、フランスのユーモア作家カミの、ホームズパロディ作品集です。
 戦前から我が国では人気があり、邦訳もたびたびなされていますが、1970年代に出帆社から刊行されたのが最後でしょうか。近年、高野優さんの訳でカミの作品がいくつか邦訳されていたので、いつか出るかもとは思っていましたが、これは嬉しい驚き。
 ホームズのパロディは星の数ほどありますが、カミの作品はぶっとんだ発想とユーモアで、ホームズパロディというよりは、カミオリジナルのユーモア小説として楽しめます。

 共に小説の読み巧者として知られる、若島正・横山茂雄編になる叢書《ドーキー・アーカイヴ》(全10巻)が、国書刊行会から発刊されます。
 刊行書目を紹介しておきましょう。

L・P・デイヴィス『虚構の男』矢口誠訳
サーバン『人形つくり』館野浩美訳 
シャーリイ・ジャクスン『鳥の巣』北川依子訳 
ドナルド・E・ウェストレイク『さらば、シェヘラザード』矢口誠訳
ステファン・テメルソン『ニシンの缶詰の謎』大久保譲訳
ロバート・エイクマン『救出の試み』今本渉訳
アイリス・オーウェンズ『アフター・クロード』渡辺佐智江訳
チャールズ・ウィリアムズ『ライオンの場所』横山茂雄訳
ジョン・メトカーフ『煙をあげる脚』横山茂雄他訳
マイクル・ビショップ『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』小野田和子訳

*タイトルは仮題です

 この叢書、マニアックなタイトル・作家を並べていますが、特定のジャンルというよりは、既存のジャンルに当てはまらない作品を集めた、ごった煮的なラインナップのようですね。
 例えばウェストレイクのような有名作家でも、かなりの異色作が選ばれているようです。ロバート・エイクマンの作品に至っては、なんと自伝だそうです。
 個人的に気になるのは、メトカーフの怪奇小説集『煙をあげる脚』と、アメリカのSF作家マイクル・ビショップの『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』でしょうか。
 第1弾は、5月刊行の、L・P・デイヴィスのジャンル・ミックス作品『虚構の男』と、謎の覆面幻想作家サーバンの幻想小説集『人形つくり』です。これは完結まで応援していきたい叢書になりそうです。
 刊行告知パンフレットも書店に並び始めているようなので、興味のある方はぜひ。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

『新トワイライトゾーン』第1シーズン完結
ミステリー・ゾーンDVDコレクション(62) 2016年 1/20 号 [雑誌] ミステリー・ゾーンDVDコレクション(64) 2016年 2/17 号 [雑誌] ミステリー・ゾーンDVDコレクション(65) 2016年 3/2 号 [雑誌] ミステリー・ゾーンDVDコレクション(66) 2016年 3/16 号 [雑誌] ミステリー・ゾーンDVDコレクション(67) 2016年 3/30 号 [雑誌] ミステリー・ゾーンDVDコレクション(68) 2016年 4/13 号 [雑誌]
 DVDマガジンが刊行中の『ミステリーゾーン』、68巻にて『新トワイライトゾーン』の第1シーズンが完結しました。第1シーズンに関しては、日本でもビデオ化されていたため、ほぼ再見になります。ただ、観たのは30年近く前なので、初めて観るような気分で楽しめました。
 第1シーズンの総括的な意味で、ちょっとまとめておきたいと思います。

 全体的に玉石混交だな、というのが正直な感想です。エピソードごとの出来不出来が、非常に激しいのです。旧シリーズ(『ミステリーゾーン』)のように、ロッド・サーリングという強烈な個性が仕切っているわけではないので、シリーズを通して一貫性のようなものが少ないのですよね。
 逆に言うと、バラエティに富んでいる、ともいえます。SF、ファンタジー、ホラーと、いろいろなジャンルの作品を詰め込んでいて、ある種、何でもありの楽しさがあります。旧シリーズでは少なかったコメディタッチの作品や、本格的な怪奇物があったりするのも嬉しいところです。

 印象に残ったエピソードを挙げておきましょう。以前の記事で、序盤のいくつかのエピソードを紹介しているので、それ以降の作品を挙げてみます。

『復讐のハイヒール』
 気弱な女性マディは古着屋で働いています。ある日、店に亡くなった女性の遺品が送られてきますが、その中にあったハイヒールを履いたマディは、態度が豹変してしまいます…。
 チャールズ・ボーモント脚本の旧シリーズ作のリメイクですが、設定だけを使い、中身は全く別の話になっています。旧作と比べると、やはりモダンな印象です。この設定、話に広がりがあるので、映画化したら面白くなりそうな感じがしますね。

『解禁日』
 親友カールの妻サリーと不倫をしているジョーは、猟の解禁日にカールを殺害してしまいます。しかし気がつくと、自分はサリーと結婚しており、子供たちは自分のことを父親と呼ぶのです…。
 結局、誰が誰を殺したのか…? 主人公が体験する出来事は真実なのか? ミステリアスかつ幻想的な雰囲気のエピソードです。シリーズ屈指の作品ではないでしょうか。

『時空を超えて』
 常に怒りを抱えている作家のガスは、ささいなことから、子供時代から大切にしているオモチャを壊してしまいます。少年時代をすごしたオハイオに行くことを思い立ったガスは、そこで孤独な少年と出会い、親交を深めることになります…。
 少年時代の自分と向き合うことになるという、オーソドックスなテーマながら、味わいのあるエピソードです。原作はハーラン・エリスン。

『さまよえる魂』
 二人の科学者ケビンとダンは、ホログラムの研究を行っていました。ある日、プログラムした覚えのない人間の胎児がプロジェクターに現れ、だんだんと成長をしていきます。ケビンは、亡くなった女性の魂が機械に紛れこんだのではないかと考えますが…。
 あっという間に歳をとるホログラム内の女性に対し、思い入れをしてしまう科学者。必ず来る別れのときを、彼はどう迎えるのか? 壊れかかった夫婦の仲をからめて描く、意欲的なヒューマン・ストーリーです。監督は、ウェス・クレイヴン。

『コピー』
 秘書のカレンは、職場のボスから酷い扱いを受けていました。クリスマスの日に、大量のコピーをいいつけられたカレンは、見慣れないコピー機でコピーをとりますが、その直後から彼女を見る周りの目が変わったことに気がつきます…。
 異世界を行き来できるコピー機を扱った、コミカルなファンタジーです。

『現像』
 写真家のダニエルは、祖母の遺品の中から、フィルムが入ったままの古いカメラを見つけます。そのフィルムには、過去に行われた先住民族調査の記録が残っていました。彼らは、写真を写されると魂を奪われると信じていたというのですが…。
 写真によって魂を奪われる、というアイディア・ストーリー。後半の緊迫感はなかなかです。

『時のすきま』
 若夫婦が目を覚ますと、玄関の方で物音がしているのに気がつきます。黒ずくめの男たちが家具をどんどん運びだしているのです。夫婦が止めようとしても、彼らは気にかけません。外に出た夫婦は、周りの家には住民がおらず、自宅と同じように、黒ずくめの男たちが片づけをし続けているのを見て驚きますが…。
 時間のはさまに落ち込んでしまった夫婦を描くコミカルSF作品。馬鹿らしいアイディアながら、観ていてじつに楽しいエピソードです。原作はシオドア・スタージョン『昨日は月曜日だった』

『無視刑囚』
 その社会では、冷淡な人間は周りの人間から無視をされる「無視刑」を科されていました。無視刑囚となったミッチェルは、やりたい放題を繰り返しますが、やがて孤独から精神を病んでいきます…。
 人間は孤独では生きていけない…というテーゼをわかりやすく描いた作品です。盲人が主人公と会話をしている最中に、突然気がついて立ち去る…というシーンが印象的です。ヒューマニズム溢れる結末も見事ですね。原作はロバート・シルヴァーバーグ。

『意識の空白』
 技術者のフォアマンは、不治の病のため、冷凍睡眠に入っていました。未来で目覚めた彼が目にしたのは、科学ではなく精神的能力で運営されている社会でした。隕石衝突を防ぐために、彼の技術が必要だと知ったフォアマンは協力を惜しみませんが…。
 科学技術の発展を棄てた未来社会で、過去の価値観に囚われた男は社会に順応できるのか? そして彼の使命とは…? 文明批判の趣もある本格SFストーリーです。

『おばあちゃん』
 少年ジョージィは、兄の見舞いに出かけた母親の留守中に、祖母の面倒を見るように言いつけられていました。常日頃、祖母を怖がっているジョージィは、母親が帰ってくる前に、祖母が死んだらどうしようかと不安にかられます…。
 過去に暗いうわさの耐えなかった祖母の最期とは…。クトゥルー神話のバリエーション作品ですね。原作は、スティーヴン・キング『おばあちゃん』。近年、『スティーヴン・キング 血の儀式』として映画化もされています。

『銀貨の横顔』
 ハーバード大学教授フィッツジェラルド。彼は200年未来からやってきた時間旅行者でした。先祖でもあるケネディの暗殺を調査しにやってきていたのです。暗殺現場に立ち会った彼は、衝動的にケネディの暗殺を阻止してしまいますが、それが原因で歴史が変わりつつありました…。
 時間改変もの作品です。ケネディの死は避けられないという歴史的事実と、先祖でもあるケネディを助けたいという思いの葛藤が見所です。

『欲望のボタン』
 いさかいの耐えない夫婦のもとに送られてきた謎のボタン。やってきた男が言うには、そのボタンを押せば、誰か見知らぬ人間が死に、その代わりに大金が手に入る、というのです。妻は、考えた末にボタンを押してしまいますが…。
 見知らぬ人間であれば死んでもいいのか? という倫理的なテーマをはらみながらも、自分も他人にとっては「見知らぬ人間」に過ぎないのではないか…という疑問を抱かせる演出もなかなか。リチャード・マシスンの原作とは異なる結末ですが、これはこれで味わい深いですね。

『恐怖のメッセージ』
 とある町で広がっているという伝染病について調べるため、派遣された調査員エドワード。あらゆる人間に感染するというその病は、人の正気を失わせるというのです。病の元が、かって東洋を研究していた男にあることを突き止めたエドワードでしたが…。
 人間の正気を失わせる「恐怖のメッセージ」。メッセージの内容は全く描かれず、ただ狂気が伝染してゆくという、淡々とした演出が恐怖感を高めます。原作は、シドニー・シェルダン。

『赤い雪』
 北極圏で党員が謎の死を遂げたことから、調査に派遣されたKGBのウラノフ。調査の結果、党員の死は殺人であったことを知ります。過酷な村に隠された秘密を知ったウラノフは、自らの理想と義務に向き合うことになりますが…。
 管理された社会、過酷な僻地の生活。理想に破れた男が出会った真実とは…? 社会批判的なテーマもはらんだ本格怪奇譚です。映像的な見せ場も多く、密度の高いエピソードです。

『永遠のエンターティナー』
 トップコメディアンのビリーは、銃を持った売れないコメディアンともみ合いになった結果、撃たれてしまいます。薄暗い場所で気がついたビリーは、見知らぬ男に舞台に立たされることになりますが、そこでは、自分の罪を告白するたびに、観客が拍手喝采するのです…。
 これは試練なのか、それとも罰なのか…? 華やかな舞台が絶望に変わるラストシーンは印象的です。皮肉に満ちたエピソード。

『ライフ・ライブラリー』
 個人図書館で働くことになったエリーは、蔵書が全て人の名前になっていることに気がつきます。本には、生きているあらゆる人間の人生が描かれているのです。本に改ざんを加えると、その人の人生が変わってしまうことを知ったエリーは、他人の人生を変え始めますが…。
 ほころびを繕うために行った改ざんが、さらに事態を悪化させていきます。やっかいな隣人の人生を変えたと思ったら、その影響が別の人間に影響し、と連鎖的に世界が変わってしまうという設定が面白いですね。

『ナイトメア』
 アダム・グラントは被告席で死刑を宣告されますが、これは自分の夢に過ぎないと言い張ります。自分が死ねば、この世界そのものが消えるのだと。彼の言葉を信じる弁護人は、検察官を説得して死刑を中止させようと奔走しますが…。
 旧作シリーズのリメイクです。脚本はチャールズ・ボーモント、原作小説は『トロイメライ』
 舞台となる刑務所の描写がリアルで緊迫感があります。死刑執行時間までに事態を止められるか? といったタイムリミット・サスペンスの要素もあります。旧シリーズ版同様、リメイク版もなかなかの傑作エピソードだと思います。

 さて、次巻より第2シーズンが始まります。69巻の収録エピソードには、シオドア・スタージョンの名作『孤独の円盤』のタイトルも見え、観賞が楽しみです。

テーマ:海外ドラマ - ジャンル:映画

ボタンさまざま  リチャード・マシスン『Button, Button』をめぐって
運命のボタン (ハヤカワ文庫NV) 運命のボタン [DVD] ミステリー・ゾーンDVDコレクション(66) 2016年 3/16 号 [雑誌] 縛り首の丘 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
 DVDマガジン『ミステリーゾーン』66巻に『欲望のボタン』という作品が収録されています。これ、『新トワイライトゾーン』の1エピソードなのですが、原作はリチャード・マシスン『Button, Button』、脚本ローガン・スワンソン(マシスンの別ペンネームですね)、監督はピーター・メダックという、豪華布陣になっています。

 経済的に苦しく、仲も芳しくない夫婦の家に、ある日、透明なカバー付きのボタン装置が送られてきます。家を訪れた男は、そのボタンを押せば大金が手に入るが、その代わり、夫婦の知らない誰かが死ぬと話します。
 夫は詐欺だと信じませんが、妻はそのボタンに執着するようになり、夫婦のいさかいの原因にもなっていきます。そしてとうとう妻はボタンを押してしまうのですが…。
 
 いかにもマシスンらしいエピソードなのですが、原作小説とは結末が異なっています。原作はショート・ショートといっていい長さの作品ですが、結末の男のセリフが強烈で、印象に残る作品になっています。
 結末が異なるとはいえ、どちらも、マシスン作品のテーマである、「アイデンティティーに起因する不安」を扱った作品だということには変わりなく、考えさせるところのある作品ですね。

 原作の初訳(『死を招くボタン・ゲーム』)が1979年なのですが、それ以前に、小鷹信光編訳のマシスン傑作集『激突』(ハヤカワ文庫NV)の解説で、この短篇のあらすじが紹介されており、非常に面白い作品だな、と思ったのを覚えています。
 『死を招くボタン・ゲーム』が訳載されたのが、雑誌『日本版プレイボーイ』であったため、一般には読みにくい状況が続いていました。広く読めるようになるには、映画化に合わせて編まれた短篇集『運命のボタン』(尾之上浩司編 ハヤカワ文庫NV)が出る2010年まで待たねばなりませんでした。
 その際、『運命のボタン』に収録された表題作を初めて読んだのですが、初めて読んだ気が全然しなかったのは、『新トワイライトゾーン』と小鷹さんによる『激突』解説のおかげでしょうか。

 2010年の映画化作品、リチャード・ケリー監督『運命のボタン』では、原作をかなり脚色しているのですが、単なる脚色というよりは、ほとんど別の作品になってしまっている印象です。
 導入部の設定こそ原作と同じですが、その後、ボタンをめぐる謎を調べてゆくというミステリ風の展開になってしまいます。それも普通のミステリならいいのですが、監督が難解な作風で知られる人(代表作は『ドニー・ダーコ』)のため、非常にわかりにくい映画になってしまっています。
 マシスンの原作は、非常にシンプルでメッセージ性の強いものなので、もともと長い映像化には向かないのでしょう。『新トワイライトゾーン』のエピソードでも、一番重要な部分が改変されていたので、原作に近い形の再映像化が望まれます。

 さて、後年、この『運命のボタン』と設定がそっくりな話を読みました。
 それは、19世紀ポルトガルの作家、エッサ・デ・ケイロースの『大官を殺せ』(彌永史郎訳『縛り首の丘』白水Uブックス収録)という作品です。
 手もとのベルを鳴らすと、中国の奥地に住む大官が死に、その莫大な遺産が自分のものとなるという提案を持ちかけられた男の物語です。
 似ているのは導入部だけで、後の展開は全く異なるのですが、設定がじつによく似ています。もともとヨーロッパで19世紀に寓話として広く知られた話らしいのですが、倫理を論ずるために使われた寓話のようです。
 同じような設定を使っても、マシスン作品の方は、きわめて現代的な作品に仕上げており、改めてマシスンの筆力には驚かされますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

魔海の冒険  ウィリアム・ホープ・ホジスン『〈グレン・キャリグ号〉のボート』
4883752267〈グレン・キャリグ号〉のボート (ナイトランド叢書)
ウィリアム・ホープ・ホジスン 野村 芳夫
書苑新社 2016-03-25

by G-Tools

 《ボーダーランド三部作》は、イギリスの怪奇小説家ウィリアム・ホープ・ホジスンの代表作として知られる、怪奇小説の三部作です。すでに刊行されている『幽霊海賊』『異次元を覗く家』に加え、最後の未邦訳作品、『〈グレン・キャリグ号〉のボート』(野村芳夫訳 アトリエサード)が刊行されました。

 海難に遭遇した〈グレン・キャリグ号〉は、救命ボートに助かった人々を乗せ、陸地を目指します。食料も水も尽きようとしたころ、ようやく陸地を見つけた彼らは、そこで人気のない廃船を見つけます。残されたわずかの食料を見つけ喜ぶ一行でしたが、船客であったと思しい女性の書き残しを読んで驚きを隠せません。そこには、人間を襲う謎の存在について書かれていたのです…。

 〈グレン・キャリグ号〉の一行が、ボートで脱出した直後という、緊迫した状況から物語が始まりますが、間をおかずに、彼らを襲う魔物が現れます。
 同じ海での怪奇現象を描く『幽霊海賊』の印象から、最初に遭遇した魔物との戦いが全編を通して展開されるのかと思いきや、序盤でその部分は決着がついてしまいます。
 意外にあっさりとしているな、と思いきや、その後に続く展開がすさまじい。一難去ったと思いきや、次から次へと魔物や化け物が襲ってくるのです。その化け物たちも、バリエーション豊かで、また、様々な手段で襲ってきます。
 それに加え、人々を幻惑する妖しい土地や島、巨大化した魚やカニなど、舞台もおどろおどろしいもので、雰囲気も抜群。
 
 船員の男たちの戦いが、非常に熱いのも魅力的です。常に全力を出さないと、死んでしまうという極限状況が続くのではありますが、互いに信頼し合い、率先して前線に立とうという姿勢は、読んでいて爽快です。主人公の「わたし」を含め、ほとんどの船員たちが実に男らしく描かれています。とくに「わたし」と友情を深める水夫長は、冷静かつ現実的で、義に厚いという、理想の海の男を体現したキャラクターになっています。

 生き残るために、いろいろ手段を考えたり、道具を作ったりと、サバイバル部分の面白さもあります。とにかく、序盤からノンストップで、抜群に面白い怪奇冒険小説です。後半には主人公をめぐる、ちょっとしたロマンスもあり、ホジスンのサービス精神がいかんなく発揮されています。ホジスン作品の中でも、エンタテインメント度では最高の作品なんじゃないでしょうか。

 これで、《ボーダーランド三部作》が出揃ったわけですが、三部作それぞれが独自の特徴を持った作品になっているのが素晴らしいですね。
 シンプルな骨格のモダンホラーというべき『幽霊海賊』、異次元SFの傑作『異次元を覗く家』、そしてスリリングな怪奇冒険小説、『〈グレン・キャリグ号〉のボート』。すでに古典といっていい年代の作品ながら、どれもバラエティに富んでいて、現在読んでも楽しめる怪奇小説です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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