最近読んだ本

4594073859ジグソーマン (扶桑社ミステリー)
ゴード・ロロ 高里 ひろ
扶桑社 2015-12-02

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ゴード・ロロ『ジグソーマン』(高里ひろ訳 扶桑社ミステリー)

 妻子を失って以来、酒におぼれ、路上生活者となっていたマイケル。自殺を試みようとした彼の前に一人の男が現れ、提案を持ちかけます。右腕を一本200万ドルで売らないか?、と。
 富豪でもある医師が、研究のために必要だという話を信じ、男と一緒に、医師が住む館を訪れたマイケルを待っていたものとは…。
 猟奇的なホラーサスペンスです。タイトルから想像がつくように、スプラッター度の高い作品なのですが、意外に直接的な描写は少ないです。悲惨な状況に陥った主人公が、その状況から脱出できるのかという、サスペンス的な興味で読ませます。
 主人公がだんだんと体を傷つけられていくのですが、どこまで体を失わずに脱出できるかという、究極のタイムリミット・サスペンスとして読める作品。敵方のマッドサイエンティストや用心棒のキャラも立っています。



448801053910の奇妙な話
ミック・ジャクソン デイヴィッド・ロバーツ
東京創元社 2016-02-13

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ミック・ジャクソン『10の奇妙な話』(田内志文訳 東京創元社)

 《奇妙な味》の短篇を集めた短篇集です。どれも読みやすく、よく出来た短篇が並んでいます。
 初老の孤独な姉妹が、海で溺れた青年を助けたことから起こる出来事を描く『ピアース姉妹』、眠り続ける少年と周りの人間たちを描く『眠れる少年』、引退した初老の男が地下室で舟を作り始めるという『地下をゆく舟』、気まぐれな金持ち夫婦に「隠者」として雇われたものの、やがて心を病んでしまう男を描いた『隠者求む』などが面白いですね。
 蝶の標本を見た少年が、蝶たちを修復しようと考える『蝶の修理屋』、お気に入りのボタンを飲み込んでしまった馬から、ボタンを取り返そうと考える少女を描いた『ボタン泥棒』などは、ヤングアダルト色が強い感じです。



4062199513楽しい夜
岸本 佐知子
講談社 2016-02-25

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岸本佐知子編訳 『楽しい夜』 (講談社)

 岸本さんの今までのアンソロジーとは異なり、テーマ不定で集められたアンソロジーなので、バラエティに富んでいます。実験的なもの、文学味の強いものが多い印象なので、好き嫌いは分かれるかもしれません。
 突然、ボブ・ディランを連れてきた妹と、出兵しようとする兄を描く、奇妙な家族小説、マリー=ヘレン・ベルティーノ『ノース・オブ』、有名な俳優と、飛行機の中で隣り合った女性を描く、ミランダ・ジュライ『ロイ・スパイヴァ』、伝染病の犬に娘を殺された家族たちが、周りの人間たちを扇動するようになるという、ジョージ・ソーンダーズ『赤いリボン』など。
 とくに面白かったのは、アリッサ・ナッティングの2篇。人間の体内に他の動物を寄生させることになった世界を舞台に、骨の中にアリを飼うことになった女性を描く『アリの巣』、髪を吸うと記憶を読み取ることができる青年を描く『亡骸スモーカー』。どちらもヘンテコな発想の面白い作品でした。



4047308048異世界の色彩 ラヴクラフト傑作集 (ビームコミックス)
田辺 剛
KADOKAWA/エンターブレイン 2015-09-26

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4047308382闇に這う者 ラヴクラフト傑作集 (ビームコミックス)
田辺 剛
KADOKAWA/エンターブレイン 2016-03-25

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田辺剛『異世界の色彩 ラヴクラフト傑作集』(エンターブレイン)
田辺剛『闇に這う者 ラヴクラフト傑作集』(エンターブレイン)

 田辺剛は、初期にも『アウトサイダー』の漫画化作品などがありますが、このところ、集中的にラヴクラフト作品のコミカライズに取り組んでいます。黒の多い画面構成や繊細な描線は、ラヴクラフト作品によく合っていると思います。
 『異世界の色彩』は、正体不明の隕石が落下したあとに、農夫とその家族が変質していく過程をじっくり描いた作品。非常に完成度が高いです。
 『闇に這う者』の方は、『ダゴン』『闇に這う者』を収録しています。『ダゴン』の怪物、『闇に這う者』の教会の描写など、ラヴクラフト作品の香気を体現した作品になっています。
 ラヴクラフト作品に限らず、他の怪奇小説の漫画化作品も読んでみたい作家ですね。



406388113Xカナリアたちの舟 (アフタヌーンKC)
高松 美咲
講談社 2016-01-22

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高松美咲『カナリアたちの舟』(講談社アフタヌーンKC)

 高校生の宇高ユリは、ある日空に現れた巨大な飛行物体を目撃します。気を失ったユリが意識を取り戻したのは、異様な世界でした。家族や周りの人間たちも全くいない世界で唯一出会ったのは、北沢千宙という男でした。冷めた世界観を持つ北沢に対し、懸命に生きようとするユリでしたが…。
 ブライアン・W・オールディス『地球の長い午後』を思わせる、植物的な世界が舞台です。異星人にさらわれたという設定なのですが、基本的に異星人は登場せず、登場人物はほぼ二人きりです。
 生き残った二人の男女が、どうサバイバルし、どう生きていくのかを描いたSF作品になっています。考え方の違う男女の、感情のもつれやぶつかりあいを描いた前半も良いですが、新たな真実が明かされる後半には、SF的な設定が導入され、思いもよらぬ結末が待っています。
 詩的かつ静謐な雰囲気を持ったSF漫画です。

4月の気になる新刊と3月の新刊補遺
3月25日刊 ウィリアム・ホープ・ホジスン『〈グレン・キャリグ号〉 のボート』(アトリエサード 予価2268円)
3月30日刊 ディーノ・ブッツァーティ『絵物語』(東宣出版 予価4320円)
3月31日刊 『MOE特別編集 エドワード・ゴーリーの優雅な秘密』 (白泉社ムック 予価 1296円)
4月4日刊 R・A・ラファティ『地球礁』(河出文庫 予価821円)
4月6日刊 ヘレン・マクロイ『二人のウィリング』(ちくま文庫 886円)
4月6日刊 レイ・ブラッドベリ『十月の旅人』(ハヤカワ文庫SF 予価864円)
4月6日刊 ミケル・サンティアゴ『トレモア海岸最後の夜』(ハヤカワ文庫NV 予価864円)
4月12日刊 アレックス・ジョンソン『世界の不思議な図書館』(創元社 予価3456円)
4月22日刊 若島正編『ベスト・ストーリーズⅡ』(早川書房 予価2700円)
4月25日刊 エドゥアール・デュジャルダン『妄想と強迫 フランス世紀末短編集』(仮題)(彩流社 予価2160円)
4月26日刊 『エドワード・ゴーリーの優雅な秘密』(河出書房新社 予価2160円)
4月28日刊 M・R・ケアリー『パンドラの少女』(東京創元社 予価2160円)
4月28日刊 ウルズラ・ポツナンスキ『古城ゲーム』(創元推理文庫 予価1404円)
4月28日刊 トマス・ハーディ『呪われた腕 ハーディ傑作選』(新潮文庫 予価594円)


 ウィリアム・ホープ・ホジスン『〈グレン・キャリグ号〉 のボート』は、ホジスンの代表作である《ボーダーランド三部作》の最後の未訳作品。それに伴い、《ナイトランド叢書》第一期も完結です。
 
 ディーノ・ブッツァーティ『絵物語』は、ブッツァーティの絵物語を集めた本のようですね。内容は、掌編「身分証明書」、絵とテクストで物語る「絵物語」54編、エッセイ「ある誤解」、解説・年譜、となっています。
 昨年刊行された『モレル谷の奇蹟』でも、ブッツァーティのイラストレーションは非常に魅力だったので、これは楽しみな作品集です。

 レイ・ブラッドベリ『十月の旅人』は、ブラッドベリの初期作品から選んだ日本オリジナル短篇集ですね。もともと大和書房から出ていた単行本が、新潮文庫で復刊されましたが、それも絶版になって久しかったものです。
 『十月のゲーム』とか『夢魔』とか、魅力的な作品が多く収録されており、ブラッドベリ作品集の中では勧めたいものの一つです。

 『エドワード・ゴーリーの優雅な秘密』は、ゴーリー展の公式図録になる画集。一方、白泉社からは、ムックが刊行です。こちらは、以前に雑誌『MOE』で特集した号を増補したものでしょうか。

 トマス・ハーディ『呪われた腕 ハーディ傑作選』は、以前に出ていた『ハーディ短篇集』の復刊でしょうか。それとも新訳? どちらにしても、ハーディの短篇は、物語的に面白いものが多いのでオススメです。

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堂々巡り  《ループもの》作品概観3
 前2回で取り上げ切れなかった作品を、まとめて紹介しておきたいと思います。


415208682313のショック (異色作家短篇集)
リチャード マシスン Richard Matheson
早川書房 2005-11

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リチャード・マシスン『死の宇宙船』(吉田誠一訳『13のショック』早川書房収録)
 移住可能な惑星を探して、宇宙飛行を続けている3人の飛行士たちは、ある星で何か光るものを見つけます。そこにあったのは、大破した宇宙船でした。船の中に3人の乗組員の死体を発見しますが、その顔は自分たち3人とそっくりでした…。
 外惑星を舞台にしたSFホラー作品。登場人物たちがいろいろ仮説を立てますが、何の現象が起こっているかが全く説明されないため、不条理感の強い作品になっています。ドラマシリーズ『ミステリー・ゾーン』でも映像化されている名作短篇です。


4488501079怪奇小説傑作集〈2〉英米編2 (創元推理文庫)
ジョン コリアー 中村 能三
東京創元社 2006-03

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L・E・スミス『船を見ぬ島』(宇野利泰訳 平井呈一編『怪奇小説傑作集2』創元推理文庫収録)
 難破した船員の男は、島影を見つけ、そこを目指して泳ぎ始めます。ただ一人生き残った男が島で出会ったのは、同じように難破した人間たちでした。3人の男と1人の女は、それぞれ100年以上前からこの島で生活しており、この島で暮らす限り、歳も取らず死ぬこともできないと話します。しかも、島から出ようとしても必ず戻ってきてしまう。話を信じない男は脱出を考えますが…。
 永遠に出られない、呪われた島をめぐる怪奇小説です。主人公の男が聞く内容は、ほぼ伝聞で、描写もあっさりしているところが、逆に想像力をかき立てます。


4044743010サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY (角川スニーカー文庫)
河野 裕 椎名 優
角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-05-30

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河野裕『サクラダリセット』(角川スニーカー文庫)
 その街、咲良田では、住む人間それぞれに超能力が発現します。記憶したことを忘れないという能力を持つ主人公の少年、浅井ケイは、世界を三日分、元に戻す能力を持つ少女、春埼美空とともに、「奉仕クラブ」の一員として、様々な事件を解決していきます…。
 主人公のみが「リセット」されても、記憶を保持しているという設定です。感情的に問題のある少女の人間的な成長を「リセット」することにためらいを覚えるなど、情感が細やかに描かれます。


4336035970魔法の書 (文学の冒険シリーズ)
エンリケ アンデルソン=インベル Enrique Anderson Imbert
国書刊行会 1994-12

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エンリケ・アンデルソン=インベル『魔法の書』(鼓直/西川喬訳『魔法の書』国書刊行会収録)
 大学教授が古本屋で見つけた一冊の古本。それは無意味なアルファベットの羅列に見えますが、集中して始めから読んでいくと、内容を認識できるのです。ただし、少しでも気をそらすと、意味をとれなくなってしまいます。本を読破しようと考える教授でしたが…。
 永遠に終わらない本をめぐる、哲学的な幻想小説です。


4167900467もっと厭な物語 (文春文庫)
文藝春秋
文藝春秋 2014-02-07

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アルフレッド・ノイズ『深夜特急』(高見沢芳男訳 文藝春秋編『もっと厭な物語』文春文庫収録)
 それはバックラム装丁の痛んだ古本。タイトルは「深夜特急」。少年は、幼いころに見つけたその本に引き込まれますが、あるページの挿絵になぜか恐怖を覚え、それ以上読み進むことができません。成人した少年は、再びその本に出会い、幼い頃読めなかった続きを読もうとしますが…。
 掌編ながら、鮮やかさの際立つ作品です。


4150312087さよならアリアドネ (ハヤカワ文庫JA)
宮地 昌幸 坂本 ヒメミ
早川書房 2015-10-21

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宮地昌幸『さよならアリアドネ』(ハヤカワ文庫JA)
 妻と幸せな生活を送るアニメーター服部政志のもとに、ある日、「アリアドネ邦子」を名乗る中年女性が現れます。彼女は、政志が15年後に妻に見捨てられ、不幸になると話します。ただし、15年後のある日を繰り返せば、破滅の回避ができる可能性があるというのです。そのリミットは72回。しかし、壊れきった妻との仲や友人関係などを修復するのは容易ではありません…。
 試行錯誤するタイム・トラベルもの。オーソドックスといえばオーソドックスなのですが、なかなか読ませます。ループを繰り返すのは1日ですが、ささいなきっかけや気付きが、人生を変えていくという、地に足のついたテーマは好感が持てます。後半は、邦子の話にシフトしていくところもユニークです。


4167712016都市伝説セピア (文春文庫)
朱川 湊人
文藝春秋 2006-04

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朱川湊人『昨日公園』『都市伝説セピア』文春文庫収録)
 仲の良い友人と公園で遊んでいた少年は、別れた後に友人が事故で亡くなったことを知らされます。翌日公園を訪れた少年は、友人がそこにいることに驚くと同時に、時間が昨日に巻き戻っていることに気がつきます。
 事故に気をつけるように友人に念を押しますが、友人はまた別の事故で亡くなってしまいます。何度、過去に戻っても友人の死を防げないことに少年は絶望しますが…。
 情感のあふれる切ない作品です。主人公の過去の回想という形で語られるのですが、同じような現象が、現在にも起こっているのではないかと匂わせる結末も見事ですね。


4086800098螺旋時空のラビリンス (集英社オレンジ文庫)
辻村 七子 清原 紘
集英社 2015-02-20

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辻村七子『螺旋時空のラビリンス』(集英社オレンジ文庫)
 時間遡行機「アリスの鏡」によって、過去へのタイムトラベルが可能になった近未来。極端な貧富の差がある世界において、過去の美術品を盗み出し、資産家に売るという商売が横行していました。泥棒のルフは、商品を持ち出し19世紀のパリに逃げ込んだという幼馴染の女性フォースを連れ戻すという依頼を受けます。彼女は「椿姫」マリーになりすましているというのです。しかも肺病を患った状態で。
 帰ることを拒否するフォースの態度に困惑しているうちに、「アリスの鏡」の不調により、装置を通るたびに、初めにその場所を訪れた時点にループしてしまうことに気付いたルフでしたが…。
 同じ時間を繰り返すたびに、過去の自分が増えていってしまう…というユニークな設定が使われています。自分が勝手なことをすると、「次の」自分の首を絞めてしまうという制約があったりするのが面白いところです。


4122033160潤一郎ラビリンス〈8〉犯罪小説集 (中公文庫)
谷崎 潤一郎 千葉 俊二
中央公論社 1998-12-18

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谷崎潤一郎『呪われた戯曲』(千葉俊二編『潤一郎ラビリンス8』中公文庫ほか収録)
 悪魔的な男は、愛人と一緒になるために妻を殺そうと考えます。男は、妻を殺す計画を戯曲の形にして作成し、それを妻に読んで聞かせようとしますが…。
 物語自体が何重もの入れ子構造になるという、目の回るような作品です。


4882930676鬼火 (ふしぎ文学館)
横溝 正史
出版芸術社 1993-10

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横溝正史『蔵の中』『鬼火』出版芸術社ほか収録)
 妻を亡くした雑誌編集者は、ある日、美少年が持ち込んできたという原稿を読み始めます。亡き姉への思慕を語ったその内容は、やがて編集者自身の殺人の疑惑を指摘し始めます。原稿に書かれた場所へ現れた少年は、原稿の後編を取り出しますが…。
 作中に登場する原稿の中にさらに原稿が登場するという、虚構と現実とがごっちゃになった怪奇探偵小説です。上記の『呪われた戯曲』に影響を受けたと言われていますが、こちらの方がエンターテインメントとしては面白いですね。


4041851033火の鳥 (3) (角川文庫)
手塚 治虫
角川書店 1992-12

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手塚治虫『火の鳥 異形篇』(角川文庫ほか)
 左近介は、横暴な父に男として育てられた女性でした。ある日、父の病気の治療に訪れた八百比丘尼を見た左近介は、自らが年を取ったような容貌の尼に驚きます。父を憎んでいた左近介は、寺を訪れ尼を殺害しますが、その直後から、なぜか寺から出ることができなくなってしまいます…。
 『火の鳥』シリーズ自体が、円環構造をテーマとした作品ですが、この《異形編》は、とくにループものとしての要素の強い作品です。


4091910173半神 (小学館文庫)
萩尾 望都
小学館 1996-08

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萩尾望都『金曜の夜の集会』『半神』小学館文庫収録)
 アメリカの平和な町で幸せな生活を送る少年は、ある夜、自分の両親を含めた大人たちが集会を行っていることを聞きます。ひそかにその場所を訪れた少年は、大人たちが話す内容に驚きますが…。
 未来のない平和や幸せに意味があるのか。哲学的なテーマもはらんだ傑作短篇です。


488570412XWho!超幻想SF傑作集 (マイ コミックス)
佐々木淳子
東京三世社 1981

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佐々木淳子『リディアの住む時に』『Who―超幻想SF傑作集』東京三世社収録)
 山の中で女性のみで静かに暮らす館を訪れた青年は、年齢の離れた女性たちが互いにそっくりなのに驚きを隠せません。皆が好意的に接してくる中で、ただ一人シーラだけは、青年に冷たく当たりますが…。
 時間に閉じ込められた女性を描いています。一人の女性の生涯が一つの館の中に集約されてしまうという、SF的アイディアの光る作品です。


4063707660永遠の夜に向かって…(1) (講談社漫画文庫)
佐伯 かよの
講談社 2010-11-12

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佐伯かよの『永遠の夜に向かって…』(講談社漫画文庫)
 その日は、高校の一学期の終業式でした。教師の有田は、周りの人間たちが、1日の出来事を何度も繰り返していることに気がつきます。しかもその繰り返しは数時間であり、最終的には外からの巨大な光でリセットされてしまうのです。学校の外に出ることはできず、なぜか生徒の数は段々と減っていきますが…。
 ループの秘密については、早々と明かされてしまうのですが、作品自体はとても魅力的です。毎回それぞれの教師や生徒にスポットが当てられ、その人間性や思いについて描かれるという、ヒューマン・ストーリーになっています。全体を通しての謎も、結末で上手く明かされており、コンパクトにまとまった佳作だと思います。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

覆水盆に返る  《ループもの》作品概観2
 《ループもの》といえば、時間的なループをまず考えますが、空間的なループ作品も存在します。登場人物によって、空間的な繰り返しが体験される作品、とでもいいましょうか。先日紹介した、映画『パラドクス』も、そのタイプの作品でした。
 今回は、空間的な《ループもの》を取り上げていきたいと思います。


4336045690アジアの岸辺 (未来の文学)
トマス・M.ディッシュ 若島 正 浅倉 久志
国書刊行会 2004-12

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トマス・M・ディッシュ『降りる』(若島正、浅倉久志他訳『アジアの岸辺』国書刊行会収録)
 デパートで買い物をした主人公は、下りのエスカレータに乗りますが、いつまで経っても一階にたどり着きません。意地になった彼はひたすら降り続けますが、エスカレーターは延々と続いているのです…。
 悪夢のような不条理作品です。空間的ループといえば、まず挙げたい作品ですね。


4652005148おとうさんがいっぱい (新・名作の愛蔵版)
三田村 信行 佐々木 マキ
理論社 2003-02

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三田村信行『ぼくは五階で』『おとうさんがいっぱい』フォア文庫収録)
 少年が、遊びに出かけようと、ドアを開けて外に出ますが、気がつくと、そこはなんと同じ部屋の中なのです。何度くり返しても外には出られません。ベランダを越えて、となりの部屋に行っても、そこはまた同じ部屋でした…。
 永久に外に出られない少年を描く作品。寓話としても、気味の悪い作品です。


4003279018悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)
コルタサル 木村 栄一
岩波書店 1992-07-16

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フリオ・コルタサル『続いている公園』(木村栄一訳『悪魔の涎・追い求める男』岩波文庫収録)
 ミステリーを読みふけっている男は、いつの間にか本の中の被害者となってしまいます…。
 現実と虚構が交錯する、超絶技巧的な小品です。


yosen.jpg
呉均『陽羨鵝籠』 (井波律子訳 『ミステリマガジン1991年8月号』早川書房収録)
 ある男が山の中を歩いていると、一人の書生に出会います。書生は、男に食事をご馳走するといいますが、見ていると、口から食物を盛った盤を吐き出します。やがて書生は、一人の美しい女を吐き出しますが、書生が酔って眠ると、女は自分の口から、恋人の男を吐き出します…。
 口の中から出てきた人間の口の中から、さらに人間が出てくるという、目の回るような作りの物語です。


4150119899輪廻の蛇 (ハヤカワ文庫SF)
ロバート・A. ハインライン Robert A. Heinlein
早川書房 2015-01-23

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ロバート・A・ハインライン『歪んだ家』(矢野徹他訳『輪廻の蛇』ハヤカワ文庫SF収録)
 その家は、三次元かつ四次元的に建てられた家でした。地震のせいで四次元空間がたわんでしまったために、その家からは人が出られなくなってしまいます…。
 脱出の顛末をコミカルに描くSF作品です。


カットナー

ヘンリー・カットナー『大ちがい』(小笠原豊樹訳『ボロゴーヴはミムジィ』ハヤカワSFシリーズ収録)
 精神科医にかかっている男は、自分の今の状態は夢を見ており、本当の自分は別の世界にいると話します。一方、別の世界で、異様な姿をした生物が精神科医に、自分は夢を見ているのだと話していました。二つの世界の精神科医は、患者の妄想を正すために、それぞれ強硬な治療を始めますが…。
 「ループ」というのとは、ちょっと違いますが、別世界にいる同一人物が「行ったり来たり」するという、奇妙な味のファンタジーです。


ヴィスコチル
そうはいっても飛ぶのはやさしい (文学の冒険)
イヴァン・ヴィスコチル カリンティ・フリジェシュ 千野 栄一
国書刊行会 1992-07

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イヴァン・ヴィスコチル『ズビンダおじさんの<冬外套>』(千野栄一訳『そうはいっても飛ぶのはやさしい』国書刊行会収録)
 女好きで人の良いズビンダおじさんが失踪し、残ったのは、彼が借金のかたに置いていった冬外套のみでした。女友達とのデートの日に、コートを汚してしまった「ぼく」は、ズビンダおじさんの冬外套を着ていくことになります。切符を入れたはずのポケットから、切符が見つからず驚いた「ぼく」は、ポケットを探っているうちに、女友達ともどもポケットの中に落ちてしまいます…。
 ポケットの中に異世界があり、現実世界とつながっているというファンタジー。外套を着たまま、外套の中に落ちるという、目の回るような作りが楽しいです。


4092510063第四次元の小説―幻想数学短編集 (地球人ライブラリー)
R・A ハインライン 三浦 朱門
小学館 1994-08

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A・J・ドイッチュ『メビウスという名の地下鉄』(三浦朱門訳 クリフトン・ファディマン編『第四次元の小説』収録(小学館の新版もあり))
 ボストンの地下鉄で、夕方の混雑時にに86号列車が消失してしまいます。列車はどこに消えたのか、ハーバード大学の数学者は調査を開始しますが…。
 「メビウスの輪」を作品に仕立て上げた、数学的SF作品です。
 

433603060X壜の中の世界 (文学の冒険シリーズ)
クルト クーゼンベルク Kurt Kusenberg
国書刊行会 1991-10

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クルト・クーゼンベルク『壜(ラ・ボテリヤ)』(前川道介他訳『壜の中の世界』国書刊行会収録)
 老船長が空にした壜の中のボトルシップの話が、いつの間にか南国のスクーナー船の話になってしまう…。
 ストーリーがループするという、技巧的な名品。



4894565021男を探せ (ハルキ文庫)
小松 左京
角川春樹事務所 1999-03

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小松左京『長い部屋』『男を探せ』ハルキ文庫ほか収録)
 大杉探偵は、ボディガードを依頼された天才科学者の家を訪れますが、直後に主人の死体を発見します。部屋の向こう側に犯人らしき姿を認めた探偵は、拳銃を発射しますが、同時に自分も弾丸を打ち込まれ、意識を失ってしまいます…。
 わざわざ見取り図まで掲載されるという、本格密室ミステリ《風》作品。真相には唖然とさせられます。読者をおちょくるユーモアSF作品です。


コミックからもいくつか。


B017LG9JRK百万畳ラビリンス(上) (ヤングキングコミックス)
たかみち
少年画報社 2015-08-10

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たかみち『百万畳ラビリンス』(少年画報社ヤングキングコミックス)
 ゲーム会社でバイトする二人の若い女性が、突如、謎の巨大建築物の内部にいることに気がつきます。家具も揃った、妙に生活感に満ちた部屋に違和感を抱く二人ですが、部屋の扉を開けても、そこにはまた別の部屋が続いているのです。脱出の方策を探る二人でしたが…。
 《迷宮ループもの》の決定版ともいうべきコミック作品。この手のテーマに興味があるなら、読むべき作品でしょう。


パラノイア
パラノイア・トラップ
高山和雅
青林堂 1986-10

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高山和雅『楽観』『パラノイア・トラップ』青林堂収録)
 全裸で目覚めた5人の男女。彼らは一人として記憶がありません。自分たちがいた建物を探っていくと、そこは建物ではなく、トンネル内を走る巨大な車だったことがわかります。目的も理由もわからないが、走っているならばいずれ目的地に着くはずだと楽観しますが、男の一人は、車内にあった装置から、自分たちに対して行われている計画を推測し始めます…。
 閉鎖的な環境から始まる、不条理SFスリラーというべき作品。急展開する結末が、じつに鮮やかです。


402269064X瓜子姫の夜・シンデレラの朝 (朝日コミック文庫)
諸星大二郎
朝日新聞出版 2016-01-07

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諸星大二郎『見るなの座敷』『瓜子姫の夜・シンデレラの朝』朝日コミック文庫収録)
 田も持たない貧しい百姓の男のもとに、旅の女が居つき妻になります。よく気のつく妻のおかげで、生きがいを感じ始めた男でしたが、妻が何かをしているらしい納戸が気になり、中を覗こうとしますが…。
 民話をモチーフにしていますが、時間・空間ともに似たシチュエーションが繰り返されるという、構成の見事な作品です。


488379153X結晶星
たむら しげる
青林工芸舎 2004-03

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たむらしげる『青いビー玉』『スモール・プラネット』『結晶星』青林工芸舎収録)
 博士はビー玉を覗き込みながら、その中の世界に思いを馳せます。家の外に出た博士は自分の体がだんだんと大きくなっていくのに気がつきます。やがて地球よりも大きくなった博士は、宇宙の果ての壁に辿り着きますが、そこから見えたものとは…。
 宇宙自体がループしているという、壮大かつファンタスティックな一篇です。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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