3月の気になる新刊と『ナイトランド・クォータリーvol.04』の感想など
3月4日刊 マイクル・コーニイ『ブロントメク!』(河出文庫 予価972円)
3月9日刊 コードウェイナー・スミス『スキャナーに生きがいはない 人類補完機構全短篇1』(ハヤカワ文庫SF 予価1296円)
3月9日刊 バリントン・J・ベイリー『カエアンの聖衣 新訳版』(ハヤカワ文庫SF 予価1080円)
3月12日刊 ショーン・ステュアート『モッキンバードの娘たち』(東京創元社 予価2052円)
3月12日刊 ウィリアム・アイリッシュ『暁の死線 新装版』(創元推理文庫 予価1188円)
3月25日刊 オスカル・ド・ムリエル『悪魔のソナタ』(角川文庫 予価1339円)
3月26日刊 ワレリイ・ブリューソフ 『南十字星共和国』(白水Uブックス 予価1620円)
3月刊 イーデン・フィルポッツ『極悪人の肖像』(論創社 予価2376円)

 コードウェイナー・スミス『スキャナーに生きがいはない 人類補完機構全短篇1』は、《人類補完機構》シリーズの短篇を集成する全3巻の第1巻です。
 スミスの作品は、異様な設定や壮大な世界観を持っていて、一見とっつきにくそうなのですが、じっくり読んでみると、物語の骨格はロマンティックなおとぎ話だったりするというアンバランスさが魅力です。
 現役本で手に入るのは、『ノーストリリア』のみでしょうか。代表作の『鼠と竜のゲーム』でさえ絶版とは。それだけにこの短篇集成の刊行は、嬉しい知らせですね。
 
 ショーン・ステュアート『モッキンバードの娘たち』は、「母が亡くなり、解放された娘のわたし。が、彼女が遺した〝六人の奇妙な存在が降りてくる能力〟は、わたしの人生を思わぬ方向に導いて──母娘と家族の絆を深く伝える物語。」
 ファンタジー的な作品だと思いますが、面白そうですね。

 ウィリアム・アイリッシュ『暁の死線 新装版』は、タイムリミット・サスペンスの新装版。原型となった短篇『バスで帰ろう』ともども、名作だと思いますので、ぜひ。
 そういえば、創元推理文庫から出ている《アイリッシュ短篇集》は、全6巻のうち、『ニューヨーク・ブルース』以外は品切れみたいですね。門野集さんが編纂した《コーネル・ウールリッチ傑作短篇集》シリーズ(白亜書房)も絶版みたいですし。アイリッシュ(ウールリッチ)は、短篇に本領があると思うので、ここらでぜひ入手しやすい短篇集を出してもらいたいものです。

 3月でいちばん気になる新刊は、ワレリイ・ブリューソフ 『南十字星共和国』ですね。20世紀初頭のロシアの作家による幻想小説集です。このところの白水Uブックスは、じつに渋いところを刊行してきますね。

 イーデン・フィルポッツ『極悪人の肖像』は、倒叙探偵小説の名作として知られる作品。個人的にフィルポッツって好きなんですよね。もともとこの人の作品って、ミステリというよりは、文学味のあるサスペンスといった感じが強いと思うので、今読んでも、あまり古びた感じがしません。



4883752232ナイトランド・クォータリーvol.04 異邦・異境・異界
アトリエサード
アトリエサード 2016-02-25

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『ナイトランド・クォータリーvol.04』が刊行され、さっそく目を通しました。特集は《異邦・異境・異界》、異界に遭遇する物語を集めています。
 掲載作品は粒ぞろいですが、とくに良かったのは、ジョー・R・ランズデール『月あかりの草原』とシェーン・ジライヤ・カミングズ『プラハの歌声』でしょうか。
 『月あかりの草原』は、列車で一夜を明かすことになった男が、深夜の草原で、あるものに出会う…という作品。これは雰囲気が素晴らしい作品です。
 『プラハの歌声』は、次のような話。プラハで、男はなぜか自分を惹きつける歌を歌い続ける娘に出会います。その歌はなんという歌なのか訊ねる男に対し、娘の姉は教えられないと突っぱねます。歌を邪魔しようとする若者たちが現れるのに及び、歌うのを邪魔されると恐ろしいことが起こると姉は話しますが…。
 ボルヘスやダンセイニを思わせる幻想小説です。

 ホジスン『海の悪魔』は、海を舞台にした怪奇小説。語り手の船を追いかけてくる船に乗っていたものとは…。怪物が登場してからの物語の推進力は、この作者ならではでしょうか。
 ホワイトヘッド『チャドボーン奇談』は、ホワイトヘッドお得意の魔術をテーマにした作品。スティーヴ・ラスニック・テム『黒い鳥のいる麦畑』は、かって姉が失踪した草原を訪れた弟と母を描く、寂寥感あふれる作品です。
 サイモン・ストランザス『凍土の石柱』は、北極に調査に訪れた男が、そこで出会った石柱をめぐる奇談。《クトゥルーもの》の一種でしょうか。
 あとは、ラヴクラフトの音楽怪談『エーリッヒ・ツァンの楽曲』の新訳など。

 新連載として、安田均さんのエッセイ『STRANGE STORIES 奇妙な味の古典を求めて』が始まりました。我が国で未訳や未紹介の《奇妙な味》の作品を紹介していく、というコンセプトだそうで、これは楽しみです。第1回として、J・D・ベリスフォードが取り上げられています。

 新創刊後、ブックガイド的なページが増えていますが、今回の特集ガイドは充実していて、良かったと思います。「異邦と異境の小説ガイド」として、コッパード、バーカー、ホジスン、フィニィ、デュ・モーリア、筒井康隆など、日本と海外織り交ぜて作品が紹介されています。

 この号で、正式に《ナイトランド叢書》の第二期ラインナップが紹介されています。 改めて、並べてみましょう。

クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国』安田均編
M・P・シール『紫の雲』南條竹則訳
マンリー・ウェイド・ウェルマン『ジョン・サンストーンの事件簿』尾之上浩司訳
E・F・ベンスン『塔の中の部屋』中野善夫訳
オーガスト・ダーレス『ミスター・ジョージ』中川聖訳
アルジャーノン・ブラックウッド『ウェンディゴ』夏来健次訳

 長編は『紫の雲』のみ。『ジョン・サンストーンの事件簿』は連作短篇集。スミス、ベンスン、ダーレスは短篇集、ブラックウッドは中篇集になるようです。短篇集・傑作集中心になっており、短篇派としては嬉しいところです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

行ったり来たり  《ループもの》作品概観1
 SFのサブジャンルのなかに、《ループもの》があります。《ループもの》とは、作中で、登場人物が、ある一定の時間を何度も繰り返すという設定の物語です。《タイムトラベルもの》のバリエーションといっていいかと思います。
 《タイムトラベルもの》自体、非常に人気のあるジャンルなのですが、そのバリエーションの中でも、《ループもの》は、ことに魅力があります。昔から、短篇のテーマとしては存在しましたが、世間的にメジャーになったのは、ケン・グリムウッド『リプレイ』が刊行されてからでしょうか。
 小説作品と映画作品に分けて、紹介していきたいと思います。

●小説作品


4102325018リプレイ (新潮文庫)
杉山 高之 ケン・グリムウッド
新潮社 1990-07-27

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ケン・グリムウッド『リプレイ』(杉山高之訳 新潮文庫)
 うだつの上がらない中年男性が心臓発作で突然死しますが、気がつくと若い頃の時代に戻って、人生の再スタートをする、という物語です。一度目の人生の記憶を使って、二度目の人生を成功させますが、一度目と同じ年齢で死を迎え、再度若い時代に戻ってしまいます…。
 多分に願望充足的な要素の多い物語で、「リプレイ」現象そのものよりも、人生のやり直しという部分に重点が置かれています。


4062638606七回死んだ男 (講談社文庫)
西澤 保彦
講談社 1998-10-07

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西澤保彦『七回死んだ男』(講談社文庫)
 ランダムに同じ1日が9日間繰り返される体質を持っている高校生が主人公です。ループに入る最初の1日は完全にランダムで、自分で選べませんが、最終日の行動が実際の現実として確定されるため、そこまでの日数を上手く使って最善の結果を出そうとする、という設定のパズル・ストーリー。


4094511555クイックセーブ&ロード (ガガガ文庫)
鮎川 歩 染谷
小学館 2009-08-18

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鮎川歩『クイックセーブ&ロード』(ガガガ文庫)
 頭の中で「セーブポイント」を作ると、死んでもその時点に戻れる…という、ゲーム的な発想の物語です。その設定ゆえ、物事に失敗すると、毎回自殺をして元に戻るという、不謹慎な話ではあります。かなりご都合主義的な話に見えますが、後半はその設定を上手く掘り下げていて、なかなか面白い作品ですね。


415071956X特別料理 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
スタンリイ エリン Stanley Ellin 田中 融二
早川書房 2015-05-08

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スタンリイ・エリン『パーティの夜』(田中融二訳『特別料理』早川書房収録)
 美貌だが退屈な妻、そして同じ芝居の繰り返し。才能を持ちながらも、同じことの繰り返しに耐えられない気質の役者の男は、愛人とともに、パーティから逃げ出そうとしますが…。
 主人公の人生に対する姿勢が、パーティの席に現れた精神科医によって代弁されますが、それが作品そのものを象徴しています。繰り返しを嫌悪する男が、まさにその繰り返しをしているという、皮肉かつ技巧的な作品です。


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魔女も恋をする―海外ロマンチックSF傑作選1 (1980年) (集英社文庫―コバルトシリーズ)
風見 潤
集英社 1980-01

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J・T・マッキントッシュ『第十時ラウンド』(風見潤編『魔女も恋をする』コバルト文庫所収)
 失った恋人を取り戻すために人生を何度もやり直す主人公が描かれます。


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J・T・マッキントッシュ『プレイバック』(早川書房編集部編『壜づめの女房』収録)
 愛妻が死ぬと、過去に戻り、妻との生活を何度も繰り返すという物語。

 たいていの《ループもの》では、ループ期間が短めに設定されています。いわばループが牢獄のような役目を果たしているといっていいでしょうか。


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宇宙の妖怪たち (1958年) (ハヤカワ・ファンタジイ)
中村 能三
早川書房 1958

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リチャード・R・スミス『倦怠の檻』(ジュディス・メリル編『宇宙の妖怪たち』所収 ハヤカワ・SF・シリーズ)。
 主人公の男は、火星人との戦争のさなかに略奪した装飾品を地球に持ち帰ります。装飾品の台座から宝石をえぐり出した後、バスルームに入っていた男が気づくと、ふたたびテーブルの前にいるのです。同じ現象が何回も繰り返された後、男はようやく気づきます。あの宝石は作動させた人間を時間に閉じ込める装置なのだ!…。
 制限時間はたったの10分間という、かなり強烈な《ループもの》。まさに「時間の牢獄」というべき作品ですね。


4122022061東海道戦争 (中公文庫)
筒井 康隆
中央公論社 1994-12

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筒井康隆『しゃっくり』『東海道戦争』中公文庫ほか収録)
 こちらも、同じ10分間が何度も繰り返されます。ループそのものよりも、人間の醜さを描くためといった感じが強いですね。


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恐怖のハロウィーン (徳間文庫)
アイザック アシモフ
徳間書店 1986-10

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リュイス・シャイナー『輪廻』(アイザック・アシモフ編『恐怖のハロウィーン』所収 徳間文庫)
 若者たちが怪談の会を催している晩に、かっての仲間からひとつの作品が送られてきます。そのタイトルは「輪廻」。小説で語られているのは、怪談会を催している若者たちの話なのです。しかも、これは彼らに恨みを抱く青年が書いた、呪いの小説だったのです…。
 タイトル通り「輪廻」する小説に閉じ込められた人間たちを描く技巧的な作品です。


4163818103たったひとり
乾 ルカ
文藝春秋 2013-01

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乾ルカ『たったひとり』 (文藝春秋)
 大学の廃墟サークルのメンバー5人は、27年前に事故で崩壊したホテルを訪れます。そこでは、当時身元不明の1人の遺体が発見されていました。
 メンバーたちはなぜか、27年前の事故寸前の時間にタイムスリップしてしまいます。何度逃げ出しても、最初の時間にループしてしまうのです。サークルのリーダーは、当時の事故と同様に1人が死なないと、このループからは逃げ出せないのではないかと推測します。死ぬべき「1人」とはいったい誰なのか…。
 被害者探しミステリのバリエーション的な作品です。メンバーそれぞれの人間性が順に描かれていくのですが、ちょっと「イヤミス」的な香りのする作品ですね。


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ディック傑作集〈2〉時間飛行士へのささやかな贈物 (ハヤカワ文庫SF)
フィリップ・K. ディック 浅倉 久志
早川書房 1991-01

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フィリップ・K・ディック『時間飛行士へのささやかな贈物』(浅倉久志訳『時間飛行士へのささやかな贈物』ハヤカワ文庫SF収録)。
 国家プロジェクトとしてタイムマシンに乗り込んだクルーたちが、事故に巻き込まれ死亡します。しかし死んだはずの彼らは何度も姿を現します…。
 クルーたちがループしているのかどうかははっきりしないのですが、《ループもの》に分類してもいい作品かと思います。


4150116156スロー・バード (ハヤカワ文庫SF)
イアン ワトスン Ian Watson
早川書房 2007-06

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イアン・ワトスン『知識のミルク』(大森望訳 佐藤高子他訳『スロー・バード』ハヤカワ文庫SF収録)
 中年のはずの主人公は、突如自分が14歳の時の肉体に戻っていることに気がつきます。未来の記憶を利用して人生を改善しようとしますが…。
 技巧的な《ループ》作品です。


4044292051涼宮ハルヒの暴走 (角川スニーカー文庫)
谷川 流 いとう のいぢ
角川書店 2004-10-01

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谷川流『エンドレスエイト』『涼宮ハルヒの暴走』角川スニーカー文庫収録)
 主人公涼宮ハルヒの願望のせいで、夏休みが延々と繰り返されます。
 短篇に過ぎないこの話を、アニメ版では、8話連続ほぼ同じ内容を繰り返すという、前衛的な試みを行い、話題になりました。


4150117764ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)
テッド・チャン クリストファー・プリースト リチャード・A・ルポフ ソムトウ・スチャリトクル F・M・バズビイ イアン・ワトスン ロベルト・クアリア ボブ・ショウ ジョージ・アレック・エフィンジャー ロバート・シルヴァーバーグ シオドア・スタージョン デイヴィッド・I・マッスン H・ビーム・パイパー 大森望
早川書房 2010-09-22

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リチャード・A・ルポフ『12:01P.M.』(大森望訳 大森望編『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』ハヤカワ文庫SF収録)
 時間の檻に囚われた男を描く作品です。同じ1時間をループし続けており、その中でやれることは限られています。時間について詳しい大学教授に自分の事情を分かってもらおうとしますが…。閉塞感ただよう短篇です。
  上記ルポフの短篇を映像化したものとして、オムニバスドラマシリーズ『世にも悲しい放浪者たち』の1エピソード『時間の牢獄』と、長編化した『タイムアクセル12:01』(ジャック・ショルダー監督)もあります。

ソムトウ・スチャリトクル『しばし天の祝福より遠ざかり』(伊藤典夫訳 大森望編『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』ハヤカワ文庫SF収録)
異星人により強制的なタイム・ループに囚われた太陽系。しかもその期間は七百万年だというのです。主人公である俳優は、何とか1日の決まったパターンを変化させようと努力を続けますが…。

H・ビーム・パイパー 『いまひとたびの』(大森望訳 大森望編『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』ハヤカワ文庫SF収録)
戦争で死んだ中年の男性が、子供時代の自分の体に意識だけ戻る、という話。厳密にはループ作とはいえませんが、先駆的な作品といっていいでしょうか。


430946203020世紀SF〈2〉1950年代―初めの終わり (河出文庫)
レイ ブラッドベリ フィリップ・K. ディック リチャード マシスン ゼナ ヘンダースン ロバート シェクリイ 中村 融
河出書房新社 2000-12

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フレデリック・ポール『幻影の街』(伊藤典夫訳 中村融/山岸真編『20世紀SF2 1950年代 初めの終わり』収録)
 ふと日常生活に違和感を感じた男は、街全体が作られた閉鎖的な空間だということに気がつきます。街の住人は、毎晩記憶をリセットされて同じ一日を繰り返し続けるのです。街を作った者たちの目的は何なのか?
 幻影の街の目的が壮大なものではなく、矮小なものであるという、風刺的な発想の物語です。


4043892039秋の牢獄 (角川ホラー文庫)
恒川 光太郎
角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-09-25

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恒川 光太郎『秋の牢獄』『秋の牢獄』角川文庫収録)
 同じ1日を繰り返す主人公は、やがて自分と同じような環境に囚われた仲間たちと出会います…。同じ1日を繰り返している人間たちが集まって、集団行動をし始める…というユニークなシチュエーションの作品です。


4086302195All You Need Is Kill (集英社スーパーダッシュ文庫)
桜坂 洋 安倍 吉俊
集英社 2004-12-18

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桜坂洋『All You Need Is Kill』(スーパーダッシュ文庫)
 異星人との戦いの最中に死亡した初年兵が、目覚めると出撃の朝に戻っていることに気がつきます。ループすると、記憶のみが蓄積されることを利用して、主人公は戦闘技術を高めていき、ループから脱出しようとします。
 映画版とコミック版もありますが、基本コンセプトは同じ。


4488629075永遠へのパスポート (創元推理文庫 629-7)
J.G.バラード 永井 淳
東京創元社 1970-07

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J・G・バラード『逃がしどめ』(創元SF文庫『永遠へのパスポート』収録)
 テレビを眺めていた男は、突然同じ番組が繰り返されているのに気づきます。しかし妻は、そんなことはないと言い張ります。自分だけが短い時間のループに巻き込まれている気づいた男は、時間の繰り返しから脱出しようとしますが…。
 解決があっさりしていますが、なかなか面白い作品ですね。

●映画作品


B004E2YUVA恋はデジャ・ブ [DVD]
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2011-01-26

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ハロルド・ライミス監督『恋はデジャ・ブ』
 田舎町で、高慢な男性が、ある祭日の1日間を繰り返すことになるという物語です。最初はやりたい放題ですが、やがて空しさを感じ始め、人々のために働くようになります。
 閉塞的なループ環境から絶望するものの、やがて前向きになるという、非常にポジティブなSFコメディ。名作だと思います。


B000AM6R00バタフライ・エフェクト プレミアム・エディション [DVD]
ジェネオン エンタテインメント 2005-10-21

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エリック・ブレス/J・マッキー・グルーバー監督『バタフライ・エフェクト』
 主人公の青年が過去に書いた日記を読むことにより、書かれた過去の時点に戻れるという物語です。
 幼馴染の女性を助けようと、過去を変えますが、何かが好転しても、別の誰かが不幸になってしまいます。ささいなことが大きな改変を惹き起こすという、バタフライ効果をモチーフにした作品です。「タイム・ループもの」の完成形ともいうべき傑作。


B006O3S2NYミッション:8ミニッツ [DVD]
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 2012-03-21

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ダンカン・ジョーンズ監督『ミッション: 8ミニッツ』
 列車の中で目を覚ました大尉は、直後に列車の大爆発に巻き込まれて意識を失います。彼は、列車爆破事件の犯人を捜すために、爆破直前8分間の犠牲者の意識に入り込むというミッションに従事していたのです。捜索に使えるのは、わずか8分。何度も死を体験しながらも、繰り返し同じ環境の中に飛び込んでいきますが…。
 これは既に起こってしまった過去のシミュレーションを繰り返す、という設定の作品ですが、後半それが現実とリンクしていくという、凝った作りになっています。


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リバース【字幕版】 [VHS]
日本コロムビア 1999-03-20

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ルイス・モニュー 監督『リバース』
 女刑事のカレンはある夫婦の車にヒッチハイクします。夫婦は浮気問題から喧嘩が始まり、とうとう妻は射殺されてしまいます。目撃者であるカレンも殺されかかったところを逃げ出し、近くにあった建物に逃げ込みます。そこには、政府が極秘に研究していた、時間を巻き戻す装置があり、それを作動させてしまったカレンは過去に戻ってしまいます。カレンは、未来に起こる殺人を防ごうと考えますが…。
 目的を達成するために何度も時間をループするという、まさに《ループもの》の定義にふさわしい作品。サスペンス味たっぷりの、小粋なSFスリラーです。


B00JIM65FAハウンター [DVD]
TCエンタテインメント 2014-07-02

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ヴィンチェンゾ・ナタリ監督『ハウンター』
 ある日、自分の周囲で起きる出来事が昨日と全く同じだと気付いた少女リサは、翌日以降もまた同じ出来事が繰り返されているのに気がつきますが…。
 《ループもの》とゴースト・ストーリーを組み合わせた、異色のホラー作品です。

 他にも、以前にちょっと紹介した『トライアングル』(クリストファー・スミス監督)、『ミステリーゾーン』の1エピソード『審判の夜』もループものの一種ですね。これらは、オチに直結しているので、あらすじは記しません。

 たいていの作品では、自発的かどうかにかかわらず、ループに入った主人公が、目的のために試行錯誤を繰り返す…というパターンが多いようですね。この場合は、目的は別にあり、その達成のためにループを利用する、という形になります。
 また、災害のような形で、意図せずループに巻き込まれるタイプの作品では、そのループからの脱出自体が目的となりますね。ループの理由も目的もわからなかったり、脱出が不可能だったりすると、不条理なスリラー、または寓話的な要素を帯びてくる傾向があります。

 《ループもの》作品は、どれも非常に魅力的なものが多いのですが、その魅力はどこにあるのでしょうか。
 本来は一度しかない人生のやり直しが可能になる…というところが《タイム・トラベルもの》の魅力だと思いますが、その「やり直し」の回数を極端にすると《ループもの》になるような気がします。
 その意味で、ありえたかも知れない人生の可能性、未来の可能性を、同時に複数垣間見せてくれるのが、《ループもの》の魅力なのではないでしょうか。
 ミステリで、「多重解決もの」というジャンルがあります。作中でいろいろな推論が出されては否定される…というタイプの作品なのですが、どこか《ループもの》と共通する魅力があるような気がするのです。このあたりを考えてみると、面白いかもしれません。

 次回に続きます。

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最近のホラー映画から
 ホラー映画が大好きでよく観るのですが、最近続けて観た作品が秀作ぞろいだったので、まとめて紹介したいと思います。


B016ZYAH48私はゴースト [DVD]
TCエンタテインメント 2016-02-03

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『私はゴースト』(H・P・メンドーサ監督 アメリカ 2012年)

 大きな屋敷に一人で暮らす女性エミリーは、時折、家の中で違和感を感じつつも暮らしていました。やがて寝室で、自分に話しかける女性の声を聞きます。シルヴィアと名乗る彼女は、驚くべきことを言い出します。エミリーは既に死んでおり、それに気付いていないというのです。霊媒師であるシルヴィアは、エミリーの因果を解き明かせば、成仏できると話しますが…。

 除霊を扱った作品なのですが、なんと、視点を霊の側に置いたという、新感覚の作品です。除霊といっても、儀式とかお祓いをするわけではなく、死者に自分の死を自覚させるというもの。
 しかしエミリーの場合、その生い立ちや死の状況が特殊であったため、死の自覚だけではなく、死に至る理由を解き明かさねばならないのです。エミリーの生前の心理や生い立ちなどを探っていく過程は、なかなかスリリングで、いわば、霊媒師シルヴィアによる、エミリーのセラピーといった形をとります。
 基本的には二人(といっても一人は声だけですが)だけなので、後半までは、かなり地味な展開で、少々退屈するのも事実です。しかし、これはホラーじゃなくて、ミステリーじゃないのかな、と疑問を抱き始めた矢先の急展開がすさまじく、前半が「ため」だったと考えると、もの凄い演出ですね。
 「ゴースト・ストーリー」の新しい形といえる作品で、これは一見の価値があると思います。



B018RFB4C2400デイズ [DVD]
マット・オスターマン
アルバトロス 2016-02-03

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『400デイズ』(マット・オスターマン監督 アメリカ 2015年)

 宇宙探査旅行のシミュレーションとして、候補生の男女4人が、宇宙船内部を模して地下に作られた施設で400日間を過ごすことになります。訓練の途中で、本部との通信が途絶えてしまいますが、これも訓練の一環と考え、そのまま生活を続行することになります。
 訓練の終わりが近づいたある日、突如ハッチを叩く音が聞こえます。4人は訓練を中断し、外に出ますが、そこで見たのは、荒野と化した地表でした…。

 世間と切り離された環境で過ごしている間に、地球に何が起こったのか? 人類は絶滅してしまったのか? 説明してくれる人間は見つからず、砂埃に覆われた地表を宇宙服を着たまま歩き回るシーンは、不条理感に満ちています。
 地表が激変した理由が明確に語られず、登場人物たちの結末についてもはっきりしません。そのため「投げっぱなし」という評もあるようですが、ホラー作品として考えると、これはこれでありだと思います。



B00UULR6CYオキュラス/怨霊鏡 [DVD]
インターフィルム 2015-06-03

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『オキュラス/怨霊鏡』(マイク・フラナガン監督 アメリカ 2013年)

 両親と幸せに暮らしていた姉ケイリーと弟ティム。しかしあるときを境に、父母の様子がおかしくなります。父は母を殺害し、自らも射殺されてしまうのです。弟ティムは父親の殺害犯として捕らえられ、精神病院に送られてしまいます。
 ケイリーは、自宅にあった鏡が呪われた品物であり、父母がおかしくなった原因だと考えていました。再び鏡を手に入れたケイリーは、退院したティムとともに、鏡を破壊する計画を立てますが…。

 呪われた鏡「ラッサーの鏡」の存在感が半端ありません。影響力を及ぼした人間の精神を狂わせ、現実と幻を混同させるのです。鏡の力を知ったケイリーは、綿密に計画を立てます。真正面から壊そうとしても、自分が逆に殺されてしまう可能性があるのです。
 自分たちの姿を録画したり、定期的に恋人から電話連絡が来るようにするなどの対策を取ります。極めつけは、タイマーで一定時間後に作動する錨。自分たちに何かあった場合には、鏡が自動的に破壊されるようにする仕組みなのです。
 しかし、これだけの用意をしたにもかかわらず、姉弟は精神を翻弄されてしまうのです。

 子供時代の惨劇を描く過去パートと、成人した姉弟が鏡に挑む現代パートとが同時進行する過程はサスペンスたっぷり。過去パートの映像が、現代パートの幻影としても描かれるあたりの演出は素晴らしいです。
 鏡の力で幻覚が起こることが示されるため、登場人物たちの行動が現実なのか、幻覚なのかが観客まで段々わからなくなってきます。暴力やスプラッタシーンではなく、純粋に心理的な恐怖感とサスペンスで見せる技巧作です。



B017B9AZ70パラドクス [DVD]
アメイジングD.C. 2016-02-03

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『パラドクス』(イサーク・エスバン監督 メキシコ 2014年)
 
 刑事に追われた犯罪者の兄弟は、マンションの非常階段に逃げ込みますが、刑事の発砲した弾丸で兄は負傷し、逃亡をあきらめます。しかし、非常階段のドアから出ようとしても、ドアはどこの階も開かないのです。
 しかも、階段は上っても下っても、同じところに戻ってきてしまいます。階段内に設置された自動販売機の飲食物は、食べてもなぜか補充されるため、食料には困りません。しかし負傷した兄は、衰弱し、死が近づいていました…。
 一方、幼い兄妹は、義父と母とともに、車で旅行に出かけます。家族は、車で一本道を走っている途中、何度も前に来たところを走っていることに気がつきます。道だけでなく、左右からどこかに行こうとしても、同じところに戻ってきてしまうのです。やがて妹が喘息の発作を起こしますが、唯一の吸入器を義父が誤って壊してしまいます…。

 特定の空間に閉じ込められた人々を描く、いわゆる《ループもの》作品のバリエーションと言えるのですが、作品内では時間は経過し、登場人物は歳を取るので、ループしているのは、あくまで空間です。
 この手のジャンルでは、時間にせよ空間にせよ、閉じ込められたループ内からいかに脱出するか?というのがテーマになると思うのですが、この『パラドクス』はその点、じつにユニークです。
 脱出の試みは確かになされるのですが、それはすぐに失敗してしまいます。その後、閉じ込められた空間内でいかに生きていくのか?という点に焦点が当てられるのです。
 閉じ込められた人々のうち、年上の人々はすぐに諦め自暴自棄になったり、錯乱したりします。それに対して、子供や若者は体を鍛え、日常生活が送れる環境を自ら作り上げるのです。
 ループをすると、食料や持っていた荷物などの物質が元に戻る(物が増える)ため、それを使って、生活用具を作れます。例えば、ペットボトルを糸で大量に吊るし、シャワー代わりにしたりと、手持ちのアイテムを上手く使って、日常生活を生きるために利用します。このあたりの描写はアイディアに富んでいて、映像で見せられると新鮮な驚きがあります。

 階段に閉じ込められた兄弟がかばんの中に持っていたペーパーバックのタイトルがフィリップ・K・ディックの『時は乱れて』だったり、一本道に閉じ込められる家族の家に飾ってあるのが、エッシャーの版画だったりと、細かい小道具が作品のテーマを象徴しています。
 また、全編を通して、シューマンの交響曲4番が上手く使われていて、作品を引き立てます。

 ループの理由については、結末で明かされますが、作品内で語られる2つの事例が、さらに他の事例につながっているという、まるでエッシャーの版画を思わせるような作りになっています。
 もし自分がこの環境に置かれたら…と、思わず想像してしまうようなリアリティがあり、想像すると心底から怖くなってしまうような迫力があります。SFホラー映画の傑作といっていいでしょう。

 『パラドクス』を観ていて、《ループもの》についての興味が再燃したので、次回は、ちょっと《ループもの》について、書いてみたいと思います。

テーマ:ホラー - ジャンル:映画

ブログ開設10周年とテーマ別検索の話
 このブログを開設してから、ちょうど10周年になります。
 細々とですが、なんとか続けてくることができました。いつも応援してくださる読者の方々には、あらためてお礼を申し上げたいと思います。

 ブログを始めたころの記事をいくらか見直してみたのですが、今現在とほとんど趣味趣向が変わっていないものですね。
 とはいえ、多少の変化はあって、小説以外のジャンルの本、ノンフィクションやポピュラー・サイエンス、経済の本などもかなり読むようになりました。こちらはこちらで、また違った読書の楽しさがありますね。
 以前に天文関係のガイドを記事にしたこともありますが、いずれノンフィクションの本なども、まとめて紹介したいと思っています。

 この10年を振り返ってみると、ネット環境もずいぶん変わってきました。スマートフォンが急激に普及し、それに伴ってSNSの利用者が増えてきました。
 ブログを書いていた人も、ツィッターやフェイスブックに移行してしまい、ブログを更新しなくなる…というパターンも多いようです。ブログというメディアも衰退してきたといっていいのでしょうか。
 ただ、本について紹介したり、書いたりする。そういう用途に関する限り、今でもブログは有効なメディアだと、僕は思っています

 ある本の内容について知りたいなと思っても、それが絶版だったり、マイナーなジャンルの本だったりすると、ネットで調べても、意外と情報は出てこなかったりします。
 結局、ネット時代になっても、言及される話題は限られていて、別にマイナーなものがメジャーになるわけではないんですよね。情報が少ない本に関しては、何年経っても、そう情報量が増えているわけではありません。
 実際、10年前に書いた記事にコンスタントにアクセスがあったりしているのを見ると、こんなブログでも需要があって、少しは皆さんのお役に立てているのかな、と嬉しくなります。

 さて、小説や物語についてネットで調べるときに、いつも思うことがあります。具体的なタイトルや、あらすじを知っているものについて調べるときはいいのですが、「こんな話が読みたい」「こういうテーマの物語はないかな」というような、抽象的な要望だけがあった場合、目当ての情報を見つけるのが、すごく難しいということです。
 面白い小説作品を読んだ後、いちばんに思うのは、これと似たような感じの作品はないかな、ということでしょう。
 例えばSFなんかは、サブジャンルとかテーマがはっきりしていることが多いので、それがわかっていれば調べやすいですね。「タイムトラベル」とか「宇宙からの侵略」とか。 ただ、具体的なジャンルやテーマに当てはまるものがない場合、お手上げです。
 ネット上に情報が蓄積していけば、そういう検索もいずれ可能になるのかもしれませんが、今のところ、そうはなっていません。

 言ってみれば、小説や物語の「テーマ別検索」「要素別検索」ができないか?という話だと思うのですが、そういうサービスはあるのでしょうか。
 自分が知っている範囲では、神山重彦さんが作成されている『物語要素事典』(http://www.aichi-gakuin.ac.jp/~kamiyama/)というのがありますね。テーマや要素別に物語を分類したものです。非常な労作だと思いますが、古典や文学作品が中心で、エンタテインメント方面はかなり弱いようです。
 本(エンタテインメント分野)で言うと、間羊太郎『ミステリ百科事典』(文春文庫)や、小鷹信光『〈新パパイラスの舟〉と21の短篇』(論創社)、ブライアン・アッシュ編『SF百科図鑑』(サンリオ)などが、それに当たるでしょうか。

 本にしろ、ウェブにせよ、個人で作っている場合、ネックになるのは、やはり数だと思います。世の中の膨大な小説・物語群を分類することになるわけですから、個人でできるわけがない。
 単純な語彙検索であれば、すでにグーグルなどでもやっていますが、作品の内容で調べたい、となったときには、なかなか難しいですよね。

 更新の止まってしまったホームページやブログを見て思うのは、もったいないな、ということです。それらのページは、いずれ消えてしまう可能性が高いと思うのですが、それまでに書かれたレビューや感想などの情報は、残しておけば非常に有用なのではないでしょうか。
 そうしたネット上の遺産を上手く生かした情報検索ができるようになれば、もっと個人個人の読みたい物語が、手に届くようになると思うのです。ウェブページの意味を解釈して検索するという「セマンティック・ウェブ」という概念がありますが、それが実現された暁には、そうした検索も可能になるのかもしれませんね。

 さて、連想の赴くまま、いろいろ書き連ねてしまいましたが、続けられる限り、このブログは続けていきたいと考えています。これからも、応援をよろしくお願いいたします。


プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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