追悼フジモトマサル
夢みごこち いきもののすべて 二週間の休暇 (MouRa) スコットくん (中公文庫―てのひら絵本 (Pふ2-2))
 漫画家、イラストレーターのフジモトマサルさんが亡くなったそうです。知る人ぞ知るといった存在だったのが、じわじわと人気が出てきて、最近では村上春樹の挿絵を手がけるなど、まさに油の乗り切ったところでした。非常にショックです。
 僕がこの方の作品に最初に触れたのは、クラフト・エヴィング商會の吉田浩美さんの『a piece of cake』(筑摩書房)にゲスト参加したイラストだったと思います。
 このイラスト(というよりマンガに近い?)作品で、興味を持ち、他の作品を探して読み始めました。『長めのいい部屋』(中公文庫)、『スコットくん』(中公文庫)、『ウール100%』と続編『ウール101%』『こぐまのガドガド』(中公文庫)など。
 フジモトさんの作品の特徴は、登場人物が主に動物であるところ。といっても、人間と同じように話し、仕事をし、日常生活を営んでいます。彼らが暮らす世界には、実際の人間も一緒に生活しているのです。擬人化された動物キャラを使った寓話、といった感じでしょうか。
 動物をメインキャラクターにしていることから、ほんわかした作風を思い浮かべると思いますが、実態はちょっと違います。確かにほんわかとしてはいるのですが、どこかしら冷めた視線が感じられるのです。インテリを気取りつつも実は俗物というペンギンを主人公にした『スコットくん』あたりから、その冷めた視線は感じていたのですが、後期作品になるにしたがって、皮肉なユーモアが増えてきます。
 四コママンガ集『いきもののすべて』(文藝春秋)あたりでは、かなりシニカルな印象が強くなっています。単純なギャグ作品ではなく、読んだ後に少し考えさせられる、余韻のある作品が増えているのです。
 そして長編作品『二週間の休暇』(講談社)と『夢みごこち』(平凡社)、この2作がフジモトマサルの最高傑作ではないかと思っています。記憶を失った女性のアイデンティティーをめぐる物語『二週間の休暇』、「夢」をテーマにした連作短篇集『夢みごこち』。どちらの作品も、寓話としても物語としても素晴らしい完成度に達しています。
 アメリカのコミックでは、文学の領域にマンガを近づけようとした「グラフィックノベル」というジャンルがありますが、フジモトマサルの近作は、形式こそ違え「グラフィックノベル」の領域に近づいていたように思います。それだけに、早過ぎる死が惜しまれます。

テーマ:漫画 - ジャンル:アニメ・コミック

12月の気になる新刊と11月の新刊補遺
11月21日発売 『ナイトランド・クォータリー vol.03』(アトリエサード 1836円)
12月2日刊 ゴード・ロロ『ジグソーマン』(扶桑社ミステリー 予価1026円)
12月14日刊 エドワード・ゴーリー『憑かれたポット・カバー クリスマスのための気落ちした気色悪い気晴らし』(河出書房新社 予価1512円)
12月17日刊 谷川渥『図説だまし絵 もうひとつの美術史 新装版』(河出書房新社 予価1998円)
12月18日刊 イサク・ディネセン『冬の物語』(新潮社 予価2592円)
12月18日刊 ウイリアム・アイリッシュ『幻の女 新訳版』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価1080円)
12月18日刊 クリフォード・D・シマック『中継ステーション 新訳版』(ハヤカワ文庫SF 予価1080円)
12月21日刊 ウィリアム・ピーター・ブラッティ『センター18』(東京創元社 予価1836円)
12月25日刊 『ウィルキー・コリンズ短編選集』(仮題)(彩流社 予価2700円)


 『ナイトランド・クォータリー 』3号の特集は「愛しき幽霊(ゴースト)たち」。ゴースト・ストーリーの特集です。J・S・レ・ファニュ、デイヴィッド・マレル、A・ブラックウッドほか。

 ゴード・ロロ『ジグソーマン』は、新人作家のホラーデビュー作。「200万ドルで腕を売る契約をした男が体験する壮絶なる悪夢」を描く作品だとのこと。これは面白そう。

 河出書房新社からは、ゴーリーのクリスマスストーリー、『憑かれたポット・カバー』が刊行です。ゴーリーの邦訳が初めて出たのが、確か2000年。以来15年に渡って、コンスタントに邦訳が出ていますね。主要作品はほぼ刊行されるのでしょうか。

 谷川渥『図説だまし絵 もうひとつの美術史 新装版』は、だまし絵の概説書です。だまし絵に興味がある人にはオススメしたい1冊ですね。
 この本と『新版・遊びの百科全書2 だまし絵』(種村季弘、高柳篤 河出文庫)の2冊は、だまし絵入門書としては定番だと思います。
 現在入手しやすい、だまし絵の実作の作品集としては、アル・セッケル『錯視芸術の巨匠たち―世界のだまし絵作家20人の傑作集』(坂根厳夫訳 創元社)、 ブラッド・ハニーカット、テリー・スティッケルズ『錯視芸術図鑑:世界の傑作200点』(北川 玲訳 創元社)および続編『錯視芸術図鑑2: 古典から最新作まで191点』をオススメしておきたいと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

日本ホラー小説大賞受賞作を読む
 日本ホラー小説大賞の受賞作品は、毎年、面白そうな作品だけ選んで読んでいますが、今年度の刊行作品は、それぞれ興味をそそる内容でした。結局、刊行された3冊全てを読むことになりましたが、まとめて感想など書いてみたいと思います。



4041035562ぼぎわんが、来る
澤村伊智
KADOKAWA/角川書店 2015-10-30

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澤村伊智『ぼぎわんが、来る』(角川書店)
 新婚の妻と生まれる予定の娘、順調な人生を送る田原秀樹のもとに、原因不明の怪現象が起こり始めます。自分の身の回りに起こった現象が「ぼぎわん」と呼ばれるものであり、かって祖父母が恐れていたのと同じ怪異現象ではないかと考えた秀樹は、家族を守るために、女性霊媒師とそのパートナーに援助を求めますが…。

 主人公たちを襲う怪奇現象「ぼぎわん」が、霊的なものというよりは、ほとんど物理的な暴力を伴ってくるところが特徴です。神出鬼没であり、その攻撃もほとんど人間には防げないという、とんでもないレベルなので、読んでいる間のハラハラドキドキ感が尋常ではありません。
 「ぼぎわん」に対抗するために、霊媒師を頼ることになるのですが、繰り出す方策がことごとく潰されていく絶望感が凄いですね。
 いわゆる「日本の妖怪」をモダンホラー風に仕上げた作品といえるのですが、リーダビリティが非常に強烈です。ただ怪物に襲われるだけのホラーではなく、主人公やその周りの人間たちの事情、なぜ襲われるのかといった謎解きや、霊媒師側のキャラクターの掘り下げなど、読みどころが沢山あり、飽きる暇がありません。
 エンタテインメント度でいったら、過去の受賞作品で一、二を争う作品ではないでしょうか。



4041035570二階の王
名梁 和泉
KADOKAWA/角川書店 2015-10-30

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名梁和泉『二階の王』(角川書店)
 東京の郊外で両親と暮らす八州朋子には、引きこもっている兄がいました。30歳を過ぎた兄は、外部の人間だけでなく、家族に対しても全く姿を見せずに、日常生活を送っていたのです。
 一方、元警察官の仰木とその仲間たちは、考古学者の砂原が残した予言をもとに、世界に邪悪をもたらす存在〈悪因〉の探索を続けていました。彼らの仲間たちは、邪悪な存在を五感で感じとることができるのです。
 グループの一員である掛井は、同じ職場の朋子にひそかに思いを寄せていましたが、彼女の周りで、人々に対する〈悪因〉の影響が強まったことに気付きます…。

 読んでいくとすぐにわかる、<クトゥルー>ものバリエーションの作品です。とはいえ、家族内の軋轢が世界の破滅につながっているという、その組み合わせの妙が素晴らしい。 陰々滅々となりそうなテーマですが、意外にも読みやすく、結末もある種のハッピーエンドになっているところに才気を感じさせます。
 ときおりはさまれる、能力者の回想シーンがミスディレクションになっているのにも感心しました。援助団体の名前に「ウェンディゴ」が使われていたりと、ところどころで見られるお遊びも楽しいですね。



4041035546記憶屋 (角川ホラー文庫)
織守きょうや
KADOKAWA/角川書店 2015-10-24

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織守きょうや『記憶屋』(角川ホラー文庫)
 「記憶屋」とは、忘れたい嫌な記憶を消してくれるという都市伝説の怪人。大学生の遼一も単なる噂だと気にも留めていませんでした。しかしある日、恋人の記憶がなくなっていることを知り「記憶屋」の正体を探すことになります…。

 この作品で、消去される記憶は、記憶の全てではなく、本人が嫌だと思う一部の記憶のみというものです。しかし、消した記憶に伴い、それらに関連している他の人間に対する記憶も消えてしまうのです。
 記憶がなくなったとき、その人間と周りの人間の関係はどう変わるのか?そもそも、本人以外が他人の記憶を消す権利などあるのか? 主人公の遼一は、自ら遭遇した事件から、「記憶屋」に対し、怒りを抱くことになります。
 テーマも真摯であり、面白いことは面白いのですが、主人公の行動原理がいまいち納得しづらいのと、「記憶」そのものに対する掘り下げがちょっと浅いのが気になりますね。 すでに続編が予定されているようです。


 ついでにもう一冊。これは、受賞作品とはいっても、ちょっと古めの作品です(1996年 第三回日本ホラー小説大賞短編賞佳作)。あんまり話題にならなかったようですが、なかなかの佳作だと思います。



4043622015ブルキナ・ファソの夜 (角川ホラー文庫)
桜沢 順
角川書店 2002-01

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櫻沢順『ブルキナ・ファソの夜』(角川ホラー文庫)
 『ブルキナ・ファソの夜』『ストーリー・バー』の短篇二篇を収録した作品集です。

『ブルキナ・ファソの夜』
 旅行代理店に勤める主人公が耳にしたのは、ある噂でした。それは地図にも記されていない寒村へのツアーで、参加した人々は、帰国後異様に老け込んでしまったというのです。しかも参加者は皆ツアーへの満足感を持っているといいます。その後も続く謎のツアーの評判を聞いた会社の上司は、主人公に対し、ツアーの内容を調査するように命じますが…。
 実態のつかめない謎のツアーをめぐる作品ですが、それらの内容がどれも魅力的です。実際に旅行代理店勤務の経験があるという作者だけに、作品中の異国の風景がエキゾチックで惹かれます。

『ストーリー・バー』
 雑居ビル内にある店「ストーリー・バー」の売り物は、なんと物語でした。複数の「ストーリー・テラー」が客に対し、物語を語るのです。しかし「テラー」に対し、顔を見たり、私的な会話はしてはならないというルールがありました。
 ある日、主人公のなじみの「テラー」は、行方不明の友人についての話を語り始めます。主人公はその話にのめりこんでいきますが…。
 これは、なんとも魅力的な作品。事実か空想かわからない物語が、やがて現実に反転するという、夢幻のような雰囲気を持った作品です。ゾラン・ジフコヴィッチの『ティーショップ』(山田順子訳『ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語』黒田藩プレス収録)を思わせます。
 

テーマ:ホラー - ジャンル:映画

過ぎ去った夢  レオ・ペルッツ『聖ペテロの雪』
4336059527聖ペテロの雪
レオ ペルッツ Leo Perutz
国書刊行会 2015-10-26

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 国書刊行会の<レオ・ペルッツ・コレクション>、最終巻となる『聖ペテロの雪』(垂野創一郎訳 国書刊行会)が刊行されました。
 今までの3冊が、過去の時代を扱った、いわゆる「歴史小説」であったのに対して、『聖ペテロの雪』は、刊行当時の世相を舞台にした「現代小説」になっています。

 父を亡くし、叔母に育てられたアムベルクは、叔母の希望もあり、医学の道に進みます。ふとしたきっかけから、父の旧友であるフォン・マルヒン男爵の領地で医者としての仕事を得ることになったアムベルクは、かっての同僚で憧れだった女性ビビッシェと再会します。
 男爵が養子にした少年フェデリコの出自の謎、ビビッシェが男爵のもとで行っている奇妙な研究の詳細を知るに及んで、アムベルクは「神聖ローマ帝国」を復活させようとする男爵の壮大な計画に気付くことになりますが…。

 フォン・マルヒン男爵の計画が、実に壮大で魅力的です。少年フェデリコとビビッシェの研究が、計画に対してどんな意味を持つのか? タイトルにもなっている「聖ペテロの雪」の意味が明かされたときには、なるほどと膝を打つはず。
 一方、主人公のアムベルクは、自らを「傍観者」と称するとおり、事態に積極的に関わろうとはしません。唯一、彼が動くのは、執着を抱く女性ビビッシェに関することだけなのです。
 やがてビビッシェと恋仲になるアムベルクですが、余りにも上手くいきすぎる恋路に対し、疑念が湧いてきます。
 ここで気付くのは、物語全体が、事故に遭ったアムベルクの過去の回想という、枠物語の形になっていること。そして、アムベルクの記憶にある事実と、医者や同僚が語る事実は全く異なっているのです。
 アムベルクの体験は、真実なのか、それとも妄想なのか? 真実がはっきりしないままに進む展開は、じつにスリリングです。
 フォン・マルヒン男爵の「妄想」ともいうべき壮大な計画を描いた物語なのですが、その物語自体が、アムベルクの「妄想」なのではないかという、二重の語りには唸らされます。読了まで気をゆるめることのできない、きわめて現代的な幻想小説の傑作です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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