9月の気になる新刊
9月4日刊 ミュリエル・スパーク『死を忘れるな』(白水社 1836円)
9月8日刊 ランドル・ギャレット『魔術師を探せ! 新訳版』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価907円)
9月8日刊 フランチェスカ・ヘイグ『アルファ/オメガ』(ハヤカワ文庫SF 予価1015円
9月9日刊 ヘレン・マクロイ『あなたは誰?』(ちくま文庫 予価972円)
9月9日刊 ハーマン・メルヴィル『書記バートルビー/ベニート・セレーノ』(光文社古典新訳文庫)
9月12日刊 武藤浩史編訳『D・H・ロレンス幻視譚集』(平凡社ライブラリー 予価1404円)
9月16日刊 ミュリエル・スパーク『ミス・ブロウディの青春』(白水社 1404円)
9月17日刊 カーステン・ストラウド『ナイスヴィル 影が消える町 上下』(ハヤカワ文庫NV 予価各950円)
9月25日刊 T・S・エリオット/エドワード・ゴーリー『キャッツ ポッサムおじさんの実用猫百科』(河出書房新社 予価1404円)
9月25日刊 カチュール・マンデス『童貞王』(国書刊行会 予価3024円)
9月25日刊 スティーヴン・ミルハウザー『ある夢想者の肖像』(白水社 予価3456円)
9月25日刊 ミュリエル・スパーク『ブロディ先生の青春』(河出書房新社 予価2052円
9月30日刊 山川方夫『親しい友人たち』(創元推理文庫 予価1080円)
9月刊 フィル・ホーガン『見張る男』(角川文庫 予価864円)


9月下旬発売 東京創元社2015年復刊フェア

F・W・クロフツ『船から消えた男』(創元推理文庫)
アントニイ・バークリー『ピカデリーの殺人』(創元推理文庫)
フレドリック・ブラウン『手斧が首を切りにきた』(創元推理文庫)
クリスチアナ・ブランド『暗闇の薔薇』(創元推理文庫)
シャーロット・マクラウド『納骨堂の奥に』(創元推理文庫)
アン・マキャフリー『だれも猫には気づかない』(創元推理文庫)
チャールズ・シェフィールド『マッカンドルー航宙記』(創元SF文庫)
フィリップ・K・ディック『フロリクス8から来た友人』(創元SF文庫)
エドモンド・ハミルトン『反対進化』(創元SF文庫)
スチュアート・D・シフ編『マッド・サイエンティスト』(創元SF文庫)


 『あなたは誰?』は、ヘレン・マクロイの未邦訳作品。ちくま文庫から翻訳ミステリというのは珍しいですね。

 これは面白い企画です、平凡社の『D・H・ロレンス幻視譚集』。ロレンスの幻想小説って、なかなか面白いんですよね。『木馬を駆る少年』とか。

 カーステン・ストラウド『ナイスヴィル 影が消える町』は、三部作のホラー小説だそうですが、面白そうです。「全米平均の5倍の頻度で失踪事件が発生する町、ナイスヴィル。今また、一人の少年が忽然と消えた。」

 山川方夫『親しい友人たち』は、短篇集 〈親しい友人たち〉とEQMMに掲載されたエッセイ 〈トコという男〉 を収録した短篇集です。山川方夫は、以前に出版芸術社の<ふしぎ文学館>シリーズで、短篇集『歪んだ窓』が出ていますが、その際は〈トコという男〉は収録されていなかったので、これは嬉しい企画ですね。

 今年度の創元社の復刊の目玉は、エドモンド・ハミルトン『反対進化』(創元SF文庫)とスチュアート・D・シフ編『マッド・サイエンティスト』あたりでしょうか。

 『マッド・サイエンティスト』に関しては、以前にも一度復刊されていますが、すでに手に入らなくなっていたんですね。これは、タイトル通り、マッド・サイエンティストの登場するSF・ホラー・ファンタジー作品を集めたアンソロジーです。娯楽性の高い作品が集められているので、オススメしておきたいと思います。
 収録作品は以下の通り。

レイ・ラッセル『サルドニクス』
ラムジー・キャンベル『自分を捜して』
カール・エドワード・ワグナー『エリート』
J・P・ブレナン『スティルクロフト街の家』
ロバート・ブロック『ノーク博士の謎の島』
リチャード・クリスチャン・マシスン『あるインタビュー』
C・ホール・トンプソン『粘土』
H・P・ラヴクラフト『冷気』
アーサー・C・クラーク『ビッグ・ゲーム・ハント』
ヴィリエ・ド・リラダン『ハルリドンヒル博士の英雄的行為』
ヴァンス・アーンダール『シルヴェスターの復讐』
リー・ワインシュタイン『箱』
ゲイアン・ウィルスン『アーニス博士の手記』
フランク・ベルナップ・ロング『ティンダロスの猟犬』
デニス・エチスン『最後の一線』
デーヴィッド・キャンプトン『庭の窪みで』
レイ・ブラッドベリ『サルサパリラのにおい』
異次元の影  ウィリアム・ホープ・ホジスン『幽霊海賊』
4883752070幽霊海賊 (ナイトランド叢書)
ウィリアム・ホープ・ホジスン 夏来 健次
書苑新社 2015-07-27

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 ウィリアム・ホープ・ホジスン(1877~1918)は、主に怪奇・冒険小説の分野で作品を残したイギリスの作家です。
 作品数は多くはありませんが、代表的な作品は、いくつか日本語に訳されています。邦訳のある作品は以下の通り。

長編
『異次元を覗く家』(団精二訳 ハヤカワ文庫SF)
『ナイトランド』(荒俣宏訳 原書房)

短篇集
『夜の声』(井辻朱美訳 創元推理文庫)
『海ふかく』(小倉多加志訳 国書刊行会)
『幽霊狩人カーナッキの事件簿』(夏来健次訳 創元推理文庫)

 船員として働いた経験のあるホジスンの作品では、よく海が舞台になります。『夜の声』『海ふかく』では、そうした海洋怪奇小説が多く収録されています。とくに短篇『夜の声』は、東宝の特撮映画『マタンゴ』の原作としてクレジットされており、日本ではホジスンの名前は、この映画の原作者として知られているのではないでしょうか。
 今回、《ナイトランド叢書》の第1弾として刊行された『幽霊海賊』(夏来健次訳 アトリエサード)も、そんな海洋を舞台にした怪奇小説の一つです。

 とある商船に乗組員として乗り込んだ男が主人公です。しかしこの船には、何かいわくがあるらしく、前回の航海の後、1人を除いた全員が契約を切って船を降りているのです。 最初は順調な航海を続けたものの、しばらくして主人公は夜の当直の際に、人影のようなものを目撃します。
 謎の人影が頻繁に目撃されるようになってから、やがて乗組員は、ひとりまたひとりと謎の死を遂げていきます。主人公は上司に打ち明けますが、とりあってもらえません。彼らは幽霊なのか、それとも…?

 ジャンルとしては、いわゆる「幽霊船もの」といっていいのでしょうか。序盤から怪異がおおっぴらに起こるわけではなく、日常的な風景を描きながら、じわじわと怪異を盛り上げていくタイプの作品です。
 「日常」とはいっても、舞台が基本的に海の上の船という「非日常」なので、日常描写からして、何やら不穏な空気に包まれています。
 この手の閉塞環境を舞台にした作品では、登場人物たちの葛藤や対立が描かれるのが常です。『幽霊海賊』においても、確かに人物間の対立などはあるのですが、あまり人間関係には重きが置かれず、あくまで怪異そのものとそれが乗組員に起こす不安定な精神状態などがメインに描写されていきます。
 展開が遅いので、現代の読者からすると、多少まだるっこしく感じられるかもしれませんが、じっくり読んでいくと、これはこれで味わい深い作品かと思います。
 面白いのは、目撃される人影が「幽霊」ではなく、異界の存在ではないのか?と、主人公が推測するくだりです。そのあたり、異次元の存在を描く『異次元を覗く家』との共通点も感じられますね。

 本作は《ボーダーランド三部作》と呼ばれる三部作に属する作品なのですが、残りの2作、『<グレン・キャリグ号>のボート』(野村芳夫訳)と『異次元を覗く家』(荒俣宏訳)も、同じくアトリエサードより刊行予定になっています。
 《ナイトランド叢書》について言えば、すでにハワード傑作集も刊行されており、非常に精力的な刊行ペースで、じつに嬉しい限りです。
 8月26日には、『ナイトランド・クォータリーvol.02』も発売予定になっています。ついでに内容紹介をしておきましょう。

『ナイトランド・クォータリーvol.02 邪神魔境』

ロバート・E・ハワード「神の石塚」
訳/中村融 画/藤原ヨウコウ
ブライアン・M・サモンズ「狂気の氷原へ」
訳/植草昌実
デイヴィッド・コニアース「熱砂の妖虫」
訳/植草昌実
ジョシュ・リノールズ「悪夢の卵」
訳/牧原勝志
ウィリアム・ホープ・ホジスン「呪われしパンペロ号」
訳/徳岡正肇
コンスタンティン・パラディアス「ルルイエの黄昏」
訳/甲斐禎二

朝松健「〈一休どくろ譚〉魔経海」
間瀬純子「北極星」

Night Land Gallery 東學~魔物としての女
/沙月樹京
魔の図像学(2) C・D・フリードリッヒ
《雲海の上の旅人》/樋口ヒロユキ
ハワード紹介の新時代に向けて/中村融
ケルトの幻像と、破滅的ヒロイズム/岡和田晃
幽霊船と鯨──小説家になった船乗りたち/植草昌実
ブックガイド クトゥルー神話世界の地図/牧原勝志
未邦訳・クトゥルー神話セレクション/植草昌実
作品解説
【書評】橋本純「百鬼夢幻~河鍋暁斎 妖怪日誌」
/牧原勝志

表紙=東學

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

迷宮の遊び方  たかみち『百万畳ラビリンス』
4785956011百万畳ラビリンス 上巻 (ヤングキングコミックス)
たかみち
少年画報社 2015-08-10

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478595602X百万畳ラビリンス 下巻 (ヤングキングコミックス)
たかみち
少年画報社 2015-08-10

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 たかみち『百万畳ラビリンス』(少年画報社ヤングキングコミックス)は、迷宮をテーマにした、魅力的なコミック作品です。
 人見知りの大学生、礼香は幼い頃から周りの環境に溶け込むのが苦手でした。唯一心から楽しめるのは、ゲームだけ。やがて、ゲーム会社でバグ探しのアルバイトをするようになります。ルームシェアをすることになった庸子が、同じゲーム好きであったことから、意気投合し友人になります。
 ある日突然二人は、謎の巨大建築物の内部にいることに気がつきます。部屋の扉を開けても、そこにはまた別の部屋が続いているのです。建物の内部には、現実にはありえないような作りの部屋や不思議な家具が次々と現れます。二人は出口を探しますが、一向に見つかる気配がないのです…。

 迷路のような謎の建築物からの脱出という、何とも魅力的なテーマを持った作品です。まず、どうやって食料を手に入れるのか? という疑問が浮かびますが、じつは建造物内部の部屋には普通に家具が置いてあり、時折、冷蔵庫も存在します。中には食料が入っているのです。
 冷蔵庫だけでなく、それぞれの部屋には電気もガスも水道も通っており、トイレや風呂もパソコンも携帯電話も存在するのです。生き延びるに当たって、当座は困ることがありません。
 サバイバル的な面では切迫感がないために、最初はのんびりとした空気さえ漂っています。実際、礼香はこの世界に来たことで、生きる意欲を取り戻し、建造物内にずっといたいとさえ考えるようになっていくのです。
 しかし、インフラが整っている以上、この建造物を管理している存在がいるに違いない。その考え通り、二人は、建造物を作ったらしき存在と遭遇を果たします。それは人間ではなく、しかも二人に敵意を持っているようなのです…。

 この作品のいちばんの魅力は、なんといっても、巨大建造物とその内部の部屋や家具にあります。見た目は普通の家具ながら、不思議な特性を持ったものが数多く存在するのです。
 例えば、行く先々でやたらと見かける、同じ型のちゃぶ台。これらのちゃぶ台は全て同期しており、何か物を置くと、すべてのちゃぶ台の上に、同じものが現れるのです。そしてそこから物を取り除くと、物は消えます。
 ちゃぶ台だけではなく、異世界の法則やルールを、手探りで探っていく過程の面白さは抜群です。この建物はいったい何なのか? 何の目的で作られたのか? 出口はあるのか?
 やがて明らかになる、建造物の謎。そして脱出のための方法。脱出の方法が判明したとき、礼香のとった選択肢とは…

 冒険行のなかで、主人公二人の友情や思いもまた変化していきます。現実の世界では人と関わることをしなかった礼香は、現実的な性格の庸子と触れ合うなかで、他人の気持ちを慮るようになっていくのです。
 小説作品では、恩田陸『MAZE』(双葉文庫)など、正面から迷宮を扱った作品がありますが、マンガ作品でこれだけ正面きって迷宮を扱った作品は初めてではないでしょうか。迷宮の魅力だけでなく、成長物語としての側面も持った意欲作です。

 ちなみに、タイトルがとても印象的なのですが、レイ・ブラッドベリ『百万年ピクニック』からインスピレーションを受けているのでしょうか。

テーマ:マンガ - ジャンル:本・雑誌

江戸川乱歩、没後50周年のことなど
 今年は、江戸川乱歩の没後50周年だそうです。没後50年でこれだけ話題になる作家がどれだけいるかと考えると、乱歩の人気はいまだに衰えていないようですね。何より、ほぼ全作品が、今でも書店で普通に手に入るというのは、すごいことだと思います。
 没後50周年に伴い、関連図書の出版や企画などが相次いでいます。ここ数ヶ月で刊行された乱歩関連書から、いくつか、ご紹介していきたいと思います。



4791702921ユリイカ 2015年8月号 特集=江戸川乱歩
北村薫 辻村深月 丸尾末広 岸誠二 上坂すみれ 高原英理 樺山三英 倉数茂
青土社 2015-07-27

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『ユリイカ 2015年8月号 特集=江戸川乱歩』(青土社)
 乱歩に関するエッセイ・論考が掲載されています。乱歩をテーマにした漫画作品が3篇、小説が4篇と、創作が多く掲載されています。
 漫画3篇がどれもショート・ショートといっていい短さながら、面白く読めます。『押絵と旅する男』をテーマにした玉川重機作品と『屋根裏の散歩者』をテーマにした駕籠真太郎作品が出色の出来です。
 論考に関しては、わりとアカデミックなものが多く、ミステリや怪奇小説など、エンタテインメント作品としてのアプローチがほとんどないのが気になります。



B00XYX3ZOSミステリマガジン 2015年 09 月号 [雑誌]
早川書房 2015-07-25

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『ミステリマガジン 2015年9月号 幻想と怪奇 乱歩輪舞ふたたび』(早川書房)
 前年度に引き続き、乱歩をテーマにした<幻想と怪奇>特集です。今回のテーマは『人間豹』。コッパードの『銀色のサーカス』『人間豹』の歌舞伎脚本などが掲載されています。
 切り口は非常に面白いと思うのですが、どうも特集の密度が薄い感じがします。さらに言えば、翻訳作品の紹介誌であるはずの『ミステリマガジン』で、こうも翻訳作品が少ないのはどうかと思う次第です。翻訳権の問題で、近年の作品が掲載できないにしても、怪奇小説の古典ならもっと載せられると思うのですが。
 乱歩には、特集のテーマにできそうな怪奇幻想小説が他にもたくさんあります。例えば『鏡地獄』をテーマにして、鏡やレンズを扱った作品を集めたりとか、『人でなしの恋』をテーマにして、人形を扱った作品を集めたりとか。
  ずばり怪奇小説について書かれたエッセイ『怪談入門』をコンセプトにした『乱歩の選んだベスト・ホラー』(森英俊、野村宏平編 ちくま文庫)みたいな例もあるので、せっかくの<幻想と怪奇>特集、もう少し頑張ってほしかった、というのが正直な気持ちですね。



4785955805江戸川乱歩妖美劇画館 1巻 (『パノラマ島奇談』『地獄風景』) (SGコミックス)
原作・江戸川乱歩 作画・上村一夫 作画・桑田次郎
少年画報社 2015-07-24

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4785955813江戸川乱歩妖美劇画館 2巻 (『白昼夢』『人間椅子』『芋虫』『お勢地獄』『巡礼萬華鏡』『お勢登場』) (SGコミックス)
原作・江戸川乱歩 作画・石川球太 作画・真崎・守 作画・池上遼一
少年画報社 2015-07-24

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『江戸川乱歩妖美劇画館1・2巻』(上村一夫、石川球太ほか 少年画報社)
 江戸川乱歩作品の漫画(劇画)化作品のアンソロジーです。主に乱歩の怪奇幻想小説の漫画化になっています。『パノラマ島奇談』『白昼夢』『人間椅子』『芋虫』など、エログロ風味も強い作品が多いですね。
 収録作品のほとんどが1970年代に描かれたものなので、現代の読者には絵柄的に受付けにくいものも多いかもしれません。



4800306116乱歩ワールド大全
野村 宏平
洋泉社 2015-03-19

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野村宏平『乱歩ワールド大全』(洋泉社)
 乱歩の小説作品を読み込み、分類・分析した労作です。キャラクターやキーワード、トリック集成、シチュエーションなど、とにかく分類が細かいのが特徴です。乱歩自身に、ミステリのトリックを分類した『類別トリック集成』がありますが、それを乱歩作品に適用したかのような作りになっています。
 1990年代の終わりに、雑誌『太陽』の特集をもとにした『江戸川乱歩』(平凡社コロナ・ブックス)というムックが出ていました。これは乱歩作品を象徴するキーワードを抜き出して、それぞれ執筆者がそのキーワードについて語るというものです。切り口は魅力的ながら、どうも物足りないと思っていたのですが、この『乱歩ワールド大全』はその物足りない部分を語りつくしてくれた、という印象です。
 乱歩作品に登場する怪人の一覧表なんて、初めて見ました。レファレンスとしても使える、乱歩ファン必携の本だと言えます。
 


B0116RSG7O乱歩奇譚 Game of Laplace 1 (完全生産限定版) [Blu-ray]
アニプレックス 2015-09-30

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『乱歩奇譚 Game of Laplace』(フジテレビ『ノイタミナ』枠にて放映中)
 これは、乱歩のエッセンスを使って、設定を現代に移し変えたオリジナルアニメです。現在6話まで放映されています。
 中性的な少年「コバヤシ」が、探偵の「アケチ」に出会い、友人の「ハシバ」とともに、猟奇的な犯罪を捜査してゆく…。これが、メインのストーリーになります。各話のタイトルは、原作小説の題名が使われていますが、中身は原作のエッセンスや登場人物の名前を借りているだけで、直接的な関係はありません。
 主人公の「コバヤシ」が、日常生活に生きがいを感じられず、猟奇的な犯罪や犯人に共感を抱くという、いささか精神病質の人間として描かれているのが特徴です。それに伴って、主人公が興味を抱いていない人間は、画面上でシルエットとしてしか表示されないという、前衛的な手法も使われています。
 「影男」や「黒蜥蜴」「二十面相」など、怪人も多数登場するので、ファンタジーとしての要素が強いのかと思いきや、各エピソードで起こるのは、現実を思わせる残忍な犯罪なのです。犯罪に対するやりきれなさなど、社会的なテーマも感じさせるのが面白いところですね。それらの犯罪に対し、主人公がどう動いていくのかが、見所になるのでしょうか。
 原作の改変というより、ほぼ別作品なので、原作ファンとしては、受け入れられない人もいるでしょうが、これはこれで、面白い試みだと思います。
異界へのまなざし  ステファン・グラビンスキ『動きの悪魔』(書籍版)
4336059292動きの悪魔
ステファン グラビンスキ Stefan Grabi´nski
国書刊行会 2015-07-27

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 〈ポーランドのポー〉〈ポーランドのラヴクラフト〉の異名を持つ、ポーランド文学史上ほぼ唯一の恐怖小説作家、ステファン・グラビンスキ(1887~1936)。
 彼の代表作とされる、鉄道テーマの連作怪奇小説集『動きの悪魔』(芝田文乃訳 国書刊行会)が、単行本として刊行されました。以前、電子書籍として、いくつかの短篇が刊行されていましたが、今回は短篇集の全訳になります。

 解説によると、原著には初版と二版があるそうで、初版は9篇、二版は3篇を増補しています。著者には、さらに二篇を加えた三版刊行の意思があったようですが、果たせずに終わっています。今回の邦訳作品集では、その2つのエピソードを加えた全14篇が収録されています。著者の意に沿ったという意味で、より完全版としての体裁が整った形ですね。 収録作品のタイトルを挙げておきましょう。

『音無しの空間(鉄道のバラッド)』 
『汚れ男』
『車室にて』
『永遠の乗客(ユーモレスク)』
『偽りの警報』
『動きの悪魔』
『機関士グロット』
『信号』
『奇妙な駅(未来の幻想)』
『放浪列車(鉄道の伝説)』
『待避線』
『ウルティマ・トゥーレ』
『シャテラの記憶痕跡』
『トンネルのもぐらの寓話』

 どの作品にも怪奇ムードが横溢しています。その男が現れると必ず事故が起こるという『汚れ男』、未来を舞台にした神秘的な異色作『奇妙な駅(未来の幻想)』、異様な存在感を持つ幽霊列車を扱った『放浪列車(鉄道の伝説)』、乗客が別の次元へ連れ去られてしまうという『待避線』、予知夢をテーマにした『ウルティマ・トゥーレ』など。

 原著二版には収録されなかった巻末の二篇『シャテラの記憶痕跡』『トンネルのもぐらの寓話』は、ことに力作です。

 『シャテラの記憶痕跡』
 シャテラは、以前、事故の際に目撃した女の首が忘れられなくなっていました。過去の出来事が別の次元に記録されており、何らかのきっかけでその記録を呼び出すことが出来ると考えたシャテラは、再び女に出会おうと、ある行動をとろうとしますが…。
 事故直後の女の生首という鮮烈なイメージ、男が狂気にとらわれていく過程、別次元の存在の予感、怪奇小説のお手本のような作品です。
 
 『トンネルのもぐらの寓話』
 代々、トンネルで働くフロレク一族。一族最後の男アントニは、長年トンネルで暮らした結果、外に出られない体質になっていました。ある日ふと見つけたトンネル内の洞窟に入っていったアントニは、古来より生きている人間によく似た生き物と出会いますが…。 
 ラヴクラフトを思わせる先住民と出会う男を描いています。しかもその生物に対し、恐怖心ではなく、友情を抱いてしまうという不思議な手触りの作品です。

 グラビンスキの作品を読んでいて感じるのは、「モダンな怪奇小説」だな、ということ。幽霊や超自然現象が作中に現れる場合でも、ウェットにならず、それらに対する著者の視線が非常に「客観的」で「即物的」なのです。人間の狂気をテーマにしている場合でも、ドロドロとした情念などは感じられません。
 乾いた文体で「事実」(かどうかはわかりませんが)を淡々と報告するといった感じでしょうか。そこに立ち上る不穏な不気味さが、グラビンスキの魅力だといえます。
 同じく、モダンな怪奇小説の創始者、エドガー・アラン・ポーとの共通点も感じられ、〈ポーランドのポー〉の異名にも頷ける点がありますね。

 それでは、もう一つの異名〈ポーランドのラヴクラフト〉の方はどうかといえば、こちらとも共通点が感じられます。端的に言えば、コズミック・ホラー的な世界観です。別の空間や次元など、この世界とは別の世界が存在するという世界観が、複数の作品を通して見られます。
 疑似科学的なムードがあり、SFの萌芽が感じられるという点でも、ラヴクラフトの後期作品にも通じるところがあります。

  本作品集には、怪奇小説だけではなく、鉄道を愛する男のもとに現れた幻影を描くノスタルジックな『音無しの空間』や、電車に乗り込んでは降りるという行為を繰り返す男を描くヒューマン・ストーリー『永遠の乗客(ユーモレスク)』といった、味わいのある作品も含まれており、怪奇小説だけではないグラビンスキの魅力も垣間見せてくれます。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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