『マルセル・シュオッブ全集』到着と造本のこと
4336059098マルセル・シュオッブ全集
マルセル・シュオッブ 大濱 甫
国書刊行会 2015-06-26

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 予約注文していた『マルセル・シュオッブ全集』(国書刊行会)が到着しました。普段は、ジュンク堂やリブロで購入するのですが、今回は応援の意味を込めて、版元の国書刊行会に予約注文していました。
 本日それが到着したので、とりあえずパラパラとめくってみました。これは素晴らしいです。内容もさることながら、箱の色合いといい、本体の造本といい、本としての存在感が圧倒的です。定価が税込み16200円なのですが、実際の本を手にしてみると、正直高いとは思えません。
 電子書籍流行りの昨今ですが、この本のような質感は、電子書籍では出しようがありません。将来的に、本造りはこうした趣味的な分野に特化されていくのかもしれませんね。

 さて、現代で趣味的な本造りをしている出版社といえば、国書刊行会以外、ほとんど思い浮かびません。装丁の洗練という意味では、いいものは沢山あると思います。たとえば、文遊社の海外文学の一連の装丁なんか、素晴らしい。
 ただ、生涯の蔵書として持っておきたいという意味での造本は、あまり見なくなったように思います。
 もともと海外文学、さらにその中の幻想文学は、絶対的な読者数が少ないこともあって、少部数で趣味的な本造りをしていた小出版社がいくつもありました。個人的に思い出すのは、主に1970年代に活動していた牧神社や創土社です。
 牧神社は、すでにない出版社ですが、平井呈一と関係の深かった出版社ですね。《アーサー・マッケン作品集成》とか、趣味的な怪奇小説のアンソロジー《こわい話・気味のわるい話》なんてのがありました。《こわい話・気味のわるい話》の造本は、非常に瀟洒なものでした。
 一方、創土社は、当時は海外幻想文学作家の作品集などを出していました。幻想文学系の書目を挙げてみましょう。

サキ『サキ選集』
モーリス・ルヴェル『ルヴェル傑作集』
L・J・ビーストン『ビーストン傑作集』
アンブローズ・ビアス『生のさなかにも』
アンブローズ・ビアス『悪魔の寓話』
アンブローズ・ビアス『悪魔の辞典』
アンブローズ・ビアス『修道士と絞刑人の娘』
アンブローズ・ビアス『完訳・ビアス怪異譚』
H・P・ラヴクラフト『暗黒の秘儀』
H・P・ラヴクラフト『ラヴクラフト全集Ⅰ・Ⅳ』(未完 2冊で途絶)
E・T・A・ホフマン『ホフマン全集』(未完 最終巻のみ未刊行)
ロード・ダンセイニ『ダンセイニ幻想小説集』
ロード・ダンセイニ『ペガーナの神々』
アレッホ・カルペンティエール『この世の王国』
クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国』
ブラックウッド『ブラックウッド傑作集』
テオフィル・ゴーチェ『ゴーチエ幻想作品集』
シャルル・ノディエ『ノディエ幻想作品集』
H・H・エーヴェルス『蜘蛛・ミイラの花嫁他』
H・H・エーヴェルス『吸血鬼』
H・H・エーヴェルス『魔法使いの弟子』
M・R・ジェイムズ『M・R・ジェイムズ全集(上下)』
クロード・セニョール『黒い櫃』
K・H・シュトローブル『刺絡・死の舞踏他』
グスタフ・マイリンク『緑の顔』
R・L・スティーヴンソン『ねじけジャネット』
A・レルネット=ホレーニア『モナ・リーザ ・ バッゲ男爵他』
グスターボ・アドルフォ・ベッケル『スペイン伝奇作品集』
ジェイムズ・サーバー『ジェイムズ・サーバー傑作選1・2』
コナン・ドイル『コナン・ドイルのドクトル夜話』
J・S・レ・ファニュ『アンクル・サイラス (上下)』
ガブリエル・ガルシア・マルケス『ガルシーア=マルケス全短篇集』
ヴィルヘルム・マインホルト『琥珀の魔女』
ニコラ・エドム・レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ『飛行人間またはフランスのダイダロスによる南半球の発見』

 今見ても、非常にマニアライクなセレクションです。当時としても明らかに少数の読者のために作った本、という感じがします。実際かなりの少部数だったようですし。
 創土社の単行本は、どれも基本的に箱入り、クロス装や革装で、本に箔押しでタイトル、ときにはワンカットのシルエットが印字されていたりしました。シンプルながらも飽きのこない造本で、ずっと持っていたいと思わせる本がたくさんありました。
 個人的に好きだったのは、エーヴェルスの『蜘蛛・ミイラの花嫁他』です。蜘蛛をあしらった形の銀の箔押しがされていて、これぞ怪奇小説!と感じさせる、みごとなデザインでした。参考に画像を挙げておきます。

蜘蛛

 創土社は今でも活動していて、最近では、国内作家の《クトゥルー神話》ものなどを出して好評のようです。いずれ、かってのような海外作品を出してくれるかもしれないと、ひそかに期待しています。

 創土社の本は、30~40年前の単行本も未だに所持していますし、死ぬまで蔵書として大事にしたいと思っています。
 もちろん国書刊行会の本も、《世界幻想文学大系》《魔法の本棚》《ドイツ・ロマン派全集》《怪奇小説の世紀》『独逸怪奇小説集成』など、大事にしている本は数え切れません。最近の本では、ヴァーノン・リーの『教皇ヒュアキントス』(中野善夫訳 国書刊行会)とか。
 『教皇ヒュアキントス』『シュオッブ全集』ももったいなくて、しばらく読めそうにないのですが、実際、これらの本は、生涯の蔵書になる本だと思うので、ゆっくり読み進めていきたいと思います。

 国書刊行会には、「所有する喜びを感じさせてくれる」本をこれからも沢山作っていっていただきたいですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

7月の気になる新刊とグラビンスキのこと
7月2日刊 ブライアン・オールディス『寄港地のない船』(竹書房文庫 予価756円)
7月8日刊 レオ・ペルッツ『第三の魔弾』(白水Uブックス 1728円)
7月8日刊 ロアルド・ダール『来訪者 新訳版』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価950円)
7月12日刊 佐藤春夫『たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集』(平凡社ライブラリー 予価1512円)
7月13日刊 カーター・ディクスン『ユダの窓』(創元推理文庫 予価1058円)
7月23日刊 ジョン・ヴァーリイ『逆行の夏 ジョン・ヴァーリイ傑作選』(ハヤカワ文庫SF 予価1404円)
7月24日刊 『江戸川乱歩妖美劇画館 1巻 パノラマ島奇談/地獄風景』(少年画報社 予価864円)
7月24日刊 『江戸川乱歩妖美劇画館 2巻 白昼夢/人間椅子/芋虫/お勢地獄/巡礼萬華鏡/お勢登場』(少年画報社 予価864円)
7月25日刊 ジョー・ヒル作/ガブリエル・ロドリゲス絵『ロック&キー』(飛鳥新社 予価4320円)
7月29日刊 セバスチアン・ジャプリゾ『新訳版 新車のなかの女』(創元推理文庫 予価1210円)
7月29日刊 海野十三『獏鸚(ばくおう) 名探偵帆村荘六の事件簿』(創元推理文庫 予価1080円)
7月刊 ステファン・グラビンスキ『動きの悪魔』(国書刊行会 予価2592円)


 ブライアン・オールディス『寄港地のない船』は、世代間宇宙船ものとして、未訳のオールディス作品では有名な作品ですね。本当に突然なのですが、映画化の話でもあるのでしょうか。

 レオ・ペルッツ『第三の魔弾』は、ペルッツの代表作というべき作品。国書刊行会の《世界幻想文学大系》に収録された作品ですが、近年は手に入りにくくなっていました。
 ペルッツ流ゴシック・ロマンスといった感じの作品で、彼の作品中ではシリアス度がいちばん高いんじゃないでしょうか。僕も高校生のころに読みましたが、叢書の中でも、物語の面白さとリーダビリティの高さは図抜けていました。
 というのも、この《幻想文学大系》って、象徴性や秘教性が高い作品が多くて、エンタテインメントとして無条件に楽しめる作品が少ないんですよね。エンタテインメントとして一般の読者にも楽しく読めるのって、この『第三の魔弾』のほかは、モームの『魔術師』、セルバンテスの『ペルシーレス』ぐらいでしょうか。とにかく、ペルッツの代表作が手軽な形で読めるようになるのは、嬉しいですね。

 ロアルド・ダール『来訪者 新訳版』は、ダールの傑作集の新訳版。ダール作品の中でも『オズワルド叔父さん』と並んで、艶っぽい話が多く、大人の童話集といった趣の作品集です。

 SF短篇の名手として知られるジョン・ヴァーリイも、いつの間にか入手できる短篇集が全滅のようで、再編集の傑作集として刊行されるのが『逆行の夏 ジョン・ヴァーリイ傑作選』です。ハヤカワは定期的に、往年のSF作家の傑作集を出しているような印象がありますね。

 7月の新刊でいちおしはこれ、ステファン・グラビンスキ『動きの悪魔』です。ポーランドでほぼ唯一とされる恐怖小説作家の短篇集です。訳者の芝田文乃さんが、以前から電子出版でいくつかの収録作品を出していましたが、今回は短篇集の全訳になるようです。
 このブログでも、収録作品のいくつかを紹介しています。( 「魔の列車  ステファン・グラビンスキ『動きの悪魔』」
 20年前の『東欧怪談集』でグラビンスキの作品を読んで以来、ずっと邦訳を待ち続けていた作家なので、感無量です。これを機に、もっと邦訳が進んでほしいですね。
 国書刊行会でも、すでに紹介ページができていたので、載せておきます。
 http://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336059291/

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果実たっぷりの女  唐瓜直『美しい果実』
4041030366美しい果実 (幽BOOKS)
唐瓜 直
KADOKAWA/角川書店 2015-05-22

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 第9回『幽』文学賞短編部門大賞の受賞作である、唐瓜直『美しい果実』 (幽BOOKS) は、恋人を食べるという「カニバリズム」と、人間が植物に変身するという「植物幻想」を合わせたような奇想小説です。

 皮膚の硬化する謎の病気にかかった妻は、夫に自分をある農園に埋めてほしいと懇願します。望み通り、農園に妻を埋めますが、そこには自分と同じように、妻を埋めたという夫たちが多数働いていました。やがて、妻を埋めた場所からは、人型の果実が育ち始めますが…。

 愛する妻や恋人にもう一度会いたい。男たちの純粋なまでの愛情が悲劇を引き起こす…と思いきや、そうはなりません。農園に埋められた女たちは、体に果実を宿した果実人間として生まれ変わり、その果実はこの世のものとも思えないほど美味なのです。
 妻をこの世にとどめておきたいと考える男たちの愛情は、やがて果実そのものとなった妻を食べたいという倒錯したものに変わっていきます。そこに悲壮感はほとんどなく、あっけかんとしたユーモアさえたたえています。
 テーマからは、グロテスクな作風を思い浮かべるでしょうが、そうした要素はあまり感じられません。むしろ、果実になった女たちのエロティシズム、食べることそのものに関する官能性が強く押し出されているのが特徴です。

 受賞作は短篇なのですが、本作はそれを核とした連作短篇集になっています。二話目以降の語り手は、妻を失った当事者だけでなく、マッサージ師であったり、一般の女性だったり、学生だったりと、バラエティに富んでいます。
 果実の特徴や、農園の主催者である男の謎などが、小出しに明かされてゆくミステリ的な興味もあり、読んでいくうちに作品世界が広がっていくのも魅力の一つですね。

 同種のテーマを扱った作品として、ジョン・コリア『みどりの思い』、水谷準『恋人を喰べる話』などが、選評でも挙げられていますが、確かにこれらの作品に近いようなトーンを持った作品ですね。自分が読んでいて思い出したのは、R・C・クック『園芸上手』(橋本槙矩、宮尾洋史訳『イギリス怪奇傑作集』福武文庫収録)です。
 あるいは、ハリー・クレッシング『料理人』(一ノ瀬直二訳 ハヤカワ文庫 NV)や、ジェフ・ニコルスン『食物連鎖』(宮脇 孝雄訳 早川書房)などとも、食に関する官能性を描いた作品としては共通するところがありますね。

 従来から、いわゆる「怪談」をテーマにしてきた『幽』文学賞ですが、今回から文学賞の名前から「怪談」を削除したそうです。それに合わせたかのように、本作は「怪談」というよりは「奇談」といった方がふさわしいような作品になっています。
 変わった小説、面白い小説を読みたい方には、オススメしておきましょう。

テーマ:ブックレビュー - ジャンル:小説・文学

短篇集を読む

4309023800ゾンビ・アパート
飯野 文彦
河出書房新社 2015-05-24

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飯野文彦『ゾンビ・アパート』(河出書房新社)
 主にノベライズで知られた作家ですが、時折発表していたホラー作品は、なかなか魅力的で短篇集がまとまるのを楽しみにしていました。
 将来を嘱望されていた落語家が邪神の眷属だったという、ひねったクトゥルー神話作品『襲名』、ゆがんだ親子愛を描く『愛児のために』などが面白いですね。江戸川乱歩の『押絵と旅する男』に着想を得たと思しい『横恋慕』は、レンズ効果を使い、自分の頭の中に横恋慕した女性を取り込んでしまおうとする男を描いた、奇想に富んだホラー作品。突拍子のなさに驚かされます。



4334753108薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・風刺短篇集 (光文社古典新訳文庫)
モラヴィア 関口 英子
光文社 2015-05-12

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アルベルト・モラヴィア『薔薇とハナムグリ』(関口英子訳 光文社古典新訳文庫)
 イタリアの文豪モラヴィアには、幻想的・超現実的な短篇を集めた《シュルレアリスム・風刺短篇集》があり、『薔薇とハナムグリ』には、50篇以上からなるこの作品集から、15篇が訳されています。
 割と単純な寓話から、ホラーそこのけの幻想小説まで、傾向もさまざまで楽しめます。
 投機目的で、生物とも物ともつかない謎の品物「パパーロ」を買い込んだ男の悲喜劇を描く『パパーロ』、悪臭を発し、さらに病気が進むと悪臭がかぐわしい香りに変わるという病気を描いた風刺的作品『疫病』などが面白いです。
 いちばん読み応えがあるのは、夢によって全島民を支配する怪物を描いた『夢に生きる島』。テーマはボルヘス、描写はカルヴィーノ、怪物はラヴクラフトといった感じの作品で、ユーモアさせたたえた不思議な雰囲気の怪奇小説です。



4153350206紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
ケン・リュウ 古沢嘉通
早川書房 2015-04-22

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ケン・リュウ『紙の動物園』(古沢嘉通訳 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
 アジア系アメリカ作家によるSF短篇集です。表題作の『紙の動物園』もなかなか良いのですが、他の収録作品がどれを取っても面白いので驚かされます。
 縄を結ぶことで情報を伝えるという技術を持つミャンマーの民族を描いた『結縄』、宇宙人がどんな「本」を作り得るのかを描いた『選抜宇宙種族の本づくり習性』、愛を持ったAIを作ろうとする夫婦を描く『愛のアルゴリズム』など。
 アジア風のウェットな感性を中心に据えた作品もあるかと思えば、中国風幻想譚とサイバーパンクを合わせたような『良い狩りを』みたいな作品もあり、伝統的なSFのテーマに沿って描かれた作品もありと、素晴らしい短篇集だと思います。一冊読めば、必ずどれか気に入る作品があるでしょう。、

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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