5月の気になる新刊と《ナイトランド》新創刊のこと
発売中 ヴィリ・ザイデル『世界最古のもの』(沖積社 2700円)
5月1日刊 ジーン・ウルフ『ジーン・ウルフの記念日の本』(国書刊行会 予価2592円)
5月7日刊 ホルヘ・ルイス・ボルヘス『幻獣辞典』(河出文庫 予価1188円)
5月8日刊 スタンリイ・エリン『特別料理』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価972円)
5月8日刊 パトリック・レドモンド『霊応ゲーム』(ハヤカワ文庫NV 予価1188円)
5月11日刊 バリー・ライガ『さよなら、シリアルキラー』(創元推理文庫 予価1296円)
5月12日刊 アルベルト・モラヴィア『薔薇とハナムグリ シュールレアリズム風刺短篇集』(光文社古典新訳文庫)
5月12日刊 《ナイトランド・クォータリー vol.01 吸血鬼変奏曲》 (アトリエサード 1836円)
5月15日刊 レオ・ペルッツ『スウェーデンの騎士』(国書刊行会 2592円)
5月20日予定 スタニスワフ・レム『短篇ベスト10』(国書刊行会 予価2592円
5月22日刊 ジェシー・バートン『ミニチュア作家』(早川書房 予価3240円)
5月22日刊 ジェニファー・アルビン『時を紡ぐ少女』(創元SF文庫 予価1404円)
5月22日刊 スタニスワフ・レム『泰平ヨンの未来学会議 改訳版』(ハヤカワ文庫SF 予価864円)
5月25日刊 パトリック・ネス『まだなにかある 上・下』(辰巳出版 予価1836円)
5月25日刊 『諸星大二郎 マッドメンの世界 文藝別冊 KAWADE夢ムック』(河出書房新社 予価1728円)
5月29日刊 ルネ・ナイト『夏の沈黙』(東京創元社 予価1836円)
5月29日刊 中村融編『街角の書店 18の奇妙な物語』(創元推理文庫 予価1015円)
5月予定 ハリー・スティーヴン・キーラー『ワシントン・スクエアの謎』(論創社)

 垂野創一郎さんの発行しておられる翻訳同人シリーズ≪ビブリオテカプヒプヒ≫の一冊、ヴィリ・ザイデル『世界最古のもの』が沖積社より商業出版として出ていました。値段は高めですが、オールド怪奇小説ファンには楽しめる作品ですので、オススメしておきます。
 ただ、同人版の方も、古書肆マルドロールさんで在庫があるようなので(こちらは1200円)、こちらの方がお求めやすいかと思います。

 5月は気になる新刊が多くて迷いますね。

 「ハヤカワ文庫補完計画」で、名作の復刊や新訳が相次いでいますが、5月の目玉はエリン『特別料理』とパトリック・レドモンド『霊応ゲーム』『泰平ヨンの未来学会議 改訳版』あたりでしょうか。
 『霊応ゲーム』はオカルト学園小説の名作なので復刊を喜びたいところです。レム『泰平ヨンの未来学会議』は絶版になって久しく、古書価もべらぼうな値段がついていたので、これも嬉しいところ。

 国書刊行会のジーン・ウルフとレム作品集は5月刊行になったようです。ほかにも国書からは、レオ・ペルッツの未訳作品『スウェーデンの騎士』が刊行。「波瀾万丈の冒険が展開されるピカレスク伝奇ロマン」とのことで、期待が膨らみます。邦訳されたペルッツ作品は、どれも色彩豊かで物語性も抜群なものばかりだったので、もっと邦訳が進むといいですね。今年はあと何冊かペルッツ作品が刊行されるようで、楽しみです。

 短篇集としては次の2冊が期待大です。

 まずは、光文社古典新訳文庫から刊行の、アルベルト・モラヴィア『薔薇とハナムグリ シュールレアリズム風刺短篇集』。文豪モラヴィアの幻想小説を集めた短篇集です。以前から、アンソロジーや雑誌などで、この短篇集からの邦訳が何篇が紹介されていますが、非常に風味豊かな作品ばかりで、短篇集の全訳を楽しみにしていました。ようやく邦訳が出版されるということで、感無量です。
 このブログでも以前に、この短篇集に収録された一篇『夢、うつつ』の紹介をしています。(『明日をも知れぬ身』)

 創元社からは、中村融編『街角の書店 18の奇妙な物語』が刊行です。〈奇妙な味〉の幻想小説を集めたというアンソロジーだそうです。創元社のホームページで既に収録作品も紹介されています。個人的には、ノスタルジックなファンタジーの名品『おもちゃ』(ハーヴェイ・ジェイコブス)の収録が嬉しいところです。

ジョン・アンソニー・ウェスト『肥満翼賛クラブ』
イヴリン・ウォー『ディケンズを愛した男』
シャーリイ・ジャクスン『お告げ』
ジャック・ヴァンス『アルフレッドの方舟』
ハーヴェイ・ジェイコブス『おもちゃ』
ミルドレッド・クリンガーマン『赤い心臓と青い薔薇』
ロナルド・ダンカン『姉の夫』
ケイト・ウィルヘルム『遭遇』
カート・クラーク『ナックルズ』
テリー・カー『試金石』
チャド・オリヴァー『お隣の男の子』
フレドリック・ブラウン『古屋敷』
ジョン・スタインベック『M街七番地の出来事』 
ロジャー・ゼラズニイ『ボルジアの手』
フリッツ・ライバー『アダムズ氏の邪悪の園』
ハリー・ハリスン『大瀑布』
ブリット・シュヴァイツァー『旅の途中で』 
ネルスン・ボンド『街角の書店』


 さて、ホラー・幻想文学ファンとしては、5月のいちばんのトピックは何といっても、ホラー&ダーク・ファンタジー専門誌《ナイトランド》の新創刊。アトリエサードに版元を移し、商業出版として再出発です。アトリエサードのページにて、内容が公開されています。

《ナイトランド・クォータリー》新創刊によせて
  /エドワード・リプセット

キム・ニューマン「血の約束―ドラキュラ紀元1944」
  訳/植草昌実
スティーヴ・ラスニック・テム「家族の肖像」
  訳/牧原勝志
E・F・ベンスン「塔の中の部屋」
  訳/中野善夫 画/藤原ヨウコウ
エドワード・M・アーダラック「復讐の赤い斧」
  訳/植草昌実
レイフ・マグレガー「ホイットビー漂着船事件」
  訳/牧原勝志
ルーシー・A・スナイダー「太陽なんかクソくらえ」
  訳/中川聖
ウィリアム・ミークル「長い冬の来訪者」
  訳/甲斐禎二
セシル・カステルッチ「エイミーとジーナ」
  訳/小椋姿子

井上雅彦「闖入者」
朝松健「〈一休どくろ譚〉かはほり検校」
石神茉莉「In the gathering dusk」

Night Land Gallery 清水真理?吸血鬼への思い
  /沙月樹京
魔の図像学(1)エドヴァルド・ムンク《吸血鬼》
  /樋口ヒロユキ
キム・ニューマンと《ドラキュラ紀元》/牧原勝志
ヴァンパイア・カルト/柳下毅一郎
ヴァンパイアの情念、理性への叛逆/岡和田晃
吸血鬼をめぐる、人形と小説のコラボレーション
  /牧原勝志
名訳と新訳――二つの『吸血鬼ドラキュラ』/植草昌実
吸血鬼小説ブックガイド/牧原勝志
未邦訳・吸血鬼小説セレクション/植草昌実
翻訳作品解説
創作解説
【予告】《ナイトランド叢書》今夏創刊!

表紙=清水真理


 特集はオーソドックスに「吸血鬼」。翻訳も多く、コラムやガイドの量も以前より増えているようです。
 予告に見えるのは、「《ナイトランド叢書》今夏創刊!」の文字。これはまさか、昨年初頭に中止になった同名叢書が刊行されるということでしょうか。鶴首して待ちたいと思います。

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たくさんのふしぎ  ディーノ・ブッツァーティ『モレル谷の奇蹟』
4309206735モレル谷の奇蹟
ディーノ ブッツァーティ Dino Buzzati
河出書房新社 2015-04-15

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 代表的な作品が岩波文庫に入るなど、日本でも再評価の進むイタリアの異色作家ディーノ・ブッツァーティ。イラストレーターでもあった彼の画風は、『シチリアを征服したクマ王国の物語』(天沢退二郎、増山暁子訳)で窺うことができます
 そんなブッツァーティの遺作となった作品が『モレル谷の奇蹟』(中山エツコ訳 河出書房新社)です。「聖女リータの奇蹟に感謝して捧げられた奉納画」というコンセプトで作られた画文集になっています。

 大枠として、ブッツァーティ自身が、父親の遺品のなかにノートを見つけたことから物語は始まります。そのノートには、聖女リータが起こした奇跡について記されていました。興味を持ったブッツァーティは、聖女リータの祠を探し出し、番人である老人から、聖女の奇跡の物語を聞きだします。老人の話と、目にした奉納画を元に描かれたのが『モレル谷の奇蹟』という趣向です。

 各ページごとに奇跡の現場を描いたイラストと、その事件についての文章が記されます。文章は簡潔で、ジャーナリスティックなタッチで描かれます。事件が真実かどうかの当否については記さず、あくまで淡々と事実(とされること)が述べられるのがミソ。
 各々の事件は、基本的には人間の願いに応えて聖女が起こした奇跡がメインになります。人間にとりついた悪魔を追い払ったとか、怪物を撃退したというオーソドックスなものから、狩ったサイの首に裁判にかけられる貴族の話とか、円盤が襲来した話などの、奇想天外なものまで、時代や事件もさまざまに描かれます。

 イラストの画風もさまざまで、素朴な奉納画風と思いきや、ポップアート風だったり、デフォルメの効いたものだったりと、いろいろな絵が楽しめます。
 なかには、ブッツァーティ作品として有名な「コロンブレ」も現れ、彼のファンにとってはうれしいところです。(添付している画像の一つがコロンブレです)

 文章が短く簡潔なので、物語が展開される前にエピソードが終わってしまうのですが、読者の想像力を刺激するという意味では、これはこれでありなのかもしれません。
 読んでいて思い出したのが、クリス・ヴァン・オールズバーグ『ハリス・バーディックの謎』(村上春樹訳 河出書房新社)という絵本。この作品も絵に対して、一言だけの文章が添えられているだけで、読者が物語を想像する…という趣向の作品です。ついでにこの作品もオススメしておきましょう。
 あくまで事実を淡々と記すという形をとりながら、明らかなホラを混ぜてくるあたり、ブッツァーティのユーモアがチャーミングに現れた作品だと思います。

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最近読んだ本

4163942106元気で大きいアメリカの赤ちゃん
ジュディ バドニッツ Judy Budnitz
文藝春秋 2015-02-07

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ジュディ・バドニッツ『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』(岸本佐知子訳 文藝春秋)
 独特な「奇妙な味」の短篇集『空中スキップ』(岸本佐知子訳 マガジンハウス)で話題を呼んだ著者の作品集です。
 バドニッツの作品は、非常にユニークなアイディアや設定にあふれているのですが、本当にユニークなのは、そのアイディアや設定を使った上で、登場人物たちの心の動きを丁寧に描いていくところです。
 例えば『わたしたちの来たところ』。アメリカで子供を生むために、何年もの間出産をこらえ、密入国を繰り返す女性を描いています。現実ではありえない設定なのですが、子供を思う母親の心、密入国をしようと考える女性のおかれた政治的・経済的状況などは、ファンタジーではなくリアリティを持って迫ってきます。かといって「政治的」な作品にならないあたり、リアリズムとファンタジーの絶妙なバランス感覚が保たれています。
 どれも読み応えがありますが、個人的なベストは、母と娘の電話での会話が全くかみ合わず、異常な状況が間接的にほのめかされるという、技巧的なホラー作品『来訪者』でしょうか。



4150413347ウェイワード―背反者たち― (ハヤカワ文庫NV)
ブレイク クラウチ Blake Crouch
早川書房 2015-03-06

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ブレイク・クラウチ『ウェイワード -背反者たち-』(東野さやか訳 ハヤカワ文庫NV)
 序盤から謎が謎を呼び、結末では超展開が待っている『パインズ -美しい地獄-』の続編になります。前作は、非常に上手くまとまっていたので、続編は難しいのではないかと思っていたのですが、前作での謎をすべて所与のものとして受け入れた上で、物語を展開させるという、見事な構成になっています。
 前作の結末では、その異常な世界をいったんは受け入れたかのように見えた主人公が、やはりその世界を受け入れられずに、行動を始めます。その異常な世界の中での殺人事件を追った主人公が出会うのは、さらに驚愕の事実なのです。
 三部作だということですが、すでに今作で現れている伏線や、引きの強い結末など、最終作への期待が高まります。



4041024757あもくん (幽COMICS)
諸星 大二郎
KADOKAWA/角川書店 2015-03-30

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諸星大二郎『あもくん』(角川書店幽COMICS)
 掲載誌が怪談専門誌である『幽』だったこともあって、実話怪談風のテイストが強い、連作短篇集になっています。タイトルは、幼い従姉妹から「あもくん」と呼ばれる少年、守のことを指しています。この守と、その父親に起こる怪奇現象を淡々と描いていくという趣向の作品です。
 「実話怪談風」とは言いましたが、話が進むにしたがって、スケールが大きくなっていくというか、ファンタジー的な方向に話が拡がります。女神的な存在が現れたりなど、融通無碍な展開が魅力ですね。本作と同じく、『幽』に連載されていた、綾辻行人『深泥丘奇談』にも似た、ユーモアと不気味さが混沌となった雰囲気の良作かと思います。



4088803078魔物鑑定士バビロ 1 (ジャンプコミックス)
西 義之
集英社 2015-02-04

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西義之『魔物鑑定士バビロ』(集英社ジャンプコミックス)
 『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』(集英社ジャンプコミックス)で知られる著者は、もともと怪奇やオカルトテイストを得意とする漫画家です。以前から、この人、ブラックな作品を描いたら、すごく冴えるんじゃないかと思っていました。
 『魔物鑑定士バビロ』は、まさにそのブラックでダークな資質が現れた作品です。人々の願いをかなえる呪具を持つ、「魔物鑑定士」バビロは、同級生である高校生オズに、さまざまな道具を貸し与えます。しかし、その結果は必ずと言っていいほど、悲惨な結果に終わるのです。
 何をやっても上手くいかない主人公のオズ、そしてそのオズに執拗に執着するバビロ、この二人の奇妙な関係が、徹底的にブラックに描かれていきます。最初は道具によって、幸せになったかのように見えたオズが、陥穽にはまり、悲惨な目に会う。これって、まさに『ドラえもん』の世界なのですが、この『バビロ』『ドラえもん』と違うのは、バビロがほぼ確信犯的にオズを陥れているところ。それでいて、彼はオズに幸せにしたいと、つきまとうのです。
 「闇のドラえもん」という評もあるようですが、いかにもと言う感じですね。

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ゆがんだ記憶  ホルヘ・ドラド監督『記憶探偵と鍵のかかった少女』
B00QTFIB88記憶探偵と鍵のかかった少女 ブルーレイ&DVDセット (初回限定生産/2枚組) [Blu-ray]
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント 2015-03-04

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 ホルヘ・ドラド監督『記憶探偵と鍵のかかった少女』(2013年 アメリカ)は、タイトルにもある「記憶探偵」を主人公としたSFミステリー作品です。「記憶探偵」とは、人間の記憶に入り込み、事件を解決するための情報を探し出す探偵のこと。この世界では、そうした特殊能力を持った少数の人間がいるのです。
 有能な記憶探偵であるジョンは、妻の死により、精神的なショックを受け、仕事の一線から離れていました。復帰するための仕事として依頼を受けたのは、引きこもった少女に対するケアでした。彼女の記憶から原因を探り出し、拒食症を直すことを目的に、その少女アナの記憶をのぞき始めます。
 なんと、その記憶の中には、クラスメイトに対する殺人未遂の記憶が含まれていたのです。アナの無実を信じるジョンは、真実を探ろうと、記憶の中をめぐりますが…。
 
 人間の記憶や深層意識に入り込むという、いわゆる「サイコダイブ」のテーマを扱った作品です。記憶探偵は、あくまで傍観者として記憶に潜入し、そこで何か影響を与える、ということはできません。その意味で、過去に起こった事実を淡々と調べていく、といった感じになります。
 探偵のジョンが妻の死の影響で、水があふれるイメージに遭遇すると、自分を制御できなくなってしまうという設定もあり、事件の調査も一筋縄ではいきません。
 頭が良く誤解されやすい多感な少女アナの印象が、後半になるにしたがって、平気で犯罪を犯すサイコパスなのではないかという疑惑に変わっていきます。天才的な犯罪者なのか、無垢な少女なのか、二転三転するのが見所です。
 記憶を覗き見るという、SF的な設定が使われていますが、記憶内の世界は、基本的には現実世界の記録であって、超自然的な現象が起こるわけではありません。その点派手さに欠けるのは確かですが、演出が上手いので、飽きさせません。
 映像はスタイリッシュ、テーマも面白いのですが、脚本上の矛盾点というか弱さがあります。記憶は主観的なものなので、その点で、メタな視点のトリックがあるのではないかと疑って観ました。確かにそうした方面でのトリックはあるのですが、肝心なところが説明不足なように思います。
 ミステリのファンには受けが悪いかもしれません。論理的整合性にこだわらず、ホラーやサイコスリラーとして観たほうが楽しめる作品でしょう。


プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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