3月の気になる新刊と2月の新刊補遺
2月24日刊 ヴァーノン・リー『教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集』(国書刊行会 予価4968円)
2月27日刊 エトガル・ケレット『突然ノックの音が』(新潮社 予価2052円)
3月6日刊 ブレイク・クラウチ『ウェイワード 逸脱者たち』(ハヤカワ文庫NV 予価1058円)
3月9日刊 アルフレート・クビーン『裏面 ある幻想的な物語』(白水Uブックス 1620円)
3月12日刊 イーデン・フィルポッツ『だれがコマドリを殺したのか?』(創元推理文庫 予価994円)
3月18日刊 『橘小夢画集 日本の妖美』(河出書房新社 予価3888円)
3月18日刊 ブラッド・ハニーカット『錯視芸術図鑑2 古典から最新作まで191点』(創元社 予価3456円)
3月20日刊 ピーター・ヘラー『いつかぼくが帰る場所』(早川書房 予価2484円)
3月20日刊 ピーター・メイ『忘れゆく男』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価1080円)
3月27日刊 加藤宏明監修・中村圭子編『橘小夢 幻の画家 謎の生涯を解く』(河出書房新社 予価1944円)
3月刊 野村宏平『乱歩ワールド大百科』(洋泉社 予価1620円)

 以前から予告されていた、ヴァーノン・リー幻想小説集ですが、突然刊行予告がなされてビックリです。お値段が張りますが、幻想小説ファンは買いでしょう。
 エトガル・ケレットはイスラエルの作家。奇妙な味の掌編集のようで、気になりますね。
 『ウェイワード 逸脱者たち』は、以前出た『パインズ』の続編のようです。前作がなかなか面白かったので、続編も読んでみようかと思います。

 橘小夢(たちばなさゆめ)は、幻の画家と言われる人です。幻想的かつ妖しい画風の人で、発禁になったという作品『水魔』や、『玉藻の前』という作品は実にすばらしいと思います。僕はこの2作品でファンになりました。画集も出ておらず、現在見られるのは、先年出た『魔性の女挿絵集』(河出書房新社らんぷの本)にいくつか収められた作品ぐらいではないでしょうか。
 弥生美術館で展覧会が行われるらしく、それに合わせて画集が2冊刊行になります。幻想小説ファンの方には親和性のある画家だと思うので、興味のある方は見てみてください。
 展覧会のお知らせはこちら(日本の妖美 橘小夢展
 
ある教養人の人生から  紀田順一郎『幻島はるかなり』
4879843318幻島はるかなり
紀田 順一郎
松籟社 2015-02-10

by G-Tools

 荒俣宏とともに、日本に幻想文学を根付かせた功労者である紀田順一郎。近年、著者の自伝的な随筆が何冊か刊行されましたが、その決定版ともいうべき回想記『幻島はるかなり  推理・幻想文学の七十年』(松籟社)が刊行されました。
 著者の名前は幻想文学ファンにはお馴染みですが、幻想文学だけでなく、戦後日本のミステリ黎明期には、ミステリに関する評論や活動も行っています。実際、本書の一部は『ミステリマガジン』に掲載されています。
 サブタイトルの「推理・幻想文学の七十年」からは、ミステリや幻想文学に絞った内容を思い浮かべますが、実際に扱われている内容はもっと広く、著者の半生記ともいうべき内容になっています。
 両親のことや育った環境、読書に興味を持ったきっかけから、なぜ特定のジャンルに惹かれるようになったのかなど、ミステリや幻想文学に関わるようになった理由が説得力を持って書かれています。
 もともと著者の守備範囲は非常に広く、ミステリや幻想文学だけにとどまるものではありません。著者もはじめからミステリや幻想文学にのめりこんだわけではなく、これらのジャンルにたどりつくまでの必然的な流れがあります。その読書遍歴、ジャンル遍歴を、ひとりの人間の人生、時代背景と重ね合わせながら丁寧に語っていくところが、この本の読みどころでしょう。
 ミステリがまだ広く根付く前のファン活動の様子や、ジャンル小説が当時世間にどう見られていたかなど、当時の時代の空気が感じ取れるところも、時代の証言として参考になります。
 著者が個人的に関わった多くの人が登場しますが、多くのページが割かれているのが、大伴昌司と平井呈一です。ことに大伴昌司との交友に関しては、印象深いエピソードも多く、興味深く読み進めることができます。
 幻想文学ジャンルの話に関しては、一章分が割かれていますが、先に出た『幻想と怪奇の時代』(松籟社)と重複する部分が多いのがちょっと残念ですね。この分野に関してもっと知りたい方は『幻想と怪奇の時代』も併読すると、興趣が増すかと思います。
 時代の背景や、一人の人間がどのように考え生きてきたのかが真摯に描かれており、その意味で、教養書の趣さえあります。衒いのない筆致には、現代の若い読者も共感を持てるでしょう。
 ミステリや幻想文学といったジャンルに興味のある人だけでなく、一般の方にも薦められる良書だと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

月の皮がむけるとき  タイガー立石『ムーン・トラックス』
4875024614ムーン・トラックス "MOON TRAX" (タイガー立石のコマ割り絵画劇場)
タイガー立石 Tiger Tateishi
工作舎 2014-12-11

by G-Tools

 1980年代前半に、思索社から《思索ナンセンス選集》というシリーズが出ていました。画家や漫画家によるナンセンスでアヴァンギャルドな漫画を集めたシリーズです。梅田英俊とか、佐々木マキ、久里洋二などの作家にまじって、面白い名前の作家がいました。それがタイガー立石(1941~1998年)です。
 その選集に収められていたのは『タイガー立石のデジタル世界』という作品集ですが、一読して、驚かされました。知的でユーモアたっぷり、斬新な手法としっかりした画力。デジタルビットで漫画を描こうなんて、当時誰も考えつかなかったでしょう。
 しかもタイガー立石が凄いのは、アヴァンギャルドな手法を使うにもかかわらず、手法倒れに終わらず、一般の人にもしっかりと楽しめるというところ。まさにエンターテインメントなのです。
 以前工作舎から刊行された『TRA(トラ)』は、著者の漫画作品を集めた作品集ですが、現在でも楽しく読むことができます。今回、著者の絵画作品集が出るということを聞いて、漫画作品は面白かったけど、絵画作品はどうなんだろう?と不安に思ったのですが、杞憂でした。
 今回刊行された『ムーン・トラックス タイガー立石のコマ割り絵画劇場』(工作舎)は、「コマ割り絵画」を集めたものです。「コマ割り絵画」は、名前の通り、コマで割った絵画で、絵画の手法で漫画を描いたものとでもいえばいいのでしょうか。
 漫画作品ほど、明確なストーリーやオチがあるわけではありません。その代わりに、思いもかけないイメージや大胆な構図が多用されていて、見る人を驚かせてくれます。絵画の遠近法を利用したトリック、形やイメージの変容など、エッシャーやマグリットを思わせる作品も見られます。
 以前から、タイガー立石の作品には、SF的な感性が感じられると思っていたのですが、この本の解説を読んで、その疑問が解消されました。
 彼はSF作品が好きで、よく読んでいたというのです。名前が挙げられていたのは、ロバート・シェクリイ、ロバート・A・ハインライン、筒井康隆などですが、一番影響を受けたと言っているのは、シェクリイの短篇集『人間の手がまだ触れない』(ハヤカワ文庫SF)だそうです。道理で、知的でスマートな感触があったわけです。
 一昔前、純文学と大衆小説の融合というテーマが取り沙汰されたことがありましたが、そういう観点から言うと、タイガー立石の作品は、アートとエンターテインメントの融合というべきでしょうか。とにかく「面白い絵」を見たい!という方には、オススメしたい作品集です。

tiger5.jpg tiger6.jpg tiger4.jpg tiger2.jpg
tiger1.jpg tiger3.jpg


テーマ:ブックレビュー - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する