12月の気になる新刊と11月の新刊補遺
11月28日発売 『ナイトランド・クォータリー新創刊準備号 幻獣』(書苑新社 1500円)
11月29日刊 ジャック・ケッチャム/ラッキー・マッキー『わたしはサムじゃない』
(扶桑社ミステリー 予価821円)
12月3日刊 エドワード・ゴーリー『むしのほん』(河出書房新社 予価1080円)
12月10日刊 東雅夫編/本堂平四郎『怪談と名刀』(双葉文庫 予価620円)
12月11日刊 タイガー立石『ムーン・トラックス タイガー立石のコマ割り絵画劇場』(工作舎 予価4104円)
12月19日刊 キリル・ボンフィリオリ『チャーリー・モルデカイ (1) 英国紳士の名画大作戦』(角川文庫 予価864円)
12月19日刊 キリル・ボンフィリオリ『チャーリー・モルデカイ (2) 閣下のスパイ教育』(角川文庫 予価864円)
12月19日刊 デイヴィッド・ゴードン『雪山の白い虎』(早川書房 予価2808円)
12月22日刊 荒俣宏編『怪奇文学大山脈3 西洋近代名作選 諸雑誌氾濫篇』(東京創元社 予価2916円)


 ついにホラー専門誌『ナイトランド』が復活になります。創刊準備号が11月28日に発売予定です。一般書店に配本されるようですので、期待して待ちたいと思います。

 タイガー立石『ムーン・トラックス』は、コマ割り絵画の作品集。亡くなってからしばらく経つので、タイガー立石の名前を知る人も少なくなったのではないでしょうか。
 タイガー立石は、ユーモアを得意とするマンガ家です。ただ単なるマンガ家というよりは、美術・デザインをしっかりと身につけたアーティストといった方がいいのでしょうか。絵画・マンガ・絵本など、多分野で活躍しました。恐ろしく高い技術で描かれた作品は才気を感じさせます。
 彼の短篇マンガは、もうマンガというより美術作品に近いレベルだと思います。しかも高尚にならず、飽くまで笑いを追及しているところが素晴らしい。内容的には、浅倉久志さんが集めていた≪ユーモア・スケッチ≫のマンガ版とでも言えばいいでしょうか。前衛的な手法を多用して描かれた作品は、ときに読者を唖然とさせます。
 彼のコミックを集成した『TRA(トラ)』(工作舎 2010年刊)は、お値段は張るものの、中身・造本を含め、永久保存版にすべき作品集でした。そんなわけで、『ムーン・トラックス』も期待大です。

 キリル・ボンフィリオリといえば、かってサンリオSF文庫から、怪作『深き森は悪魔のにおい』が出ていた作家です。なんとこの作品、シリーズ作品らしいのですが、今回映画化されるそうです。その恩恵というべきか、『深き森は悪魔のにおい』を含むシリーズ全作が邦訳されるそうです。
 
 荒俣宏編『怪奇文学大山脈3』は、何ヶ月も刊行が遅れていますが、今度こそ出るでしょうか。
欧米の怪奇小説をめぐって  ロシア、東欧、南欧、ラテンアメリカのアンソロジー
世界幻想文学大系 第34巻 ロシア神秘小説集 現代イタリア幻想短篇集 遠い女―ラテンアメリカ短篇集 (文学の冒険シリーズ) 新編バベルの図書館 第6巻
 イギリス、アメリカ、フランス、ドイツ以外の国の怪奇小説アンソロジーとなると、途端に数が減ってしまうのが実情なのですが、まとめて紹介しておきたいと思います。

 まずはロシアから。

 『怪奇小説傑作集5』(植田敏郎、原卓也訳 創元推理文庫)
 ドイツ編とのカップリング。ロシア編は、ミハイル・アルツィバーシェフ『深夜の幻影』、アレクセイ・レーミゾフ『犠牲』、ニコライ・ゴーゴリ『妖女 (ヴィイ)』、アントン・チェーホフ『黒衣の僧』、アレクセイ・N・トルストイ 『カリオストロ』を収録しています。
 なかでは、やはりゴーゴリの『妖女 (ヴィイ)』のインパクトが強烈。ユーモアとホラーが一体となった作風は、ロシア作品のなかでは異彩を放っています。

 沼野充義編『ロシア怪談集』(河出文庫)
 プーシキン、ゴーゴリ、ツルゲーネフ、ドストエフスキー、チェーホフなどの文豪の怪奇作品に加え、オドエフスキー、アレクセイ・K・トルストイなどの古典怪奇小説を収録しています。
 もともと怪奇プロパー作家が少ないお国柄ですが、なかでは特異なファンタジー作家、アレクサンドル・グリーンの怪談作品『魔のレコード』が面白いです。

 川端香男里編訳『ロシア神秘小説集 世界幻想文学大系34』(国書刊行会)
 タイトルには「神秘」とありますが、収録作品はかなりオーソドックスな怪奇小説が多く、エンタテインメントとしても、ひじょうに上質のアンソロジーです。
 何といっても、巻頭のアレクセイ・トルストイの3作が素晴らしいです。なかでもスラヴの吸血鬼を扱った『吸血鬼』『吸血鬼の家族』の緊張感が半端ではありません。『吸血鬼の家族』は、マリオ・バーヴァ監督『ブラック・サバス』で映像化もされている名作怪奇小説。

 川端香男里編訳『現代ロシア幻想小説』(白水社)
 ロシアの「幻想的」な作品を集めたアンソロジーです。白水社の≪現代幻想小説≫シリーズは、「幻想的」を広く解釈しているので、エンタテインメント作品だけでなく、幻想的な要素を持つ純文学からもセレクションがなされています。
 フョードル・ソログープ、エヴゲーニイ・ザミャーチン、アレクサンドル・グリーン、ミハイル・ブルガーコフ、アンドレイ・ベールイ、オシップ・マンデリシュタームらの作品を収録。

次は東欧から。ポーランド、チェコ、ハンガリーなど、国はたくさんあるのですが「東欧」とまとめられてしまうことが多いですね。

 沼野充義編『東欧怪談集』(河出文庫)
 ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリー、ユダヤ、セルビア、マケドニア、ルーマニアの東欧各国の怪奇幻想小説を集めたアンソロジーです。複数の国からセレクションされているので、当然といえば当然なのですが、刺激的でバラエティに富んだ、素晴らしいアンソロジーです。
 日本ではあまり知名度のない作家が、多く収録されているのも嬉しいところ。ポーランド編では、ポーランド唯一の怪奇小説の巨匠といわれるステファン・グラビンスキの作品も収録されています。
 ヤン・ポトツキ、レシェク・コワコフスキ、カレル・チャペック、カリンティ・フリジェシュ、イヴォ・アンドリッチ、ミロラド・パヴィチ、ダニロ・キシュ、ミルチャア・エリアーデなどの作品を収録。近年個人作品集が刊行されたリュドミラ・ペトルシェフスカヤの作品も収録されています。

 吉上昭三、直野敦、栗原成郎編『現代東欧幻想小説』(白水社)
 ポーランド、ルーマニア、ユーゴスラヴィア、チェコスロヴァキア、ハンガリーの幻想小説を収録しています。純文学的な作品よりも、SF、ファンタジーよりの作品が多いのが特徴です。
 ポーランド編は、後に日本でも短篇集が邦訳されたスワヴォーミル・ムロージェックの風刺的な作品、チェコ編では、カレル・チャペックとイヴァン・ヴィスコチルの愛すべきファンタジーが中心となっています。
 ルーマニア作家、ガラ・ガラクティオンの古典的怪奇小説『カリファールの水車小屋』『車が淵』が読みどころでしょうか。

 イタリア

 竹山博英編訳『現代イタリア幻想小説 世界幻想文学大系41』(国書刊行会)
 タイトル通り、現代(主に20世紀)のイタリア幻想小説を集めたアンソロジーです。お国柄というべきか、ひじょうに軽妙でファンタジーに富んだ作品が多く収められているのが特徴でしょうか。
 ジョヴァンニ・パピーニの古典的な怪奇小説、トンマーゾ・ランドルフィとディーノ・ブッツァーティの寓意に富んだファンタジー。風刺の効いた、プリーモ・レーヴィ、ジョルジョ・マンガネッリ、ルイージ・マレルバの作品など、質の高いアンソロジーです。

 スペイン

 東谷穎人編訳『スペイン幻想小説傑作集』(白水uブックス)
 呪われた義足をめぐるスラップスティック作品『義足』(ホセ・デ・エスプロンセダ)、オーソドックスに怖い怪談『背の高い女』(ペドロ・アントニオ・デ・アラルコン)、「死の舞踏」をテーマにした『ガラスの眼-ある骸骨の回想記』(アルフォンソ・ロドリゲス・カステラオ)など、力作が目白押し。
 なかでも、ベンセスラオ・フェルナンデス・フローレスの『暗闇』は、世界全体が暗闇に包まれてしまったら…という不条理な恐怖小説。かなり怖い作品です

 南欧

 西本晃二編訳『南欧怪談三題』(未来社)
ジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーザ『鮫女』、アナトール・フランス『亡霊のお彌撤』、 プロスペル・メリメ『ヰギヱの女神』の3編を収録しています。作者ではなく、内容的に「南欧」というくくりの編集ですが、なぜこの3編なのかもよくわからないという点で、アンソロジーとしては微妙なところです。

 南米、ラテンアメリカの作品では、普通小説に分類される作品でも、部分的に幻想的な要素が出てくることが稀ではありません。いわゆる「怪奇小説」とは異なるのですが、空想的な作品群には捨てがたい魅力があります。

 木村榮一編『美しい水死人 ラテン文学アンソロジー』(福武文庫)
 南米、ラテンアメリカの作品を集めたアンソロジー。ことさら幻想的な作品を選ぶというコンセプトではないようですが、結果的に、選ばれた作品が幻想的な作品ばかりなのは、南米の文学的な風土ゆえでしょうか。
 「生きている手」のバリエーション怪談『「アランダ司令官の手』(アルフォンソ・レイエス)、波と同棲する男を描いた幻想小説『波と暮らして』(オクタビオ・パス)、干し首を商売にしてしまった男を描く、ブラック・ユーモアあふれる作品『ミスター・テイラー』(アウグスト・モンテローソ)、短いながらも強烈な印象を残す怪奇小説『羽根枕』(オラシオ・キローガ)など。

 鼓直編『ラテンアメリカ怪談集』(河出文庫)
 神話的な情景を描いた『火の雨』(レオポルド・ルゴネス)、死のイメージに満ちた幻想小説『彼方で』(オラシオ・キローガ)、「夢みるものと夢みられるもの」を描いたボルヘスの代表作『円環の廃墟』、ユーモアと風刺に富んだ吸血鬼小説『吸血鬼』(マヌエル・ムヒカ=ライネス)、永遠に読み終わらない本を描く『魔法の書』(エンリケ・アンデルソン=インベル)など、傑作秀作揃い。
 怪談のみならず、ラテンアメリカ文学の代表的なショーケースとしても読める傑作アンソロジーです。

 木村榮一編『遠い女 ラテンアメリカ短篇集』 (国書刊行会)
 フリオ・コルタサルの作品が5編収録と、コルタサルその他の短篇集みたいな編集なのですが、コルタサル作品以外の作品のほうが面白いという、妙なアンソロジーです。
 魔術的な怪奇小説『チャック・モール』(カルロス・フェンテス)、ドッペルゲンガーを扱う『分身』(フリオ・ラモン・リベイロ)、SF的なテーマの『未来の王について』(アドルフォ・ビオイ=カサレス)など、秀作が多いのですが、巻末に収められた、マヌエル・ムヒカ=ライネスの『航海者たち』が、奇想あふれる波乱万丈の冒険小説で、読み応えがあります。

 ホルヘ・ルイス・ボルヘス編『アルゼンチン短篇集』(内田吉彦訳 国書刊行会)
 ボルヘスの編んだ個人編集の文学全集≪バベルの図書館≫の1冊です。アルゼンチンに絞った編集ですが、奇想に富んだ作品が多く、楽しめます。
 猿に言葉を話させようとする『イスール』(レオポルド・ルゴーネス)、ビオイ=カサレスのSF小説『烏賊はおのれの墨を選ぶ』、一読唖然とした結末が待つ『チェスの師匠』(フェデリコ・ペルツァー)などが面白いですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

iPad miniで電子書籍を読む、または『モーリス・ルヴェル短篇集』のこと

モーリス・ルヴェル短篇集 1 鴉(からす) モーリス・ルヴェル短篇集 2 大時計 夜鳥 (創元推理文庫)
 前回の記事で、iPad miniを購入するに至った経緯を書きました。今回はiPad miniを使ってみた感想と、電子書籍を読んでみた結果を紹介してみたいと思います。
 まず、iPad miniの全体的な使い勝手から。これはなかなかのものです。指でタッチして動かすのですが、反応も速く、サクサク動きます。
 特筆したいのはディスプレイの美しさ。miniのサイズは小さいので、表示される文字もかなり小さいのですが、にじんだりするようなことはなく、クッキリと表示されています。
 もっぱらブラウザでネット閲覧をしていますが、今のところ問題なく使えています。小さい文字は拡大すれば(拡大できます)、読めますし、そもそも端末を目に近づけて使うことが多いので、小さい文字でもそんなに気になりません。
 動画などの再生も綺麗ですし、映画などもちゃんと見れそうです。

 さて、タブレットを買ったからには、やはり電子書籍を読んでみなくてはなりません。まずは、以前「パブー」から購入したグラビンスキの短篇を読んでみようと思ったのですが、データ転送の仕方がわかりません。
 パソコンから転送はできるみたいです。付属のケーブルでパソコンとiPadをつなぎ、iTunesで転送してみます。iPad上には汎用的なフォルダがあるわけではなく、音楽ファイルは音楽ソフトに、書類ファイルは書類ソフトにと、アプリケーション単位でファイルを転送するようですね。この場合パソコン側のiTunesから転送を行うので、パソコンの方にiTunesをインストールしなくてはいけません。
 パソコン上のiTunesを立ち上げた状態で、iPadをケーブルでつなぐと、iTunes上にiPadのアイコンが現れます。そこで転送したいファイルの種類を選び、そこにファイルを入れて「同期」させると、iPad上にファイルが転送される仕組みになっています。電子書籍ファイルは、iBooksというアプリケーションに転送します。
 iBooksを立ち上げ、グラビンスキのファイルを開いてみます。おお! けっこう綺麗ですね。これはパソコンで読むよりは読みやすいかも。パソコンと違って、指でページをめくったりするので、本をめくるのと同じような感覚で読み進めることができます。

 そういえば、Amazonが出している電子書籍「kindle(キンドル)」のファイルも、iPadで読めると聞いた覚えがあります。というわけで、Amazonから電子書籍購入にチャレンジです。
 以前から気になっていた、モーリス・ルヴェルの短篇集を買ってみたいと思います。今のところ以下の2冊が出ています。訳者は、プロのフランス語翻訳者の方ですね。kindleオリジナルのようです。

 中川潤訳『モーリス・ルヴェル短篇集1 鴉(からす)』
 中川潤訳『モーリス・ルヴェル短篇集2 大時計』

 購入するのは、普通の本を買うのと同じように買えるみたいですが、買ったファイルはどこに保存されるんでしょうか? kindle端末を持っていれば、端末自身にダウンロードされるみたいですが、iPadの場合は直接ダウンロードはできないような気がする…。
 調べてみると、Amazonのアカウントに自分の持っている端末を登録し、iPadにkindleアプリをインストールしておけば、買った瞬間iPad上にダウンロードされるみたいです。確かにAmazonの購入ボタンの下の「配信先」にiPadの文字が表示されています。
 それでは、と購入ボタンを押した後、iPadのkindleアプリを立ち上げてみます。すると『モーリス・ルヴェル短篇集』2冊のアイコンが表示されています。
 『ルヴェル短篇集』のファイルを開いてみます。パブーで購入したグラビンスキは横書きだったのですが(パブーでは仕様上、横書きのみらしいです)、これは縦書きで作成されており、読みやすいですね。
 kindleでは、本の体裁の設定などをいろいろ変えることができます。以下に、主な設定や機能を並べてみました。

・文字サイズの変更
・行間の変更
・表示フォントの変更
・画面の明るさの変更
・しおり機能
・マーカー機能
・辞書機能

 なかなか多機能です。文字の大きさや行間など、自分の読みやすいように設定を変えられるのは、嬉しい機能ですね。とくに行間を変えられるのは、地味そうでいて、意外に読みやすさに影響しますね。広めにすると、かなり読みやすくなります。

 さて、モーリス・ルヴェルと言えば、20世紀前半に活躍したフランスの作家です。≪グラン・ギニョール≫と呼ばれる、残酷味あふれる作品を主に書きました。ほとんどの作品は短いショート・ショートで、日本でも昭和初期に盛んに紹介され、当時の探偵小説作家にも影響を与えました。
 主に翻訳家、田中早苗によって紹介され、その訳業は『夜鳥』(創元推理文庫)としてまとめられています。ちなみに、2003年に出たこの本、すでに絶版のようですね。
 『夜鳥』は、過去の翻訳を集めたものなので、いずれ新訳によるルヴェル作品集が出るかと期待していましたが、結局あれから10年以上経ってしまいました。まさか商業出版ではなく、こういう形で出版されるとは。

『モーリス・ルヴェル短篇集1 鴉(からす)』収録作品
『鴉』
『街道にて』
『悪い導き』
『消えた男』
『対決』

『モーリス・ルヴェル短篇集2 大時計』収録作品
『雄鶏は鳴いた』
『赤い光のもとで』
『執刀の権利』
『太陽』
『大時計』

 ほとんど本邦初訳の作品だと思います。どれもルヴェルならではの味があり、楽しめました。
 ルヴェル作品の特徴は「残酷さ」にあります。残酷さと言っても、現代の我々が思い浮かべるような、スプラッター的なそれではありません。何の変哲もない人間が追い詰められたとき、我が身かわいさに利己的な行為に走ってしまうとき、そんな誰にでもあり得る、人間の「残酷さ」を描いているのです。
 それでは、印象に残った作品を紹介していきましょう。

『対決』
 明らかな証拠がありながら、女を殺したことを否定する男ゴーテ。自白しそうもないゴーテに対し、判事は死体の絞殺の跡に、ゴーテの手をあてさせますが…。
 鉄面皮な男を驚愕に陥れたものとは? 短めの作品ながら、結末のイメージがショッキングで、インパクトがあります。

『消えた男』
 医学を志す青年は、実技試験としてある患者の診断を任されます。誤診として試験に落とされた彼は、自分の診断は正しいと信じて、患者の様子を見に、何度も繰り返し通います。すぐにも患者が死ぬだろうという考えに反し、患者は快方に向かいますが…。
 独善的な青年の行為が狂気を感じさせるサイコ・スリラーです。

『執刀の権利』
 経済的に困窮している医者は、手術費用ほしさに、経験が全くないにもかかわらず、患者に手術を施してしまいます。やがて死んだ患者に対し、良心の呵責を覚える男でしたが…。
 技術も経験もない男の手術は殺人と同じではないのか…? 倫理的なテーマを扱った作品です。

『太陽』
 自由に生きる孤児パラディユは、ある日軍隊に徴兵されてしまいます。規律に縛られた生活に嫌気がさしたパラディユは、脱走しますが、すぐに捕らえられてしまいます。牢屋のなかでの、彼の唯一の楽しみは太陽と空を見ることでした。営倉に入れられた彼は、拾ったガラス片を通して、空と太陽を眺めることに喜びを見出しますが…。
 哀感あふれる、味わい深い作品。

『大時計』
 妻の姦通現場を目撃した夫は、浮気相手の男と妻を部屋に監禁します。夫は、大時計が4時になったら殺してやると言い残し扉を閉めます。時間になり、扉を開けた夫が見たものとは…。
 これはなんとも残酷かつ痛烈な一編。想像力による刑罰が最も恐ろしい…というテーマを簡潔に描いた傑作だと思います。

 一編がひじょうに短く、さらりと読むことができます。まだ続刊予定があるようなので、楽しみに待ちたいと思います。

 さて、最近、電子書籍オリジナルの翻訳小説も出始めてきているようですね。
 物理的な本の形で出版されたものは、もちろん本の形で欲しいですが、グラビンスキやルヴェルのように、電子書籍版しかないものは、電子書籍で買わざるを得ません。個人的な希望なのですが、少しお金がかかってもいいので、希望者にはオンデマンドみたいな形で印刷本を作ってくれないものでしょうか。
 失敗した≪ナイトランド叢書≫もそうでしたが、マイナーなジャンル小説(とくに翻訳もの)の出版は、採算を取るのが難しいんでしょうね。
 欧米では、数百部単位で、そのジャンルのマニア向けに出版を行う出版社があるようですが、日本ではそれに類したことをやっている出版社はあまりないようです。国書刊行会はそれに近い出版社ですが、さすがに数百部単位では難しいでしょう。
 翻訳権の問題などもあるでしょうが、著作権の切れた作家の翻訳であれば、むしろ電子書籍に活路があるのかもしれません。最近まで電子書籍に対しては、あまり関心がなかったのですが、これからは成り行きを注視していきたいと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

なぜiPad miniを買ったのか?
 先日、アップルのタブレット「iPad mini 2」(旧名「iPad mini Retinaディスプレイモデル」)を購入しました。
 ほんの1ヶ月前までは、全くといっていいほど興味がなく、もちろん購入する予定もありませんでした。それがなぜ、購入に至ったかというと、それなりの理由があります。
 同じような状況に陥った人の参考にもなると思うので、その理由と顛末について、書かせてもらおうかと思います。ちょっと長くなるので、記事を2つに分けています。

 自宅で引いていたインターネット回線は、au(旧KDDI)のADSL回線でした。2003年に契約をしてから、10年以上、ずっとADSLを使用しています。それが先月、auから封書で通知がありました。ADSLの契約者数が減っているため、ADSLサービスを終了することになりました、ついては代替サービスへの切り替えをお願いします、とのことでした。
 代替サービスとして提案されていたのは、WiMAXルーターでした。無線の電波を受け取ってインターネット通信を行うという機械です。もともと持ち歩きを前提としたものじゃないの? と疑問が湧いたので、auに質問してみました。
 最新のルーターであれば、速度も速く、複数台のパソコンもつなげます。ホームルーターとして使えば、今までと同じか、それ以上の効率でインターネットが使えます、ということでした。
 他の選択肢はないのか、光ケーブルとかは使えないのか? という質問に対しては、お客様の地域では使えません、とのことでした。
 結局、選択肢がなさそうなので、WiMAXルーターに切り替えることにしました。メールアドレスは変えたくないので、他のプロバイダについては考えませんでした。どうせADSLに関しては、他のプロバイダもいずれ終了するんだろうから、という考えもありました。

 さて、自宅に届いたルーターを設置してみると、つながりません! 設置サービスの人が来て、設定してくれたのですが、その人によると、何やらここには電波が届かない、とのこと。
 ここで説明しておくと、そのルーターは「WiMAX」「WiMAX2+」「LTE」の3種の通信モードが使えます。

 「WiMAX」 容量制限なし 無料
 「WiMAX2+」 容量制限なし 無料 
 「LTE」 1ヶ月7ギガの制限 追加料金が必要

 モードの説明は受けていたので、当然「WiMAX」か「WiMAX2+」で使用するつもりでいました。「LTE」は追加料金もかかるし、容量制限があるからです。ところが、自宅の電波状況が悪く「WiMAX」も「WiMAX2+」も、電波が全くといっていいほど来ていないというのです! 自宅は東京23区内なのですが、まさか都内でつながらないとは思いませんでした。
 インターネット接続するためには「LTE」にするしかないというので、モードを切り替えると、つながりました。「LTE」は携帯の電波網なので、つながりやすいというのです。追加料金は、仕方ないにしても、容量制限が気にかかります。1ヶ月内で通信料7ギガを超えると、スピードが段違いに落ちてしまうらしいのです。
 実際、何日か使用してみると、あっという間に容量が増えていってしまいます。自宅では、家族で何台かのパソコンを接続していること、何かのソフトやプログラムをダウンロードすれば、1ギガ単位などすぐにいっぱいになってしまうこと、などを考え合わせると、正直、自宅パソコンで日常的に使えるレベルではありません。
 ルーターの契約は2年縛り。八方塞がりです。

 ここでちょっと考えました。他のプロバイダなら、代替手段があるんじゃないだろうか? 試しに、他のプロバイダ、具体的には、NTTぷららに訊いてみました。すると、光ケーブルが使えるというのです。
 悩みましたが、7ギガ制限下のネット環境はやはりきついと考え、光ケーブルを導入することにしました。NTTの方は、工事も設置もすんなりと行き、ネットも上手くつながりました。しかも持ってきてくれたルーターが無線LAN対応だったので、一気に無線環境もできてしまうというおまけ付き。auが光ケーブルが使えないといったのは何だったんでしょう?

 自宅回線は光ケーブルになったので、当然WiMAXルーターは不要になります。解約金を払って解約することも可能ですが(解約金が万単位と非常に高い!)、どうせなら、持ち歩いて使ってみようかと考えます。そこで初めてタブレットを買ってみようと思いつきました。
 タブレットの候補としては、グーグルの「Nexus 7」、ソニーの「Xperia」、アップルの「iPad」、マイクロソフトの「Surface」あたりです。
 Windowsがそのまま使えるということで、「Surface」が第一候補なのですが、お値段的に高い、ということで却下。安さなら「Nexus 7」ですが、ハード的に壊れやすいとのレビューも多いようで、不安なので、これも却下。
 テレビも見れる、ウォークマンとしても使える、という点で「Xperia」は魅力的です。「Xperia」か「iPad」かに絞れたのですが、やはり実機を見てみないとわからないな、ということで、お店まで出かけて見てみることにしました。
 実際に実物を見て、触ってみると、やはり「iPad」が圧倒的でした。機能面としてはどうかわかりませんが、購買欲をそそる、という点では「iPad」の圧勝です。
 あとは「iPad Air」か「iPad mini」かの二択です。機能的にはほぼ同じらしく、違いはサイズのみです。持ち歩きやすさという点で、「iPad mini」を選びました。
 たまたま、それぞれの最新機種が発売になったばかりだったので(「iPad Air2」「iPad mini3」)、最新機種にしようかと思ったのですが、お店の人に、機能的には最新モデルと一世代前とほぼ変わりがないと言われました。結局一世代前の「iPad mini2」を購入することにしました。

 思いもかけずに、タブレット購入になったわけなのですが、電子書籍について興味が出てきたこともあり、この際タブレットで電子書籍を読んでみようかと思います。
 そのあたりのことについては、記事を改めて書きたいと思います。

 最後に、auには苦言を呈しておきたいと思います。まだ相当数の契約者がいるであろうADSL回線を、一方的にプラン打ち切りをするのはいかがなものかと思います。実際、ADSL回線の打ち切りを発表したのはauだけのようですし。
 ADSLを打ち切られた場合、WiMAXの電波圏外のため、インターネットにつながらなくなってしまう地域もあると聞きます。商売上、採算のとれない部門を閉鎖するのはわからなくもありませんが、インフラの一つである以上、ある程度の社会的な責任はあるのではないでしょうか。

高山和雅『天国の魚(パラダイス・フィッシュ)』

4883794016天国の魚
高山 和雅
青林工藝舎 2014-09-20

by G-Tools

 高山和雅のコミック作品『天国の魚(パラダイス・フィッシュ)』(青林工藝舎)は、どこか懐かしい味を持ったSF作品です。

 巨大彗星の接近により、破滅の迫る地球が舞台です。島に暮らす家族5人は、本土への避難をあきらめ、島の施設に過去に作られたというシェルターに逃げ込みます。
 巨大な地震と津波に襲われ、意識を失った直後、5人は自分たちがなぜか町のなかにいることに気づきます。しかも驚くべきことに、その町は現代の町ではなく、1970年代の町だったのです。
 町の人たちは自分たちのことを知っており、家族は、以前からその町で仕事をし、居住していたことになっているのです。違和感を感じながらも、日常生活を送ることになる家族でしたが…。

 過去の時代に来ていることから、タイムトラベルものと思いきや、さにあらず。その後も二転三転し、次々と事態が変転していき、退屈する暇がありません。
 「破滅テーマ」「タイムトラベルテーマ」、他にもSFでお馴染みのテーマがこれでもかとばかりに放り込まれています。正直、個々のテーマ自体に目新しさはあまりありません。ただ、そのテーマの演出と構成がひじょうに巧みなので、一気に読ませられてしまいます。
 いろいろなSFのテーマが扱われているので、SF作品を多く読んでいる人ほど、楽しめるのではないでしょうか。もちろんSF慣れしていない人でも、楽しく読める作品だと思います。
 SFのガジェットやテーマだけが先行するのではなく、メインとなる家族5人の人物も、細やかに描かれています。家族同士の愛憎、運命の皮肉、そして最終的には驚愕の結末へと流れ込むのです。
 複雑な構成をもつ作品ですが、読後感はオーソドックスなSFのそれです。筋は確かに複雑なのですが、作品中で丁寧に絵解きされていくので、読んでいけば、混乱することはないでしょう。
 クライマックスに明かされる事件の真相、そして家族5人の選ぶ、それぞれの選択。盛り込まれたさまざまなテーマ、緻密な構成、物語と有機的に結びついた人物像と、おそるべきバランスの良さと完成度です。再読、三読したときにも、また違った味わい方ができる、懐の深い作品だと言えます。

 初めて聞く作者名だったので、新人だとすると、ものすごい筆力と構成力だと驚いたのですが、調べてみると、ベテランの作家だったのですね。かなり寡作なようで、他の作品は現在手に入らないようですが、これは他の作品もぜひ読んでみたい作家です。
 物語の筋を細かく紹介すると興をそいでしまうタイプの作品だと思うので、あまり内容は紹介しませんでしたが、共通する印象の作品を挙げることで、具体的な物語を紹介するのに代えさせてもらいたいと思います。
 広瀬正『マイナス・ゼロ』、ケン・グリムウッド『リプレイ』、フィリップ・K・ディックの諸作、フレッド・セイバーヘーゲン『バースディ』、ロバート・A・ハインライン 『輪廻の蛇』、星野之宣『2001夜物語』
 これらのタイトルでピンと来た方には、オススメしておきましょう。

テーマ:マンガ - ジャンル:本・雑誌



プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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