11月の気になる新刊と10月の新刊補遺
10月25日発売 『ミステリマガジン12月号 特集 エドワード・ゴーリー』(早川書房 946円)
10月25日発売 『SFマガジン12月号 R・A・ラファティ生誕100年記念特集』(早川書房 967円)
10月29日刊 フラン・オブライエン『スウィム・トゥー・バーズにて』(白水Uブックス 1836円)
11月6日刊 アンリ・トロワイヤ『仮面の商人』(小学館文庫 予価616円)
11月7日刊 大森望編 フィリップ・K・ディック『人間以前』(ハヤカワ文庫SF 予価1166円)
11月7日刊 ニック・カッター『スカウト52』(ハヤカワ文庫NV 予価1188円)
11月12日刊 フィッツ=ジェイムズ・オブライエン『不思議屋/ダイヤモンドのレンズ』(光文社古典新訳文庫)
11月12日刊 エレナー・アップデール『最後の1分』(東京創元社 予価1944円)
11月21日刊 荒俣宏編『怪奇文学大山脈3 西洋近代名作選 諸雑誌氾濫篇』(東京創元社 予価2916円)
11月21日刊 ダフネ・デュ・モーリア『いま見てはいけない』(創元推理文庫 予価1296円)
11月21日刊 アンドリ・S・マグナソン『ラブスター博士の最後の発見』(創元SF文庫 予価1080円)
11月21日刊 ジェフ・ヴァンダミア『監視機構』(ハヤカワ文庫NV 予価1188円)
11月28日刊 平岡敦編訳『最初の舞踏会 ホラー短編集3』(岩波少年文庫 778円)
11月28日刊 中村融編『黒い破壊者 宇宙生命SF傑作選』(創元SF文庫 予価1080円)

11月下旬発売 ハヤカワ文庫復刊フェア
ロバート・L・フィッシュ『シュロック・ホームズの冒険』ハヤカワ・ミステリ文庫
クリスチアナ・ブランド『ジェゼベルの死』ハヤカワ・ミステリ文庫
アガサ・クリスティー他『漂う提督』ハヤカワ・ミステリ文庫
アーシュラ・K・ル・グィン『風の十二方位』ハヤカワ文庫SF
ジョージ・アレック・エフィンジャー『重力が衰えるとき』ハヤカワ文庫SF
マーガレット・アトウッド『侍女の物語』ハヤカワepi文庫
牧野修『MOUSE(マウス)』ハヤカワ文庫JA

 11月は気になる新刊が目白押しです。
 『人間以前』は、ディックの短篇を再集成する〈ディック短篇傑作選〉の最終巻です。毎回、初邦訳の作品を期待していたのですが、ディックの短篇はほとんど邦訳されてたんですね。ともあれ、ディックの短篇集が手に入りやすくなったのは慶賀すべきことだと思います。
 光文社古典新訳文庫からは、なんとフィッツ=ジェイムズ・オブライエンの短篇集が。以前創元文庫から出た、大瀧啓裕訳の『金剛石のレンズ』が決定版といってもいい作品集だったので、どうももったいない感じがします。と思ったら、『金剛石のレンズ』はすでに絶版! びっくりしました。その意味では時宜を得た企画なのかも。
 荒俣宏編『怪奇文学大山脈』の最終巻は11月刊行になったようですね。質に関しては言うことなしなので、ただただ楽しみです。
 『いま見てはいけない』は、ダフネ・デュ・モーリアの短篇集。表題作は、かって三笠書房から出ていた短篇集『真夜中すぎでなく』に収録されたものと同じ作品でしょうか。
 岩波少年文庫の少年向けホラー短篇集の3弾目は、なんとフランスものです。『最初の舞踏会 ホラー短編集3』は、フランスのホラー作品を集めたアンソロジー。紹介文には、シュペルヴィエルやエーメの作品が言及されていますが、本邦初訳作品も含まれているようです。
 下旬には、ハヤカワ文庫復刊フェアも行われます。正直、あんまり魅力的なラインナップではないのですが、なかでは、ル・グィン『風の十二方位』がオススメでしょうか。

『怪奇文学大山脈3 西洋近代名作選 諸雑誌氾濫篇』は、さらに刊行がずれて、12月になったようです。(12月22日刊行予定)
『ナイトランド』復活!
4883751821ナイトランド・クォータリー新創刊準備号 幻獣
アトリエサード
書苑新社 2014-11-28

by G-Tools

 本邦唯一のホラー専門誌『ナイトランド』が休刊してから約1年になります。また、今年春に提案された新企画≪ナイトランド叢書≫も、予約者が規定数に満たずに企画倒れになってしまいました。
 そして、その直後に本誌『ナイトランド』の無期限休刊のお知らせ。海外ホラー出版の難しさを感じさせられる出来事でした。

 ところが、ここにきて、何と『ナイトランド』の復刊の予定が持ち上がっています!
 発行はアトリエサード。2015年5月より再開予定とのことです。また、11月下旬にはプレ復活号が発売されるとのことで、なんとも嬉しいニュースです。
 正式に出版社から刊行されるため、全国書店の流通ルートに乗ることになるようです。また編集長の植草さんはアトリエサードの編集スタッフになるそうで、もしかしたら、≪ナイトランド叢書≫の企画復活もあるのかもしれません。

 来年5月発売号の特集は「吸血鬼」、11月下旬発売のプレ復活号の特集は「幻獣神話(仮題)」。内容はアート半分、作家4名の作品と植草さんのラヴクラフト新訳1編とのことです。
 ただ、少し心配なのは、発行元がアトリエサードということで、雑誌のカラーが変わってしまうのではないかということです。もともとビジュアルに強い出版元だと思うのですが、変にサブカルアートっぽい雑誌になってしまわないか心配です。現にプレ復活号のメインはアートのようですし。
 そういえば、1970年代に出ていた伝説の怪奇文学専門誌『幻想と怪奇』でも、アート特集のページがありました。アーサー・ラッカムとかハリー・クラークとか、アルフレート・クービンなど、幻想的な絵画や画家の特集でした。そういう感じならいいんですけどね。
 全く同じ編集方針を貫くのは難しいとは思いますが、以前の水準での復活を強く希望したいところです。とりあえず、形はどうあれ『ナイトランド』復活、心から喜びたいと思います。

※追記
 プレ復活号である『ナイトランド・クォータリー新創刊準備号 幻獣』(アトリエサード)は、11月28日発売になったようです。内容は以下のようなもの。

藤原ヨウコウ幻想絵巻
  /H・P・ラヴクラフト「ダゴン」訳=植草昌実
ラヴクラフト「ダゴン」の翻訳をめぐって/植草昌実

井上雅彦「聖アントワーヌの変奏」
立原透耶「白澤の死」
石神茉莉「驚異の部屋」
間瀬純子「血の城」

幻獣ブックガイド/植草昌実
幻獣的オブジェたち〜マンタム、太田翔、林美登利
  /沙月樹京
アメリカの「幻獣」たち〜恐竜、インディアン、海賊
  /徳岡正肇

《ナイトランド》の誕生と休眠、そして復活までの軌跡

表紙装画=Daniele Serra

版元のページのリンクを貼っておきます。(http://athird.cart.fc2.com/ca8/108/p-r2-s/)

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電子書籍について考える
 昨今、電子書籍流行りのようですが、僕は今まで、電子書籍を購入したことがありません。専用端末ももちろん持っていません。興味はあるものの、手を出しかねていました。
 そんなところに、前回の記事でも紹介した、グラビンスキの翻訳が電子書籍で発売されたことを知り、電子書籍購入にチャレンジすることにしました。
 素人なりに、いろいろ調べてみて、電子書籍について少し思うところもありました。そのあたり、ちょっと書いてみたいと思います。
 参考になることもあると思うので、購入から実際に読んでみるところまで、プロセスを順を追って説明していきたいと思います。購入したのは、電子書籍販売サイト「パブー」です。


1 目当ての電子書籍が、専用端末でないと読めないのかどうかを調べる
 電子書籍購入の前に、その電子書籍を読める環境が整っているのかを調べなければなりません。専用の端末(例えば「kindle」とか「ipad」など)が必要なのか、パソコンのブラウザソフト(「インターネットエクスプローラ」など)で読むことができるのか。
 調べたところ、「パブー」に関しては、ブラウザで読めるようです。

2 電子書籍販売サイト「パブー」に登録
 個人の情報を入力して、登録を行います。ここは問題ありません。

3 支払い方法は
 支払方法は、クレジットカードと「おさいぽ!」というサービスの2つがあります。
 「おさいぽ!」は、それ専用のサイトでポイントを購入しておき、そのポイントで「パブー」から電子書籍を買うというシステムのようです。ややこしいのは「パブー」と「おさいぽ!」は、全く別のサービスであり、別のサイトになっているということですね。

4 「おさいぽ!」に登録
 サイトに登録を行い、ポイントを購入します。1円=1ポイントです。ある程度まとめて、ポイントを購入したほうがいいようですね。

5 電子書籍を購入
 「パブー」に戻り、ログインを行います。欲しい電子書籍をショッピングカートに入れ、先ほど購入したポイントで支払いを行います。購入が完了すると、マイページの「購入した本」にデータが登録される仕組みです。

6 電子書籍を開く
 「購入した本」から、開きたい本を選び「この本を開く」のボタンをクリックします。本が開きました!
 ただ、ちょっと読みにくい。プリントして読めないものかどうか、考えます。

7 ファイルをダウンロードする
 「パブー」では、購入した電子書籍のファイルをダウンロードすることができます。購入という意味での「ダウンロード」ではなく、既に購入済みの電子書籍ファイルを、ファイルとして落とす、という意味の「ダウンロード」です。
 ファイルの種類としては、EPUB形式とPDF形式のダウンロードが可能です。
 EPUB形式は、文字が「リフロー」するタイプ。画面上で文字を拡大すると、その分改行位置や文章の位置がずれこんでいく、という形式です。
 それに対し、PDF形式は「固定型」。文字が埋め込まれて固定されるので、拡大しても文字のずれが発生せずに、1ページに収まっている文字の量は変わらないというものです。
 とりあえず、EPUB形式でダウンロードしました。

8 PDF形式で再ダウンロード
 プリントしようとしたのですが、上手くプリントできません。調べてみると、EPUB形式はもともと印刷を想定していないようです。というわけで、もう一つのPDF形式で再度ダウンロードします。

9 PDFからプリント
 PDFファイルを開き、そこからプリントします。プリントしたものを綴じて、冊子の形にしました。

10 読む
 プリントしたものを読みます。ようやく読書開始です。でも考えたら、これじゃあんまり電子書籍の意味ないですね。


 実際に使ってみて思ったのは、「パブー」は、電子書籍としては、とてもわかりやすくて、購入しやすいタイプのサイトだということです。専用の端末もいらないし、電子書籍を買って読んでみたい! という人には、ファーストチョイスとしてオススメしておきたいと思います。
 さて、以下は今回いろいろ調べてみて、電子書籍について感じたこと、考えてみたことなどを、まとめたものです。まだ専用端末や他のフォーマットの電子書籍を使ったことがないので、かなり主観の入った意見であることをご了承のうえ、お読みください。


●フォーマットがいろいろ?
 まず思ったのは、販売元やメーカーなどで、電子書籍のフォーマットが異なったり、著作権の扱いが異なったりしているので、自分の買った電子書籍をどう読むのか、どう扱えるのか、といった点が、ひじょうに分かりにくいところですね。

●「所有」ではなく「レンタル」?
 また、買った電子書籍はずっと読めるのか? という点もはっきりしません。販売元がサービスを中止して、自分の所有している電子書籍が全て読めなくなった…というニュースも最近ちらほら聞きます。
 現在の電子書籍の主流は、電子書籍のファイルそのものをダウンロードして購入するのではなく、ウェブ上、ネット上で読むだけの権利を買う、といった体裁のものが多いようです。感覚的には「所有」ではなく「レンタル」みたいな感じです。
 「所有」ではないので、例えばファイルをコピーして、別の端末上に持っていって読むなどの行為もできなかったりします。

●結局、ずっと読めるのかどうか?
 ファイルの形式も統一されていないので、将来的に自分の購入した電子書籍のフォーマットが読めなくなってしまう…という可能性も高いです。昔のCD-ROMが現在ほとんど読めなくなっているのと同じですね。主流のフォーマット形式はEPUBになるんだと思いますが、これもバージョンが上がっていったときに、古いEPUBファイルの文字レイアウトなどを崩さずに読むことができるのかも疑問です。
 こう考えてくると、紙の書籍の使いやすさ、読みやすさというのは、ひじょうに優れたものだったんだなあ、と感じますね。購入本を全て電子書籍にするというのは、将来的にも「本」が使い続けられるか? という点では、とてもリスクが高い行為だと思います。

●データを保存し続けるコスト
 ファイルをダウンロードできるタイプの電子書籍、「パブー」などがそうですが、仮にファイルをダウンロードできて、なおかつそのファイルが読める環境もあったとします。それでも、そのファイルを保管し続けられるか? という問題があるのです。
 自分のパソコンやメディア、外付けハードディスクなど、ファイルを保存するための機器はいろいろありますが、これらはいずれ壊れて駄目になります。
 定期的にバックアップをとって、データを自分で管理していかなければならないのです。個人の管理が難しいなら、企業のほうで保管してもらおう、という考え方もあります。企業が提供するネット上のスペースにデータを保管する、いわゆるオンラインストレージと呼ばれるものですね。
 これもその企業が倒産したり、サービスを停止するといわれればそれまでです。

●ジャンルによって向き不向きがある?
 電子書籍に向いている本のジャンルというのはあると思います。まず、実用書とかマニュアル本。実際、ネットでいろいろなハウツー法などを検索して参考にする、というようなことは日常的にやっていますから。検索などもできるという点で、実用書は電子化に合っているジャンルではないでしょうか。
 あと、コミックも電子化に向いているジャンルですね。巻数の多い作品などは、むしろ読みやすいかもしれません。

●小説や文学について
 小説や文学はあまり電子書籍に向いていない気がします。
 個人的にこのジャンルが好きだからというわけでもありませんが、怪奇小説や幻想文学を電子書籍で読みたいか? と言われると、あんまり読みたくないですよね。
 電子書籍と紙の書籍の比較で、紙の利点を説くときに、よく言われるのが、装丁や本の質感など、本の物理的な側面です。物理的な本そのものに対する愛情といいますか、怪奇小説や幻想文学においては、とくにその点が強いのではないかと思います。
 文学関連の愛読者にとって、「蔵書」というのは、ひじょうに大事なものです。そういう意味で物理的な「所有感」というのは、重要だと思います。
 そのとき読めればいい、別に所有していなくてもいい、というなら、電子書籍というのも悪くない選択でしょう。

●結論
 個人的には、本はずっと紙の書籍で読み続けていくと思います。今回のグラビンスキのように、電子媒体でしか読めない、というタイプの作品は買うかもしれませんが、やっぱり本は物理的な形で持っていたいのです。
 ネットで調べてみると、電子書籍を印刷・製本してくれるというサービスもあるようです。いわゆる「オンデマンド」というやつですね。こうしたサービスが生まれるのも、本の形で所有したいという需要があるからではないでしょうか。
魔の列車  ステファン・グラビンスキ『動きの悪魔』(電子書籍版)

グラビンスキ
 ポーランドの作家、ステファン・グラビンスキ(1887~1936)は、ポーランド文学史上ほとんど唯一とされる恐怖小説専門の作家です。「ポーランドのポー」や「ポーランドのラヴクラフト」と称されているとか。
 邦訳はおそらく、短篇『シャモタ氏の恋人』(沼野充義訳『東欧怪談集』河出文庫所収)のみだと思います。『東欧怪談集』を読んだときに、この『シャモタ氏の恋人』がひじょうに印象に残っていたので、グラビンスキの作品をもっと読んでみたいものだと思っていました。
 グラビンスキについて調べようと思っても、普通の文学事典には名前すら載っていません。『東欧怪談集』の解説のほかには、フランツ・ロッテンシュタイナーの『ファンタジー(幻想文学館)』(創林社)のポーランドの章で紹介されているぐらいでしょうか。
 あと、あの本には載っているかも、と思い立って索引を調べてみると、ありました。ジャック・サリヴァン編『幻想文学大事典』(高山宏、風間賢二監修 国書刊行会)には、グラビンスキの紹介ページがありました。さすが怪奇小説専門の事典です。ただ、短い紹介文ではありますが。
 さて、このたびステファン・グラビンスキの短篇がいくつか邦訳されました。といっても紙の書籍ではなく、電子書籍です。電子書籍を販売するサイト「パブー」にて、短篇単位で販売されています。

http://p.booklog.jp/users/ayanos-pl

 今のところ、以下の短篇が登録されています。

 『音無しの空間』(芝田文乃訳)
 『汚れ男』(芝田文乃訳)
 『信号』(芝田文乃訳)
 『放浪列車』(芝田文乃訳)
 『車室にて』(芝田文乃訳)
 『永遠の乗客(ユーモレスク)』(芝田文乃訳)

 訳者の芝田文乃さんは、スワヴォミール・ムロージェクの短篇集とか、レシェク・コワコフスキ『ライロニア国物語』(国書刊行会)を訳しているポーランド語翻訳者の方ですね。
 上記の6編は、すべて鉄道をテーマにした怪奇小説集『動きの悪魔』からの翻訳です。

 『音無しの空間』
 廃線となり、使われなくなった区間は「音無しの空間」と呼ばれていました。事故により退職したものの、鉄道を愛する男ヴァヴェラは「音無しの空間」の見張り人をやらせてくれと頼み込み、承諾を得ます。誰も訪れることのない線路を修復し、駅舎を再現した彼のもとに現れたものとは…。
 鉄道を愛する男のもとに現れたものはいったい何なのか? ジャック・フィニィを思わせるノスタルジーにあふれる作品です。

 『汚れ男』
 その男が現れると、必ず事故が起こる…。かって婚約者を事故で失った車掌のボロンはその伝説を信じていました。再びその「汚れ男」を目撃したボロンのとった行動とは…?
 「汚れ男」の伝説は真実なのか? 主人公の車掌が奇矯な性格に設定されているため、超自然的な現象が真実なのかそうでないかがはっきりしないという技巧的な作品。サイコ・スリラーとして読むことも可能です。

 『信号』
 かって、特別な手順で発せられた信号によって、乗客ごと姿を消してしまった伝説の列車。深夜、その話をしていた鉄道員たちのもとに、謎の信号が届きますが…。
 怪奇現象の原因が明確にされないところが、ひじょうにモダンな怪奇小説です。雰囲気の見事な作品。そこはかとない怪奇ムードがたまりません。

 『放浪列車』
 突如現れる謎の列車。その「放浪列車」は、どの区間に現れるのかもわからず、停止させることもできないのです。物理的なものなのかどうかも全くわからないものの、それまで事故は起きていませんでした。しかしある日、停車している列車の反対側から「放浪列車」が現れます…。
 幽霊列車をめぐる怪奇小説です。「幽霊」でありながら、時と場所を選ばずに現れる「放浪列車」の存在感が半端ではありません。結末も強烈。

 『車室にて』
 ある日乗り合わせた若夫婦の妻に対して、異常なほどの欲望を覚えてしまった男ゴジェンバ。夫が眠ったすきに妻に対して誘惑をしかけますが…。
 魔性の女をめぐるサイコ・スリラー。女の不気味さが印象に残ります。

 『永遠の乗客(ユーモレスク)』
 クルチカ氏の趣味は独特でした。待合室に常駐し、電車がくるたびに乗り込んでは、降りるという行為を繰り返していたのです。これは彼流の「旅行」だったのですが…。
 ≪象徴的な旅行≫を繰り返す男をめぐる喜劇と悲劇。何とも味わいのあるヒューマン・ストーリーです。
 
 いくつか作品を読んでみて感じたのは、情景描写、雰囲気醸成の上手さです。怪奇小説にいちばん必要な要素、「雰囲気」や「ムード」がきちんと作られているところに感銘を受けます。このあたり、欧米の評者はどう考えているのか、ちょっと引用してみましょう。


 グラビンスキの特質でとりわけ優れているのは、自然と超自然を融合させる手腕だ。多くの物語の舞台となるのは、墓地・死体安置所・薄暗い病院・侘しく蒼古な館など、忌まわしい場所である。概して物語の情景は、邪悪なものが籠もり、超自然的なものが氾濫しているという印象をはらんでいる。この印象は、自然の背後に潜在して秘かに突出の機をうかがっている妖異な作用力の存在を読者に仄めかす。

 フランツ・ロッテンシュタイナー『ファンタジー(幻想文学館)』(村田薫訳 創林社)より


 グラビンスキの作家としての技量は、アトモスフィアの扱い方に顕著である。読む者を不安にさせる風景、荒廃した建物は、人間に対する敵意で満たされていて、そこにはほとんど手で触れられそうな恐怖が存在する。グラビンスキはそうしたアトモスフィアを創造し、維持する。

 ジャック・サリヴァン編『幻想文学大事典』(高山宏、風間賢二監修 国書刊行会))より


 引用したどちらの意見も、基本的には同じことを言っていますね。荒涼とした風景。人間の孤独と寂寞感。まさに怪奇小説になくてはならない部分を持っている作家だといえます。
 特筆したいのは、作品の短さ。一編あたり、ひじょうに短い時間で読めるのですが、その短い時間で情景を描写し、雰囲気を味あわせてくれるのだから、その筆力は見事です。
 「ポーランドのポー」と称されることもあるようですが、たしかに通じるところのある作風だと思います。これを機に、もっと翻訳してほしい作家ですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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