10月の気になる新刊と9月の新刊補遺
発売中 アレクサンドル・ベリャーエフ『眠らぬ人 ワグナー教授の発明』(未知谷 2160円)
10月15日刊 岸本佐知子編『変愛小説集』(講談社文庫 864円)
10月22日刊 ケイト・アトキンソン『探偵ブロディの事件ファイル』(東京創元社 2700円)
10月23日刊 オリヴァー・サックス『見てしまう人びと』(ハヤカワ・ポピュラー・サイエンス 2592円)
10月24日刊 ジェフ・ヴァンダミア『全滅領域』(ハヤカワ文庫NV 864円)
10月31日刊 荒俣宏編『怪奇文学大山脈3』(東京創元社 2916円)
10月31日刊 ロバート・F・ヤング『宰相の二番目の娘』(創元SF文庫 907円)

10月下旬発売 創元推理文庫・SF文庫 復刊フェア
カトリーヌ・アルレー『犯罪は王侯の楽しみ』
F・W・クロフツ『フローテ公園の殺人』
イーデン・フィルポッツ『溺死人』
アーネスト・ブラマ『マックス・カラドスの事件簿』
クリストファー・ランドン『日時計』
ピーター・S・ビーグル『心地よく秘密めいたところ』
A・E・ヴァン・ヴォークト『時間と空間のかなた』 
フィリップ・K・ディック『ジョーンズの世界』
クリストファー・プリースト『スペース・マシン』
フィリップ・ワイリー&エドウィン・バーマー『地球最後の日』


 ロシアの古典的SF作家、ベリャーエフ。彼の代表作『ドウエル教授の首』の新訳が、去年、突然刊行されて驚いたのですが、同じ出版社(未知谷)から、短篇集『眠らぬ人 ワグナー教授の発明』が刊行されました。
 ベリャーエフの短篇は、アンソロジーや雑誌などに、短篇がいくつか邦訳されている程度だと思います。『SFマガジン』に昔載った『抱腹絶倒王』なんて、すごく面白かった覚えがありますね。
 ベリャーエフの作風は、H・G・ウエルズにも似たアイディア・ストーリーに、冒険小説的な要素を絡めている感じでしょうか。といっても、長編『ドウエル教授の首』と、同じく長編『無への跳躍』、あと短篇を数編ぐらいしか読んだことがないので、全貌ははっきりわかりません。ただ、今まで読んだベリャーエフ作品はどれも面白かったので、この本も楽しみです。
 この≪ワグナー教授≫シリーズは、彼の作品中ではわりとメジャーなシリーズのようです。これを機に、もっとベリャーエフ作品が訳されると嬉しいですね。
 荒俣宏編の大アンソロジー『怪奇文学大山脈』の最終巻が刊行です。収録作品はまた公開されていないようですが、3巻では、ルヴェルやアンドレ・ド・ロルドらの≪グラン・ギニョール≫作品も収録されるようです。
 ロバート・F・ヤングの未訳長編『宰相の二番目の娘』が創元文庫より刊行。長編が続けて邦訳されていますが、短篇ってほとんど訳されたんでしょうか?
 毎年秋のお楽しみ、創元文庫復刊フェアでは、注目は、ヴァン・ヴォークト『時間と空間のかなた』、プリースト『スペース・マシン』、ワイリー&バーマー『地球最後の日』あたりでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

生きているってなんだろう?  内田善美『草迷宮・草空間』(集英社)

4087821013草迷宮・草空間
内田 善美
集英社 1985-03

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 内田善美は、少数の作品を残して消えた伝説的な漫画家です。1980年代に沈黙して以来、その作品は一切再版されていません。それにもかかわらず、今でも、その作品の魅力について語る人は後を絶ちません。
 彼女の代表作といえば、まず第一に挙がるのが『星の時計のLiddell』(全3巻 集英社)でしょう。夢をテーマに、重厚かつ哲学的に描かれたファンタジーですが、ある種、難解でもあり、万人に受け入れられるといった物語ではありません。
 それに対し、もう一つの代表作というべき作品『草迷宮・草空間』(集英社)は、親しみやすいキャラクターの登場する、愛すべきファンタジーに仕上がっています。

 ある日、大学生の青年、草は捨て猫らしき鳴き声を聞き、様子を調べに出かけます。そこにいたのは猫ではなく、小さな女の子でした。ふとしたことから、草は彼女と共同生活を送ることになります。「ねこ」と名乗る不思議な少女は、かってボス猫と一緒に暮らしていたと話します。やがて「ねこ」は人間ではなく人形だったことがわかりますが…。

 魂を持つ人形「ねこ」と、青年「草」との日常を描いた作品ですが、この作品の特殊性は、人形「ねこ」の不思議な感性にあります。
 「ねこ」は、周りのあらゆるものに興味を持ち、植物・動物・人間の区別をせず、生命というものにひときわ関心を抱きます。また、ふてくされてみたり、満面に喜びを表してみたりと、彼女の行動は、みずみずしい感性に彩られているのです。
 「ねこ」の行動を見ていて想起するのは、子ども。そう、「ねこ」は、ある種の、子どもの寓意でもあるのでしょう。「子ども」のように、「ねこ」は草との生活のなかで、いろいろなことを理解していきます。
 そしてまた、「ねこ」だけでなく、共同生活者である草という青年もまた、独自の感性を持つ人間として描かれています。何かを飛びぬけて愛したり嫌うのではなく、まったく同じ比重で全てを受け入れる心の広さを持ち、彼の中ではガールフレンドのアケミと「ねこ」とは同じぐらい大切な存在になっているのです。
 物語後半、現在のアケミと、写真で見た子どもの頃のアケミとが、同一人物であることを理解した「ねこ」は、驚きます。生命は成長する、ならば自分もまた成長するのではないか?
 草との生活を通して、「ねこ」も、精神的に成長していきます。しかし人形であるがゆえに、肉体的に成長することは不可能だということまでは思いが至らない幼さ。そして、そこから先二人がどうなるのかは読者の想像に委ね、物語は幕を下ろします。
 生きていることの豊かさ、愛おしさをこれほどチャーミングに描いた作品を他に知りません。
 微妙な心理の綾を丁寧に、丁寧に描いた作品です。まさに工芸品の趣のある、愛すべきファンタジー作品といえます。
山本迪夫監督≪血を吸うシリーズ≫3部作
 ホラー映画が大好きでよく観るのですが、欧米の作品がメインで、日本の作品はあまり観ていませんでした。正確に言うと、近年の作品はちょこちょこ観ているのですが、過去の古典的作品はほとんど未見です。
 そんなわけで、日本の古典ホラー映画を観てみよう!と思い立ちました。いちばん気になる作品は、山本迪夫監督の≪血を吸うシリーズ≫3部作です。DVDが出ていたっけと調べると、近年廉価版が出ていて、手ごろな価格で手に入ります。



B00DNTSOBC幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形 【期間限定プライス版】 [DVD]
東宝 2014-02-07

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山本迪夫監督『幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形』(1970年)
 婚約者の夕子に会うため、山奥の屋敷を訪れた青年和彦は、夕子の母親から、彼女が事故で死んだことを知らされます。屋敷に泊まることになった和彦は、深夜死んだはずの夕子の姿を目撃します。
 やがて兄が戻らないことを心配した和彦の妹、圭子は、恋人とともに屋敷に向かいますが…。
 ≪血を吸うシリーズ≫の第1作です。夕子は生きているのか死んでいるのか? 母親はなぜ娘を隠すのか? 和彦はどこに消えたのか? ヒロインと恋人が謎を調べていくという、典型的なミステリ・タッチで話は進みます。
 ムードのすばらしい作品です。シリーズの他の2作もそうなのですが、まさに「怪奇映画」としかいいようのない雰囲気がたまりません。ポーの作品に触発されたとおぼしい結末もひねりが効いていて見事です。



B00DNTW3BO呪いの館 血を吸う眼 【期間限定プライス版】 [DVD]
東宝 2014-02-07

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山本迪夫監督『呪いの館 血を吸う眼』(1971年)
 秋子は、成人した今もなお、幼いときに目撃した男の恐怖感に悩まされていました。周りの人間からはただの悪夢だと決め付けられ、本人も夢だと思い込もうとしていたのです。
 ある日、全身から血液を抜かれた若い女性が発見されたのを皮切りに、異様な事件が秋子のまわりで頻発し始めます。やがて妹の夏子の様子がおかしくなったのを心配した秋子は、すべての原因が幼い日の記憶にあることを感じ取り、催眠療法で記憶を呼び出そうとしますが…。
 序盤から吸血鬼の姿を出してしまうので、これが吸血鬼ものであることはわかってしまいます。なので、登場人物たちが吸血鬼の脅威からどうやって逃れるのか、というサスペンスで引っ張る映画です。
 ヒロインの幼い日のトラウマ、姉妹間の確執など、いろいろな要素が盛り込まれているうえに、ストーリーも凝っていて、最後まで飽きさせません。クライマックスの館のシーンの緊張感も素晴らしく、吸血鬼を演じる岸田森の演技も絶品。



B00DNU8SXU血を吸う薔薇 【期間限定プライス版】 [DVD]
東宝 2014-02-07

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山本迪夫監督『血を吸う薔薇』(1974年)
 教師の白木は、山奥にある女子短大に赴任します。直後に学長から、自分が次期学長候補として招聘されたと聞かされた白木は驚くと同時に、学長自身に怪訝な思いを抱きます。
 白木は、校医の下村から、毎年何人かの生徒が消えてしまうこと、前の学長候補の男は発狂したこと、そしてこの土地に伝わる吸血鬼の伝説を聞かされます。
 やがて白木を慕う女生徒の様子がおかしくなり始めますが…。
 3部作の最終作です。山奥の学園という、イタリアン・ホラーを思わせる舞台で物語が展開されます。序盤から岸田森が登場するので、2作目を観ていると、吸血鬼は誰だかすぐにわかってしまうのはご愛嬌ですね。
 今回の吸血鬼は夫婦で登場し、それぞれがそれぞれの思惑で動くという、なかなか複雑なプロットになっています。吸血鬼たちの目的が単なる吸血行為だけではないということ。彼らの悲しい出自もはさまれるなど、ヴァラエティ豊かな要素が盛り込まれています。


 3部作に共通するのは「バタ臭さ」。ホラーを日本の土壌で展開するというよりは、洋風ホラーを日本でやってみたという、ある種の「翻案」といっていいでしょうか。それが上手くできていて、嫌みを感じさせないところが見事です。
 日本作品で吸血鬼を正面から取り扱って、馬鹿らしくならないのは、主演の岸田森の魅力によるところも大きいのでしょう。
 1作目では「親子愛」、2作目では「姉妹愛」、そして3作目では「夫婦愛」と、隠し味的に仕込まれたテーマが感じ取れるところも実によく出来ています。
 3作ともそれぞれ工夫がしてあって、どれも面白かったのですが、いちばん面白かったのは1作目の『血を吸う人形』でしょうか。厳密には吸血鬼ものではなく、オカルト・スリラー的な作品です。上記に「バタ臭さ」と描きましたが、この作品の結末で明かされる、どろどろした情念はやはり日本のもの。そのあたりの組合わせも魅力の要因かもしれません。


 あと日本の古典ホラー作品で気になる作品はといえば、ウィリアム・ホープ・ホジスンの短篇を映画化したという『マタンゴ』(本多猪四郎監督)、和製ボディ・スナッチャーもの『吸血鬼ゴケミドロ』(佐藤肇監督)、江戸川乱歩の同題作品を映画化した問題作『盲獣』(増村保造監督)あたりでしょうか。これらの作品については、また別個に語りたいと思います。

テーマ:ホラー - ジャンル:映画

9月の気になる新刊と8月の新刊補遺
発売中 レノア・ブレッソン『世にも不思議な物語 世界の怪奇実話&都市伝説』(扶桑社ミステリー 842円)
9月10日刊 A・E・コッパード『郵便局と蛇』(ちくま文庫 950円)
9月10日刊 植草甚一『こんなコラムばかり新聞や雑誌に書いていた』(ちくま文庫 予価1512円)
9月12日刊 アレクサンダー・レルネット=ホレーニア『両シチリア連隊』(東京創元社 予価2484円)
9月12日刊 柴田錬三郎 『幽霊紳士/異常物語 柴田錬三郎ミステリ集』(創元推理文庫 予価1188円)
9月16日刊 アラン・ムーア/ジェイセン・バロウズ『ネオノミコン』(学研パブリッシング 予価2700円)
9月18日刊 牧眞司・大森望編集『サンリオSF文庫総解説』(本の雑誌社 予価1944円)
9月20日刊 海野弘監修『ハリー・クラーク』(パイインターナショナル 予価3024円)
9月25日刊 平松洋監修『挿絵画家 エドマンド・デュラックの世界』 (中経出版 予価2052円)
9月25日刊 平松洋監修『挿絵画家 カイ・ニールセンの世界』 (中経出版 予価2052円)
9月29日刊 E・A・ポー/ダヴィド・G・フォレス『ヴィジュアル・ストーリー ポー怪奇幻想集1 赤の怪奇』(原書房 予価2160円)
9月29日刊 E・A・ポー/ダヴィド・G・フォレス『ヴィジュアル・ストーリー ポー怪奇幻想集2 黒の恐怖』(原書房 予価2160円)


 レノア・ブレッソン『世にも不思議な物語 世界の怪奇実話&都市伝説』は、同題のアンソロジードラマシリーズのノヴェライズ。怪奇実話集です。
 A・E・コッパード『郵便局と蛇』は、国書刊行会から出た≪魔法の本棚≫シリーズの一冊を文庫化したもの。文庫本ボーナスとして『アラベスク―鼠』が追加されています。
 海野弘監修『ハリー・クラーク』は、ハリー・クラークの作品集。近年ファンタジー系のイラストレーターの画集がたくさん刊行されるようになりましたが、ハリー・クラークの本が刊行されるのは、日本では初めてではないでしょうか。クラークが影響を受けたビアズリーの画集がたくさん刊行されているのに対して、クラークはあまり日が当たっていなかったので、作品集の刊行はうれしい限りです。
 E・A・ポー/ダヴィド・G・フォレス『ヴィジュアル・ストーリー ポー怪奇幻想集』は、ポーの作品に挿絵をつけた本。挿絵がなかなか魅力的です。
 今月、個人的に一番注目しているのは、アレクサンダー・レルネット=ホレーニア『両シチリア連隊』。レルネット=ホレーニアは、過去に短篇集『モナ・リーザ,バッゲ男爵』(創土社)と長編『白羊宮の火星』(福武文庫)の翻訳が刊行されています。幻想的な探偵小説のようで、楽しみです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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