欧米の怪奇小説をめぐって  ドイツ・オーストリアの怪奇小説
怪奇小説傑作集5<ドイツ・ロシア編>【新版】 (創元推理文庫) ドイツ幻想小説傑作集 (白水Uブックス (72)) 怪奇・幻想・綺想文学集: 種村季弘翻訳集成 独逸怪奇小説集成
 ドイツ・オーストリアといった、ドイツ語圏の怪奇小説の特徴は、何より「神秘性」の強いこと。怪奇小説の本場とされるイギリスの作品自体が、そもそもドイツ作品の影響から生まれたと言われています。端的に言えば「雰囲気がある」といってもいいでしょうか。
 本邦でも、数は少ないながら上質なドイツ作品アンソロジーが出ていますので、それらを紹介していきましょう。

 まず、東京創元社から1960年に刊行された≪世界恐怖小説全集≫の1冊、『蜘蛛 世界恐怖小説全集11』(植田敏郎訳 東京創元社)がドイツ編です。
 ハインリヒ・フォン・クライスト、テオドール・ケルナー、H・H・エーヴェルス、E・T・A・ホフマンの作品を収録しています。
 ドイツ・ロマン派をクライスト、ケルナー、ホフマン、現代作品をエーヴェルスで代表させている感があるのですが、正直この収録数でドイツを代表させるのは無理があります。
 エーヴェルスが3編、ホフマンが2編収録になっていて、読み応えはありますね。
 この『蜘蛛』を母体に再編集されたのが、『怪奇小説傑作集5』(植田敏郎・原 卓也訳 創元推理文庫)です。こちらは、ドイツ編だけでなく、ロシア編とのカップリングになった関係で、更に収録作品が少なくなっています。
 『蜘蛛』から、エーヴェルス2編とホフマン1編が割愛されています。結果残ったのがエーヴェルスは『蜘蛛』、ホフマンは『イグナーツ・デンナー』です。それにしても、この収録数では非常に物足りない感がしてしまいます。

 今泉文子編訳『ドイツ幻想小説傑作選  ロマン派の森から』(ちくま文庫)
 文庫オリジナルで出版された、ドイツ・ロマン派の幻想小説の傑作集です。ドイツ・ロマン派は18世紀末から19世紀前半にかけて活躍したドイツのロマン主義の作家たちの総称です。幻想的な要素を持つ「メルヘン」を文学に高めようとしました。
 収録作品は5編と少なめで、既訳作品も多いのですが、シャミッソーの『アーデルベルトの寓話』とアーヒム・フォン・アルニムの『アラビアの女予言者 メリュック・マリア・ブランヴィル』が貴重な初訳作品です。
 物語性の強い作品が多く楽しめます。

 基本的に、日本におけるドイツの怪奇小説アンソロジーは、ほぼ2人の編者によって編まれているといって過言ではありません。種村季弘と前川道介の2人です。

 ファンには「種村好み」でも通じるような、独特の趣味嗜好を持つ種村季弘の編んだアンソロジーは、前衛的な要素が強いのが特徴です。

 種村季弘編『現代ドイツ幻想小説』(白水社)は、「怪奇小説」というよりは「幻想小説」集なのですが、読んで面白い作品が多く収められており、エンタテインメントとして楽しめます。
 カフカやローベルト・ムージル、パウル・ツェランなど文学畑の作家に混じって、オスカル・パニッツァ、パウル・シェーアバルト、グスタフ・マイリンクなどの怪奇小説プロパーに近い作家の名前も見えます。
 後に単行本が紹介されることになる、短篇の名手クルト・クーゼンベルクも初紹介されています。全体的に前衛的な幻想小説集で、今読んでも刺激的なアンソロジーです。

 種村季弘編『ドイツ怪談集』(河出文庫)
 河出文庫の国別≪怪談集≫のドイツ編として編纂されたアンソロジーです。「種村好み」が比較的抑えられ、割とオーソドックスな怪奇小説集になっています。ただ、この本が刊行された時点で既訳だった作品の再録が多いのが玉に瑕ですね。
 クライスト、ホフマン、ルートヴィヒ・ティーク、ヴィルヘルム・ハウフなどのドイツ・ロマン派の作家、エーヴェルス、マイリンク、カール・ハンス・シュトローブルなどの20世紀の怪奇作家、ハンス・ヘニー・ヤーン、マリー・ルイーゼ・カシュニッツなどの現代作家など、ドイツ作品を一通り概観するには便利なアンソロジーです。

 種村季弘編『ドイツ幻想小説傑作集』(白水uブックス)
 邦訳の少ない作家名がずらりと並ぶ、貴重なアンソロジーなのですが、かなりぶっとんだ作品が多く収録されており、なかなか難物です。
 フリードリッヒ・デュレンマット『犬』、グスタフ・マイリンク『蝋人形館』、カール・ハンス・シュトローブル『メカニズムの勝利』など、ストーリー性の強い作品も混じっているので、難しい作品は飛ばして、面白い作品だけ拾い読みする、というのが無難な読み方かもしれません。

 『怪奇・幻想・綺想文学集 -種村季弘翻訳集成』(国書刊行会)
 没後、種村季弘の翻訳を集めた本なので、厳密に言えばドイツ以外の国の作家が収められたりもしていますが、入手困難になっている吸血鬼アンソロジー『ドラキュラ・ドラキュラ』『ブラック・ユーモア選集 外国篇・短篇集』の収録作品がまとめられており、貴重な一冊です。
 ホフマン、オスカル・パニッツァ、グスタフ・マイリンク、ハンス・ヘニー・ヤーン、フリートリヒ・デュレンマットなどを収録。30篇以上と収録作品数が多いのも嬉しいところ。
 
 さて、種村季弘が前衛的なアンソロジーを編んだのとは対照的に、前川道介は伝統的な怪奇小説アンソロジーを編んでいます。

 前川道介編『ドイツ・ロマン派全集8  月下の幻視者』(国書刊行会)
 ドイツ・ロマン派のマイナー作家の短篇、そして有名作家のメルヘン的な小品を集めたアンソロジーです。ゲーテ『メールヘン』、ゴットフリート・ケラー『仔ネコのシュピーゲル』、ヘッベル『ルビー』など、個人作家の作品集でなければ読めなかった作品をまとめて読めるのも嬉しいところです。
 加えて、C・W・S・コンテッサ、ハインリヒ・チョッケ、エルンスト・アルント、ギュンデローデなど、珍しい作家のメルヘンが読めるのはこのアンソロジーぐらいでしょう。

 前川道介編『現代ドイツ幻想短篇集 世界幻想文学大系13』(国書刊行会)
 間違いなく、日本で刊行されたドイツの怪奇小説アンソロジーでは最高の一冊でしょう。怪奇味が強く、ストーリー性の高い、いわゆる「怪談」的な要素の強い作品が多く収められており、エンタテインメント性のひじょうに高い一冊です。
 巻頭にまず、マイリンク、エーヴェルス、シュトローブルの怪奇作家御三家の作品が置かれています。マイリンク、エーヴェルスに関しては、それぞれ複数作品がとられているのも嬉しいところ。
 現代作品でもアルブレヒト・シェッファー『ハーシェルと幽霊』、クリスタ・ライニヒ『エリダノス号』など、娯楽性の高い怪奇小説を収めています。また、巻末のヴェルナー・ベルゲングリューンの3作がどれも質が高い作品で驚かされます。
 
 竹内節編『独逸怪奇小説集成』(国書刊行会)
 前川道介がぽつぽつ雑誌などに発表していたドイツ怪奇短篇を総集した、弩級のアンソロジー。没後、別の編者によって編まれたものですが、実質的にはアンソロジーと言ってしまってもいいと思います。
 上記の『現代ドイツ幻想短篇集』が文学性や歴史的な要素も加味して編まれたアンソロジーだとするなら、これはもう訳者が大好きで訳した短篇を集めたものといっていいかと思います。
 独自の画風を持つ幻想画家アルフレート・クービンの吸血鬼小説『吸血鬼狩り』、愛すべきファンタジー、『シャボン玉の世界で』(クルト・ラスヴィッツ)、モーツァルトの幽霊が登場するユーモア怪談『公園での出会い』(ヘルベルト・ローゼンドルファー)、近年再評価の著しいレオ・ペルッツの怪奇小説『月は笑う』など、どれもこれも素晴らしい怪奇・幻想・ファンタジー小説ばかりで、怪奇小説ファンにとって、まさに夢のような本だと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

欧米の怪奇小説をめぐって  アンソロジーその7
影が行く―ホラーSF傑作選 (創元SF文庫) マッド・サイエンティスト (創元SF文庫 ン 5-1) 狼女物語—美しくも妖しい短編傑作選 死のドライブ (文春文庫) シルヴァー・スクリーム 上 (創元推理文庫) 漆黒の霊魂 (ダーク・ファンタジー・コレクション)
 2009年ごろに連続した記事としてまとめた、「欧米の怪奇小説をめぐって アンソロジー編」。
 後から読み直してみると、取りこぼしていたアンソロジーもありますし、新しく刊行されたアンソロジーもあります。そこで「拾遺編」として、未紹介だった怪奇小説アンソロジーを紹介しておきたいと思います。

 『ハードシェル』(大久保寛他訳 ハヤカワ文庫NV)
 『スニーカー』(吉野美惠子他訳 ハヤカワ文庫NV)
 1980年代、モダンホラーがブームだったころに刊行されたアンソロジー。
 この2冊とも、原題が同じ「Night Visions」シリーズに属する作品集なのですが、ユニークな編集方法をとっています。それは収録作家を選んだ後、それぞれの作家が独自にページの割り振りをしていいというもの。短篇をいくつか書いてもいいし、中篇を1つでもいいという、自由な編集方法なのです。
 『ハードシェル』の収録作家は、ディーン・R・クーンツ、エドワード・ブライアント、ロバート・R・マキャモンの3人。それぞれが短篇を数篇収録しています。
 短篇の名手エドワード・ブライアントの短篇がまとまって読めるのは、未だにこの本ぐらいじゃないでしょうか。集中で一番インパクトがあるのは、マキャモンの『ベスト・フレンズ』ですね。バリバリのスプラッター作品で娯楽作品としては第一級です。
 『スニーカー』の収録作家は、スティーヴン・キング、ダン・シモンズ、ジョージ・R・R・マーティン。
 キングの作品は正直冴えないのですが、風刺の効いたダン・シモンズ作品とマーティンの力作中篇『皮剥ぎ人』が面白いです。

 『影が行く ホラーSF傑作選』 (中村融編訳 創元SF文庫)
 ホラー味のあるSF作品を集めた、ありそうでなかったアンソロジーです。古典的なSFホラー『影が行く』を中心に、リチャード・マシスン、クーンツ、フリッツ・ライバー、フィリップ・K・ディック、ロジャー・ゼラズニイ、ジャック・ヴァンスなどを収録。
 近年書かれた作品は少なく、まだホラーやSFが現在ほど画然と分かれていなかった時代の短篇が集められている感じです。エンタテインメント性にあふれた好アンソロジー。

 同じく中村融編訳の『千の脚を持つ男 -怪物ホラー傑作選』
 怪物をテーマにしたホラー作品を集めています。ジョゼフ・ペイン・ブレナン、P・スカイラー・ミラー、フランク・ベルナップ・ロング、R・チェットウィンド=ヘイズなど、あまり単体では紹介されないマイナー作家たちの好短篇が多く収録されており、コストパフォーマンスも抜群です。インパクトではやはりシオドア・スタージョンの『それ』が一番でしょうか。
 怪物や怪獣ものが好きな人にはオススメしておきたいですね。

 スチュアート・D・シフ編『マッド・サイエンティスト』(荒俣宏他訳 創元推理文庫)
 タイトル通り、マッド・サイエンティストの登場する作品を集めたアンソロジーです。
 ラヴクラフトの『冷気』や、ロバート・ブロックの『ノーク博士の謎の家』、フランク・B・ロング『ティンダロスの猟犬』などの古典的作品が中心になっています。ラムジー・キャンベルやカール・E・ワグナーなどの現代作家の作品もありますが、テイストとしてはB級を狙っており、パルプマガジン風の娯楽ホラーが多く楽しめる作品集ですね。

 エレン・ダトロウ編『魔猫』(佐々木信雄他訳 早川書房)
 魔性の猫をテーマにしたアンソロジー。正直、傑作は見当たらず水準作の多い作品集ですね。ナンシー・クレス、ジェイン・ヨーレン、ストーム・コンスタンティン、 ジョイス・キャロル・オーツ、タニス・リーなど、女性作家が多いのが特徴といえば特徴でしょうか。

ウェルズ恵子編『狼女物語 美しくも妖しい短編傑作選』(工作舎)
 「人狼」をテーマにしたアンソロジーですが、ユニークなのは、「狼女」を扱った作品を集めているところ。この本でしか読めない作品が多数です。題材が題材だけに迫力のある作品が多いですね。マンリー・バニスター、クレメンス・ハウスマン、エリック・ステンボック、ギルバート・キャンベル、ジョージ・マクドナルド、キャサリン・クロウの作品を収録。

 ピーター・ヘイニング編『魔法使いになる14の方法』(大友香奈子訳 創元推理文庫)
 「学校」や「魔法」をテーマにした短篇を集めています。かなりファンタジー寄りのアンソロジーですが、編者がヘイニングだけに、ホラーテイストが強い作品も収められています。E・ネズビット、マンリー・ウェイド・ウェルマン、ラッセル・ホーバン 、ジョーン・エイキン 、ウィリアム・ハーヴィー、ジョン・ウィンダム、ダイアナ・ウィン・ジョーンズなどの作品を収録。ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品が売りのアンソロジーみたいです。

 ピーター・ヘイニング編『死のドライブ』(野村芳夫訳 文春文庫)
 車をテーマにした、ホラー・アンソロジーです。映画『激突』の原作である、リチャード・マシスン『決闘』や、スティーヴン・キング『トラック』、ロアルド・ダール『ヒッチハイカー』、J・G・バラード『クラッシュ』、イヴ・メルキオー『デス・レース2000年』など、いろいろなジャンルの作品が集められています。厳密にはホラーではないのでしょうが、恐怖小説的な要素が強い作品が多いです。

 デイヴィッド・J・スカウ編『シルヴァー・スクリーム 上下』(田中一江/夏来健次/尾之上浩司訳 創元推理文庫)
 映画をテーマにしたモダンホラー・アンソロジー。邦訳が出版されるという情報が出てから何十年と出なかったという伝説的なアンソロジーですが、中身は力作揃いで素晴らしい出来の作品集です。
 とくに上巻には、インパクトの強い作品が収められていて、続けて読むと結構きついかもしれません。突然体に傷が現れはじめる映画監督を描いた『カット』(F・ポール・ウィルスン)が素晴らしく、この作品を読むためだけに、アンソロジーを購入してもいいほどだと思います。
 ロバート・ブロック、レイ・ガートン、クライヴ・バーカー、ジョー・R・ランズデール、 カール・エドワード・ワグナー、ロバート・R・マキャモン、クレイグ・スペクター、リチャード・クリスチャン・マシスン、ミック・ギャリス、ジョン・スキップ、ラムジー・キャンベル、エドワード・ブライアントなどの作品を収録。

 ロバート・E・ワインバーグ、マーティン・H・グリーンバーグ編『ラヴクラフトの遺産』(夏来健次/尾之上浩司訳 創元推理文庫)
 ラヴクラフトへオマージュを捧げたアンソロジーです。この手のアンソロジーは、作家へのリスペクトが強すぎると、作品が硬くなってしまう傾向があります。本書にも、あまり傑作と呼べる作品が見当たらない気がしますが、ラヴクラフト好きなら、無条件で楽しめるでしょう。なかでは、ゲイアン・ウィルソン『ラヴクラフト邸探訪記』が、才気あふれる作品で楽しめます。

 スコット・デイヴィッド・アニオロフスキ『ラヴクラフトの世界』 (大瀧啓裕訳 青心社文庫)
 上記『ラヴクラフトの遺産』と同じようなタイトルのアンソロジーですが、ラヴクラフトが言及した都市や地名にインスピレーションを受けて書かれた作品を集めるというコンセプトのアンソロジーなので、ラヴクラフト風味にはなっているものの、全ての作品が、必ずしもクトゥルー神話ものになっているというわけではありません。
 玉石混交ですが、見たものを死に追い込む謎の絵を扱った『ファン・グラーフの絵』(J・トッド・キングリア)、怪物に支配されたパラレルワールドに迷い込んだカップルを描く『闇のプロヴィデンス』(ドン・ダマサ)、農場で暮らす夫婦が変調をきたしていく様子をじっくりと描いた力作『ポーロス農場の変事』(T・E・D・クライン)などが印象に残ります

 松岡光治編訳『ヴィクトリア朝幽霊物語』 (アティーナ・プレス)
 ヴィクトリア朝の正調幽霊物語を集めたアンソロジー。ほとんどの作品が本邦初訳で、貴重な作品集です。古き良きゴースト・ストーリーといった趣の作品が多いですね。イーディス・ネズビット、チャールズ・ディケンズ、ダイナ・マロック、アミーリア・エドワーズ、ウィルキー・コリンズ、シェリダン・レ・ファニュらの作品を収録。

 マーティン・H・グリーンバーグ、バーバラ・ハムリー編『死の姉妹』(扶桑社ミステリー)
 書き下ろしながら、全体的にレベルの高いアンソロジー。さすがに手垢のついたテーマだけに、各自工夫を凝らした作品が多いです。北欧を舞台にするなど斬新な設定の作品も見られますね。SF系の作家が多いのも特徴。
 M・ジョン・ハリスン、スティーヴ・ラズニック・テム&メラニー・テム、ディーン・ウェズリー・スミス、パット・キャディガン、ジョージ・アレック・エフィンジャー、ラリイ・ニーヴン、ジェイン・ヨーレンなどの作品を収録。

ジェフ・ゲルブ編『ショック・ロック』(白石朗/大森望他訳 扶桑社ミステリー)
 ロックとホラーをテーマにしたアンソロジーです。テーマが音楽だけに、そちら方面に興味のない人にとっては、興味を持ちにくいかもしれません。 スティーヴン・キング、F・ポール・ウィルスン、デイヴィッド・J・ショウ、グレアム・マスタートン、トマス・テッシアー、ジョン・シャーリイなど。

 マーティン・H・グリーンバーグ、エドワード・E・クレイマー、ナンシー・A・コリンズ編『ゴーサム・カフェで昼食を 22の異常な愛の物語』 (扶桑社ミステリー)
 タイトル通り、異常な愛を描いた物語を集めたアンソロジーです。テーマがテーマだけに、サイコ・スリラー風の作品が多いです。スティーヴン・キング、キャシー・コージャ、デイヴィッド・J・ショウ、リチャード・レイモン、キャスリン・プタセク、ジョン・シャーリイ、エド・ゴーマン、ナンシー・A・コリンズなど。ブラック・ユーモアの効いた短篇集『器官切除』で知られるマイケル・ブルームラインの作品が貴重です。

 ミシェル・スラング編『レベッカ・ポールソンのお告げ <13の恐怖とエロスの物語>』(大久保寛訳 文春文庫)
 恐怖よりも、どちらかと言うと性的・官能的な要素の強い作品の多いアンソロジーです。パトリック・マグラア、ジョナサン・キャロル、アンジェラ・カーター、クライヴ・バーカーなど、このテーマなら絶対入るな、という作家が入っているところに、妙な座りごこちの良さが感じられますね。
 ただ、「普通」のホラー小説が読みたいという読者には、少しカラーが違うので、あまりホラー・アンソロジーと思わないで読んだほうがいいかもしれません。

 ミシェル・スラング編『筋肉男のハロウィーン <13の恐怖とエロスの物語2>』(吉野美恵子訳 文春文庫)
 <13の恐怖とエロスの物語>の第2弾です。2集は、わりと起承転結の効いた短篇が多く、お話として面白いので、1集よりも、こちらの2集をオススメしたいところです。
 ハーラン・エリスン『ヘレン・バーヌーの顔』、J・G・バラード『妄想のとりこ』、チャールズ・ボーモント『倒錯者』、ロバート・ブロック『モデル』など、まるで≪異色作家短篇集≫のような趣です。
 アーサー・マッケンやA・E・コッパードの古典的な怪奇小説も収録しています。また、コナン・ドイルの『寄生体(パラサイト)』は、精神的な吸血鬼を描いた力作ですが、これもオススメ。

 1984~1986年ごろにソノラマ文庫から出ていた海外シリーズには、多くのホラーアンソロジーが含まれていました。なかでも、シリーズ内叢書のような形で、何冊かセットになって刊行されたアンソロジーが二つあります。

 ひとつは、ハーバート・ヴァン・サール編のアンソロジー。全部で4冊出ています。『魔の配剤』(熱田遼子、松宮三知子訳)、『魔の創造者』熱田遼子、松宮三知子訳)、『魔の生命体』(小島恭子訳)、『魔の誕生日』(小島恭子訳)と、全部「魔」がつくタイトルになっていますね。
 日本で言えば江戸川乱歩風とでもいったらいいでしょうか。怪奇味の強い作品が多く収められています。『魔の生命体』では、B級ホラーの巨匠的存在チャールズ・バーキンの作品が読めるのも嬉しいところ。

 もうひとつは、デニス・ホイートリー編になる≪恐怖の一世紀≫。これも邦訳版では4分冊になっている、大部のアンソロジーです。 『真夜中の黒ミサ』(羽田詩津子、長井裕美子他訳)、 『悪夢の化身』(樋口志津子、竹生淑子他訳)、 『13人の鬼あそび』(猪俣美江子、笹瀬麻百合他訳)、 『神の遺書』(小島恭子訳)の4冊から成ります。ホジスン、ブラックウッド、マッケン、ブラム・ストーカー、ビアス、デ・ラ・メアなどの、有名作家の名前も見えますが、大部分は日本では邦訳がひとつあるかないかといった作家の作品が多く含まれます。
 H・T・W・ボースフィールド、ブランチ・ベイン・クーダー、C・E・モンターギュ、バーナード・ブロミッジなど、珍しい作家の作品が読める、ひじょうに貴重なアンソロジーになっています。

 あとは、同じくソノラマ海外シリーズから単体で出版されたアンソロジーを紹介しておきます。

 ピーター・ヘイニング編『ウイッチクラフト・リーダー 《過去・現在・未来の魔道師たち》』》(村上実子訳)
 魔術をテーマにしたアンソロジー。キース・ロバーツの魔女物作品を始め、フリッツ・ライバー、シオドア・スタージョン、リチャード・マシスン、ロバート・ブロックの作品などを収録。

 カート・シンガー編『眠られぬ夜のために 《ウィアード・テールズ傑作選》』(長井裕美子訳)
 ホラー小説専門誌《ウィアード・テールズ》の傑作選。B級作品ではありますが、オーガスト・ダーレス、マーガレット・セント・クレア、ウィリアム・テン、エリザベス・カウンスルマンなど、安心して楽しめる作品がそろっています。

 シンシア・アスキス編『恐怖の分身 《ゴースト・ストーリー傑作選》』(長井裕美子訳)
 幽霊小説の名手シンシア・アスキス編になるゴースト・ストーリーの傑作選です。ソノラマ海外シリーズのなかでは、最も文学性が高く、ハイブロウな作品集といっていいかと思います。

 ロッド・サーリング編『魔女・魔道士・魔狼』(長井裕美子訳)
 ミステリーゾーンで有名なロッド・サーリング編のアンソロジー。タイトルにあるように「魔女」と「魔法使い」と「人狼」をテーマにした作品を集めています。ラドヤード・キップリングやナサニエル・ホーソーンの古典的作品から、現代(サーリングが活躍した1960年代ですが)の作品までバラエティ豊か、かつレベルの高いアンソロジーになっています。
 なかでは、名作ファンタジー『ラーオ博士のサーカス』で知られるチャールズ・G・フィニーの傑作『黒い魔犬』がいちばんのオススメですね。

 論創社の怪奇小説シリーズ≪ダーク・ファンタジー・コレクション≫では、『漆黒の霊魂』『終わらない悪夢』がアンソロジーです。

 ハーバート・ヴァン・サール編『終わらない悪夢』(金井美子訳)
 ソノラマ文庫でも出ていたハーバート・ヴァン・サール編のアンソロジー。ヴァン・サール編のアンソロジーは、マイナー作家がひじょうに多く、マニアには嬉しい作りですね。質も水準以上ですが、収録作品が20編と多く、お得な作品集になっています。

 オーガスト・ダーレス編『漆黒の霊魂』(三浦玲子訳)
 こちらは、ロバート・ブロック、ロバート・E・ハワード、ジョゼフ・ペイン・ブレナンなど、ウィアード・テイルズ系の作家に加え、怪奇小説の名匠たち、ウィリアム・ホープ・ホジスン、ジョン・メトカーフ、H・R・ウエイクフィールド、M・P・シールなどの作家を収録した、上質な作品集です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

貪欲な読書術  荒俣宏『喰らう読書術 ~一番おもしろい本の読み方~』
4847065506喰らう読書術 ~一番おもしろい本の読み方~ (ワニブックスPLUS新書)
荒俣 宏
ワニブックス 2014-06-09

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 荒俣宏といえば、今や「知の巨人」といってもいい人です。それだけに、読んでいる本の数も半端ではありません。そんな著者の読書術について語った本が刊行されました。それがこれ、『喰らう読書術 ~一番おもしろい本の読み方~』(ワニブックスPLUS新書)です。
 荒俣さんの著書は膨大で、「本」についての著書もたくさんあります。ですが意外にも、「読書術」について語った本は、今までほとんどなかったように思います。
 媒体が新書だということもあり、内容は実践的・実用的なものになっています。本を読むことのメリットとデメリット、そして読書そのものの楽しみ方などが、丁寧に語られます。
 ただ、実用的とはいいつつも、教養が身につくなどの具体的な効能は否定しているところがミソです。

 で、ここが一番、読者のみなさまには気にかかるところでしょうが、そんなに毎日読書をして、お前はいったいどんな偉い人間になったのだ、という疑問が残りますね。
 正直に、はっきり申します。聖人にも、悪人にも、また偉い物識りにもなれません。ただ一つ、メリットといえば、人生に退屈せずに済んだことです。


 ずいぶん冷めた意見です。ただ、それでも本の紹介部分になると、熱が入ってくるところは流石です。紹介されている本やエピソードを読んでいくと、実際に本を読みたくなってくるというあたり、やはり凡百のガイドとは一線を画していますね。
 博物学関係の話題など、この人の著書を愛読している方ならおなじみのテーマが出てくるので、そういう面での目新しさはありません。ジャンル小説ファンなら期待する、幻想文学関連の話題もほんの少しだけ、稲垣足穂やダンセイニについて軽く触れられる程度です。
 ですが「ノウハウ本」の形をとりながらも、エンタテインメントとして楽しめてしまうところが、荒俣さんの真骨頂。まるでエッセイ集のように楽しむことも可能です。
 先月から刊行中の大アンソロジー『怪奇文学大山脈』といい、70に近い年齢になりながらも、まだまだ衰えていないようです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

怪奇山脈登攀中!  荒俣宏編『怪奇文学大山脈1』
4488010202怪奇文学大山脈 (1) (西洋近代名作選 19世紀再興篇)
荒俣 宏
東京創元社 2014-06-28

by G-Tools

 このたび刊行された『怪奇文学大山脈1 西洋近代名作選 19世紀再興篇』(東京創元社)は、荒俣宏編の全3巻からなる大型アンソロジーです。
 第1巻は、19世紀の作品をメインに編まれています。未訳作品も多く、怪奇幻想文学のファンとしては、必読のアンソロジーでしょう。
 まずは収録作品の紹介を。

 ゴットフリート・アウグスト・ビュルガー『レノーレ』
 ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ『新メルジーネ』
 ルートヴィヒ・ティーク『青い彼方への旅』
 作者不詳『フランケンシュタインの古塔』
 キャサリン・クロウ『イタリア人の話』
 クレメンス・ハウスマン『人狼』
 エドワード・ブルワー=リットン『モノスとダイモノス』
 ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ『悪魔のディッコン』
 フィッツ=ジェイムズ・オブライエン『鐘突きジューバル』
 リチャード・マーシュ『仮面』
 ラルフ・アダムズ・クラム『王太子通り二五二番地』
 ロバート・W・チェンバース『使者』
 エルクマン-シャトリアン『ふくろうの耳』
 コンスタンチン・ツィオルコフスキイ『重力が嫌いな人』

 ビュルガー『レノーレ』やゲーテ『新メルジーネ』といった、幻想文学史には必ず取り上げられる名作から始まり、ブルワー=リットンやレ・ファニュといったビッグネームの作品、そしてリチャード・マーシュやラルフ・アダムズ・クラムといった、マイナー作家の作品まで、バラエティに富んだ構成になっています。
 中でも面白かった作品を挙げると、古色豊かな幽霊物語『イタリア人の話』(キャサリン・クロウ)、漂流物語とゴーストストーリーを組合わせた異色の作品『モノスとダイモノス』(ブルワー=リットン)、不気味さでは比類がないサイコ・スリラー『仮面』(リチャード・マーシュ)あたりでしょうか。
 とくに、いろいろな人物に化けられる怪女性が登場する『仮面』は、江戸川乱歩の初期作品を読んでいるような、雰囲気抜群の作品で楽しませてもらいました。リチャード・マーシュは、以前創元推理文庫から『黄金虫』という怪奇スリラーが翻訳されていて、これも雰囲気たっぷりの佳作でした。もっと作品を読んでみたい作家ですね。
 あと意外、といっては失礼ですが、文豪ゲーテの『新メルジーネ』が、じつにひねくれたメルヘンで楽しませてくれます。妖精の恋人を手に入れた語り手の男性が、富も恋人も手に入れておきながら、不満をこぼしまくる「ダメ男」であるという、風刺の効いた作品です。
 解説も充実しており、勉強になります。しばらく怪奇幻想の分野からは離れていた感のある荒俣さんですが、このジャンルの総決算をしておきたいとの言葉も見られ、意気込みが感じられます。
 2巻の収録予定には、ウェイクフィールド、ジョン・メトカーフ、デ・ラ・メア、マリオン・クロフォードなど、まさに怪奇小説の黄金時代の作家たちの名前が挙がっていて、期待が膨らみます。


プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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