怪談の系譜  『ミステリマガジン2014年8月号 幻想と怪奇 乱歩生誕120周年』
B00KQ0HR8Wミステリマガジン 2014年 08月号 [雑誌]
早川書房 2014-06-25

by G-Tools

 毎年恒例の『ミステリマガジン』の≪幻想と怪奇特集≫、今年は「乱歩生誕120周年」がテーマです。乱歩にまつわる作品やエッセイがメインなのかなと思いきや、そこは翻訳専門誌だけあって、面白い編集になっています。
 乱歩の名作怪奇小説『目羅博士の不思議な犯罪』の再録を筆頭に、この作品と類縁関係にある、H・H・エーヴェルスの『蜘蛛』、エルクマン=シャトリアン『見えない眼』、竹本健治『月の下の鏡のような犯罪』を並べる構成になっています。
 乱歩が『目羅博士』を書くにあたって、エーヴェルスの『蜘蛛』から影響を受けているといっていたのは知られていますが、結果的に出来た作品は、むしろエルクマン=シャトリアン『見えない眼』に似ているという不思議な因縁があります。
 また、今号に掲載されてはいませんが、牧逸馬の怪奇実話に『ロウモン街の自殺ホテル』という作品があって、これもまた『蜘蛛』に似ているのです。
 これらのよく似たテーマを持つ作品が、どれが先行作品で、どれが影響を与えているのか?というのを考えるのも面白いですね。このあたりの事情は、新保博久さんのエッセイでも書かれています。
 また、新保さんのエッセイにも言及されていますが、この『蜘蛛』をめぐる作品群については、「『蜘蛛』を髄までしゃぶる」(許光俊『邪悪な文学誌 監禁・恐怖・エロスの遊戯 』青弓社所収)という面白いエッセイがあるので、興味を持った方は、ご一読をオススメしておきます。

 小説を読んでいて、これ、あの作品にすごく似てる…というのは、たまにあって、影響関係が実際にあったのかどうかは別にして、そうした作品群を比べて考えてみる、というのは面白いですよね。
 例えば、今ぱっと思いつくものとしては、スティーヴンソン『壜の小鬼』(高松雄一/高松禎子訳『マーカイム/壜の小鬼 -他五篇』岩波文庫収録)と、ドイツロマン派の作家フリードリヒ・ド・ラ・モット・フーケの『地獄の小鬼の物語』(深見茂訳『ドイツ・ロマン派全集05』国書刊行会収録)あたりでしょうか。この2作品、すごくよく似てるんですよね。
 『蜘蛛』『見えない眼』は、作品自体のテーマに「模倣」というものが含まれていて、その意味で、それらを「模倣」した影響作品が書かれること自体、不思議な感じがします。

 さて、『蜘蛛』関係の作品以外では、特集作品として、三津田信三『屋根裏の同居者』、A・N・L・マンビー『甦ったヘロデ王』、マージェリー・アリンガム『風鈴』が掲載されています。
 三津田信三は、『屋根裏の散歩者』をテーマにした乱歩へのオマージュ短編です。
 『風鈴』は、アリンガムには珍しい純怪談です。求婚を断られた日本人の男が、相手の女性に呪いの風鈴を送ってくるという作品。日本人というか東洋人のイメージが前時代的で、今読むと鼻白むのですが、作品自体の雰囲気は悪くありません。
 A・N・L・マンビー『甦ったヘロデ王』は、M・R・ジェイムズ風の怪奇小説。子ども時代に出会った殺人者を回想するという構成になっていますが、悪夢的雰囲気が素晴らしい力作になっています。

 ≪幻想と怪奇≫特集、何十年分も読んできましたが、今回みたいな特集の組み方は初めてではないでしょうか。再録作品ばかりになってしまっている憾みはありますが、テーマとしてはうまくまとまっていて、面白い試みだったので、こうした形の特集はまたやってもらいたいです。
 そういえば、ガイド本でも、テーマで分類しているというものがありますね。ミステリで言うと、間羊太郎『ミステリ百科事典』(文春文庫)、SFなら、ブライアン・アッシュ『SF百科図鑑』(サンリオ)があります。怪奇小説関連なら、「幻想文学」編集部編『幻想文学1500ブックガイド』(国書刊行会)が近いでしょうか。
 作家別、作品別という区分ではなくて、テーマ別の分類というのは、作品単体ではなくて、複数の作品を比較できる優れた視点だと思います。
7月の気になる新刊
7月10日刊 ジョン・ディクスン・カー『三つの棺 新訳版』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価1188円)
7月10日刊 アンデシュ・デ・ラ・モッツ『監視ごっこ』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価1080円)
7月10日刊 フィリップ・K・ディック『小さな黒い箱』(ハヤカワ文庫SF 予価1102円)
7月14日刊 カレン・ラッセル『狼少女たちの聖ルーシー寮』(河出書房新社 予価2376円)
7月14日刊 レイ・ヴクサヴィッチ『月の部屋で会いましょう』(創元海外SF叢書 予価2052円)
7月17日刊 ラティフェ・テキン『乳しぼり娘とゴミの丘のおとぎ噺』(河出書房新社 予価1944円)
7月22日刊 ジョン・ディクスン・カー『テニスコートの殺人』(創元推理文庫 予価972円)
7月22日刊 千街晶之『原作と映像の交叉光線(クロスライト) ミステリ映像の現在形』(東京創元社 予価2700円)
7月23日刊 ショーン・タン『夏のルール』(河出書房新社 予価2160円)
7月23日刊 ブラッド・ハニーカット&テリー・スティッケルズ『錯視芸術図鑑 世界の傑作200点』(創元社 予価3465円)
7月23日刊 アル・セッケル『不可能図形コレクション90選』(創元社 予価1296円)
7月29日刊 カート・ヴォネガット『セルマに捧げる歌』(仮題)(河出書房新社 予価2052円)
7月刊 種村季弘『詐欺師の勉強あるいは遊戯精神の綺想』(幻戯書房 予価9180円)
7月予定 ジュール・ヴェルヌ『地球から月へ 月をまわって 上を下への (完訳ガンクラブ三部作)』(インスクリプト 予価4212円)


 このところ、良質の短編集の邦訳が続いていて嬉しい限りです。7月に刊行される短編集としては、カレン・ラッセル『狼少女たちの聖ルーシー寮』と、レイ・ヴクサヴィッチ『月の部屋で会いましょう』が要注目ですね。ヴクサヴィッチの方は、岸本佐知子編のアンソロジーに、作品が収録されていて、なかなか面白かった覚えがあります。奇想の強い作風のようですね。
 創元社から出る、錯視芸術関係の2冊は、だまし絵好きとしては気になるところです。以前同社から出た『錯視芸術の巨匠たち―世界のだまし絵作家20人の傑作集』はとても良かったので、今回も期待しています。
 あまり聞かない出版元ですが、ジュール・ヴェルヌの三部作の新訳が登場です。これ、≪ジュール・ヴェルヌ 〈驚異の旅〉 コレクション≫というシリーズで、全5巻の予定だそうです。1巻あたり、複数の長編をまとめる形で行くんでしょうか。
 ヴェルヌ作品は、未訳の作品もまだあるようなので、この際それらを訳していただきたいですね。個人的には、昔『怪盗対名探偵-フランス・ミステリーの歴史』(松村喜雄 晶文社)で紹介されていた、ミステリ的な要素が強いという、『リヴォニアの悲劇』とか『キップ兄弟』あたりが気になります。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

秀作の宝庫  小山正『ミステリ映画の大海の中で』

4871985768ミステリ映画の大海の中で (叢書・20世紀の芸術と文学) (叢書20世紀の芸術と文学)
小山 正
アルファベータ 2012-11-03

by G-Tools

 このところ映画づいているので、自然、映画のガイド本を読む機会も増えました。
 中でも圧倒的だったのが、以前紹介した、『映画の生体解剖 ~恐怖と恍惚のシネマガイド~』(稲生平太郎+高橋洋 洋泉社)なのですが、同じぐらい強烈なインパクトを受けたのが、小山正『ミステリ映画の大海の中で』(アルファベータ)です。
 『映画の生体解剖』の方は、ガイドというよりは評論寄りの本なので、映画作品自体の内容がもっと知りたい!という面では、物足りないところがありました。それに対して、『ミステリ映画の大海の中で』は、あくまで映画作品のガイドに徹底しています。
 タイトルに「ミステリ」と入っているので、「ミステリ映画」に絞った内容なのかと思って、ノーマークだったのですが、これはすごい!ものすごい密度と鑑識眼が感じられます。
 本の後半は、『ミステリマガジン』に掲載されたDVD評が、まとめて収録されています。雑誌掲載時には、たまに読んでいて参考にしていました。わずか1ページの紹介文なのですが、どれも要領よくまとめられており、作品紹介のお手本のようなコーナーでした。今回、単行本でまとめて読んでみると、なんという重量感でしょうか。
 メジャー作品ではなく、マイナー作品、それもあくまで「話の面白さ」にこだわったセレクションがなされています。具体的には、監督よりも脚本家重視のセレクションといっていいのでしょうか。早速これをガイドとして、DVDをいくつか買い込みました。
 よほどの映画フリークでもない限り、知らないような映画が山のように取り上げられています。それだけに、大傑作!というよりは、小粒な秀作だったり、怪作だったりといった方がいいような作品が多く取り上げられているようです。
 タイトルにあるように、ミステリ映画がメインですが、SFだったりホラーだったりと、ジャンルもかなり融通無碍、ミステリにしてもちょっと変わったサスペンスやサイコ・スリラーなども紹介されています。その点、ジャンル映画好きの方なら、ミステリ好きに限らず、楽しめると思います。


B00005MFY4スリープウォーカー [DVD]
エムスリイエンタテインメント 2001-08-25

by G-Tools

 例えば、『スリープウォーカー』(ヨハン・リューネボルグ監督 スウェーデン)というサスペンス作品。夢遊病に悩む男が、目を覚ますと横で寝ていたはずの妻が消えており、大量の血痕だけが残っていた…という話です。自分が殺してしまったのではないかと悩む男は、警察に追われながら、妻の居所を探すのですが、これがひねりにひねる。ひねりすぎて正直、わけがわからなくなってしまうという怪作です。


B0006TWU8Kボディスナッチ [DVD]
日活 2005-02-10

by G-Tools

 また、『ボディスナッチ』(フランソワ・ハンス 監督 フランス)は、事故で耳に障害を負ってしまった、元ストリップダンサーが主人公です。誠実な夫とかわいい息子にかこまれて、幸せな生活を送る主人公ですが、造園技師だと言っていた夫が、実は医師だったことがわかり、夫に対する疑念がわきあがっていきます…。ボワロー、ナルスジャックの『私のすべては一人の男』を思わせる、トンデモスリラーです。


B0006FH0D4ザ・サイト [DVD]
ポール・W・S・アンダーソン
パンド 2005-01-07

by G-Tools
B0098X0TQ0イベント・ホライゾン デジタル・リマスター版 [DVD]
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン 2012-11-22

by G-Tools
B000JVRTEAザ・ダーク [DVD]
サイモン・マギン
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2007-01-01

by G-Tools
B004FEEZGMパンドラム [DVD]
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2011-02-23

by G-Tools

 この本を読んで、個人的にいちばん気になったのは、ポール・W・S・アンダーソンという人。『バイオハザード』とか『エイリアンVSプレデター』の監督をしている人ですね。メジャーな娯楽大作をとる監督という認識しかなかったのですが、この本で、ほかにも面白い作品を作っているという紹介がなされていて、いくつか観てみました。
 これが好みにはまる作品ばかりでビックリです。霊が見える男が連続殺人犯を追うミステリ『ザ・サイト』、宇宙探検ものとクトゥルーものとをくっつけたようなSFホラー『イベント・ホライゾン』、あの世の描写が冴え渡るオカルトスリラー『ザ・ダーク』、世代間宇宙船ものをひねったSF『パンドラム』など。
 正直、テーマとしては新奇さには欠けるきらいはありますが、見せ方とリミックスの仕方が上手いのもあって、娯楽作品としては、どれも十分に楽しませてくれます。
 とくに、『イベント・ホライゾン』『パンドラム』は、ともに閉鎖された宇宙船内部を舞台にした作品なのですが、それぞれ工夫が凝らされていて飽きさせません。
 消息を絶った宇宙船の行方、乗組員はなぜ消えたのか?操縦士がかかった記憶喪失症の理由とは? そしてタイムリミットによるサスペンスも相まって、SFやホラー好きにはたまらない作品になっています。この手の作品が好きな方には、ぜひオススメしておきます。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する