5月の気になる新刊とミステリマガジン記念アンソロジーのこと
5月2日刊 リチャード・ニーリィ『リッジウェイ家の女』(扶桑社ミステリー 予価1050円)
5月8日刊 ジョー・ヒル『NOS4A2 ノスフェラトゥ 上・下』(小学館文庫 予価各994円)
5月8日刊 北村薫・宮部みゆき編『読まずにいられぬ名短篇』(ちくま文庫 予価972円)
5月8日刊 ロアルド・ダール『キス・キス 新訳版』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価864円)
5月9日刊 米澤穂信選『世界堂書店』(文春文庫 予価809円)
5月10日刊 生田耕作編訳『愛書狂』(平凡社ライブラリー 予価1512円)
5月16日刊 小中千昭『恐怖の作法 ホラー映画の技術』(河出書房新社 予価2625円)
5月22日刊 パトリック・クェンティン『女郎蜘蛛』(創元推理文庫 予価886円)
5月22日刊 『本屋の雑誌 別冊本の雑誌17』(本の雑誌社 予価2138円)
5月23日刊 山岸真編『SFマガジン700 海外篇 創刊700号記念アンソロジー』 (ハヤカワ文庫SF 予価1080円)
5月23日刊 大森望編『SFマガジン700 国内篇 創刊700号記念アンソロジー』(ハヤカワ文庫SF 予価1080円)
5月26日刊 エリック・ハズペス『異形再生 付 「絶滅動物図録」』(原書房 予価3024円)
5月30日刊 キジ・ジョンスン『霧に橋を架ける』(創元海外SF叢書 予価1836円)
5月30日刊 ポール・アダム『ヴァイオリン職人の探求と推理』(創元推理文庫 予価1166円)
5月30日刊 セス・フリード『大いなる不満』(新潮クレスト・ブックス 予価1944円)

 5月は、短編集がたくさん出るようで、短編ファンにとっては嬉しいですね。ちくま文庫からは、すでに半シリーズ化している、北村薫・宮部みゆき編のアンソロジー『読まずにいられぬ名短篇』が出ます。このシリーズ、いいシリーズだとは思うのですが、海外物が全然入っていないのが、ちょっと不満です。北村薫の≪謎のギャラリー≫みたいに、海外物も入れてくれるといいんですけどね。
 文春文庫からは、米澤穂信選のアンソロジー『世界堂書店』。収録内容はまだ発表されていないようですが、編者が編者だけに、ひねった作品が集められていそうです。
 平凡社ライブラリーからは、生田耕作編の名アンソロジー『愛書狂』が登場。古書にかかわる短編を集めたものです。
 個人短編集としては、ロアルド・ダール『キス・キス』の新訳版が早川から、キジ・ジョンスンの短編集が創元から、セス・フリードの短編集が新潮から、それぞれ刊行されます。
 とくに、キジ・ジョンスンは、以前『SFマガジン』に載った短編がとても面白かったんですよね。例えば『26モンキーズ、そして時の裂け目』は、26匹の猿を譲り受けた女性が、不思議な運命に出会う…という、なんとも素敵な作品でした。
 4月の≪ミステリマガジン≫のアンソロジー2冊に引き続き、5月には≪SFマガジン≫のアンソロジーが登場です。これも楽しみですね。

 ついでに、刊行されたばかりの『ミステリマガジン700 海外篇』『ミステリマガジン700 国内篇』の収録内容を記しておきます。

『ミステリマガジン700 海外篇』
「決定的なひとひねり」A・H・Z・カー/小笠原豊樹訳
「アリバイさがし」シャーロット・アームストロング/宇野輝雄訳
「終列車」フレドリック・ブラウン/稲葉明雄訳
「憎悪の殺人」パトリシア・ハイスミス/深町眞理子訳
「マニング氏の金のなる木」ロバート・アーサー/秋津知子訳
「二十五年目のクラス会」エドワード・D・ホック/田口俊樹訳
「拝啓、編集長様」クリスチアナ・ブランド/山本俊子訳
「すばらしき誘拐」ボアロー、ナルスジャック/日影丈吉訳
「名探偵ガリレオ」シオドア・マシスン/山本俊子訳
「子守り」ルース・レンデル/小尾芙佐訳
「リノで途中下車」ジャック・フィニイ/浅倉久志訳
「肝臓色の猫はいりませんか」ジェラルド・カーシュ/若島正訳
「十号船室の問題」ピーター・ラヴゼイ/日暮雅通訳
「ソフト・スポット」イアン・ランキン/延原泰子訳
「犬のゲーム」レジナルド・ヒル/松下祥子訳
「フルーツセラー」ジョイス・キャロル・オーツ/高山真由美訳

『ミステリマガジン700 国内篇』
「寒中水泳」結城昌治
「ピーや」眉村卓
「幻の女」田中小実昌
「離れて遠き」福島正実
「ドノヴァン、早く帰ってきて」三条美穂
「温泉宿」都筑道夫
「暗いクラブで逢おう」小泉喜美子
「死体にだって見おぼえがあるぞ」田村隆一
「クイーンの色紙」鮎川哲也
「閉じ箱」竹本建治
「聖い夜の中で」仁木悦子
「少年の見た男」原リョウ
「『私が犯人だ』」山口雅也
「城館」皆川博子
「鳩」日影丈吉
「船上にて」若竹七海
「川越にやってください」米澤穂信
「怪奇写真作家」 三津田信三
「交差」結城充考
「機龍警察 輪廻」月村了衛

 どちらも、ヴァラエティに富んだ、いい編集だと思います。『ミステリマガジン』は、最近でこそ毎号は読まなくなりましたが、600号あたりまでは、ほぼ全号読んだと思います。その点、あの作品は入っていないのか…、と思うような作品もいっぱいありますが、それはないものねだりでしょう。
 個人的には、ロバート・アーサーの「マニング氏の金のなる木」は、大好きな作品なので、収録されて嬉しかったです。
ホラー映画のことなど
 『映画の生体解剖 ~恐怖と恍惚のシネマガイド~』(稲生平太郎+高橋洋 洋泉社)を読んで以来、映画づいてしまい、このところ映画をよく観ています。といっても、ほとんどホラー映画ですが。
 その中から、いくつかご紹介します。



B007AD0YME怪人カリガリ博士 [DVD]
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン 2012-05-25

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『怪人カリガリ博士』(ロジャー・ケイ監督 1961年 アメリカ)
 自動車事故を故障させてしまった若い女性ジェーンは、近くの屋敷に助けを求めます。カリガリと名乗るハンサムな男は快く迎え入れ、屋敷に泊まることを勧めます。カリガリに惹かれはじめたジェーンでしたが、なぜか彼はジェーンを屋敷に閉じ込め、出そうとしません。
 ほかにも客が何人も滞在しているのに、ジェーンが脱出するのに手を貸してくれる人間はおらず、どうやら客たちはカリガリには逆らえないようなのです…。
 ロバート・ブロック脚本による不条理スリラー作品です。理由もわからずに屋敷に閉じ込められてしまう女性の不安を描いている、のでしょうが、正直ちょっと退屈なのは否めません。ただラストはブロックらしいオチがあって、かなり驚かされはするのですが、そこまでがかなり長いのが弱点。オムニバスの1話ぐらいの尺だったら、傑作になったと思うのですが。



B008U2H0XAレガシー [DVD]
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン 2012-11-08

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『レガシー』(リチャード・マーカンド監督 1978年 アメリカ)
 仕事の依頼を受けてロンドンに向かった建築家マギーは、途中で自動車事故に会いますが、それをきっかけに、ある豪華な屋敷に招かれることになります。
 屋敷には、それぞれの業界で栄達をとげた人間が集まっており、死期の迫ったある人物の遺産相続に備えているというのです。そしてマギーもまた、相続者の一人であると…。
 やがて、客たちが一人一人と謎の死をとげていきますが…。
 キャサリン・ロス主演のオカルト・ミステリー映画です。ムードは悪くないのですが、肝心のお話が少々古臭いのが難点です。



B004NSW18O悪を呼ぶ少年 [DVD]
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン 2011-05-20

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『悪を呼ぶ少年』(ロバート・マリガン監督  1972年 アメリカ)
 夫の死をきっかけとして寝込むようになってしまったアレクサンドラ。息子であるナイルズは、母親を元気付けようとしますが、双子の兄ホランドはいたずらを繰り返します。
 ある日ナイルズが父親の形見の指輪を見ているところを、従兄に見つかってしまいます。指輪は父親とともに埋葬されたはずだというのです。やがて従兄が不慮の事故で死んだのを始め、回りの人間たちが次々と死んでいきます…。
 1930年代のアメリカを舞台にした、トマス・トライオン原作によるサイコ・スリラー映画です。題材が双子だけに、なんとなく内容は予想はつくのですが、この作品のキモは、むしろそこにはありません。
 純粋なナイルズと悪魔的なホランド、その対照性が見所でしょう。後半、事故にあった母親と接するナイルズが無邪気に本を読んであげようとするシーンなど、見事の一言につきます。ホラー映画史でも名作に挙げられる作品ですが、確かにそれだけのことはある作品だと思います。



B0078J5RRCミッドナイト・ミート・トレイン [DVD]
角川書店 2012-03-15

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『ミッドナイト・ミート・トレイン』(北村龍平監督 2008年 アメリカ)
 写真家の青年レオンは、ふとしたきっかけからある男を尾行することになります。その男の正体は、世間を騒がせていた地下鉄内連続殺人事件の犯人だったのです。淡々と殺人を繰り返す男の目的は何なのか…?
 クライヴ・バーカーの同題の短編を原作とした映画です。バーカー原作作品って、あんまり成功したものがないような気がするのですが、これはかなり成功している部類ではないかと思います。
 もともと話のプロット自体はシンプルなので、結局、ヴァイオレンス描写的な部分が上手く描けるかどうか、というのがこの作品のキモだと思いますが、その点北村龍平監督のそれは豪快なもので、見ごたえがあります。
 最後のオチというか最終シーンもほぼ原作を踏襲しているところも、原作ファンには嬉しいところです。



B009CU1VN4ミスター・ノーバディ [DVD]
角川書店 2012-10-25

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『ミスター・ノーバディ』(ジャコ・ヴァン・ドルマル監督 2009年 フランス/ドイツ/ベルギー/カナダ)
 医学が発達し、不老不死の世界となった近未来が舞台。その世界で、最後の「死を迎える人」となった世界で最高齢の老人が、自らの過去を振り返り始めます。
 老人ニモは、自分が選んだ女性、あるいは選んだかもしれない3人の女性との人生を語り始めますが…。
 人生の分岐点を1つだけ描くのではなく、分岐した結果をいくつも描き出してしまおうという、何ともユニークな試みの映画です。メインとなるのは、幼いころに出会った3人の少女、それぞれと結ばれたとき、ニモの人生はどうなるのか?というのを、重層的に描き出していきます。
 幸せになる人生もあれば、不幸になる人生もある。人生の複雑さをこのような形で描く手法があったとは驚きです。これは間違いなく、将来名作として語り継がれるようになる作品でしょう。



B00GWDG9WWビザンチウム [DVD]
ポニーキャニオン 2014-03-04

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『ビザンチウム』(ニール・ジョーダン 2012年 イギリス/アイルランド)
 ある日、海辺の街に現れた少女エレノアと姉のクララ。クララは街で出会った青年をたぶらかし、彼の所有する古びたホテルを娼館に変えてしまいます。一方、エレノアは、難病で苦しむ青年と出会い、彼に惹かれてゆきます。
 エレノアとクララには誰にもいえない秘密がありました。二人は人の血を吸わねばならない吸血鬼であり、すでに数百年も生きているというのです。やがて二人を狙う組織の者が現れますが…。
 人の血を吸うことに罪悪感を覚える純粋なエレノアと、生きるためには他人を殺してもしょうがないと考えるクララの対比が、コントラストをなしています。孤独にさいなまれてきたエレノアが共に生きたいと青年を愛し始めたとき、それを許さないクララがとった行動とは…?
 モンスターとしてではなく、人間として生きたいと考える吸血鬼の物語です。この作品では、不老不死は、恩寵というよりは難病として捉えられています。静謐な空気を持った佳作です。



B00A2HRQ3K恐怖ノ黒電話 [DVD]
松竹 2013-02-07

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『恐怖ノ黒電話』(マシュー・パークヒル監督 2011年 イギリス)
 環境を変えたいと、アパートに引っ越してきたマリー。その部屋にはすでに回線のつながった、古い黒電話が置いてありました。ある日かかってきた電話は、知らない女性からのものでした。間違い電話だと思ったものの、話し相手になってほしいとの言葉にマリーは、彼女の相手をはじめます。
 話しているうちに、その女性ローズは、1970年代に生きていることがわかります。半信半疑のマリーでしたが、男との仲に苦しんでいるというローズの相談に乗ってやります。何の気なしにもらしたマリーの言葉から、ローズはとんでもない行動に出てしまいます。
 そして、ローズはマリーに対し、異常な執着を見せ始めます。過去に生きているというローズの言葉は本当なのでしょうか? やがて不可解な現象がマリーを襲います…。
 今回いちばん楽しんだのがこの作品です。「過去からの殺人鬼」という、なんともユニークな設定のホラー作品です。直接的に襲うのではなく、間接的な手段で主人公を苦しめるのですが、その攻撃の仕方がとんでもない。SF的な要素を非常に上手く使っています。


 さて、『映画の生体解剖』を読んでいて、いちばん気になった作品が、『狂恋』(カール・フロイント監督 1935年 アメリカ)でした。原作が、フランスの作家モーリス・ルナール、脚本がガイ・エンドアという、怪奇小説ファンとしては、気になる名前なのです。
 モーリス・ルナールは、翻訳はおそらく『フランス幻想文学傑作選3』に収録された『女歌手』『リズロ氏の奇妙な思い出』ぐらいしかないと思うのですが、どちらも怪奇味の強い作品で、面白い作品だったので、印象に残っています。
 ガイ・エンドアは、ジャンル専門作家ではありませんが、名作怪奇小説『パリの狼男』の作者ですね。
 映画のあらすじも調べると、話も面白そうです。事故にあい、両手を切断することになったピアニストが、代わりに死刑囚の腕を移植することになり、その直後に殺人が発生する、という物語だそうです。
 観てみたいけれど、ソフト化もされていないみたいだし、と思っていた矢先、嬉しいニュースが!
 『アメリカンホラーフィルム ベスト・コレクション DVD-BOX vol.1』が7月に発売され、その中に『狂恋』も含まれるというのです。ほかにもW・F・ハーヴィー原作の『五本指の野獣』なんてのも含まれるらしいので、購入しようかどうか考え中です。
異端の映画ガイド  稲生平太郎+高橋洋『映画の生体解剖 ~恐怖と恍惚のシネマガイド~』

4800302838映画の生体解剖~恐怖と恍惚のシネマガイド~
稲生 平太郎 高橋 洋
洋泉社 2014-03-25

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 稲生平太郎+高橋洋『映画の生体解剖 ~恐怖と恍惚のシネマガイド~』(洋泉社)は、英文学者にして作家の稲生平太郎と、映画『リング』『女優霊』の脚本で知られる脚本家、高橋洋の映画に関する対談をまとめた本です。
 映画ガイド本はあまたありますが、本書のような本は初めて読みました。本書のユニークな点は、まず映画が、監督やジャンルではなく、テーマ別に語られていること。そしてそのテーマの切り口が非常に独特なところです。
 テーマの例をいくつか挙げると、「放電」「手術台」「水」「パラノイア感覚」「姉妹」「フィルムの中のフィルム」など。「パラノイア感覚」「姉妹」などはともかく、「放電」や「手術台」でテーマを立ててしまうところに驚かされます。
 そして各テーマで取り上げられるのは、娯楽映画、ジャンル映画に限りません。また、欧米の作品だけでなく、邦画、インド映画など、国籍も多数。
 著者二人とも、膨大な数の映画を鑑賞していることがわかるのですが、やはり稲生平太郎の該博な知識と独特の見識が目立ちます。ラヴクラフトの某作品が映画の影響で発想されたのではないか、などハッとするような指摘もあります。
 ジャンル映画を専門に語った本ではないので、ジャンル映画のガイドとして読むのとはちょっと違うのですが、とにかく取り上げられる映画作品が多種多様で、観てみたい作品が増えるのは確実です。
 互いに怪奇幻想に造詣が深い著者だけに、ホラー作品に言及される部分も多く、その意味でホラーファンにも楽しんで読めると思います。


プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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