最近読んだ本

4198606595ぼくの心の闇の声
ロバート・コーミア Robert Cormier
徳間書店 1997-02

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 主人公の少年ヘンリーは、経済的に苦しい家族を助けるために、食料品店で働いていました。ヘンリーの兄の死により、両親は精神的にも参っていたのです。
 ヘンリーは、ある日ナチスの強制収容所で生き残った老人と出会い、彼の作るミニチュアに心惹かれていきます。老人の話を聞いた食料品店の店主は、ヘンリーにとんでもない取引を持ちかけますが…。
 貧しく、精神的にも余裕のない少年に持ちかけられる悪魔のささやき。典型的な少年の成長物語と思わせながら、物語の結末がついた後にも、やりきれない苦さが残ります。児童書のレーベルで出版されてはいますが、むしろ大人の読者に訴える作品でしょう。



4198615357心やさしく
ロバート コーミア Robert Cormier
徳間書店 2002-06

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 同じくコーミア作品ですが、『ぼくの心の闇の声』に輪をかけて、ダークな色調の作品です。
 両親を殺した少年エリックが少年院から釈放されたというニュースを見て、彼に会いたいと家出をした少女ローリ。ローリはかってエリックが捕まる前に、彼に会い、慰めてもらった経験があったのです。
 一方、親の虐待があったからと、殺人を正当化するエリックを信用できない警部補は、彼を逮捕しようと、エリックを追いかけますが…。
 サイコパスの少年と、彼に執着する家出少女という、センセーショナルなテーマで描かれた作品です。避けられない悲劇的な結末に向かって突き進む、後味の悪い作品ですが、何ともいえない味があります。
 10代のころに読んだら、確実にトラウマになるであろう作品ですね。



4041011477魔女の子供はやってこない (角川ホラー文庫)
矢部 嵩 小島 アジコ
KADOKAWA/角川書店 2013-12-25

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 人間界に修行にやってきた魔女のぬりえと友達になった小学生の夏子。二人は人々の願いをかなえようと試行錯誤を繰り返します…。
 いわゆる「魔法少女もの」のフォーマットで描かれているのですが、その型がグロテスクに歪められているのが特徴。肉体的なものだけでなく、精神的にもいびつな人々が登場し、読んでいるうちに、あっさりと人を殺してしまう魔女よりも、利己的な一般人の方が醜く見えてくるから不思議です。
 しかも最終章では、二人の友情をめぐって、何やらヒューマンドラマの趣まで見えてくるという怪作。



4152094451〔少女庭国〕 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)
矢部 嵩
早川書房 2014-03-07

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 卒業式の会場に向かっていた中三の少女、仁科羊歯子は、ふと気づくと壁にかこまれた部屋にいることに気づきます。ドアには「ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n‐m=1とせよ。」という貼紙が張られていました。
 ドアを開けた次の部屋には、羊歯子と同じ中三の少女が寝ており、次の部屋にも別の少女が寝ていたのです。各部屋に寝ていた少女たちを起こし続ける一行の人数はどんどんと増えていきますが…。
 脱出できるのはひとりだけという、いわゆる「デスゲーム」的なテーマを提示しておきながら、まったく違う方向に進んでいくという、何とも説明しにくいジャンルの作品です。
 少女たちの間で殺し合いが起きるのかと思いきや、いや実際起きるのではありますが、それだけでは終わらないのです。殺し合い以外にも、生き延びる手段を考え付いた少女たちは、なんと「開拓」を始めるのです。
 しかし部屋の中には、道具も食料もまったくありません。あるのは、少女たちが身に着けていたお菓子や文房具のみ。食料がなくなった彼女らは、とんでもないことを実行し始めます…。
 ジャンルは全く違えど、イタロ・カルヴィーノの『見えない都市』(河出文庫)やアンリ・ミショー『幻想旅行記』(青土社)を思わせる、奇妙なスケール感を持った作品です。



B00J4KDCJ8五色の舟 (ビームコミックス)
近藤 ようこ 津原 泰水
KADOKAWA / エンターブレイン 2014-04-23

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 予言をするという妖怪「くだん」をテーマにした津原泰水の原作をコミック化した作品です。原作も素晴らしい作品でしたが、重厚な原作を、これほど軽やかに描いているのは見事です。

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4月の気になる新刊と3月の新刊補遺
3月31日刊 アントニイ・バークリー『服用禁止』(原書房 予価2520円)
4月10日刊 カミ『三銃士の息子』(仮題)(ハヤカワ・ミステリ 予価1890円)
4月14日刊 小中千昭『恐怖の作法 ホラー映画の技術』(河出書房新社 予価2625円)
4月15日刊 東雅夫・下楠昌哉編『幻想と怪奇の英文学』(春風社 予価2835円)
4月21日刊 ロビン・スローン『ペナンブラ氏の24時間書店』(東京創元社 予価2052円)
4月23日刊 法条遥『リアクト』(ハヤカワ文庫JA 予価670円)
4月24日刊 杉江松恋編『ミステリマガジン700 海外篇』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価1050円)
4月24日刊 日下三蔵編『ミステリマガジン700 国内篇』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価1050円)
4月25日刊 《ミステリマガジン6月号  創刊700号記念特大号》(早川書房)
4月25日刊 ジョン・クロウリー『古代の遺物』(国書刊行会 予価2376円)
4月28日刊 牧眞司編『柴野拓美SF評論集 理性と自走性――黎明より』(東京創元社 予価3996円)


 先日≪ミステリマガジン≫でもカミ特集がありましたが、カミの長編『三銃士の息子』が登場です。個人的には、長編よりもコント集や短編集をお願いしたいですね。
 小中千昭『恐怖の作法 ホラー映画の技術』は、ホラーや「怖い」物語の技術について語った本だそうです。同著者の『ホラー映画の魅力』(岩波アクティブ新書)も同テーマで書かれていますが、非常に示唆に富む本でした。
 法条遥の≪時の4部作≫の第三弾『リアクト』が登場です。1作目、2作目と、ユニークなタイムトラベル小説だったので3作目も期待してしまいます。
 ≪ミステリマガジン≫が創刊700号を迎え、記念アンソロジーが出版されます。海外篇と国内篇それぞれが出るようですね。国内はともかく、海外短編は候補作が多すぎて、1冊にまとめられるようなものではないような気がします。せめて年代別アンソロジーにしてほしかったです。
 久々の〈未来の文学〉の新刊は、ジョン・クロウリー『古代の遺物』。SFよりはファンタジーの領域に近い作家ですが、期待大です。

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愛欲と情念  メイ・シンクレア『胸の火は消えず』

4488513026胸の火は消えず (創元推理文庫)
メイ・シンクレア 南條 竹則
東京創元社 2014-02-28

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 本邦では、怪奇小説の名作『胸の火は消えず』『希望荘』で知られる女流作家メイ・シンクレア。彼女の怪奇小説を集成した短編集が『胸の火は消えず』(南條竹則編訳 創元推理文庫)として刊行されました。
 過去にアンソロジーに収録されたものもあり、既訳の作品も多く含まれているのですが、まとめて読むことで、シンクレア作品の特色も浮かび上がってきます。
 シンクレア作品のいちばんの特徴は「生々しさ」。彼女の作品では、よく「幽霊」や「死者」が登場するのですが、その「幽霊」や「死者」がひどく生々しいのです。
 例えば、同じ怪奇小説を書いたH・R・ウェイクフィールドの作品に登場する「幽霊」が生者の世界とは断絶した禍々しいものとして描かれるのとは対照的に、シンクレア作品のそれは、生者の世界と地続きといっていいでしょう
 『形見の品』では、死んだ妻が夫に認めてもらおうと頻繁に出現しますし、『被害者』では、殺された被害者が加害者に長々と真実を話し始めます。霊が現れるとき、精神的な接触というよりは、肉体的な接触に近いのです。
 もう一つの特徴は、官能的な要素が強いこと。例えば表題作『胸の火は消えず』では、生前情欲に囚われた主人公の女性は、死後、かっての愛人とともに生前の行いを繰りかえします。また『証拠の性質』では、死んだ前妻が後妻を夫に近づけまいと、なんと夫を誘惑するのです。
 上に挙げた「肉体的な接触」とも関係してきますが、「幽霊」が生者に対し、肉体的(性的)に接触してくるという点が、シンクレア作品が生々しく感じられる一つの要因でしょう。
 その意味で、シンクレア作品において恐ろしいのは「幽霊」よりも「情念」であり「愛欲」なのです。そうした要素が強く出ているのが、巻末に収められた『希望荘』でしょう。
 新妻を失った男への同情がやがて愛情に変わり、後妻に入ることになった女性。彼が用意した屋敷の部屋はかって新妻が死んだ部屋でした。その部屋に現れたのは、前妻の霊なのか…?
 典型的な幽霊話と思わせておいて、出現したものには驚かされるはず。シンクレアらしさの出た傑作幽霊譚です。

  他に力作として『水晶の瑕』『仲介者』が挙げられます
 『水晶の瑕』は、癒しの能力を持つ女性が、友人の夫の狂気を治療したことから、自らも狂気に感染するという物語。「狂気」自体の得体の知れなさが不気味です。
 『仲介者』は、下宿に現れる子供の霊をめぐる怪奇小説です。下宿先の夫婦の精神的・性的な葛藤が不必要なほど濃厚に描かれ、しかもそれが物語自体に有機的に結びついているという、独創的かつ心理的なゴースト・ストーリーです。

 また『マハトマの物語』『ジョーンズのカルマ』は、インドの行者を語り手にした作品で、SF的なアイディア・ストーリーとしても興味深い作品です。
 『マハトマの物語』は二組の夫婦の人格入れ替わりを扱った作品。『ジョーンズのカルマ』は、人生をやり直せたら、人間は良い選択をできるのか?という道徳的テーマを含んでいます。

 『胸の火は消えず』『水晶の瑕』『仲介者』『希望荘』と、普通なら短編集に1編あればいいというぐらいの傑作がこれだけ入っているのに驚かされます。クラシックな怪奇小説好きであれば、必ず満足できる短編集でしょう。

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≪ナイトランド叢書≫について
 以前このブログでも紹介した、ホラー小説を集めたシリーズ≪ナイトランド叢書≫。予約が1000部に達した時点で、出版が成立するという企画です。3月末までに、1000部ということだったので、何とかなるかな、と思っていたのですが、企画成立自体が危うくなってきました。
 3月2日の時点で、第1期3冊の予約状況は以下のような数字です。

ジョー・R・ランズデール『死者の町』友成 純一・訳
→ 151件
ロバート・E・ハワード『失われた者たちの谷 ハワード怪奇幻想傑作選』中村 融・編訳
→ 117件
デニス・エチスン『ダーク・カントリー(自選版)』植草 昌実・訳
→ 116件

 この状態から、あと1ヶ月で1000件は、正直厳しいような気がします。エチスンはともかく、ランズデールやハワードでさえ、予約が集まらないとは思いませんでした。
 ホラーファンの方は、もっといると思うのですが、やはりまだトライデントハウスの出版物の知名度が少ないんでしょうか。情報を広めるという意味で、このブログでも改めて紹介しておきたいと思います。
 個人的にエチスン短編集はぜひ実現してもらいたい企画です。海外ホラー作品に興味のある方はぜひ応援お願いします! 予約は以下のページから。

 《ナイトランド叢書》創刊!


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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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