11月の気になる新刊
11月6日刊 西崎憲編『怪奇小説日和』(ちくま文庫 予価1050円)
11月7日刊 小鷹信光監修 ジャック・リッチー『ジャック・リッチーのあの手この手』(ハヤカワ・ミステリ 予価1785円)
11月7日刊 フィリップ・K・ディック『変数人間 ディック短篇傑作選』(ハヤカワ文庫SF 予価987円)
11月8日刊 ジュール・シュペルヴィエル『ひとさらい』(光文社古典新訳文庫)
11月12日刊 ミュリエル・スパーク『バン、バン! はい、死んだ ミュリエル・スパーク傑作短篇集』(河出書房新社 予価2310円)
11月22日刊 レオ・ペルッツ『ボリバル侯爵』(国書刊行会 2730円)
11月22日刊 アリソン・フーヴァー・バートレット『本を愛しすぎた男』(原書房 予価2520円)
11月28日刊 ディヴィッド・J・スカウ編『シルヴァー・スクリーム 上・下』(仮題)(創元推理文庫 予価各1218円)


 11月は、短編ファンにとっては楽しみな新刊がたくさん出ますね。
 西崎憲編『怪奇小説日和』は、かって国書刊行会から出た3巻本アンソロジー『怪奇小説の世紀』からのセレクションに新訳を加えた新編集のアンソロジーです。怪奇小説ファンは必携ですね。
 『ミステリマガジン』の特集時から予告されていた、ジャック・リッチーの短編集『ジャック・リッチーのあの手この手』が早川書房から刊行。全編初訳というのが、また魅力です。
 澁澤龍彦の翻訳で知られるシュペルヴィエルの名作長編『ひとさらい』が、光文社古典新訳文庫から刊行です。ずっと手に入りにくい作品でしたが、河出文庫から最近出た『澁澤龍彦訳 暗黒怪奇短篇集』にも澁澤訳が収録されたばかりですし、どうせなら他の作品を新訳したほうがよかったような気もします。
 これは教養文庫『ポートベロー通り スパーク幻想短編集』以来でしょうか、ミュリエル・スパークの短編集が河出書房から登場です。スパークの短編は風変わりで面白いものが多いので、期待大ですね。
 ディヴィッド・J・スカウ編『シルヴァー・スクリーム』は、何十年も前から出る、出ると言われていた、いわくつきのアンソロジーですね。怪奇小説ファンは要チェックです。
ジョナサン・キャロルの不穏な世界
死者の書 (創元推理文庫) 月の骨 (創元推理文庫) 炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3)) 天使の牙から (創元推理文庫) パニックの手 (創元推理文庫) 黒いカクテル (創元推理文庫)
 アメリカ生まれで、ウィーン在住の作家、ジョナサン・キャロル。≪ダーク・ファンタジー≫と呼ばれることもある彼の作品は、幻想小説ファンのみならず、読書家には非常に人気があります。
 僕も、ずいぶん前にデビュー作『死者の書』を読んで、感銘を受けましたが、他の作品に手を伸ばすまでには至りませんでした。作品の「仕掛け」自体は面白いと思ったものの、肝心の物語自体があまり好きになれなかったからです。
 今になって考えるとわかりますが、キャロルは、ある程度の読書経験を経ていないと、面白みがわからないタイプの作家だと思います。『死者の書』を読んだのも、まともに本を読み始めたばかりのころでしたから。
 結局、つい最近まで、読んだキャロル作品は、『死者の書』以外には、短編集である『パニックの手』『黒いカクテル』のみでした。
 最近、古書店で『天使の牙から』を手に入れて、何の気なしに読んだのですが、これでキャロルにはまってしまいました。
 今読んだら面白く読めるのでは?と思い立ち、大きめの新刊書店を何件か回りました。驚いたことに、現在、キャロル作品はほとんど絶版になってしまっているんですね。現役で新刊書店に並んでいるのは『死者の書』のみです。
 それでは、と古書店を探し回り、なんとかキャロルの邦訳作品を揃えることができました。
 キャロルの邦訳作品を紹介しておきましょう。

『死者の書』(浅羽莢子訳 創元推理文庫)
『我らが影の声』(浅羽莢子訳 創元推理文庫)
『月の骨』(浅羽莢子訳 創元推理文庫)
『炎の眠り』(浅羽莢子訳 創元推理文庫)
『空に浮かぶ子供』(浅羽莢子訳 創元推理文庫)
『天使の牙から』(浅羽莢子訳 創元推理文庫)
『犬博物館の外で』(浅羽莢子訳 創元推理文庫)
『沈黙のあと』(浅羽莢子訳 創元推理文庫)
『パニックの手』(浅羽莢子他訳 創元推理文庫)
『黒いカクテル』(浅羽莢子他訳 創元推理文庫)
『蜘蛛の巣にキス』(浅羽莢子訳 創元推理文庫)
『薪の結婚』(市田泉訳 創元推理文庫)
『木でできた海』 (市田泉訳 創元推理文庫)

 今現在、≪クレインズ・ビュー三部作≫以外の作品を読み終わりました。ちなみに≪クレインズ・ビュー三部作≫は、『蜘蛛の巣にキス』『薪の結婚』『木でできた海』の近作3作です。
 今の時点でのベスト作品は『炎の眠り』です。次に『天使の牙から』『我らが影の声』『沈黙のあと』といったところでしょうか。≪クレインズ・ビュー三部作≫を読んだ後では、また印象が変わるかもしれません。
 作品のトーンは、基本的にだいたい同じで、一言で言ってしまうと「幸せの絶頂だった人間が不幸のどん底に落ちる」といったものです。ただ現実的な悲惨な出来事が起こるだけではなくて、そこに「魔法」や「天使」や「奇跡」が絡んでくるのが、キャロル作品の特徴です。
 「魔法」ゆえに不幸になることもあるし、そうでないこともある。またそれを逆手にとった『沈黙のあと』などの例もあります。
 具体的なあらすじや内容を紹介すると、読む楽しみが半減してしまうので、詳しくは記しません。というよりも、あらすじをまとめにくいというか、実際に読んでみないとわからないタイプの作家ではあるのです。創元社のキャロル作品の紹介文がかなり曖昧で、面白いのかどうか、さっぱりわからないなあ、と以前から思っていたのですが、実際に読んでみて、納得しました。
 あと、これあまり指摘されていないと思うのですが、キャロルには、ホフマンの影響が非常に強いのではないかと思います。『炎の眠り』など、ものすごく「ホフマン風」に感じられます。実際、キャロル本人が、好きな作家として、ホフマン、グリム、カフカを挙げているようですし。
 童話的な雰囲気の強い『月の骨』『炎の眠り』は、ほとんどドイツ・ロマン派の世界ですね。実際『炎の眠り』は、もろにグリム童話がテーマになっています。面白いと思うのは、そうした童話的な世界観のなかでも、ときおり現実的な要素があらわれたりして、世界が融通無碍になっているところ。物語が決して「絵空事」に終わらず、血の出るような生々しさを持っているのです。その意味で、キャロル作品は「現代のグリム童話」といっていいのかもしれません。
 最初の2作、『死者の書』『我らが影の声』以降の作品は、同じ世界を舞台にしていて、登場人物たちが共通しています。ある作品で脇役だった人物が、別の作品では主役になっていたりと、ゆるやかにつながっているので、続けて読むと、より楽しめるでしょう。
 キャロルを読んでみたいけど、どれから読んだらいい?と言われれば、とりあえず『死者の書』でしょうか。ホラーファンには『我らが影の声』『空に浮かぶ子供』、ファンタジーファンには『月の骨』『炎の眠り』、ミステリファンには『沈黙のあと』をオススメしておきます。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

人生が変わる夜  トマス・スターリング『ドアのない家』
ドアのない家
ドアのない家 (Hayakawa pocket mystery books)
トマス・スターリング 佐倉 潤吾
早川書房 1984-05

by G-Tools

 アメリカの作家トマス・スターリングは、わが国では2作品しか邦訳がありませんが、そのどちらも異色な味わいのミステリになっています。たくらみに満ちた『一日の悪』も面白い作品ですが、シチュエーションの奇抜さでは『ドアのない家』(佐倉潤吾訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ)に、軍配があがるでしょう。
 初老の女性ハンナ・カーペンターは、34年前からずっとホテルの一室に引きこもって暮らしていました。父親の死と婚約者との別れをきっかけに、気分転換のつもりで落ち着いたホテルにいるうちに、外界に対する恐怖から、出られなくなってしまったのです。
 ある日突如として、街に出てみたいという衝動にかられたハンナは、現実の街の変わりように驚き、当惑しますが、ふと入ったバーで出会った男デイヴィッドと友人になります。
 デイヴィッドは恐喝者でした。これから自宅で催すというパーティには、恐喝されている富裕な人々が集まるというのです。彼らに殺されるかもしれないと恐れるデイヴィッドですが、彼に奇妙な友情を覚えたハンナは、デイヴィッドを守るため、パーティに出かけることを決心します。
 しかし、飲みなれない酒に酔ったハンナが目を覚ますと、デイヴィッドは殺されていたのです。恐怖から逃げ出すハンナでしたが、犯人はハンナを狙いはじめます…。
 あらすじを聞くと、主人公の老嬢ハンナが探偵役だと思うでしょうが、実は探偵役は別にいて、それが警察官のコレリ警部です。
 殺人が起こってからは、コレリ警部が容疑者を、ひとりひとり地道に調査してゆく過程が描かれます。対して、ハンナは何をしているかというと、パーティ会場から逃げ出し、ホテルにこもってから、ずっと外に出ないのです。
 引きこもっていたハンナは、外界に対する興味はずっと持ち続けていて、本や雑誌などで、世間のことや世界情勢などを勉強していた、という描写もあります。その意味では、主人公の設定が、謎解きに関与してこないという点で、ひじょうにもったいない作品なのですが、主人公ハンナのキャラクターの魅力は、それを補って余りあります。
 ハンナという人物が非常に掘り下げて描かれており、彼女が一人ひきこもることになった理由や、デイヴィッドに共感を抱くようになった過程、また外界に対する恐怖感などが丁寧かつリアリティをもって描かれます。
 殺人事件自体の動機は普通であり、謎解きもことさら変わったものではありません。いわゆる「普通の殺人事件」にからむことになった主人公の設定のみが変わったものであるという、珍しい作品です。
 ミステリというよりは、異常心理を扱ったサスペンスとして読んだ方が魅力的な作品でしょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

『ナイトランド』について
ナイトランド 創刊号 ナイトランド 3号(秋2012) ナイトランド 5号 (春2013) ナイトランド 7号 (秋2013)
 今いちばん楽しみにしている、ホラー専門誌『ナイトランド』(トライデント・ハウス)の7号が刊行され、さっそく手に入れました。翻訳短編、エッセイ、どれも楽しんで読んだのですが、驚いたのは次号のお知らせです。
 次号の刊行は、1年後になるというのです。昨年の刊行以来、順調に号を重ねてきただけに、ファンとしては残念です。ただ、雑誌だけでなく、単行本の企画《ナイトランド叢書》や、いろんな新展開があるようなので、その点では、非常に期待しています。

 ついでなので、創刊号から7号まで、『ナイトランド』を読んできて、全体の感想というか、要望も書いておきたいと思います。
 全体を通して思ったのは、雑誌全体に、ラヴクラフト色というか、クトゥルー色が非常に強かった、ということ。クトゥルー神話に関するエッセイとか情報コーナーとは別にして、掲載される翻訳短編に関しても、神話色が強いものが多かったように思います。
 ラヴクラフトやクトゥルーも嫌いではないけれど、個人的には、それらに偏らない作品を広く掲載してくれると嬉しいですね。
 グリン・バーラス、ティム・クーレン、サイモン・ストランザスなど、今まで日本に紹介されていなかった作家の作品を多く載せてくれたのはよかったと思います。
 テーマ特集でよかったのは、3号の≪特集・異界への誘い≫、5号の≪サイバーパンク・SF/ホラー≫あたりでしょうか。特に5号の特集は、新鮮な感覚の作品が多くて面白かったです。
 企画でお気に入りなのは、ホラーの巨匠を特集する≪夜の声≫、井上雅彦さん選による日本作家の再録シリーズ≪センス・オブ・ホラー、ブラッド・オブ・ワンダー≫。リレーエッセイの≪私の偏愛する三つの怪奇幻想小説≫、立原透耶さんの≪Asian Horror Now≫も楽しく読みました。
 特に≪夜の声≫に関しては、掲載短編が少ないので、特集作家の翻訳短編をもっと増やしてほしい、というのが希望です。その意味では、テーマ特集ではなくて、個人作家の特集もやってほしいですね

 『ナイトランド』はもちろん、トライデント・ハウスの出版物はずっと応援していきたいと思っています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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